俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第112話 トゥアールと秘密基地

 衝撃の全校集会が終わり、教室へと戻って来た俺たちにはロングホームルームが待っていた。

 先程のトゥアールさんには色々と度肝抜かれたが、もう大丈夫だろう。

 そう安心したのだが、衝撃的な出来事はまだ終わってなどいなかった。

 

「と言う事で、今日からこのクラスの副担任となります観束トゥアールです」

 

 黒板に書かれた『観束トゥアール』という白い文字。

 そう、トゥアールさんはただの教師としてこの学校にやって来ただけでなく、なんと俺たちのクラスの新しい副担任を受け持つことになったんだ。

 これには俺もティアナももう言葉が出てこない。

 もうどうにでもなれと言った気分だぜ。

 

「皆さん、これからよろしくお願いします」

 

 トゥアールさんは黒板の前にて、その煌めく銀髪と豊満すぎるおっぱいを揺らし頭を下げる。

 挨拶を終えた途端にうぉぉぉぉッ!! とクラスの男どもの下心満載の雄たけびが教室内を駆け巡った。

 

「ちょっと男子!! 静かにしなさいよ!!」

 

 勝気な女子生徒が注意を飛ばすもそれが叶うなら苦労はしねぇ。

 現に俺と匠を除いた大半の男子生徒はトゥアールさんの美貌にノックアウト。

 わざと揺らしているんじゃないかと勘ぐる程にぶるんぶるんと揺れるその胸の爆弾を見た我がクラスの男どもの大半は、人間らしい理性をかなぐり捨てて皆が下半身で物事を考えるような低能な雄猿へと見事に退化してしまっている。

 

「全く、お前らもう少し理性を保ったらどうよ」

 

 向こうの席にて匠一人、やれやれとクラスの男どもの惨状に呆れている。

 だけど俺は知っている。アイツもトゥアールさんを初めてみた時はそのおっぱいに真っ先に食いついた馬鹿の一人だったという事を。

 

「よく言うぜ。おめぇもその一人だったろうが」

 

「ちょっと、そんな事よりも和輝」

 

 俺の肩を隣の席のティアナがとんとんと叩く。

 呼ばれた俺はティアナの方へと体を向ける。

 

「ママは一体、何を考えているのかしら? 和輝わかる?」

 

 この一週間、トゥアールさんは何の連絡もせず、いざこうして久しぶりに会ってみたら、学校の復旧を請け負っていた且つその時培ったコネを利用して教師となり俺たちのクラスの副担任となっていた。

 正直、何が狙いなのか全く以てわからない。

 親の一人でもあるティアナからすればその困惑は並み以上だ。

 

「さぁ? でも、何か訳があるんだろ。ま、天才の考える事はサッパリわからねぇから何とも言えないがな」

 

「変な事してなきゃいいけど……」

 

「おいおい、通学中の時とは言ってる事が真逆じゃねぇか……」

 

 まぁでも、ティアナの気持ちはよくわかる。

 現にトゥアールさんの顔は物凄く緩んでおり、このチヤホヤされる感じについては満更でもなさそうだ。

 

(見ましたか尊さん……!! これが私の真の実力です。あの時の雪辱は晴らしましたよ……!!)

 

 と思ったら今度は涙を流しながら天井を見上げるトゥアールさん。

 その姿からは途轍もない達成感のような物を感じさせる。

 

「まさか……な」

 

 やべぇ、学校再開だってのに嫌な予感が別の意味でプンプンするぜ。

 頼むからトゥアールさん。変な事だけはしないでくれよ。

 

「何かあった時は力づくで……!!」

 

「バカ!! それだけはやめろ!!」

 

 お前が折檻したら色々と不味い事になるだろうが!!

