俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第128話 幼きツインテール

 これは一体……何が起きているって言うの!?

 目の前で起きている事は噓偽りない真実であり、夢や幻では断じてない。

 だけど、まるで理解が追いつかない。

 今保護したのは4、5歳くらいの泣きじゃくる男の子。

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

「……ッ!?」

 

 元々、私はこの世界で生を受けておらず、それ故に交流関係も多くなく、ましてや同年代よりもさらに年下の幼い男の子なんて殆ど関わってこなかった。強いて言うならエレメリアンに襲われかけた被害者の何人かにいた程度であり、そこから深い交流を経て名前や顔を覚える程に親密な関係になった子なんていない。

 だからこの子も同じ、同じように名前も知らない赤の他人。

 な筈なんだけど……

 私にはこの子が……この子の正体が……幼くなった和輝であると、目で見る以上にツインテールで感じる事が出来る。

 

「和輝……? あなた本当に和輝なの!?」

 

「うぇぇぇぇぇぇん!! おばあちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 辛い時に母親を呼ぶ子供のように、和輝と思われし男の子は祖母を呼ぶ。

 和輝は物心がつく前に母と父を亡くし、おばあちゃんとおじいちゃんに育てられた。それに和輝は昔は今のようなぶっきらぼうで荒っぽい性格ではなく、泣き虫で直ぐにおばあちゃんを頼りにしようとする子だったはず。

 嘘でしょとは思っていても、答えを導き出すかのように点が繋がり線となる。

 間違いない、この子は和輝だ。

 

「ママ!! 和輝が!!」

 

『落ち着いてください総愛!! 一先ず、周囲の確認を!! エレメリアンはまだ近くにいます!!!』

 

 そうだ、エレメリアンはまだ近くにいる。和輝をこんなにしたのもエレメリアンで間違いない。

 トゥアールママの言葉を受けて私は我に返る。

 近くにいるエレメリアン、それも余程弱い相手でないのなら、変身していなくても内に秘めるツインテール属性を感知して場所を当てる程度なら私は可能。

 他者を幼児化させるなんて芸当が出来る以上、犯人は弱い相手じゃないのは明白よ。

 目を閉じた私はツインテールの穂先までの隅々まで神経を研ぎ澄まし、その上で近くのツインテールを探す。

 目を閉じた闇の中で見えるのは年季の入った髪を偽りの幼さで彩り隠す何か。

 それがおぼろげながらもそのエレメリアンが愛するツインテールを形にした物だと気づき、目を開いて首を向ける。

 

「あれらー、みつかっちゃったですのー!?」

 

「あなたが、和輝をこんなにした……!!」

 

 陽の光遮る家の屋根、その上でちょこんと座り眺めているエレメリアン。

 醜悪な動物の骨らしき被り物を被りスモックのようなドレスを着たエレメリアンは女の子、体格や口調や雰囲気はまるで無邪気な幼い少女と言った様子であり、幼い女の子が好きなトゥアールママが喜ぶんじゃないかと思うくらい。

 だけど、明らかに只者じゃない。

 パッと見ただけでは何も害がなさそうに見えるけど、その溢れるオーラは前回戦い倒したレヴィアタンギルディの比じゃないのはわかる。

 

「べつになにもちてないですのー。スペルはただー、おにいちゃんとあそんだだけですのー」

 

「遊んだですって!? どういう意味よ!! どうして和輝がこんなにも小さく……幼く……」

 

「そっちのほうがかわいいからですのー!! それにー? どうせツインテールになるならこっちのほうがピッタリですのー!! あ、でも……おねえさんのことわすれちゃってるからへんしんできないですのー!! ふられちゃったですのー!!」

 

「なッ……!?」

 

 けらけらと無邪気に笑いながら言い放ったエレメリアンを見て、私は言葉を失い怒りに燃える。

 初見こそ小さい女の子好きなママ好みのエレメリアンなのかななんて失礼な考えも浮かんだくらいだけど前言撤回、こんな下種で醜悪なエレメリアン、久しぶりに見た気分よ。

 私は今なお泣き続けている和輝を背に隠し、エレメリアンを睨みつける。

 

「ほんとはー、おねえちゃんもおなじくらいちっちゃくちてあそびたいんですけどー、ベリアルおじちゃんにはぶぢにつれてこいっていわれてるですのー」

 

