TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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背中に乗ってふみふみするマッサージは子どもの特権

 最近ミナミが忙しそうにしてる。図書委員に任命されたところ早速仕事を押し付けられたそうだ。読書の秋ということで図書館のイベント用ポスターを制作している。

 

 私も手伝った。イラストを書くのは割と得意なので、ちょこちょこと絵を描き込んだ。

 

 でもポスターだけじゃなくて配布用の資料だったりも必要らしく、色々用意している。

 

 流石にそこまで手伝うのは、部外者である私にはできないし暇になってしまった。

 

 そう、暇なのだ。

 

 一人で暮らしていたときは別に暇であっても何も思わなかった。でも今はなんだか手持ち無沙汰で仕方ない。

 

「うーんとこんな感じでいいんでしょうか…」

 

 ノートPCでワードを開いていたミナミが独り言を言っている。そうやって作業ばかりしてるからちょっと寂しい。いつもみたいに構ってくれないのだ。

 

 ミナミはテーブルの前に座布団を敷いて座っている。あれではいつもの定位置に潜り込むことができない。なによりそんなところに座ったら画面が見えなくて邪魔になってしまう。それはよくない。

 

 そうして欲求不満な日々が続けば、流石に私も我慢の限界だ。

 

「…どうしたんですか、シオンちゃん」

 

「…なんでもない…」

 

 コアラみたいに背中にしがみつく。甘い香りと人肌の温もりを感じる。いつもはこれに包まれていたのだから、このままじゃ不足だ。ぐりぐり顔を押し付ける。

 

 私は何をしてるんだろう。

 

 最近、自分の感情と行動を制御できなくなっている。前までこんなことなかったのに。遅めの思春期だろうか。

 

 自分の感情を見つめ直せば漠然とした不安が横たわっている。不安。不安か。私は何が不安なのだろう。

 

 それはもちろん決まっている。

 

 ミナミの好きな人についてだ。

 

 ミナミには好きな人がいる。本人が言っていたので間違いない。仮にその人とミナミが付き合い始めたりでもしたら、私はどうなるのだろう。

 

 ミナミは外泊とかするのかな。もしそうなったら私はここで一人ってことだろうか。一人で過ごすのにこの部屋は大きすぎる。きっと寂しくなる。

 

 いやだなぁ。

 

 ミナミがどこぞの馬の骨とも知れないやつと付き合うなんて、認めたくない。でもミナミの恋路を邪魔するのはそれ以上にイヤ。

 

 あーもう泣きそう。推しの巣立ちがこんなに辛いなんて思わなかった。

 

「よし、終わりました。印刷は明日にします」

 

「…うん…」

 

「まったく、どうしちゃったんですか」

 

 いつまでも背中から離れなかったためか、引き剥がされてしまった。猫でも持ち上げるようにして運ばれた先はやっぱり膝の上。

 

 お腹に伸ばされた腕をしっかり抱え込んで離れないようにする。手を開かせてむにむにとマッサージする。さっきまで作業してたんだからそれの労いだ。

 

 細くて長い指だ。爪は綺麗に切りそろえられているし、肌にシミの一つもない。

 

 …やっぱりよくわからんやつにミナミを渡したくないな。心底そう思う。

 

「そろそろお風呂入りますか。いい時間ですし」

 

「…うん…」

 

 

◇◆◇

 

 

「…っ…」

 

「うーん、ちょっと凝ってますね。シオンちゃん猫背気味だから変な負荷かかってるんじゃないですか?」

 

 風呂上がりにミナミからマッサージをしてもらった。もとは私がミナミの作業の労いとして、足圧のマッサージをやってみたのだがそれのお返しらしい。

 

 私の体重は30キロ台だしミナミは超人なので、背中に乗ってふみふみしても全然大丈夫だった。コリをほぐすのに指圧したところで私の筋力じゃたかが知れてるしね。

 

 メインヒロインの背中を踏むという状況に言いようのない背徳感があったけど。

 

「このへんですかね?」

 

「…ぁぅ…」

 

 ミナミは普通に指圧だった。手のひら全体で肩甲骨の下あたりを押し込まれて変な声が出る。あー気持ちいい。

 

