俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第123話 文化祭と嵐の予感

 土曜日。

 空は暗く、空気は淀み、激しく降りしきる雨が人々の肌や服を濡らす。

 秋から冬への変わり目であり、11月も折り返しを過ぎた今、人々はもう残り少ない今年の休日をどう過ごそうかとするその日、降る雨はいつにも増して激しい物であった。

 傘を差しながら歩く人々。

 都内某所の繁華街ではそんな人々で賑わっていた。

 

「おい、見たか? 昨日のニュース」

 

「見た見た。テイルバイオレットの事だろ」

 

「そう、これこれ」

 

 スマホと傘を片方ずつ両手に持ち歩くとある若者。

 彼のスマホの画面に映るのは『テイルバイオレット暴走の真実』と見出しのついたニュース記事。内容は先日のテイルバイオレットは敵の策略に嵌ってしまい暴走しただけである事が書かれており、その記事に添付する形でテイルバイオレット本人が出演して頭を下げる謝罪映像もある。

 一般人は知らない話だが、これらは全てテイルバイオレットの仲間である悠香たちの活躍の下に成り立っている。

 無論、目的はテイルバイオレットが活動する上でのイメージ回復。今回はトゥアールの協力もあってかテイルバイオレットの信頼は完全とはいかないがある程度は回復したと言える。

 

「ていうかそんな事よりもさ……これ」

 

「え!? まじ!? ヒカリちゃんの新曲!?」

 

「そう。何でもテイルバイオレットを応援する為に予定より早いんだと。ちょっと前に予告されてたぜ?」

 

「いや知らなかった~。とりあえずあざっす」

 

 そう楽し気に話しながら若者たちは人混みの中に消えていく。

 それは皆が思い描く休日の一コマ。

 天候こそ最悪なれど今日もこの世界は平和その物だ。

 誰もが嘗ての事件や大事件を思い返す事などしちゃいない。

 今日も平和を過ごす人々はエレメリアンなどの脅威を忘れて皆が休日を謳歌する。

 危機感がないと言えばその通りではあるが、だからとて常日頃から怯えて暮らすよりかは断然いい。

 何より、彼ら彼女らがこうやって日々を笑いながら過ごすことが出来るのはテイルバイオレットやテイルブルームがいるという安心感があってこその物。

 そしてそれらは、悠香たち含めた情報発信者、ヒカリを始めとする応援者、様々な人々のおかげで成り立っているのだ。

 

 

 

 

 さて、そんな正午差し掛かる直前の繁華街。

 傘差す人々賑わう大通りから逸れた路地裏にてボロボロの身なりをした男が一人、雨にうたれながらあてもなく歩いていた。

 

「くッ……」

 

 男は腹部を右手で押さえ、左手を壁に当てながら弱々しく歩く。

 押さえられた腹部からは多量という程ではないが、赤い血を滴らせており、怪我を負っているのがわかる。

 それが果たして何で負った傷なのか? 

 わかるのはその傷がただの事故や事件で起きたような物ではないくらいであり、その男の風貌も相まって何か関わっていけない独特の雰囲気を演出している。

 

「ぐッ……!!」

 

 限界を迎えたのか、よろめいた後に男は倒れかける。

 がしかし、すんでの所で何とか身体を支えて持ち直す。

 そして、男は再び歩き出す。あてもなく、何もなく、ただ彷徨う亡者のように。

 

「こ、この俺が……」

 

 その男。名をレイジ。レイジ・レオン=ザード。

 そう、彼こそが間接的とは言えこの世界を再びエレメリアンの脅威に晒すような真似をした張本人。またの名をアナザーテイルレッド。

 彼は十数日前、テイルバイオレットと激戦を繰り広げた。

 何度も何度もテイルバイオレットを下し、一時は殺害さえもやってのけた彼だが、最終的にはエクストリームチェイン及びその真の力であるエクストリームチェインバーストに敗れ去った。

 トドメの一撃を貰う直前に辛うじて逃走したが、結果として今の彼は戦ったり悪事を働くことなど出来ぬ程に弱ってしまっている。

 

