俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第124話 ヒカリとレイジ

 突然だが君はもし、薄暗く人気のない道を一人で歩いている時に血を流して倒れている人を見つけたらどうする?

 駆け寄って助けようとする?

 警察や救急車を呼ぶ?

 それとも怖くなって逃げ出す?

 はたまた気づかないふりをして無視をする?

 

 十人十色、選択肢は無数に存在する。

 中にはそんな場面に出くわすなんてありえない、馬鹿馬鹿しい。とそもそも答えもせずに笑う者もいるだろう。

 実際、平和な場所で生きているとそう感じるのもおかしくない。

 なんせその確率は1%にも満たないのだから。

 

 だがそれは、決して100%ではない。

 どれだけ天文学的低確率であろうとも完全な0でない絶対などない。

 宇宙を生んだビッグバンや我々が生きるこの地球この世界が誕生したのも、そんな不確定な確率をくぐり抜けた奇跡の代物である。

 とある次元のとある女神は語るだろう。

 髪を二つに結び、ツインテールが生まれたのもそんな偶然と言う名の奇跡であると。

 

 さて、話を戻そう。

 君はもし、目の前で人が血を出して倒れている時どうする?

 やはり助けてあげようと駆け寄るのか?

 それがもし、邪悪に染まった獣であったとしたら……?

 

 

 

 

 双神高等学校の文化祭へと急ぐヒカリ。

 そんな彼女が道中の高架下トンネルで出会ったのは赤黒い髪が特徴の男。

 その男はみすぼらしいコートを羽織っており、怪我をしているのか血を流して倒れている。

 薄暗いトンネルの中、彼女とその男以外は誰もいない。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 明らかに異常なその様子を見たヒカリは認識すると同時に駆け寄った。

 力尽きたかのように倒れているその男は近くで見れば見る程、その怪我がただの怪我ではない異様な物であるとわかる。

 激しい戦闘に巻き込まれたか、それともその戦闘の当事者か。

 何にせよそれはただ普通に生きているだけでは決してつかぬ怪我だ。

 反射的に駆け寄ったヒカリはそれに気づき、足がすくむ。

 

「この怪我……普通じゃない……!! あなた一体……」

 

「あぁ……? 誰だ……?」

 

 ヒカリの声を聞いた事で意識を取り戻したのか男は立ち上がろうと顔を上げる。

 その顔からわかるのはその男のおおよその年齢くらいであり、当たり前だがそれ以外はまるでピンと来ない。後は、ワイルドというに相応しいその顔つきにはシチュエーションこそ違えば思わずときめいてしまうかもしれないと思う程整っている事くらいだろう。

 だけどそれは、あくまで異常事態ではない場合に限る。

 そして何よりも……その男の持つ雰囲気はワイルドなんて言葉で表すには余りにも凶悪であった。

 

「ひッ……」

 

 その迫力に後退り、足を滑らせ尻もちをついてしまう。

 見上げる者とそうでない者が逆転した。

 

「嬢ちゃん……危ない人に声をかけてはいけませんって習わなかったのかぁ? それもこんな場所でよぉ……」

 

「あ、あなた……!!」

 

「おいおい、声をかけたのはてめぇだろ? 何も逃げなくていいんじゃねぇか」

 

 ゆっくりと近寄って来る男。

 恐怖、そして声をかけた事を後悔しながら必死に後退ろうとしたヒカリ。

 トンネルの出口から射す光があんなにも遠く感じた事はない。

 振り返り男を見るヒカリはその男の腕に赤く輝く腕輪を見た。

 

「それは……テイルブレス……!!」

 

「ああん? んだとぉ……!?」

 

 驚く両者。

 ヒカリからすれば、テイルブレスは友人兼恋敵であるティアナが持つツインテール戦士へと変身させる道具であり、それを持つという事は即ちその者がツインテール属性を使って変身する戦士の証であるからだ。

 一方、男からすれば、テイルブレスは特殊な認識攪乱機能が搭載されているが為に一般人ではそれをつけていること自体が認識できない物であると知っているからである。

 

(もしかしてこの人の怪我って……!! でも、それにしても……何なのこのオーラ……!! 和輝さんやティアナさんとは違う……!!)

