俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第105話 オマエノセイダ

 飛び散る鮮血。

 響き渡る苦痛な叫び。

 アナザーテイルレッドの振り下ろしたブレイザーブレイドの一撃はティアナを庇った和輝の体を深々と切り裂き、その命を絶つ。

 それを間近で見たティアナにとっては、攻撃を受けてから倒れるまでのその一連の流れ全てが、スローモーションでもかかっているかのようにゆっくりと、そして、それら全てが一瞬の出来事とは思えない程に長く感じるものであった。

 

「ティ……アナ……」

 

 倒れ伏すその瞬間、最期に和輝が口にしたのは愛する者の名前。

 普段語気の荒い口調とはまるで違う弱々しく今にも消え入りそうな声であった。

 

「か、和輝……? ね、ねぇ……しっかりしなさいよ……。ねぇ……!! ねぇってば!!」

 

 何が起きているのかがわからないのではなく、この状況その物をわかりたくないとばかりにティアナの頭の中は混乱しており、倒れ伏した和輝に声をかけ続ける。

 現実逃避にも近いその状態。

 あと一つ、何か一つでも起きてしまえば確実に心が壊れてしまうその危険な状態にトドメを刺すかのように和輝は次第に力が抜けていき、段々と冷たくなっていく。

 

「嘘よ……!! 嘘!! そんな事が……!! そんな事がある筈が無い!! ねぇ和輝……!! 起きてよ……起きなさいよ!!」

 

 しかし、和輝は何も答えない。

 ただただ、その身体に刻まれた大きな傷から血を垂れ流し続けるだけである。

 そして遂にティアナはその身体を起こそうとした際に見てしまう。

 その生気の欠片もない和輝の瞳を。

 

「ひっ……!!」

 

 恐怖故に和輝の身体を落としてしまうティアナ。

 力なく落ちるそれは何の抵抗もする事なく、周囲に作られた血だまりへとダイブ、ぴしゃりと飛び散る鮮血がティアナの頬にも当たる。

 その瞬間、ティアナは涼原和輝という少年が死んでしまったという事を理解した。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ティアナの声にならないような絶叫が中庭一面に響き渡る。

 ティアナとティアナのツインテールは今、泣いていた。

 

 

 

 

「フフフ、アーッハッハッハッハ!! 死んだ死んだ!! 遂に逝っちまいやがったぜこの坊主!! ヒャーッハッハッハッハ!!」

 

 大切な人が亡くなるというその悲しい状況下の中、奪った張本人であるアナザーテイルレッドの反応は死者を愚弄し、悲しみに包まれるティアナを文字通りあざ笑うという最低最悪の物であった。

 幸いなのはティアナの精神状態的に今はそれどころではなくアナザーテイルレッドに構っていられないという事であろうか。

 

「和輝……和輝……」

 

「って総愛の奴、まるで聞いてねぇな。つまらねぇなぁ……」

 

 アナザーテイルレッドからすればあまり面白くない反応。それほどに今のティアナの精神は限界に達しており、周囲の状況がまるで見えていない。

 それは、ある意味で絶体絶命の危機を表している。

 

「ま、いいか。計画とは少々違うが、このままツインテールを奪えるのなら好都合……ってなぁ!!」

 

 逃げる素振りを一つも見せないティアナを見据えたアナザーテイルレッドはツインテール属性を奪う為に右手を天に掲げる。

 今まさにティアナのツインテール属性が奪われ、和輝が最後まで守ろうとした物が無くなろうとするその瞬間、白き光弾がアナザーテイルレッド目掛けて飛翔する。

 

「チっ!? この攻撃は……まさか!?」

 

 直撃するまで残りコンマ数秒とも言える中、ようやくその攻撃に気が付き咄嗟に飛び退いたアナザーテイルレッド。

 余りにも予想外過ぎる攻撃に驚くアナザーテイルレッドはその光弾が飛んできた方向へと顔を向ける。

 するとそこには血を流しボロボロになりながらも立ち上がるテイルホワイトの姿があった。

 

「トゥアール!! やはりてめぇか!! この死にぞこないが!!」

 

「あなたがいる限りそう易々と眠っていられないんですよ!!」

 

 銃形態のシャイニングアームドを構えて言い放つテイルホワイト。

 先程は不覚をとってしまったが今度はそうはいかない。

 ティアナを守る為、そしてアナザーテイルレッドを撃退する為にテイルホワイトは立ち上がるのだ。

 

(すみません総愛……。ですが今は!!)

