「ふふん……!」
「おぉスゲーな!!」
───紺碧の空を押し込んだかのような勝負服。
どこまでも澄み渡る空の色。青、藍、いや蒼と言った方が正しいか?それとも碧が正しいか?……残念ながら俺の粗末な語彙では答えが出ない。
涼やかで、しかし何もかも飲み込みそうな深い色あいは、彼女の背丈も相まってより一層身体が引き締まって見える。
見る角度によって青の色合いが変わって見える勝負服は、服飾屋の技術と
ダブルボタンのジャケットはウエストが絞られ、よりスタイルが強調されるようになっているし、あえてパンツスタイルなのも脚を長く見せる為の工夫らしい。
「へぇ、いい蒼じゃない?」
「そうですよね!そうですよね!!!やっぱり勝負服が青いヒトは話が分かりますねぇ!!同盟結びましょうスカーレット先輩ぃ!!」
「え……いいけど、レースでやり合うなら同盟破棄するわ」
「ぎゃふぃん!?そんな!!?」
拒否ではなく一応結んでから破棄してるあたりダイワスカーレットの優しさ(?)を感じる。むしろ無慈悲なのかもしれないが。ディープスカイも本当に黙っていれば……凄まじく整った容貌と恵まれた体格ですごく……凄いのに……。
「ブルースリは分かってくれるよね!?」
「…………」
オウケンブルースリは何も言わないが、両手で親指を立ててサムズアップする。彼女のあまり働かない表情筋とは違い、耳は興奮のあまり、あちらこちらへぴるぴると振れる。“ウマ耳は口よりものを言う”と
「心の友よ~!!」
「……(フンスッ)」
「とは言っても本来のトレーナーが遠征で見られねぇってのも難儀な話だよな」
「しょうがないわよ。GⅠ以外にも重賞だらけなんだから。海外まで行ってることだし」
シニア級も含め12名のウマ娘が在籍するチームプロキオン。そのトレーナーであるアオバは1人でそのタスクを担い、遠征するシニア級もさっそく所属したジュニア級も抱え、全国を飛び回っている。
新人サブトレーナーには相変わらず、俺の時もそうだったようにウマ娘と同じトレーニングを課しているようだ。今年も総合トレーナー室で死にそうな新人サブトレーナーを見ることができるが、プロキオンの新人はブッちぎりで
あれはあれでトレーニングや器具に関してコミュニケーションを図れるし、自分の体を使って痛めやすい箇所を感じられるため役に立つのだ。その域まで新人が耐えられるのかは別として。
「それは私が勝ってテレビでもSNSでも見せてやりゃあいいんですよッ」
「おう、もう勝った気でいんのかぁ?威勢いいじゃんか」
「いい自信じゃない?そう来なくちゃ」
こちらの預かりになってから、散々ウオッカとスカーレットに揉まれたスカイは同年代と比べてもかなりの鍛え上げられた体つきになっていた。ともすればシニア級とやり合っても引けを取らないだろう。
賢さ……足りてるかな……。
高松宮記念を皮切りに、今年も始まったトゥインクルシリーズ春のGⅠラッシュはクラシック級一冠目の桜花賞・皐月賞を終え5月に突入した。
天皇賞(春)の興奮も醒めぬ中、次に待ち構えるのは東京レース場怒濤の4連続GⅠ、それの初戦であるNHKマイルカップ。
───ディープスカイ、いよいよ初の大舞台。
何に使うんだと思うだだっ広いホテルの会議室も、これだけカメラとマスコミメディアの黒山が築かれれば逆に窮屈さを感じて仕方ない。本来ならこれは俺の役割でない筈なのだが、何の因果かこうして顔を晒す羽目になっていた。
本来ならばここには
なんというか、堂々としすぎて違和感が凄い。こういった記者会見の場を設けるのはGⅠレースぐらいのもので、彼女はメイクデビューから数戦の未勝利戦を経てGⅢの毎日杯を勝ったから、勝利者インタビューは受けているだろうが……。
出走ウマ娘の中にはもうホープフルや阪神JF経験者、皐月出走組、なんなら朝日杯FS優勝者までいる。
そしてこの量のメディアを前にすれば普通は
「緊張とか、してないか?」
「緊張して良いことがあるならしますけど?あーっ、もしかして緊張してますぅー?」
強すぎか?最近コイツはマジで学生なのか疑わしくなってきた。
「普通はさ、うわーカメラいっぱいで何言えば良いんだろー?とかこう……あるじゃん?」
「今更何を言ってるんです?GⅠレースの記者会見なんてちょっと想像すればこうだって分かるじゃないですか。いつも通りその警戒色コーヒー飲んで変わらない黒ジャケさんに言われても説得力無いんですけど。というより裏声ちょっとアレなんで出さない方がいいですよ?」
バッサリと切り捨てられた。
「それに、この量でビビってたらダービーの会見なんてやってられないじゃないですか。クラシックの会見はもっと凄いんですよね?」
「そうだな……。ダービーはもっと広いホテルの会議場を貸し切るし、記者の数もダンチだ」
「
「……まあ、平和に終われば1番か」
────
変則二冠、その目標を知っているだけに荒唐無稽と笑うことはない。ないが、代理なんだぞ俺!
