俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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私事ですが、仕事の都合上、急に呼ばれる日が増えると投稿日が一週間ずれたりします。


第125話 復活のR

 頭上を覆うグレーチング蓋が外されギョロリと一つ目の怪物が覗き込む。

 そしてソレは獲物を見つけたとわかりニヤリと笑った後にねっとりとした不快な声を響かせる。

 レイジを狙い、不慮の事故とは言えヒカリを巻き込んだエレメリアン、ガープギルディ。

 特殊能力で縮小されてしまった二人は今まで隠れていたのだが、遂に見つかってしまったのである。

 

「みつけたでありますよぉ~!! 覚悟するでありますなぁ~!!」

 

 ふざけた態度だが、今のレイジたちのサイズからすれば脅威としか言いようがない。

 ガープギルディ推定230cm、それに対して今のレイジとヒカリは3cmあるかないか。

 大人と赤ん坊よりも圧倒的なサイズ差だ。

 さらに問題はそれだけじゃない。

 

「チっ!! こんな時に!! ゔっ……!!」

 

 そう、今のレイジはテイルバイオレットとの決戦から碌な手当てを受けずに今日に至るまでボロボロのままに彷徨っていた。

 しかも先程は何の気の迷いかヒカリをガープギルディの無差別攻撃から庇ってより深いダメージを負っている。

 よろめきながら立ち上がったレイジだが、身体は実に正直であった。

 

「レイジさん!! その体で動いては!!」

 

「うるせぇ、今動かなくてどうすんだぁ? ああん? 俺はテイルレッド様だ。この程度なんて事ねぇってな!!」

 

 睨みながらそう乱暴に答えたレイジだが、ヒカリはそれがただの瘦せ我慢でしかない事などわかっている。

 さらに言えば、状況は悪化し続ける。

 今のテイルレッド発言をガープギルディの耳に入ってしまったのだ。

 

「何ですとぉ~!? お前みたいなモブ以下のクズがまたしてもレッドたんの名を騙ったでありますなぁ~!? やはり吾輩がレッドたんに変わって裁きをくれてやりますぞぉ~!!」

 

 アルティデビル内随一のテイルレッドオタクのガープギルディ。

 それはもう好きとか言う次元を超えて、神のように崇め暴走する狂信者としか言いようがない。

 偏にそれはテイルレッドという圧倒的過ぎる主人公属性の持ち主を見てしまったが故起きた事である。

 レイジとガープギルディはある意味では同じだ。

 二人とも元は純粋であったが、テイルレッドというあまりにも強すぎる光を見て狂ってしまったのは何も変わらない。

 片方は憧れ故にそれを目指し、もう片方は良かれと思って暴走する。

 幸いなのは今この場に当の本人がいない事であろうか。

 もしこの場にテイルレッドがいたら、この二人を見てどう思うかは想像に難くない。

 

「この世に生きる主人公はレッドたんただ一人!! 死ねぇ~い!! ニセモノぉ~!!」

 

 ガープギルディは腕のハサミで潰さんとレイジ目掛けて振り下ろす。

 近くで巻き込まれただけのヒカリがいるがそんなのお構いなしである。

 恐怖で動けなくなるヒカリであったが、またしても彼が動いた。

 

「世話が焼けんだよぉッ!!」

 

 ヒカリを助けたのはレイジだ。

 避ける為に突き飛ばし、そのまま一緒にコンクリートの上をゴロゴロ転がる二人。

 二人の背後で炸裂する爆音と飛び散る破片の山々。

 ガープギルディのハサミはコンクリートを突き破り、そのまま深々と地面に突き刺さっていた。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「礼なんざいらねぇな、それよりも逃げるぞ!!」

 

 幸い、ガープギルディは力の入れ加減を間違えてしまったが為に突き刺さったハサミを抜くのに苦労している。

 

「ぬ、抜けないでありますぅ~!?」

 

 あの様子だとまだ時間はかかりそうだ。

 いくら小さくされてしまい距離を放すのが難しかろうとも、まだ何とかなる。

 相手が馬鹿で助かったぜとはレイジが心の中で呟く一言である。

 

