TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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少年の知る少女、振る舞いが人を規定する。

 

 

「流石はミナミだな、大活躍だったじゃないか」

 

「そ、そうですか……? えへへ」

 

「えーちょっと私はー?」 

 

「はいはいヤヤカもすごいすごい」

 

 俺こと烈火ホムラにとって今日という日は特別だった。

 

 なにしろ異能部入部しての初めての部員としての活動だったからだ。

 

 副部長先輩の占星系の異能によって、事前に判明していた地点で怪異を待ち構え撃滅したのがほんの数時間前。

 

 俺は持ち前の炎で、ミナミは類稀なる弓の才能で、ヤヤカは圧倒的な光魔法の暴力で怪異をなぎ払った。

 

 普段から体を鍛えている俺はともかく、引っ込み思案なミナミやどこか抜けたところのあるヤヤカまで、物怖じすることなく戦えたのはちょっと驚きだった。

 

 今日湧いた怪異は大したことないザコだったというのもあるが、まあ勝利は勝利だし、街のみんなの平和を守れたし、政府から支給される賃金で財布は潤うしで大成功だろう。

 

 帰りはどこかファミレスにでも寄って3人でご飯にしようかな。

 

「えーと私はホムラとヤヤカが好きなところにしよっかな」

 

「じゃあじゃあ隣街のステーキ屋行ってみたい!前から気になってたんだよね!!」

 

「ちょっと遠いけどまあいいか、近く通るバスあったし」

 

そんな浮かれた気分で帰路についていた俺たちだったが。途中で珍しい人物を見かけた。

 

「あっシオンちゃん! やっほー!」

 

「や…やっほ……?」

 

 バス停でバス待ちしている先客がいた。ヤヤカがやかましい声量で挨拶したものだから、完全に萎縮してる気がする。すごく小さい声で挨拶が返ってきた。

 

 シオンさん。確か同じクラスの子だ。いつもイヤホンをつけて一人でいる物静かな女の子。

 

 ちょっとびっくりするほど小柄で、何考えてるのかよくわからない顔をした人だ。

 

 えーっと、名字はなんだっけ?

 

 普段全くと言っていいほど関わりがないからとっさに出てこない。

 

「やあこんにちは。えっと……」

 

「柊シオンさん、ですよね?」

 

 ミナミの責めるような視線が痛い。同じクラスの子の名字を忘れてたわけなので甘んじて受け入れるけど。

 

 シオンさんはそんな俺の様子を気に留めた様子もなく、俺たち3人をまじまじと見ている。なんだろう、そんなに俺たちにぱっと見ただけでわかるような変なところあったりするのかな?

 

「こんなところで会うなんて奇遇だね! なにか用事でもあったの?」

 

 沈黙を嫌うヤヤカが矢継ぎ早に質問した。シオンさんはちょっと萎縮してる。ヤヤカは圧が強いのだ。小動物のように縮こまってしまったシオンさんがちょっとかわいいので許すが。

 

 ふと、シオンさんの雰囲気が変わった。

 

 なんだろう。言葉にしにくい。

 

 緊張しているのだろうか、張り詰めた様子。なにか切羽詰まった緊迫感のようなものを感じる。

 

「……ヤボ用…やらなきゃいけないこと…ある」

 

「やらなきゃいけないこと?」

 

 反応は、劇的だった。シオンさんが息を呑むのが見えた。

 

 悪寒がする。シオンさんが身構える様子につられて、俺も周囲を精査した。

 

 

 超高速でこちらに飛来する熱源を捉えた。

 

 

「……『展開』!!」

 

「わっ急にどうしたの!?」

 

「ッ! ヤヤカ危ない!」

 

 間に合わない。

 

 確信があった。

 

 気づくのが遅れたのだ。まさか警報を掻い潜って存在する怪異がいるなんて想定していなかった。

 

 己の油断と想定の甘さを呪う。

 

 間に合わない。間に合わない。間に合わない!

 

 俺では間に合わない!

