タンデムで見た海   作:印旛沼まで徒歩五分

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夏合宿-①

 

 

 

青い空、白い雲、クソみてえに熱い砂浜。いや、この暑さで砂浜ダート走るとか正気じゃないよ。いつからか夏のこの暑さにはワクワクすることが無くなってきた。

 

バイクに乗るにも厳しい季節だ。涼しそうとか気持ちよさそうとかイメージがあるかもしれないが、全身にプロテクターを纏うジャケットはただでさえ通気性が悪く、すぐ信号に引っ掛かるこの国の道路事情ではエンジンの排熱をもろに浴びる。フルフェイスヘルメでは通気口を開けたところで雀の涙程度の風しか入ってこない。夏にバイクに乗る変態たちは熱中症に気をつけてな。

 

 

元気にトレーニングするウマ娘たちに目を細め、このために冷やした警戒色のコーヒーを呷る。あーうめえ。これがあるだけでここのコンビニは神ですわ。

 

毎年恒例この時期、トレセン学園は夏合宿のために山と海の両方を貸切りプライベート化する。これはマスコミや一般人との混乱を避けるためだ。

どちらに行くかは選択制で、宿泊施設に関しても指定された山や浜の近隣の施設をチームやペアで選択する。大概のチームはホテルのフロアや旅館を貸切ったりするわけだが、そこはチーム資金の問題で戦績によっても左右されるのでちょっと世知辛い差が出てしまう。

ちなみにだいたい3:7で海が優勢。個人的には山もいいと思うんだけどね。

 

 

 

 

「はい、よーい…」ピッ!!

 

———ズドォン!!

ホイッスルを吹くと同時に伏せた姿勢から爆発したのかと思うような土煙を上げて流星が吹っ飛んでいく。

 

我が担当であるウオッカと、ダイワスカーレットは現在ビーチフラッグに勤しんでもらっている。

レース場のダートに比べてこの砂浜は粒が細かく、反発が無いから足への負担が少ない。それでいて前へ進むための推進力を得るためには神経を向けないと足を取られ加速力に劣ってしまう。

せっかくの夏合宿なのだからゲーム性を持たせ、少しでも楽しんでもらいたい宮下とともに頭を悩ませながら組んだメニューでもあった。

 

 

「はぁぁぁ!!」

「うおおお!!」

 

 

50m先の旗に向かって突っ込んでいく。傍から見ているとまるでラリーカーのように噴煙を上げながら大接戦を演じる二人

 

たったの50mでそれがきっちりと差に表れる。ほぼ同時に飛んで旗を取りに行ったように見えるが、一瞬だけダイワスカーレットの方が優勢か

 

「くっ…!」

「はぁっ!」

 

決まったか。ダイワスカーレットが旗を掲げてわちゃわちゃとはしゃぎ回っている。

旗を設置し直した宮下が向こうから合図を送ってくる。

 

 

 

「はい次、マーベラスとマヤノ」

「負けないよ!マベちん!」

「ふふん!マーベラスな足を見せてあげちゃうよ!」

 

次は小柄なマヤノトップガンと、小柄ながらトンデモ兵器を内包するマーベラスサンデーが伏せて準備をする。

 

「よーい…」ピッ!

 

ボォン!!

まるでカタパルトに打ち出されたかの如く飛び出して行く2人。こう、あれだな。隣でカタパルトオフィサーのポーズをしたくなってきた。

 

———マーベラァァスだいばくはーつっ!!!

 

ドォン!!!

 

…戦闘機っていうかミサイルだなありゃ。

 

 

もともとウオッカとダイワスカーレットは一緒にトレーニングをやっていく予定だったのだが、チームのウマ娘のレースに同伴していってトレーナー不在となってしまったマヤノトップガンとマーベラスサンデーを一緒に見てほしいと頼まれたのだ。

 

 

やりあいながら戻ってきたウオッカとダイワスカーレットに声をかける。

 

「ウオッカ、後ろに力を流し過ぎだ。もうちょい踏み込んでトラクションを意識して体を前に進めるようにしてみ」

「…ん。やってみるわ」

「オーケー。じゃあ水飲んだら次マヤノとウオッカ、スカーレットとマーベラスでやろう」

 

 

 

 

笛とともにすっ飛んでいく二人。その後ろ姿を眺めているとダイワスカーレットに脇腹をどつかれた。いやふつうに痛い。ウマ娘の軽くでもヒトからすれば吹っ飛ぶわけで。

 

 

「ちょっと、アイツとまだ和解できてないわけ?」

「ぐっ…和解って言うかな…ちょっとすれ違ってるだけだ」

「マーベラス、そういうのは拗れてるって言うと思うな」

 

 

夏合宿が始まる前にマヤノトップガンとトウカイテイオーには一言謝罪することができた。特に二人とも深く気にする様子はなく、二言ぐらいは言われたものの水に流してくれたのだ。

が、一番会話が必要であろうウオッカとの時間が取れなかったのだ。宝塚から帰ってきたらすぐにウオッカは済ませていなかった期末試験。こちらはトレーナー会議やマスコミの対応で驚くほど顔を会すことができず合宿に突入してしまった。

 

…なにも『今、注目のウマ娘たち!そのトレーナーに話を聞いちゃいました!』なんて特番組まなくたっていいだろうが……。URAからの『要請』という名の『強制』には逆らうことはできず、笑顔のたづなさんに「もちろん出ますよね?」と聞かれれば両手を上げて「はい」と言う他ないだろう。

 

 

「しょうがないわね…このままアイツが腑抜けていても張り合いがなくて困るしアタシが一肌脱いであげるわ」

「マーベラスももちろん協力しちゃうよ!?」

「いや…お前さん達の世話になるわけには」

 

 

ズビシッ!と音がしそうな勢いでダイワスカーレットに指を突き付けられた。かと思えば目にもとまらぬ速さで襟元を掴まれる。

 

「そういって!今の今までズルズル引き摺ってるのは ど こ の 誰 か し ら ! ?」

 

…はい。俺ですぅ!というか締まってる!首締まってるから!

