俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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ちょっと遅刻しました


第127話 虚飾なる傲慢

 なんだなんだ……? とばかりにざわつくアルティデビル基地の大ホール。事態に気が付いた者達が続々と様子を見るべく集まり大ホール内は多くのエレメリアンたちによってごった返す。

 そんな中で彼らの視線を集めるのは事の原因となるエレメリアン。

 最初は数人だけが気づいたその来訪者(エレメリアン)の容姿はむさ苦しいこの基地の面々に似つかわしくない程に小さく幼い、山羊の頭蓋骨を模した被り物で目元こそ隠れていてわからないが、その顔つきや体型は明らかに女性もとい幼女のそれである。

 

「どんどんふえてるですのー!? いっぱいいすぎておめめがクラクラしちゃいますー!?」

 

 甘ったるい典型的なアニメ声とは少し違う舌足らずのロリボイス。

 今やって来た者達も理解する。

 このエレメリアンは自分たちよりも幼い幼女のエレメリアンであると。

 

「ど、どうしたのかな~? ま、迷子でもしたのかな~?」

 

 ざわつく面々の中から勇者が一人、恐る恐るではあるが、その幼女のエレメリアンへと声をかけるべく近寄った。

 一見すると児童誘拐を企む不審者その物であり、もし本物の幼女に向かってそんな事をしようものなら防犯ブザーを鳴らされるのは必至。

 だが、幼女のエレメリアンは恐れない。

 

「まいご? ちがうですの~!! スペルはただ、おちごとちにきただけですの~!!」

 

 ぷりぷりと怒ってみせる幼女のエレメリアン。

 舌足らずな言葉遣いと容姿のせいでまるで怖さを感じず、むしろ子供特有の可愛らしさがある。

 それを見た多くのエレメリアンたちはその愛らしさにハートをぐさりと射抜かれ迷う。

 

「ち、違う……!! 俺は断じてロリコンではない……!!」

「許してくれレッドたん……!! パパは……、パパは……!!」

「バイオレットちゃ~ん!! こんな我々にゴミを見るような視線をくれー!!!」

 

 一部は何か違う気もするが、皆の反応は概ね一緒であった。

 自らを戒めるかのように殴ったり、懺悔したり。

 幼女のエレメリアンはそれを見て頭を傾げる。

 

「どうちまちたのー? わるいことでもありまちたかー?」

 

「だ、大丈夫……!! あのおじちゃん達は気にしなくていいよー? そ、それよりも君のお名前を教えてくれるかなー?」

 

 先程同様の不審者らしき言動のままにそう尋ねる。

 

「えーっと……あ!!」

 

 がしかし、幼き子供の興味とは一秒ごとに移り変わるのは必然だ。

 幼女のエレメリアンは尋ねられた当初こそそれに答えようとしたが、一瞬の内に心変わりを起こしてしまう。

 幼女のエレメリアンは大ホール内にてこの騒ぎを気にせずにパソコンと睨めっこしている1人に気が付き、一目散に駆け寄った。

 

「ねぇねぇ!! おじちゃんおじちゃん!! なにかいていますのー?」

 

「ん? って、ええ!? せ、拙者!?」

 

 何が起きているかは理解していても、何が起きるかまでは予測できないそのエレメリアンは不意に現れ声をかけてきたその幼女のエレメリアンを見て困惑すると同時に冷や汗を垂らす。

 この幼女の目的は今まさに一心不乱に描いていた絵だ。

 絵の主は慌ててパソコンを閉じては背中に隠した。

 

「べ、別に何も無いでござるよ……!!」

 

「うそですのー!! おじちゃんだけスペルのことをみずにかいていまちたのー!! うそつきはどろぼうのはじまりですのー!!」

 

「いやいやいやいや!! そ、そんな筈は!!」

 

 そう言って周囲を見渡すが四方八方、全エレメリアンがこちらを見ていた。

 その視線は憐れむ物も多いが、それ以上に早く楽になれとばかりの冷たい物も目立つ。

 

「だ、断じて!! あんな絵やこんな絵は描いてござらん!! だからお見逃しを!!」

 

 必死になってそうは言っているが、ズバリ嘘である。

 レヴィアタンギルディによる被害を受け修正しているこの絵はテイルレッドの色々とあられもない肌色目立つ絵。

 乳首属性(ニップル)のエレメリアンが描く絵と言えばわかるだろうか。

 詳しくは彼の名誉の為に黙るが、まぁつまり、そういう事である。

 

