TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました 作:不死浪シキ
夏休みの課題をさっさと終わらせようと、俺たちはまたミナミの家に集合した。課題をやったり、ゲームをしたりとグダグダと時間を過ごす。
そしたらミナミとヤヤカが席を離れている内に、シオンがなにやらちょいちょいと袖を引っ張ってきた。
珍しくシオンが俺一人に対して聞きたいことがあるようだ。
「どうしたんだ、なにかあったのか?」
「…うん…聞きたいこと…ある…」
そういえば最近になってシオンの雰囲気が少し変わったな。なんというか、ミナミに懐いているような気がする。
もともとミナミは積極的にスキンシップをとろうとしていたのだが、シオンは恥ずかしがってよく逃げていた。頭を撫でられそうになるとするりと逃げていく様子を、これまで何度も見てきた。
それが最近なくなってきたのだ。頭を撫でられても気にしないし、なんならミナミが膝をぽんぽんと叩いたらその上に座りに行くようになっている。まるで人に心を開くようになった猫みたいだ。
…その無防備さが、母親から得られなかった愛情の代償行為であろうことを、俺は理解している。シオンに自覚はない様子だがきっとそうなのだろう。こういう面において俺はやけに察しが良くなってしまう。
この前シオンの過去について本人から聞かせてもらったが、俺としては衝撃よりも「ああやっぱり」という納得が先行した。
前から気になってはいたのだ。
あのぽつぽつとした喋り方はなんなのだろうと。きっと幼い頃の精神的な外傷に由来している。
高校生らしからぬやけに小柄な体格はなぜなのだろう。多分成長期の栄養失調が原因だ。
なぜあんな自己犠牲を厭わないのだろう。おそらく家族に愛されなかった経験に基づく精神性が理由だ。
ああくそ。俺はこういう益体もない邪推ばかりしている。
シオンは今、幸せそうだ。ならそれでいい。過去は消えなくても未来の幸福を願えるのならきっとそれでいいはずだ。
いま必要ではない思考を意図的に無視する。
「なんだ? 何でも言ってくれ」
「…ん…その…」
妙に歯切れが悪い。シオンはきょろきょろとあたりを見回してミナミたちが帰ってこないことを確認すると、ようやく口を開いた。
「…いるんだって…」
「何がだ?」
「…ミナミに…その…好きな人…」
「…え、それマジ?」
ミナミに好きな人が?
にわかには信じがたい。
でもシオンはきっと嘘は言わないだろう。そしてその好きな人に心当たりがないかと聞きたいのだろう。
記憶を精査する。ミナミの好きな人。いや、どうだ? そんな人いるか?
…。
……。
………いやいるわ。一番それっぽいやつ。目の前にいるわ。
え、もしかしてそれシオンでは?
そういえば最近やけにシオンを気にかけていた。ミナミは誰にでも優しい人間だが、言い換えてみれば誰も特別扱いしないタイプだ。俺とヤヤカは幼馴染なぶん特別扱いではあったが。
そんなミナミが、やけに入れ込んでいるのがシオンだ。なんか今同棲しているし、やたら激しいスキンシップもシオン以外にやっているところを見たことない。
なるほど考えてみれば、シオンは俺たちのピンチを颯爽と救ったヒーローみたいなものだ。そのときに惚れてしまったなんてことももしかしたらあるのかもしれない。
思えばミナミはこれまで好きな男がいたなんて話は聞かなかったが、女の子を恋愛対象に見ているからなのかもしれない。そういう前提で考え直せば、今のミナミの行動もより理解できる。
アイツ、シオンを落とすつもりだ。性的に。
「…ない…?…心当たり…」
シオンの顔をまじまじと見る。最近になってようやくわかったが、シオンの顔は意外と雄弁だ。表情の変化はほぼないが、思っている事自体はすぐに顔に出る。
だからその捨てられた子犬みたいな顔も、よくわかってしまう。本人はきっと無自覚なのだろう。なんで自分がミナミの好きな人なんて気にしているのかよくわかってないまま、手当たりしだいに調べているに違いない。
「うーん、俺はよくわからないな。でもなんでシオンはそんなこと気になるんだ?」
「…なんで…なんでだろ…?」
案の定だ。
シオンは完全にミナミに絆されている。多分本人も自覚がないままに、ミナミのことを好きになっている。だから気になって仕方ないんだ。
まだシオンのなかで、その『好き』と『憧れ』がうまく区別ができていないのだ。シオンは昔の俺たちの活躍に対して、変に憧れを持ってしまったのが原因だ。自分の感情をうまく理解できていない。
ふーん。なんだこいつら相思相愛じゃん。
「まあ俺も気になるし、機会があったら調べてみるよ」
「…そう…ありがと…」
ちょっとそわそわしているシオン。この子は自虐がすぎる部分があるからきっとミナミも難儀するんだろうな。
◇◆◇
「ミナミ、ちょっといいか?」
「どうしたんですか?」
運良くミナミと二人きりになれたのでちょっと話をする。ミナミの好きな人についてはほぼほぼ確信しているが、念の為確認しておきたい。
「シオンから聞いたよ。好きな人がいるんだってな」
「あー、えっと、はい。いますね、好きな人」
「シオンだろ、好きな人」
「…なんでそういう察しの良さを自分の恋愛で発揮できないんですかね」
どうやらビンゴだったらしい。
「それならさっさと告白しちまえばいいんじゃないか? シオンも多分嫌がらないぞ」
「それができたら苦労しないですよ。シオンちゃんは自分の価値を低く見積もりすぎる子なので」
まあたしかに今のミナミが告白したところで、シオンは冗談だと思うだろう。アイツは愛されるということに慣れていない。愛されるだけの価値なんてないと思っているだろう。
「じゃあどうするつもりだ?」
「
「そうか、じゃあわからせてやってくれよ」
そうだ。シオンにはわかってもらう必要がある。自分は人から大切に思われている人間だとわかってもらわなくてはならない。自分を無価値だと判断しているその精神性を是正することがきっと必要だ。
そんなことを考えていたらミナミから反撃が飛んできた。
「というか、私のことばかりじゃなくってホムラもそろそろ恋愛と向き合うべきなんじゃないですか?」
「なんのことだ?」
内心ぎくりとしたが、とりあえずしらばっくれておく。
でもだめだった。
「あなたにも好きな人、いるでしょう? 私がわからないとでも思いますか?」
「…敵わないな。いつからわかってた?」
「ずーっと前からですよ。何年幼馴染やってきたと思ってるんですか」
…まあ、正直? 好きな人はいる。いるけどさぁ、なんというかそういうのちょっと怖い。
これまでの関係とか考えたら勇気が出ないし、なにより向こうにその気がなかったらと思うとぞっとする。
「ホムラもはやく答えを出したほうがいいと思いますよ。あの子もいろんな人から人気がありますからね。うかうかしていたらかっさらわれますよ?」
「耳が痛い話だな…」
うーん、そうだな。
たしかにそのとおりだ。
金髪の幼馴染を想う。湧き上がる感情の正体を俺は知っている。知っているくせに怖がって見ないふりを続けてきた。
俺も、自分の気持ちとそろそろ向かい合うべきときなのかもしれない。