 

 ヒカリは和輝という前例を知っている為、男がツインテール属性を持った戦士に変身する事自体には驚きはない。

 寧ろこの男がそうであると言う確信を抱くほどだ。

 だが、それと同時に気になるのはこのあまりにも禍々しいオーラ。

 彼女の常識にある前提であるツインテール戦士=正義の味方という図式にまるで当てはまらないであろうその雰囲気はヒーローというよりも破壊者や侵略者のそれである。

 事実、男は今の今まで全くと言っていい程善良な雰囲気を見せていない。

 それもその筈、この男こそテイルバイオレットの宿敵であり仇敵、アナザーテイルレッドことレイジ・レオン=ザードである。

 

「嬢ちゃんこれが見えるって訳かい……。けッ、つまりはガキ共と関係があるかもしくは相当のツインテール属性を有しているって訳だ」

 

 レイジはコートのポケットを漁り、小さなタブレットを取り出してはその画面を凝視する。

 数秒後、レイジの口元はニヤリと邪悪に歪む。

 そのタブレットの画面に映るのはヒカリのツインテール属性を数値化して表した物であった。

 

「ビンゴだぜ。まさか、こんな上質なツインテールと出会えるたぁ、女神様はオレにまだ微笑んでいるってこったなぁ」

 

 レイジからすれば幸運以上の何物でもない。

 さらにこれはレイジの知らぬ事であるが、ヒカリはレイジの語るガキ共、即ちティアナと和輝と関係を持っている人物でもあり、二重の意味で正解であるのだ。

 

「ツインテール……!!」

 

 レイジの言葉を聞き、反射的にヒカリは自身の髪に触れた。

 彼女の髪型は大きめの帽子をかぶっている為にわかりづらいがしっかりツインテールである。

 

「あなたやっぱり……!!」

 

「ご明察、オレの狙いは嬢ちゃん、てめぇのツインテールさ。総愛の持つ物と比べたらまだまだ未熟で味噌っカスもいい所だが、まぁ復活するには申し分ないんだよ」

 

 レイジの腕にあるテイルブレスに赤い光が灯る。

 その血のように真っ赤でドス黒い赤い輝きを見てヒカリは思い出した。

 数週間前、世間を騒がせたテイルレッドと名乗る悪のツインテール戦士の事を。

 

「まさかテイルレッド……!!」

 

「そうさ、そのまさかって奴さ」

 

 この男がテイルレッド……!!

 和輝さんたちが倒した筈の悪い人……!!

 そう心の中で思ったヒカリは逃げ出そうとする。 

 だが、恐怖心はそれを妨害し、尻もちをついたまま碌に動けない。

 

「頂くぜぇ!! ツイン――」

 

 観念し目をつぶるヒカリ。

 そのままレイジの宣言通り、ツインテール属性が奪われてしまうのか。

 属性力が奪われてしまった場合の事を知っているヒカリは恐怖や後悔と言った感情を抱きながら解放されるその時をただ待った。

 しかし、それは意外な形で解放されることになる。

 

「ぐッ……!?」

 

「ッ……、ん……?」

 

 目を閉じたヒカリの耳に聞こえて来たのはレイジのうめき声だ。

 恐る恐る目を開き、何があったのかを確認するヒカリ。

 すると目の前には、傷があるでろう胸を押さえながら苦しむレイジの姿があった。

 

「あなた……、まさか傷が……!!」

 

「ぐぅ……」

 

 程なくしてレイジは崩れ落ちるように倒れた。

 手で傷を押さえているが、赤い血は服をより一層赤く滲ませている。

 傷が開いたのは誰が見ても明らかだ。

 

「がああああああッ!!!」

 

 トンネル内に響くのは聞いているこちらも痛くなるような悲痛な叫び。

 傷を必死に押さえながらもだえ苦しむその姿はとても世間を騒がせた大悪人のそれではない。

 今の状態でなら非力なヒカリでも倒すは流石に不可能だとしても、逃走する事など訳ないと言える。

 恐怖心が消えてきたヒカリは恐る恐る立ち上がる。

 

「に、逃げなきゃ……!!」

 

 とりあえず早くこの場から離れよう。

 そうしたら今度は和輝さんたちに連絡すれば後はもう大丈夫。

 我に帰ったヒカリは立ち上がると同時にトンネルの出口目指して駆け出した。

 外から差し込む光、先程はあんなにも遠く感じたのに今はこんなにも近かったのかと思ってしまう。

 出口へとたどり着くその瞬間、ホッとしたヒカリはトンネル内を振り返る。

 

「ぐ、ぬぅ……!!」

 

 薄暗い闇の中で辛うじて見えたのは先程までもだえ苦しんでいたあの男が力尽きるかのように動かなくなる瞬間であった。

 糸が切れた人形かのようにプツリと崩れ落ちるその様はフィクションでは感じられないリアリティがあり、人の命が消える時とはどんなものなのかを嫌でもわからせてくる。

 背筋が凍るような感覚がヒカリを襲った。

 

「ッ……」

 

 このまま逃げれば確実に助かる。

 でも、そうすればあの人は確実に命を落とす。

 いくらあの人が悪人だったとしても、いくらあの人が私の事を襲おうとしたからと言っても、だからって見殺しにしていいの?