「いやですの!! みたいですの!! スペル、おじちゃんのえをみるまでうごかないですの!!」

 

 お菓子売り場で駄々をこねる子供のように幼女のエレメリアンが騒ぐ。

 一般的な人間らしい感性を持っている者なら怒鳴ったりして乗り越えることも出来ただろうが、彼はエレメリアンだ。

 エレメリアンはその多くが世間一般でイメージされる陰キャ寄りオタクに近い感性を持っている者であり、かの有名なドラグギルディを始めとした大物たちを除けば大多数が少々押しに弱い。

 詰まる所、乳首属性(ニップル)を愛するこのエレメリアンは折れてしまった。

 

「す、少しだけでござるよ……」

 

「わーいですのー!! って、あれれー? どうしてこのこははだかなんですのー?」

 

 汚れ知らぬ純粋無垢な幼子の質問は豪傑たちの心を抉る。

 グハァと血を吐くエレメリアンだが、幼女は止まらない。

 

「うわー、はだいろのえばっかりですのー!? ぜんぶぜんぶそうですのー!?」

 

「グぼらぁっ!?」

 

 他のファイルを漁り、全てを閲覧した幼女の純粋な驚きはそんじょそこらの者ではまるで耐えられない。

 その瞬間、乳首属性(ニップル)を愛する尊き命は散った。

 胸を押さえ、倒れ伏す悪魔のエレメリアンが抱くのは神への謝罪だろう。

 生まれ変わるなら今度はもっと誠実に生きて見せようとはそのエレメリアンの最期に抱いた決意である。

 

「あれれ? おじちゃん? どうちまちたのー? おねむですのー?」

 

 幼女のエレメリアンは知って知らずか倒れたエレメリアンに駆け寄り優しく声をかけるが、反応が無いとわかると途端に興味を失った。

 周囲をきょろきょろと見渡す幼女のエレメリアン。

 それを見た周りの面々は皆が危機を感じては手に持っているパソコンやタブレット、絵が描かれた紙や手直し中のフィギュアを隠して視線を逸らす。

 だが、幼きハンターは見逃さない。

 幼女のエレメリアンは被り物に隠れた純粋無垢な眼差しをキラキラ光らせ走る。

 

「おじちゃんおじちゃ~ん!!」

 

「ひぃぃッ!! こっちに来たァ!?」

 

 先程倒れた奴とは違い、やましい事は何もない。

 なのに幼女の声とはどうしてこうも身構えさせ、そして我々を地獄へと送るのか。

 大ホールはおてんば娘の好奇心によって阿鼻叫喚と化してしまった。

 

「ぎゃああああ見ないでぇぇ!!!」

「許してください!! どうかこの通り!!」

「それは!! それだけはご勘弁を!!」

 

 いつも以上に騒がしいここはもう戦場と言っていい。

 当たり前だが、そんな騒ぎを起こせば自室に引き籠る者たちもそれに気づいては顔を出して新たな犠牲者となる。

 そんな中、一人の老兵が息を切らせながらやって来る。

 

「はぁはぁ……、ど、どこじゃ!? わしの属性力を昂らせる何かは!!」

 

 来たのはこの基地内一番の老兵であるアガレスギルディ。

 レヴィアタンギルディの騒動の際に見た七つの性癖(セブンス・シン)の恐ろしさに怯えて自室に閉じこもっていた彼の姿は多くの者にとって久しぶりという他ない。

 無論、アガレスギルディは今も七つの性癖(セブンス・シン)の放つ恐怖に怯えているのだが、ここに顔を出したのはそれを超える何かがあると長年の勘が教えてくれたからである。

 

「はて? なんじゃ? あの幼子は……」

 

 アガレスギルディの目に映るのは見知らぬ幼女のエレメリアンがあちらこちらに行っては騒がれる謎の光景だ。

 一瞬、その見知らぬエレメリアンこそが目的のそれであるかと思ったが、どう見ても幼すぎるその容姿からあれは違うと結論づける。

 そんなアガレスギルディの背後からまた別のエレメリアンが声をかける。

 

「教えてやろう。彼女は七つの性癖(セブンス・シン)における虚飾もとい傲慢の性癖を担うエレメリアン、名をスペルビアギルディ」

 

「べ、ベリアルギルディ殿!?」

 

