俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
いつからだろう。
俺はティアナと共にいるこの時間が永遠に続くとそう思っていた。
共に笑い、共に泣き、共に年を取る。
そして、いつかは俺の親父やお袋のように、俺もティアナとの想いを次世代へと残していき死んでいく。
全部が全部、他愛もない妄想だが、俺はこれからの未来も勝手にそうなる物なのだと信じていた。
だけど、そんな妄想の終わりは突然やってきた――
「帰るんですよ。私たちが元居た世界及び次元に」
トゥアールさんが放ったその言葉は俺にとってまさに寝耳に水と呼べる物であった。
あまりの衝撃故に体勢を崩してしまいそうになったが、俺は何とか持ちこたえ、そしてもう一度問いただす。
「トゥ、トゥアールさん……い、今なんつった?」
そんな筈ない。今のはただの聞き間違いだ。
パニックになりかける自分自身にそう言い聞かせて何とか平静を保とうとする。
がしかし、現実は非情だった。
「元いた世界に帰るとそう言いました」
キッパリとそう言い切るトゥアールさん。
その雰囲気はとてもじゃないが嘘をついているようには見えない。
「それってよ……つまり……ティアナとお別れって事か……!?」
「そうなりますね」
ティアナとの別れ……
それはティアナがこの世界の者ではないとわかった時から決まっていた事であり、始まりがあれば終わりがあると同じように至極な当然な事だ。
だけど、俺はそれを受け止めきることが出来ないでいる。
そしてそれは、ティアナも同じだった。
「ね、ねぇママ? 冗談よね?」
いつもの冗談であり、ただの悪ふざけ。ママは私にツッコまれるのを待っているんだ。そうよ、そうに違いない。
何となくだが、ティアナはきっとそう思いたいのだろう。
問いかけるも答えは返ってこずに静まり返る室内。
辛さと苦しさだけが加速していく。
「……」
黙り込むトゥアールさん。
なおもティアナはその手を止めない。
「ねぇ? ねぇってば!!」
「総愛!!」
遂には立ち上がり、力任せに掴み掛かろうとするティアナであったが、トゥアールさんの一括を受けてその手を止めた。
その二人の姿からは先程のコントめいた雰囲気は感じない。
寧ろ我儘を言う娘とそれを叱る母親のような感じだ。
「私だってわかっています。あなたが和輝君とどんな経験をし、どんな想いを抱いているのかなんて痛い程よくわかります。でも、私たちは本来、この次元にはいてはならない存在であり、いつかは帰らないといけないんです」
優しく諭すトゥアールさん。
曰く、同じ次元内の異なる世界同士なら兎も角、違う歴史を辿った異なる次元同士の人間が一緒に居続けるなんて……そんな事をしたら何が起きるかわからない以上、いつかは元の次元に帰らねばならないとの事。
「でもでもでも……」
「わかってください。私だって意地悪で言ってる訳じゃないんです。それにあなたが帰らないと総二様や愛香さんにどう説明すればいいか……」
代理の母である以上、実の親、それも嘗ての憧れの男性である総二さんと唯一無二の親友である愛香さんの作った大事な娘を自己判断で置いて帰る事など出来やしないのは当然の事だ。
トゥアールさんの気持ちも痛いくらいわかるぜ。
でも、それでも……俺はティアナと別れたくない気持ちで一杯だ。
「二人とも落ち着いて、何も今すぐにって訳じゃないんでしょ?」
そうトゥアールさんに尋ねる華先生。
だがしかし、トゥアールさんは首を横に振るう。
「いえ、事は一刻を争う以上、私たちは早急にこの次元から離れるべきです」
そうきっぱりと告げたトゥアールさんの言葉が部室内を重暗い雰囲気で包み込む。
俺とティアナを落ち着かせようとしていた華先生もこれではどうしてあげればいいかわからない様子だ。
つい数分前までのあの明るかったあの空気は何処へやら。
今にも胸が張り裂けそうなそんな中、何かに気づいた様子の華先生が再び声を上げる。
「でもちょっとまってください。一刻を争うってそれはどういう意味なんです?」
その質問に対し、あんたは何を言っているんだとばかりにトゥアールさんを除く皆の視線が華先生に集中する。
「はぁ……。華先生、そんなの決まっているじゃないですか。ティアちゃんやトゥアールさんがあたしたちのいる次元と違う次元から来たんですよ? 異なる次元の人と長時間関わり続ける。それ即ち、何かしらの異変があってもおかしくないって事ですよ」