 

 血まみれになり倒れる和輝とそれを見て泣き叫ぶティアナの姿から即座に何が起きたのかを把握したテイルホワイトは、心の中で和輝とティアナに謝罪しつつも今はアナザーテイルレッドを倒すべく拳に力を籠める。

 

「ベースアームド!!」

 

 ボロボロの体のままアナザーテイルレッドへ接近するテイルホワイト。

 彼女が纏う純白白銀のテイルギアも限界のアラートを鳴らすかのように火花を出してスパークが走っている。

 

「そんな体とそんなギアで!! 一体何が出来るってんだぁ?」

 

「私のツインテールはまだまだやれます!!」

 

「ほざくな!! この負け犬がぁ!!」

 

 接近戦を試みるテイルホワイトを迎撃すべくアナザーテイルレッドは全方位斬撃装備(サテライトソード)ことブレイザーセイバーを最大数である10基を一気に出現させる。

 

「行けよセイバー!! あの間抜けを斬り刻め!!」

 

 音速を優に超える超スピードのセイバーの斬撃はテイルホワイト及びテイルブルームといった達人クラスの腕を持つ者であっても完全にとらえきる事は不可能。さらに言えばそれは1基ではなく最大で10基も一斉に襲い掛かってくるのである。

 アナザーテイルレッドの持つ秘密兵器にして皆を苦しめた最恐最悪の不可視の刃がテイルホワイトを迎撃すべく放たれた。

 このままではひとたまりもない。万事休すかテイルホワイト。

 しかし……それは杞憂であった。

 

「何だと……!? どうなってやがる!?」

 

 なんとテイルホワイトは四方八方から襲い掛かってくるセイバーの群れを一つも見る事無くそれらを華麗に躱していったのだ。

 まるでどこからどう飛んできてどう攻撃するのかがわかっているかのようなその動き、先の戦いでのありとあらゆる所に注意を割かなければいけずに苦しんでいた姿とはまるで違う。

 それを見て流石に驚かざる得ないアナザーテイルレッド。

 そんなアナザーテイルレッドに向かってテイルホワイトはこう告げる。

 

「何度も同じ手が通用すると思ったら大間違いです!! あなたの攻撃パターンはもう全て把握しました!! もうその攻撃は効きません!!」

 

 なんとテイルホワイトはアナザーテイルレッドの操るセイバーの動きのパターンをこの土壇場にて全て見切る事に成功したのだ。

 先の戦いで苦戦し防戦一方であったのは全パターンを覚える為に他ならない。

 尤も、万全の状態ならもっと早くに見切る事は可能であったし、さらに言えば見切って回避するだけでなくセイバー本体を撃墜する事も可能であったということを踏まえれば、アナザーテイルレッドは幸運であったと言える。

 

「全て把握しただと? 何百、何千通りもある俺の攻撃をか? ありえねぇ、んなバカな……」

 

「髪の毛の本数以下のパターンを覚える及び予測するなんて少し時間をかけさえすれば余裕ですよ。寧ろこれでも若いときならもっと早く出来た筈ですけどね」

 

 挑発を交えながら急接近。

 全ては冷静さを欠かせ隙をつく為の布石。

 だがしかし……

 

「けッ、言ってくれるねぇ。だが、それで勝ったと思わねぇ事だ!!」

 

