TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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邪な妄想が捗るけれど裏切りみたいなものだしやめたほうがいい

「どうです、おいしいですか?」

 

「…うん…」

 

 りんご飴なんて前世含めて初めて食べた。屋台で見かけることはあってもわざわざ買おうとは思わなかったからね。

 

 それにしてもこれはイケるな。飴の甘みと果実の酸味がいい。ちょっとばかりチープな感じもあるが、そこは夏祭りの思い出という補正で誤魔化そう。

 

 ミナミと私はそのまま焼きそばやフランクフルトなど、屋台の品物をちらほら買いながら周囲を散策した。

 

 ついでに立ち寄った神社に賽銭を放り込んでおく。何を奉ってるとかは全然知らないが、こういうのは雰囲気が大事なのだ。適当に「今みたいな日々がずっと続きますように」と祈っておいた。

 

 私が入れたのは5円玉。ミナミは115円入れたらしい。なにかの願掛けかな。115円(いいご縁)がありますようにってことだろうか。

 

「ちょっと待って下さい」

 

「…なに…?」

 

「下駄脱いで足見せてください。左足です」

 

 うへ、バレてた。

 

 ベンチに連れて行かれて足を見られる。少し赤くなっていた。

 

 そうなのだ。実はしばらく前から親指と人差し指の間が擦れて痛かった。靴ずれってやつだ。我慢して歩いてたつもりだったのだが見破られてしまった。

 

「ごめんなさい、気付かなくって。絆創膏と消毒液はあるのでちょっと手当します」

 

「…いいよ…大丈夫…」

 

「ダメです、はいちょっとヒリヒリしますよ」

 

 消毒液がヒリヒリすることより、足を触られててくすぐったいことの方が個人的には問題なのだが。変な声出そう。出ないけど。

 

「サンダルとか用意してないですし、ここからは私がおんぶしていきますね」

 

「…大丈夫…」

 

「大丈夫じゃないです。遠慮しないでほら」

 

 ミナミは異能持ちなだけあって、やろうと思えば信じられないほどの身体能力を発揮できる。それなら私一人くらい軽々背負えるだろう。

 

 でもそれはそれとして迷惑をかけることに変わりないし、なにより恥ずかしいのだが。

 

 硬直している間に、目の前にしゃがみこまれてしまったのであとに引けなくなってしまった。しぶしぶ体重を預ける。身体を離していたらバランスが取りにくいと怒られてしまった。ちゃんと密着しないと。

 

 顔を近づけたところから香るミナミの匂い。なんで女の子ってこんないい匂いするんだろう。同じシャンプーとボディソープ使ってるはずなのに私とは違う香り。

 

「うーん、そろそろ花火が始まる頃ですね。景観がいいところがあるんで移動しておきますか?」

 

「…うん…」

 

 背負われたまま進む。

 周囲の目線が痛い。なんだが微笑ましいものを見守ってる感じの生温かい視線だ。

 

 ホムラとヤヤカにはメッセージを送っておく。そろそろ花火だぞと。でもなかなか既読がつかない。メッセージを確認することさえしないあたり、二人ともいい感じの雰囲気だったりするのかもしれない。これはいいぞ。

 

 そうして到着したのは堤防。ようやく背中からおろしてもらえた。その斜面にミナミがビニールシートを敷いて座り込む。私もその隣に失礼する。

 

 ふと見回した周囲に見慣れた顔。ちょっと遠くに座っている人影に見覚えを感じる。

 

「…ねえ…アレ…」

 

「ホムラたちですね。随分仲が良さそうです」

 

 ホムラとヤヤカが談笑していた。こちらに気づいた様子はない。そして二人ともなんかいつもより親しげ。まるで恋人どうしみたい。もしかして私が思ってたよりも進んだ関係になってらっしゃる?

 

「そこまでではないと思いますよ。ほら二人とも照れが見えますし」

 

「…そう…?」

 

 よくわからないな。私にはもう二人が付き合ってますって言われても信じてしまいそう。うーん恋愛経験ゼロの私じゃ理解が難しいぞ。

 

 でも幼馴染のミナミの目から見てそうなのなら、きっとそうなのだろう。いつ二人は告白やらするんだろうな。相思相愛っぽいのはもう見ただけでわかるので早く付き合ってほしい。

 

 ドン、と太鼓を叩いたような音が響いた。

 

 ふと見上げれば大輪の花。

 

 夜空を華やかに彩る色とりどりの花火だ。

 

「始まりましたね」

 

「…うん…」

 

「綺麗ですね」

 

「…うん…」

 

 祭り囃子のBGMと周囲の観客の声が響く。

 

