俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第120話 乳を越えて

 エレベーターで降りた先、地下基地に到着した俺はトゥアールさんがいるであろう自室へと向かう。

 誰もおらず、がらんどうとなっているコンソールルームを抜けて居住スペースへ。

 居住スペースは俺やティアナ、その他の仲間たちにも用意されており、それらが一流ホテルの部屋のようにそれぞれ間隔をあけながら連なっている。

 トゥアールさんの自室はその部屋連なる廊下の最奥だ。

 途中、『総愛と和輝君のアイノス』と書かれたいらんサービスたっぷりの部屋を見たような気がするが、今は無視してそのまま奥へと向かい、そしてたどり着いた。

 

「おーいトゥアールさーん。いるんだろー?」

 

 そのまま近未来的スライドドアを強くノック。

 すると中からガタンと何かが倒れる音が聞こえた。

 

「か、和輝君!? ど、どうしました!?」

 

 直後、聞こえて来たのは慌てるトゥアールさんの声だ。

 その声色から推察するにさっきの何かが倒れる音は慌ててしまった結果だろう。

 一先ず、元気そうなので何か命に別状がある何かが起きている可能性はないとみたぜ。

 

「どうしたもこうしたもあるかよ。あんたがみんなの前に顔を出さねぇから様子を見に来たんだよ」

 

「そ、そうですか……。そ、それなら心配しないでください。今はちょっと手が離せないだけですから……!!」

 

 その瞬間、ガチャリとドアのロックがかかる音が聞こえた。

 どうやらトゥアールさんは俺たちと意地でも会わないつもりらしい。

 明らかに動揺していた声といい、昨日までのおかしな様子といい、これら一連の動きは何かを隠していると言っているような物だ。

 

「ったく、何隠してるんだよ」

 

「な、何も隠していませんよー? トゥアールちゃんは今日も清廉潔白な処女のままですからねー?」

 

 いや、あんたの下半身事情はどうでもいいんだよ。俺が知りたいのはあんたが何を隠していやがるかの一点なんだよ。

 素早くそうツッコミを入れたが、トゥアールさんはその後もわざとらしく明るくふざけてはぐらかす。

 

「そんなことよりも和輝君? 総愛はまだ女にならないんですか? トゥアールママは早く孫の顔が見たいなー?」

 

「話を逸らすな!! てか何言ってんだよあんたは!!」

 

 こうなった場合のトゥアールさんの面倒くささは本当に厄介だ。

 その後も俺は数十分にわたって何度も何度も訴え続けるがビクともしない。

 何十回目かのやり取りをした後、一瞬、ティアナの真似して力尽くでドアを蹴破ってやろうかとも思ったが、この基地内の壁や扉は想定では核爆発にも耐えうる強度をしている事を思い出して思いとどまる。

 平然と壁をぶち破ったりできるティアナがおかしいだけで、俺は変身しなきゃ大した力を出す事が出来ない。

 尤も、今はそのティアナがかなり不味い状況に陥っている。

 

「なぁ!! 頼むぜトゥアールさん!! あんたが無事でいないとティアナが胸の事でどうにかなっちまうんだよ!! だから教えてくれ!! あんたの身に何が起きてんだよ!!」

 

 胸の事でと言葉にすると急に何を意味わからん事を言っているんだとは俺も思うが事実だから仕方ない。

 ティアナの事を思い出してなりふり構っていられなくなった俺は乱暴にドアをドンドンと叩く。

 

「あんたの身に何かあったんじゃティアナや……それこそ未来で待つ別次元の総二さんや愛香さんに面目が立たねぇんだよ!! だから――」

 

 その瞬間、さっきまでロックされていたドアが自動的に動き開いた。

 俺は勢い余ってそのまま部屋の中に倒れ込み、床に激突。辛うじて手で受け身を取ったが中々に痛い。

 どうして急に開けてくれるようになったのか……。

 もしかしたらティアナ(総愛)、そして総二さんと愛香さん。トゥアールさんにとって大事な家族の名を出した事が心を動かしたのかもしれないが、今はそんな事はどうでもいい。