 そう言い放つや否や、アナザーテイルレッドは即座に冷静さを取り戻すと体勢を整えてブレイザーブレイドを構える。

 これにはテイルホワイトの先程までの自信に満ち溢れた表情が曇りだす。

 いくらブレイザーセイバーを見切ったからと言って勝ったとは言えない。それどころか見切るまでにダメージを負い過ぎた今のテイルホワイトでは勝てるかどうか怪しい所がある。

 接近戦を仕掛けたのはテイルホワイト側ではあるが、それは全てブレイザーセイバーを見切り、それによって生じる隙を叩く為の戦法。それを知って知らずかアナザーテイルレッドは即座にその戦法を潰しに来たのだ。

 

「くッ!!」

 

「惜しかったな!! てめぇもあの坊主の所に逝かせてやる。光栄に思いなぁ!!」

 

 振り下ろさんとブレイザーブレイドを振りかぶるアナザーテイルレッド。

 対するテイルホワイトは防御をしようとするも身体もテイルギアも言う事を聞いてくれない。

 今度こそやられる。

 そう思われたその時、アナザーテイルレッドに異変が襲う。

 

「ぐっ……!? この感じ……まさか……!!」

 

 攻撃を中断し、飛び退くアナザーテイルレッド。

 なんとここにきて先程のテイルバイオレットから不意打ち気味に受けた強化ストームストライクのダメージが響き始めたのだ。

 このまま続けることは可能ではあるものの、このままで相打ちにしかならない。

 そう判断したアナザーテイルレッドは空へと舞いあがった。

 

「まぁいい、今回の目的は達成された。今日はここまでにしといてやるぜ」

 

「ッ!? ま、待ちなさい!!」

 

 テイルホワイトはアナザーテイルレッドの急な撤退宣言に驚きを隠せない。

 そして次の瞬間、アナザーテイルレッドの姿は空の彼方へと消えていってしまった。

 

「逃がした……いや、何とか撃退できたと言うべきですね。一先ず今はそれよりも……」

 

 一先ずの目的であるアナザーテイルレッドの撃退には成功した。

 がしかし、安堵している暇はない。今は一刻も早く、この戦いで傷ついたみんなの手当に動かなければ。

 テイルホワイトが振り向いた先、そこには物言わぬ死体となっているでろう和輝に向かって泣き叫ぶティアナの姿があった。

 

 

 

 

 アナザーテイルレッドの撃退に成功してから約数時間後。

 ここはスタートゥアールmark2内に存在するメディカルルーム。

 ここでは戦いで傷ついた者を完璧に癒すことが出来る技術があり、トゥアールの持ちうる最高峰の科学力によって機能しているこの医療施設に治療できないなんて事は存在しないと豪語出来る程だ。

 そんなメディカルルームは今現在、ある人物の集中治療の為に使用されている。

 その人物、それは先の戦いで命を落とした涼原和輝その人。

 本来ならば死者を蘇生させるなど、医療と言う枠組みを超越したまさに神の領域とも言える技術ではあるが、トゥアールの持ちうる超科学の結晶は現代のどんな優れた医療技術をも凌駕するが故、一度死んでしまったとは言え和輝を蘇生させることが可能かもしれないと、皆が一縷の望みをかけて和輝をメディカルルームに運び込んだのだ。

 

 そして現在、和輝がメディカルルームに運ばれてから数時間以上経ち、外の景色も段々と夕暮れに染まりつつある時間。

 治療が必要ではないティアナ、悠香、青葉、匠の4人はスタートゥアールmark2が停泊している旧校舎屋上にて和輝の復活を信じて祈っていた。

 

「ねぇ、悠香先輩。あいつ、本当に死んじまったのかな?」

 

 沈黙に耐え切れなくなったのか、匠が神妙な顔つきでそう口にした。

 

「たっくん、あなた何言っているのよ。和くんは今までどんなピンチがあっても立ち上がってきた男じゃない。今回もきっと……」

 