 ヒカリの脳裏によぎるのはある種の罪悪感。

 第三者がこの場にいたのなら君が悩む事じゃないよの一言でも言って安心させたかもしれないが、この場にいるのはヒカリと倒れ伏す男の二人だけ。

 数秒の悩みの末、ヒカリは意を決して闇の中へと戻っていった。

 

「だ……だ、大丈夫ですか……?」

 

 一度襲われかけた事もあってか、ヒカリは最初と違って警戒しながら恐る恐るそう尋ねた。

 反応はすぐに返ってこない。

 もしかしてもう死んでしまったのか。

 そう思ってしまったヒカリであったが、それは程なくして杞憂に終わったのだったとわかる。

 

「っぅ……!!」

 

「よ、良かった……!!」

 

 先程よりもかなり弱々しいが辛うじて息はあった。

 心から安堵の声を漏らしたヒカリは、このままではいけないとばかりにレイジを壁際に寄せてあげようとした。

 

「な、なに……!?」

 

 肩を借しながら壁際まで運ぶヒカリを見て驚いたのは他でもないレイジ本人だ。

 レイジからすればヒカリは先程自分が襲い掛かった相手であり、助けられる道理などまるでないのだから。

 

「どういう……事――」

 

「あまり喋らないでください。また傷が開きますよ」

 

「な……!?」

 

 ヒカリの返しにまたも驚くレイジ。

 その後、無事レイジはヒカリの助けもあり壁にもたれかかる事が出来た。

 ただぶっ倒れているよりかは少しばかり楽ではあるが、一度傷が開いた事もあり、再び立ち上がるにはまだ力が足りない。

 

「何故だ……何故戻って来た……。あのまま逃げれば俺は死んでいた……なのに何故……」

 

「それが嫌だったからです」

 

「なに……!?」

 

「だって、どんな悪い人でも目の前で死んでほしくないじゃないですか。それに私はアイドルです。あなたがどんな悪人でも目の前で死なれちゃ後味悪くて活動に支障がきたすじゃないですか」

 

「だからって……普通、助けるか……?」

 

「勿論、あなたの身柄は和……いや、テイルバイオレットに引き渡します。その辺りは勘違いしないでくださいね」

 

 そう言いながらヒカリはスマホを取り出し、和輝らに連絡を取ろうとする。

 それを見たレイジはフッと笑う。

 

(なんて甘い奴だ……。下手すりゃ総二以上の甘さだ……)

 

 レイジの脳裏に浮かんだのはかつて共に肩を並べた友である観束総二の姿だ。

 今頃、総二は何をしているのだろうかと思い笑う。

 そんな時であった。

 

 

 

「まさか、こんな所に出くわすとは……これ即ちレッドたんからのお告げに違いないでありますな!!」

 

 トンネル内に響き渡るのはねっとりとした男の声。

 ヒカリとレイジは声がした方向へと顔を向ける。

 トンネル外から射す光を背に佇むその姿はまさしく異形。

 蟹を思わせる甲殻の鎧を身に纏い、頭に二対の角を生やした一つ目の悪魔の如きエレメリアン。

 とてもじゃないがこれをヒーローとは呼べないだろう。

 

「え、エレメリアン……!!」

 

「こんな時に……!!」

 

 突然のエレメリアンの登場にヒカリは恐怖し、レイジは歯噛みする。

 蟹の如きエレメリアンはゆっくりとこちらへと近づき、そのハサミを向ける。

 

「どうしよ……これで三度目……!! また私……」

 

「いや待て、属性力はオレのブレスからでる認識攪乱が働いている筈だ。エレメリアンごときに感知出来る筈が無い……!!」

 

 レイジの言う通り、レイジの持つテイルブレスは通常の物よりも特殊な作りになっていて変身せぬ限り彼の周り半径数メートルの属性力は感知されづらくなっている。

 その感知阻害能力はあのトゥアールですらも凌駕する代物であり、レイジが今までずっとこうやって逃げ隠れる事が出来たのがその証拠である。

 なのに、このエレメリアンはこちらの場所を見つけ出した。

 つまり、このエレメリアンはレイジやヒカリの属性力を感知してやって来たのではなく、出会ったことが全くの偶然であるのだ。

 

