1枠、1番、1番人気。
今日のスカイは1番尽くしだ。
1番に
「なんだ?スカーレット。お前さっきからしっぽ振って。そんなに1番人気が羨ましいのかよ」
「羨ましいわ」
「だよな~後輩に嫉妬するわけ……ん?」
「羨ましいわ」
ちょっぴりキマった目で掲示板を睨みつけるスカーレット先輩。ウオッカ先輩はしまったという表情になった。
「クラシックレースの1番人気よ!?羨ましいに決まってるじゃない!」
……そうだ。
トリプルティアラを夢見てクラシックを目指していたスカーレット先輩は、オークスを控えた直前に体調不良で回避したはずだ。
かなりの実力を秘めていただけに、とても話題にされていたのを覚えている。
だからこそ、春GⅠには思い入れ、と言うより執着に近いものがあるのだろう。
「まあ、でも当然よね……。アタシ達のトレーニングメニューに着いてくるだけあるもの」
嫉妬しながらも納得するという相反した内心を垣間見せるものの、スカーレット先輩は落ち着いたようだ。青い顔をしていたウオッカ先輩がホッと息を吐く。
憑き物が落ちたように。それとも、見切りをつけるかのように。
羨望の度合で言うなら私たちの方も
私たちは同じ年齢、同じ学年であるにも関わらず、あの舞台に立つことはできない。もう、
仄暗い感情があることも確か。それをあちら側にいる18人に向けているのも確か。
「ブルースリ、酷い顔をするな」
「……わたし、表情…変わらない…から………」
「そんな事はないさ。お前さんの表情は分かりやすいぞ」
少し煙草のにおいのする黒ジャケさんの大きな手がくしゃりと耳元をかき混ぜる。髪型が崩れるから止めて欲しいのに、不思議と落ち着く感覚に自分でも戸惑う。
なんだか気に食わないから、その手をペチンと叩いた。
「……そういう、ところ…良くない」
「確かに、許可なく触れるのはマズかったな。すまん」
違う、そうじゃない。
黒ジャケさんは表情を変えずに手を引っ込めると、持っていた缶コーヒーを呷る。私もそうだけど、この人の表情の変わらなさも大概だろう。
向かいのウオッカ先輩から微妙な視線を感じる。
「お前にはお前の舞台がある。クラシック最後の菊の冠……間に合わせるさ。その為に次のレースは勝つぞ」
「……はい」
「今は応援してやろう。そして、いつか超えてやるって思うんだ。それに──お前さんが出られる府中2400mの大舞台は、
「……!」
……それは、それは
チラりと彼を挟んで反対にいる彼女を見やる。視線に気づき目を合わせた常識破りの女帝はニッと歯を見せ笑った。
「来いよ。オレは負けねーぜ?」
───挑発。それは私に火を着けるには充分すぎた。
なるほど。だからこの人は強いのか。
菊花賞
ジャパンカップ
有馬記念
無茶と言われようが誰がなんと言おうが、絶対走るって決めたんだ。
───だから、覚悟してください。ウオッカ先輩。
『衣替えの季節を迎えて肌を撫でる爽やかな初夏の風、日本のウマ娘とファンの為の誇り高き日曜日の午後は、緊張感が漲ります。舞台となる府中東京レース場です』
『果たして今年は誰にとって、どんな夢を、共に見せてくれるのでしょうか』
『やはりダービーウマ娘とは特別な称号、その称号を求めて闘う18人はもともと皐月賞から混戦のと言われていて、更には一冠目皐月賞勝者が不在となっているこのレース、果たしてこのダービーはどのような結末を辿るのか』
「良バ場にはなったわね」
「……さっきの、レースも上がり34秒台……。内外の差は…無さそう……です、が」
「たぶん3、4コーナーの内ラチ沿いはボッコボコだろ。最終は横にバラけるハズだぜ」
降っていた雨は過ぎ去り、初夏の風が芝生を乾かした。芝の青い香りがいつもより強い。
ディープスカイは前走のNHKマイルカップで、その荒れた内ラチ沿いをぶち抜き勝利を収めた。