 普段ならばはっきりと言い切るであろう悠香ですらこの様子である。

 それほどに今回の戦いで受けた心の傷は大きいのだ。

 

「僕たち、戦いを舐め過ぎていたんじゃないのかな……」

 

「青ちゃんそれはどういう事?」

 

「その通りの意味だよ悠香……。僕たちは心の何処かで戦いに負けたとしても属性力が奪われるだけで命までは奪われない……。ましてや、属性力だって直ぐに取り返す事だって出来るからそう深刻な話じゃないって……そう思っていたんだと思う……」

 

 青葉の言葉が悠香と匠の胸に突き刺さる。

 別に悠香も匠も決しておちゃらけた態度でこの戦いを見守ってきたわけではなく、属性力という人の心の輝きを守る為に真剣になって自分の出来る事を尽くしていた。

 だが、悠香も匠も、心の奥底ではどんな事が起きても和輝やティアナ、華先生が奇跡を起こす、若しくは異世界から別のツインテール戦士が助けに現れてくれる筈だろうと楽天的に考えていたのは事実だ。

 

「でもこうやっていざもう二度と取り返す事が出来ない物を奪われた時、僕たちは何の覚悟もしてなかったんだなって……」

 

 属性力と命。

 どちらも他者に奪われてはいけない大切な物であり、どちらの方が上であるかなど本来は決まっていない。

 命が無事でも属性力を無くしたが為にその人の持つ個人としての個性を殺された者は、エレメリアンはこびるこの平行世界間においては無数に存在している故にどちらの方が大切などという概念は本来は存在しない。

 だがしかし、今の悠香たちには命と言う奪われてしまってはもう二度と取り返すチャンスがないであろう物の方が属性力よりも大事にと、そう思えてしまっていた。

 

「そうね……あたしたち、覚悟しているつもりでも何も覚悟できていなかったって訳ね……」

 

「俺たち、一体これからどうすればいいんすかね?」

 

 もしこのまま和輝が復活しなかったらという不安が匠を駆り立てる。

 それは他の皆も同じであった。

 

「わからないわ。でも、今はとりあえず和くんの復活を祈りましょう」

 

 先程からずっと俯いているティアナを気遣ってか悠香はそう口にする。

 事実、今出来る事はそれしかないのである。

 だがしかし、非情にも現実は残酷だった。

 直後、神妙な顔つきをしたトゥアールがスタートゥアールmark2から降りて来たのだ。

 まさかそんな……!? とその様子から最悪の事態を察する悠香、青葉、匠。

 ティアナのみ、藁にも縋る思いでトゥアールに駆け寄った。

 

「ママ!!」

 

「総愛、……」

 

「和輝は……和輝は無事なの!? ねぇ? ママ!!」

 

 我が子にも等しい少女の悲痛な訴えを聞き、ただ俯き視線を逸らす事しか出来ないトゥアール。

 ティアナはそれを見て見ぬふりをするかの如く、何度も何度も和輝が無事蘇生出来たのかを問いかけるがしかし、結果は変わらない。

 

「わかりました……。ついてきてください」

 

 遂に意を決したトゥアールがそうティアナに声をかける。

 和輝に会えると感じたティアナの表情が明るくなると同時に、トゥアールは胸が締め付けられるような気分を感じた。

 

「皆さんもどうぞ」

 

 声をかけられた悠香たちはティアナとは違い、皆が暗い表情のままその後に続きスタートゥアールmark2内に乗り込んでいく。

 スタートゥアールmark2の中は外からは想像もつかない程に広くなっており、まるでSF映画かあるいはヒーロー物の秘密基地を彷彿とさせる内装になっていた。

 もし、こんな状況でないのなら青葉や匠と言ったオタク趣味のある者たちがはしゃいでいただろうが今はとてもじゃないが騒ぐような時ではない。

 そして、ティアナを先頭に一行はメディカルルームに辿り着いた。

 

「治療を終えた華さんには現在、安静にしてもらう為に居住ブロック内に移動してもらっていますので、中には和輝君一人だけになっています」

 

