TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました 作:不死浪シキ
目が覚めた。格子状の模様の天井と、吊り下げられた点滴の器具が目に入る。
息が詰まるような倦怠感。全身が重いし喉がイガイガする。とりあえず顔でも洗いたい気分。
「…あ! シオンちゃん起きた!」
視界に金髪美少女ことヤヤカさんがエントリーしてきてひっくり返りそうになった。もとより寝てたが。
「…あの…おはよ」
「うんおはよう! ちょっと待っててみんな呼んでくるから!」
バタバタと騒いで飛び出していくヤヤカさん。どうやらここは高校の医務室らしい。走らないでくださいと怒られてるのが聞こえてきた。
少ししたらナースとドクターがやってきて今の私について説明してくれた。
異能の展開中に自爆をしたところ、爆風に煽られて至るところに火傷、裂傷、打撲があったとのこと。ヤヤカさんの異能によって傷を治してもらわなければ痕が残ってたかもしれないと怒られた。
どうやら私は2日間寝込んでいたようで、その間の授業は出席停止扱いらしい。ホムラ、ヤヤカ、ミナミの幼馴染み三人衆はその間かわるがわる見舞いに来ていてくれたそうだ。
今後はこんなことしないようにとのお叱りの言葉を右から左へ受け流していると、医務室の外の廊下が少し騒がしくなった。ヤヤカさんが誰か連れてきたみたいだ。
「失礼しまーす!」
「同じく失礼します!」
「えへへ、こんにちは柊さん」
案の定幼馴染み三人衆だった。ドクターがお見舞いに来てくれてた人達だねと気を利かせ、席を外してくれるとのことだ。ホムラ達に友達にあんな無茶させてはいけないよと釘を刺して出ていった。
…もしかして私と三人衆は友達だと勘違いされてるのだろうか。クラスではいつも私が一方的に観察してるだけだし、ほとんど会話もしたことないんだけど。
そういえばホムラもヤヤカも私を下の名前で呼んでたから、普段から仲のいい関係だと思われたのだろうか。ふたりとも誰が相手でも下の名前で呼ぶ癖があるから勘違いさせてそうだ。
「…その…おはよ」
「シオンちゃんもうお昼だよ! あ、この椅子使っていい?」
「…どうぞ」
「そのシオンさん、体調はどう?」
「…問題…なし」
三人が椅子に腰掛けるのをぼーっとしながら眺める。座った皆はなぜか神妙な面持ちをしている。なにやら言いにくいことを言い出そうとしてるみたい。
最初に沈黙を破ったのはホムラだった。
「…シオンさん、俺たちを守ってくれてありがとう。シオンさんがいなかったらどうなってたか分からなかった。だからその本当にありがとう」
「…気に…しないで」
「ううんシオンちゃん気にするよ。あなたが身を挺して守ってくれなかったらきっと私は大変なことになってた。たぶん何もできずに死んでたんだと思う。いっぱいケガまで作ってそれでも助けてもらったんだから、もう感謝してもしきれないよ」
「私もお礼を言わせてください。あの時私はなにが起きたのか全然わからなくってなにもできなかった。柊さんが助けてくれたから、私達3人はこうして無事にいられました。本当にありがとうございました」
最後にホムラは自分たちにできることならお礼に何でもすると言ってきた。
…弱ったな。私としてはヤヤカルート見たさに身体を張ったわけで、要するに私利私欲のために動いただけなのだ。感謝されること自体は嬉しいけど、そこまで手放しにありがとうと連呼されると気が引けてしまう。
お礼の方はどうしよう。なんでもって言われたけど思いつかない。
ホムラとヤヤカに付き合ってくれって頼むか?
