TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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お酒には気をつけよう!

 怪異の出現時間が迫っていた。

 ビーチには規制線がはられ警報が鳴り響く。国の怪異科が区画ごとに設置している結界機構が作動して、既にここは隔離空間へと変貌している。万が一にも怪異が逃げ出さないようにしているのだ。

 

「今日のやつはデバフ?とかいうのをまいてくるんだったな」

 

「…うん…」

 

「いきなり不意打ちもしてくるんだっけ」

 

「気をつけて慎重に戦いましょう」

 

 原作では怪異出現とともに不意打ちで触手の拘束攻撃がとんでくる。バトルフェイズではなくイベントシーンなので回避不可能だった。枠組みとしてはヤヤカ死亡シーンと同じだ。プレイヤーがどう立ち回っても避けられない。

 

 実際のところそこまでこの拘束攻撃は速くないので、多分私が不意打ちの予兆を聞き取って連絡すれば大丈夫だろう。触手プレイは画面の向こうで見てるからいいものであって、現実で苗床エンドなんてものは見たくない。断固阻止だ。

 

 副部長の予測で絞り込めた出現ポイントは2箇所であった。そのため応援として2年生の先輩も1人来ている。ここから3キロ程度離れた位置で待機中だ。

 

 1年生4人と先輩1人がトントンの戦力として扱われているわけだが、まあ原作での先輩の強さを鑑みれば妥当だろう。レベルが一回り違うからね。

 

 あ、これはそろそろ来るかな。エンカウント音が聞こえる。

 

「…くるよ…!」

 

 パリパリと割れていく空間。その隙間から不意を打って触手が伸びてくる。矛先はヤヤカだ。

 

「シオンちゃんの言ってた通り本当に来たわね。甘いわ『展開』!!!」

 

「俺たちも続くぞ!『展開』!!」

 

「いきます!『展開』」

 

『GOLDEN DAWN!!!』

 

『Coronal mass ejection!!!』

 

『LUNAR CATACLYSM!!!』

 

 3人の展開の風圧に負けて割れた空間に押し返される触手。よし、回避不能イベントを回避できた。

 そのうちに3人が展開を完了させていく。

 

『When the earth is full of prayers, the golden dawn will come.』

 

『Light the flames and burn up all your enemies.』

 

『In every heroic tale there is a hidden sacrifice.』

 

 巻き上げられた砂の中から姿を現す夜明けの魔法使い、炎の戦士、月の狩人。

 

 いやー何度見てもかっこいいな。今日は舞台がビーチということもあってコスチュームもいつもより開放的。異能の出力が高い人たちは気分や成長によって見た目も少し変わるのだ。

 

「聞いてたとおり、なんか気味の悪い見た目だな」

 

「なにかしらこれ。タコかイカかな?」

 

「…殺しましょう。これはこの世に存在させてはいけないものです」

 

 のっそりと姿を現した怪異。うねる触手と巨大な頭部。割と愛嬌のある顔をしているが駄目だ。もう触手がエロすぎる。見るだけで()()()()コトするやつだって分かる。

 

 あとミナミだけなにやら物騒なことを言っているな。触手の用途が分からない純情幼馴染二人にはまだ早かったが、むっつりのミナミは殺意を装填するに足るなにかを感じ取ってしまったようだ。

 

 私はミナミのそばで待機。相手の攻撃はデバフこそ厄介だが目で追える。触手が伸びてきても余裕を持って捌けるだろうということで、ミナミの護衛に回っているわけだ。

 

 ヤヤカとホムラがそれぞれの剣を構え位置を変えていく。海にでも逃げ込まれたら厄介なので退路を予め防いでおくのだ。

 

「それにこれ変なにおいするな…?」

 

「お酒の匂いみたいだね」

 

 その過程で風下に立ってしまったようだ。

 この怪異は粘液にふれると『酩酊』という状態異常を引き起こす。継続的にHPとMPが回復する代わりに行動妨害を受けるというただただ面倒なデバフだ。たぶん粘液がお酒か何かでできているのだろう。

 

「これはあんまり吸ってたくないな。さっさと仕留めよう」

 

「でも水辺だから気を付けてね。水蒸気爆発とか洒落にならないから」

 

「うっ、それもそうか」

 

「ほら構えて、そろそろ向こうもやるつもりみたい!」

 

 タコっぽい怪異の触手による薙ぎ払いを難なく躱しつつ、ホムラとヤヤカが切りかかっていく。ミナミも二人の連携を援護するように精密な狙撃を始めた。

 

 こうなるともう私は暇だ。やることない。

 

 この怪異は防御力こそ低いものの、常時自身の体力を回復し続ける非常にめんどくさい特性がある。そのため討伐に時間がかかってしまうのだ。原作ならパパっとホムラで必殺技ぶっぱするところだが、水辺で炎の必殺技なんかしたら水蒸気爆発でとんでもないことになる。通常攻撃と特殊技で地道に削るしかない。

 

「このっ!切った端から再生しやがって!!」

 

「キリがないわね!」

 

「でも再生速度も段々遅くなってます。このまま削りきりましょう」

 

 ズバズバと抵抗なく触手に沈み込む剣。触れた端から切り飛ばしているのだが、それに拮抗する速度で再生されている。とはいえ怪異の体力も限りがある。そのうち倒せるだろう。

 

 というかホムラもヤヤカもデバフを受ける様子がないな。普通に粘液に触れているのに。これはもしかしたら怪異に比べて二人のレベルが高すぎるのかもしれない。一定以上のレベル差が開いていると状態異常はレジストできるのだ。

 

 まあ二人が大丈夫だからって、うっかり私が触れようものなら一発でデバフを貰うだろう。原作で言うレベルに換算したら私はレベル1ホムラにも劣るので。

 

  

 この調子ならそんなこと万が一にも起こるはずないけどね!