 そう説明を聞き終えるや否やティアナは誰よりも早く、メディカルルーム内に駆け込んだ。

 早く和輝に会いたいと言うその一心がティアナを突き動かしたのだ。

 

「和輝!!」

 

 メディカルルームに駆け込んだティアナ。

 中は近未来的な医療装置が幾つも存在しており、その中で異彩を放つかの如く、透明なカプセル状の機械が寝かされるように中央に存在している。

 和輝はそこにいた。

 

「和輝……!! もう、心配したんだから……!!」

 

 カプセルの中で穏やかな笑みを浮かべて眠っているように見える和輝。

 服装は制服のままであり、何処をどう見ても傷一つ付いていない。

 アナザーテイルレッドに戦いを挑みに行く前の最も綺麗だった瞬間その物だった。

 

「和輝!! あなた何時まで寝てるのよ!! ほらもう早く起きなさいよ!!」

 

 いつもの調子を取り戻したティアナがカプセル側面のスイッチを押してカプセルを開く。

 中からは極寒を感じさせる冷気が溢れ出てくる。

 

「もう、あなたって本当に寝坊助よね~。私が元の世界に帰ったらどうするつもりだったのよ~」

 

「もしかして私を驚かせようとしているわけ? はいはい、もう充分、驚いたから早く起きなさいよ」

 

「いい加減にしなさいよ。じゃないと私、あなたにもうツインテール触らせて上げないんだから……!!」

 

 明るく話しかけ続けるティアナ。

 しかし、和輝は何も答えない。

 同じ笑みを浮かべているだけである。

 

「総愛……」

 

「和輝……? ねぇ? 返事くらいしなさいよ……。和輝……!! お願いだから返事してよ……」

 

 声をかけようとするトゥアールだが、ティアナはそれに気づかない。

 ティアナの目は涙で溢れていた。

 

「トゥアールさん……」

 

「手は尽くしました。ですが、やはり命まで元に戻すのはどれだけ科学が発展し、進化したとしてもそれは不可能と言わざる得ません」

 

 どう声をかけていいのかわからないでいた匠が何とかトゥアールに一言声をかけ、応じるトゥアール。

 残酷だが当たり前の事実を聞いた事で匠たちは涙を流す。

 そんな中もティアナは物言わぬ和輝に声をかけ続けていた。

 

「和輝……!! 和輝……!! 和輝……!!」

 

 まるで壊れたおもちゃかの如く、同じ言葉をかけ続けるティアナ。

 遂に見かねた悠香がティアナと和輝の間に割り込んだ。

 

「もうやめにしましょ。和くんもこれじゃ眠れないじゃない」

 

「邪魔しないでください!! 和輝がもうすぐ目を覚ますかもしれないんです……!!」

 

「ティアちゃん、辛いかもしれないけど、もう和くんは……」

 

「そんな事ない!! ママの技術ならきっと……!! 和輝はきっと……!! 目を覚ますんだから!!」

 

 ヒートアップするティアナを見て、悠香もまた熱を帯びる。

 現実を突きつけることが辛く苦しくてもそれでもやらねばならぬ事だからだ。

 

「ティアちゃん!! いい加減にしなさい!! 和くんはもう死んだのよ!!」

 

 死んだ。その一言がメディカルルーム内に木霊する。

 それを聞いたティアナはぶるっと体を震わせた後、一目散にメディカルルームから飛び出し、そのままスタートゥアールmark2からも出て行ってしまった。

 しんと静まり返るメディカルルーム。

 和輝だけが穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 冷たい風が私のツインテールに吹きかける。

 横になっていた私は体を起こしてツインテールを整え終えてから周囲を確認。

 

「ここは……?」

 

 街灯だけが頼りなる真っ暗な闇の中で滑り台やブランコといった遊具が目に入る。

 ここは確か、郊外にある小さな公園よね。

 どうやら私はこの公園のベンチで横になって寝ていたという事がわかった。

 