 左手になにかが重ねられる感触。ミナミの手だ。座ってるからはぐれる心配なんてする必要はないのだが、まあいいか。

 

 視線を上げる。

 ミナミの横顔は花火に照らされてぞっとするほど美しい。

 

 そしたら花火そっちのけで顔を見つめていたのがバレたらしく、目があってしまう。はにかんだように笑っていた。

 

 私は呆けたような顔をしていたと思う。ゲーム内でミナミルートを進めていたときの初めての感動に近いものを感じていたからだ。

 

 その屈託ない笑顔を見るのがなんだかいたたまれないような気がする。

 

 それは私に向けられるべきものではないと思う。

 

「…綺麗ですね」

 

「…うん…」

 

 目をそらしたのは私から。

 さっきも聞いたような言葉に同じような態度で返す。

 

 そうだ、ホムラたちはどうだろう。

 

 見たところいい感じの雰囲気だ。二人とも顔を赤らめて花火を見ている。ヤヤカの手の上にはホムラの手が重ねられているようだ。もうあれ恋人同士じゃん。その距離感はもう付き合ってるでしょ。

 

「…二人とも…仲良さそう…」

 

「そうですね」

 

 なんとなく、自分の手元に目線を戻した。

 私の手の上にはミナミの手が重なっている。

 

 ホムラたちを見る。

 ヤヤカの手の上にはホムラの手が重なっている。

 

 ふとそれらの二つが、なんだかよく似ているように思ってしまった。

 

 その所作は、恋人同士みたいだななんて思った。

 

 もし私がミナミの恋人だったらと、ほんの少しだけ考えてしまった。

 

 脳内をゲームの知識と映像が走馬灯めいて巡る。テキスト、スチル、CGの記憶たち。

 

「…っ!」

 

「どうしました?」

 

 邪な想像をした。

 

 くそ、最悪の気分だ。

 

 ミナミは絶対()()()()つもりじゃない。それなのに、まるで自分が主人公の立場で、ヒロインと接しているかのような妄想をした。

 

 私はホムラみたいに優れた人間ではない。しかも肉体的には女だ。それなのにミナミに対して攻略しているヒロインであるかのような妄想をした。

 

 最悪だ。きっと顔が赤くなっている。

 

 よりにもよって私なんかが、ミナミルートの主人公であるかのような妄想が脳を過ぎった。彼女の好感度を稼いでヒロインとして付き合うという想像。

 

 許されるはずがない。

 

「…顔が赤いですよ、大丈夫ですか?」

 

「…うん…」

 

 心配そうに覗き込んでくる顔を見れない。まさかあなたでえっちな妄想をしましたなんて口が裂けても言えない。

 

 こっち見ないで。あと手も離して。

 

 顔の熱が引きそうにない。

 

 そうだ。よく似ていると思ったのだ。

 

 さっきのミナミの横顔は告白フェイズを終えたあとOKを返されたときの一枚絵にそっくりだった。

 

 いつまで私はゲーム気分なんだ。

 私は主人公のホムラじゃない。ただのモブにすぎないのに、なにを勘違いしてやがる。

 

 自分の中に芽生えた邪な感情を上手く処理できない。私も心は男だからね。女の子でえっちな妄想をすることだってある。でもミナミをその対象にしてはいけないだろう。こんなのバレたら間違いなく幻滅される。

 

「…何があったのか知りませんけど、ちょっと落ち着いてください」

 

「…ごめんなさい…」

 

「え、なにがですか?」

 

「…なんでもない…」

 

 いや、マジでごめんなさい。

 あなたの顔見てエロシーン思い出してごめんなさい。

 

 まあ私の最推しはヤヤカとはいえ、ミナミもまた推しの子だ。もちろん好き。likeというよりloveだ。尊いって感じ。

 

 そういう子と主人公よろしく手を重ねるのは、そりゃ妄想が捗ってしまう。捗っちゃだめだけど。こんなに良くしてもらっといて妄想のネタに使うなんて裏切りみたいなもんだ。自分で自分を殴りたい。

 

 ああもう、顔の熱がひかない。夏祭りに浮かれて暑くなったってことで誤魔化せないかな。

 

 花火が終わって再びおんぶされることになったとき、どうやら私の顔は茹でダコみたいに赤くなってたらしい。合流したホムラとヤヤカに心配されたり生温かい視線を向けられたりした。

 

 顔が赤かったら熱中症でも疑われそうだけどあんまりそういう心配はされなかった。なんでだろう。

 

 なんだか「あっ(察し)」って感じだった。何を察したんだお前ら。ちょっと答えてほしい。嘘、やっぱり答えないで。 

 

 そうやって私達の夏祭りは終わりを迎えた。

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