「ゲームやアニメでは異なる二つの世界が交わり過ぎて両方消滅するのがお約束……」
よくわかっていない様子の華先生に説明する悠香さんとそれを補足する青葉さん。
俺としては青葉さんの補足を聞いて少しゾッとしたぜ。
さっきまではティアナと一緒にいたいだなんて我儘を言っていたが、もしもこの次元そのものが消滅してしまうとするのなら少しばかり話は変わるからな。
これにはティアナもさっきまでの自分の我儘を反省しているように見える。
「あのー? 皆さん?」
何処かバツが悪そうな素振りを見せるトゥアールさんが声をかけてきた。
一体、どうしたんだよ……
「言っておきますけど、この次元が消滅するだとかは万が一でもありえませんよ?」
「「「「はぁ!?」」」」
あまりにも予想外な言葉に俺、ティアナ、悠香さん、青葉さんがそれぞれ声を上げ、そのままティアナが掴み掛からんとばかりの勢いで食いついた。
「ちょっとママ!! どういう事よそれ!!」
「いや、どういう事も何も、そんな事は起こらないってだけですよ」
じゃあ一体、どうしてさっきは事は刻一刻を争うだなんて言い方したんだよ。
別に特にそう言った事情がないのだったらそこまで急いで帰る事ねぇじゃねぇかよ。
そう疑問に思った俺はその事をトゥアールさんに問いただした。
「それはですね……」
いつになく真剣な目つきに切り替わるトゥアールさん。
とてもじゃないがつい数分前の茶目っ気溢れる雰囲気は微塵も感じない。
「この世界を守る為です」
ハッキリとそう言い切ったトゥアールさん。
さっきの発言と矛盾しているかのようなその発言を聞いた俺は真っ先に口を開いた。
「は? どういう事だよ。さっきこの世界が消滅するとかそんな事起きないっていったじゃねぇかよ!!」
「はい。確かにそう言いましたし、そんな事はほぼ確実に有り得ないと断言できます」
「じゃあどうして……」
「レイジ・レオン=ザード。彼が一体、今後何を仕掛けてくるかわからないからです」
その名を聞いたその瞬間、ここにいる全員が表情が固まった。
レイジ……通称アナザーテイルレッド。
奴こそティアナがこちら側の次元に迷い込む原因を作った全ての元凶にして現状における最大最悪の敵。先程の戦闘においてトゥアールさんの救援が無ければ完全にやられていたと言っても過言ではない強力な戦闘力は脅威としか言いようがなく、尚且つその目的はティアナの持つツインテール属性であり、その為なら奴は手段を選ばない。
「レイジはずる賢い男です。今後、どんな作戦で総愛のツインテール属性を狙ってくるかわかりません。それに……」
トゥアールさんは語る。
曰く、レイジはティアナがこの世界に居続ける限りそれを狙って何度も何度も行動を起こすとの事。さらに言えば、レイジの奴はティアナのツインテール属性の奪う為の作戦の一つにこの世界を荒らしまわり、俺たちがそれを止めやって来るのを待つ可能性が高い。
事実、今日の奴は俺たちを呼びよせる為だけに無関係な街を破壊すると言う暴挙に出やがったのでその可能性は確かに高いだろう。
トゥアールさんがこの世界を守る為と言ったのはそういう考えがあっての事どという。
「でも待ってください。もしそれなら私や涼原君、そしてあなたが共に力を合わせてアナザーテイルレッドを倒せばいいのではないですか? 事実、あなたはあのアナザーテイルレッドを追い詰めましたし、それにもし橘さんが元の世界に帰ったとしてもアナザーテイルレッドがこの世界を襲う可能性は捨てきれないような気がしますけど」
黙って話を聞いていた華先生がトゥアールさんにそう質問を投げかけた。
さっきまではトゥアールさんがそういうのならそうなのだろうと思っていた俺も華先生の言葉を聞いて確かにそうだよなと考えを改め、もしかしたら少しでも長くティアナと共に入れるのではと淡い希望を抱くほどだ。
だがしかし、トゥアールさんは首を横に振るう。
「すみませんが、私はもう後何回変身できるかわからない以上、共に戦うのはあまり期待しないでください」
そう言い切ったトゥアールさんの表情はあまりいい物とは言えなかった。
事情を知っているのかティアナも同様の表情だ。
「どういう事ですか?」
不思議に思った悠香さんがその事を尋ねる。
するとトゥアールさんは自身のその美しい白銀の髪を手に取った。