「ッ……」

 

 よろめきながらレイジは街の中に消えていく。

 その眼はまだ、あの時同様の鋭さを保っている。

 だが、誰もその姿を見ても、彼が嘗てアナザーテイルレッドとしてテイルバイオレットを襲ったのだと気づかないだろう。

 

 

 

 

「「「おかえりなさいませ~ご主人様~!!」」」

 

 聞きなれたクラスメイトたち、女子の元気な声。

 一人一人皆違う形のツインテールとフリルついた華やかなメイド服が揺れる。

 客である他学年や他クラスの生徒及び学外の奴らがその容姿に鼻の下伸ばしながら席へと案内されていく。

 今日は日曜日、空は昨日とうって変わって快晴であり、待ちに待った文化祭。

 俺たちのクラスはツインテール喫茶と名付けられた所謂メイド喫茶だ。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

「うおッ!? く、クオリティ高ッ!?」

 

 来店した客が思わず驚くのはその内装を含めた圧倒的クオリティ。

 壁や床、外から見てどうやっても釣り合わない広すぎるホール。果てには本格的な調理すらも行なえるキッチン。

 外の校舎感溢れる廊下からいざ店内に入ると、軽い異世界転移でもしてしまったのかと間違うレベルの超クオリティの店内もとい教室内は他クラスの出し物とはレベルが違う。

 これらは全てはこのクラスの副担任であるトゥアールさんがティアナのためにと人肌脱ぎ過ぎた結果の産物。水道やガス管を通すなど朝飯前であり空間の拡張すらもやってのけた上でここまで劇的過ぎるリフォームをする腕はどうツッコんでいいかわからない。

 ちなみに本人は皆に誤魔化す為にこれはDIYの一種ですと説明していた。

 DIY……便利な言葉だぜ……。

 

「橘さん~2番テーブル片付けお願い~」

 

「は~い」

 

 勿論、我らがティアナはこの喫茶における№1メイドだ。

 彼氏である俺が言うのも何だが、アイツのメイド姿及びツインテールは他の追随を許さない。

 キッチンの洗い場担当である俺は、ホールを覗き見する度にティアナを見て思わず手を止めてしまう。

 

「あ~俺の総愛は可愛いな~そのまま俺の下半身もご奉仕してくれないかな~」

 

 耳元で囁かれる声。

 驚きながら振り向くと、そこにはいつも通りの白衣に身を包んだトゥアールさんがニヤニヤ笑っていた。

 

「なんだよトゥアールさん。先公は立ち入り禁止だし、てか何やってんだよおい……!!」

 

「いや別に~? ただちょっと心の代弁をしてあげたですよ~?」

 

 こんの……阿婆擦れがぁ……!!

 幸い、現在の洗い場周辺は俺一人だったから良かったけど、そんな発言を他に聞かれたらどう誤魔化せばいいかわかったもんじゃねぇ。

 俺は追い返さんと睨みつけるがトゥアールさんは動かずにニヤニヤ。

 一発ぶん殴ろうかと思った瞬間、ホールから洗い場目掛けて白い何かが飛んできた。

 

「さらッ!!」

 

 飛んできたのは料理をのせていた白い皿。

 それはトゥアールさんの顔面に直撃し、一瞬で沈黙させると同時に見事な軌道で洗い場内の置き場に着地。

 飛んできた方を見るとホール内でティアナが俺に向かってサムズアップしていた。

 

「はは……相変わらず容赦ねぇ……」

 

 トゥアールさんがこうやってティアナに折檻されるのはもうお約束中のお約束。

 尤も、当のトゥアールさんはいつの間にか復活して存在に気づいた他男子生徒に声をかけられている。

 

「先生!! 先生もホールに出てください!!」

 

「そうっすよ!! 先生のあのメイド姿、また見せてください!!」

 

 懇願する男ども。

 ちなみに調理場は基本男連中で回しているので誰もがトゥアールさんに興奮しっぱなしだったりする。

 