 俺はトゥアールさんの様子を見つつ、ティアナの事について問いただすべく顔を上げる。

 

「あの子には秘密にしてくださいよ。今の私の姿は少し刺激が強すぎるので……」

 

 流れる銀髪、加齢を感じさせない肌の艶、それらを台無しになどしない美貌。

 黙ってシリアスに徹していれば正しく王道のメインヒロインと言えるトゥアールさんがいつも通りの白衣を着て椅子に座っている。

 

「と、トゥアールさ……ん?」

 

 だけど、俺はトゥアールさんのある一点に釘付けになる。

 顔や下半身、それらは何一つ変わらないいつものトゥアールさんのそれ。

 唯一違うのは女性ならば誰もが生まれ持つ部位、そうおっぱいだ。

 

「えぇぇぇぇ!? でかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 なんと……そのおっぱいのサイズは、普段のトゥアールさんの三桁越えの物をさらに大きく、大きさにして約数倍にしたとも言える物だったんだ。

 

 

 

 

「何がどうなってんだよぉッ!!!!」

 

「ちょっと!! 声が大きいですよ!! バレるじゃないですか!!」

 

 トゥアールさんはそう声を上げたと同時に、音が鳴る程の俊敏な動きでドアのスイッチを押して扉を閉める。

 普段変身している際に女になっている俺ならわかるが、女の体ってのは小さかろうともおっぱいがある以上は男よりも多少動きづらくなる物であり、大きければ大きいだけその窮屈さは増す。普段のトゥアールさんの胸ですら滅茶苦茶デカイってのに、今のトゥアールさんの異常に肥大化した胸ならばそれはもう語るに及ばない。

 なのにトゥアールさんはそんな事を物ともせずに素早く動いてみせた。

 流石、愛香さんと肩を並べる蛮族なだけはあるぜ。

 

「すげぇ……お見事……」

 

「いや、何褒めているんですか!? 流石にこれ結構キツイんですからね!?」

 

 ぎゃーぎゃー言いながらトゥアールさんはその巨大すぎる胸を両腕で何とか抱えながらベット上へと戻る。

 一応、トゥアールさんの着ている服が伸縮自在なお陰もあり、乳首をはじめとしたR18に当たるような箇所はちゃんと服で隠されていて精々胸元が少し開いている程度の露出ではあるが、思春期真っただ中の男子高校生にはちと刺激が強すぎる気がする。

 

「ではコホン、えーっと……どこから話しましょうか」

 

 念入りに他に誰もいない事を確認した後、ようやく話しを出来る空気が作られた。

 正直、いつもはあんなにも胸を強調するような仕草をしておきながら、いざ異常レベルに肥大化した時のトゥアールさんがこんなにもうろたえるのかとは思っていなかった。

 何つうか、トゥアールさんって意外と本心ははっちゃけた性格じゃないのだろうな。

 

「まぁ、とりあえずは何故そうなったのか教えてくれねぇか?」

 

「そうですね……。恐らく……というよりほぼ確実にレヴィアタンギルディの仕業でこうなったと考えるべきだと思っています」

 

「レヴィアタンギルディの野郎が?」

 

 はて? いやま確かにレヴィアタンギルディの野郎は異常な程大きい胸、即ち超乳とやらを愛する野郎ではあるが、だからってそれは……

 そこまで頭に浮かんだ時点で俺は思い出す。

 俺たちを逃がす為に身体を張ったトゥアールさんがレヴィアタンギルディに何かをされていた事を。

 

「えええええええええ!? あの時のあれって毒とかじゃねぇの!?」

 

「毒? 身体分析の結果からも毒物は何も検出されませんでしたよ?」

 