しかしそのやり方は他陣営にもバレているし、当然警戒されるはず。その上、他の部分は良バ場と来ているから足元を突いた仕掛けはしづらい。
メランシエル、ウィアゴーマツシマはそれを知っている厄介な相手だ。特にメランシエルはディープスカイに接触を図っていた事もあり、動揺を誘うような何かを吹き込まれた可能性もある。
それで動揺するような奴でもないが。
「たぶん……考えている、ような、事は言ってないです……。メランシエルさん、学級委員も務めてる…スポーツマンシップ溢れる方なので……」
「なら良いけどョ」
堂々と胸を張りゲート入りを待つディープスカイは、ゆっくりと足を伸ばして状態を確かめるように芝を踏みしめる。
そしてこちらの視線に気づいてバチコーンとウインクしてサムズアップ。どうやら俺の考えは杞憂だったようだ。
「それで?スカイにはなんて言ったんだよ?」
「───誰も居ない場所を行けってナ」
普段、どこに居るのかと想像もつかないような人の波。波と言うよりかは人海と言った方がいいでしょうか。まるで色とりどりの花畑のように雛壇になったヒトがたくさんで。
その誰もが、顔をメチャクチャにして叫んでるんです。
「頑張れ!」「応援してるぞ!」「お前を推してんだ!頼むぞ!」「かわいい~!!」「その勝負服イケてんぞ!!」「俺だァー!!結」「やはり今日のメランシエルのデキは最高だ」「どうした急に」「あん筋肉がよー浮き上がったトモが見ぇへんのか!!」「マジでどうした急に!?ってか誰!?」
ざっと耳に入った言葉だけでもこれぐらい。
それが音の塊となって身体にぶつかるように押し寄せてくる。思わず耳を折りそうになるぐらいです。
その中でも、最前列にスカーレット先輩とウオッカ先輩、黒ジャケさんとブルースリを見つけました。
ブルースリの頭を撫でて黒ジャケさんが手をひっ叩かれましたね。ぷっwあの子そういうところシビアなので簡単にはいきませんよw
スカーレットせんぱ……トレセン学園の制服は目立つのです。なんだか皆さんとっても真剣なお顔をされてるのでウインクとサムズアップをプレゼントしておきます。
他にも最前列にはチラホラトレセン学園の制服が見えます。プロキオンのメンバーとトレーナーもよく目立つのでそちらにも手を振っておきましょうか。ファンサですファンサ。
どうも皆さん気合いが入っているようで、眉間に皺がよったり応援に応える余裕が無いようです。
「うぅ~ん……」
これ、想定よりも下がらないと危なそうですね。差しの予定でしたが、プランBです。
『───誰も居ない場所を行け』
黒ジャケさんもああ言っていたとこですし、1600ならともかく、2400mですから思いっ切り下げましょうか。
「ディープスカイ!」
「?」
見覚えのあるウマ娘に呼び止められる。そりゃあこの舞台へ来るわけですから、勝ちを上げてるんでしょうけど……えっと……。ツーサイドアップ……袖が赤白の勝負服……。
「シエルが言ってたけど、ホントにアナタ出走者の名前覚えてないわけ!?」
「失礼な!私だって人の名前くらい覚えますよ!顔と一致させるのが苦手なだけです!!」
それを覚えてないって言うのよ!とブチブチにブチギレる目の前のウマ娘。なんでしょう。すごくすごい面倒臭いです。
「……えっと、ウェアゴーフクシマさんですよね!」
「……」
「……? あっ!!ユウィゴートクシマさんでしたっけ!?私ったら粗相を……」
向こうでメランシエルが吹き出していた。なにわろてんねんこの子何とかしてくださいよ!
目の前のウマ娘はワナワナと震え出すと、顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべる。血管切れますよ?
あれ?私またなんかやっちゃいました?