 

 

「マーベラス閃いちゃった!」

 

俺の胸倉を掴んで持ち上げているいるダイワスカーレットにマーベラスサンデーがそっと耳打ちする。しかし首を掴み上げられ酸素の回ってこない頭の俺には聞き取ることができなかった。君たち俺を忘れてない?

 

「いいわね…それで行きましょ」

「その…前…に…降ろして…くれ……」

「あら、ごめんなさいね?」

 

 

 

 

*****

 

 

 

夏合宿も8月中旬。ウオッカ、スカーレット、マヤノ、マーベラスついでに宮下と過ごしてきた永遠に続くと思われそうな日々にもそろそろ終わりが見えてきていた。

 

 

「「夏祭り?」」

 

 

ウオッカと俺は同時に疑問の声を上げる。

マーベラスとマヤノが持ってきたチラシには、納涼夏祭りと称したお題目と日程が書かれていた。なんでも5000発の花火を打ち上げるこの地域有数の規模であるらしい。

 

 

「えっ、ダルいから君らで行ってきんさいよ…」

「アンタ…ちょっとはその濁った目オブラートに包みなさいよ」

 

いや中等部女子たちご一行に大人が混じってみろ。異物でしかねえぞ。そもそも祭りとかの人混みが無理なんよ。

 

「マヤ、このぐらいのご褒美あってもいいと思うなぁ!」

「そ→だYO!マーベラスたちすっごい夏合宿頑張ったんだから!」

 

ちらりと宮下に視線を向けると苦笑いで返されるばかり。

確かに結構トレーニング漬けにしたことは認めるが、それでもオフの日を挟んで遊べるように調整してたのだ。おかげで俺は真っ黒こげに焼けたし、サンオイルを塗ることをサボったウオッカも焼け跡がくっきりと残るぐらい黒くなっている。

 

 

「そうですね…スカーレット君に皆さんも合宿を頑張ってくれたので引率として付いていきましょう」

 

おい。今のは皆さんだけで行ってきてくださいって言うところだろ?裏切ったな宮下。お前の前世小早川英秋か?

 

 

「そうと決まれば準備しなくちゃ!サカキちゃんと宮下ちゃんも着替えてきて!」

「あ…決定なのね…」

 

 

 

 

 

結局、中等部の姦しい勢いに押し流された俺と宮下はシャワーで汗を流した後、少しラフな格好でホテルのロビーで待っていた。

 

 

「お前さんが断ってくれることに期待してたんだがな…」

「まあ…あなたならそういうと思ってました」

 

いつもの困ったようなはにかみ笑い。それでいて絵になるんだから本当に得してるよなこの男は。

 

 

「毎年トレセン学園が来ているのですからウマ娘に地域として慣れてるとはいえ、一般の方も多く訪れるお祭りですから何があるかも分かりませんし」

「確かにな…」

 

彼女たちは皆重賞を勝ち抜いてるウマ娘なのだし、人の出がある夏祭りではトラブルがないとも限らない。

そんなことをぼんやり考えながらコーヒーを煽っていると、後ろからきゃいきゃいとはしゃぐ声が聞こえてきた。

 

 

「おまたせ~!」

 

こちらに小走りで駆け寄ってきたマヤノは抹茶のような濃い緑の浴衣で、マーベラスは赤い金魚の模様が染められた浴衣に身を包んでいた。髪も編み込んでいて二人とも普段の快活さが生かされた見事なコーディネートだ。

 

「おぉ…見違えるな」

「でしょでしょ!?」

「ええ、これは私たちも気合いを入れないといけませんね」

 

気合い入れちゃうのか。何に対しての気合いだよ…。

 

 

 

「待たせたわね!ほらアンタも早く来なさいよ!」

「ちょっと待ってくれ!やっぱオレには似合わないから着替えさせてくれよ!」

「往生際が悪いわね!ほら!」

 

そういって青に白の模様が入った浴衣に身を包んだスカーレットが、黒地に花火柄の浴衣を着たウオッカを引っ張りだしてきた。

 

「言葉が見つかりませんね…」

「ふふん!やっぱり勝負服と色を合わせて正解だったわね!」

 

「おー似合ってるじゃん」

「わー!?やめろ見るなってぇ!」

 

ピンと耳が立ちふんふんと息巻くスカーレットと対照的に、ウオッカは耳をへにょらせ顔をバッと手で覆ってしまう。普段の自信ありきな彼女の声音とは到底思えない。

 

 

「み、見んなよ…」

「なんでだよ。よく似合ってるぞ」

「うぅぅぅぅやめろ!」

「はいはーい!時間は待ってくれないからね!行こー行こー!」

「屋台巡りにマーベラース!」

「押すな!歩き辛ぇんだってこれ!」

 

 

夕焼けと夜が入り混じった空の下、少し離れて聞こえる祭囃子に誘われてウマ娘たちは歩き出した。少し離れて俺たちもペースを合わせながらついていく。

どうにも少し眩しくて、明るくも無いのに目を細めてしまった。

 

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