「いやいやいや!! でもトゥアールさん!! あんたあの日からここ数日間、時々胸を押さえて苦しんでいたじゃん!!」

 

「いやま、そりゃあ苦しかったですよ。私としてもこの歳になってエレメリアン相手にこんなマニアックな膨乳プレイをされるとは思ってませんですし」

 

「ええええ!? じゃあ何!? あの野郎はただトゥアールさんの胸を大きくするようにしただけってのかぁ!?」

 

「ま、まぁエレメリアンってそんな物ですから」

 

 何だろうこの脱力感。

 俺はてっきりトゥアールさんを毒で苦しめるor命を奪う事で俺たちへの勝利をより確実にするもんだと思っていた。

 なのに、ここまで来てまだこんなどうでもいい事をしてくるとはな。

 七つの性癖(セブンス・シン)とか明らかにヤバそうな連中だってのに、結局のところはエレメリアンの性に逆らえないのはある意味で仕方ないのかもしれねぇ。

 

「んじゃま、とりあえずドンマイ、トゥアールさん」

 

「いや流石にあっさりし過ぎですからね!? さっきも言いましたけど結構キツイんですよ!? それに今も徐々に大きくなってますし!!」

 

 トゥアールさんはそうは言っているが、正直まるでそうは思わない。

 普段のふざけた態度と事態のどうでもよさが相まってまぁいいかとしか思えないって訳だ。

 それにトゥアールさんの奴、キツイとか何とか言っているけど、普通に素早く動けているしな。寧ろ、肥大化した結果、以前以上に揺れ弾むその胸の方が笑えてくるというか……。

 例えるなら、アダルトビデオやエロゲーとかの抜きシーンでシチュエーションがあまりにも無茶苦茶且つ滑稽な結果、逆に萎える時のあの感覚に近い。

 

「兎に角!! 今の私はあの子の前に出るわけにはいかないんです!! ただでさえ、今の総愛の精神は不安定なんですから……」

 

「ま、確かにそれはそうだな。今のあんたを見たら、アイツの事だしどんな暴走するかわかったもんじゃねぇ」

 

 レヴィアタンギルディと戦う前ならまだしも、ここ最近の暴走を繰り返して精神的に不安定なティアナなら何が起きるかなんて直ぐにわかる。

 レヴィアタンギルディの野郎……!!

 偶然とは言え、ティアナとトゥアールさんの接触を防ぐとは中々に厄介な事してくれやがって……!!

 

「一応、この部屋に籠っていてもやれる事は沢山あるので致命的って訳ではないですが、個人的には悔しいですね。あの子があんなにも苦しんでいるのに傍にいてやれないなんて、義理とは言え親失格です」

 

「それは……そうだよな」

 

 そうだ。見た目こそアレだが、トゥアールさんも悔しいし辛いんだ。

 可愛がっている娘が苦しんでいる時に傍にいてやれないなんて子を持ったことない俺ですらわかる苦しみだ。

 事の深刻さを理解した事で俺はトゥアールさんにどうしてあげればわからなくなる。

 

「なんか、すいません。俺……」

 

「いえ別に、昔の事に比べればこの程度些細なことですよ。だから和輝君までそう落ち込まないでください。幸い、胸の肥大化をある程度抑制する薬は出来ていますし、それに元の戻るだけならレヴィアタンギルディを倒せば元に戻るでしょうし大丈夫です」

 

 なおも謝った俺に対し、何なら今の技術なら愛香さんや総愛に分けてあげる事も出来るかもしれませんしねとわざとふざけるように言ってトゥアールさんは笑った。

 俺はそれを見てトゥアールさんの強さを知った。

 確かにトゥアールさんは昔っから誰よりも繊細で誰よりも脆いのかもしれないけど、今のトゥアールさんは誰よりも優しくて誰よりも強い。

 元々生まれ持った精神力や素質もあるとは思うが、トゥアールさんをここまで強くしたのは総二さんしか有り得ない。

 やっぱし、テイルレッド(観束総二)の壁は厚い。

 二人で一人とはいえ、エクストリームチェインへと到達した俺なら並ぶことが出来たかなと思っていたが、まだまだだとよくわかるぜ。

 