「あそこの窪みだ!! あの中に入れ!!」

 

「は、はい!!」

 

 レイジが指さしたのは側溝内に出来た小さな窪みもとい、ひび割れから生まれた小さな隙間。

 老朽化し、碌に修復も清掃もされていないそこは狭い所を好む虫や植物の楽園であり、大きな者から隠れる為の絶好の穴場だ。あれならば側面をしっかりと触って探さぬ限り人間台の大きさの奴では見つける事が難しいだろう。

 縮小の影響でそんな隙間をも悠々と侵入できた二人は息を殺して隠れ潜む。

 数秒後、窪みの外からボゴンとハサミが引っこ抜けた音が聞こえてくる。

 ガープギルディの追跡が再び始まるのだ。

 

「ちょこまかちょこまかと、逃げ回るなどムカつくでありますぞぉ~!! 何処に行ったでありますかぁ~!!」

 

 探しているであろうガープギルディの声が響き渡る。

 レイジとヒカリは小さくして探しづらくしたのはお前(あなた)だろと心の中でツッコミを入れ呆れてしまう。

 

「くそぉ~!! 見つからないでありますぞぉ~!!」

 

 確かにガープギルディは少々……というよりかなり馬鹿である。

 がしかし、いくら馬鹿と言えど、小さくなった二人がこの側溝内から抜け出して逃げたと思う程の馬鹿ではない。

 側溝内から抜け出すには自身の身長の何倍以上の高さでそり立つ壁を上らねばいけないのだからだ。

 ガープギルディは小さな虫や落とし物を探す者のように側溝内をくまなく探さんとする。

 いくらこの窪みが見つかりづらいとは言え、このままでは時間の問題だ。

 現にガープギルディの魔の手は刻一刻と迫りつつある。

 

「クソがぁ……!! オレが本調子でありゃ、あんな雑魚なんざに……!! ゔっ……!!」

 

 傷を押さえながらも悔しがるレイジ。

 実際、レイジが本調子の状態でアナザーテイルレッドへと変身出来ればガープギルディなど容易く倒す事が出来る。

 だけど、現実とはうまくいかない。

 負傷によるダメージ、それに伴うテイルギアのエネルギーダウン。

 それ以外にも上げればキリがない程に不利な条件が付きすぎている。

 

「ね、ねぇレイジさん?」

 

「づぅ……!! なんだ?」

 

 絶望的な状況下、唐突にレイジに尋ねるヒカリ。

 ヒカリは数十分前の事を思い出していた。

 

「私たちが小さくされる前、あなたが私にしようとした事覚えてますか?」

 

「ああん? んな事聞いてなんになるってぇ? 遂にオレの事を恨むようにでもなったかぁ?」

 

「いや、そうじゃないんです。確かレイジさん言ってましたよね、ツインテール属性があれば復活できるって……」

 

「ッ!!」

 

 そうか、そういやその手があったか。

 それを聞いた瞬間、レイジはとある事を閃き二ヤリと笑う。

 その顔は先程までとは違う邪悪な笑みだ。

 

「確かに、オレはそう言ったな」

 

「です……よね。つまりそれって、ツインテール属性さえあればアナザーテイルレッドに変身してあのエレメリアンと戦う事が出来るって事ですよね?」

 

「ああ、そうだなぁ」

 

 そう答えた直後、レイジはわざとらしくコートの内側に隠していたであろう黒いブレスレットを落としてみせた。

 それは以前、ティアナに使うようにと促した装着者自身の属性力を抜き取れるテイルブレスを模した悪質な機械に類似している。

 

「それ……」

 

「おおっと、オレとした事がうっかり落としちまった。なぁに、コイツは使用者の属性力を抜き取り、オレの下へと転送させる道具だ」

 

「それなら……!!」

 

「待て。いいか? 確かにそいつを使えばオレは復活できる。ただし、一度手放した属性力が再び戻るかはわからねぇ代物なんだ。そもそも他者からではなく、自分自身で属性力を抜き取るってのは創造神への背信を意味する。それが何を意味するかわかるか?」