「となると、奴の狙いは……ッ!!」

 

 レイジが敵の目的を察したと同時にエレメリアンのハサミから圧縮された水が弾のように発射される。

 水弾は地面に命中し爆音を轟かせた。

 

「にゅふふふ、レヴィアタンギルディに居場所を奪われこの世界を彷徨う事幾星霜。こんなチャンスに巡り合えるとは思ってもみなかったでありますなぁ~」

 

 笑うエレメリアン。

 目的を察したレイジはよろめきながらであるが何とか立ち上がる。

 

「嬢ちゃんは逃げな。奴の狙いはオレらしい」

 

「え?」

 

 そうヒカリが驚いた瞬間、またしても水弾が放たれる。

 その狙いはヒカリではなく、レイジだった。

 

「チッ……!!」

 

 間一髪避けるレイジ。

 レイジはテイルブレスを構えようとするが、ブレスの光は鈍く、変身が出来ない事を直感する。

 それを察したのか、エレメリアンは再び笑う。

 

「にせテイルレッド、どうやら変身すら碌に出来ぬようでありますな。やはりレッドたんが言っているのでありますよ、姿と名を騙る愚か者はこのガープギルディに裁かれるべきでありますとね」

 

 ガープギルディと名乗ったこのエレメリアン。

 彼は元々、アルティデビルの中でも屈指のテイルレッド好きと評判の主人公属性(プロタゴニスト)を愛するエレメリアンであり、かつてアルティデビル内でアナザーテイルレッドの存在を知って以降ずっとアナザーテイルレッド及びその変身者であるレイジを憎悪していた。

 先日のレヴィアタンギルディの騒動の際にフォルネウスギルディと同じように脱走したガープギルディ。

 あの日以来、彼はずっとレイジを探して追っており、そして見つけたのだ。

 

「お前の属性力など欲しくありませんぞ。吾輩が欲しいのはお前の命でありますからな。お覚悟を!! でありますな!!」

 

 所かまわず水弾を乱射するガープギルディ。

 レイジは先程まで死にかけていたとは思えない俊敏な動きでそれを回避する。

 苛立つガープギルディは攻撃の勢いを強めていく。

 そんな中、急いで救援を呼ぼうとしていたヒカリの下に一発の水弾が飛んだ。

 

「もしもし!! 和輝さん!! 早くでて!!」

 

 必死にコールするヒカリは直前まで気づかなかった。

 それに気が付いた時、その水弾は目の前に迫っていたのだ。

 目をつぶってしまうヒカリ。

 その時、レイジが動いた。

 

「チッ……!! ガキが!!」

 

「え……!?」

 

「ぐぁッ!!」

 

 次の瞬間、ヒカリが見たのは自身を突き飛ばしそのまま庇うように背中で攻撃を受けたレイジの姿であった。

 突然の事で何が何だかわからないヒカリ。

 激痛に顔を歪めながらもレイジはせめてもの反撃とばかりにポケットから取り出したタブレットをブーメランを投げるかのようにガープギルディへと投擲した。

 

「ぐおっ!?」

 

 投擲されたタブレットは見事ガープギルディの顔面へと命中。

 命中すると同時に元々仕込んでいた自爆機能が作動しガープギルディの顔面へとダメージを与える。

 尤も、エレメリアンである以上は属性力を伴わない物理攻撃など効果なしだ。

 ただただ怒らせるだけである。

 

「こ、こんの……変身できない分際で歯向かうのでありますな……!! ならば吾輩の妙技を持って裁きを下してありますぞ……!!」

 

 怒るガープギルディはその一つ目を光らせる。

 そしてエネルギー充填と共にレイジとヒカリ目掛けて発射した。

 

「喰らえ!! 小さき物語の箱庭(スモールワールド)!!」

 

 

 

 

「うぅ……、ここは……?」

 

 薄暗くジメジメした空間にてヒカリは目覚めた。

 周囲から漂うドブのような酷い臭いが鼻を刺激する。床はひんやりと冷たい、コンクリートか何かなのだろう。

 ここは一体どこ? 私の身に何が起きたのか?

