TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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私の好きな人

 

 私こと鈴木ミナミにとって彼女との出会いは、そこまで劇的なものではなかった。

 

 高校の同じクラスの子。びっくりするほど小柄で小動物みたいなかわいい子。でもぜんぜん目立たないし、目立ちたがらない。

 いつも教室のすみっこでイヤホンをつけていて、たまに何考えてるのかよくわからないぼーっとした顔で私達を眺めていた。

 

 多少変わった子ではあったけど、それ以上でもそれ以下でもないただのクラスメイト。それが柊シオンに対する私の率直な認識だった。

 

 それが覆ったのがこの間の事件だった。

 

 あのヤヤカが狙われた奇襲のとき、私は何もできなかった。まるで気付かなかったし、気付いても反応できなかっただろう。

 

 あそこで動いていたのは正に柊シオンただ一人だった。あの子はたった1人で私達を守った。

 

 あの小さな背中を覚えている。

 槍を振りかざして割り込んだあの険しい表情を覚えている。

 敵わないと知ってなお挑むその決意を覚えている。

 その身を顧みない捨て身の献身を覚えている。

 

 かっこよかった。

 彼女はヒーローだった。

 

 不覚にもときめいてしまった。

 

 でもそんなヒーローであるシオンちゃんは、どこまでもか弱い女の子でもあった。

 

 傷だらけで目を覚まさない彼女の肩を抱いて、その小ささに驚いた。きっとヤヤカが光魔法で治していなければ生活に支障が出ていただろう。彼女のとった自爆という選択はそれだけの危険を孕んでいた。

 

 ただのクラスメイトに過ぎない私達のために、身体を張ってしまう女の子。

 

 シオンちゃんは強い子だ。

 人のために戦うというのはとても難しい。同じことをできる人間なんて、私は他にホムラとヤヤカしか知らない。

 

 でもシオンちゃんはとても弱い。

 例えば私がその気になったら、なんの抵抗も許さずに取り押さえられるだろう。実際この間模擬戦をしてみたが、あっという間に拘束してしまえた。

 

 多分私はそのギャップにやられてしまったんだと思う。

 

 あるいはシオンちゃんに対して、初恋の人であるホムラに似たものを嗅ぎ取ってしまったからかもしれない。

 

 自分の身を顧みず、誰かのために戦えてしまう子。

 放っておけない。

 叶うなら誰にも渡したくない。

 

 私のものにしてしまいたい。

 

 …正直なところ、私は私の感情がわからない。

 この柊シオンという少女に対して抱いている感情はなんなのか、名前をつけられない。

 独占欲、庇護欲、劣情、親愛。

 色んな名前が候補になる。

 でもきっとそれらの全てであってどれでもない。

 

 私はきっとシオンちゃんの全てがほしいのだ。身も心も全て私のものにしてしまいたい。

 でもそれは強引であってはだめなのだ。

 

 ありのままのシオンちゃんが、ありのままの私を好きになってほしい。そうでなくては意味がない。

 

 だから、()()()()のはよくない。

 

 自戒自戒。

 

 気をしっかり持たないと。

 

 なにせ今、私のベッドでシオンちゃんがすやすやと寝息を立てている。

 

 やっぱり同衾はやめたほうが良かったかも。

 このまま手籠めにしちゃえばって私の中の悪魔が囁いている。私の中の天使は据え膳食わぬはうんぬんとささやき出した。

 

 だめだだめだ。

 煩悩退散。煩悩退散。

 

 だってぜんぜん据え膳じゃない。

 

 今のシオンちゃんは、海辺で退治した怪異によって酔っ払い眠りこけてしまっただけなのだから。

 

◇◆◇

 

 ベッドから抜け出してエアコンの温度を一度下げる。きっと外は蒸し暑いだろう。

 締め切った窓の内側は、いつもより少し速いシオンちゃんの息遣いだけが響く。

 