「見ての通り、変身していない私はツインテールじゃありません。何故なら私は以前、アルティメギルの復讐の為に自らのツインテール属性を手放したんです」
その言葉を聞いて固まる悠香さんたち。
俺としてはかなり前だが、ティアナからツインテール属性を自ら手放した人物について聞いていたので悠香さんたち程の衝撃はない。
でも、その形容し難い感情は伝わって来る。
「今でこそ、総二様たちのおかげである程度踏ん切りもつきましたし、いつかもう一度変身せずにツインテールを結ぶという夢を見つけました。ですけど、私がツインテール属性を失っているという事実は変わりありません。ツインテール属性がない以上、その状態で変身を行う事が奇跡に近く、あとそれが何回できるかは私でもわからないのです」
ツインテール属性がないのにツインテール戦士へと変身する。
ある意味、矛盾とも捉えれるそれらの出来事は正に奇跡と言わざる得ない。
トゥアールさんが限界ギリギリの状態で戦っていたという事を知った以上、この世界を守る為に共に戦ってくれとは口が裂けても言えない。
「話を戻しますが、レイジは乱暴そうに見えてかなり用意周到且つ無駄な行動を嫌います。レイジの目的が総愛のツインテール属性である以上、総愛がこの次元からいなくなればきっとレイジは直ぐにそれを追って来るでしょう。ですが、元の世界及び次元に戻りさえすれば、総二様や愛香さんたちがいますし、そうなれば流石のレイジも迂闊に手を出すことは出来ません」
要するにトゥアールさんはこちらの問題はこちらで解決すると言っている。
俺としてはティアナを守る為にも共に戦いたいのだが、今の俺じゃ役に立つかどうか……
悔しいがやはり、アナザーテイルレッドの脅威からティアナとこの世界を守るにはトゥアールさんの言う通りに一刻も早く帰るしかないのだろうか……
「以上が私たちが早くこの世界から離れるべきだと思った理由です。私としても急にこんな事を言い出して申し訳ないとは思っています。ですがわかってください。それら全てはこの世界及びこの次元を守る為でもあると言う事を……」
トゥアールさんが意地悪であんな事を言い出したんじゃねぇって事は痛い程伝わって来る。
何もかも俺が不甲斐ないのが悪いんだ……
「……ママ」
静まり返る部室内でティアナが何かを決意したような顔つきでトゥアールさんに話しかけた。
お前、まさか……
「総愛?」
「私、決めた。私、元の世界に帰る」
力強くそう答えたティアナ。
俺としてはやはりかと思いながらも何も言う事ができない。
「言っておきますが、平行世界間の移動とは違って、平行次元への移動はそう簡単な事じゃありません。ハッキリ言ってこの世界へはもう二度と戻れないでしょう。それでも良いんですね?」
ここで帰ればもう二度と戻ってこれない。
それ即ち、俺たちとの一生の別れを表している。
トゥアールさんの忠告を聞いて一瞬たじろぐティアナであったが、ティアナの意思は固かった。
「……うん。私、みんなを守れるならそれでも構わない」
全てはアナザーテイルレッドから皆を守る為。
ティアナ自身が軽い気持ちで決めたのではない事なんて痛い程伝わってくる以上、俺はその決断に口を出すことは出来ない。
「わかりました。では早急に準備を……」
「まってママ……!!」
「どうしたんですか総愛?」
「出発は……明日の正午がいい……。みんなにお別れ言いたいし……それに後、和輝との最後の時間を……」
今にも泣き出しそうな表情でそうお願いするティアナ。
それに対し、トゥアールさんはそれを咎める訳でもなく、ゆっくりとティアナを抱きしめる。
「わかりました。出発は明日の正午にしましょう。総愛はそれまで好きに過ごしてください」
「ありがとうママ……」
かくして話は決まってしまった。
明日の正午、ティアナはこの世界及び次元から去る。
俺はそれまでの時間をティアナと共に過ごす……
悔いを残さないように……
「さて、どうしたものかねぇ……」
果たして俺はどうすれば良かったのかだなんて考えても無駄だ。
今はこの残された時間をどうティアナと過ごすかだだな。
そんな事を考えていたそんな時だった。
部室のドアが勢いよく開かれた。
「お疲れ様でーーーす!! 川本匠、今帰還しました~~!! って!? なんじゃ、あのおっぱい美女!?」
しんみりとした空気をぶち壊すかのようにやって来たのは匠だった。
何も知らない匠はトゥアールさんの豊満なおっぱいに釘付け状態であり、随分と下品な顔をしていやがる。