「いや~、前貰ったあの服は色々怒られましたのでちょっと……」

 

 俺は知っているが、ティアナとトゥアールさんが以前試しで着たあの服は際どすぎるのでアウト判定を貰っている。

 現在、ホール内で女子共が着ているのはあくまで健全なメイド服。

 あんな胸元さらけ出したエロス全開の物では断じてない。

 

「ちょっと男子~!! サボってないでちゃんとやる!! 先生も特に理由がないなら入らないでください!! 先生がいると男子がサボっちゃうんですから!!」

 

 トゥアールさんのメイド服を見れずに落ち込む男どもを叱る女子生徒。

 そのままの流れでトゥアールさんもキッチンから退場を貰い、一部男子どもがより一層へこんでみせる。

 とある男子生徒曰く、こんなはずじゃなかった、メイド喫茶ってのはもっとこう華やかな物の筈だ……との事。

 実際、俺のクラスの男どもは軒並みキッチンにぶち込まれて有無を言わさず裏方作業。

 男尊女卑とは程遠い女尊男卑の哀れな世界だ。

 尤も、俺のようなわざわざ表にでて目立つよりも、裏方でサボる方が好きな奴からすれば何の問題もありはしない。双方にとってウィンウィンな関係って奴だ。

 

「ちょっと涼原君~?」

 

「は?」

 

 腕を組み壁にもたれかかっていた俺に対して、先程の女子生徒が先程以上の剣幕で声をかけてきやがった。

 俺としては何故そんな風に声をかけられるのかわからないが為に頭を傾げるしかない。

 

「後ろのソレ、いつやる気なの?」

 

「ん? どれ?」

 

 後ろを振り返りシンクをチラ見。

 そこにはピサの斜塔を思わせる程に積み重なった皿の数々。

 さっきからずっとサボり続けていたが、まさかここまで増えるとは思いもしなかった俺はその光景に思わず口が塞がらない。

 

「言ったよね? 次サボったら罰だって」

 

「いや、その……これはだな……」

 

「問答無用!! 連れて行って!!」

 

「「「はーい!!!」」」

 

 瞬間、俺を取り囲むメイド服の女子連中。

 手を上げる訳にもいかず俺はそのまま拘束。

 そして、一瞬の内に更衣室へと連れ込まれるのであった。

 

 

 

 

「いってらっしゃいませご主人様~!!」

 

「また来るよ~ティアナちゃ~ん」

 

 お辞儀した後、満面の笑みを浮かべながらご主人様()を私は送り出す。勿論、ツインテールを自然に揺らすのも忘れない。

 一般的な喫茶店での接客とは違う、良く言えば可愛い、悪く言えば媚びた、メイド喫茶独特の接客をこなすのにもだいぶ慣れて来た。

 最初は私にとって最も身近な存在のメイドさんである尊さんをイメージし、結果としてクラスメイド全員から不評をもらって苦戦したけど、それをやめて以降は何とか様になっているのなら嬉しい限り。

 一つ残念なのはみんな可愛いとは言ってくれるけど、その割にはツインテールをあまり見ていないって事くらいかな。

 

「3番テーブルの接客、終わったわよ~」

 

「オッケー橘さん。じゃあちょっと休んでて~」

 

 委員長もといメイド長の許しも貰ったので私は裏のキッチンに引っ込み、そのまま休憩用スペースでコーヒーを飲みながら一息つく。

 開店して以降、私は引っ張りだこだった事もあって、流石にちょっと疲れたかな。

 ポケットから手鏡を出して、ツインテールが乱れてないかを確認して整える。

 

「よしっ、ツインテールばっちり。じゃ残りも頑張りますか」

 

 前半組との交代まであと1時間弱。

 自由時間を和輝とめい一杯楽しむべく私は残り数時間の接客を頑張ろうと席を立とうとする。

 そんな時、キッチン奥の更衣室から何やらガタガタゴトゴトと音がするのに気が付いた。

 

「「「きゃー!! 似合ってるー!! カッコいいじゃないー!!」」」

 

「だーッ!! るせぇッ!!」

 

 佐藤さんや椿さんを始めとした女子のはしゃぐ声と騒がしく聞き覚えしかない声。

 間違いないあの声は和輝だ。

 何が起きているの? 