「そうだ。分け与えるなら無料では勿体ないですし、今度はどんな命令してやりましょうかね~? アイカオサナクミエールの解禁? いや、流石に元が愛香さんとはいえ実年齢30後半の人妻は――」

 

「トゥアールさん」

 

「は、はい!?」

 

「わかったぜ。レヴィアタンギルディの野郎はこの俺……いや、俺とティアナ、みんなでブッ倒す」

 

 瞬間、トゥアールさんの表情が柔和な笑顔へと変わる。

 それは例えるなら、子を想い次世代へと導く正しき母の顔だ。

 

「んじゃあよ、ティアナがどうしてあんなにも巨乳を憎んでいるのか知っているなら教えてくれねぇか? 俺が思うに、アイツの抱えている怒りは生まれ持った血筋だけじゃねぇ。そんな気がするんだ」

 

「そうですね……。心当たりがあるとするならあの時……」

 

 その後、トゥアールさんはとあるエピソードを語ってくれた。

 何でもティアナがまだ幼い時、トゥアールさんがいつもの調子で愛香さんと自分、どっちの胸の方がいいかをティアナに聞いたらしく、その後、長い間その結果をネタに愛香さんをイジっていたらしい。

 勿論、トゥアールさんに悪意はないし、それこそ愛香さんだって特に気にしていない。

 トゥアールさんがイジるのなら愛香さんは即座に折檻を加えて必要以上にボコボコにする。それは学生時代から続く二人のじゃれ合いであり、イジメではなく言わば二人の友情を示す仲のいい喧嘩だ。

 でも、幼いティアナにはそれがわからず、ただ純粋に母が自分のせいで喧嘩していると誤解したのかもしれない。

 そして、結果的に胸をいじられるのに拒否反応を示す事になったのかも……というのがトゥアールさんの見解だ。

 

「ここまでこじれるとは思ってなかっただなんてただの言い訳に過ぎません。だからこそあの子にはちゃんと謝りたい……今振り返って思うのはそれだけです」

 

「そう……なのかよ」

 

 中々に厄介且つデリケートな問題だとは思う。

 やった本人とやられた本人は特にそれに対して本気で怒ってもないし、何なら遊び感覚で喧嘩していたというのに、それを理解できない外野がそれについてあーだこーだ言ったり、自分のせいだと悲しんだりと話が変な方向にこじれていく。

 規模はまるで違うが、ティアナのこのエピソードは現代社会にも通ずるものがあるのかもしれねぇ。

 

「ま、後はやるだけやってみます。アイツの憎悪は俺が何とかしてみせてやりますよ」

 

「ええ、あの子をよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺は壊れたテイルペンダントの修復を頼んだ後に部屋を後にした。

 次にやる事は今得た情報を元にどうティアナを励まして、どうやってアイツの心に巣くう憎悪を断ち切ってやるかだ。

 正直、トゥアールさんの前でつい大口を叩いちまったが、どうしたらいいかあまりわからない。

 

「クッソ……わかんねぇよ……」

 

 

 

「おい和輝、何ブツブツ言ってんだ?」

 

 基地内の通路を歩いていた時、急に声をかけられた。

 顔を上げると、そこには美味そうな料理を盆に載せて運んでいるおやっさんの姿があった。

 

「おやっさん……!? てか何その料理?」

 

「ん? これか? いやま、トゥアールちゃんがあまり外に出れないみたいだからせめて飯くらい美味いもんでもと思ってな」

 

 成程、どうやらおやっさんはトゥアールさんが今外に出れない事を知っているって訳か。

 ま、確かにあの肥大化した胸のままじゃ飯を用意するのも一苦労なのでありがたそうではある。

 

