タンデムで見た海   作:印旛沼まで徒歩五分

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陽炎③

 

 

 

黒白の幕が下げられ花に囲まれた中に、写真となってしまった彼がいた。今にも「タバコをくれねーか?」と笑いながら話し出しそうな黒い肌の偉丈夫は、しかしもう声を聞くことは叶わない。

 

普通は窓が開けられているはずの棺も閉じられており、献花は台へ置いていく流れになっていた。

 

「はぁ······小さくなっちまってまぁ」

 

いつまで経っても嗅ぎ慣れたくはない煙の香り。

 

親戚らしき人達に会釈だけして線香を立てる。耳が痛くなる静寂。あちらと話している黒姫は気丈に振舞っているように見えた。

 

チームのだらしない野郎どものケツを引っ叩く肝っ玉の女でも、さすがに堪えるだろう。

 

 

『ウチのチームに来ないか?』

 

 

(やま)でそう声をかけられた時、初めは面倒くせぇ地元の派閥争いかと思ったもんだ。

当時は峠を根城にした派閥(チーム)がいくつもあって、スピードを争ったり時には喧嘩したり······。他へ走りに行ったら行ったで絡まれたりと面倒な事が多かった。

 

だが、それぞれが自警団のようなものでホームコースを荒らされる事を良しとせずある意味の()()があった時代。

 

いつものようにサクとつるんでいた時、声をかけてきたソイツは俺たちの力が必要だと言う。

 

聞けば、サクの親父さんを巻き込んで出走したレースで、俺達の事を観ていたメーカーの人間らしくスカウトに来たと。あまり目だった戦績のないメーカーだから渋ったが、サクの手が入るならと承諾し言葉通り世界を相手に戦うことになった。

 

楽しかった······。あぁ、楽しかったさ。

 

馬鹿ばっかりやってた俺たちが日を浴びて走ったことが。

今になって思う。失敗ばかりだった俺たちがようやく勝てるようになって、最高のチームだと言えるようになった事が。

 

 

「面と向かって礼を言ったこと無かったな───。感謝してるよ。ありがとう」

 

 

どういう訳か、俺も違う形ながらチームを持つことになりそうなんだ。

いつかのむさ苦しい野郎共の集まりと違って······いや、同じように喧しいヤツらばかりか。陰気な俺を引きずり回すとにかく愉快でお節介で優しいヤツらだよ。

 

何も手向けられるモンなんか無いが、勘弁してくれや。こっちはこっちで上手くやるからサ。

 

だから────。

 

 

「トーシロー···さん······?」

 

 

不意にかけられた声に振り向くと、眼鏡をかけた少女がこちらを見ていた。

 

父親ゆずりの褐色の肌と肩口で切り揃えられた明るみある髪。どこか奴の面影もあり、母親にも良く似た目鼻立ちのウマ娘───マカニは頬を緩め近づいてきた。

最後に会ったのはまだ彼女の歳が2桁になる前だったか。彼女も来年から高校生だというのだから早いものだ。月日の流れを感じつつ成長に目を細めた。

 

「よォ、久しぶりだな。ずいぶん大人っぽくなったもんだ」

「うん···」

「どうだ、確か来年から高校生なんだろ?」

「そうだよ。これでも成績優秀なんだからね」

「昔っから賢かったもんナ」

 

まだ彼女が幼い頃、岡谷と黒姫の仕事の関係でよくチームの元へ遊びに来てはお姫様扱いだった事を思い出す。父親よろしくよく笑う子だったが、今はその笑顔にも陰りが見える。

 

「走りの方向へ行くのか?」

「ううん······私には走り(レース)の才能無かったから。私よりも妹の方が全然速いの。凄いんだよ?もう、ジュニアレースで勝ったりしてさ。負けた事ないの」

 

でも、と彼女は付け加える。

 

「お父さんがこうなっちゃってさ。あの子のレースを観ないまま、帰ってこなくなってて」

「········」

「妹はケンカ別れみたいなことしちゃったから。それからもっと走りにのめり込むようになって······止めても、だめなの」

 

「私じゃ、ダメだったの」

 