「3時43分……」

 

 スマホを開き、時刻を確認。

 驚くべきことに今の時間はまさかの深夜。普段なら寝ているであろう時間なのに私はどうしてこんな公園にいるのかがわからない。

 

「どうしてここに……。確か、今日は……ッ!?」

 

 フラッシュバックするのは私の目の前で血まみれになる和輝の姿を始めとしたさまざまな光景。

 思い出したくもない凄惨な光景の数々が私の落ち着いていた感情を乱していく。

 

「ゔっ」

 

 途端、溢れ出る吐き気。

 私は場所に気を遣うことなく思いっきり吐いて吐いて吐きまくった。

 本来、十分に吐ききった時は多少なりともスッキリするようなものな気がするけど、今の私の精神状態からしてスッキリとは程遠いと言わざる得ない。

 

「わかってた……和輝が死んだって……。わかってた……」

 

 ひとしきり吐き終えた私は今度は泣いて泣いて泣きまくった。

 そもそも何故気づいたらこんな場所にいるのかと言うのも、和輝が死んだと言われたあの時、突きつけられた現実を受け入れきれずにただあてもなく走り続けたから。

 だけど、本当は誰よりもわかっていた。

 わかっていたけど、わかりたくなかった。

 受け入れてしまえば和輝の事を忘れてしまうんじゃないかと思って怖かった。

 

「和輝……」

 

 思えばいつからなのかな。私が和輝を意識し始めたのは。

 グレモリーギルディの騒動から?

 いや多分違う。厳密にはもう少し前からだった気もするけど、今はもう思い出せない。最初は態度も悪いし、胸の事も馬鹿にするしで印象最悪だったのに、今じゃ和輝がいない人生なんて片方だけになってしまったツインテールのように不完全な物のように感じてしまう。

 和輝が死んだ今、私に残されたのはツインテールだけ……

 

「私、どうしたら――」

 

 そんな風に悩んでいる時だった。

 私の服のポケットにあるスマホが着信音と共に震え出したの。

 ママが心配して電話をかけてきたのかなと思った私は、かけてきた相手が誰なのかを碌に見ずにスマホを手に取り通話開始。

 

「ママ? 私……」

 

『よう総愛。思っていたよりかは元気そうじゃねぇか?』

 

「その声は……!?」

 

 ママとは違う明らかな男性の声。

 この声の該当者はたった一人。レイジ・レオン=ザード、憎きアナザーテイルレッドの変身者にして和輝の命を奪った言わば仇と呼べる存在。

 怒りの感情のままに私は言葉をぶつける。

 

「あんたみたいな人のせいで……!! 和輝が!! 和輝が!!」

 

『おいおい、そう怒るなよ。言っておくがオレだってお前の所の坊主のせいで体がボロボロになっちまったんだぜぇ? 坊主の命だけで許してやるオレに感謝して欲しいくらいだぜ』

 

「どの口が……!!」

 

 どこ吹く風とばかりに減らず口を叩くレイジに私の怒りはさらに燃え上がった。

 この男だけは許しておけない。

 今すぐにでも敵を討ちに行きたいとそう思ったその時、レイジの口から予想だにしていない言葉が飛び出した。

 

『ていうかそもそも、お前さんは何か勘違いをしてねぇか?』

 

「勘違い……ですって?」

 

『おおそうだ。お前は重大な勘違いをしていやがる』

 

「どういう意味よ」

 

『なぁに、簡単な事さ。坊主が死んだのはオレのせいじゃない。お前のせいだって言いてぇんだよ』

 

「なッ!?」

 

 手を下しておきながらこの始末。

 質が悪いという次元を遥かに超えたその言動に言い返してやろうとする私。

 がしかし、レイジは私の喋る暇を与えずに喋りかける。

 