 ティアナの過激発言を受けてこれからの学生生活に不安を覚えるそんな中、ホームルームはいつの間にかトゥアールさんもといトゥアール先生への質問タイムへと移っていた。

 退化した雄猿どもが一斉に教卓の前へと群がり始める。

 

「観束先生!! こ、好物は……」

 

「バカ!! そんな当たり前なこと聞いてどうするんだよ!!」

 

「観束先生!! 年齢は? それと後、スリーサイズ!!」

 

「テイルバイオレットは好きですか!!」

 

 若干一名、下心満載過ぎる奴がいたような気がしたが、トゥアールさんはそれに対しても一切の笑顔を絶やさずに対応していく。

 紛れもなくそれはプロのアイドルのそれだ。

 

「好物は未発達の可愛い幼女で、年齢は37、スリーサイズはB95・W57・H87、テイルバイオレットは訳あって好きとも言いづらいですが、別に嫌いではないですね」

 

 おぉーと感嘆の声が出てくると共に質問に来た皆が一斉にメモ帳の上にて文字を躍らせる。

 お前らは記者会見のマスコミかとツッコミたいがそう出来る空気ではない。

 尤も、それ以上にトゥアールさんの発言の方が少し気にはなったが、もう疲れたのでただの聞き間違いだろうとスルーする事にしよう。

 

「それよりも先生!! 先生は……結婚されていたりとかは……?」

 

「いえ、私は独身です」

 

 独身宣言にざわつく男ども。

 何つうか、すげぇわかりやすい奴らだな全く。

 呆れる一方、俺としては現状テイルバイオレット以上の人気を得てしまっているトゥアールさんに少し嫉妬気味だ。

 やはり、思春期の馬鹿にはツインテールよりも胸の方が大事なのかもしれない。

 

「ですが皆さん、勘違いしないでください。私にはかつて将来を誓い合い、今では単なる恋人をも超える魂の結び付きで結ばれた運命の男性がいます」

 

 その男性がティアナの親父である総二さんだという事は俺とティアナにはお見通しだ。

 総二さんとトゥアールさんの関係については多少脚色こそしてはいるものの、ある意味では間違っていない。

 これには良からぬ事を考えていた猿共もがっくし肩を下ろしている。

 

「恋人をも超える魂の結び付き。それ即ちツインテール……流石ママね」

 

 隣のティアナはわけわからん事を言いながらうんうんと頷いていた。

 ティアナの奴、記憶が戻って以降、こういう意味わかんねぇ事を言いがちな気がする。

 

「あのー、そう言えば橘とはどういう関係なんですか? さっき、橘の奴が先生の事をママって言ってましたけど……」

 

 思わずゲッと声を漏らすその質問。

 さっきと言うのは間違いなく、集会にてトゥアールさんを見たティアナが思わず叫んでしまった場面の事だろう。

 その時は皆がトゥアールさんに釘付けだった+質問できる雰囲気ではない事もあり、あまり追及されなかったが、まさかこのタイミングでそれが飛んでくるとは思いもしなかった。

 これは下手をすればややこしい事になりかねないという事もあり、俺とティアナは思わず身構える。

 現にさっきまで質問に参加していなかった一部の男子連中はおろか、他の全女子連中までもこれの質問には食い気味だ。

 頼むぜ、トゥアールさん。上手く誤魔化してくれ。

 

「総愛……じゃなかった。えーっと橘ティアナさんとはですね……娘でもあり、家族でもあり……その……」

 

「それってつまり……!!」

 

「「「不倫!?」」」

 

 不倫。男子どもが発したそのワードに酷く食いつき始める女子連中。

 男子どもを軽く弾き飛ばした彼女らは半分がトゥアールさんの下へ、もう半分がティアナの下へと群がり始める。

 

「先生って橘さんのお父さんと不倫してるんですか!?」

 

「それも娘公認!?」

 

「恋人をも超える関係ってそういう事!?」

 

「でも、それって不倫なのかな……?」

 

 お前らは昼ドラに興奮する主婦か。

 ヒートアップした女子連中の質問攻めは先程の男子連中のそれとは全くと言っていい程に違う。

 これはもう、収拾がつかねぇぞ。どうすんだよ。

 こんな時だってのに担任のジジイは窓際で気持ちよさそうに眠ってやがる。

 

「いやだから、別にママと私は家族ではあるけど、血は繋がってなくて……!!」

 