「お前こそ何してんだ? まさか見たのか? あのおっぱい?」

 

「ま、まあな。んで、今はそれの帰りでこの後、ティアナのとこに行く予定」

 

「ほーん、成程ね~それでか~」

 

 左手で盆を支えながら、右手を顎に当てて頷くおやっさん。

 一を聞いて十を知るかのような仕草だ。

 

「ま、なんだ。あまり深く考え過ぎない事だ。お前はお前で、ティアナちゃんはティアナちゃん。お前たちなりの答えを出せばそれでいいんじゃないか?」

 

 おやっさんはそう言うなり、俺が今来た道を進んでいく。

 正直、おやっさんの事だから今の発言に深い意味があるのか、はたまたただカッコつけただけなのか、どちらかはわからない。

 だけど、何となくどうすればいいのかわかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 放課後の家庭科室。

 私は今、部屋の隅でクラスメイト達が楽しそうに作業をしているのをただただ眺めている。

 

「橘さん、これどうかな?」

 

「ねぇ橘さん、向こうで一緒に作業しましょうよ」

 

 気を使って声をかけてくれるクラスメイトたち。

 だけど私は精一杯の笑顔を作りながらもそれを断った。

 私は少し前に華先生に気晴らしに文化祭の手伝いでもしてみたらと言われたので来てみたけど、今の沈んだ気分ではとてもじゃないけどあんな風にはしゃぐ気にはなれない。

 いや、それだけならまだいい。

 今の私はそれだけじゃない。

 

(憎い……憎い……あの乳が憎い……)

 

 クラス1の大きな胸を持つ女子生徒を見て私の中の鬼が暴れ出す。

 私はここ最近の暴走を経て、今まで何気なく出来ていた自分自身を制御することが全然出来なくなりかけていた。

 

「違う……!! 憎くなんか……」

 

 私はそれを抑え込もうとツインテールの穂先をぎゅっと握りしめる。すると私の心の中は一時の幸福に包まれる。

 だけど、それが効くのはほんの一瞬だけ。

 すぐまたすれば破壊衝動が沸き上がり始める。

 

「おい? 大丈夫か橘?」

 

「大丈夫? 橘さん?」

 

 心配して声をかけてくれるクラスメイト達。

 なのに私は声をかけてくれた子の胸の膨らみを見て思わず目を逸らす。

 危ない、つい胸を握りつぶすしてしまう所だった……!!

 

「だ、大丈夫。私は平気だから……!!」

 

「そ、そうなんだ」

 

 そう言って去っていく彼ら彼女らを見て私は胸をなでおろす。

 ん? 胸をなでおろす……ですって?

 それって私の胸が何もないから……!? 

 

「って……ダメダメ!! 落ち着きなさい総愛!! 私は観束総愛、観束総二と観束愛香の娘。こんな事でキレてちゃ、二人のツインテールを継ぐことなんて出来やしないんだから!!」

 

 私自身を見つめ直し、何とか落ち着きを取り戻す。

 心の乱れはツインテールの乱れ。

 神堂家で修行した時の事に習った事を頭の中で反復させる。

 

「ふぅ、ちょっとは落ち着いたかな?」

 

 ようやく落ち着きを取り戻し、気分転換にみんなの手伝いをと思い立ち上がる。

 その時だった。

 

「なぁ見ろよこれ。昼間のテイルバイオレット」

 

「見た見た。すげぇおっかねぇよな~」

 

 聞こえて来たのはスマホを見てサボる二人の男子生徒の声。

 私はそれを聞いた瞬間、幼き頃から刻まれた記憶の断片が蘇る。

 赤と青、鮮やかで煌めくその二人のツインテールは私の憧れであり、目標。お父さんとお母さん、二人のようになりたいとおばあちゃんが記録していてくれた映像を見て目を輝かせ続けた私。だけど、同時に皆から愛され人気なお父さんと違って、雑で世間的に危険生物扱いをされているお母さんの冷遇を見て悲しくなったあの時……