 そう思い首を傾げると更衣室のドアが開いて中から和輝が出てきた。

 その姿は私のよく知る和輝とはまるで違っていた。

 

「ど、どしたの和輝?」

 

「ゲッ!? ティアナ!? 見るんじゃねぇ恥ずかしい……!!」

 

 いつもの手入れしていないようなボサボサ髪はワックスをつけたようにキッチリと、服装はフィクションの執事さんが着るようなバッチリとした燕尾服、ネクタイや手袋、果てには懐中時計まで和輝とは縁がなさそうなアイテムの数々で彩られたその姿は名家に仕える執事さん。

 コスプレ感を感じさせない見事な着こなしは私もただただ驚くしかない。

 

「どう? 見て見て、カッコいいでしょ」

 

 恥ずかしがる和輝と違い、原因であろう佐藤さんらは自慢げに語る。

 

「いやね、うちらの店って男の客しかこないじゃない。そりゃあメイド喫茶だから当たり前だけど、それだけじゃ売り上げも伸びないから密かに準備していたの」

 

「それで和輝をね……」

 

「そうそう、だって涼原君って性格はああだけどルックスは結構いいじゃない? うちの目に狂いはなかったわ~これなら女性客からの売り上げもいただきって感じ~」

 

 それを聞いて小声でルックスだけ褒めんじゃねぇよと抗議する和輝。

 ちなみに今後は佐藤さんらがこれはいけると感じた男子を続々とホールに投入する予定らしい。

 私としてはそれでお客さんが増えるようなら別に構わない。

 

「くっそぉ……!! 何が執事だコノヤロー……!! ツインテール喫茶じゃねぇのかよ!!」

 

「まぁまぁ和輝、私には和輝のツインテールだって見えるから安心して。だってツインテールって髪型であると同時に生き様を表す物じゃない。心にツインテールを結んでいる限りは例え男であっても、ツインテールを結んでいるもの。でしょ?」

  

 そっか、和輝は自分がツインテールじゃない事を気にしているんだ……!!

 それを知った私はお世辞ではなく、本心から和輝を賞賛して励ます。

 だけど和輝は放心したかのように口を開きっぱなしだった。

 どうしてなのかな……?

 

「くっそ……!! こうなりゃヤケだ!! 全力でご奉仕してやらぁッ!! 行くぜティアナ!!」

 

「オッケー!! 行くわよ和輝!!」

 

 エレメリアン退治に出撃するかのように私たちはホールにとび出していく。

 目的は同じ、このツインテール喫茶を盛り上げて最高の思い出を作る事……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数十分後……。

 

「こんにちはー!! 新聞部でーす!! 校内新聞のために……」

 

 

 

「ちょっと和輝!!! なにお客さん相手にデレデレしてるのよ!! ちょっとは真面目に仕事しなさい!!!」

 

「んだと!? お前だってあんな客共にへこへこ媚び売ってる癖に!! 俺ばっかり言ってんじゃねぇ!! この貧乳メイド!!」

 

「何ですってぇ!? この不良執事!!」

 

「何だとぉ!?」

 

 悠香と華の二人が和輝たちのクラスへとやって来た際に見たのは、ホール内で口喧嘩する和輝とティアナ。

 その様子を見てため息をつくトゥアールと同じように悠香と華もため息一つ。

 いつの間にか、ツインテール喫茶は和輝とティアナ、二人の痴話喧嘩ならぬ夫婦喧嘩を名物とする特殊な喫茶として繁盛するのだった。

 

 

 

 

 お昼を過ぎ、待ち望んでいた後半組との交代時間。

 委員長などの一部を除いた男子及び女子生徒たちが続々と帰って来る後半組とバトンタッチして教室から飛び出していく。

 かく言う俺とティアナもその一人だ。

 制服に着替え終えた俺たちは匠ら後半組の面々へ後を託して教室を後にする。

 