 振り向くとそこにいるのはベリアルギルディ。

 アガレスギルディはベリアルギルディの登場に驚きつつも、目の前ではしゃぎ回るあの幼女が七つの性癖(セブンス・シン)の一角である事が信じられないとばかりに二度見する。

 

「あ、ベリアルのおじちゃ~ん!!」

 

「まさか二番目は貴様とはな。遊んでないで早く来い。くれぐれも貴重なモルモットどもを使い潰してくれるなよ」

 

 ベリアルギルディに気づいて手を振るスペルビアギルディに対して、ベリアルギルディはいつも通りの態度を崩すことなくついてくるように命じる。

 はーいと無邪気な笑顔で返事するスペルビアギルディはるんるん気分で後を追った。

 大ホールに残ったのは倒れ伏す者と安堵する者、あとは何もわからないでいるアガレスギルディただ一人である。

 

「な、何が起きたのじゃ……」

 

 困惑するアガレスギルディ。

 だがそれ以上にアガレスギルディの胸に何かが引っかかる。

 ベリアルギルディとスペルビアギルディが去ると同時に消えたこの胸の高鳴りはなんだ?

 

「もしやあの少女……」

 

 アガレスギルディの属性、それは老婆属性(オールドウーマン)であった。

 

 

 

 

 場所が移り変わり、ここはベリアルギルディの研究室兼自室。

 到着早々に騒ぎを起こしたスペルビアギルディを連れてベリアルギルディが帰還した。

 

「全く……相変わらず貴様のその悪癖は何とかならんのか」

 

「スペルはなにもちてませんよー?」

 

「フン、白々しい」

 

 頭を傾げるスペルビアギルディに向かってそう吐き捨てたベリアルギルディ。

 スペルビアギルディの容姿と言動は明らかに年幼い少女のそれであるのだが、ベリアルギルディは態度を崩さない。

 

「ま、それはこの際どうでも良いと言っておいてやる」

 

「わーい、ありがとうですのー!!」

 

「チっ、つけあがる……!!」

 

 ベリアルギルディ舌打ちをしつつもこのままでは話が進まないのを理解している為にそれ以上の追及はしない。

 本題に入るべく、ベリアルギルディは自室内の適当な椅子を雑に投げてはスペルビアギルディに座るように促し、彼女もそれに従う。

 

「さて、ここに来たという事はわかっているとは思うが、貴様にはコイツの身柄を確保を依頼したい」

 

「どれどれー? わぁ!! かわいいおねえちゃんですのー!!」

 

 映し出された映像のティアナを見てスペルビアギルディははしゃぎだす。

 そんな彼女を釘をさすかのようにベリアルギルディは映像を切り替える。

 

「そして、コイツがテイルバイオレット。現状、最大の障害となっている煩わしい凡才よ」

 

「わぁー!! うわさのテイルレッドちゃんたちとそっくりですのー!! あれ? さっきのおねえちゃんとはべつじんですのー?」

 

「いい所に気が付くじゃあないか。ズバリ、答えは正解でもあり不正解でもあると言ってやる」

 

「どういうことですのー?」

 

 頭を傾げるスペルビアギルディだが、こればかりは無理はない。

 ベリアルギルディは再度映像を切り替える。

 映ったのはティアナと和輝がテイルバイオレットエクストリームチェインへと融合変身する一連の流れだ。

 それを見て、すごーい!! と興奮しはしゃぐスペルビアギルディ。

 性別の異なる二人の少年少女が完全融合して新しきツインテールの戦士へと遂げるなど、スペルビアギルディに予測できるはずもなかったのだ。

 

「答えは単純にして簡単。現在のテイルバイオレットはターゲットであるあの少女と、どこぞの馬の骨とも知らん小僧が融合した姿だ。認めたくないが、属性力の数値はそこらの凡才はおろかこの天才ベリアルギルディ様をも遥かに超えていると見える」

 

「たしかにすごくつよそうですのー!! レヴィアタンおじちゃんがまけるのもわかるですのー!!」

 

 レヴィアタンの名を聞きベリアルギルディは顔をしかめた。

 

「どうちたんですのー?」

 

「いや、大言壮語をぬかしたレヴィアタンの愚か者を思い出してな。まさかとは思うが、貴様もオレ様の信頼を破壊してはくれんだろうな?」

 

「むー!! スペルはおじちゃんとはちがうですのー!!」

 

 頬を膨らませわかりやすく怒ってみせるスペルビアギルディ。

 それならばとベリアルギルディは問いただす。

 

「ならば貴様はどうやってコイツを攻め落とす? 策の一つも持たぬようでは愚か者の後を追うだけなのは貴様とてわかっているだろ?」

 

「そうですねー……うーん……」

 

 頭を悩ませうんうんと言い出すスペルビアギルディを見て、まさか何も考えていなかったのかとベリアルギルディは不安がる。

 このような輩に傲慢の性癖の一角を担わせるのは不味かったか?