 

「まさか……」

 

「そう。そうした者達は大体死に至る」

 

 たかが属性力一つでと侮ってはいけない。

 それは確かに立証された真実。

 原初の女神から祝福と同時に与えられ、生きとし生ける全ての生命が育む心の光であり輝き、それはまさしく命に匹敵すると過言ではない。

 

「そんな危ない物、嬢ちゃんにはなぁ……」

 

 心配している様に装い、わざとらしくそう答えたレイジ。

 こんな状況下に置かれて尚、彼の心は邪悪に歪んでいた。

 レイジの意図、それは、それをきいたヒカリが悩みながらも苦渋の決断の果てにツインテール属性をレイジ自身に譲渡する事を決めるのを促す為である。

 一筋の希望を求めて他者にすがり、それを裏切られ絶望する。

 この期に及んでレイジが求めたのはそれであった。

 やはりレイジの本質は悪。他者を踏みにじり自分こそ良ければそれでいいと言うわかりやすい悪。

 この一連の動きは今まで予想外の反応ばかりされたヒカリに対する小さな復讐と言える。

 だがしかし、ヒカリの目に迷いはなかった。

 

「わかりました。私のツインテール、託します」

 

 なんと、ヒカリは悩む素振り一つ見せずにそのブレスを取ったのだ。

 命の危機があると教えたのにも関わらず、一瞬の迷いすらも見せずにそうされた事にまたしてもレイジの予想は裏切られた。

 

「んだとぉ!? お前わかってんのか!? 属性力を失うって事は即ち!! 大好きなツインテールを結ぶことも愛でる事もできずにただ死んでいくのを待つ灰色の人生なんだぞ!! それにもし、オレが復活した後でお前を助けずに一人で逃げたりしたらどうすんだぁ!? ええ!!」

 

 レイジは今、無性に腹が立っていた。

 誰にとか何にとかではない、ただどうすればいいかわからない怒り。

 言葉に表せない敗北感。

 そして、大いなる矛盾。

 自分から仕掛けた事の癖にそれを自らが阻止しようとするという行為その物。

 怒りと共にレイジは酷く混乱していた。

 

「私、レイジさん……ううん、テイルレッドさんの事を信じます。だって、さっきも私の事助けてくれたじゃないですか」

 

「ふざけんな!! オレがテイルレッドだと!? そんな訳あるか!! オレは総二じゃねぇし総二になれねぇ!! オレはこれまで何人ものツインテールを奪い狩って来たんだぞ!! そんなオレをテイルレッドだと!?」

 

「でも、私にとってはあなたもテイルレッドさん……なんだと思います」

 

 その言葉を聞いてレイジは何も言い返せなくなってしまう。

 言葉に表せぬこの感情。

 自分から言った手前、どうすればいいかわからなくなり、本能と理性が混乱してショートする。

 

「それにレイジさん。あなたもツインテールが好き……ですよね?」

 

「っ……!!」

 

 オレはなんだ?

 何がしたい?

 このガキのツインテールを奪う?

 それともこのガキを守る?

 このオレが?

 紛い物程度のオレがか?

 テイルレッドってのは、もっとこう……もっとこう……

 クソッ!! 見透かしたような口を聞きやがって!!

 オレは……オレだ。

 ツインテールを狩る者、アナザーテイルレッドだ!! 

 

「聞こえたでありますぞぉ~!! そこでありますなぁ~!!」

 

 直後、窪みの外からガープギルディの声が聞こえてくる。

 どうやら、今の騒ぎでバレてしまった様子だ。

 もうジッとしてなどいられないが、レイジは未だ動けない。

 そんなレイジにヒカリは笑顔を向ける。

 

「お願いします。私のツインテールをどうか……」

 

 その瞬間、ヒカリの髪を結ぶリボンは解かれ、レイジのブレスに深紅の光が灯った。

 

 

 

 