おそらく、走ることで現実から目を逸らしているんだろう。彼女の妹はまだ中学生に上がる前の年齢。現実を受け止められてないのだろう。

 

その気持ちは()()()()()。大人ですら持て余す程の情動。

 

······俺も似たようなものだからだ。

 

「トーシローさんは、今なんの仕事してるの?」

 

難しい話をしたとマカニは感じたのだろうか、別の話題へと移ろうとした。

 

少しの間考える。黒姫の言った「あなたに任せるつもりだったのかもね」という言葉。岡谷はこの姉妹にも似たような事を伝えていたのかもしれない。ここで自らを()()言えば、この後どうなるかは目に見えている。

 

だけど、これは()()()()()()()()

 

 

「トレーナーさ。中央のな」

 

 

驚愕といった表情で目を見開いたマカニ。彼女の瞳は潤みだし、溜まることなく雫を溢れさせていく。次第にしゃくり上げるような呼吸になり嗚咽も滲ませて。

 

「トレーナー······?」

「あぁ」

「お父さん······約束、守ってくれたんだ······」

 

縋るように袖を掴んで俯いた彼女の下に、ぽたぽたと優しさの欠片が散らばっていく。

 

 

「お願い······!あの子を助けて······!!」

 

 

俺だけができる手向け────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り出したウマ娘を追いかける為にウオッカも展望台を飛び出して道へ出た。

加速して行く鹿毛のウマ娘は鮮やかなコーナーワークで左へ抜けた。遅れる事5バ身、ウオッカもコーナーを駆け抜ける。

 

「······ッ!」

 

左のコーナーを抜けてすぐ、ウマ娘は次の右コーナーに備えて()()脚を乗り換えていた。

 

コーナーの出口から加速に移る時、いやその前か?同時か?それはまだ分からないが、とにかくスゲェ事をした······!

 

おそらくまだ高校生にもなってないであろうウマ娘だが、その技術は一朝一夕で身につくようなものじゃない。直ぐにウオッカは頭の中で警戒レベルを引き上げた。

 

(うかうかしてたらこっちがチギられる!!)

 

緩やかな右を直線的に抜け、その後に迫る左をアウトインアウト。奥めのクリップにしっかりとつき、脱出ラインへ体を乗せた。カーブミラーで対向車を気にしながらも彼女のラインをトレースして追いかける。

 

海沿いの崖上を沿うように敷設された道路は中低速主体のつづら折りから様相が変わり、中高速コーナーの連続するワインディングへと変貌していた。

 

1.5車線程の道幅と、時たま設置されている離合のための待避所。オーバースピードで突っ込んだと思っても、彼女は道幅を上手く使い、待避所スペースを使ってまでラインを描くリスキーな走りで駆け抜けていく。

 

走り慣れているのもあるだろう。コースをよく知っているのもあるだろう。だが、

 

「速えぇ!バッカじゃねーのかコイツ!!」

 

カーブミラーで確認はできるが、対向車が居るかもしれないブラインドコーナーへ平然と突っ込んでいく胆力。

 

ガードレールに擦れそうなほどインへ身体を寄せるバランス感覚。そしてコーナーから抜け出す際のアホみたいな加速力。

 

まだ未成熟な身体でこの出力なら、本格化を迎えたらどうなってしまうのか。

 

 

 

頭上を青看板がすっ飛んでいく。灯台まではあと3km。

 

 

 

本能的に理解した。たぶんアイツは、ブチ抜かなきゃその脚を止めない。なら、オレのやる事は───1つ。

 

「やってやるよ!」

 

様子見なんてレベルをとっくに超えて、ウオッカは出力を引き上げる。

姿勢を低く、ガードレールの反射板がビュンビュンと顔の横を通過していく。いくらアイツの加速力良くったって、それは本格化に至る前のウマ娘の話だ。

 

 

あと目測4バ身───

 

 

「突っ込めェ───!!」

 

 

側溝を蹴飛ばし最短距離をカッ飛んで行く。

前を行くウマ娘よりもさらにクリップを奥に取り、立ち上がり重視のラインへ。

 

トップスピードの時間をもっと長く、それでいてコーナーを繊細に。

 

前を走る彼女が巻き起こした空気の渦(スリップストリーム)を使って、少しずつ、少しずつ差を詰めていく。

 

 

あと3バ身───

 

 

(······詰まってる!)