俺の中で何かがキレた。
「空気読め!!! このド変態が!!!」
「おっぱーーーーーーーい!!!!」
俺の拳は匠の頬にクリーンヒット。
匠は間抜けな声を上げながらドアを突き破り、廊下へと吹っ飛ぶのであった。
◇
会議を終えた後、俺はティアナと共に学校を出て、おやっさんの待つアラームクロックに向かった。
目的は勿論、明日帰る事になったティアナの最後の挨拶。
と言っても、戦いなどに関しては部外者であるおやっさんに全ての真実を話せる訳もなく、俺たちはティアナの記憶が戻ったので帰るべき場所を見つけて遠い外国へと旅立つとしか説明できなかった。
当初こそ記憶が戻ったと聞いて喜ぶおやっさんだったけど、明日この町を去りもう二度と会えるかどうかもわからないという事を知った時はさっきまでの俺たち同様に複雑な表情をしていた。
おやっさんとティアナの付き合いの長さは、一緒に住んでいた分、俺なんかよりもかなり長い。
二人の関係はまるで本当の親子かのような微笑ましい物だったのを記憶している。
長いようで短い、おやっさんとの最後の会話。
つい先日、少しギクシャクしてしまっていたらしいが、俺にはそれがわからないくらい自然な雰囲気であり、最後にお互いに感謝の気持ちを伝えていたのが強く印象に残った。
そして現在、俺とティアナは最後の夜を過ごすべく、アラームクロックを出て、俺の家に向かっている。
互いに少しでも長くいたい気持ちの表れなのか、バイクは使わずに徒歩だ。
「なぁティアナ、本当に良かったのか?」
「何が?」
「いや、その……この世界での最後の夜が俺なんかでよ……」
正直言ってなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ティアナからすれば今夜はこの世界で過ごす最後の夜。それをこんな俺なんかと一緒に過ごすだなんて、いくら本人がそれを望んだとは言え、何つーか本当にこれでいいのかと思ってしまう。
「何言ってるのよ和輝。私がそうしたいって言ったのよ。それに私たちは付き合っているだし当然のことじゃない」
「いや、そうだけどよ……元はと言えば俺が弱いからこんな事になったって言うのによ……」
ティアナがいずれこの世界を去り、元の世界へと帰る事はこれから先、いずれ来るであろう揺るぎない事実ではある。
だけど、こんなにも急を要する事になっちまったのは偏に俺の責任だ。
俺がもっと強ければ……それこそあのアナザーテイルレッドをブッ倒せるくらいの強さがあればこんな事にはならなかった。本当ならもっとゆっくり、この世界での思い出を残してやりたかったのによ。
「もう和輝ったら、直ぐそうやって自分だけのせいにするんだから」
「でもよ、俺……」
ここに来て悔しさが溢れ出てくる。
今まであまり味わってこなかった感情が湧き上がって来る。
俺の目から一筋の涙が落ちた。
「仕方ないわよ。アイツはテイルドライバーの生みの親で和輝の戦闘データを知り尽くした言わば対テイルバイオレットに特化した相手だもの。そんなの勝てる方が凄いくらいよ。寧ろ和輝はあそこまでよく頑張ったと私は思う」
よく頑張った? 仕方ない?
いや、そんな筈はない。
きっと総二さんや愛香さんたちツインテイルズのみんなならその程度の壁は乗り越えた筈。つまり、俺が不甲斐ないから負けたんだ。
ネガティブになってはいけないってのにネガティブになってしまう。
最後の夜くらい明るく楽しく過ごさせてやりたいってのに全部俺のせいでこうなっちまうのが辛く、苦しく、そして悲しい。
意図せず負のスパイラルに陥り、暗くなるそんな中、隣で歩くティアナの口から消え入りそうな程の小さな声が聞こえて来た。
「というか寧ろ、元はと言えば私が一人で倒しきれなかったのが原因なんだし……」
それを聞いてハッとした。
悔しいのは何も俺だけじゃないんだ。ティアナだって俺同様……いや寧ろそれ以上に悔しい想いをしているに決まっている。
何たってティアナからすれば、憧れの父親の姿を真似て悪事を働くクソ野郎を自分の手で倒せなかっただけじゃなく、それが回りまわってまた多くの人々を不幸にしていったのだからな。
「前にも言ったかもしれないけど私、ずっと和輝には申し訳ない気持ちでいっぱいだったの。私が変身できさえすれば今まで和輝に辛い想いさせなかったのにってね……」
「ティアナ……お前……」
確か、グラシャラボラスギルディ戦だっけか?
