───“クラシック”と問われれば何を思い浮かべるだろうか?
クラシックという言葉は様々な意味を持つ。「古典的な」や「格式のある」等だ。服装、文学に始まりクラシック音楽やクラシックカーなど長い歴史を感じる物事を指したりする。
ウマ娘が関わるレースでは、特に歴史あるレースが八大競走と呼ばれていたのはご存知だろう。
桜花賞、皐月賞、オークス、日本ダービー(東京優駿)、菊花賞をクラシック五大競走、天皇賞春・秋及び有馬記念を加えた8レースを八大競走と呼び、日本では特に格式の高いレースとして開催してきた。
これは海外規格と統一してグレードレース制となった後も、グレード1(GⅠ)という最高クラスの位置づけになって連綿と続いている。
その中でも特に人気を博すのは皐月賞・日本ダービー・菊花賞のクラシック三冠路線、そして桜花賞・オークスに現在は秋華賞を加えたトリプルティアラ。
王道のミドルディスタンス、実力のステイヤー。それだけだろうか?スプリンターは?マイラーは?三冠だけが全てじゃない。私達には私達の冠がある。
クラシックという言葉は「一流の」「格式」という意味を持つ。
これを見ればクラシック級が三冠だけではないと知るだろう。
皆が一流、誰しもが一流、なれば私たちを見ろ、刮目せよ。
18人の優駿達は誓う。速さの違いは我にあり────
来たる、NHKマイルカップ
「アタシ達の時のCMってこんなだったかしら?」
「今年はずいぶんかっこいい路線できたよな」
4人が輪になって座った先にあるモニターに次々映っては消えていく今日の出走メンバー。普段おちゃらけていて笑顔の絶えない奴が真顔で映るもんだから、なかなかどうして面白い。
「そんなこと言って~。大阪杯の“強者よ、盃を飲み干せ”なんてカッコイイのあったじゃないですか!個撮のやつ!」
「アレか~……意外とポーズの指定とか細かくて撮影長ぇんだぜ?」
「アタシ手直し指定入ったから3回やったわ……」
「うぇ……全員まとめて撮影したのでも3時間かかったのに想像したくないです……」
「大…変……」
「一日がかりよ!トレーニングで忙しいってのに!」
今年のURAはかっこいい系統のCMで攻めるようだ。それは今は置いておく。
さてついにNHKマイルカップ本番まで来てしまったが、それに挑む彼女は普段と何ら変わりない様子を見せていた。耳の垂れはなし、尻尾や髪の毛艶もいい。既に勝負服へ着替えているが必要以上に入れ込んでもいない。あくまで自然体でウオッカやダイワスカーレットに接している。オウケンブルースリは彼女なりのエールなのかディープスカイの髪を器用に編み込んでいる。なんで?
それを受けても変わらないディープスカイ。堂々としているのか図太いのか。……或いはその両方か。
「御三方、そろそろスタンドの場所取りお願いしてもいいか?」
「あら?もうそんな時間なのね……。じゃあアタシ達が散々揉んであげた後輩がどう走るか見てるから」
「おっしゃ!勝てよスカイ!多くは言わねーぜ、もう飽きてる耳タコだろうからな!」
「……為せば……成るよ…!」
スタンドの最前列に陣取ってもらうためウオッカ、スカーレット、ブルースリの3人に場所取りを依頼した。
思い思いにエールを送ると、腰を上げ控え室を出て行こうとする先輩達にディープスカイが一言だけ尋ねる。ぷらぷらと放っていた足を揃え、きっちりと膝の上に拳を置き、普段の軽い表情ではなく真剣の切っ先が如く怜悧な表情で。
「スカーレット先輩、ウオッカ先輩、お二人はキツいマークを受けそうな時どうやって走りますか?」
「決まってるわよ。逃げですり潰すわ」
「決まってんだろ。後ろからぶち抜く」
真逆の答えが全くタイミングのズレもなくシンクロした状態で返ってくる。途端に二人の耳がビンっと上向きパチリとした雰囲気が漂い始めた。
「はあ?」
「あん?」
どこからか、軽妙なゴングが響き渡りウオッカとダイワスカーレットがずいっと顔を近づけた。後ろであわあわと手を彷徨わせたブルースリは止めに入ろうとするも、二人の迫力に尻尾が巻いてしまっている。
……放っておけ、犬も食わない。
「ありがとうございます。お二人の走り方を参考にしますのでスタンドから見ていてください」
「……分かったわ。行きましょ?」
「おう……じゃあなトレーナー!待ってるからまたタバコ吸ってて遅れたとかやめてくれよ?」
「1本にしとくョ」
柔らかく微笑んだディープスカイにすっかり牙を抜かれ、矛を収めた二人はこれ以上やり合っても仕方ないとブルースリを引き連れ控え室を後にした。ガヤガヤとした声が遠ざかっていき、段々とお互いの息遣いだけが聞こえるようになる。
「ふぅ……」
深く息を吐いてしばし黙瞳。何かを考えているのか、それとも心を落ち着かせるためか。ことディープスカイに至っては前者だろう。