 ヒカリは気を失うまでの事を振り返りながら直前まで何が起きたのかを回想する。

 文化祭へ参加すべく双神高等学校へと向かっていた事、その道中で悪のテイルレッドへと変身する男と出会った事、そしてその男を狙ってエレメリアンが現れた事……

 朧気であった記憶が徐々に鮮明になっていく。

 気を失う直前、私はあの蟹のようなエレメリアンの光線を受けた……

 さらに言えば、その直前、私はエレメリアンの攻撃を……

 

「そうだ……!! あの人は……!!」

 

「喚くな、静かにしろ……」

 

 あの人はどこだろうときょろきょろ探すヒカリに釘を刺したのは他でもないレイジ本人であった。

 腕を組みながら壁にもたれ掛かっているレイジを見て安堵するヒカリ。

 ヒカリはレイジに何が起きたのかを尋ねようとする。

 だけど、ヒカリはレイジの名を知らない。変身後の姿であるテイルレッドさんとでも言えばいいのだろうか?

 どう話しかけていいかわからぬ様子のヒカリを見てレイジはため息を吐いた。

 

「レイジだ。後は好きに呼びな、嬢ちゃん」

 

「は、はい。レイジさん……」

 

 静寂と共に訪れるのはどう表現していいのかわからぬ程の気まずい空気だ。

 よくわからない場所にて二人きり。それも相手は他者のツインテール属性を狙う大悪党。一瞬ではあるが、ヒカリ自身も襲われかけたのでその事実に疑いはない。

 だが、だからと言ってヒカリはこの男が怖いかと言えば今はそうでもない。

 エレメリアンの攻撃から身を犠牲にしても庇ったのもまた、レイジなのだから。

 尤も、だからとて親し気に話しかける事が出来る関係かと言えばそうではないのもまた事実なのである。

 

「あの……レイジさん、ここは……?」

 

「知るか。オレも無我夢中だったからここが何処かなんざわからねぇ。ま、何となくだが見当はつくがね」

 

「見当?」

 

 首を傾げるヒカリに対してレイジはスッと上を指さした。

 目で追い、見上げるヒカリ。

 広がっているのは先程までいたトンネル内となんら変わらない薄暗い闇。

 だけど、薄っすらであるが格子状の塊が天井を覆っているように見える。

 

「あれって……」

 

「グレーチングって言う側溝などの蓋に使われる物だろうなぁ」

 

「え、それって……」

 

「ご明察、オレたちは小さくなっちまったって訳だ」

 

 小さくなった。

 その言葉を聞き、ヒカリはここで何処で、自分たちがどうなったのかを理解する。

 あの時、ガープギルディが放った光線は対象を小さくする縮小化光線であり、ここは小さくされた後、レイジが逃げ込んだトンネル脇の側溝の中。

 匂って来るドブのような臭いも、薄暗くジメジメした空気も、それならば全て納得がいく。

 

「私たち、どうなるんでしょう?」

 

「さぁなぁ? 助けを呼ぶにも呼べる物は無し、あのガープギルディとか言う奴を倒せば元には戻るだろうが、今のオレじゃ変身出来ないんでな、お手上げって奴さ」

 

「そんな……」

 

 意気消沈するヒカリ。

 小さくされた際、身に着けていた物は全て同じように小さくされているが、最も大事なスマホなどと言った連絡ツールは先程攻撃から庇われる際に落としているので手元に存在しない。

 尤も、例え持っていても五十分の一ほどまで縮小されている以上、電波が届くかは不明である。

 

「ま、諦めるんだなぁ。いずれオレたちは野垂れ死ぬ。その時までの辛抱さ」

 

 冷たくそう突き放したレイジは再び壁にもたれかかっては口元を歪ませる。

 普通なら絶望してもおかしくない状況だ。ただのガキに耐えられる筈が無い。

 ここで死ぬのだと達観していたレイジは、最期にこの少女の絶望を眺めて死ねればそれでいいと思っての行動だった。

 だが、ヒカリは違った。

 

「すいません、何から何まで。色々とありがとうございます!!」

 

「はぁ?」

 

 ヒカリが真っ先に取った行動。

 それはレイジへの感謝であった。

 裏のない明るい笑顔と共に頭を下げた彼女のその行動はまたしてもレイジの予想を裏切り、レイジは呆気に取られてしまう。

 

「何言ってんだ? こうなったのも全部、オレと関わっちまったからなんだぜ? なのに感謝だぁ? 嬢ちゃんてめぇ一体どんな神経してやがる」

 