「川本君~!! あなた案外悪くない顔つきしてるじゃな~い!!」

 

「ちょっと待て~!! ストップ!! スト~~ップ!!!」

 

 今さっき、更衣室に連行される匠を見た気がするが、多分気のせいだろう。

 ま、例えアイツが俺同様の羞恥プレイさせられようがざまぁねなと笑ってやるつもりだがな。

 

「で、俺らはどこ回るよ? 手あたり次第ってのも数多いしよ」

 

「そうね、何処いこっか?」

 

 俺とティアナは二人して一つのパンフレット兼地図を覗き込む。

 あまり意識していなかったが、こうやって出し物一覧を見ると、無茶苦茶な数の出し物があるって事がわかる。

 各学年のそれぞれのクラスと文化系を中心とした部活、教員や外部からゲストなどの特別出店などを合計した出し物の数は合計して40に届きうる膨大な量だ。

 さらに言えばそれプラス、体育館のステージを使った演劇や演奏、漫才などもあるので全部を回るには時間が足りない。

 去年は匠と揃ってサボっていたのでこの驚きもある意味新鮮ではある。

 

「ねぇ、私たちお腹空いてないし、飲食店以外にしましょうよ」

 

「それもそうだな、そうすりゃ結構回れるみてぇだし」

 

 昼ご飯はもう教室内で済ませた事もあり、飲食系の出し物はスルーする事に決まった。

 あと、体育館ステージの演目なども基本的にはテイルバイオレット関連のショーなどが多いみたいなのでこちらもスルー安定。

 巡るのはちょっとしたミニゲームなどが中心の出し物だ。

 

 

 

 それから俺たちは二人きりのまま学校内のありとあらゆる場所を巡った。

 射的やストラックアウト、簡易ボウリングなどクオリティによっては小学生の出し物かよとツッコミたくなるような物もあったが、俺たちのクラスの出来が異常すぎるだけなのだと納得する。

 ティアナとは時に競争し、時に協力し合い、幾つものミニゲームをクリアしては最高記録を塗り替えていく。

 格闘技系部活動一同主催の異種格闘技対戦体験っていう出し物でのティアナの無双っぷりは特に凄まじかったと思う。

 

「うしッ!! 最高記録突破ぁッ!!」

 

 そして現在、デジタルゲーム研究会(略してゲー研)の自作シューティングゲームを最高記録でクリアした俺は歓喜の雄叫びを上げ、ゲー研の奴らが拍手でたたえた。

 今日一番の喜びと共に景品を受け取った俺はティアナを連れてゲー研を後にする。

 

「見たかよティアナ!! 俺の超スーパープレイ!!」

 

「わかったわかったから、ちょっとは落ち着きなさいよ」

 

 そうは言っても嬉しい物は嬉しいってもんだぜ。

 いや~かつては匠と一緒に授業サボってゲーセン巡りをしていた腕はまだ錆びついちゃいなかったって訳だ。

 おっと、これはティアナには秘密だな。

 

「ねぇ? そろそろちょっと休憩でもしない? 私も和輝も随分遊んだしさ」

 

「確かにな……。ミニゲーム系は全部制覇してキリいいし、何処か適当な所で休憩すっか」

 

 そう決めた俺たちは再びパンフレットを覗き込む。

 休憩に使えそうな飲食系の出し物は露店系の物と比べてもそれほど多くない。

 大半がどこも似たり寄ったりな喫茶店だ。

 

「ソコノお二人サ~ン、休憩シテミマセンカ~?」

 

 どこにしようかと悩む俺たちの前から声が聞こえてくる。

 顔を上げて見ると、白銀のフードを被った女性らしき人物が手招きしている。

 その声はボイスチェンジャーでも使ったのかのように機械的だ。

 休憩所と可愛く書かれた色々と看板が目立ちまくっている。

 

((あ、怪しい……!!))