「だったらどうしてママって言うの!?」

 

「先生!! 先生はティアナちゃんのお父さんの事をどう想っているんですか?」

 

「そりゃあ勿論、大好きに決まってます。何てったってあの人は私の最も大事な物を託した人ですし」

 

 必死に誤魔化そうとするティアナに対し、トゥアールさんは悪乗りをするかの如く事態をややこしくするような発言を連発していく。

 やれ、20年以上の付き合いだの、私のファーストキスの相手だのと、言い方こそあれだが、どれもこれもが事実なのが余計に質が悪い。

 最早、収拾がつかないなんてレベルじゃなくなったそんな時、遂にティアナの堪忍袋の緒が切れた。

 

「あーもう!! いい加減にしてよ!!」

 

 怒りの余り、ツインテールを逆立てさせたティアナは目には見えない速さで群がる女子連中を掻き分け、トゥアールさんに急接近。

 そして次の瞬間、ティアナはトゥアールさんの頭を掴むと力一杯黒板へと叩きつけた。

 

「オグッ!!」

 

 ドゴン!! と凄まじい音が鳴ったと同時に静まり返る教室内。

 次の瞬間に皆が目にしたのは、黒板の真ん中に顔から突き刺さり力なく垂れる新米教師の哀れな姿だった。

 

 

 

 

 休み時間。それは本来なら机の上でスヤスヤと寝ていても誰も怒らないという至福の時間だが、今日はゆっくりと寝てなどいられない。

 俺たちはトゥアールさんに色々と聞きたいことがあるという事もあり、話しやすい場所である新聞部部室に向かっている最中だ。

 

「いや~、酷い目に遭いましたね~」

 

「ママがいけないんだからね!!」

 

 プンプンとツインテールを揺らしわかりやすく怒るティアナと全く以て反省してなさそうな笑顔で語るトゥアールさん。

 さっきまで黒板に頭から突き刺さっていた人とは思えないその回復力には驚かされるばかりだぜ。

 

「でもよ、だからってお前、あんな派手にやらなくても良かったじゃねぇか。トゥアールさんがすぐ復活して黒板を元に戻してくれたから何とか誤魔化せたけどよ」

 

 正直、本当に誤魔化せたのかどうかは定かではない。

 どちらかと言うと、余りに衝撃的な一連の流れに脳が処理しきれず、今のはただの錯覚だと思い込むしかなかったと言うのが真実な気がする。

 

「仕方ないでしょ……!! ああでもしないと止まらなかったんだから……」

 

 だからって力尽くで解決する奴がどこに居るんだよ。

 俺が言うのも何だが、もう少し穏便に解決してくれ。

 相手がトゥアールさんだから良かったけど、俺や匠の場合は命にかかわるからよ。

 

「あのなぁ……!!」

 

「まぁまぁ、誤魔化せたのは事実なんだし、ここはおおめに見てやれよ」

 

「匠、お前な……」

 

「匠君の言う通りですよ。見ての通り、私ならピンピンしてますし、それに皆さん同様、直に慣れて誰も何も思わなくなる筈です」

 

 曰く、学生の頃のトゥアールさんは毎日のようにティアナの母親である愛香さんからさっきのティアナ以上の仕打ちを受けて来たらしく、いつの間にか校内の名物として扱われてしまっていたらしい。

 つまり、これから毎日、ティアナとトゥアールさんの人外めいたやり取りが行われるのは確定しているのか……

 トゥアールさんからすれば最早ちょっとしたスキンシップのような物らしいけど、傍から見ている俺からすればひやひや物なのは変わりない。

 

「ちょっとママ……!! 慣れるってどういう意味よ。まさかこれからも似たような騒ぎを起こすつもりじゃ……!!」

 

 ツインテールを逆立ててトゥアールさんを睨むティアナ。

 トゥアールさん相手だとリミッターが効いていないのか、その迫力は俺を含めた他の奴らに見せるそれとは比べ物にならない。

 

「いや~、何の事でしょうね~?」

 

「ちょっとママ!! 何よその態度……!!」

 

