TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました   作:不死浪シキ

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入部2

 やはり威圧感が凄まじい。作中最強の名は伊達ではない。ただ相対しているだけで尻尾巻いて逃げ出したくなる眼光だ。

 

 先程からこちらは穂先を動かしたり、距離を変えたりしているのだが、ヒサギ先輩は中段に構えたまま微動だにしない。

 

 

 これでは埒が明かないどころかいずれ私の集中力が保たなくなるだろう。なによりこれは私の力を先輩に見せるためのものなので、私から打ち込んでいくのが筋だ。

 

 

 不動のヒサギ先輩の構えに対し、私は姿勢を極限まで低くする。過剰な前傾姿勢と穂先を身体の後ろまで回した異形の構え。

 

「ほう?変わったことをするね」

 

 BGMやSEを聞くのが私の異能だが、展開中であればもう少し強力になる。具体的には音の媒介である空気を多少操ることができるというものだ。手先からちょっとした突風を吹かせたり、少し遠くにそよ風を生んだりすることができる。

 

 だから今回はこうする。

 

 最小限の踏み込みから石突きによる最短距離の打突。薙刀を握る右上腕を狙う。

 

 それと同時に音叉の形をした穂先から指向性を持たせて突風を吹かす。ジェットエンジンの逆噴射の原理で、本来の私の身体能力では出せない速度へと一歩踏み込ませる。

 

 私の構えから予測されるであろう「遅いだろう」という予感を覆す不意の一撃だ。

 

 あとついでに目に向かってそよ風を吹きかけてやろう。目眩ましにでもなれば上々だ。

 

「…っ!」

 

「――ほう?」

 

 しかしどうやらダメそうだ。ガードの発生のSEがすでに聞こえていた。

 

「これは驚いた、目元にそよ風が吹いてくるとは予想外だった。場合によっては有効だろう」

 

「…っ、ぅ…」

 

 ジャストガード(JG)成立音とカウンター成功音が鼓膜を揺らした。

 

 簡単に穂先を捌かれたと思ったら天地がひっくり返って、私は寝そべっていた。どうやってか投げられたらしい。全然反応できなかった。背中を強打した痛みに息が漏れる。

 

 突きはなんなく捌かれてしまったし、ちょっとした小細工として目元に吹きかけたそよ風のほうが評価されててなんだか悔しい。

 

 少しふらつきながら立ち上がったが、その間追撃をされることはなかった。

 

「驚いた、驚きはしたけどあまりに軽いな。先程のが全力か?」

 

 煽られているわけではない。多分本当に私の打ち込みが全力だったか疑うレベルで軽かったのだ。一応穂先を押し付けて高周波を浴びせるなどすれば多少は破壊力を上げられるが、そんなことできる状況は考えにくい。

 

「…参ったな、これは、流石にな」

 

 ヒサギ先輩は困った様子だ。

 原作において彼女はバトルフェイズのチュートリアルを務めてくれる。SDキャラたちがわちゃわちゃと戦うバトルではあるが、リアルタイムでガードや攻撃、必殺技の選択を要求されるなにげに奥の深い仕様なだけあって、かなり丁寧に指導してくれる。

 チュートリアル中に素っ頓狂な操作をしても文句一つ言わず教えてくれる彼女が、これはダメそうだという表情をしてることにちょっと危機感。

 これは自分の得意分野でアピールしなくてはまずそうだ。

 

「…先輩から…来て…ください」

 

「ほう、そちらの方が都合がいいか?」 

 

 …!

 

 来る。通常攻撃のコマンド音。原作では通常攻撃に音の違いなんてなかったが、今の私には音がどのような動作の前触れなのか感覚的に理解できる。

 

 薙刀と槍がすれ違うように打ち合わされ、互いの軌道が変わる。先輩がどのような通常攻撃を使うのかSEから判断し、その軌道上に自分の槍を置きに行くイメージ。

 

 恐らくは十二分に加減されているであろう速度の薙刀を落ち着いて捌いていく。私にはパワーもスタミナもまるでないが、動作を事前把握できるSEを聞く異能と過敏な身体感覚があれば、攻撃を凌ぐだけならなんとかなる。

 まあこの前のエネルギー弾のように、後ろに誰かを庇ってる状況ではいなすことも捌くこともできず受け止めるしかないので、なんでもかんでも凌げるわけではないが。

 

「ほう、ほうほう! なるほどよくやる。私の動きが視える、いや聞こえているんだな! これはおもしろい!」

 

「…っ…はや…おも…」

 

 先輩の動きがどんどん速く重くなっていく。どこまで耐えれるのか試しているつもりなのだろう。本当に際限なく強くなっていく。だんだんついていけなくなってそろそろ限界。

 

 そういったところで先輩の手が止まる。

 

「そうかだいたい理解した。なら仕上げといこう。最後の試験だ、ちゃんと見切れよ」

 

「…っ」

 

 槍を握りしめる。手汗で滑りそうだ。

 甲高いSE。特殊技チャージの音だ。覚えている。この技の名前、性質、消費MP、そして発動条件。

 

 あぁなるほど。

 

 先輩の姿がかき消えるように加速し、私のもとに迫る。とても目で追えてなどいないが、その技の挙動なら知っている。

 挙動だけでない、その性能は網羅している。例えば威力とかデメリットも。

 

 私は槍を手放して両手を広げた。

 姿勢を落とし前に踏み込む。

 凄まじい速度で私の目前まで接近した先輩が、不自然な挙動で止まった。

 

 その腰に絡まるように飛びつき、転倒を狙う。狙ったが全然動かないな。大地に根を張ったかの如き不動。なんだこれ。重…

 え、どうしようこれ。タックルのつもりでしがみついたけど全然動かない。

 

 見上げれば驚いたような目でこちらを見る先輩と視線が合った。気まずい。

 

「なぜわかった?」

 

「…なにが…?」

 

「私がなぜあそこで止まるとわかった?」

 

「…特殊技…『螺旋槍・百舌鳥』…成立条件…未達成」

 

「見えた、いや聞こえたのか? 私の技が」

 

 ヒサギ先輩の放った必殺技『螺旋槍・百舌鳥』には事前に異なる種類の技を出していないと成立しないという特殊技である。多分技の速度を見切り、反応できるか確認するためにあえて途中でキャンセルされ止まってしまう特殊技をチョイスしたのだろう。

 

 いくらケガをしないとはいえ、まともに先輩の特殊技を受けてしまっては痛みで失神しそうだし気遣いしてもらえたわけだ。

 

 まあ私はその厚意につけ込んであわよくばイッポンいただこうと思ったのだが全然だめだった。転ばせられる気がしない。体幹おばけか?

 

「…そうかわかった。うんいいだろう、少し火力に難があるがそれだけ動けて予測能力もあるんだ。きっとキミは異能部で活躍できる」

 

「…わっ」

 

 頭に手を乗せてわしわしと撫でられた。

 思わず瞑ってしまった目を開けると、先輩は腰を落として目線を合わせている。

 

「入部を認めるよ柊シオン。私は部長としてキミを歓迎しよう。これからよろしくたのむ」

 

「…よろしく…おねがい…します」

 

「はは、喋るのがあまり好きではないなら無理しなくていい。その敬語も私相手なら省いて構わないよ」

 

「…ありがと…せんぱい」

 

そんなこんなで私の異能部への入部が決まった。

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