 

 明らかに何かあるその怪しすぎる風貌に俺もティアナも同じような感想を浮かべながら苦笑い。

 慌ててパンフレットを覗くが、何処にもそんな休憩所の出し物は載っていない。

 前方の教室は今回の文化祭で誰も使っていない空き部屋の筈だ。

 

「どうするティアナ?」

 

「いや、あれどう見てもマ――」

 

「オメデトウゴザイマース!! イマナラカップル一組ムリョウでアンナイサセテイタダキマース!!」

 

「「ッ!?」」

 

 いつになっても入らず怪しむ俺たちを見かねてか、フードの女は強引に背中を押す形で真っ暗な教室内へと連れ込んだ。

 そしてその女は俺たちが部屋に入ると即座に部屋から出て外から扉を閉める。

 当然、俺は慌てて扉を開けようとするが、ロックがかかっているのかビクともしない。

 

「な、何?」

 

「クソッ!! 閉じ込められた!!」

 

 真っ暗闇の部屋の中、俺の舌打ちが響く。

 どうせこれ全部トゥアールさんの仕業に違いない。あのエロババアめ……

 どうやって脱出しようかと思った次の瞬間、部屋の照明がオレンジに点灯し、壁に書かれた言葉が俺の度肝を抜かせる。

 

『総愛と和輝君、二人で○○○しないと出れない部屋』

 

「なッ!?」

 

 中央に置かれているのは無駄にあったかいシーツが敷かれたキングサイズベット。

 その背後にはカーテンなど何もないバスタブ。勿論お湯もたっぷり注がれている。

 さらに部屋のあちこちから無駄になまめかしい音楽が聞こえてくるし、四方八方囲むかのように置かれたアロマキャンドルが独特の香りを放っている。

 最高級のラブホかよとツッコミたくなるその内装は、この部屋が元々教室だったとは思わせない。

 顔も真っ赤にしながら狼狽える俺と何が何だかわかっていないティアナが首を傾げる。

 

『さぁ~もう逃げられませんよ~!! 和輝君、今こそ総愛の初めてを奪ってあげてください!! 私を襲ったあの時の総二様のように男らしく!! さぁ!! さぁッ!!!』

 

 部屋に仕込まれているであろうスピーカーからトゥアールさんの楽し気な声が響く。

 相変わらず、嘘を交えた無茶苦茶な発言しているが、俺はどうすればいいかわからずただ混乱するばかりだ。

 

(ど、どうする……?)

 

 逃げ場はない。

 だからと言って、文化祭というこんな大事なイベントでこんな事をしていいのか?

 考えろ俺。逃げるな俺。

 今こそ童貞を捨てるチャンスじゃねぇか……!!

 それにこれもある意味、最高の思い出になるって事じゃねぇか……!!

 

「ティ、ティアナ……、お、俺……」

 

「やっぱりママの仕業じゃない!! 今日ばかりは許さないんだから!!」

 

「へ?」

 

 ティアナが消えたかと思った次の瞬間、ドゴン!!! と凄まじい爆音が鳴る。

 振り返ると厳重にロックされた扉を拳一発で突き破っているティアナがいた。

 

「核爆発にも耐えれるシェルターが!?」

 

「その程度で私を閉じ込めれる訳ないでしょ!!」

 

「ぎゃああああああああ!! 総愛!! 関節がぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 次に俺が目にしたのは曲がってはいけない方向へと体全身を曲げられ悲鳴を上げるトゥアールさんと憤怒の形相で技をかけるティアナの姿だった。

 

 

 

 

「もう、折角の文化祭なのに……ママったら……」

 

「ははは……、確かにな……」

 

 トゥアールさんによってもたらされたトラブルを乗り越えた俺たちは、引き続き文化祭を楽しむべく学内を回っている際中だ。

 時刻は17時過ぎ。

 陽も傾き、夕焼けがグラウンドを赤く染めている。

 パンフレットに書かれたスケジュールによると、18時になれば全ての店が閉店し、運動場にてキャンプファイヤー、そしてそれが終わると完全に文化祭終了らしい。

 

