タンデムで見た海   作:印旛沼まで徒歩五分

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企み

 

 

 

永遠に思われた夏という季節も、暦の上ではとっくに秋となり天高くウマ娘肥ゆる季節へと向かっていく。この立秋から立冬までが秋とされているが、天気と気温はまだまだそれとは程遠い。

 

だが長く続いた夏合宿も、これで締めとなる。

 

「じゃあ、皆集まったな」

 

チーム(仮)のメンバー、1人は普通に顔を向け、1人は隣のウマ娘にじゃれつき、もう1人はじゃれついてきたウマ娘の頬をむにむにとする。

ウオッカ、ディープスカイ、オウケンブルースリの順だ。

 

今日はトレーニングを早めに切上げミーティングに移っていた。

本来トレーニングメニューは夕暮れ時まで用意してあったが、約1名澄み渡る空と名乗る謎のウマ娘に、従わないと鼻の穴ににんじんを突っ込むと脅された為だ。俺だって鼻の貞操を失いたくはない。

こやつらがトレーニングを切り上げて欲しいとお願いしてくるなんて何事かと思ったが、よく良く考えれば今夜は毎年恒例の夏祭りがあるからどのチームも早めに切り上げていることだろう。

 

砂浜ですれ違った別チームのウマ娘たちもどこか浮ついた雰囲気だったしな。トレーニングづくめでは精神的に参ってしまうし、ティーン達にはなおさらこういうイベントも大事か。

 

明後日にはトレセン学園に帰寮しなければならない。明日は荷物まとめと移動で一日取られることから、実質的には今日が夏合宿最終日と言えようか。

 

「これから秋のレースシーズンのプランを考えようと思う……その前に」

 

これは、ちゃんと言っておかなきゃな。

 

「マトモな説明もなくトレーニングを中止させてすまなかった。昔世話になった友人が亡くなってしまったもんでな……気が動転してた」

「…それは、お悔やみ…申し上げ…ます……」

「私からも同じくです。でもそこじゃねーですよ黒ジャケさん……正座」

「え」

「正座」

「……はい」

 

ミーティングルームの床の上を指すスカイ。ブルースリがそっと座布団を敷いてくれたが、それでは罰にならないので返した。

 

「トレーニングが中止になった事に怒ってたのではなく、相談なく決められた事に怒ってるんですよ私たち。そこんとこ理解してます?」

「………………はい」

「別に、私たちも事情があれば納得しますよ。でもいきなり「今日は終わり、解散」なんて言われれば、なんで?ってなるじゃないですか」

「返す言葉もございません……」

 

ぐうの音も出ない正論である。

 

「ウオッカ先輩に免じて私とブルースリは許しますが、スカーレット先輩はもっとお怒りでしたので覚悟の準備をしておいてください♡」

 

Oh……

 

このまま解決してくれるかと期待したが、そうは問屋が卸さないらしい。うすうす予想はしていたものの、ラスボスはまだ健在で、かつ相当に檄っているようだ。

 

「まあ、罰としてこのミーティング中は正座で手を打ちましょう☆」

「……承知した」

 

ホワイトボードにレースプランを書き出し、再び正座……めちゃくちゃやりづらい。

 

「おい、なんで写真を撮ってるんだ」

「スカーレット先輩に送っときます☆」

 

もう勝手にしてくれ……。

溜息一つ。気を取り直してミーティングを始める。

 

「お前さんたちの距離適性を考えて秋戦線の大目標を決めてある。まずウオッカ」

「おう」

「天皇賞(秋)からの秋シニア三冠ローテを狙う。レース感を取り戻す為に府中1800mのGⅡ毎日王冠を前戦に使いたい。どうだ?」

「異論はねーぜ」

「OK、じゃあこれで行こう」

 

元々、ウオッカとは秋戦線の展望を決めていたのだ。天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有記念。おそらくダイワスカーレットも目指すとしたらこの3つ。

 

もしかしたらエリザベス女王杯に向かう可能性もあるが、確実に出てくる所が一つある。

 

───激突は、西日射す府中2000m。お互い得意距離の秋の盾

 

不敵に笑ったウオッカはパシンと、拳と手のひらを打つ。

 

 

「次にブルースリ」

「……ん」

「ブルースリはオープンを2勝したがもう一発……菊花賞出走の確実性を高める為にセントライト記念か神戸新聞杯のどちらかを獲りたい。理由は分かるな?」

「……優先、出走権」

「そうだ」

 

“最も強いウマ娘が勝つ”と言われるGⅠ菊花賞。

 