彼女が口を開くまで俺からは言葉を投げ掛けない。
「ずいぶん静かじゃないですか?トレーナさんはどう思います?」
「どう、とは?」
えらく抽象的な質問が成され、彼女の意図を測りかねて質問を質問で返す。
「
最後、部屋を出ていくウオッカとスカーレットにスカイが投げ掛けた言葉。問い。
先日の記者会見でぶち上げたビッグマウスを他のウマ娘が聞き逃すはずがない。GⅠ経験のあるウマ娘ならアレが安い挑発であると思うだろうが、
「3人はあるだろうな」
言い方を変えれば、今現在スカイにはヘイトが集まった状態だ。個々が意図せずとも、“敵の敵は味方”なんてことが起こり得る。
かつて覇王を閉じ込めた檻、それがこのNHKマイルでも発生しない保証はない。囲まれてしまってはいくら上がり3ハロンが速かろうと頭を取るのは難しいだろうと懸念を口にした。
「じゃあ、
あっけらかんと。随分簡単に言ってくれる。
んなもんあったら俺が知りたいぐらいだが……。いや、あの二人が出ていく時に言ったアドバイス。
それをどうやって思い描いているのかは分からないが、タチの悪い笑顔をうかべるスカイが邪な事を考えている事は分かった。
「そうだな……。雨上がりの芝で風向きも正直良くないが、稍重に回復してきている。だが3、4コーナーはまだ
「……私に勝負服を汚せと。そう言うんですね?」
「もともと差し追い込みで後ろからレースをするんだから今更じゃん……」
「心情的にあるじゃないですか!故意と過失は違うんですよ!」
他愛のない事を
───初めて見る飄々とした彼女の本気。
「どうなると思う?」
「どうって言ってもなぁ……。なるようにしか成らねぇだろ」
「……」
あちらに立つのではなく、こちらに座っているのもいつぶりだろうか。
幾分か新鮮さを感じながらも、何をしようが2週空けてすぐに自分たちの番が回ってくる。
雨の後が乾いてきて青く香る芝の匂いが鼻を突き、それを春の風が押し流していった。春には似つかわしくない少し強い風の渦が、髪を攫って彼方へ行く。
「アイツは負けねーよ。オレたちのトレーニングに付いてきたんだぜ?それにほら」
ウオッカが指さした先、センターの大きい電光掲示板にはディープスカイの名が天辺に押し上がっていた。
「アイツがデケぇのは何も態度だけじゃないって話だ……そうだろブルースリ」
「……」
コクリと頷いてウオッカに同意を示す。
トレセン学園に入って、一緒のチームに入って、ディープスカイを一番近くで見ていたオウケンブルースリからして今の彼女は一番
……だからこそ一抹の不安も同時に感じていた。
大事なクラシック競走である皐月賞を自分の苦手な小回りの中山レース場開催だからと切って捨て、同じくクラシック級でしか出走できない東京レース場開催の変則二冠を選び取るぐらい、頭の中で普段から損得のそろばんを弾いている彼女も、大事な部分で迷子になったりやらかしてタロットダンサーやイクサトゥルースに叱られることもしばしあった。彼女の奥底にある愉悦を求める思考が悪さをしていないか気になってしまうのも正直なところ。
せっかくの大舞台の前にネガティブな事を考えるのも良くない。
NHKマイルカップ
東京 芝 1600m
枠番 馬番
1枠 1 スソノプロブレム
2 テンダーカウンター
2枠 3 ハルノシング
4 ウィアゴーマツシマ
3枠 5 メランシエル
6 テイムアンドビップ
4枠 7 ユメノシグナル
8 アテムイダテン
5枠 9 ディープスカイ
10 リアスフェニックス
6枠 11 ドスホークゼン
12 イリーガルスイム
7枠 13 カッチンコージ
14 ゼノンゴーゴー
15 アーディサ
8枠 16 テーシンオフェンス
17 リアスドルチェ
18 ゼンツタッサイ
『大波乱!17番人気だったウマ娘の執念に沸き立った衝撃から1年、今年も大混戦の雰囲気漂うNHKマイルカップ。稍重の芝1600m!頂点を目指すクラシック級ウマ娘18人の決戦が間もなく始まります!』
皐月賞経験組がウィアゴーマツシマ、メランシエル、ユメノシグナルの3人、桜花賞経験組からテイムアンドビップ、ドスホークゼンに至っては朝日杯フューチュリティステークス勝者だ。
身体の出来の良さからディープスカイが1番人気に推されているものの、アーディサ、メランシエル、ドスホークゼンの上位人気4人が10倍以内に収まる割れた展開に解説も混迷と印を押した。
「道悪だから外の逃げウマ娘がハナに出ようとするわよね」
「…18番の、ゼンツタッサイが………先に出ようとする、と思います…逃げ、だから……」
「内も囲まれたくないからペースを上げるよな。ハイペース展開の条件が揃ってるってところか」
