TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました 作:不死浪シキ
「友達じゃない?」
「それ本当にシオンちゃんが言ったの?」
昨日言われたことをホムラとヤヤカに相談した。正直泣きそう。もしかしてシオンちゃんに嫌われてるのかもしれない。
「本当に言われました。き、嫌われちゃったんでしょうか…」
「えーいや、それだけはないと思うよ?」
ヤヤカの慰めが身に染みる。
昨日シオンちゃんから友達じゃない発言を頂いたあとの記憶は曖昧だ。ショックが強すぎたからだ。
確かお昼前には乾いた服に着替えて帰っちゃった気がする。今度お礼させてほしいって言ってたっけ。
「私、ちょっと馴れ馴れし過ぎたんでしょうか」
「いやいつも満更でもなさそうな顔してたでしょ、あの子」
「で、でも友達じゃないって言ってて、やっぱりそれって私のこと嫌がってるってことじゃ…」
自分で言ってて悲しくなってきてしまった。言葉も尻すぼみ。
そしたら腕を組んで難しそうな顔をしていたホムラがくちを開いた。
「シオンは嫌がってるわけじゃないぞ」
「そ、そうでしょうか…」
「というかそもそもの話、シオンがわざわざ友達じゃないって言うこと自体違和感あるだろ」
それは、たしかにある。
「アイツ人を傷つけることは絶対喋らないからな」
「じゃあアレも傷つけるつもりなく喋ったってこと?」
「そうだと思う」
シオンちゃんは優しい子だ。例え不満があったとしても絶対に口に出そうとしない。仮に出すときでも、相手を傷つけかねない話だけは絶対にしない。
「なあシオンはどんな顔して喋ってたんだ?」
「えーと、思い返してみれば、なんだか諦めてるというかなにか嘲っているような雰囲気がありました」
「じゃあそれだ」
「それというと?」
「諦めだよ。ミナミと友達になりたくないとかじゃなくって、シオンが友達になるのを諦めてるんだ」
それはどうしてだろうか。友達になるのを諦めている?
私の疑問を汲み取ったのだろうホムラが話を続ける。
「少し話は逸れるんだけどさ、前から疑問ではあったんだよ。シオンって赤の他人である俺たちのために身体張ってくれたよな」
「そうだね」
「私達、あのときはただのクラスメイトでしかなかったのに、助けてくれたんですよね」
「だな。でもその赤の他人ってところがおかしいんじゃないかと思うんだ」
コトリとグラスの氷が落ちる。ホムラは真剣な目をしたままだ。
「あのさ、本当に見ず知らずの赤の他人のために身体張る人間がさ。高校に入るまで全くの無名なんてことあり得るのか?」
「…それは、そうですね」
「そういえば私達、小中学校のころやんちゃしてたから結構有名人になっちゃったもんね」
「そうだろ? じゃあシオンだって多少知られててもおかしくないだろ。そのはずなのに誰一人シオンのことを知らなかった」
たしかにそうだ。
シオンちゃんが、ホムラのように誰彼構わず助けようとする人ならもっと有名になってないとおかしいはずなのだ。
「じゃあこう考えたほうが自然だ。俺たち三人は、シオンにとって特別な存在なんじゃないか?」
「…特別って?」
「さあな。でも俺たちわりと有名なわけだし、どこかで知られてたんだろう。そして仮にそうだとしたら、俺たちと友達じゃないっていうのも意味合いが変わるんじゃないか?」
「小中学校の頃はやらなかった無茶を、やってしまうほど特別な相手。そういう人と友達になりたくない理由があるとしたら」
「…自分じゃ畏れ多くてなれない、みたいな感じですか?」
「まあそれが一番妥当なんじゃないか? 自分たちで自分のことを特別って言ってるのかなり恥ずかしいが」
なるほど。
そういう考え方もあるのか。
たしかにもしその通りならシオンちゃんの表情にも説明がつく。何かを嘲るような寂しい顔は、その実自嘲の類だったのかもしれない。
というかホムラはそういう話になると、いきなり聡明になる。
その聡明さをもっと恋愛方面でも発揮できればいいと思う。
「でも実際のところシオンちゃんがどう思ってるのかわかりませんよね」
「そりゃそうだ。そういうのは直接本人に聞かないとわからないからな」
「そういえば私達、全然シオンちゃんのこと知らないね。小中学校の頃の話とか、趣味とか家族さんとか」
たしかにそうだ。
本人が自分から語ろうとしないから今までスルーしてきたけど、私達全然シオンちゃんのこと知らない。
「じゃあそれもまとめて調べちまえばいいんじゃないか?」
「どうやってですか?」
「うーん、そうだな。じゃあこんなのでどうだ?」
そうしてホムラはシオンちゃんのことよく知ろう計画について語りだした。
◇◆◇
あれから数日後。私達は相も変わらずファミレスにいた。反省会兼今後の怪異対策会議のためだ。
「…家にくるの…?」
「そうです。たまにはいつもと違う場所でやるのもよくないですか?」
「…なにもないよ…?」
私から提案してシオンちゃんのお家に行くことにした。聞くところによれば、シオンちゃんは一人暮らししているらしいし、突然行っても大丈夫だろう。それに家にいったらシオンちゃんの生活も知ることができるかもしれない。
ホムラとヤヤカにもあらかじめその旨を伝えてある。ヤヤカは携帯ゲームを持ってきているみたいだし、完全に遊ぶ気マンマンだ。
というか元はと言えば全部ホムラの入れ知恵だ。人の部屋には個性が出るから、人となりを知るには丁度いいらしい。それに思い出の品なんかを話題にあげて昔の話を聞ければもっといいとのこと。
そして私たちはシオンちゃんの家に向けて歩き出した。
◇◆◇
シオンちゃんの家はアパートの一室だった。間取りは1LDKだろうか。なんだか一人で暮らすにはちょっと大きめな感じ。
そしてなにより印象的なのが生活感のなさ。まるでつい最近引っ越してきたような具合で、モノが全然ない。
テーブル、教科書類、カバン、スマホの充電器。部屋の中にあるものはすぐに数え終えてしまいそうなほどに少ない。
「シオンちゃんって下宿だっけ? こっちには来たばかりな感じ?」
それならこの生活感のなさにも納得かなと思ったけど、シオンちゃんはふるふると首を横に振っている。
「…実家…ここ…」
「実家、ですか」
にわかには信じがたい。
だって、ここが実家? 人なんて住んでなさそうなくらいの雰囲気のここが?
それにシオンちゃんは一人暮らしだと聞いてる。
実家で一人暮らしとは、どういうことだろう。
なにか複雑な家庭環境の雰囲気を感じてしまう。
「…聞く?…昔の話…」
「言いたくなければ大丈夫ですよ。でももし教えてくれるなら嬉しいです」
「…おもしろい話じゃ…ないよ?」
「それでもです」
「…わかった…」
ピッと音を立ててエアコンの電源が入る。28℃だった設定温度を何℃か下げていく。
道すがら買ったお菓子とジュースを用意して、私達はシオンちゃんが語りだすのを待った。