「何よ……!! 狙いはやっぱり私って訳!? なのに和輝を狙うだなんて……!!」

 

「そっちのほうがらくそうでちたのでー!!」

 

 元気よくそう返事するエレメリアンを見て私は更なる怒りで燃え上がる。

 だけど、どれだけ怒っても変身できない以上はエレメリアン相手に手も足も出ないのは私だってわかっている。それに今、私の後ろには和輝が泣いていて危険すぎる。

 前回の戦いを経て、怒りのままに暴走する危険性を理解しているからこそ、ここは我慢をするしかない。

 私はこらえながらエレメリアンの様子を伺い続ける。

 

「ふーん、あんがいれいせいですのねー。もうレヴィアタンのおじちゃんめ~、こうぞくによけいなてまかけさせないでくださいよ~ぷんぷん!!」

 

 私に対してではなく、散った仲間に対して頬を膨らませるエレメリアン。

 先程のあれらがただの挑発でしかなかったのは私も理解しているからこそ今はただ助けを待つ。

 

「もう、いいですのー!! ぢかんもおちてますちいっきにかたつけるですのー!!」

 

 次第に相手もじれったくなったのか、私へと狙いを定めるかのように屋根の上から立ち上がる。

 だけど私は、救援が来た事を確信して焦らない。

 

「そこまでよ!!!」

 

「な、なんですのー!?」

 

 突如聞こえてくる声に慌てるエレメリアン。

 そして、声の主は私の前にスッと降り立つ。

 

「母なる大自然の力を持つ緑のツインテール戦士、テイルブルーム!! 子供相手だからって手がげんしないわよ!!」

 

 久しぶりの名乗りと共に見参する緑のツインテール戦士テイルブルーム。

 さっきからずっとタイミングを伺ってただけはあってツインテールは見事に輝いている。

 あとはもう少し早く来てくれたらなおの事良かったんだけどね。

 

「まだおなかまがいるんですのー!?」

 

「事情は聞いたわ。私の仲間を、私の生徒をこんなにするなんて許せない!! これじゃ義務教育からやり直しじゃない!!」

 

 いや、華先生……。

 微妙に嘆くところがずれているんですけど……。

 呆れ顔になっている私を置いてテイルブルームはやる気満々、対してエレメリアンはおろおろ慌てている。

 

「はなちがちがうですのー!! ほかにもなかまはいっぱいいるじゃないですかー!!」

 

 どうやらあのエレメリアンはテイルブルームの存在を知らなかったみたい。

 となるとレヴィアタンギルディ同様、コイツも七つの性癖(セブンス・シン)とか言う連中なのは間違いないみたいね。

 慌てるエレメリアンを見てそう判断するも束の間、おろおろしていたエレメリアンは平静を取り戻したのか動きを止め、そして背を向けた。

 

「逃げるつもり!? 先生!!」

 

「わかってるわ!! 逃がさないわよ!!」

 

 テイルブルームはグランアローを構え引き絞る。

 だけど、エレメリアンはその事に対してまるで意に介さず私たちへと振り向き告げる。

 

「あたちのなまえはスペルビアギルディ。スペルでいいですの~。またあそぼうね~おねえちゃんー!!」

 

 言いたい事を言い終えると同時にスペルもといスペルビアギルディは姿を消す。

 徐々に日が傾きかけるであろう昼下がりの裏道にて、私はただ、後ろで未だ泣きじゃくる和輝を慰めてあげようとする他なかった。

 

 

 

 

 何とか帰還した地下基地、そのコンソールルームではいつになく重苦しい空気で包まれていた。

 私は隣の椅子で泣き疲れスヤスヤ寝ている和輝をちらり。

 あの荒っぽくてムスッとした表情の多い和輝とはまるで違う穏やかで弱々しいその雰囲気は本当に同一人物なのかと疑いたくなってしまう程に違和感が強い。

 トゥアールママも華先生も悠香さんに青葉さんみんなも同じ感想を抱いていた。

 

「それにしてもやられましたね。まさか総愛ではなく、和輝君を直接狙ってくるとは……」

 

「姿がどうあれ、生きているのは不幸中の幸い……なのかしらね」

 

 悠香さんの発言を聞いて私は以前のおぞましい経験を思い出しゾッとする。

 アナザーテイルレッドから私を庇い、鮮血に染まった和輝。

 言ってしまえば今回だって同じこと。

 相手が和輝を幼児化させるという手段を使っただけであり、一歩間違えれば死んでいても何らおかしくない。

 