 

 

ウオッカとウマ娘の差は確実に詰まり始めている。身体の成長度と、経験に裏打ちされたラインの修正力は伊達じゃない。

 

彼女は野良であり、おそらく完全にこのコースへチューニングされた走り方で、ここ以外を知らないのだろう。何百回何千回と走り込んだ中で、それが最適解だと弾き出したんだ。彼女自身が、そのラインが1番だと理解しているんだ。

 

 

だからこそ、いま以上速くなる方法を知らない。

 

 

独学には限界がある。最適解を出してしまったなら、そこにはもう削れる所なんてないと決めつけてしまったということ。この他人と並んで走ることなど微塵も考えてないコーナーの詰め方は、裏を返せばそれだけ他の者と走る機会がなかったのだろう。

 

幼い頃からレースにバンバン出させられる名家のウマ娘ならまだしも、あのウマ娘はまだ荒削りでこういう状況に慣れてない。

 

付け入るなら、その経験の無さ。隣に並ばれてラインの制約を受ける時にこそ弱点は現れる。

 

 

 

(お前の弱点は、ライン────ッ)

 

 

 

頭上を青看板がすっ飛んでいく。灯台まで あと1キロ

 

 

 

 

 

 

『ッ、ゴール!』

『おお!また早くなってんぞ!さすが俺の娘だ!』

『いっひひ~!これでトレセンがくえんにいけるかな!?』

『ダメだダメだ!可愛い娘と離れるなんてパパが耐えられん!断固反対だ!』

『それじゃレースでられないよ~······』

『ま、待ってえ~···はぁ···速いよぉ···ぜぇ······』

『パパ、またあしたから()()()なの?』

『·········そうなんだ。ママの言うことちゃんと聞いて困らせるんじゃないぞ』

 

 

『ッゴール!』

『···ぜっ···はぁ······どう?』

『いい感じだけど、ちょっとよくわかんないところあったからもう一回行く』

『うひぃ···もぅ···無理ぃ······着いていけないよぉ······』

 

 

『お姉ちゃん、もうついていけないよ······』

『じゃあ、私だけで走ってくるから。お姉ちゃんは待ってて』

『あんまり無茶しちゃダメだよ?パパはまたお外に行くらしいから』

『もっと速くなって1着取れればパパも見てくれるかな』

『そりゃもちろんだよ。トゥインクルシリーズのクラシック三冠ウマ娘とかトリプルティアラウマ娘とかになれたらパパもママも大喜びだよ』

『じゃあ、私がトレセン学園に行って三冠とったらいいんだよね!もっと頑張る!』

『わ、私がついていける位にしてね······』

 

 

『ゴール!』

『また速くなってるな!よく頑張った!······なぁ、トレセン学園に行きたいか?』

『行く。行っていっぱい勝っていちばん強くなってパパに見てもらうの!三冠取ってもっともっとパパに見てもらうの!』

『そうか······。お前は可愛いからトリプルティアラなんかお似合いだな!じゃあパパのお友達のトレーナーに頼んでみようか』

『ほんとっ!?』

『おお、約束だ。だからちゃんといい子にしてるんだぞ?』

 

 

『パパ、またお外?』

『ごめんなぁ。どうしても行かなきゃいけないんだ』

『なんで!?私の···レース見に来てくれるって言ったじゃん!!』

『次!次は絶対行くからさ!』

『パパきらい!』

『な······なん·······』

 

 

『パパ、帰ってこないね?』

『そうだね~。今日は早めに帰ってくるって言ってたんだけど······ん、電話でてくるわね』

『早く帰ってこないかなぁ。わたし1着とったって言うの!』

 

 

『パパ?パパ······?』

 

 

『私が······私が、パパきらいって言ったから······?』

 

 

走らなきゃ

 

 

もっと···もっと、1番になったらパパも見てくれるよね······?