 全身を貫くのは属性力の衝撃。

 今まさに隠れているレイジらを仕留めようとハサミを振り下ろさんとしたガープギルディは動きを止め、赤い光に目を奪われる。

 光源は音が聞こえて来たあの小さな窪み。 

 始めの光は小さかったが、それは徐々に大きくなっていき、爆裂した赤き閃光が暗いトンネル内を照らす。

 

「な、何でありますかぁ?」

 

 たじろぐガープギルディ。

 そして、赤い光は人の姿、それも成熟した女性の姿を形成する。

 血のように染まった赤いツインテール、吊り上がった鋭い目、赤黒いリップで彩られる口元、動きやすくそれでいて貧相とは程遠い理想のバストと、それを支える力強さとしなやかさを併せ持つ美麗な肉体。それらを保護し纏うは濃い赤と黒の二色で彩られし装甲(テイルギア)であり、本家(テイルレッド)との違いはサイズと色、後はスカートように腰や太ももをカバーする装甲があるかどうか。

 以前までの雰囲気以外は完全に同じであったアナザーテイルレッドとはまるで違う真の意味でのアナザーテイルレッド。

 総二の猿真似ではなく、レイジの理想を形にしたその姿は完全に別物となっている。

 

「大人になったレッドたん……でありますか?」

 

「おお……、前とは随分変わったなぁ。こっちの方が動きやすいし好みだぜ」

 

「ッ……!!」

 

 何が何だかわからず、現れたアナザーテイルレッドの新しい姿を見て思わず誤認してしまったガープギルディであったが、変身直後のレイジもといアナザーテイルレッドの発言を聞いて我に返る。

 このテイルレッド擬きは自身が打ち倒すと心に決めた相手なのだと。

 

「偽物が……!! 今度はレッドたんのお姉さんか母親にでも化けたつもりでありますか!! 主人公になれぬからと諦めるではなく、近しい者へと化けるなどとは……見苦しいでありますぞ!!」

 

 戦いの火蓋は切って落とされる。

 ガープギルディは腕のハサミを開き、中から圧縮された水弾を発射した。

 その威力は先程、生身のレイジに向かって放ち命中させたソレとは比べ物にならぬ威力だと言える。

 だが、アナザーテイルレッドにとっては塵にも等しい。

 

「おいおい、その程度かぁ?」

 

 飛んでくる水弾を見て余裕の笑みを浮かべるアナザーテイルレッドは手で蚊を払うかのように軽く振るう。

 一瞬の拮抗もよろめきすらもなく、飛び散るのは虚しく霧散する水滴。

 それを見た事で、ガープギルディは嫌でも実力の違いを思い知った。

 

「そ、そんなバカな……でありますぞ……!? 吾輩の攻撃が……こんな偽物に……!!」

 

「へッ、つまりおめぇさんの攻撃は偽物以下って訳だなぁ。ざ~こ、ざ~こ、とでも言ってやろうかぁ?」

 

 邪悪に口元を歪ませ妖艶な声で挑発するアナザーテイルレッド。

 それを見て聞いた事でガープギルディの折れかけた心は持ち直し、再度力が籠る。

 一発でダメなら何度でもの精神。

 そう判断したガープギルディは両腕のハサミをそれぞれ構え、ハサミから放たれる水弾を交互に乱射。それは正しく機関銃の如し。

 流石にいくらアナザーテイルレッドと言えどこの乱射を手で振り払うのは無理がある。

 

「ほおう……なんだい、やれば出来んじゃねぇか!!」

 

 アナザーテイルレッドの姿が消える。

 通過し、命中しなかった水弾はトンネル内の壁に激突しては、凄まじい破裂音と共に抉ってみせた。

 当たればひとたまりもないのは一目瞭然。

 高速移動で一瞬回避したアナザーテイルレッドが再び姿を見せる。

 機関銃のように乱射される水弾は再度ロックオンされ、アナザーテイルレッドを狙い続ける。

 

「にゅふふふ!!! どうでありますか!! この威力!! この弾幕!!」

 

「へッ、笑わせる。どこぞの変態お嬢の脱衣っぷりと比べりゃなんてことはねぇんだよ」

 

 その宣言通り、アナザーテイルレッドは未だ余裕。

 ガープギルディはそれもただの痩せ我慢のハッタリでしかないと判断して乱射を続けるが、アナザーテイルレッドは臆することなくその弾幕の中に飛び込んでいく。

 血迷ったのか?

