TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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チョロい人間は甘やかしておけばすぐ墜ちる

 ミナミの家にお泊りして一週間近く経つが、由々しき問題が発生していた。

 

 居心地が良すぎるのだ。

 

「シオンちゃんの髪さらさらしてていいですね」

 

 今は風呂上がりに髪を乾かしてもらっている。ドライヤーでぶわーって感じに。

 

 いやーこれは甘やかされてる。お世話されてるって感じがして大変やばい。このままじゃ堕落しそう。

 

 ドライヤーなんていつもhighで適当に使ってたから、lowで時間かけて乾かすなんて初めてだ。というか人にやってもらうのは気持ちいいな。頭撫でられているみたいでちょっと気恥ずかしいが、心地良い。

 

「はい、いいですよ」

 

「…ん…ありがと…」

 

 そんなことしてくれるミナミも風呂を上がって寝間着に着替えたあとだ。石鹸とシャンプーのいい香りが漂ってる。火照っているのか顔も少し紅潮していてセクシーだ。たぶん写真に収めたら高値で売れる。やらんけど。

 

 一緒に風呂に入ろうという誘いは丁重にお断りした。これでも前世は男。JKと風呂に入ることに浪漫を感じないわけではないが、流石に良心が咎める。

 

 男は狼という例に漏れず、私の心はウルフだ。変な気を起こしたりしないように自衛していかないといけない。こんなにお世話になっているミナミに、下心を持って接したら罰が当たりそうだしね。

 

「またマッサージしてあげましょうか?」

 

「…ん…今日は大丈夫…」

 

 ミナミは原作の頃からオカン気質が強い子だった。なんというか世話焼きなのだ。私の外見が子供っぽいのが琴線に触れているのかもしれないが、やたら世話を焼かれる。

 

 お泊り初日はマッサージなんかされてとんでもないことになった。あんまりにも気持ちいいものだから完全に前後不覚になったし、そのまま寝落ちしてしまった。整体でもかじっているのだろうか。ミナミのマッサージには要警戒だ。ぐでぐでに溶かされてしまう。

 

 それにしてもミナミ宅の居心地のよさは半端じゃない。部屋は広いし、ミナミの作るご飯は美味しい。あー堕落しそう。というかもうしてる気がする。

 

 ちょっとだけ泊まって、あとは肌に合いませんでしたごめんなさいって出ていくつもりだったのに、出ていく気になれない。むしろこここそ私の魂の実家だったのかもしれないってくらい住心地がいい。

 

「それでシオンちゃんは今後どうします? ウチで住みませんか?」

 

「…うーん…」

 

 ひょいと抱えられて着地したのはミナミの膝の上。お腹に回された手でがっちりホールドされてしまった。湯上り後の体温が伝わってきてあったかい。

 

 ミナミはなにやら私をぬいぐるみと勘違いしているらしく、最近よくこういうことをするようになった。女の子っぽくて私はアリだと思います。解釈の一致を感じる。

 

 どうせなら私じゃなくて、部屋の隅っこにおいてある滅茶苦茶デカいクマのぬいぐるみを抱えればいいんじゃないかと思わないでもない。絵的に映えそう。アレ抱いてるところ見たいな。

 

 まあ私は部屋のエアコンが効きすぎていて寒かったので、このぬくもりが丁度よく感じる。

 

 冷房の温度をあげないかと聞いても、ミナミはこれくらいがいいらしい。気持ちはわかる。ガンガンにかけた冷房のなかで布団に潜ったりするのは最高だからね。炬燵でアイスを食べるような感覚だ。

 

「私はシオンちゃんがウチに来てくれたほうが、寂しくなくて嬉しいんですよね。もしあのアパートに行っちゃったら寂しすぎて泣いてしまうかもしれません」

 

「…冗談が…へた…」

 

「冗談じゃないですよ。そういうこと言う人にはこうです!」

 

「…っ…!?」

 

 素直な感想だったのだが、ちょっと怒らせてしまったかもしれない。くすぐるのはやめてください。あっ脇腹はだめ。そこ弱い。うなじもだめです。うそ、ぜんぶだめ。

 

「…ぁ…ぇ…!?」

 

「正直なところ寂しかったんですよね。こんなに大きな家でたった一人だったので」

 

「…まっ…やめ…」

 

「シオンちゃんの前で言うのも失礼な話ですけど、ウチの両親は海外にいて全然帰ってこないんですよね。ずーっと一人ぼっちです」

 

 手を止めてから喋ってください。こっちは擽ったくてそれどころじゃない。ふぎゃー! こういうとき自分の非力が恨めしい。全然逃げ出せない。

 

「あ、ごめんなさい。シオンちゃんはくすぐったがりさんでしたもんね」

 

「…ふーっ…ふーっ…」

 

 やっと解放してくれた。いや、まだ膝の上だがくすぐる手は止めてくれた。抗議の意味を込めて背後を振り返ったが、ミナミの顔に反省の色は見えない。くすくすと笑っている。

 

 最近ミナミのスキンシップが激しい。推しの子の一人と親密な仲になれているっていうのは正直役得だし、嬉しいと感じるところもある。でも擽るのはナシだ。前世に比べて感覚が鋭敏なので私にはよく効く。こんなことが頻繁にあったらそのうち酸欠で死ぬかもしれない。

 

「それで、どうですか? シオンちゃんさえよければ一緒に暮らしませんか?」

 

 正直に言えば、一緒に暮らすのはアリだと思っている。

 

 よくよく考えてみれば、ミナミの好きな人が何者なのか調べるなら同棲できるこの状況は非常に有利だ。好きな人いるのにクラスメイトとシェアハウスなんてしている現状に、強烈な違和感があるがまあそういうこともあるだろう。

 

 これだけ密着して生活していれば、多少は好きな人の情報だって仕入れられそうだからね。

 

 あ、そうだ。今度ホムラにもミナミの好きな人について聞いてみるか。私よりもしかしたら情報握っているかもしれない。

 

 いやーこれでミナミの好きな人情報集めにも目処が立ちそうだ。

 

 別にミナミに甘やかされている生活に屈したわけじゃないよ。

 

 ほんとだよ。

 

「…わかった…いいよ…」

 

「本当ですか! 嬉しいです」

 

 ミナミは大喜びしている。私が一方的にお世話になっているだけなのに、なんだか申し訳ない気分だ。

 

 光熱費やら食費やらは折半だけど、家賃とか払ってるわけじゃないしこれじゃあ養ってもらってるようなもの。なにかしら他の手段でお礼をしないと。

 

 とは言っても私からできるお礼なんてたかが知れているのが困りどころ。

 

「…ありがと…お礼は…なんでもする…」

 

「え、それ本気(マジ)ですか?」

 

「…まじ…めっちゃまじ…」

 

 もちろんマジだ。こんなによくしてもらってるんだからいくらでもお礼はする。

 

 多少の無茶振りだってやってみせるつもりだしね。推しの子の一人からの要求ならむしろ役得だ。なんだってやるつもり。

 

「………じ、じゃあお礼は保留って方針で」

 

「…おっけー…なんでも言ってね…」

 

 でもなんだか変にプレッシャーをかけてしまったみたい。ミナミは長考の末、お礼の内容を保留にした。

 

 まあなんでもいいけどね。

 

 




補足になりますが、ベッドが一つしかないので同衾です。
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