「覚えてないじゃない!!」
何故か激おこぷんぷん丸と化したウマ娘は、地団駄を踏むと腰に手を当ててこちらをズビシッと指差す。
「人に向かって指差すのはマナー違反じゃないですか?」
「あっごめんなさ……って!人の名前覚えてないのもマナー違反じゃない!?」
「仕方ないですぅ。チームも違うならクラスも違いますしぃ?」
「こんのッ……あんたなんて嫌いよ!」
なんでしょう……。勝手に絡まれて勝手に嫌われてしまいました。
「お互いがんばりましょうね。ウィアゴーマツシマさん」
「知ってんじゃないの!!!?!?……ハナッから相手にも見られてないってワケね……!上等じゃないの!!覚悟なさいッ!?」
ぷんぷんと聞こえそうなほど激オコったウィアゴーマツシマさんはメランシエルさんにマシンガンを撃ち込んでます。チラリと目が合ったメランシエルさんには舌でも出しておきましょう。ぺろっ。
さて、そろそろ私は枠入りですね。もう一度足首を伸ばして、ファンファーレに身を
スターターが、コース脇に出てくることで観客達のボルテージが途端に上がっていき、それにつられウマ娘達のテンションも、否が応でも上がっていく。
『さあ場内のテンションも上がって参りました!スターターが上がります!スタンドに陣取った12万人近い目撃者たちの協奏曲!ラプソディーの余韻消えぬ正面スタンド前から発走となります18人のウマ娘達は何を思うのか!』
振り上げられた赤い旗と共に、勇ましく鳴り響くファンファーレ。ウマ娘の緊張も、観客のボルテージも最高潮に達し、様々な声援がウマ娘に浴びせられた。
励ます者、檄を飛ばす者、拍手をもって送り出す者、念を飛ばす者。
『ゲートインが進みます、おっと!?アラバスタプロントが少しテンションの高い状態ですね!クリスタルウインドも深く息を吐いて自分を落ち着かせている様子です。係員に連れられてゲートに収まり、モンドクリストス……最後にクリスタルウインドも収まりました!態勢完了!!』
…………静寂、様々な想いを一身に背負っていざ行かん。
『───さあ、熱き夢!!栄光遥か!!』
ゲートの解放と共に静寂が決壊する───。
『日本ダービースタートが切られました!ややバラついているか!さあ1コーナーに向かってこの辺り、まずはポジションの取り合いという所なんですが、ウィアゴーマツシマ!そしてアルネストローチ!どうやらウィアゴーマツシマが先手!アルネストローチが二番手で1コーナーへと差し掛かって行きます!!』
ゲートから打ち出されたウマ娘たちが、スタート後の短い直線で加速していき、1コーナーへ殺到していく。
一生に一度の大舞台に当てられてか、それとも場所取り争いを有利なものにしたいのか、内ラチ沿いに詰めていくウマ娘たち。
流れに遅れないように、しかしゆっくりと加速しながら内ラチへ沿う。確実に経済コースへ。
1コーナーにはさっき絡んできた激おこウマ娘さんが先頭で突っ込んでいきました。
(メランシエルさんは……あぁーあれは面倒臭い)
先行位置に居たメランシエルは、かなりキツめに行き場を絞られており顔を歪めていた。巻き込まれていれば内ラチに接触もありうるだけに、あれは審議となる可能性がありそうだ。
(下げて正解でしたね……)
『青い勝負服のディープスカイはご覧のようにポジションを下げて、直線の斬れ味に賭けようと言うところです!』
スカイは差しと言うよりも、追込に近いスタイルで行くようだ。
激しく場所を取り合う先行を悠々と観察しながら、後ろから三番目という所まで位置を下げた。
スカーレットはムズムズしているようだが、ウオッカとブルースリは真剣に場を分析している。
「明確な逃げがいるからポジションがバラけたな」
「そのまま持てば驚異的かしらね」
ハナを進むウィアゴーマツシマは、ディープスカイのやり方を知っているウマ娘。ならばその為に対策をしてきたはずだ。
彼女は
だがそれは2000m近く逃げ続け、スタミナをすり減らしたところで3、4コーナーの荒れた芝に突っ込むという事。
短い直線の中山ならどうにかなるかもしれないが、ここは東京。おそらく直線で
『早くも前1人ウィアゴーマツシマが飛ばして行く!後ろがバラけていく展開になります!2コーナーに差し掛かる!』
『ハナを取ったのはウィアゴーマツシマ!二番手に着けたアルネストローチ、三番手スマイリーシャット、四番手にサクセスブローゼン初めての芝!レインボーバリウスも上がっていきました向正面の直線コース!依然として後方で息を潜めるディープスカイ!NHKマイルと変則二冠を狙う挑戦者!1番後ろからメイシンクリオネという形です!』
激おこウマ娘さんがペースメーカーとなり、良い感じのバラけ具合でレースが進んでいく。
良バ場となった芝に、足裏の蹄鉄がよく噛んでスピードは思ったより乗る。稍重寄りの良と言った所だろうか。
周りのウマ娘の息遣い。腕の振り。風を切る音。
詰め過ぎないように、しかしスリップストリームを失わないよう一定の位置をキープする。
奇を
『さあ向正面半ばを過ぎて通過タイムは60秒8という通過タイムでした。先頭行くのは11番のウィアゴーマツシマ、その後方ですが5番アルネストローチ、続いてスマイリーシャットそしてレインボーバリウスとサクセスブローゼンが並んで行っています!』
前に彼女と走った事がある者ほど、直前まで戦略を建て直していた。
NHKマイルカップ、不良バ場だった3、4コーナーを内から抜き去っていった空色の風。内か、外か。あの末脚をどこから伸ばしてくるのか。
ウィアゴーマツシマが選んだのは、届かない場所まで逃げて内を塞いでラインを潰し、逃げ切る。2400mという距離を逃げ続けるということ。
良バ場まで回復してくれた事は彼女にとって大きな
───あとは自分の両脚を信じるのみ
今日の自分に、どちらから来るかは関係ない!あの人をおちょくったおたんこにんじんに分からせてやる!