「見て回れるのはあともう少ししかないのね」

 

「みてぇだな。どうする? 最後に体育館のステージを見に行かねぇか? ほら、予定ではもう直ぐシークレットゲストによる特別ステージらしいしよ」

 

 体育館のステージに登場するとされているシークレットゲスト。

 書かれ方的にかなりビッグなゲストのようであり、気になって仕方ない。

 

「そうね、折角だし行ってみましょ」

 

「賛せ――」

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉッ!!! ヒカリちゅあ~~~~~ん!!!」

 

 体育館へと向かおうとした矢先、俺たちの後ろから聞き覚えのある気持ち悪い声が聞こえてくる。

 振り返るとそこには、体育館へと向かうべく廊下をダッシュする燕尾服の男。

 間違いない。あの奇行とあの恰好は匠だ。

 

「おい匠!! 何してんだよ!!」

 

「ん!? 和輝じゃねーか!! てかお二人さんこそ何してんだよ!! 急がねーと始まっちまうぞヒカリちゃんの特別ステージが!!」

 

「「は……?」」

 

「じゃあそういう事で!! 待っててねぇぇぇぇ!! ヒカリちゃぁ~~~ん!!!」

 

 そう言い残して走り去る匠を俺とティアナは口をポカーンと開けながら見送った。

 数秒後、我に帰った俺たちは体育館に現れるシークレットゲストがアイドルの夢宮ヒカリだと理解する。

 

「ど、どうする? 行くか?」

 

 夢宮ヒカリ。

 彼女はエレメリアンに度々狙われており、その度に俺が守っていった事もあり、彼女はテイルバイオレットの正体を知る数少ない人物だ。

 だが、それと同時にティアナと少々相性が悪かったような記憶がある。

 故に俺はティアナが不機嫌になるんじゃないかと思い、恐る恐る聞いてみる事にした。

 

「勿論、行きましょ。確か昨日、新曲も発表してたしね」

 

「そ、そうか」

 

 以前とは違う晴れやかな笑顔。

 俺はそれを見て記憶が戻ったからなのかと一人納得するのだった。

 

 

 

 

 時は少し巻き戻る。

 ちょうど和輝たちが働いていた時の頃。

 双神高等学校へと向かう道を帽子とサングラスで変装したヒカリが歩いていた。

 

「ふふっ、和輝さんったら、また喧嘩してる」

 

 スマホに映るのは和輝とティアナが店内で仕事忘れて喧嘩しあう所を収めた写真。

 リアルタイムで更新され続けられる新聞部の文化祭通信である。

 

「って急がなくちゃ、早くしないと和輝さんの接客受けられない」

 

 何故トップアイドルであるヒカリが一人で学校まで向かっているのか。

 それは午後のシークレットゲストとして招かれているのもあるが、ステージに上がるよりも前に文化祭をお忍びで楽しみたいからである。

 ヒカリは今をときめくトップアイドルである。

 彼女の拘束時間は一般人とは比べ物にならない。

 今回は予定よりも早く仕事が終わってかなり時間が空いた。

 故に仕事と仕事の合間に少しでも楽しむのだ。

 マネージャーたちとの合流はステージが始まる17時半より前の17時。

 まだ急げばかなりの時間を楽しむことが出来る。

 

「待っててください和輝さん……!!」

 

 駆け出すヒカリ。

 人気のない高架下トンネルを通ろうとした時であった。

 

「ぐッ……」

 

「!?」

 

 薄暗いトンネルの中、人がうめき声と共に倒れる音がした。

 ヒカリの目がその方向へと自然と向かう。

 そこには赤黒い髪をした傷だらけの男が血を流しながら倒れていた。




原作のトゥアールは総二と結ばれるべく色々してましたが、本作のトゥアールはヒロインの母親ポジションという事もあり、和輝とティアナをくっつけようと色々します。
ま、その結果どうなるのかはおいておいて……
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