TS転生したら現代異能バトルゲーのモブキャラになってました 作:不死浪シキ
先日無事に異能部への入部が決定し、部員の方々には挨拶だけさせてもらった。扱い上私は非戦闘員となるらしい。確かに私はザコ怪異相手でも単独で撃破することが難しいので順当な采配だ。
私は日常パートと戦闘パートのBGMを聞き分けたりできるので、索敵やら怪異の出現タイミングをある程度絞り込める。普段怪異出現の予測をしている副部長の負担軽減や、予測精度の引き上げという方向で貢献していけそうだ。
ちなみに副部長先輩の予測に曰く、次の怪異出現は明日の放課後あたり。同時に2箇所に出るとのことだ。そのうち片方は大型の強めな怪異、もう片方は雑魚がたくさん湧くらしい。
「それで俺たち1年が出動ってわけだな」
「二箇所に出現するなら二手に分かれるのがいいよね」
「そうですね」
ということで幼馴染み三人衆+
「まあ順当に考えるならヤヤカとミナミでデカいほう、俺が一人でザコか?」
「うーんどうでしょう確かにホムラの炎は集団に強いですけど、撃ち漏らしの可能性を考えるなら私が行ったほうが良くないですか?」
「それでも撃ち漏らしが出る可能性は変わらないでしょ。いくらなんでも一人で全部倒し切るのは厳しいよ」
先程から会話に入れてない。この体になってから口がうまく回らなくなってしまったので、あんまりおしゃべりに参加できないのだ。
…それにしてもこれはまずい、一人だけ本当に異物だ。悠長にデザートのコーヒーゼリーをつついている場合ではない。
「…わたしと…ミナミで…ザコやる…?」
「え、いやそれはどうなんだ? 危なくないか?」
危ないか? まあ確かにそうかもしれない。
でもここでミナミと一緒に雑魚狩りに行けば、ホムラとヤヤカはボス相手に共闘&二人の仲も縮むかもしれない。最高だ。そのままくっついてくれ。
「…でもそれ結構いいんじゃないですか?」
「ミナミまで変なこと言うなよ。シオンは非戦闘員だ。明日は待機してもらうはずだろう?」
「でも部長は私達4人で対処してくれって言ったんですよ。初めから先輩は私達全員が活躍する前提で話してました。なのにシオンちゃんだけ置いてけぼりは良くないと思う」
予想外にもミナミから援護射撃をもらえた。そういえばこの子原作だとホムラとヤヤカの仲を応援している立場だった。ヤヤカが死亡して以降はヒロインとしての株が急上昇したとはいえ、この世界ではホムヤヤ派のまま。心強い味方だ。
「たしかにそうだね。ほらさっき言ってた撃ち漏らしもシオンちゃんの異能があれば防げるんじゃないかな。逃げられてもどこに行ったとか調べられない?」
「…いける…よゆー…」
ザコが逃げた先を追いかけることくらい簡単だ。戦闘パートのBGMが大きい方を探すだけでいい。もしくは逃走する雑魚を追いかけるイベントのときの特殊BGMが聞こえるかもしれないし、いずれにせよ怪異の逃げ先ならいくらでも判別できる。
「うーんだけどやっぱり危ないだろ?」
「大丈夫ですよ、面制圧に関しては私は大得意なのでシオンちゃんの前までは通させません」
「まあまあそんなに不安だったら私達でデカいほうをちゃちゃっと片付けて加勢に行けばいいでしょ!」
「…たよりに…してる」
ホムラは心配性だな。もとよりお人好しなタイプの人で困ってる人間は片っ端から助けないと気が済まない性格だ。いくら危険が少ないとはいえ、非戦闘員として扱われてる私が前線に立つのは不安になるのだろう。
「そうか…そうだな。一年で協力して対処してくれって言われたのにシオンだけ置いてけぼりは悪いしな。わかった2対2で分かれてやろう」
「…ん…りょーかい」
「ただし無理は禁物だからな。ミナミも頼むぞ、危ないことしないか見張っといてくれ」
「もちろんです」
「ヤヤカは俺とデカいほうだ。さっさと片付けちまうぞ」
「おっけー!」
そうやって明日の作戦は決まった。
ホムラとヤヤカの仲が進展することを願うばかりだ。
◇◆◇
シオンがデザートを食べ終えたあと精算を終え、ファミレスを出た。シオンと俺たちの家は離れた位置にあるためここでお別れだ。振り返れば小さな背中が遠退いていくのが見える。
ここまで離れてしまえばシオンには聞こえないだろう。俺は口を開く。
「俺はやっぱり心配だ。シオンには待機してもらった方がいいと思う」
