月刊レジェンドモータース
ハマサキ、黄信号?
“どうなる!?BoP!”
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オーストリア、カタールと連覇し、大量ポイントゲットして波に乗るハマサキZR-10X。そして上位はホンマ、スザキと日本車が独占する輝かしい結果となった。
しかしここに来て、WRCC運営は今年中に発売を開始したモデルチェンジ車両について
今年マイナーチェンジした4気筒車両には14700rpmのリミッターを、フルモデルチェンジを施したモデルにはなんとそれよりも700rpm低い14000rpmを課すとのことだ。他にも
マイナーチェンジ車両は国内メーカーであればホンマ、ウマハ、スザキが当てはまるが、フルモデルチェンジを行ったのはハマサキZR-10Xのみ。ここにシーズン中のギア比変更禁止のレギュレーションがのしかかってくる。ハマサキZR-10Xはパワーバンドを制限されてしまった上に、ギアを加速寄りへ変更することもできない八方塞がり状態になってしまったのだ。
ここまでホンマと共にGBR1000RRを駆り絶対的強さを誇ったアイデルン・リゲルを追い詰めていただけに、このBoPでどうなるのかが見ものだ。
ほか4気筒車両であるが、昨年モデルチェンジしたVMWやアフレリアに該当車種は無く、2気筒車を持ち込むヘカティにはなんの制約もつかない。誰が見ても日本車、ひいては勢いを増すハマサキを狙い撃つものだと考えられる。運営は「接戦を演出するため」としているが、ハマサキとアンドレイ・アレキは非常に厳しい戦いを強いられる事になるだろう。
とあるサーキットにて、チームの全員が固唾を飲んでモニターを見守っていた。できることは全部した。重くのしかかる
ワークスチームとしての意地。今年こそはの悲壮感。負ければレース撤退という全てを賭けて臨んだシーズン。序盤こそマシンとライダーの折合い悪く表彰台を逃したものの感触は悪くなく、コンスタントにポイント圏内へ入賞できていた。最近では三連覇のかかる絶対王者アイデルン・リゲルをも抑えて優勝を果たすなどして……それも連戦で、だ。
1台のバイクが最終コーナーを立ち上がり、ホームストレートのコントロールラインを通過した。小気味よいエキゾースト。マシンと一体化したライダー。アスファルトにタイヤを擦り付け必要最低限ロスなく回ったはずのライン。できる限りエンジンの回転数を引っ張って使った加速。
しかし──────
「……遅すぎる」
誰かが呟いた。
誰もがそう思った。
ここはマシン開発やテストに使われる、言わばチームのテストコースといえるサーキットだ。ここでのタイムを換算して、次戦へ挑む為のセッティングする。現在はその作業の真っ只中だった。
シーズンの途中からレースレギュレーションが変更される事は、まあ珍しい事ではない。1年間という長いシーズンを戦っていけば戦力差が結果として着いてくるのは当然といえる。その分の努力や犠牲はどこもやっている事だ。
だが、運営やファンからすれば、どこかひとつのチームが独走状態になる事は面白くない。その為に
しかしながらそれは運営の裁量で決められるものであり、あまりに厳しいモノが課せられる場合がある。
「タイムは!?」
「…………ベストの5秒落ち、です」
「そんな……」
5秒。たった5秒。
しかしモータースポーツの世界の5秒は果てしなく大きな壁になる。
100km/hなんてゆうに超え、300km/hに迫るような世界で戦う彼らには大き過ぎる枷だった。
何せ1周でつく差が5秒分ということは、距離にすればホームストレート1本分程度は離されるという事だ。
例えば相手が時速100kmで走ったとして秒速約28m。こちらが5秒遅れたとしたら約140mの差がつく。10周続いたら1400m。30周で4200m。4.2kmも差が開いたのならばサーキットは1周ぐらいしてしまう。もはや周回遅れだろう。
もちろんストレートありコーナーありの加減速が前提なサーキットでの話はそう単純なものではないし、内的要因及び外部要因で様々変わってくる。しかしながら現実は嘘をついてくれなかった。
「このままのシミュレーションでいけば、ポイント圏内すら怪しいぞ」
「もちろん運営には緩和の交渉行っていますが……」
もともと調整が入る前の日本車とヨーロッパ車とのタイム差は概ね2~3秒程度あった。もちろんコースに合う合わないを含めれば更に増減するが、これにBoPが適用されれば確かに同等程度のタイムとなるだろう。
ZR-10Xの出したベストタイムが
いくら力量が優れている王者アイデルン・リゲルといえどマシンの性能が落ちるならば多少のタイム落ちも避けられないはずだ……それぐらいならばまだ希望もあった。これでは仕掛ける押さえるどころではない。もはや他のメーカーにだって着いていけず周回遅れにされかねないタイム差である。
「こんな時に岡谷さんが居てくれれば……」
「おい!お前……!」
「いや、彼の言うとおりよ。私ではどうしたって力不足だわ」
そんなもの、嫌ってほど痛感している。彼と共に築いたこの場所を守りたくて、その一心だけで私は何とかもっている。
なんとか繋いでるパーツだって、サプライヤーとの契約を切られれば終わりだ。降りないでいてくれているスポンサーだって、勝てないメーカーにいつまでも金を出してくれるはずがない。その
クーリング走行を終えて走っていたマシンはピットへと戻ってくる。操っていたライダーはマシンを降りると、納得いかない走りであったからか壁を強く蹴った。
『どうしろってんだ!!!』
『落ち着け……気持ちは分かる』
『どう分かってんだ!?コーナーの入り方を変えても、ブレーキを詰めてもどうしてもタイムが縮まりやしない!!』
テストコースへマシンを持ち込み、テストコースで周回を重ねること早半日が経とうとしていた。これまでレギュレーションに違反しない範囲のセットを幾つも試したが、どれも変化は微々たるもので……。なんなら、タイムアップどころか大幅にダウンしたものまであった。
結果の出ない走りにライダーはイラつく。それを諌めるピットクルーだって思うようにいかない現状に辟易としているはずだ。チーム全体の雰囲気が良くない。
シーズン途中でBoPを仕掛けられる可能性はあった。今までだってそうだったし、どうしても興行という面では独走するチームがあれば観客たちはシラけてしまう。
……それに、演出したいのだろう。
三連覇という歴史的偉業に片腕までかけた男がレースで散り、今度はその弟が偉業を成し遂げようとしている。
数度タイトルを獲得し、ハマサキはホンマと接戦を演じて、乗り越えるべき
レースという競うことを目的としておきながら、その結末はもう予定調和的にすべて決まっているんだ。ヨーロッパメーカーにいい顔をして、ホンマとアイデルンが合わされば負けない程度のBoP。そして障壁になりそうなチームを先に潰しておく。
それが裏で行われていること……観客たちの知らなくていい事だ。
「どうしますか?リーダー……」
「……いちばん良かったセットに戻してちょうだい。もうそれで、少しでも詰めていくしかないわ」
……こんな時、彼らが居てくれたらどんなに心強かっただろうか。
過去に縋ることがどんなに無意味なことか、もう分からない年齢でもないのに。
誇り、しがらみ、意地。
願ってしまう。縋ってしまう。
彼らはとっくに、自分の進むべき道を行っているのに。
───私は