TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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他力本願

「数1数Aはこの前確認したし、あと現文と生物基礎のプリントもやってたよね」

 

「社会系のやつも軒並み終わってるし大丈夫そうだな」

 

 夏休みも終わりが近い。大量に出された課題のたぐいはとっくの昔に終わらせてある。むしろ昔過ぎてなにやったか覚えてないぞ。学期が始まってすぐに確認テストがあるから少し心配になってきた。

 

「あ、やべ。英単語の確認してなかった」

 

「テストは成績に含まれないからいいですけど、勉強して損はないですからね。今のうちにやっておきます?」

 

「うへぇ、やりたくねぇー」

 

 英単語といえば、ウチの高校では発音もチェックされるんだよな。私は大の苦手。口がうまく回らないのでカタカナ英語みたいな発音になってしまう。でぃすいずあぺん!

 

「シオンちゃんも練習しておきましょうか。特に発音のほう」

 

 め、めんどくさい。苦手なものは苦手なのでやっても仕方ないと思う。滑舌の問題はいかんともしがたい。

 

 それに拙い発音を聞かれるのも結構堪える。恥ずかしい。

 

 ここはなんとか話題をそらしておかないと。

 

「…それより…そろそろ時間…」

 

「時間ですか。うーん、まだだいぶ早い気はしますけどね」

 

「まあ早いに越したことはないんじゃねえの?」

 

「それもそうですね」

 

 やったぜ。発音練習からは逃げ出せた。

 

 そして時間というのはアレだ。怪異の出現時間のことだ。先輩によって予測された怪異の出現時間がそれなりに迫っていた。今回は一年生に出動要請が来ているので予め持ち場に移動しておく必要がある。

 

 ちなみに今日出現するのも雑魚ばかりだ。そのため私の実戦訓練の場として使ってもらえる。

 

 万が一ひとりで怪異と戦うことになった場合に備えて、できるだけ自衛能力は高めておこうとのことだ。私は体を動かすことも嫌いじゃないし、なによりミナミ達の足を引っ張るような事態を起こしたくないので鍛錬は喜んでやる。

 

 仮に私が怪異にボコボコにされたり捕まりでもしたら、皆悲しむんだろうなってことは最近薄々気づいてきたからね。たぶん再起不能にならない程度の軽い怪我とかしただけでも心配される。3人とも優しい人だから。

 

 ということで今日の目標は決まりだ。

 

 現れてくる雑魚を一人でも怪我なくあしらって、他の三人に倒してもらう。なんか消極的っぽく聞こえるかもしれないが、どうやら私の攻撃力では自力で怪異を倒すのが難しいみたいなので仕方ない。

 

 襲われたときも怪我なく時間稼ぎできるようになれば上出来というわけだ。

 

 そしておおよそ防御という点において、私の異能は特に力を発揮する。

 

 つまり今日の鍛錬は余裕ということだ。

 

◇◆◇

 

 音を聞く。

 予兆を聞く。

 

 私の音楽を聞く異能はある種の後出しジャンケンみたいなものだ。相手に先に攻撃を仕掛けさせ、その予兆を把握することで最適な防御を選択できる。

 

 小鬼の体当たり。動作に移る前に私はすでに半歩引いていた。

 

 棍棒の振り上げ。その先に私はいない。回避行動はとっくに終了している。

 

 小鬼の飛びかかり。槍の穂先でその出鼻をくじいている。刺し傷にはなっていないが打撲痕が顔に刻まれていた。

 

 相手が何をしてくるのかわかる。それが戦闘においてどれほどのアドバンテージを生むだろう。

 

 私の身体能力はホムラ達とは比べるのもおこがましいほどの差がある。それは単純な筋力に留まらず動体視力などもだ。

 

 しかしそこまで突飛な差が生まれない点があるとすれば、それは思考速度だ。異能持ちは一般人より思考が速いとされている。それでも個人差はそこまで大きくないのだ。

 

 ホムラ達の戦闘時の反応が異常に速いように見えるのは、単純に条件反射と天性の戦闘カンの賜物だ。特になにか深く考えたりしているわけではない。その思考速度は私と大差ないはずなのだ。

 

 だから、そこで勝負する。

 

 一般人を遥かに超越した思考速度を武器に、聞いた予兆から最適な防御手段を選択し実行に移す。私にはそれができる。

 

「…シオンちゃん、危なくなったら言ってくださいよ!」

 

「大丈夫だって。ほら囲まれないよう適当に間引いていくぞ」

 

「ミナミはちょっと過保護すぎるよ、ちょっと落ち着いて」

 

 少し離れたところで小鬼の群れをどっかんばっこんと吹き飛ばしている本物の超人たち。

 

 ああいうのと比べてしまえば私のこれは児戯そのもの。3人とも雲を割るとかそれくらいのことならやってしまうからね。一種の兵器だ。異能が一般人に危害を加えないようにできていて良かった。

 

 小鬼の目元にそよ風を送る。部長に使ったときは軽くあしらわれたのだが、この辺の小物相手なら結構有効だ。お前たちもドライアイにしてやる。

 

 怯んだ小鬼に槍を突きこむ。二股の槍が胸元に突き刺さり――いや刺さってないな。刺さってはないが衝撃に転倒してゴロゴロと転がっていった。

 

「おーやるね!」

 

「でもこのままじゃ囲まれちゃいますよ。ちょっと間引きます」

 

「いやミナミは過保護すぎるからな?」

 

 この前つぶやいたーのアカウントを取得して私の槍の評判について調べたことを思い出す。

 

 『音叉』『さすまた』『少なくとも槍ではない』『羽根のない扇風機』など散々な言われようだった。二度とつぶやいたーなんてやらん。

 

 離れた位置から弓の通常攻撃のSEがする。一段階チャージされた貫通性能のある攻撃だ。ワラワラとよってきていた小鬼の群れを間引くつもりらしい。

 

 直ぐ側まで近づいていた小鬼を貫く矢を見る。小鬼の喉元を貫通したあとは特になにか巻き込むわけでもない軌道だ。

 

 そこに槍を介入させる。イメージは矢の側面に絡めるように。

 

 巻き付くような槍の動作によって進路が大きく逸れる。キレイに直進していた矢が、錐揉するような不格好さで別の小鬼を貫いた。

 

 見た目以上の運動エネルギーを保有する重たい矢に肩が外れるかと思ったが、どうにか目論見通りにいった。自力で火力を出せないのでミナミの矢を使わせてもらった。

 

 ちょっとドヤ顔。

 

 どうよこれすごくない? 他力本願極まりないけど。

 

「おーすごいすごい!」

 

「…なんか珍しい顔してるな」

 

「可愛いでしょう?」

 

 まあ自衛の訓練はそこそこ上手く行ったしこれでいいでしょう。

 

 あとは皆さんお願いします。ちゃちゃっとぶっ飛ばしてください。

 

 私は観戦します。

 

 その後の怪異はミナミの放った必殺技で一掃された。

 

 いや羨ましいなー。私もあんな必殺技使ってみたい。

 

 いいなー。

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