東京レース場のターフレイアウトのおさらいをしておこう。メインスタンド前のスタート地点から平坦に進み1コーナー途中から緩やかな角度で向こう正面までが下り、向こう正面の途中辺りで上り、大欅付近から再び3コーナーまでだんだんと下って最も低い地点へ至り上りに転じる。緩やかに上りながら4コーナーへ進入、最終直線525mの間で一気に2mの上り坂を設けている作りとなっている。
1600mのスタート地点は2コーナー途中、向こう正面の始まり付近からとなっているので1・2コーナーは使わない。
前日まで雨が降っていた影響があり、芝は稍重と発表されている。
が、3・4コーナーの標高が低い地点から最終直線の内ラチ沿い数mの芝に至っては重馬場と言って差し支えないほどに悪い。現にこのNHKマイルカップの前に開催された芝レースは、内ラチ沿いに進路を向けたウマ娘は軒並み伸びず外から仕掛けたウマ娘が勝ちを手にしていた。よって
各ウマ娘は外目のポジションを取りたい。
そしてそのためには前を抑えられたくない、あまり後ろに下がりたくない。
その結果ハイペースで飛ばしてきて、更に足元は稍重から重といった所であれば1600mのレースなのに2000m級のスタミナを要求される。
――――彼女がつけ込む隙、というならばそこだ。
これまでディープスカイは長くても2000mまでのレースを走ったことしかなかったが、スピードや瞬発力には目を見張るものがあった。
よってブルースリ共々、ウオッカとスタミナお化けのスカーレットに散々
これは
『重から稍重まで回復した東京レース場、しかし荒れたコーナーをウマ娘たちはどういなすのか!やはり各ウマ娘外目を狙うという展開になるでしょうか!さぁ、場内が沸いています!』
「スターターが上がるわ」
「ようやくかよ…なんか変に緊張してきたぜ」
白いジャケットに身を包んだスターターが壇上へ上がりその序曲ともいえる紅い旗を振りかざす。
『クラシック級マイル王決定戦!そのスタートを告げるファンファーレです!』
少し遠くに聞こえるファンファーレ。歓声と共に拍手。あぁ、勝負服を着てこの瞬間を迎えるとはなんと素晴らしい事でしょうか。
私の事を敵視する視線がちくちくしますがそれは良いでしょう、どうせゴールではみんな後ろに居るんですから。
「あんた、髪なんて編み込んでどうしたの?いつもと違うじゃない」
「いつも?いつもっていつですか?」
「学園の時よ」
えーと、誰でしたっけ……メランシエルさんでしたっけ?そうそう確かこの人も栗東でしたね。皐月賞出走組、弥生賞2着、ホープフル2着とそこそこ強そうです。
でも
「これ可愛いですよね?控室でブルースリがやってくれたんですよ!」
「そうなの……。あんまり話したことないけど、今日はよろしくね?お互い良い走りにしましょ?」
この人は私のことを仇とは思っておらず好敵手として見ているようです。
困りましたね。苦手ですこういう人、いつでも堂々としていて裏をかき辛いんですもん。もっとヘイトに狂っていてくれた方が、負けた時すごい顔をしてくれるので楽しいんです。
「えぇ、お互いケガしないようにしましょうね」
当たり障りのない言葉だけを返してゲートに向かう。
先に入って目を閉じウオッカ先輩に聞いたゲート攻略法を思い出す。「ゲートが開く前にちょっとした作動音のようなものがするから、それを合図に足に力を込める」そんなアドバイスをもらった。右隣、左隣とゲートが埋まって周りのウマ娘の息遣いを感じる。
狙ってますね。
『最後にゼンツタッサイがゲートに向かいます!今年も馬場状態は稍重、果たして今年の結末は!?NHKマイルカップ』
作動音がした。これの事か。
行き脚のために強く踏み込んで――――
「あっ」
それは誰が上げた嘆き声か。オレか、ブルースリか、スカーレットか。はたまた周りの誰かか。
『ゲートが空いてスタートしました!ゼノンゴーゴーとディープスカイは後方からのレース!さあ先行争いですが……ドスホークゼンが行った!ドスホークゼン先頭!これを見る様にその外からゼンツタッサイ二番手、テイムアンドビップ前の方に上がっていきました!ウィアゴーマツシマとカッチンコージも前に行きます!この辺りまでが先団グループを形成します!』
「ちょっと!!!!!出遅れてんじゃないの!!!?!?!」
「……やったなぁ」
「………ズルって…滑って、た……」
スタートが開くその時、力強く踏み込んだスカイの姿勢がブレて見え、その間に周りのウマ娘が加速していく。一拍おいて加速し始めたディープスカイはそのまま順位を下げ後ろから二番手というポジションに落ちた。
ありゃ力み過ぎて、踏み足がそのまま滑ってしまったのか……。
隣のトレーナーにちらりと目を向けると、腕を組んだまま何を語るもなく事の行く末を見守っている。
……まさか、これも作戦の内か?