 ガープギルディがそう思ってしまうも無理もない突撃。

 だがアナザーテイルレッドには確かな勝算があった。

 

「いいかぁ? 教えてやるぜぇ? そうやってブッ放すと、足元がガラ空きなんだって事をなぁッ!!!」

 

 迷いなく突撃したアナザーテイルレッドは体を屈め、スライディングの要領で地面を滑る。

 勢いそのままで突っ込むその姿を見てガープギルディは咄嗟に銃口を下げるが、それを見越していたアナザーテイルレッドは勢いを殺さずに蛇行して見せる。

 右に左と高速でなまめかしく動くその赤い影を捉える事はまず不可能。

 

「当たら――」

 

「そらよッと!!」

 

 ガープギルディが瞬きする間もなく接近し終えたアナザーテイルレッドは流れるようにそのしなやかな大人の足で払い浮かす。

 そして浮いたガープギルディの体に向かって脚を縦に横にと二連撃。鞭を振るうかのように払われるその攻撃は今までの幼き姿では出来ない物であり、本家テイルレッドを研究し尽くしているガープギルディですら予想だにしなかった攻撃。

 蹴り飛ばされたガープギルディはトンネル内から弾き飛ばされ、その姿は沈みゆく夕日が照らした。

 

「ま、またしても……でありますとぉ……!? こうなったら我が妙技で……」

 

 一つ目にエネルギー充填するガープギルディ。

 その構えは相手を縮小させるガープギルディの必殺光線、小さき物語の箱庭(スモールワールド)を発射する構えだ。

 対象を小さくして無力し、自作のジオラマに閉じ込めるその技は、物語における主人公としての属性である主人公属性(プロタゴニスト)を愛する彼らしい技と言え、一度当たれば容易く無力化する強力な能力である。

 がしかし、アナザーテイルレッドのような強者に二度も通じる程の物ではない。

 

「そうはいかねぇんだなこれが!!」

 

 小さき物語の箱庭(スモールワールド)の弱点。

 それはチャージ中は完全に無防備となり、コンマ数秒と言えど隙が生まれるという事である。

 それを見抜いたアナザーテイルレッドは素早くフォースリヴォンに手をふれ、以前より大きく変化したブレイザーブレイドをガープギルディの目へと叩きつけた。

 

「ぎゃああああッ!! 目、目がぁぁぁッ!!」

 

「そんなわかりやすい隙を狙わねぇ馬鹿はいねぇよ間抜けが」

 

 そう宣言するアナザーテイルレッドを見て、ガープギルディは恐怖を抱く。

 圧倒的な力の差はどうあがいても覆しようがないのだ。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!! む、無理!! 無理でありますよぉぉぉッ!!!」

 

 情けない悲鳴を上げ逃走を開始するガープギルディ。

 アナザーテイルレッドは嘲笑い、そして手をかざす。

 かざすと同時にその周囲に全方位斬撃装備(サテライトソード)ブレイザーセイバーが10基現れた。

 無様に逃げるガープギルディへとブレイザーセイバーをけしかけようと見据えるアナザーテイルレッドは湧き上がる力を考察しては振り返る。

 

(この力、この輝き。総二……オレは今までお前の力の源は誰よりも強くツインテールを愛しているからだと思っていた。だが、本当はそれだけじゃない。トゥアールから命とも等しい大切なツインテールを託され、自分だけの為だけでなく他者の為に戦う事……。今のオレは何となくだがわかる気がするぜ……)

 

 もし総二がレイジの独白を聞いたらどう思うのか。

 少なくとも悲しみはしないだろう。

 今のアナザーテイルレッドの姿は紛れもなくツインテールを守る戦士なのだから。

 