いやでも二人にはきちんとお互いの気持ちを伝え合い、恋心を育んでいった末のお付き合いをしてほしい。他人に頼まれたから恋人ごっこするのは解釈違いだ。この案は却下。
あ、でもそうだ。このままだとホムラにとっては幼馴染みが二人いるわけで、熾烈なヒロインポジの奪い合いが起きる可能性がある。一応ミナミちゃんはストーリー上で、ホムラとヤヤカがいい雰囲気になったらもとより身を引くつもりだったとの供述があるが、ヒロイン同士で争いが起きる可能性を否定できない。
それなら私がどうにかしてホムラとヤヤカの関係を取り持ち、ミナミのメンタルケアもできるようなポジションにつけたら解決ではないだろうか。そうだそれがいい。
そう私は恋のキューピッドになればいいのだ。
あとミナミのメンタルケアも行ってヤンデレ化も防ごう。ルート次第ではミナミはヤンデレヒロイン落ちすることがあるのだ。
できれば他ヒロインとくっついたホムラを後ろの方で腕組みしながらしたり顔で祝福するルート。つまり後方彼氏(彼女?)面しているミナミに仕立て上げれるように介入したい。
そうと決まれば話は早い。私を幼馴染み三人衆の近くに置かせてもらえばいいのだ。
「…お礼…なんでもいいって…言った?」
「ああ! 俺たちにできることならなんでもする」
「…じゃあ…私も入れて…異能部に」
「柊さん、それは…!」
それは危険だと言いたいのだろう。まあ確かに私の異能は貧弱極まりない。仮に『展開』を使った状態でホムラと模擬戦でもやらせてもらえば、デコピン一発で沈む自信がある。
これは私が弱いというよりは異能部に所属している連中がべらぼうに強いっていう点が大きいが。
でも納得してもらいたい。
一応交渉材料はあるのだ。
直接役に立つことは難しいが、索敵などには有用な異能が私にはある。
「…私の異能は…音を聞く異能」
「音を?」
「…私には雰囲気…動作の予兆が音楽として聞こえる」
「予兆が? それはアレかな。予知夢の音バージョンみたいな感じ?」
「そうかその予兆を聞く異能で、あの怪異の襲撃も予期していたんだな!」
「うん…だいたい…そんな感じ…でも…精度は…あんまりよくない」
「なるほど…不確実な予測だから誰にも相談せず、一人で対処しようとしてたってことね」
なにやら勝手にこちらの話を解釈して都合よく勘違いされている。
まあ奇襲は原作のイベント知ってたからですよーなんて言えるはずもない。まあBGMやSEを聞く異能の一環だと勘違いしてもらっておこう。
一人で対処しようとしてたのは単純に頼める相手がいなかったからだがまあいいや。
「でもやっぱり危ないよ」
「…いやよく考えてみろ。今回自爆までして俺たちを助けようとした人が、今後も似たようなことしない保証があるか?」
「そうねきっとここで入部を断っても、一人でまた誰かを助けようとしそうだわ」
「その時にシオンさんを守ってくれる人はいない。それくらいならいっそ異能部に入ってもらって俺たちがフォローしたほうが安全だと思わないか?」
「そっか…たしかにそうですね。このままだとなにするか分からないし、それなら入部してもらって首輪をつけちゃったほうがかえって安全かも」
「…首輪ってお前、流石に言い方がアレだぞ」
「私もアレだと思うよ!」
なにやら3人でひそひそ喋り始めた。
私は音に関わる異能持ちなだけあっての耳はいいぞ。聞こえてるからな首輪とかなんとか。お前たち私のことをなにしでかすか分からない爆弾の類だと思ってるだろ。
「わかったシオンさん。それなら俺たちから部長に掛け合ってみるよ」
「…シオン」
「え?」
「…さんは…つけなくて…いい」
「わかったよシオン」
「柊さん、私も下の名前で読んでいいかな?」
さん付けが少し煩わしかったので言ってみたら、ミナミもなんか乗っかってきた。原作だとかなりの引っ込み思案な子だったからちょっと驚いたけど、他人行儀な名字呼びよりは距離感が近くて嬉しい。
人との交流はあんまり好きじゃないが、原作の有名キャラなら話は別だ。有名人とちょっとお近づきになれたような優越感がある。
「…もちろん」
「じゃあ決まりだな! 後で必要な書類とか授業のプリントは届けるから待っててくれ!」
「体に気をつけてね! 私が見たところ大丈夫そうだけどキミはまだ病み上がりだから!」
「私からも、お大事にしてください。一緒に『異能部』で活動できることを楽しみにしてます」
そう言って三人衆は医務室から出ていって私一人になった。
なんやかんやあったけどヤヤカの死亡シーンを回避できたし、二人を引っつけられるよう介入できそうなポジションにつけたのは大収穫だ。
あとはどうにかして二人が恋人になれるようにアシストするかと、ミナミが病むことなく二人を祝福できるかだ。
そのためには色々頑張らなくてはいけないだろう。
頑張れ柊シオン。私は恋のキューピッドになる!