いや、まさか。一芸仕込むといっても巻き返しの難しい1600m。たった1600mしかないんだぞ。しかし、トレーナーの表情は変わらずターフの先のディープスカイを見つめていた。
「走り出してしまえば、いつでも抜けるっていう余裕の表れ……?」
「あはッ……!」
スタートしたウマ娘たちはまず最初の揺さぶりをかけられた。逃げウマ娘は関係ないことだが、先行と差しに位置するウマ娘はマークするために一番人気のウマ娘を探す。
居ない、居ない!前にも後ろにも……!まさか出遅れた?
あれだけ自分たちをコケにしておきながら、あのビッグマウスはまんまと出遅れた。綿密なマーク作戦を用意していたウマ娘たちはさっそく梯子を外されることになったが、出遅れならもうこの馬群を抜けられるものか。予定変更し通常どおりの走りにそれぞれ切り替えるウマ娘達。
それに違和感を感じていたのは少し後方に位置どったメランシエルだった。後ろに居るはずなのに、不気味なほど気配を消すディープスカイを必死に耳で追う。
(出遅れた奴が必死に前を追おうともしてこなければ、位置を上げようともして来ない……諦めたか?いや、そんなはずはない……何かを狙っている?狙う何かがある?)
『イリーガルスイムがちょっと掛かり気味か!?その内側3番ハルノシング、更には外を通ってテーシンオフェンス、それからユメノシグナルが居ます!それからテンダーカウンター、スソノプロブレム、その後ろですがここに居ましたメランシエル、オレンジ手袋アーディサはちょうど中間です!リアスフェニックス、アテムイダテン!そしてディープスカイは後方この位置!リアスドルチェ、ゼノンゴーゴー最後方からといった態勢!46秒で800mを通過!』
大欅を横目に3コーナーに入り始めたウマ娘達。
緩やかに下り始めたターフ、荒れた内ラチ沿いを嫌い逃げウマ娘はミドルラインをなぞっていく。先行ウマ娘たちが距離を詰め始め徐々にスパート体勢に入り、狙うは外目の足場の安定したラインを使って最終直線に向く算段だ。
差しウマ娘からすれば邪魔な事この上なく、さらに外側や間を突いてスパート体勢を狙う。そして、追込を選択したウマ娘達の行く末は。
『稍重の芝、さあ4コーナーにさしかかる!先団はややバラけています!ドスホークゼンがペースを作って各ウマ娘がやはり外に広がります!』
さあ舞台は整いました。まさかここまで、みんな
ミドルラインをなぞっていく逃げウマ娘、それを避けるために外に広がる先行と差し。
向こう正面から3・4コーナーで走ってきた向きが変わる。つまり体に当たる風向きが変わる。向い風から追い風へ。
あぁ、がら空きじゃないですか……!
――――みんなみんな、わざわざ私の御膳立てご苦労様!
「あはッ……!」
(そうか……!)
ゾクりと背中を嫌な悪寒が撫でる。
メランシエルはここに来て後ろの一番人気が狙っていることを悟った。
重だった馬場は刻一刻と風が乾かしていき、前レースでは重であっても、このレースでは稍重と言える程度に回復していた。
それでもいちばん標高の低い4コーナー付近では色が変わっているほどの重い箇所が残っていたし、そこを避けるためにわざわざ逃げたウマ娘、ドスホークゼンやウィアゴーマツシマなんかは内ラチ沿いを空けミドルラインをなぞっているのだ。
ディープスカイが足を滑らせて出遅れたのは、稍重で自身がどの程度力を入れ過ぎればグリップを失うのか限界を確かめるため……?