「ま、正義の味方は今回限りだ。オレは守護者にゃあなれねぇ。オレは根っからの狩人なんだよ」

 

 優しき戦士の微笑みが邪悪な戦士のそれへと変わる。

 アナザーテイルレッドの本質はやはり悪なのだ。

 

「串刺しにしろ!! セイバー!!!」

 

 アナザーテイルレッドは待機させていたブレイザーセイバーを一斉射出。

 高速で飛翔する刃は逃げるガープギルディに容易く追いつくと同時に一斉に飛び掛かり、その全てが深々と突き刺さる。

 

「がッ……ああ……」

 

「いくぜぇ完全開放(ブレイクレリーズ)!!!」

 

 ブレイザーブレイドの刀身が二対に割れる。

 そして吹き上がる黒い炎が辺りを包み込み、アナザーテイルレッドはそのまま急接近。

 

「じゃあな!! あばよぉッ!!」

 

 滅多刺しされて動けないガープギルディの横を通り抜けると同時に振るわれるブレイザーブレイド。

 切り抜けたと同時にガープギルディの上半身と下半身は真っ二つに分かれ爆発を起こした。

 アナザーテイルレッドの必殺技、エクスキューションブレイザーが炸裂したのだ。

 

「フッ、お前言ったよなぁ? オレがモブ以下のクズだって。確かにクズは正解だ。だが、モブ以下ってのは不正解。いいか? オレもお前も、そしてあの嬢ちゃんも、それぞれがそれぞれの物語の主人公なんだぜぇ」

 

 それを聞くはずであるガープギルディはもういない。

 アナザーテイルレッドの声のみが響く。

 

「尤も、オレの場合は悪役主人公(ダークサイド)。お前さんはここで終幕(ジ・エンド)って訳だが」

 

 そう言い終えると同時にアナザーテイルレッドは変身を解いた。

 変身を解いたレイジの姿は変身直前の傷だらけの物とは違う怪我一つない万全の姿だ。

 レイジはトンネル内を振り返る。

 暗い闇の中、そこにはヒカリが倒れている。その姿はサイズこそ元の大きさに戻っているが、アナザーテイルレッドを復活させる為に属性力を失った事で髪が解けている。

 このまま、属性力を返さなければ手遅れになる。

 属性力を元の持ち主に戻せるタイムリミットはそう長くないのだ。

 

「さぁて、どうするかねぇ」

 

 ヒカリの託した属性力は復活の為のキーでしかなく、復活の変身と同時に傷も完治した今では今後の変身に役に立つわけでもない。詰まる所、ヒカリの属性力を返したところでレイジにとってはデメリットは全くない。

 だが、それは逆に言えば返すメリットがないのも同意義であると言える。

 悩む素振り一つ見せずに口元を邪悪に歪ませるレイジ。

 外を照らす夕日は沈み、完全なる夜が訪れたのは同時刻であった。

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 気を失い、倒れていたヒカリが目を覚ます。

 ここは何処? とばかりに見渡すそこはいつもマネージャーが運転している車の中だ。

 外に広がる景色から推測するに場所は学校裏の駐車場と思われる。

 校舎側からは学生たちと思しき楽し気な声が聞こえてくる。

 

「そ、そうだ……私……!!」

 

 瞬間、ヒカリは全てを思い出す。

 今日は双神高等学校の文化祭であり、自分はそこでのスペシャルゲストとして招かれていた事。仕事前に文化祭を楽しむべくマネージャーたちらと分かれて一足先に向かっていた事。その道中でアナザーテイルレッドの変身者であるレイジと遭遇し、それを追うガープギルディと名乗るエレメリアンの襲撃を受けた事。

 あの後、どうなってしまったのか? 