 若干の後悔をしそうになるベリアルギルディであったが、スペルビアギルディが口元を歪ませたのを見逃さなかった。

 

「いい案があるようだな」

 

「そうですのー!! めいあんがみつかったですのー!!」

 

「聞こうじゃあないか。言えよ」

 

 えーっと、とスペルビアギルディは言葉を詰まらせながらテイルバイオレット攻略の策を答えた。

 語られた内容は子供のように純粋で可愛らしい、だが、それでいて非情。

 幼い容姿からは想像もつかぬ程に残酷なその策に思わずベリアルギルディは笑みを浮かべる。

 

「どうでちたかー?」

 

「確かにその策は名案と言える。テイルバイオレットと言えど変身出来ねば所詮は凡才以下のただの子共。それに貴様が能力を使うという事はあの少年はすなわち……。ククク、長年その姿をしているだけはあるじゃあないか褒めてやるよ」

 

「むー!! れでぃにむかってねんれいのはなちはタブーですのー!!」

 

 頬を膨らませわかりやすく機嫌を損ねてみせるスペルビアギルディ。

 一見するとその様子は幼い少女がませている可愛らしい物であるが、天才ベリアルギルディはそれの下に隠れている真実を見抜きフンと鼻を鳴らす。

 

「もー!! またそのたいどですのー!!」

 

「よく言う。貴様とてそうやって嘘の態度を取り続けているだろう?」

 

「……」

 

 先程までの子供らしい態度から一転、ベリアルギルディから指摘されたスペルビアギルディは俯き黙り込む。

 そして、それと同時に溢れ出るオーラはどす黒く、おぞましい。

 純粋無垢な子共とは口が裂けても言えぬその雰囲気は他者を圧倒する歴戦のそれである。

 

「誰よりも見栄っ張りで誰よりも虚言をまき散らす。オレ様が貴様を見出したのはそんな所を気に入ってやったからなのだからな。おっと、少し言い過ぎたようだな。謝罪してやるよ」

 

 スペルビアギルディから溢れ出る闇のオーラに気づいたベリアルギルディはニヤついた笑顔のまま頭を下げる。

 どう見ても本心からではないのはスペルビアギルディも気づいているが、一応の謝罪を受けて機嫌を取り戻したのまた先程のような幼い少女の雰囲気を纏いだす。

 

「おじちゃーん、こんどそれいじょういったらスペルが『めッ!!』しちゃいますよ!!」

 

「フン、善処しよう。尤も、貴様如き負けるオレ様ではないがな」

 

 決して和やかではなく、だからといってどうしようもない程に険悪とも言えぬ空気が流れる。

 例えるならそれは国家間同士の張り詰めた空気感であり、一つの失言が大きな亀裂を生むこれらは薄い氷の上を歩くかのような緊張感がある。

 七つの性癖(セブンス・シン)と呼び重宝しているベリアルギルディであるが、彼と彼女らの関係は所詮この程度の物なのである。

 

「それじゃあいってくるですのー!!」

 

「期待しておいてやる」

 

 スキップを交えながらのルンルン気分のままにスペルビアギルディは出撃するのであった。

 

 

 

 

 

 正午過ぎ、祝日でも現場仕事の労働者で賑わう下町。

 多くの人々がそこら一帯に並び立つ飲食店に入っては空いた腹を満たして英気を養っていく。

 俺はそんな町の中をマシントゥアールを押しながらぶらついていた。

 今日は11月23日、勤労感謝の日。

 昨日の誕生日から一夜明けた今日、休日だと言うのに俺はティアナたちと分かれて一人で行動していた。

 なぜ一人になろうと思ったかについては別にこれといった理由は特にない。強いて言えばちょっと感傷に浸りたかったと言えば正しいのかもしれない。生まれてきて昨日で17年、特にこの一年は色々ありすぎて思い出深すぎるし、それまでも決して空虚な物ではない。これまでとこれから、ガキの癖になに悟ってんだと言えばその通りだが、人生は長いようで短いのは何となく感じ取れる。特に俺はアナザーテイルレッドの野郎に一度命を奪われ、女神様のおかげで一度限りの復活を果たした稀な体験をしているから尚更だ。