 

 

『もうダメ!ケガしちゃうよ!!』

『嫌!走るから!!止めないでお姉ちゃん!!走らなきゃパパが帰ってこないの!!』

『もう···パパは······!』

『うるさい!!』

 

 

···足りない

 

 

これじゃ足りない······!足りないの!もっと1番に······!誰にも抜かれちゃいけないの!!

 

 

 

 

 

 

 

3バ身はあったウマ娘とウオッカの差は着実に詰まり、もう1バ身程度まで近付いていた。

 

後ろからプレッシャーをかけ続け、わざと半身程度ラインをズラして彼女に己の存在を刷り込み続ける。

 

いくら走り慣れたコースであれど、レース経験豊富なウオッカの威圧感を跳ね除けられる程の力はウマ娘になく、その走りは徐々に精彩を欠き始めていた。

 

だが、それでも全速に近いスピードで走るウマ娘を押さえ付けるのはあまりにも危険であり、もし転倒でもしてしまえば下手したら崖下行きだ。ウオッカ側からしても彼女に自発的に足を止めてもらう他ないのが現状である。

 

その為には────きっかけが欲しい。

 

もはや精神力というか、執着に近いもので走り続けるウマ娘。似たように猪突猛進なヤツが身近にいるが、あれはまだ可愛いもんだ。目の前の奴はちょっとやそっと声を掛けたぐらいじゃ止まりそうもない。

 

 

(どうする·····!?)

 

 

仕掛けどころのないこのコース幅。白亜の塔は細部が分かるぐらいにまで近付いていて、もう間もなくこの道も終わるだろう。ちりりと思考を過ぎった少しの焦り。

 

悩みながら走り続けるウオッカ達の前にトンネルが現れた。

 

短いのだろう灯りはなく、しかしコーナーの途中にあるのか先は見えない。ゴウゴウと耳を撫でていく風。ウマ娘を射程に捉え、一気に加速する。

 

 

 

────ここかッ!ここしかない!!

 

 

 

 

ウマ娘はトンネルに突入した。

 

ずっと走り続けたこのコースの中で唯一の暗所となるこのトンネル。

 

長さ自体は200mもないが右カーブの途中にあって先が見えず、また電灯もないため昼も夜もなく暗い。しかしここを抜ければあと左コーナー1つでゴールの灯台下────無意識の内に、脚が緩んだ。

 

 

 

 

ぞわり

 

 

 

 

()()()()()()()()()()────!!

 

 

(どこ───ッ!?)

 

ずっと後ろから掛けられていたプレッシャーが霧散したように消えて真っ暗闇の中に自分1人放り出されたような感覚。コンクリートに反響した足音は1人分だけが返ってくる。

 

 

(消えた!?)

 

 

光がウマ娘を包む。トンネルが終わる。居なくなってくれたならいい。諦めてくれていたらいい。でも、居る。背を駆け上がってくる予感。

 

()()()側にウマ娘(ウオッカ)がいた。

 

 

「なッ────」

 

 

並んでる!?完全に横へ並ばれた!もうこれ以上外へは寄せられない!

 

思い描いたラインが辿れなくなったことで一気に詰めが甘くなり、ウマ娘はコーナーリング姿勢を乱した。ほんの僅かな右の1人で走ればなんて事ないコーナーが、並ばれるだけでスピードがガタ落ちになる。

 

そして次のコーナーが左という事は、インとアウトがスイッチするという事───!

 

「狭い······!!」

 

動揺と混乱。そして理解。

 

(この人はトンネルの中でストライドを私に合わせた······!?)