『そして8番アラバスタプロントこのポジション、12番オルジェクトがいて6番モンドクリストス真ん中にネイリスチャーチル、外からクリスタルウインド、その後ろに皐月NHKマイルと連戦で結果が欲しいメランシエルが続いています!』
この黒い勝負服にかけて、このダービーを勝つ。
皆、そうだろう?
ここにいる18人は皆そうだ。いや、この舞台に立てなかった同級生も、今まで走ってきたウマ娘達も、勝利を、このレースの勝利を渇望した。当然私もそうだ。
2着のホープフルステークス、2着の弥生賞、6着の皐月賞、2着のNHKマイルカップ。不甲斐ない!勝てるはずだった!そう嘆いても仕方ないほどに、悔しさがこみ上げる。
先程も1コーナーで内ラチに接触しかねないほどの不利を受けた。だが、それがなんだ。
今ここで走る誰よりも、速ければいいんだ!
―――勝つ。昨日でもなく、明日でもなく、今日、ここで!!
『アマツミカヅチが行っている!セイショウアルナも上がっていく!内からディープスカイ、その外ミラーテーション、14番テーシンオフェンス、そしてアドブェーナイン!1番後ろのメイシンクリオネも何とか追いついた形になりました!』
後ろからの足音が迫ってくる。後ろはペースを上げてここから前を狙っていくようだ。追込みを掛け始めるウマ娘に、仕掛けるふりをして牽制をする。アドブェーナインとメイシンクリオネが仕掛けを躊躇し一瞬息を乱した。このわずかなペースの乱れは、後半になるにつれてボディブローのようにジワリと効いてくる。
その隙にコーナーに備えて足を乗り換える。
「…このままじゃ、先頭が逃げちゃう……」
わざと前のウマ娘に聞こえるように囁く。その囁きを聞いて前のアマミカヅチとセイショウアルナは仕掛けを始めた。少しずつ上がっていく彼女らを見送って、念には念を入れることを忘れない。
『3、4コーナー中間、府中名物大欅の向こうを過ぎますが、依然ウィアゴーマツシマが逃げる!気持ちいい逃げになってるぞぉ!!』
凄いです。激おこウマ娘さんはまだ
しかし先頭はもう気力で持たせてるはずです。ここで内ラチに沿った事で、前レースで荒れたターフを走ったことによりスタミナはがっつり削れたはず。さあ、あとは私の仕掛けポイントですね。
『ウィアゴーマツシマが気持ちよく逃げているが、その他のウマ娘がドッと押し寄せて!!前の方が固まりました!!ようやく前が固まって最後の直線を迎えました!!』
ここまで風除けありがとうございました。大きく、全身に、体全体に、末端にまで空気が行き渡るように大きく息を吸い込んだ。前に広がるウマ娘達。
当然、私の行く場所はそこです!!!
「『───誰も居ない場所を行け』!!」
遠心力に逆らうことをやめ、4コーナーの途中から一直線に加速して誰も居ない大外へ!!一気に体を前に倒して、加速。
――――さぁ、空色の風が澄み渡る!