 わかりやすくとぼけたトゥアールさんをティアナは見逃さない。

 再度怒りに燃えたティアナは素早くトゥアールさん背中に飛び掛かるとヘッドロックの要領で腕を絡みつかせる。

 熟練のプロレスラーを想起させるその一連の流れは思わず見惚れてしまうくらいだ。

 

「ギブギブギブ!! 総愛!! ギブ!!」

 

「そうやっていつも口先ばっかり!! 私はお母さんのように優しくはしないんだからね!!」

 

 言っておくが今俺たちがいるのは学校の廊下。

 新聞部部室はもう直ぐとは言え、まだ人の気配が完全に無くなったわけではない。

 詰まる所、これらの出来事はばっちりと他の生徒たちに見られている。

 このままではこの母娘による過激すぎるスキンシップが学校の名物として誰からも驚かれなくなるのは確かにそう遠い未来ではないだろうな。

 

「残念な美人ってさ、トゥアールさんの事を指すんだな」

 

「だな」

 

 もうツッコミ疲れた俺は匠の言葉に頷きつつ新聞部部室に辿り着く。

 中には事前に呼んでおいた悠香さんと青葉さん、そして華先生と、この学校にいる俺たちの関係者が勢ぞろいだ。

 軽く挨拶をしつつ俺と匠はいつもの定位置に座り、折檻し終えたティアナが俺の隣に続く。

 ちなみに最後にやって来たトゥアールさんはとても女性が見せてはいけないような顔色をしていたとだけ言っておこう。

 

「おぇっ、少々お待ちください。ふぅ……さて、ではどこから話しましょうか」

 

 ホワイトボードの前に立つトゥアールさんはいつも通りの口調で皆に向かってそう喋りかける。

 今にも死にそうな顔色だったというのにものの数秒で復活したのは流石と言わざる得ない。

 あんたは異能生存体か何かだよ全く。

 

「えーっと……トゥアール先生? まず聞きたいんですけど、学校をリフォームしたってさっき校長先生が言ってましたけど、何をしたんです?」 

 

 真っ先に手を上げたのは悠香さん。

 質問内容は学校の復旧ついでに学校全体をリフォームした事についてだ。

 悠香さんに続くように匠を恐る恐る声を上げる。

 

「ただ直したって訳じゃねーっすよね?」

 

 正直、パッと見た所何かある様子は見られない。

 強いて言うなら少し綺麗になった程度ではあるが、この旧校舎棟のような古臭い建物はほぼそのままのようにも見える。

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。これにはまず、敵の目的など含めて整理しつつ順々に話すとしましょう」

 

 トゥアールさんはそう言うや否やホワイトボードに俺たちが提供した今わかっているアルティデビルの情報などをスラスラと書き込んでいく。

 そこには今まで出現してきたエレメリアンの事が簡潔にまとめられていく。

 

「悠香さんから提供された今までのデータ及び和輝君や総愛からの話、あとはレイジの発言や目的などから推察するに、アルティデビルと呼ばれるエレメリアンの集団の目的は総愛の持つツインテール属性、それも究極のツインテールに匹敵する強大な属性力を優先的に狙っているに違いありません」

 

 頷く俺たち。

 その狙いの真意は兎も角、奴らアルティデビルがティアナ自身を狙っているのは承知している。

 

「これからも奴らは確実に総愛を狙ってくるでしょう。アルティメギルの前例を考慮すると刺客たちは今後ますます強大になるのもまた確実と言えます。それにいつまたレイジが力を取り戻して再び襲撃を仕掛けてくるか……」

 

 総二さんたちが戦ったアルティメギル。

 奴らが四頂軍と呼ばれる強大な部隊を順次ぶつけていったというのは俺も知っている。

 アルティデビルがアルティメギルを模倣した組織だとするのなら、より強力な部隊を残していても何も不思議ではないのは事実。

 それにいつまたアナザーテイルレッドの野郎が現れるのかについても同様だ。

 