 

「私……やっぱり……」

 

 

 

 

 

「おい!! ティアナ!! いるか!?」

 

 突然、家庭科室の扉がガッと開き、外から和輝が大声上げながら顔を出した。

 呆然となる私。

 そんな私を見つけた和輝は駆け寄って腕を掴んだ。

 

「行くぞティアナ」

 

「行くって何処に……」

 

「いいから早く来い……!!」

 

 乱暴ながらも真剣な表情の和輝の言うがままに後に続く。

 周りで作業していた他の人たちもこの一連の流れには呆気にとられて皆がぽかーんとしていた。

 そして、部屋の外で少し離れた誰もいない教室を見つけた和輝は私を連れてそこに入る。

 綺麗に整理されて机の上に積み上げられた椅子を乱暴に蹴落として立たせた和輝はそこに座る。

 私もそれに続くように席を下ろして向かい合うように座った。

 

「ど、どうしたの和輝?」

 

「うっせぇ、お前がいつまでもうじうじしてっから連れ出した。ただそれだけだろうが」

 

「何よそれ……!!」

 

 私が苦しんでいる時にほっぽかしてどこか行ってたくせに何よその態度は……!!

 私とあなたは二人で一つのツインテールであり、大事なパートナーでしょ!!

 乱暴且つ不愛想な態度に少し青筋が浮かぶ。

 

「和輝……!! あなたねぇ……!!」

 

「さっきな、トゥアールさんに色々聞いたよ」

 

 少し言い返してやろうと思った矢先、急にママの名前を出した和輝を見てふと止まる。

 

「え? ママに?」

 

「いや、お前がどうしてそんなにも巨乳を憎むのかって思って色々聞いてきたんだ」

 

「トゥアールママ……」

 

「何でもアレじゃねぇか。お前、ガキの頃から愛香さんがトゥアールさんに胸の大きさでマウントとられ続けている姿を見続けたんだってな。つまり、それが知らず知らずのうちにお前のトラウマとなってコンプレックスを刺激したんだろ?」

 

 過去から推察する和輝の発言は概ね当たっている。

 私は胸をネタにされる事を異常に怖がっていた。

 好きな人や大事な人から馬鹿にされて拒絶されるのが嫌だった。

 ツインテールと違って、どう努力しても理想に近づけない胸に自信がなかった。

 

「それにもう一つ、これは完全な勘だが、お前は胸が無いことからくる怒りや暴走から生じる冷遇を恐れている。概ねそれも、ガキの頃にテイルブルーの扱いの悪さでも見て心に刻まれたか何かしたんだろ」

 

 これも当たっている。

 私は幼い時、お母さんや慧理那さんなどが冷遇される所を過去の記録から見てしまい、その中でも特に最も憧れたツインテールの一人であるお母さんの扱いが心に響いてしまった。

 お母さんは過ぎた事だし、若気の至りで暴れすぎたのも事実だしと昔を振り返り笑っていたけど、幼い私にはそれがわからず、子供心に深いトラウマを植え付けられた。

 

「まぁなんだ。俺が言うのもなんだが、考え過ぎだし思いつめ過ぎって奴だ。誰もお前の胸を見て拒絶もしなければ冷遇もしない。そうだろ?」

 

「うん。そうよね……。わかってる……。わかっているんだけど……」

 

 こればかりは拭いたくても出来ないのは私がよくわかっている。

 そんな筈ない。だって私には胸が無くても、大好きなツインテールがある。

 そう何度も自分に言い聞かせて来たからわかるの。

 

「それにね和輝、まだ理由があるんだ。私ね、ずっと後悔してるの……」

 

「後悔?」

 

「うん。さっき言ったよね、ママから話を聞いたって。私はあの時、正直にお母さん(貧乳)ではなくママ(巨乳)を選んでしまった」

 