「悠香さん、確かそれはそうですが、事と状況的には今回のケースもそれと同等、もしくはそれ以上に厄介と言えるかもしれません」

 

「観束先生、それはどういう?」

 

 真剣に状況を分析しつつ述べたママへと華先生がすかさず尋ねる。

 ママはスクリーンに元の和輝と幼くなってしまった和輝の全身像及び、何らかの波形を示すグラフを二つ表示した。

 

「これは襲撃を受ける前の和輝君、こちらは今の和輝君の状態です。見ての通り、全身のありとあらゆる器官が5歳程度の状態へと若返っています。その中でも特に注目して欲しいのはこの脳波、これはその人の思考パターンをおおよそに計測し纏めた物です。本来、この脳波に関しては人が成長すると同時に変化していく物であり、肉体年齢ではなく精神年齢と比例します。ですので普通なら肉体がどれだけ幼くなろうとも思考パターンは変わらない。つまり、見た目は子供、頭脳は大人という状態になる筈なんです」

 

 ややこしくて頭が混乱しそうだけど、要するに肉体は若返っても中身は変わらないのが普通って事よね? お父さんもテイルレッドになる時は幼い女の子になっていたからその通りだし……。

 でも、和輝は中身含めて完全に幼くなっている。

 それこそ私が誰だかわからないくらいには記憶も失っていると言ってもいい。

 

「でもトゥアール先生、このグラフだと……」

 

「はい。和輝君は思考パターン含めて幼くなっています。恐らく、和輝君の受けた幼児化攻撃は一種の時間の巻き戻しと断定していいと思います。私たちを覚えておらず、おばあ様は覚えていたのもそのせいでしょう」

 

 時間の巻き戻し。

 私とママ、それとアナザーテイルレッドは元の世界よりも過去に渡ってこそいるけれど、対象物の全てを限定的に巻き戻すのは、やはりと言うか人知を超えたエレメリアンだからこそなせる技なんだと認めざる得ない。

 

「流石、観束先生。色々、詳しいですね」

 

「肉体の若返りは人類の夢の一つですから。私も科学者の端くれである以上、現在進行形で研究を進めてはいますけど、ようやく試作段階までこぎつけましたよ」

 

 おぉ~と拍手する華先生と、いえいえそれ程でもとわざとらしく謙遜してみせるママ。

 私としてはママがその研究を何か良からぬ事に使う気じゃないかと睨んでいる。

 昔、ブツブツ一人で「今度こそ愛香さんを……」だとか何とか聞いた覚えがある。

 まさか……!! 子供好きを拗らせてお母さんを幼くするつもりなんじゃ……!!

 

「先生二人とも話を逸らさないでくださいよ。今はどうするかを話し合う状況じゃないですか」

 

「悠香の言う通り……」

 

 脱線する二人を一括する悠香さんと頷く青葉さん。

 それを聞いたママは真剣な表情へと戻り、私は振るいそうになっていた拳をおろす。

 

「さて、では話を戻しましょう。現状、和輝君は先程述べた通り肉体と思考の全てを5歳だった頃まで戻されてしまっています。肉体年齢が違い過ぎる以上、これでは総愛と融合してエクストリームチェインへなる事はおろか、単独で変身する通常のテイルバイオレットへも変身できません」

 

 今の和輝はテイルバイオレットになれない。

 みんなわかっていたけど、はっきりそう告げられた事で、再度重苦しい空気が流れ出す。

 これから戦いが激化していくであろう中でそれは致命的過ぎる。

 

「たしか相手はティアちゃんを狙っているのよね。これまでは和くんと共に変身して戦っていたからある程度の自衛力があったけど、変身できないのならそれは無しなのよね。ねぇティアちゃん? 記憶が戻った今でも単独では変身できないのかしら?」

 

 悠香さんにそう話をふられた私は複雑な表情をしながら口を開く。

 

「難しい……というより不可能なんです。そもそもテイルブレスⅡ及びテイルドライバーⅡが私単独での変身が出来ないままなのもそうなんですけど、和輝のいない状態で変身する事で私自身がどうなってしまうかわからないのもあって……」

 

 記憶喪失だった頃はあんなにも単独で変身できない事を悔やんでいたけど、今となってはむしろ単独で変身した場合、どう自分自身のツインテールを抑え込むのかがわからなくなる。