 

(ティアナの奴、今頃怒ってんだろうな~)

 

 夕方までには帰るとメッセージこそ残してきたが、ほぼ何も言わずに一人で出かけている以上は真面目なティアナが怒るのは見なくてもわかる。

 トゥアールさんには条件付きで色々頼み込み頭を下げて黙認してもらってはいるが、それがどうなるかは果たしてわからない。

 あの人、意外と義理堅い性分してるから多分、口割らないし邪魔してこないとは思うけどさ。

 あ、ちなみに条件ってのはティアナの事をクリスマスまでに……――、これ以上は恥ずかしいのでやめておこう。

 

「梅屋のおっちゃん、おひさ~」

 

 腹が減った俺は、丁度視界に入ったラーメン屋台の暖簾をくぐった。

 そこは最近めっきり行かなくなってしまっていたラーメン屋台『梅屋』。

 暖簾をくぐった先には禿げ頭目立つ店主の梅太郎のおっちゃんが暇そうに新聞を読んでいた。

 

「ん? またサボったか……」

 

 梅太郎のおっちゃんが禿げ頭を光らせながら小さい声でボソッと漏らす。

 俺がガキの頃から何も変わらない堅苦しく物静かな親父だが、久しぶりと言う事もあり、俺は少し笑みを漏らす。

 

「勘違いしないでくれよ。今日は祝日だぜ? それにここ最近は真面目に学生やってんだから許してくれって」

 

「そうかい……」

 

 そう適当な返事をする梅太郎であるが、仕事自体は至って真面目だ。

 俺がそれ以上に何も言っていないのにも関わらず、ラーメンの準備を始めだす。

 昔、おやっさんに連れられ初めて行った時と何一つ衰えないその動きは正に職人の技と言えるのかもしれねぇ。

 てか、衰えるどころかキレが良くなっている気もするぜ。

 

「はいよ。いつものだ……」

 

「サンキュっ、流石だぜ」

 

 出されたラーメンはこの屋台で一番人気の特製ラーメン。

 タレや麺の出来は語りに及ばず、俺が最も好きなのは分厚く味が染みこんだチャーシューだ。 

 しかも、梅屋のおっちゃんは昔からサービスでかなり多く入れてくれるのが最高だぜ。

 俺は黙々と食べ続けた。

 

「ぷはーっ、ご馳走だぜ」

 

「相変わらず早い奴だ……」

 

 空になった器を返す俺を見てそう一言。

 俺からすればラーメン一杯程度ならどれだけ量が多かろうが3分かそこらあれば完食可能だ。

 食べ終わった俺は財布からラーメン一杯分の500円を渡す。

 そのまま屋台を後にしようとする俺を見て、梅太郎はぼそりと呟く。

 

「変わったな、お前……」

 

「は? 何がだよ」

 

 思わずそう聞き返す。

 すると梅太郎は少しばかりの微笑みを浮かべる。

 

「漢になったなって事だ……」

 

「男って……今も昔も俺は男だよ」

 

「いや、そこは変わらないのかもしれねぇな……」

 

 はぁ?

 会話が嚙み合わないとはこの事か。

 変わったのか変わってないのかどっちだよとツッコミたくて仕方ない。

 一瞬、俺がテイルバイオレットなのがバレているのかと思って焦っちまったじゃねぇか。

 

 

 

 困惑しながらではあるが、俺は屋台を後にする。

 外はまだまだ陽の光眩しい昼真っ盛り。

 もう直ぐで12月な事もあり、決してあったかくはないが、過ごしやすい部類ではある。

 梅太郎に言われた事を思い出しながら俺はマシントゥアールを押して町をぶらつく。

 ここは主婦や労働者で賑わう下町の裏、表とは近くて遠いエリア。

 俺はいつの間にか暗い裏道を歩いていた。

 

(俺が変わった? いやまぁ、ガキの頃はなぁ……)

 

 昨日、俺が風呂に入っている間におやっさん達が俺のガキの頃の写真を見ていた事を思い出す。

 幼稚園児の頃は泣き虫で直ぐに婆ちゃんに泣きついては爺ちゃんに怒鳴られていた。

 小学生になって匠と出会ってからは些細な事で喧嘩こそすれど、基本的に俺が匠に泣かされたり慰められたりするような間柄だった。

 今のような自分になったのは確か爺ちゃんが亡くなった小学2年の冬だった気がするけどどうだっけ……

 