 ベッドライトの灯りを頼りに椅子に腰掛ける。シオンちゃんの無防備な顔はちょっと赤い。まだアルコールが抜けきっていないのだろう。時折居心地悪そうに身じろぎしている。

 

 思い返してみれば、今日の怪異は危険極まりないものだった。

 強いわけではなかった。ただただタフで面倒なだけ。多分幼馴染二人は今もそう思っているのだろう。

 

 でも違うのだ。あの触手は明確にシオンちゃんを汚そうとしていた。触手で締め上げて粘液で自由を奪って、そしてあろうことか――

 

「…ん…」

 

 シオンちゃんが寝返りをうって、かけ布団がずれ落ちる。今着せている私の予備のパジャマはサイズがどうしても合わずに色々はだけている。

 

 これはよくない。エアコンは寒すぎるくらいに効かせているのだから、風邪をひいてしまう。掛け布団の位置を直す。

 

 シオンちゃんの体にはところどころ鬱血した痕がある。手首足首、脇腹、ふともも、お尻。触手に絡みつかれていた場所だ。大事に至る前に怪異は消し飛ばしたのだが、どうしてもその時の光景が脳裏をよぎって仕方ない。

 

 あの時は本当に怒っていた。あそこまで怒りを感じたのは生まれてはじめてだった気がする。もうブチギレだ。

 

 酒精に濁った虚ろな瞳で、シオンちゃんは確かに助けを求めていた。

 

 気付いたときには私は必殺技を撃っていて怪異は消し炭。その場には粘液でベトベトになったシオンちゃんだけが残されていた。そしてすぐに酔いつぶれて寝てしまった。

 

 あのあと海の家でシャワーを借りて、念入りに粘液を洗い流してあげたところ、ときおり目を覚ましてはいた。しかし要領を得ないことをむにゃむにゃつぶやいたり、トイレに行くなどしたあと再び寝こけてしまった。

 

 できれば家に返してあげたかったのだが、あいにくシオンちゃんは一人暮らし。眠りこけたまま一人にすることはできないので私が家で一晩保護することになったのだ。

 

「…ん…ぅ…」

 

 またシオンちゃんがもぞもぞと身じろぎ。顔にかかっていた髪を横に流してあげたらすぐに落ち着いた。いつものジトっとした目は鳴りを潜め可愛らしい寝顔を晒している。

 

 無防備だ。

 

 今に始まったことではないが、シオンちゃんは無防備だ。自分に無頓着であると言ってもいい。

 

 別に害意に対して無頓着というわけではない。敵意の類には誰よりも敏感に反応している節すらある。しかしこれが好意となると途端に鈍感になる。この朴念仁め。

 

「私がどういう目で見てるかなんて、知らないんでしょうね」

 

 当人が気づいていないし、私もまだ告げていない。いつかシオンちゃんに告白できる日を夢見て、地道にアプローチをしかけていくほかないだろう。

 

 むにむにと頬を弄りながら呟く。起きる気配はない。あまつさえ頬を手に擦り寄せてきた。

 

 そういう思わせぶりなことされると勘違いしちゃうぞ。

 

 

 効きすぎたエアコンで流石に体が冷えてきた。私も早く寝よう。

 

 先客のいるベッドに潜り込んで布団をかける。いつもの抱きまくらはクローゼットにしまっちゃった。もっといいものが目の前にあるからね。

 

 シオンちゃんの体は温かくて、冷房がガンガンに効いた部屋の中では丁度いい湯たんぽみたい。

 

 今日のシオンちゃんは一晩抱きまくらの刑。私の目の前でそんなノーガード晒した罰だと思ってほしい。

 

「…ん…」

 

 そんなことを考えてたら、シオンちゃんの方から抱きついてきた。そういうところですよ。あまりにあざとい。

 いやわざとやってるわけじゃないんだろうけど、わざとじゃないことが余計駄目だ。

 

 今日落ち着いて寝れるかな…?

 

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