 依存していると言えばそうなのかもしれない。

 だけど、今の私は和輝がいたから成り立っている。

 和輝がいて二人で一つのツインテールだからこそ、私は最高のツインテールを結び、極限へと至る事が出来ている。

 だから今の私は一人で変身など出来ないの。

 

「となると、涼原君が元に戻るまでは私一人と言う事なのかしら」

 

「華先生のおっしゃる通りですね。現状、私のテイルギアは最後に使用して以降、再起動の目途はたっていませんし……」

 

 未だ動く様子の無いテイルブレスレボリューションを見つめるママ。

 その眼は誰よりも悔しさで溢れていた。

 それを見た華先生は力強く頷いた。

 

「相手は恐らく前回のレヴィアタンギルディ同様、七つの性癖(セブンス・シン)と呼称されるエレメリアンです。お気を付けください」

 

 気を取り直したママはスクリーンにスペルビアギルディの姿を映し出す。

 

「これがスペルビアギルディ? 見たとこ可愛い女の子のようだけど、これも七つの性癖(セブンス・シン)なのね……」

 

「幼女型エレメリアン……」

 

 初めてスペルビアギルディの姿を見て悠香さんと青葉さんがそうコメントするけど無理はないと思う。

 私も初見はただの子供だと思ってしまったもの。

 でも、その内に秘める邪悪はただのエレメリアンとは全然違った。

 

「そう言えばトゥアール先生って幼女好きでしたよね……」

 

「え!? そうなの!?」

 

 悠香さんの呟きを聞き、驚く華先生。

 まさかと思ったのか、悠香さん、青葉さん、華先生の三人はママへと疑いの眼差しを向けた。

 私も正直、みんなが何を言いたいのかがわかるので待ったは言わないでおく。

 

「な、何ですかその眼は!? 確かに私は幼女好きですけど、エレメリアンに欲情するほど節操なしじゃありません!!!」

 

「本当ですか~?」

 

「当たり前です!!! スペルビアギルディが私の幼女センサーに反応しないのもその証拠です!! 何なら見せましょうか!? 私の日々どれ程純粋に幼女を愛でているのか!!」

 

 幼女センサーって……何? ツインテールを五感で感じ取るのと同じって事……?

 そんな風に頭を傾げた私だけど、ママの続く発言とそれと同時に映し出される映像は現実へと引き戻す。

 スクリーンには世界中の様々な幼い女の子の日常風景がリアルタイムで映されていた。

 

「どうですか!? これを見ても私があんなエレメリアンに心ときめくとお思いですか

!? 見てくださいこの純粋無垢な笑顔!! あんな醜悪で嘘まみれの悪魔とは全然違います!!」

 

 ママはいつになく熱く語っている。

 余程、エレメリアンと幼い女の子を比べられるのが嫌だったんだとわかるし、気持ちも少しわかる。

 でも、これはちょっと……流石に……

 

「流石トゥアール先生、盗撮もお手の物……」

 

「人権侵害もクソもない……」

 

「何が人権侵害ですか!! 幼女を愛でて何が悪いんですか!! ちょっと盗撮してるだけじゃないですか!! 幼女はこの世の宝です!! 全人類が守るべき至宝なんです!! 私は日々、この世界の幼女たちが危ない目に合わないか見守っているだけです!!」

 

 意味不明で理解不能な言葉の数々。

 最初こそ思わず納得しそうになってしまったけど、こればかりは流石に度が過ぎる。

 私はおもむろに立ち上がり拳を握る。

 

「ママ……? 言い訳はそれでいいって事?」

 

「総愛……!? お、落ち着いてください……!! トゥアールママはただ幼女の魅力を皆さんに伝えたいだけで……!!」

 

「危険すぎるのよ!!!」

 

「前が見えなぁぁぁァァァ!?」

 

 瞬時に距離を詰め全力で放たれる私の拳は、ママの顔面をぐしゃりと潰しながら吹き飛ばし、頭が壁に突き刺さる。

 もう、トゥアールママったら……

 どうしていつもいつもそんな事を続けているのよ……

 少し目を離したらこれなんだから……!!

