TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました 作:不死浪シキ
なんだか最近ホムラが積極的だ。なんというか、言葉選びだったり行動だったりがヤヤカの好感度を意識したものになってる気がする。
この男、エロゲーの主人公なだけあって気遣いもできるし察しがいい。ついさっきも立ち上がり際にヤヤカの頭をぽんぽんと撫でていた。普通の人間にはそういうボディタッチはハードルが高いのだが、自然体でやってのけてしまうのは流石としか言いようがない。
つい最近まで一緒につるんでる悪ガキですみたいな雰囲気だったのが、急に甘酸っぱい感じになっている。これはホムヤヤカップル成立まで秒読みと見た。
聞くところによればミナミがホムラに発破をかけたらしい。うかうかしてると他の男に取られるぞって。よくやったミナミ。ナイスすぎる。
「そういえばもうすぐ夏祭りですね」
「あっそうそう! 花火もやるんでしょ、みんなで行こうよ!」
「そうだな。毎年行ってるし今年も行くか」
お、きたきた。夏祭りイベント。
ここで好感度が一定値を超えているヒロインと夏祭りにいくと、告白フェイズに入ることができたりする。とはいえ流石にホムラとヤヤカの関係はそこまで進行してなさそう。
まあそれでも一緒に祭りを楽しめば一気に距離も縮む。このイベントは見過ごせない。
「シオンちゃんは行ったことあります?」
「…ない…」
「じゃあ一緒に行きましょう。きっと楽しいですよ」
もちろん同行する。出歯亀根性丸出しなので、ホムラとヤヤカの雰囲気を存分に観察したい。早くくっつかないかなー。
「ところで浴衣とかって用意してますか?」
「…?…Tシャツでいいよ…」
「ダメです。絶対ダメ。今度一緒に選びましょう、わかりましたね? はいお返事」
「…えー…」
「着付けとかは手伝いますから、ね?」
「…はい…」
圧に押されて屈してしまった。浴衣とか興味ないしめんどくさいんだけど。でもミナミさんその笑顔はやめてください。なんだか怖い。
三人衆の浴衣姿には需要があるけど私のはいらんやろ。自分でも言うのはアレだけど、私は子どもっぽい外見だし似合う気がしない。似合ったところで私は別に嬉しくないし。
確かミナミは自前で浴衣持ってたし、ヤヤカも実家にあるんだったか。ホムラと私はレンタルになるのかな。こういうの用意したことないから全然わからない。いくらくらいかかるんだろ。
でも三人衆の夏祭りに一人だけTシャツ着た人間が混じってたら、せっかくの思い出が台無しになりそうな気がしないでもない。それなら浴衣着たほうがいいか。
なんなら私だけ夏祭りへの参加を見送った方が、みんなの思い出的にはよりいいんじゃないか?そう言おうと思ったけど、なんだかすごく怒られる予感がしてやめておいた。
まあ適当に浴衣を見繕っておくか。
◇◆◇
浴衣はミナミと一緒にレンタル店で探した。どれにしようかな神さまの言うとおりーって指差しで選ぼうとしたら滅茶苦茶叱られた。泣きそう。
というかミナミは自前で用意できてるのに、わざわざ私の浴衣選びに付いてきてくれたんだな。案の定あれやこれやと見繕ってもらうことになって随分時間がかかってしまった。
最終的には音符のマークがついた落ち着いた色合いのやつに決定。へー、浴衣って言ったら花柄のイメージだったんだけどこういうのもあるんだ。
そして夏祭りイベント当日を迎えた。
浴衣はミナミに着せてもらって、前髪にはヘアピンをつける。ピンとか持ってなかったけどミナミが貸してくれた。三日月の形をしたおそろいのやつだ。
足には下駄だ。スニーカーじゃだめだって予めダメ出しをされていたので仕方ない。これ歩きにくいな。
「ぬぐぐ、これなら落とせるでしょ!」
「おい、おいコラヤヤカ。流石にそれは大人気ないって」
夏祭り会場は人でごった返してるし、たくさんの屋台や出店があった。ヤヤカは早速射的で遊んでる。というかアレは身を乗り出し過ぎなのでは?
屋台の店長っぽい人もすごい苦笑いをしてる。ギリギリを責めた姿勢からヤヤカが引き金を引く。腑抜けた音を立てて飛び出したコルク弾は、お菓子の箱にぱこんと当たった。でも残念ながら落とすには至らなかった。
ムキーっと地団駄踏んでいるヤヤカは幾何学模様の水色の浴衣。爽やかで涼し気な印象だ。彼女の目立つ金髪と相まって、海外から旅行に来た外国人みたい。
ホムラはまあ普通に浴衣だ。野郎の着てるものなんてみんな気にしないでしょ。見るならやっぱり女の子だよね。
ミナミは黒地に三日月模様があしらわれた感じのだ。なんだが私の浴衣とデザインが似ているような気がしないでもない。いやよく考えたらミナミの浴衣は自前のなので、私のを選ぶときにミナミのやつに寄せられたのかな?
それにしても眼福だ。やっぱり可愛いね。胸の大きい人は和服が似合わないって聞いたことがあるような気がするけど、普通に二人とも綺麗だ。
ほら、ホムラもヤヤカに気の利いたこといいなよ。似合ってるよとか。
「それにしても、三人とも浴衣がよく似合ってるな。キレイだと思うぞ」
違うだろ。
ちゃんとヤヤカに面と向かって褒めなきゃ駄目だ。
範囲でくくって褒めてるんじゃ適当感は否めない。ヤヤカの好感度を狙い撃ちしなさい。
内心ぐぬぬって思ってたが態度には出さない。夏祭りはまだ始まったばかり。二人の距離を縮めるチャンスはまだまだある。
ということでホムラとヤヤカが二人っきりになれるように私も頑張るか。
ミナミの浴衣の袖をちょいちょいと引っ張る。伝わってくれ。
「…ミナミ…あれ…あれほしい…」
「うーんと、あれはりんご飴ですね。じゃあ買いますか?」
「…ちょっといってくる…」
「私もシオンちゃんについていきますね。二人は適当にぶらぶらしていてください」
うおーナイスミナミ!
ちゃんと私の意図が伝わっている。これでホムラとヤヤカは二人きり。
ミナミが二人の仲を応援しててくれるのが本当に助かる。
「シオンちゃん、人だかりではぐれないように手握っててもらえますか?」
「…うん…」
実のところ人波に攫われそうで困ってたので遠慮なく手を取る。これならうっかり押し流されそうになっても引っ張ってもらえるな。ミナミの腕力は見た目不相応に強いからね。
あと普通にりんご飴ってやつが昔から気になっていたので食べてみたい。
そうして私達は出店の前に並ぶのだった。