「そこで私はこう考えました。この世界も総二様たちの世界同様にツインテイルズをサポートする秘密基地が必要だと。スタートゥアールmark2のままではやれることに限界がありますし」

 

「なるほど。秘密基地ってのはそういう意図だったって訳か」

 

 ティアナからママは拠点を作りに行ったと聞いた時はどういう意図だよとは思ったが、まさかこんな意図があったとはな。

 ふざけているようで実の所、後々の事を見据えて真剣に考えているトゥアールさんは流石だぜ。

 

「でもちょっと待って……!! ママ!! その肝心の秘密基地ってまさか……!!」

 

「まさか……よね?」

 

「もしかするかも……」

 

 何かに気が付いた様子のティアナ、悠香さん、青葉さんの女子三人。

 匠と華先生同様に何のことかさっぱりわかっていなかった俺であったが、つい数時間前の集会でよぎった考えが蘇ると同時にもしやと言ったある答えが浮かび上がる。

 

「ま、まさかじゃねぇけど……学校全体をリフォームしたのって……」

 

「はい。この学校を秘密基地にする為ですよ」

 

 さらりと言ってのけるトゥアールさん。

 これには皆が驚きの声を上げざるを得ない。

 

「ええええ!? マジっすか!?」

 

「観束先生!! それは本当なのですか!?」

 

 俺たちの中で最も五月蠅い声を上げたのは匠と華先生の二人。

 二人とも、まさかそんな訳ある筈がないと思っていたのかその衝撃は大きい。

 俺はそんな華先生に教員として事前に何か聞いていなかったのかを尋ねる。

 

「てか、今更だけど華先生は何か聞いていたのかよ」

 

「いえそんな!! 私も今朝急に校長先生からリフォームされたと言われて何のことかさっぱりで……」

 

 何つうか、トゥアールさんも滅茶苦茶だけど、それ以上にこの学校の校長も大概だなこりゃあ。

 てかトゥアールさん。せめて俺たちには事前に言っておいてくれよ。

 

「で、でもよー、見た所何も感じないけど、何したんすか?」

 

「そうよ!! もし変な事してたらただじゃおかないんだから!!」

 

 再び恐る恐る尋ねる匠と今にも飛びつかんと警戒するティアナ。

 トゥアールさんはそれに動じることなく堂々と解説し始めた。

 

「先ずはですね――」

 

 そこから先は専門用語を含めて無駄に長かったので要所要所大事な部分を抜粋していく。

 先ずはこの学校全体にエレメリアンのみに有効な認識攪乱を施す事で、学校が襲撃されるようなリスクを限界まで減らす事に成功したらしく、万が一、学校が戦場になったとしても、生徒たち無関係な人が犠牲にならぬように学校の強度は以前の100倍以上で耐震、耐火性能もバッチリ。さらには地下にスタートゥアールmark2以上の設備を備えた居住スペースを兼ねた巨大基地を建造しており、学校のいたる場所からそこにいく事が出来るらしい。

 

「――と、ざっとこんな所です。一応、この部室には地下の基地に負けぬくらいには様々な機能を施しましたので、悠香さんと青葉さんは後でこの説明書を読んでおいてください」

 

 そう言ってトゥアールさんは悠香さんと青葉さんの二人に取扱説明書と書かれた分厚い冊子を渡した。

 一見、何の変哲もないこの部室が他の部屋以上に改造されているとは思っても見なかったぜ。

 トゥアールさんの科学力、恐るべし。

 

「後、この学校の外にも様々な場所からここに転送できるように地球全体に転送ポイントを用意しました。おかげで準備するのに随分と時間がかかりましたよ……」

 

 トゥアールさんが各種転送ポイントが羅列してあるリストを表示する。

 そこには日本だけで見ても近所の公園のトイレから青森県のとある家と様々、さらには世界各地となると各種世界遺産や主要都市、果ては南極の観測所まで記載されており、最早どこからでもここに繋がると言ってもいい。

 あれ? 今、アラームクロックの名前があったような?