 ストレス発散も兼ねた一撃を入れた事で私は少しスッとしながら元の席へ戻ろうとする。

 その時、私は私の隣の席でスヤスヤ寝ていた筈の和輝と目が合った。

 

「か、和輝……!!」

 

「あ、起きてる」

 

 悠香さんがそう言った瞬間だった。

 和輝の私を見る目がわかりやすい程に恐怖に染まる。

 ようやく落ち着かせ泣き止んだのに……これはもしかしなくてもやってしまったよね?

 私の嫌な予感は的中する。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 泣き叫びだす和輝。

 その騒がしすぎる泣き声はコンソールルーム全体に響き渡る。

 

「あー!! ごめんごめん!! そんなつもりじゃないの!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!! おばあちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ごめんごめん!! ほ~ら泣かないで~ツインテールだよ~」

 

「いらない!!! こわい!!!」

 

 落ち着いてもらう為にもあやしてあげようと近づいたけど、和輝は私の事を完全に怖がっているようであり、一目散に逃げ出した。

 所詮子供なので追いつくのは簡単。

 でも、私としては和輝に拒絶されたのがショックでならない。

 幼くなろうと和輝は和輝。

 好きな人にこうも逃げられ拒絶されるのが、こんなにも辛い事だなんて失恋を経験した事ない私にはきつすぎる。

 

「うわぁ……話は聞いていたけど、和くんって本当に泣き虫だったのね……」

 

「仕方ないよ悠香……。あの子からすれば急に知らない所にいて、目の前で人が壁にめり込んだんから……」

 

 青葉さんの言う通りよね。

 今の和輝からすれば私はおろか、今まで培ってきた経験の殆どを失っている状態なのよね。

 目が覚めたら知らない人に囲まれているこの状況はハッキリ言って子供にとっては怖すぎる。

 せめてこの場に正樹さんがいてくれていれば話は少し変わったかもしれないけど……

 

「片霧さん神外さん!! ど、どうしましょう!?」

 

「華先生が落ち着かないでどうするんですか」

 

「で、でも……先生は幼稚園教諭免許もってないし……」

 

「こんな状況じゃ免許なんて役に立たないでしょ。子供の相手した事ないんですか?」

 

「う、うん……」

 

 頼りになる筈の大人である華先生はこの有様。

 かく言う私も拒絶されたから戦力外。

 悠香さんと青葉さんの二人が必死になって和輝を落ち着かせようとするけど、泣き叫び続けている。

 

「仕方ありませんね。ショタは管轄外ですけど、こうなったら幼女陥落百戦錬磨のこのトゥアールママがあやして見せましょう」

 

 いつの間にか復活したママが力強くそう宣言し、部屋の隅で縮こまる和輝へと歩みを進める。

 さっきまで不純極まりない笑顔とは違い、聖母の如き穏やかな微笑みをもって近づいていく。

 

「ほーら和輝君? トゥアールママが優しく抱きしめてあげますよ~」

 

 なびく銀髪と白衣が合わさり、ママの背には後光が差しているんじゃないかと錯覚する。

 ちょっと悔しいけど、これなら和輝も落ち着いてくれる筈……!!

 だけど和輝は手強かった。

 

「やだ!! おばあちゃんがいい!! おばさんいや!!!」

 

「お、おば……!!」

 

 ママの聖母のような微笑みもその爆弾発言で陰りが見える。

 流石のママも小さい子供に年齢の事をバッサリ言われるのは嫌な様子。

 私は少しホッとしながらママの肩を叩く。

 

「ちょっと待ってください!! 私こう見えてもまだ20代と間違われるんですよ!? そりゃあ最近はしわも出てきましたし、かつての未春将軍よりも歳食ってますけど!! せめておばさん呼びだけは何とかしてくれませんか!? まだまだピチピチでキャピキャピなのがトゥアールちゃんの売りなので!!」

 

「うるさいの!! 和輝が怖がってるでしょ!! トゥアールおばさん!!」

 

「総愛ぁぁぁ!!! あなたまでぇぇッ!?」

 

 いつになく騒がしいコンソールルーム。

 悠香さんと青葉さんが言い争う私とママを白い目で見て、和輝は余計に泣き叫ぶ。

 私もわかってはいるんだけど、いつもの癖でどうしても止められない。

 どうすればいいかわからずに大混乱に陥る中、コンソールルームの扉が開く。

 

「うーっす、遅れたーっす」

 

 呑気そうにやって来たのは匠だった。

 最初、正樹さんが来てくれたと思ったけど、匠だとわかって少しガッカリ。

 匠は匠でこの状況を見て驚いている。

 