「あああああああッッ!!!」
ここまで必死にハナを抑え続け、後は直線のみ。……その直線が長い!!ウィアゴーマツシマは薄れ始めた自分の意識へ喝を入れるために叫ぶ。その叫びに気圧されるか、そんなことはなくここに立つウマ娘質は寧ろ高揚するものばかりだ。
「させるかぁぁああああ!!!」
呼応するように誰が叫んだか、メランシエルは分からなかった。それは他ならない彼女の心からの渇望が口を突いて出たものだった。もうここで燃え尽きてもいい。疲労感を訴える足を、体を無視して持てる力を全力で叩きつける!
『ウィアゴーマツシマが叫んだ!気炎を吐いたウィアゴーマツシマの外を上がってくるスマイリーシャット!!メランシエルも来ている!!その外にレインボーバリウスの姿です!そして外からディープスカイ!!大外から!!ディープスカイ大外から上がってくる!!』
……最後に目に入ったのは、空色をした風。
『スマイリーシャットが前で頑張っている!!その間を来るのはレインボーバリウスとメランシエルだ!!しかしなんだこのスピードは!?13人をぶち抜いて大外ディープスカイ!!外からディープスカイ!!二冠達成だぁぁぁああ!!!!』
大歓声を一身に受けてゴールしたディープスカイが芝へ全身を投げ出した。ゴールしたウマ娘たちも次々と膝を突いたり、倒れ込んで激しく呼吸する。
『NHKマイルを勝利したディープスカイが!変則ながら二冠達成――――!!スタートしてから後方の位置取り!直線を向いて大外にまわって確実にその足を伸ばしてきました!!』
腕だけを突き上げて激しく息をするディープスカイに観客たちの拍手が降り注ぐ。その万雷の喝采に涙する者たち。その称賛はたった一人に向けられるものだと知っているから。
東 京 10 R
審 議
① 1
>1.1/2
② 7
>3/4
③ 3
>ク ビ
④ 9
>ク ビ
⑤ 10
芝
良 タイム 2.26.7
ダート
稍 3F 36.4
『先に抜け出して、あわやと言うスマイリーシャットでしたが、ディープスカイが襲い掛かりました!NHKマイル2着だったメランシエルは及ばず3着でした!4着9番のネイリスチャーチル、5着10番のレインボーバリウスと表示されています!しかし青い審議のランプが点灯しています東京レース場10レース日本ダービー!1コーナーで3番メランシエルの進路が狭くなったことによる審議が行われていますが、順位変動はなさそうです』
実況と歓声が遠くに聞こえる地下馬道。肩を落としたウマ娘たちがチームメイトやトレーナーに付き添われゆっくりとターフを降りていく。すすり泣く者、声を上げて泣く者、気丈に笑う者、無言で去る者。
その誰もが輝きを持った宝石たち。それでも届かないのがこのGⅠという舞台。
「浮かない顔してますね?ダービートレーナーなんですよ?」
見送る先に視線を向けていた背後から、しゃなりとした声が掛けられる。彼女は汗で貼り付いた前髪もそのままに、編み込まれた髪を解いて頭を振った。
「おめでとさん」
「ありがとーございまーす!ぶいぶい!」
ニヤリと笑ってダブルピース。
「スカーレット先輩たちはどうしたんですか?」
「控室でお前さんが戻ってくるのを待ち望んでるさ。みんな胴上げしたくてウズウズしてたから揉みくちゃにされないように気を付けるんだな」
隣に並んで、ゆっくりと歩みを検量室に向ける。あとは重量違反をしていないか後検量をしてようやくすべて終了だ。彼女も2400mを走り切って疲労しているだろうから、早いとこ終わらせてやりたい。
「黒ジャケさんはどうなんですか?私がダービーを勝って嬉しいですか?」
「もちろん」
「その割に全然喜んでるように見えませんけど?」
「そういう顔なんだよ」
数歩先を行ったディープスカイが俺の進路を塞ぐように振り向く。なにか確信したように、スッと引き締まった表情に変わって、俺に視線を向けてきた。
「さて、分かってもらえました?勝者が居れば敗者も居る。トレーナーをやっていく上で必ず当たる事です。レースに限ったことじゃないし、ウマ娘だけの事じゃありません」
「……そうだな」
「勝つことを怖がっているあなたは、