 

 

「あら風向きが変わりましたね。たしかにこれはお酒の匂い――シオンちゃん!?」

 

「…ふぇ…?」

 

 あれ。なんで私は横になってるんだっけ。頭がふらふらする。体はぽかぽかしてきた。

 なんだか皆切羽詰まった声を上げてるな。

 お酒の匂い。アルコールの匂い。

 頭がくらくらする。

 

「シオン!?」

 

「バカホムラ目を離すな! ミナミそっち行った!」

 

「くっ…!シオンちゃん!!」

 

 足首にぬるりと生温かいものが巻き付いて身体がふわりと浮く。ジェットコースターみたいだ。景色がぐるぐる。頭の中もぐるぐる。たのしい。

 

 着地は生温かいベッド。なんだかベチャベチャだけど柔らかいからいいや。

 

 右足だけに巻き付いてたなにかが身体中に伸びてくる。くすぐったいな。それにあつい。こんなにお天気なのにあついもの押し付けられたらあつくてあつくてたいへん。

 

「この…!シオンを離せ!」

 

「シオンちゃん大丈夫!?返事して!」

 

 みんな叫んでる。頭がぐわんぐわんしてよくわからない。どっちから聞こえてるんだろ。

 びちゃびちゃ。ねちゃねちゃ。体はもうぐるぐる巻きだ。おふとんにくるまってるみたい。ちょっと息苦しい。

 

 そうだ。名前呼ばれてた。なにか言わないと。

 頭がふらふらする。お酒を飲んだみたいだ。

 今歩いたならきっと千鳥足だ。酩酊気分。

 酩酊。なんだっけ? 気をつけなきゃいけないことだったような。

 

「…ぁ…ぅ…」

 

 そうそう。怪異だ。

 

 粘液に触れたら酩酊して行動できなくなっちゃうんだ。そうなるとどうなるんだっけ?

 

 頭がふらふら。脳みそがぐるぐる。

 

 なにか大変なことになっちゃうんだ。たぶん。あついな。今日はとてもあつい。

 あつくてあつくて仕方ないから、巻き付いてくるものをどかそうとする。

 

「…む…ぐ…!?」

 

 それがお気に召さなかったのかな。悪いことをした子を懲らしめるように、口になにか突っ込まれてしまった。そして流し込まれる液体。

 

 胃の焼ける灼熱感。口から鼻を伝い脳を貫くアルコールの匂い。体が跳ねる。動悸が激しくなる。

 吐き出そうにも口に突っ込まれたあついものが栓になってうまく行かない。

 

 脳が揺れる。

 何も考えられない。

 酸素が足りない。あつい。今日はとてもあついな。

 

 それに苦しい。動けない。体が跳ねる。

 

 逃げられない。

 

 だれかたすけて。

 

「…ふ…ぐ…!」

 

「…殺す」

 

『LUNAR CATACLYSM!!!』

 

 なんだかいつも優しい誰かが、本気で怒った声が聞こえたような気がする。遥か天空で炸裂音。

 

 そして天から降り注ぐ癒やしの雨。巻き付いていたものが次々に弾け飛んで体が軽くなる。

 

「今助けます! 弾けて『ルナ・カタクリズム』!!!」

 

『LUNAR CATACLYSM!!!』

 

 爆裂する光。怪異が消し飛ぶ。

 

 体の支えがなくなって宙に放り出される。前も後ろも上も下もわからない。頭がぐるぐるしてる。体は言うこと聞かなくて動かない。こわい。

 

 地面に振り落とされる恐怖に目を瞑ったけど、一向にそんなの訪れなくて恐る恐る目を開ける。そこにいたのはミナミだった。私はミナミに抱えられているみたい。

 

「シオンちゃん!大丈夫ですか!!」

 

「…ぁ…」

 

 わ。すごい形相だ。折角の美人が台無し。心配で心配でたまりませんって顔に書いてある。そんな顔じゃなくって、もっとこういつもどおりのほうが素敵なんだけどな。

 

「ミナミ、ちょっと看せて!」

 

「大丈夫かシオン!」

 

 二人も大慌てだ。なんでそんなに慌ててるのだろう。ちょっと可笑しいや。言うことを聞かない腕を持ち上げてミナミの頬を撫でる。

 びっくりしたみたいで、険しかった顔がちょっと緩む。そうそうその顔。

 

「これは酔ってるだけ…みたい。後遺症とかも起きないと思う」

 

「そうかよかった…まさか匂いだけで酔うとは思わなかったよ」

 

「ごめんなさい。怖い思いさせました…」

 

 ミナミにぎゅっと抱きしめられる。あついし苦しい。

 それにあたまのふらふらもつよくなってきた。ねむたいな。

 せっかくみんなでビーチに来たのに、私だけおねむなのはちょっと気が引ける。でも眠たいものはねむたい。

 

 この際ちょっと休憩させてもらおう。

 おやすみなさい。

 

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