クラシック三冠レースの一角にして最後の舞台、菊花賞は京都3000mというクラシック級GⅠで唯一の長距離に分類される。

 

そのためクラシック級に在籍するステイヤーのウマ娘はハナから菊花賞を目標に定める者もいる。かのメジロマックイーンなんかがそうだ。ただでさえ倍率が高いのに厄介極まりない話である。

 

だからこそ優先出走権が欲しい。セントライト記念と神戸新聞杯は菊花賞のトライアル競走に位置づけられ、このレースで3着以内であれば菊花賞の枠が貰える仕組みとなっていた。

 

ブルースリは身体的な問題で出走できなかった分、皐月とダービーを経たウマ娘達よりもファン数で劣り、出走枠から(あぶ)れる可能性があった。ならば力で確実にもぎ取りに行くしかない。

 

「……長い、方」

「分かった。神戸新聞杯だな」

 

セントライト記念は中山の2200m、神戸新聞杯は阪神の2400m。スタミナを活かすブルースリの走りなら少しでも距離の長い方がいい。ならばこの判断は妥当だ。

 

「絶対に行くぞ。お前さんだけのクラシックに」

「ワタ、シ……だけの………クラシック……」

 

こちらも気合は充分。胸の前でブルースリの拳がギュッと握られる。ついに、遂に彼女は長きトンネルを抜けて重賞という晴れ舞台へと上がるのだ。

 

「いいか?今まで走ってきたヤツらよりも、ずっとずっと速いヤツらばかりだ」

「………楽しみ」

 

自らの指で頬をムニッと吊り上げたブルースリ。その目には覚悟が宿る。

 

 

「最後に……ディープスカイ」

「はぁ~い☆」

 

いつものテンションに戻った彼女はこちらの言葉を待って、ウマ耳がピンピンと踊る。

 

「スカイはNHKマイルを勝って変則二冠、同年達成でマイルチャンピオンシップを目標に据えたい。これで安田を獲れればマイル階級制覇、歴史に名が残るぞ」

「ん~~~……それも魅力的ではありますがぁ……」

 

わざとらしく顎に人差し指を当て考え込む可愛らしい仕草も、スカイがやれば様になっていた。しかし、次に何を言い出すか分からない恐怖感がある。

 

「そうですねぇ」

 

俺はディープスカイの適正距離はマイルから中距離と見ている。2400mを勝利したことから、もう少し長い距離でもイケそうではある。だがしかしスカイは小回りが苦手で中山レース場開催の皐月賞を回避した徹底ぶり。おそらく、いやほぼ確実に選ばれるだろう有は本人のやる気次第か。

 

 

「……()()()()()、でどうでしょう?」

「……!」

 

 

阪神レース場で、距離も問題ない。だが、顔を跳ね上げ息を飲んだのは隣にいたブルースリだ。

 

「……理由を聞いても?」

「や、特に深い理由は無いですよ?そろそろブルースリと走りたいなぁって思っただけです。同じレースに出ればわざわざ遠征しに行く手間も省けますしトレーナーサイドも楽できるじゃないですか?」

 

いつもの調子であっけらかんと、しかし明確にスカイはブルースリを好敵手(ライバル)認定した。NHKマイルと日本ダービーを制した同級生の最強格。

 

……そんなやつが堂々と喧嘩を売ったのだ。

 

「んで、大目標は()()()でお願いします」

「……へぇ」

 

 

起きた煙は、火となって燃え上がり、延焼していく。他でもないディープスカイに(もたら)されて。彼女はブルースリのみならずウオッカにすらその銃口を向けた。

 

昨日の敵が今日の友なら、今日の友は明日の敵になりうる。

 

「お前なぁ……同一チームの同レース出走は枠の独占だって俺が怒られるんだぞ」

「たかだか怒られるだけですよね?なら私達のために怒られてください♪」

 

いい笑顔してやがるョ……。

 

「それにリギルだってスピカだってやってるじゃないですか。それに言ってしまえば、そこへ出てこられるように勝てば良いだけのこと。レースの世界ってそういうものでは?極論ですけどね」

 

一拍、二拍。俺には返す言葉が見当たらなかった。時間をかければ言葉を紡げるだろうがそれが琴線に触れられるかどうか。スカイはそれ以上言うこともないのか、視線を切ってホワイトボードに書き込む。

 

ウオッカ 次走:毎日王冠→天皇賞・秋

 

ブルースリ 次走:神戸新聞杯→菊花賞

 

スカイ 次走:神戸新聞杯→天皇賞・秋

 

同チームで連続してぶつかるカードになる。まぁ、楽しそうじゃないか?そういうのも。

……前向きに考えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

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