 背筋がぽきぽきと音を立てて姿勢が矯正されていく感覚。凝り固まっていた筋肉がほぐれてあるべき姿に戻っていく。

 

 するとゆったりと体重をかけるだけだった手付きが変化し始めた。全体をほぐすような圧力から、ピンボイントで狙撃するような圧迫へ。

 

 手がするりと背筋を撫であげ首のあたりで止まる。ぞわぞわと這い上がる言いしれない感覚に身震いしてしまう。ミナミの親指が狙いを定めていたのは後頭部と首の中間点。髪の生え際あたりだ。

 

 体のツボというのは概ね左右対称にあって、指圧もまた左右を同時に捉えることが多い。頭ごと掴むようにして指が押し込まれる。力はそこまで入っていない。だが首筋を下から押し上げるような圧迫に目の前がチカチカする。

 

「…く…ぅ…」

 

「痛かったら言ってくださいね?」

 

 首筋から順に肩へと手が下りていく。今度は首と肩の中間点。少しコリのある筋肉へと狙いをつけた指が、ぐりぐりとえぐり始める。

 

 強くはない。痛いわけでもない。ただ背筋を震わせるようなおびただしい激感が、肩から全身へ放射状に抜けていく。思わず身をよじっても指はぴたりと追いかけてきて離れる気配もない。飽きもせずえぐり込んでくる。

 

 声が出ない。

 

 あまりの感覚に悲鳴の一つでも上げてないか自分でも心配になるくらいだったが、漏れ出すのは掠れた音ばかり。あられもない声を出すよりかは万倍マシではあるものの、静止の声すらあげられないのはいささか不安ではある。

 

「ちょっとバンザイしてくださいね」

 

「…ん…」

 

 うつ伏せのまま腕を取られた。そのまま上の方に持ち上げられまさにバンザイの姿勢になる。抵抗しようとは思わなかった。これからしてもらえることがもたらす快感を、一度経験しているからだ。淡い期待が反骨心を削いでいた。

 

 腋窩に指が添えられる。ともすればくすぐったささえ感じる感触に息を呑めば、背中に跨るミナミがくすりと笑ったのに気付く。脇のくぼみを奥へとぐいぐい押し込まれる。痛みにも似た電流が背筋を走り、カッと頭が熱くなる。血流が促進されてじっとりと汗が滲んでくる。

 

「やっぱりここもですね」

 

「…ふ…ぅ…」

 

 指が外れ二の腕へと向かう。さっきまでの弱点を狙い撃つ圧迫が終わりやわらかく揉むだけになった。筋肉も脂肪も薄い二の腕がやわやわと揉み込まれる。

 

 完全にやりすぎでしょ。私の大雑把なマッサージなんかとは練度が全然違う。

 

 ミナミは今からでも整体師にでもなったほうがいいよ。これは金を取れるわ。なんなら今からでも払いたいくらい。

 

 いつの間にかピンと反り返っていた背中を脱力させる。迸る快感をどうにかやり過ごそうとした結果だった。よし、そろそろやめにしてもらおう。お返しにしてはもらい過ぎだし、これ以上は本当に骨抜きにされる。

 

 された経験があるのでこれは間違いない。

 

 ということでミナミさん、そろそろ背中から降りてもらえませんか?

 

「なに言ってるんですか。肩周りだけで終わるはずないでしょう」

 

「…ぇ…?」

 

「はい力抜いてください、あとは足腰をやってきますよ」

 

「…ぁふ…」

 

 しゅるりと寝間着の上を滑る手が、次の狙い所を捉えていた。静止の声を上げるべく肺に入れた大気があえなく漏れる。

 

 …え、まじでやる気?