 腕時計を見て時刻を調べると、針は17時50分を指している。

 気を失って以降、何も覚えていないヒカリが今の状況に混乱する中、運転席のドアが開く。

 

「ヒカリ、目を覚ましたみたいだね」

 

「マネージャーさん……!!」

 

 ドアが開き、顔を出したのはヒカリのマネージャーであった。

 見知った顔を見て安堵するヒカリ。

 そんなヒカリを見てマネージャーもまたホッと胸を撫で下ろす。

 

「良かった。疲れて倒れてしまったと聞いた時は心配したよ」

 

「え……? それはどういう……」

 

「あれ? 覚えていないのかい? ついさっき、赤毛の男が君を運んできたんだよ。何でも、中庭付近で疲れて眠っている所を発見したんだって」

 

 そう語るマネージャー。

 勿論だがヒカリにはまるで覚えがない。

 だけどヒカリはその運んできてくれた男が誰なのかは直ぐに理解した。

 

「口調からして知り合いかと思ったんだけど、もしかして不味かった?」

 

「いや、全然!! その人はストーカーとかそんなのじゃないです!! 絶対に!!」

 

「そ、そうなんだ……。君がそういうならいいんだけど……」

 

 必死になって訴えたヒカリを見てマネージャーは何とか納得してみせる。

 一方、ヒカリはそう言えばとばかりに車内に置かれている手鏡を手に取る。

 恐る恐る覗き込むヒカリ。

 そこに映っているのは、いつも通りの夢宮ヒカリ。

 そんな中、そのブロンドの髪はいつもとは少し違う形をしていた。

 

「この髪型……」

 

 それは紛れもなくツインテールであった。

 ただし、それはいつも自らが結ぶ形とは少しだけ異なる。

 全体的に少しワイルドに力強く、それでいてツインテール本来の可愛さを損ねない今まで見た事ないバランス。余程の物好きが見ないとわからない誤差の範囲と言えばそうであるが、エレメリアンに狙われる程の属性力の持ち主ならば心で感じる事が出来る変化だ。

 ツインテールは結ぶ人の心の形が表れるとはよく言った物である。

 このツインテールを結んだのは彼しかいない。

 

「レイジさん、ありがとうございます」

 

 ツインテールを結んで触れることができ、結んでくれた人物が誰なのかがわかる。

 それだけで全てを察したヒカリは小さな声で感謝を述べる。

 もう一人の赤い戦士に向かって。

 

「それよりもヒカリ、スペシャルステージの方だけど……厳しいなら……」

 

「いえ、大丈夫です!! 遅れちゃった分まで頑張ります!!」

 

 そう力強く宣言したヒカリの顔は誰もを魅了するトップアイドルの輝きで溢れていた。

 

 

 

 

『みんなー!! 今日はどうもありがとう~!! わたし、皆に会えてすっごく楽しかったよ~!!』

 

 予定よりも遅れる形となったが、夢宮ヒカリのスペシャルステージは無事幕を下ろした。

 体育館の中はかつてない熱気に包まれており、熱心なファンたちは終わった後もしばらく声援を送っている。中には燕尾服姿をした男子生徒がまだ終わっていないんだとばかりにメイド姿の女子生徒数人と追いかけっこをしている場面まで散見される。

 熱気渦巻き続ける中、笑顔のままに外に出るヒカリ。

 彼女はファンたちに見送られながらマネージャーの運転する車に乗って学校を後にする。

 そんな様子を学校の屋上から見下ろす影がいた。

 

「けッ、随分と人気な事で。黒メガネのちんちくりんを思い出すじゃねぇか」

 

 血のように赤いツインテールが月の光に照らされる。

 影の正体、アナザーテイルレッドはヒカリを見送りながらそう呟いた。

 感傷に浸ろうとするアナザーテイルレッドは背後からの敵意に気づく。

 

「誰かと思えば、お前かよトゥアール」

 

「お久しぶりですねレイジ」

 

 アナザーテイルレッドが振り向いた先、そこにいたのはトゥアールであった。

 トゥアールは警戒心を強めながら、こちら側が何をしようとしても先手を打てるように構えている。

 

「先程、ここからそう遠くない場所であなたの物と思われる属性力の反応を感知して警戒してみて正解でしたね。今度は何を企んでいるんですか。そんな悪趣味な姿に変わってまで一体何を……!!」