「ふーん。つまり、自分のせいで愛香さんが貧乳をいじられたと、そう思っている訳か」

 

 私は頷く。

 あの時、もしあの選択をしなかったのならどうなっていたか。

 誰もが欲しがる再選択の機会があるのなら私はここだと思う。

 正直、もっと他にあるだろと言われれば確かにそうかもしれないけど、幼い頃のあの時の私は確かに悩み続けて後悔し続けた。

 

「だから私なんかが巨乳を憎むなんてそんなのお門違いもいい所よね……。私やっぱり……」

 

 もしかして今までツインテールを大好きでいたのも全部、胸の事を忘れる為のただの逃避だったんじゃ……

 最早何が本当で何が真実なのかわからない。

 やっぱり私なんかツインテールを結ぶ資格も守る資格も……

 

 

 

「くっだらねぇな全く……」

 

 罪悪感からツインテールを解こうとしたその時、和輝が不意に呟いた。

 私は思わず聞き返す。

 

「え?」

 

「くだらねぇって言ったんだよこのバーカ」

 

 今度はハッキリと。

 私にちゃんと聞こえるくらいの声量でそう言い放った。

 しかもバーカのおまけつきで。

 

「ちょっと!! それはどういう――」

 

「ちょっともそっともあるか!! そんな馬鹿馬鹿しい事で悩んでる事がくだらねぇって言ってんだよ!! 何が貧乳、何が巨乳だぁ? んな事どうでもいいわ!! お前にはそんなもんに負けないツインテールがあんだろうがボケ!!」

 

「ッ!!」

 

 ツインテール。

 そう言われてハッと我に帰る。

 さっき、一瞬とは言え解こうとした腕とそこで輝く赤紫のテイルブレスを見つめ直す。

 

「誰がお前の胸を笑った? 誰がお前の胸を蔑んだ? 心の底からそんな事思う奴なんざ周りに誰もいねぇ。お前は誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりもツインテールが好きなみんなの人気者だろうが!!」

 

「和輝……」

 

 こうやって和輝に叱られるのももう何度目だろう。

 その度にまだまだ未熟なんだとわからされる。

 でも、別に嫌いじゃない。

 

「それと最後に一つ!! お前はお前だ!! 総二さんでも、ましてや愛香さんでもない、お前はお前なんだ。例えお前が本来の歴史では存在しない二人の娘で、その二人の何かを受け継いでいようとも、お前はこの世にただ一人だけのお前なんだよ。だから勝手に縛られてんじゃねぇよバーカ!! 髪縛りすぎるなっつったのお前だろうが!!」

 

 そうだよね。私はお父さんでもお母さんでもない。

 受け継ぐ物は受け継ぎ、受け継がない物は受け継がない。

 それこそが私であり、私自身の物語。

 

「あと……それに……俺は結構……その……お前のその胸も……」

 

「ん?」

 

 急にもごもごと失速し始める和輝に対して私は聞き返す。

 夕日に照らされているせいなのか心なしか和輝の顔が赤くなっている気がする。

 

「やっぱなし!! それはなし!!」

 

「ちょっと何よ!! 何がなしなのよ!!」

 

「うるせぇ!! さっさと戻るぞ!! これ以上いたら誰かに見られるだろうが!!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 そそくさと教室から出て、家庭科室に戻ろうとする和輝を私は追う。

 何だか心も体もツインテールもさっきよりも軽く感じるそんな気がする。

 

「ねぇ? そう言えばママは何してるの?」

 

「べ、別に特に異常ないぜ!?」

 

「異常? ママに何かあったの!? ちょっと和輝、今度は何隠してるのよ!! あっ、こら!! 逃げるな!!」




結構自分なりに頑張って書きましたけどいかがでしょうか。トゥアールの膨乳展開って需要あるのかなぁ?
次回は決戦です。
七つの性癖まだ一人目でこのペース、長いなぁ……
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