「まぁ、それはそうですけど。でも、助けてくれたのは事実です。それに逃げろって言ってくれたのに逃げなかった私の責任でもありますし」

 

「いや、だからってそんな反応するかぁ? 頭お花畑すぎんだろ」

 

「うーん、確かにそれはそうですね……あはは……」

 

 そう笑うヒカリを見てレイジはどう反応していいかわからなくなる。

 こんな感覚、久しぶりであった。

 

「レイジさん、こんな時ですし少し話しませんか?」

 

 ヒカリはそう尋ねたが、レイジはYESともNOとも言わなかった。

 それを見たヒカリはレイジと同じように壁にもたれ掛かりながら語り掛ける。

 

「私、好きな人がいるんです。その人はぶっきらぼうで不愛想で素直になれない。けどすっごくいい人。今日もそんな彼に会いに行くためにわざわざ他の仕事を断ってまで双神高等学校へ行くんですけどね」

 

「……」

 

「というか私、さっきも言ったかもですけど、こう見えてアイドルなんですよ。デビューしてまだそんなに長くないですけど、自分でもびっくりするくらい人気だったり。わかりませんでしたか?」

 

「……」

 

「勿論、ずっと順風満帆なアイドル生活って訳じゃないんです。ここに至るまで色々ありました。それこそ急変する環境に自信を失って逃げ出そうとした事もあったくらいですし」

 

「……」

 

「でも、そんな私に和……テイルバイオレットは光をくれました。共に真剣に悩んでくれて励ましてエレメリアンからも守ってくれたんです。それが私の好きな人、叶わない恋かもしれないですけど私の想いは変わらないんです」

 

 その言葉を聞いた時、レイジの口元が少し微笑んだ。

 それは邪悪に歪むそれとはまるで違う穏やかな物だ。

 ヒカリもそれに気づき指摘する。

 

「どうしました?」

 

「いやぁ、何つうか嬢ちゃんくらいの頃を思い出してな」

 

「レイジさんの子供の頃……ですか?」

 

「まあなぁ、あの時のオレは青臭くてダサい純粋な馬鹿だった。でも、今よりかは真っ当だったかもなぁ……」

 

 そもそも、レイジは本来の歴史には存在しないイレギュラーである。

 レイジはテイルレッドがいた世界の遥か未来で生まれ、テイルレッドに会いたい一心で時を超えて歴史に干渉し介入した。その結果、本来の歴史とは違う世界線、平行次元が生まれてしまいそれがティアナが生まれる原因ともなっている。

 元々、レイジは今のような悪の心は持っていなかった。

 ただ、純粋だったのだ。誰よりも、何よりも、透明で、染まりやすい、子供の如き純粋さ。

 欲しい物を手に入れる為に努力を惜しまず、その過程で何が起ころうが気にしない。

 テイルレッド、観束総二らと触れ合い過ごした際に抱いた憧れは時が経つ度に肥大していく。

 一度は理性を働かせて抑えようとした。

 でも、総愛の誕生がそれを目覚めさせる。

 そして誕生した悪魔の化身。邪悪の戦士であるアナザーテイルレッド。

 テイルレッドに憧れた者が到達したのは皆のツインテールを守る英雄(ヒーロー)ではなく、他全てのツインテールを狩らんとする反英雄(アンチヒーロー)

 今思えばこの上ない皮肉だ。

 だからこそレイジは笑う。

 

「レイジさん……あなたやっぱり……」

 

「フッ……。ッ……!?」

 

 異変が起きたのは突然の事であった。

 突如としてレイジはバタリと倒れたのだ。

 狼狽するヒカリはハッと思いだす。

 そう言えばレイジはこうなる前から酷い怪我を負っており、一度襲われかけた時も傷が開きかけて危なかったのだと。

 しかもそれだけではない。

 レイジはガープギルディの攻撃からヒカリを庇っていたのだ。

 

「レイジさん!!」

 

 羽織っているボロボロのコートを脱がし、その傷を確かめる。

 それは素人でもわかる酷い物であった。

 碌な止血すらもされずに血を流し続ける傷跡は最早生きている事自体が奇跡としか言いようがない。

 

「どうすれば……」

 

 

 

 

「みつけたでありますよぉ~!!」

 

 その時、野太くてねっとりしたあの声が、上から聞こえて来た。




たまには和輝たちが主役じゃない話もいかがですか?
連載終了後にオリキャラ中心のスピンオフ書くかも……
でも、レイジが主役の前日譚って需要あるかなぁ?
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