 

「悪趣味って酷ぇなぁ。結構気に入ってんだぜ? 悪女へと成長したテイルレッドみたいでさ」

 

 その言葉を聞いて強い怒りから歯噛みするトゥアール。

 実際、今のレイジもといアナザーテイルレッドの姿は今までのテイルレッド瓜二つの姿とは違うものの、明らかに本家を侮辱するかのようなレベルで大人っぽく扇情的な恰好である。

 幼女好きとか云々を抜きにしても、トゥアールにとってテイルレッドのあの姿は非常に思い入れが深い。

 だからこそ、それを第三者が悪意を持って歪めるのは我慢ならないのだ。

 

「ま、そうカリカリしなさんなってな。言っておくがオレは何にも企んじゃいねぇ。今のまま総愛を狙っても、坊主どもに返り討ちにあうのは目に見えてるからなぁ。暫くは大人しくさせてもらうつもりって訳さ」

 

「誰があなたの言う事を……!!」

 

「信じる信じないは勝手だ。無論、信じてもらえるとは思っちゃいねぇしな」

 

 トゥアールとは対照的にケラケラと笑って見せるアナザーテイルレッド。

 そして、アナザーテイルレッドはツインテールを羽ばたかせ宙を舞う。

 

「あばよ、また会おうぜ!!! ハッハッハッハッハーーー!!!」

 

 そう言い残すや否や、アナザーテイルレッドは高速で飛翔し、その姿を夜の闇の中へと消して見せた。

 トゥアールはすかさず反応を追おうとするが、時すでに遅しであり、アナザーテイルレッドの反応は何処にもなかったのであった。

 

「レイジ……あなただけは……!!」

 

 愛する人を侮辱し、愛する娘とその想い人の命すらも刈り取ろうする悪魔。

 次こそはレイジを打倒して見せるとトゥアールは心に誓い夜空を見上げた。

 その直後、トゥアールの白衣のポケットにあるトゥアルフォンに着信が入る。

 

『もしもし、トゥアール先生!? 大変!! 大変なの!!』

 

「どうしました悠香さん? まさかレイジが――」

 

『ティアちゃんと和くんがすっごいいい雰囲気なのよ!! キスする5秒前って感じ!!』

 

 先程までのシリアスな空気は何処へやらとばかりにトゥアールは直ぐに意識を切り替えて校庭を覗く。

 そこでは文化祭を締めくくるキャンプファイヤーが行われており、少し離れた場所でティアナと和輝の二人が頬を赤らめさせながら見つめ合っている。

 

「悠香さんはカメラの準備を!!」

 

『先生はどうするんです?』

 

「決まってます!! ちょっとじれったいので無理矢理にでもエロい雰囲気に持って行ってやるまでですよ!!」

 

 そう言い終わると同時にトゥアールは生身のまま校庭へと飛び降りる。

 そして次の瞬間、ティアナの怒声とトゥアールの悲鳴が文化祭を締めくくったのであった。




以上、アナザーテイルレッド主役エピソードでした。
次回以降は七つの性癖との戦い再開ですかね多分。
それにしても文化祭イベント書き終えるまで時間かけ過ぎたような気がします。

キャラクター紹介24

 アナザーテイルレッド(大人)
 身長:180cm
 体重:62kg
 B92・W52・H82
 武器:ブレイザーブレイド、ブレイザーセイバー
 必殺技:エクスキューションブレイザー

 ヒカリとの出会いを経て、レイジ自身が新たなにイメージしたアナザーテイルレッドの新しき姿にして完成系。
 元々のパワフルで乱暴な戦い方や飛行能力はそのままに、大人の身体を得た事によるしなやかでトリッキーな動きにも磨きがかかった。
 長い脚を生かした蹴りと大型化したブレイザーブレイドで白兵戦において無類の強さも発揮する他、オリジナルよりも操作可能個数の多い全10基のブレイザーセイバーを駆使した距離を選ばない戦い方も可能。
 仕草や見た目は完全に悪女に育ったテイルレッドである。
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