 

 飛んでくるエネルギー弾は正確にヤヤカを狙っていた。

 

 展開を急ぐ。急ぐ。このままじゃ犠牲が出る。

 

 だめだ。どうしても時間が足りない。

 

 

 

 そんな中、間に合っていたのは。

 

 

 

「―――っくぅ…!」

 

 シオンさんだけだった。

 

 一瞬の間に展開を済ませて召喚した槍で、エネルギー弾を迎え撃った。

 

 いつも変わらないシオンさんの顔に、苦悶の表情が浮かぶ。

 

 足りていない。

 

 絶望的に異能の出力が足りていない。

 

 換装したコスチュームの至るところが形象崩壊を起こし、光る粒子に変わっていく。

 

 頼む、耐えてくれ。

 

 もう少し、もう少しで俺の展開が完了する。

 

 そうしたら加勢できる。すぐにでもエネルギー弾なんて弾き飛ばして、殲滅できる。俺ならきっとできるから、それまでの数瞬をどうか耐えてくれ!

 

 でも。

 

 どう見ても出力が不足している。

 

 押し込まれたシオンさんはその圧力に悲鳴のような呼気を吐き、槍による強引な防御は今にも突破されそう。

 

 間に合わないのか。

 

 俺は。

 

 頭の中で勝手に算盤が弾かれていく。

 

 エネルギー弾の出力を鑑みれば、俺もミナミもヤヤカも多分怪我を負うけれど命に関わるものではないだろう。だってこの位置関係なら光弾はまずシオンを捉える。彼女という肉の壁が俺たち3人を守ってしまう。

 

 だめだ。そんなの許してはいけない。

 

 くそっ!

 

 展開は完了していないが、強引に割り込むしかない。危険極まりない行為だが、このままではシオンさんの命が危ない!

 

 そう思っていた時だった。

 

「……ホムラ…くん…あとはおねがい」

 

 思わず聞き漏らしそうなほどか細い声だった。

 

「シオンさんなにを!?」

 

 次の瞬間、シオンさんは槍と兵装の全てを光へと変え目の前で爆発させた。爆風に煽られたエネルギー弾は空へと進路を変え、遥か彼方で爆発した。

 

 自爆だった。

 

 反動と至近距離で自身の爆風に巻き込まれたシオンさんの体が、力なく吹き飛ばされるのを視界の端で捉えた。

 

「きゃあ!」

 

「なに!!?」

 

 なんとか展開を終え、吹き飛ばされるシオンさんに追いつき抱きとめる。シオンさんが地面に叩きつけられるのはどうにか阻止できた。

 

 腕の中の小さな体を覗き込む。

 

 重症だ。

 

 至近距離でもろに自身の爆発に巻き込まれたのだ。至るところに怪我を作った痛々しい体を見る。

 

「ヤヤカ『展開』を! シオンさんの治癒を急げ!」

 

「―――っ! シオンちゃん!」

 

 光魔法のエキスパートであるヤヤカならまだ助けられる。

 

 軽い。あまりにも軽すぎる体。

 

 シオンさんの行動は謎めいていた。怪異による襲撃を予期していたかのような行動。

 

 わからない。

 どうやってこの奇襲を予測したのかわからない。

 なぜ一人で迎え撃とうとしたのかわからない。

 なぜ自分の危険を顧みず俺たちを助けてくれたのかわからない。

 何が目的でこんなことをしたのかわからない。

 

 でも二つだけ確かなことがある。

 

 一つは、彼女が身を挺してくれなければ今この場にいた誰かは死んでいた――それはきっと真っ先に狙われたヤヤカだったろう。

 

 もう一つ、俺は頼まれたということ。

 

 この奇襲を仕掛けてきた怪異を仕留めてほしいと頼まれた。

 

「ミナミ弓を頼めるか、援護がほしい。ヤヤカ、シオンさんを頼む。俺は向こうをやる」

 

「は、はい任せてください!」

 

「安心してシオンちゃんは私が全霊をかけて助けるから」

 

異能部1年としての活動、その延長戦が幕を開けた。

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