TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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学生生活は危険がいっぱい

 中央都立高校のグラウンドは非常に広い。体育の授業ではその広大さを活かして4クラス同時に行われる。

 今日の授業ではソフトボールをすることになっている。もうすぐある学校行事の球技大会で、全校生徒が楽しく参加できるように練習を重ねている段階なのだ。

 

「いつも思うけどシオンちゃん着替えのとき隅っこに行っちゃうよね」

 

「…っ!」

 

 更衣室の隅でそそくさと体操服に着替えていたらヤヤカがひょいと顔をのぞかせた。

 いや…だって恥ずかしくないか? 肉体的には同性とはいえ肌を見るのも見られるのも普通に恥ずかしい。

 

 ましてや私の前世は男。他の人の素肌を見るのは気が引ける。悪いことしてる気分になるし変な気分にもなる。たいへんよろしくない。

 

 というかヤヤカも見ないでくれ。まだセーラー服脱いだばっかりでほぼ下着姿なんだ。ほら他のクラスメイトもちらちらこっち見てる。

 

「…もしかして恥ずかしいの?」

 

「………うん…」

 

「…ほうほうこれはこれは」

 

「こらヤヤカ離れなさい。シオンちゃんごめんね私が壁になっておくから今のうちに」

 

 新しいオモチャを見つけたとでもいいたげな表情のヤヤカを押し退けたのは、どこからともなく現れたミナミ。正直助かります。

 

 ミナミが壁になってくれたおかげで他のクラスメイトの視線も感じなくなった。

 

「…シオンちゃん上の体操服前後逆ですよ」

 

「…ほんとだ」

 

 でもよく考えたらミナミにはめちゃくちゃ見られてるわけなのであんまり状況変わらなくないか?

 

 ごく自然に前後逆の体操服を脱がされ正しい向きで着せられながら、私は考えるのが面倒くさくなって思考を放棄した。なんかミナミは世話焼きのオカンみたいな雰囲気あるしまあいいやろ。

 

 

◇◆◇

 

 

 打席に立ったはいいが重すぎるバットに振り回されて転んでしまったシオンちゃんを見る。何度見ても小柄で本当に高校生か疑ってしまいそう。

 

 立ち上がって再びバットを構えたシオンちゃんはいつもの無表情。だけど大きな金色の目の淵にはちょっと涙が溜まっててかわいい。次の投手の投球が来る。

 

 あ、打った。

 

「おー!いけー!!」

「当たった当たった!」

 

 チームのみんなが声援を飛ばしている。もちろん私も応援中。

 でもボテボテのピッチャーゴロ。シオンちゃんはびっくりするほど脚が速いけど流石に限度がある。あえなくアウトだ。もとよりツーアウトだったので、これで攻守交代。三塁まで進んでいたランナーも得点することなくかえってくる。

 

 チャンスをものにできなかったシオンちゃんはずいぶん落ち込んでいる様子だ。表情は全然変わってないのにここまで落ち込んでる感を感じるのは驚き。

 

 他のチームメンバーにも気にしないでって声をかけられながら自分の守備位置に走っていった。

 

 シオンちゃんはもともとあんまり目立たない子だった。消極的というよりは、いつも積極的に埋没しようとしているというかなんというか。まるで自分は本来ここにいるべきじゃありませんっていいたげな感じの子だ。

 

 その雰囲気がちょっと変わったあの日の出来事を思い出す。

 

 初めての異能部としての活動。そしてその日の帰り。バス停でばったり出会ったシオンちゃん。そして、奇襲。

 

 私――須藤ヤヤカにとって柊シオンという子は命の恩人だ。

 

 あのとき、あの場で狙われていたのは私だった。シオンちゃんが割り込んでくれなければ私はあそこで死んでいただろう。

 

 あのときのシオンちゃんはかっこよかった。ピンチに訪れるヒーローみたいで素敵だった。私がホムラのことを、す、好きになってなかったなら危うく惚れていたかもしれない。

 

 というか実際ミナミはシオンちゃんに惚れ込んでしまってる。あれはもうぞっこんだ。本人が言っていたんだし間違いない。

 

 実を言うと私はミナミからシオンちゃんの外堀を埋めるためのお手伝いを頼まれている。その代わりに私とホムラが、その、恋人的な意味で付き合えるようになるための手助けをしてくれる。

 

 云わば恋人作ろう同盟だ。ミナミはシオンちゃんを手籠めにできて、私はあの鈍感朴念仁ホムラと恋人になる。

 

 流石に「手籠めにする」という言い方はどうかと思うのだが、ミナミ本人が言ってた原文ママなのでしかたない。たまにミナミは言ってることが過激だ。

 

 まあ私にとってミナミは16年つるんできた幼馴染だ。大切な人だから恋路は応援したいし、多分ミナミならシオンちゃんも幸せにできるんじゃないかな。あの子義理堅いし、好きな人のためになら頑張れる子だし。

 

 おっと、こちらに打球が飛んできた。

 サードを守っている私は転がってきた打球を捕り、ファーストへ送球。一塁の子はきっちり捕球してくれてアウト。

 あっという間に敵チームの下位打線は凡退して攻守交代だ。

 

「ねえヤヤカ、最近柊さんと仲いいみたいね」

 

「うんそうだね!部活も一緒になったしね!」

 

 ベンチに戻るとチームの子が話しかけてくる。一塁のランナーコーチに向かったシオンちゃんについて聞かれているのだ。

 

「なにかコツみたいなのあるの? あんまり他人と関わるの好きそうじゃない雰囲気あったけど」

 

「コツ…とかはないけどとりあえず話しかけてみたらいいと思うよ! お菓子とかあげればすぐに仲良くなれると思う。案外あの子ちょろいし」

 

「ちょろ…いや確かにそんな気はしないでもないかも」

 

 多分ミナミに餌付けされてる様子を思い返しているのだろう。あの子は見た目に反さずお菓子が好きだ。しかも駄菓子を餌にされたら不審者にもほいほいついていってしまいそうなくらいちょろい。

 

「うーんお菓子か。でもそれはやめておこうかな。ミナミちゃん怖いし」

 

「あーたしかにそうかも!」

 

「男子なんかミナミちゃんの一睨みでビビりまくって近づこうとしないし」

 

 ミナミ。どうやらあなたの牽制は効いているようです。でもちょっと怖がられてるぞ。幼馴染としてそれはどうかと思わないでもない。

 

 別のチームに振り分けられて遠くで試合をするミナミが、小さくくしゃみしているのを見つけて思わず笑ってしまった。




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