あの時、暴走するグラシャラボラスギルディに負けて、その時の恐怖から一時的に戦う事が出来なくなった俺をティアナがずっと傍にいて支えてくれた。
確かその時にティアナは俺に同じような事を言っていた気がする。
「今までずっと私たち、二人で一つのツインテールとして頑張ってきた。けど傷つくのはいつも和輝で私は後ろで見ているばかり……。いや、それだけじゃないわ。今日の襲撃もそうだったように、私がこの世界にいるばっかりに和輝だけじゃなく、他のみんなが傷ついていく……」
記憶が戻り、自分自身が何者なのかと言う事を知った以上、必然的にどうして今まで俺たちのいるこの世界が狙われてきたのかを察した様子のティアナ。
責任感の強さからくる自責の念は想像以上だ。
「今日の事件を経てね、私ふと思ったの。もしも、私が生まれて来なければ……もし、私が観束総愛ではなく、本来の歴史通りの観束双愛だったらみんなが傷つくことなく平和に過ごせたんじゃないかって……」
自分がいなければこんな事にはならなかった。
自分がいるから皆が不幸になっていく。
その吐露を聞いた事で、先程の会議の際に帰る決断を下したティアナは実はこんな苦悩を抱えこんでいたんだと言う事に嫌でも気が付かされる。
だが同時に俺の心の中で沸々と燃え上がる物があった。
「……馬鹿野郎」
「へ? 和輝?」
「馬鹿野郎って言ったんだよ!!」
突然、足を止めた俺は溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように大声をティアナにぶつけた。
当然、ティアナは急すぎて一体何なのかがわかっていない。
「何よ、どうしたのよ!!」
「いいかティアナ!! 何が生まれなきゃよかっただ!! 何が自分のせいでみんなが不幸になっていくだ!! 笑わせんな!! そんなの悲しい事があるわけがねぇ!!」
「か、和輝……でも……」
「でもじゃねぇ!!」
俺の心の奥底で沸々と燃え上がる物、それはティアナへの怒りだった。
ぶっちゃけ、人の事を言えた義理はないかもしれない。
だが、これだけは伝えたかった。
「いいか!! 俺はな!! お前と出会ってからの今日に至る毎日が凄く輝いていたと……そう思ってんだよ!! そりゃあ辛い事や苦しいことがなかったわけじゃねぇ!! でも、その度にお前がいてくれた!! だから俺は立ち上がれた!! そんな俺に対して生まれなきゃ良かっただなんて間違っても口にするんじゃねぇ!!」
ティアナと出会えなかった場合、俺はきっと戦いとは無縁の平和な毎日を送っていただろう。
でもそれじゃ何かが足りない。
ティアナと出会い、今日に至るまで過ごした全ては、今の俺自身を構成する大事な要素の一つであり、ティアナと出会ったからこそ今の俺があると断言できる。
だからこそ、自分自身の存在を否定しようとするティアナが許せなかった。
「和輝……ごめん。私……私……」
今にも泣き出しそうなティアナ。
俺はそんなティアナをそっと抱きしめる。
「いいか、俺たちは離れていてもずっと一緒だ。俺たちが共に結んだこれまでのツインテールは決して解けやしないんだからよ」
「うん、私も和輝の事を決して忘れない。和輝と一緒に過ごし、結んだツインテールの事は……決して」
互いに涙を流し、抱きしめ合う。
いつもなら恥ずかしくて出来ないような事も、今日は特別だ。
今夜だけは最も記憶に残る夜にしたいと思う。
「よし、じゃあこの話題はおわり!! 今からはもっと明るい話でもしようぜ」
「何よ、暗い話を最初に切り出したのは和輝の方でしょ」
「はぁ? 元はと言えばお前が……!!」
「お前がって何よ!! ついさっきにまでうじうじしてた癖に!!」
「お前には言われたくねぇよ!! てか大体、お前はいつもいつもそうやって……!!」
「何ですって!? それはどういう意味よ!!」
「どうもこうもねぇよ!! バーカ!!」
「バカって言った方がバカなのよ!! バーカ!!」
暗い夜道の中、しょうもない言い争いを行う俺たち。