つまり、全てはこの4コーナーのため……!!外に行けば負ける!!
外に進路を向けた身体を強引に戻し、差し集団の更に内側へ進路を振ったメランシエル。
旋回Gに持っていかれる身体。何とか内に転進したものの、強引なライン取りに稍重の足場が邪魔をして上手く速度が乗せられない。
「うっぐッ……!!」
思うように乗らない速度に苛立った時、後ろから迫る炸裂音が強烈に鼓膜を揺らした。
3コーナーから4コーナー、風向きが変わり向かい風から追い風になる。皆苦労していなしている風をも自身の味方に付けて異次元のように速度を乗せていく“蒼い勝負服”。
深く、深く澄み渡った青空は、誰もが目を奪われる。
だが、これは一生に一度のクラシック。皐月を落とした自分にはもう負ける事は許されない!許せない!!!
「やっぱり、気付きましたか……!」
だから苦手なんですよ、ああいうスポーツマンシップ精神気高いウマ娘とかは本当に。
こっちの考えを見破ってきて、こっちが背後を急襲して負けても「私の力が及ばなかった」なんて高潔な納得をしながら「次は絶対に倒す」なんて言ってきたらもう決定です。そうなったら何故かこちらが負けた気分にさせられるんです。
だってそんなの「また走りましょうね」なんて返事するしか無くなるじゃないですか!
無くなるじゃないですか!!
無くなるじゃないですか!!!!!
「でも、もう、遅いです……!」
3コーナーをミドルラインでなぞって4コーナー、その内ラチ沿いを直線的なラインを
誰もいない!!誰もいない!!!ストライドを突き刺して!!
それでも最終直線で並んでくるメランシエル。
残念でしたね、もうあなたの加速は間に合いません。
『4コーナーカーブから直線に向きました!!先頭は依然としてドスホークゼン!ドスホークゼン先頭!!内にメランシエル!!しかしその内側からディープスカイが来ている!!外に振ったテイムアンドビップとユメノシグナルも上がってきた!!』
稍重を逃げ続け、更にはコーナーでミドルラインをなぞれば、走る距離は約1620m、その更に外から仕掛けたとすれば1640m程度まで距離が伸びる。
1600m以上のスタミナを要求され、ドスホークゼンの足は上り坂で急激に鈍り、息も絶え絶えといった様相を晒していた。
その後ろに陣取っていた先行のウマ娘達は避けようとするも右を差しウマ娘、左をメランシエルに塞がれ前へ出られない!
行き足がつかず進路を探しているうちに、メランシエルが先頭へ躍り出る!
そしてその内。流星の如く突き抜ける栗毛が見えた。
どうして……!?出遅れた筈じゃ……!!?
『さあ先頭はメランシエルに変わっている!!変わっているがディープスカイ来た!メランシエルとディープスカイ!!ゼノンゴーゴーも三番手に上がるが!』
「行けースカイー!!!」
「そのまんま千切りなさい!!!!」
「…………行けッ!」
『先頭はディープスカイだ!!!ディープスカイィィィイ!!!!』
『ディープスカイ、メランシエル、ゼノンゴーゴー3巴!!制したのは2連勝ディープスカイ!!クラシック級マイル王者に輝きました!!』
両手を広げ空を仰ぐ。
今日は晴天とは言えないがなんてことは無い。空はいつでもそこにあるんです。なんて独り言ちれば、祝福のつもりか天使の梯子を垂らしてきた。ああ、最高に皮肉ですね。
「負けたわ」
ほらやっぱり来た。苦手なんですよ、こういう熱い人。
「まさか4コーナーの重と回復した場所の境界を攻めて内に来るなんて……スタートで確かめてたから出遅れたのよね?」
「……?いえ、出遅れて焦ったからがむしゃらだっただけです」
「あなたがそんな愚かだとは思えないわ……。次、ダービーよね?覚悟しておきなさい」
「すみません。人の名前覚えるの苦手なんです。自己紹介してください」
「今年のプロキオンは変人コンビね……メランシエルよ」
「覚えておくよう前向きに検討して善処しますね」
「絶対しないやつじゃないソレ……まあいいわ。借りはきっちり返す主義なの」
次はダービー、あとひと月もない。その前に今度は見る側でしょうかね。スカーレット先輩。
───私の憧れた人。