 

影で分からないようにトンネルの中で、音の反響を利用して消えたように見せかけた。わざとらしくぶつけていた気配を消して、前走者の意識を完全に逸らし加速して並びかけたんだ。

 

そんな使い方があるのか───。

 

慌てる中でもどこか冷静に自分のされた事を脳が処理していく不思議な感覚。並んだウマ娘(ウオッカ)は、振り返る事なく······先にゴールへ飛び込んで行った。足の回転を落として減速していく。もう、走る必要も無くなってしまったから。

 

 

 

負けた。

 

 

 

··········負けたんだ。

 

 

 

白亜の塔が、海が、芝生が、世界が滲んでいく。途端に脚から力が抜けて芝生の上へ倒れ込んだ。ごろんごろんと転がって青い芝生の匂いを鼻に感じる。ようやく止まって四肢を投げ出し、空に包まれた。

 

あは···あはは!あはははははははは!!」

 

腹の底から湧いてくる悔しいという感情。もう終わったから、終わってしまったからどうしようもないのに悔しい。

 

こんな圧倒的な力の差を感じたことなんてなかった。超えるためのビジョンが見えない事なんてなかった。

 

「気が済んだかよ」

 

銅色(あかがね)の瞳と前髪の流星が覗き込んできて目が合う。こっちは息が上がって苦しいのに向こうはもう回復したようだ。なんというか、もう根本から体のつくりが違うらしい。

 

「······おねえさん、速いんですね」

「その言葉そのまま返すぜ。あんな突っ込み方命がいくつあっても足りねーよ」

 

倒れた私の隣におねえさんが座る。

 

「すげーな、ここ」

「いい景色でしょ?私のパ···お父さんが教えてくれたんです」

「いい父ちゃんじゃねーか」

 

海を見渡せる丘。耳を撫でる潮風。ぽつんと1人だけの白い灯台。パパが私に教えてくれた景色。パパが私に残してくれた景色。

 

「でも·····きらいって言ったまま、帰ってこなくなっちゃった······ごめんなさいって言えてないの··········」

 

声が上手く出せない。

引き攣った喉が勝手にしゃっくりを含ませて、声にならない嗚咽が漏れる。

 

「なあ、名前はなんて言うんだ?」

「······アパパネ」

「そっか······。アパパネ、お前は速い。もっともっと速くなれる。だから自分を削るような走りをしないでくれ」

「ほんと······?」

「本当さ。ちゃんとしたトレーニングすれば三冠でもティアラでも、お前なら獲れる。ダービーウマ娘が断言するぜ」

 

 

 

「───だから、今日で全部流しとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってきたウマ娘二人を黒姫とマカニは暖かく出迎えた。

 

マカニと似た褐色肌、明るめの鹿毛。目鼻立ちのクッキリした顔と意志の強そうな瞳。まだ本格化前だろう少し低めの身長だが、ショートパンツから伸びる足はしなやかで、走る雰囲気を強く感じられた。

 

······頬には涙の流れた痕跡。

 

ウオッカは、何も喋る気は無いと言った。なら彼女らの中で済んだ話なのだろう。

 

「ママ、パパに会わせて」

「それは······」

「まだ、ちゃんとごめんなさいって言えてないの」

「·······分かったわ」

 

 

ここは部外者が居るべきじゃない。ウオッカにも、もう充分仕事をしてもらった。

 

「外に出るぞ、ウオッカ」

「ああ」

 

車へ戻りウオッカに乗車を促す。

 

先に乗り込んだ彼女の髪をかき混ぜてやると、驚いて目を見開きぽかぽかと手を叩いてきた。

 

「うぉい!なにすんだよ!!」

「助かったョ」

 

どこかやり切った表情のウオッカが口元を綻ばす。

 

「すげーよアイツ。めっちゃ速ぇ」

「そんなにか?」

「そんなにさ。GⅠの一つや二つ獲らなきゃいけない奴だ」

 

そこまでの評価とは、いやはや···どこに原石があるかなんて分からないもんだ。

 

「トレーナーさん」

 

凛とした声が掛けられて、そちらを向くとアパパネが近づいてきた。後ろにはマカニと黒姫もいる。どうやら、本当の意味でお別れしてきたらしい。

 

······強い奴だ。

潮風に靡く髪が夕陽に照らされて、きらきらと光る。その姿が眩しくて思わず目を細めた。

 

「トレーナーさん、なんですよね?」

「ああ、そうだョ」

 

俺が頷くと、その瞳は更に意志を宿して燃えたように見えた。もう、彼女は決して折れない。

 

 

「───待っててください。私、絶対に中央へ行きますから」

「楽しみにしてるョ」

 

 

陽炎を揺らめかせ、少女は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

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