だがその顔は険しい物でもなく、かと言って先程のような暗い物でもなく、どことなく明るく楽しそうな物だった。
◇
そして次の日。
遂に運命の時間がやって来た。
俺、ティアナ、匠、悠香さん、青葉さん、華先生といったいつもの面々はトゥアールさんに言われた通りに学校の旧校舎屋上にやってきた。
何でもトゥアールさん曰く、移動艇を待機させるのにここが一番丁度いいとの事だ。
「おい和輝」
屋上に辿り着くなり、脇腹をつついて話しかけてくる匠。
こんな時に何用だと思いながらも俺は返事をする。
「んだよ匠、どうかしたか?」
「お前、昨晩はティアナちゃんと一緒にベットで寝たんだろ?」
「ま、まぁな」
「じゃあやっぱり、最後だし……アレ、したんだよな?」
「アレ……? っ!?」
匠の言うアレが何を指しているのか。
いきなりだったので最初は何を言っているのかわからなかったが、その意味を理解すると同時に恥ずかしさと何言ってくれてんだコイツと言う怒りが沸き上がる。
「なぁなぁ、したんだろ? ええ?」
「するわけねぇだろうが!! このボケが!!」
ニヤニヤ笑いながら聞いてくる匠にキレた俺は全力の蹴りを匠にお見舞いし、空の彼方まで蹴り飛ばした。
匠の絶叫が聞こえてきたが、まぁ大丈夫だろう。
「どうしたの和輝?」
「いや、別に何でもねぇよ……!!」
不思議がるティアナと華先生。
一方で悠香さんと青葉さんは匠同様にニヤニヤ笑っていやがる。
「てか、んな事よりもトゥアールさんは一体何処に居るんだよ。もう直ぐで正午だぜ」
「そう言えばママ、どこに居るんだろ」
辺りを見回しても目に入るのは無人の屋上風景。
人が隠れるスペースなど殆どないと言ってもよく、それこそトゥアールさんの言った移動艇とやらが待機できる場所などもってのほかだ。
果たしてトゥアールさんは一体何処に?
そう思った直後、俺たちの目の前の空間が歪み、人の姿が現れた。
「皆さん、お待たせしました」
「「「トゥアールさん!?」」」
突如目の前に現れたトゥアールさんに驚く俺と悠香さんと華先生。
そういや、トゥアールさんはエレメリアン顔負けの超技術を幾つも持っていたなと思い返すぜ。
トゥアールさんはそんな俺たちを気にせずにティアナに話しかける。
「総愛……準備は出来ていますね?」
「うん……大丈夫だよ」
ほんの数秒の沈黙の後にティアナは返事をした。
その大丈夫に一体、どれだけの意味が込められているのか……
「てかよ、そういや移動艇ってのは何処にあるんだよ? 何処にも見えないぜ」
「それなら心配なく。上空をご覧になってください」
そう言われて空を見上げる俺たち。
するとそこには大型の乗り物が浮遊していた。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
「かつて私が世界間を旅するのに使っていた小型戦艦スタートゥアールの後継機、スタートゥアールmark2です」
特撮好きなら興奮しない筈が無いと思われる巨大な乗り物、スタートゥアールmark2。
トゥアールさんが曰く、スタートゥアールmark2には認識攪乱がかかっているので俺たち以外には存在を感知することが出来ないとの事だ。
「さて、では行きますよ総愛。皆さん、これまで総愛がお世話になりました」
これ以上、長くいれば別れがより悲しくなることを知っているのか、トゥアールさんは特にそれ以上を語る事もなく早々に帰る事を促した。
それを聞いたティアナは決意に満ちたその顔を俺の方へ向ける。
「和輝……じゃあ私――」
そこまで言ったその時だった。
突然、新校舎の方から爆音が聞こえて来た。
「「「「!?」」」」
何があったんだ!?
屋上の柵へ乗り出しながら爆音があった方向向かって一斉に首を向ける。
するとそこには赤いツインテールが特徴の影がその様子を見て高笑いを上げていた。
今年の更新は今回で最後です。
来年は更新スピードを元に戻していきたいなと思いますので、来年もよろしくお願いします。