「まーだそんなこと言ってるの? 部長もシオンちゃんの自衛能力は十分だって言ってたよ」
「私もホムラはちょっと過保護すぎると思うよ」
過保護か。たしかにそうかもしれない。
シオンの異能は戦闘向きではなく出力も弱い。だけど本人はそれに自覚的であるし、彼女はいくら幼く見えても俺たちと同じ高校生だ。自分で危険性を判断することはきっとできるだろう。
でも、それでも心配だ。
初めてシオンが異能を使ったのを見たときを思い出す。
俺たちが感知し得なかった奇襲に反応し、身を挺して守ってくれたときのことだ。彼女の瞳には危うい狂気があったのだ。
「たしかにシオンは自己防衛くらいできるだろうな。それだけの能力はある」
「だったらいいんじゃないの?」
「ダメだ。自己防衛はできてもアイツはするつもりがない。わかるだろ?」
反論しようとしたヤヤカが沈黙する。シオンは自己防衛はできる。だが俺たちに危険が及ぶとなれば平気で身をなげうつ。そういった確信がある。
彼女の瞳の中の狂気を思う。彼女はなにか俺たち三人に対して特別な感情を抱いているように見える。なにか眩しいようなものを見ている、そんなようにみえて仕方ない。
ミナミもヤヤカも彼女の奇妙な感情に思うところがあるようだ。俺たちが覚えていないだけで、彼女と関わったことがあったのかもしれない。一方的に俺たちの事を知っているような雰囲気があった。
多分その感情が、平気で身を挺する彼女の精神性に大きく関わっているんだと思う。
「違いますホムラ。だからこそ一緒にいないといけないんです」
「それは…どういう意味だ?」
ミナミの言っている意味がよくわからない。シオンを危険から遠ざけたいのにあえて危険なところへ同行させるとはどういう了見だろう。
「考えてもみてください。シオンちゃんは異能で危険を察知することができます。それはシオンちゃん自身のものだけじゃなくって私達の危険もです」
「そうだな。シオンがケガをしたのも俺たちの危険を悟ったからだった」
「それなら一人で待機しているシオンちゃんが、私達の危険に気付いたら何をすると思いますか?」
「たぶんなにがなんでも飛び出してくるよね。シオンちゃんそういうことしそう」
「そうだな…いかにもやりそうだ」
その通りだ。必ずやる。というかやった。次もきっとやる。
「ホムラ、あなた自身が言っていたことです。その時私達が隣に居ずに誰が守るんですか。あの子が身体を張るのならもっと強い私達が身体張らなくてどうするんです」
「…それは、そうだけど」
でも俺はミナミにもヤヤカにも身体なんて張ってほしくないのだ。傷ついてほしくなどはないのだ。
「はいはいホムラの言いそうなことはもう分かるからそれ以上言わないで! 誰にも身体を張ってほしくないとか言うんでしょ! それ一番身体張ってるホムラにだけは言われたくないよ!」
「そうです。自分は平気で無茶するくせに私達は駄目だっていうんですか? それはズルいですよ。そう言いたいならホムラだって無茶しないでください」
うっ。痛いところをつかれてしまった。
「…わかったわかった。降参だ」
「わかればよろしい」
「でもいいのか?今回シオンの隣に居るのはミナミだ。その…シオンのこと、頼んでもいいのか?」
「頼まれるまでもありません。私自身シオンちゃんのことは気に入っちゃいましたので。二人きりになれるのなら役得と言ってもいいくらいです」
役得って…
たまにミナミは変な言い方をするな。
そりゃたしかにシオンは俺たちのピンチに颯爽と現れ、救ってくれたのでヒロイックな感じがあった。あれでシオンが男だったら吊り橋効果で一目惚れなんてこともあるのかもしれない。
だがミナミもシオンもついでにヤヤカも女の子だ。幼馴染み二人に浮いた話はなかったとは言え、そういう女の子同士の恋愛?みたいなのに興味があったりした雰囲気を感じたことはなかった。
もっというと二人が恋愛に興味持ってる様子を見たことがないな。高校生になっても俺たち三人組は悪ガキ三人衆みたいな雰囲気のままだ。
「…ヤヤカも頑張ってください。二人きりですよ二人きり」
「…わかってるわ」
たまに幼馴染み二人が言ってることがよくわからない。
何の話をしているんだろうか。
妙に大人しくなったヤヤカ、不自然なくらい上機嫌なミナミと共に帰路を歩いた。