 

「ねぇママ? でも、これじゃもし誰かが間違って基地に入ってきたらどうするのよ」

 

「安心してください総愛。そもそも無関係な人には通れない仕組みになっています。後、この転送ポイント以外の場所に行くときは専用の装置を使えば一方通行とはいえ、どこへでも行けますので、それも安心してください」

 

 成程、そいつは確かに便利だし安全だ。

 てかその転送ポイントってやらを上手く使えば通学の時も一気に学校へと行けるんじゃ……!!

 

「ね、ねぇ? トゥアール先生? あの……ここに書かれたセカンドトゥアールオー(仮)って一体……」

 

 トゥアールさんに渡されていた説明書。 

 そこには秘密基地内に存在している巨大ロボットのマニュアルまで載っており、悠香さんが恐る恐る尋ねて来た。

 何々? 体育館と本校舎が割れる事で発進口となり、そこから二機の巨大メカが発進。発進したメカが合体する事で一体の巨大ロボとなって敵を殲滅する。胸から放つ超強力熱線の最大破壊力は……地球をも木っ端微塵にするだぁっ!?

 こればかりは俺や匠といった男のロマンがわかる奴もドン引きする内容だ。

 

「いざという時の切り札です。本来はテイルブレスとリンクさせて頭で考えて動かしますが、今回は操縦方法さえわかれば誰でも動かせますのでいざという時の為にお二人は内容を全部叩き込んでください」

 

「わかった……」

 

「青ちゃん!? マジでやるの!?」

 

 どうやら青葉さんはやる気らしい。眼がいつになくメラメラと燃えている。

 ちなみにこのロボット、説明書をチラッと見るだけでも合体すれば全長は推定約500メートル近くあるらしい。

 つまり、これを使う時はそれ相応の相手が必要という事になる。

 そんな相手は出てこない事を祈るに限る。

 

「とまぁ、長ったらしい説明はこの辺りでおしまいにして、実際に色々見てもらいましょう。そっちの方が手っ取り早いですしね」

 

 唐突にトゥアールさんが壁にかけられたポスターに手をかざして何らかの操作を行う。

 するとどうだ。その隣の壁がパカリと開き、中からエレベーターが姿を現した。

 どうやらこのエレベーターを使えば地下深くにある秘密基地に向かうことが出来るらしい。

 

「マジか、すげぇ……」

 

「ほんとに秘密基地なんすね……」

 

 実際にこの目で直接見たという事もあり、興奮を隠しきれない俺と匠。

 普段は無口な青葉さんも先程のロボット同様に心なしか興奮しているように見える。

 

「でもママ、もう直ぐで休み時間終わるけど」

 

 意気揚々とエレベーターに乗ろうとする俺たちを咎めるかの如く、ティアナがそう言って壁にかかった時計を指さす。

 確かにもう直ぐでチャイムが鳴る時間だ。

 

「あたしと青ちゃんはある程度なら免除されているから大丈夫だけど……華先生は?」

 

「先生なら一応、次の授業は三限目だからそれまでなら何とかなるけど……」

 

「ほーん。じゃあしゃあねぇ、こうなったら俺らはサボるっきゃねぇな」

 

「ちょっと和輝!!」

 

「そうです涼原君!! 緊急時は兎も角、授業はちゃんと受けなさい!!」

 

 そもそも出席自体がある程度免除されている悠香さんと青葉さんと次の担当授業が三限目である華先生とは違い、俺とティアナと匠はそんな理由は一切ない。

 尤も、俺と匠は授業をサボるなんて朝飯前な気もするけど、真面目なティアナと華先生からすればそれは許せないらしい。

 

「安心してください。それについても対策はバッチリです」

 

 ふっふっふと不敵な笑みを浮かべたトゥアールさんがそう言うや否や、何処からか取り出したタブレットを俺たちに見せて来た。

 その画面に映っているのは俺たちの教室内のリアルタイム映像。

 そこには何と、自分の席に座る俺たちの姿があった。

 

「おいまて!! 俺がいるんだが!?」

 

「どういう事なの!? ちょっとママ!?」

 