 そう思い出に浸る俺が、人いない寂しく細い道に差し掛かった時だった。

 

「おにいちゃんはっけんですの~!! こんなところでひとりなんてラッキーですのー!! ぶんだんするてまがはぶけたですの~!!」

 

 背後から聞こえてくるのは舌足らずで幼さ感じる少女の声。

 俺はその声に秘めたどす黒い悪意を感じ取り振り返る。

 そこにいるのは今まで見た事ない子供のエレメリアン。

 無邪気に笑うその姿は一見すると無害だが、どう見ても只者じゃない。

 瞬間、ポケットのトゥアルフォンが鳴る。

 

『和輝君!! 早く逃げてください!! 危険です!!』

 

 応答すると聞こえてくるのはおふざけ一切無しのトゥアールさんの焦り声。

 俺もこれはヤベェとマシントゥアールで逃走を図ろうとする。

 だが、目の前の幼女のエレメリアンはそれを許さない。

 

「スペルと遊ぶまでは逃がさないですの~!!」

 

 スペル、そう自身を呼ぶ幼女のエレメリアンが悪趣味な被り物で隠れた目を光らせる。

 するとどうだ。

 周囲の空間がぐにゃりと歪み変わる。

 花や飛行機、デフォルメされた動物の絵が空一面に浮かぶこの空間は、幼稚園や保育園、もしくは病院などの施設で子供が遊んで待つようなキッズスペースを広く具現化したかのような所だ。

 

『和輝君!! 今救援が――』

 

「トゥアールさん!? おい!! 返事しろ!!」

 

 トゥアルフォンから聞こえてくるトゥアールさんの声がザザーッと砂嵐のようなノイズでかき消され聞こえなくなる。

 これが単なる故障ではなく、この対面のエレメリアンによって起こされた現象なのは馬鹿な俺でもわかる。

 

「だいじょうぶですよおにいちゃん、おにいちゃんはただスペルとあそんでくれればいいですので~」

 

「んだとぉ……!!」

 

 ティアナがいない今、俺は変身できない。

 何時ぞやのバアルギルディの暴走事件が脳裏に蘇る。

 

「スペルはやさちいですの~!! いっちょにあそぶですの~!!」

 

 俺が最後に聞いたのは迫りくる幼女エレメリアンの無邪気な笑い声だった。

 

 

 

 

「無事でいて!! 和輝!!」

 

 ママから和輝がエレメリアンに襲われている事を告げられた私は変身した華先生ことテイルブルームと共に現場へと向かう。

 基地内の転送装置から目的地へと最も近い転送ポイントへと飛んだ私はただひたすらに走る。

 何となくだけど、和輝が遠くへ行ってしまうようなあの時の不安が蘇る。

 

「橘さん、あっちよ!!」

 

 テイルブルームが指をさしたそこは人通りの少ない裏道。

 陽の光があまり入らないこの場所で私は道の隅で倒れて放置されているマシントゥアールを発見。

 となれば和輝も近くにいるであろうと探し回る。

 

「ママ!! 和輝はどこにいるの!?」

 

『反応が弱いのかまるで探知しきれません!! 属性力の反応跡からそこら近辺なのは間違いありませんが……!!』

 

 ママの通信を聞いた私はより一層焦りだす。

 和輝がいなくなるなんて、ツインテールの片房を失うのと同じだもん……!!

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

「泣き声!? 子供の!?」

 

 いくつかの回り角を曲がった先、聞こえて来たのは泣き叫ぶ子供の声。

 まさか和輝を襲ったエレメリアンがそこにいるんじゃないかと思った私はテイルブルームを呼ぶことも忘れて走り出す。

 そこには4、5歳くらいの半袖半ズボンの男の子がうずくまって泣いていた。

 幸か不幸かエレメリアンの姿は見当たらない。

 

「そこの君!! 大丈夫!? この辺りで怪物を――」

 

 駆け寄り手がかりを聞こうとした私はその男の子の顔を見て言葉を失った。

 何故ならその男の子は昨日おばあちゃんに見せてもらったアルバムに映る幼い和輝そっくりだったから……




変身ヒーロー物では割とありがちな展開だけど許してください。
原作では愛香さんが過去行ったり、トゥアールの発明で見かけだけそう見えるだけだったり、夢オチだったりしてましたけど、ガッツリとやってなかったので……
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