『只今より今年度NHKマイルカッブ、出走ウマ娘の合同記者会見を開始させていただきます』
司会であるたづなさんの一声を皮切りにウマ娘とトレーナーが壇上へ並ぶ。
俺へ対しては異物を見るような視線を向けながら、記者がメモ帳にペンを走らせる。ディープスカイはチームプロキオンとして出場してるわけで、そのプロキオンのトレーナーは誰かと言われれば
今日のメインはNHKマイルカッブを走る彼女達なわけだ。その点をほじくってくる業者が居なければいいが、できる限り目立たずにやっておく方がいいはずだ。まあ、俺にそういう視線を向けられるのは慣れてるので堂々と胸を張る彼女を立てるだけだが。
出走ウマ娘はフルゲートとなる18人、そしてディープスカイは5枠9番というほぼ真ん中の位置からスタートとなる。
1枠のウマ娘から順に、名乗り上げ意気込みを語っていく。右手と右足が一緒に出てしまいそうなウマ娘も居れば、自信たっぷりに演説するかのよう語るウマ娘が居る。GⅠレースの空気感を知っている、それだけでもう強い。
ホープフル、皐月賞と出走したウマ娘が意気込みを語る。幾度となくシャッターが切られ、その流れを繰り返す事数回。遂に順がディープスカイに回る。かなり計算高い彼女の事だから迂闊な事は言わないだろ……。
「ダービーを獲ります。ここは通過点に過ぎません」
────数瞬、会場が静寂に包まれる。
呆気に取られる記者達。事態を飲み込めなかった他のウマ娘も、その意図に気付き始めると明確に雰囲気が変わり、睨みつけるような視線が何対もディープスカイを射抜いていた。
当然だろう……。このNHKマイルカップに出るウマ娘達を
やったなぁ……これ……。
『それでは質疑応答へと入らせていただきます』
たづなさんからの無慈悲な言葉が響くと、記者達からは一斉に手が上がり、指名された記者が立ち上がる。
「日刊熱盛新聞です!ディープスカイさん!NHKマイルの次は日本ダービーを目指すという事でよろしいのでしょうか!?」
「そうです。ここはもちろんダービーを獲って変則二冠、誰もやらないローテをやる、強さの証明をお見せできるかと」
「スポウマです!他にも有力な方々が出走されるわけですが、警戒されてる方は?」
「そりゃあ全員警戒対象じゃないですか?ここに来る実力はある訳ですから」
「それなのにあの宣言をしたと?」
「言うだけならタダじゃないですか」
あっけらかんと答えていくディープスカイにばかり、質問が集中していく。
……非常に良くない流れだ。ただでさえ挑発紛いの発言で他のウマ娘達のヘイトが集まる。その上、記者質問も彼女ばかりに独占されては面白くないだろう。緊張して固まっていたはずのウマ娘達も何かに目ざめ、誰もが力強い宣言をして下がっていく。
おお、なんということをしてくれた。集団マークに遭うか、それともラフプレー……はやめて欲しいが有り得なくないだろう。火にスプレーをぶっかけやがったアホ娘のせいで会場は異様な雰囲気を内包する。
これ……収拾つかないよね?