 映像の中でクラスメイト達を会話している俺たちを見る限り、合成の類ではないのは一目瞭然だし、映像の中に映っている時計の時刻からしてこれが現在の教室内の様子なのだともわかる。

 つまり、今の教室には俺たちの姿をした何かがいるという事だ。

 まさか、俺たちの留守を誤魔化す為のアンドロイドなんじゃ……

 

「ドッペルゲンガー……」

 

「どどど、ドッペルゲンガー!?」

 

 脅かす青葉さんとそれを真に受ける華先生。

 そんな二人をよそにトゥアールさんはこの奇妙な現象について解説し始める。

 

「これは質量を持ち、AIによって会話も可能な立体映像です」

 

 立体映像だって!?

 それってつまり、今、教室内にいる俺たちは偽物のアンドロイドではなく、超高性能な映像でしかないってことか?

 トゥアールさんは自信満々に頷き語る。

 何でも、授業中などの緊急時に長時間、俺やティアナが教室から抜け出していても不審がられないようにする為に会話と軽い触れ合いすらも可能な超高性能質量付き立体映像を投影できる装置を至る所に設置したのだと。

 これならいつ何時、エレメリアンが出現しても、この立体映像と入れ替わる事で学校を抜け出して出撃することが可能らしい。

 

「でも、それでは授業をサボっているのには変わらないんじゃ……」

 

「大丈夫ですよ華さん。ヒーローたる者、授業の一回や二回サボるのはお約束です。私も若い頃は総二様とよく二人きりで授業をサボり、こっそりと愛を確かめ合ったものです」

 

 自信満々にサボる事を推奨するトゥアールさんだけど、あんた一応今日からここの教師でもあるんだよな?

 てかヒーロー云々言ってた癖にあんたのサボる原因はそれかい。

 まぁ、総二さんの性格的に今言った事はでたらめなんだろうけどよ。

 

「ま、要するにこれなら堂々とサボれるって事か。ありがてぇぜ」

 

「和輝、あなたねぇ……!!」

 

 ジト目で睨んでくるティアナを俺は軽く受け流す。

 何にせよ、これでサボるのに躊躇いが無くなったって訳だ。

 俺たちは休み時間終了のチャイムが鳴り響くのも気にせずにエレベーターに乗り込もうとする。

 そんな時だった。

 

 

 ツインテール結ぼうぜ

      ツインテール結ぼうぜ

           ツインテール結ぼうぜ 

 

 

 聞こえてくるのは先日、俺がティアナに向かって言ったあの言葉の一部分。

 警報でも鳴らしているのかのように鳴り響いているが、如何せん聞こえてくるのが全部俺の声且つ内容が内容なので恥ずかしい事この上ない。

 俺とティアナ、あとトゥアールさん以外のみんながどう反応していいのかわからずに困惑しているのが余計に惨めだ。

 

「おい!! 何なんだよこれは!!」

 

「どうやらエレメリアンが出現したようです。総愛と和輝君、あと華さんは至急出撃の準備を!!」

 

 ズコーっ!!

 え、何? これってもしかしてエレメリアン出撃のアラートってか?

 俺はトゥアールさんの胸倉を掴み問いただす。

 

「おい!! どうして俺の声なんだよ!! つかなんだこれ!!」

 

「いやー、あの時の和輝君の言葉があまりにもカッコよかったものでつい……」

 

 そうは言ってはいるものの、トゥアールさんの顔は意地悪くニヤけている。

 絶対、俺の事をいじるつもりで故意にこの声を使ったのは確実だ。

 この野郎……!! あとで覚えておけよ!!

 俺は気を取り直して今はエレメリアンを倒すことに集中する。

 ティアナと共にトゥアールさんが向かうように指をさした転送用装置にカモフラージュしたロッカーに向かう。

 

「大丈夫よ和輝、私の世界だともっと酷かったから」

 

 慰めてくれるティアナだが、俺はそれを聞いた事で、総二さんたち先人の苦労を強く思い浮かべたのだった。




本作品でのトゥアール及び他キャラとの関係性はこんな感じです。
頼れる先輩ポジションになればいいんだけどなぁ……
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