 

 まあ私としてはイヤじゃないんだけどね。気持ちいいし。でもそれはそれとして私ばっかりやってもらってるのが気後れすると言いますか。あといよいよヤバくなったときに自力で抜け出せないのがちょっと恐ろしいと言いますか。

 

 だからこのへんでご遠慮したいんですが―――あぅ

 

 

 

◇◆◇

 

 骨抜きにされた。もう私の体はぐてぐでだ。

 

「…ぅ…」

 

 大変な目にあった。体のそこかしこがじんじんと熱を帯びて熱い。かといって不快な暑さかと言われるとそうでもない。体の内側からぽかぽかと温まって血行が良くなっているのを実感する。

 

 もはや一歩も動きたくない。執拗に揉みほぐされた腰背部、臀部、下腿、足裏は蕩けそうなほど心地良くてふわふわとしている。今立ち上がっても腰が抜けてしまいそう。

 

 特にあれがやばかった。腰と尻の間辺り、つまり仙骨付近を押し込まれたやつ。びりびりと爪先から脳天まで激感が走り抜け頭が真っ白になった。あうあうと情けない悲鳴が口から溢れるのを抑えられなくてとても恥ずかしい。あんなの反則でしょ。

 

 うつ伏せに突っ伏したまま動けない私をミナミが片手で撫でてくる。マッサージのつもりはないらしく、手持ち無沙汰を解消するために触ってきているだけのようだ。よかった。これ以上やられたらいよいよ頭がバカになってしまう。

 

「シオンちゃん、なにか食べたいものとかってあります?」

 

「………とくには…」

 

 ミナミがスマホ片手に話してくる。喋るのも億劫だったがどうにか返事だけはした。

 

 作業して疲れたであろうミナミを労うはずがどうしてこんなことに。肝心の当人をちらりと覗けばずいぶん楽しそうな顔をしている。心なしか顔もつやつやしてる気がする。

 

 あ、私の視線に気づいたミナミがこっち見た。なんだか悪戯っぽく笑うと首筋を撫でていた手つきが変わる。耳たぶを親指と人差指て挟んでこれみよがしに撫でまわされる。

 

 これはやばいぞと身を硬くしたところでくりくりともみ始めた。目の前で火花が散りぞりぞりと理性が削られていく音を幻聴した。どうにか逃れようとするが指に挟まれている以上逃げ場なんて当然ない。丹念に耳たぶを捏ね回されて頭がおかしくなりそう。

 

「…あぅ……ぅ…」

 

「ふ、ふふふ、シオンちゃんは本当に可愛いですね」

 

 やめろー!今はどこもかしこも敏感になっていて洒落にならない。て、手つきがイヤらしすぎる。へんたい。いや別にマッサージみたいなものなので変態扱いは完全に言いがかりだが。

 

 切羽詰まっている私の顔をわざわざ覗き込んで、ミナミが喋りだす。 

 

「そういえばシオンちゃんは週末暇ですか?」

 

「…ぁぇ…」

 

「もし暇だったら一緒にどこか出かけたいなって思ってまして」

 

「…ぁ…め…」

 

 こくこくと頷く。確かにその日は普通に暇だからだ。さっきからなにやら調べてたのも、もしかしたら外出先の情報かもしれないな。

 

「よかったです。あと、もう一つお願いなんですけど」

 

「…ん…」

 

 ミナミの手付きが緩んだ。少し余裕を取り戻した私に対して、ミナミはなにやら覚悟を決めたような顔をしている。なんだなんだ?

 

「その、帰ってきてからの夜、時間空けてもらっていいですか?」

 

「…なんで…?」

 

「えーっと、その日のお楽しみというかサプライズってことで」

 

 要領を得ないがなにやら秘密にしておきたいらしい。それにしてもわざわざ夜にも時間をとるのはなんでだろう。いつも休日夜なんてフリーだしあえてそんなことする理由がよくわからない。

 

 まあいいや。昔なんでもお願いをきくって約束してたし、断る理由もない。

 

「…いいよ…次の日も空いてるから…なんでもして…」

 

「そう、ですか。よかったです。ありがとうございます」

 

 もう少し話を聞けば、その日の外出にホムラとヤヤカは来ないらしい。私とのふたりきりという訳だ。なんかデートみたいだなって思った。

 

 まあそんなわけないけどね。

 

 ところでミナミさん。そろそろ手を離してくれませんか? あんまりそれやられてると頭が変になりそうなんです。

 

 え、だめ?

 

 そうですか…じゃあせめて優しくしてね…

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