『いいか? 冷静に考えて見ろ? そもそもオレは元々、坊主を殺す気なんてなかったんだぜ。現にオレは坊主の変身を解除こそしたがその後、手を下そうとしなかった。坊主が死んだのはお前というお荷物を庇おうとした言わば事故みてぇな物。寧ろ言ってしまえば庇おうとした要因であるお前のせいじゃねぇか』

 

「私のせい……」

 

 心と心の隙間に入り込むようなその声。

 怒りの感情はいつの間にか消え去り、自責の念が出てき始める。

 

『そうだ。お前がもっと強く、あの場でお荷物にならなければ坊主は死ななかった。さらに元を辿ればお前が元の世界でオレをちゃんと止めることが出来てさえいれば坊主は死ぬこともなかったんだ。全てはお前のせいなんだよ』

 

「違う……!! そんな事……絶対に……」

 

『違わねぇさ。まぁ確かに、手を下したのはオレだが、その要因を作ったのはほかならぬお前自身であることに変りはない。それにな、どうせ遅かれ早かれいずれはこうなっちまう運命だったとも言える』

 

「運命……?」

 

『ああ。てかそもそもお前はよ、不思議に思った事はねぇか? 何故、エレメリアンやオレと言った敵がお前の周りにばかりに現れるのか』

 

「ッ!?」

 

 今までずっと不思議だった点を突かれた事もあり、ある仮説が浮かび上がる。

 だけど、それは認めたくない仮説だった。

 

『いいか、お前の持つ究極のツインテール。それはな――』

 

「やめて……」

 

 それ以上、言わないで。

 それ以上、言われたら私……私……

 

『世界全てをツインテールへと変えてそのまま滅ぼす要因になると同時に、多くのエレメリアンたちを引き寄せる言わば超特大の餌のような物。つまりだ!! この世界が襲われ、あの坊主が死んだのも全部!! お前と言う強大なツインテール属性の持ち主がいたからなんだよぉ!!』

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 私自身がエレメリアンなどを呼び寄せているんじゃないかってわかってた。

 私だって薄々そうなんじゃないかと思っていたけど、そんな筈ないと見て見ぬふりをしていた。

 だけど、いざそう告げられた時、私はもうどうすることも出来ない状況に立っていた。

 

『これでわかったろ。坊主はオレのせいで死んだんじゃない。お前のせいだ』

 

 オマエノセイダ。オマエノセイダ。オマエノセイダ。オマエノセイダ。

 その言葉が私の頭の中に木霊する。

 もうどうにかなりそう。いや、もうどうにかなっている。そんな気がする。

 

『そこで提案だ。お前の持つ、究極のツインテールと呼ばれしツインテール属性。それをオレにくれないか?』

 

「え……?」

 

『考えて見ろよ。このままお前がツインテールを好きでい続けたらいずれ第二第三の坊主が生まれ、しまいにゃこの世界その物が滅びに向かうんだぜ。だったら、このオレにそれを渡すのがある意味では賢明だと思うがなぁ?』

 

 私がツインテールを手放す?

 命よりも大事だと言えるツインテールを?

 以前の私、それこそ和輝で出会う前の元の世界に居た頃ならば即座に拒否していたその言葉。

 だけど、今の私は直ぐに拒否など出来ない。

 

『なぁに、少し時間をやろう。今から2時間後、丁度、日が上り始めるかどうかの時間にオレはお前らとこの世界で最初に戦った場所で待つ。言っておくがこれは脅迫じゃなくて提案だ。尤も、来なかったら来なかったで何をするかはわからねぇがなぁ?』

 

 今から2時間。

 それまでに答えを決めるだなんて無理にも程がある。

 でも決めないとこの世界で会ったみんなが犠牲に……

 

『ではいい答えを期待しているぜ』

 

 そう言い残して通話は切れた。

 残された私はどうすればいいのか何もわからない。

 

「私のせいで……私が和輝を……殺した……」

 

 あるのは後悔ともよく似た何かだった。




シリアスなシーンは書きやすくていいですね。
正直、自分はギャグが苦手なので……
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