「うーわ、和輝の奴、マージでガキになっちまってんじゃん。懐かしいな~お~い」

 

「ちょっとたっくん、何呑気な事言ってんのよ。こっちは大変なんだから!!」

 

 悠香さんの怒号が飛ぶ。

 私とママは怯えられ、悠香さんと青葉さんはシンプルに拒絶、華先生は戦力外。

 どうにか和輝を落ち着かせようとしているけど、全然上手くいっていないこの惨状は私が言うのもなんだけど酷いに尽きる。

 そんな中、それを察した匠はあっけらかんと言い放つ。

 

「なんすか? あいつを落ち着かせればいいんすか?」

 

 普通の子供と明らかに勝手が違い過ぎる和輝を前にそう言った匠に皆が注目する。

 匠はいつも通りの雰囲気のままに隅で泣きじゃくる和輝へと近づき、屈んで目線を合わせる。

 

「よう。大丈夫か? どうしたんだ?」

 

「ぐすっ……おにいちゃんだれ……」

 

「俺は匠。僕、名前は?」

 

「かずき……」

 

「そっか、和輝君か。なぁ和輝君、どうしてそんなに泣いているんだ?」

 

「ここどこかわからない。おばあちゃんもおじいちゃんもいない。あのおねえちゃんこわい……」

 

 匠と何か話している和輝が私の事を指さした。

 随分と怯えた目つきであり、名指しで怖いと言われているのがわかって辛い。

 

「そうか、確かにあの姉ちゃんはちょっと怖いし、ここもどこかわからないよな。じゃあ、特別にここが何処か君だけに教えてやる。君、ヒーローとか魔法少女とか好きか?」

 

「す、すき……。シャイニーブルームとかだいすき……」

 

 ピクリと反応する華先生。

 声をかけようとするが、悠香さんに止められる。

 

「実はここな、ヒーローの秘密基地なんだ」

 

「ほ、ほんとう!?」

 

「ほんとも本当、まじもマジよ。ほら見ろよ、すげぇカッコいいだろ?」

 

 匠に促されるように辺りを見回す和輝。

 さっきの怯えていた目は完全に消え去り、壁一面のハイテクマシンを見て目を輝かせている。

 

「勝手に連れてきてごめんな。でも、みんな君を想って連れて来たんだ。どうだ? そこのツインテのお姉ちゃんならシャイニーブルームの事だってよく知っているし、あっちのおっぱいデカイお姉さんなら基地を案内してくれるぜ」

 

「うん」

 

 匠に何かを言われ頷いた和輝は華先生とママへの下へと寄って来る。

 匠は華先生とママへアイコンタクトを送り、察した二人は和輝を連れてコンソールルームから出て行った。

 

「ま、ざっとこんなもんっすよ」

 

「子供の扱いだけは負けるわね。見直したわ」

 

「5人兄弟の長男っすよ。それに和輝とは長い付き合いですし」

 

 匠はそう言っているけど、何故、匠には心を許したのか。

 私も悠香さんも特に変な対応したわけでないのにどうしてだろう?

 付き合いの長さだとするのなら少し悔しい。

 

「兎に角、現状はどうしましょうか。このまま基地でトゥアール先生と過ごすのもいいんだけど……」

 

「俺的にはいっその事おばあちゃんに今回の事を全部話したらって思うんすけど」

 

「そうね、たっくんの言う通りだわ。今でこそ落ち着いたけど、今の和くんならきっと今みたいに泣いちゃうでしょうしね」

 

 とりあえずどうするかは決まったみたい。

 幼くなってしまった和輝はおばあちゃんに何があったのかを伝えつつ家に戻す。

 そして、その間に元凶であるスペルビアギルディを打ち倒し元に戻す。

 そして私は……

 

「ティアちゃん、和くんの傍にいてあげてね」

 

「でも私、嫌われちゃったし……」

 

「大丈夫。和くんはそんな子じゃない筈よ。それにトゥアール先生がもし肉体年齢を戻す薬とか作った時、あなたが心通わせてなかったら変身できないでしょ?」

 

 そうか、確かにママなら、精神年齢までは無理でも肉体年齢を元に戻す事は出来るかもしれない。

 もしそれが出来た時、私が和輝と今のままだったらテイルバイオレットになれない。

 テイルバイオレットになる絶対条件として心を合わせる事。

 和輝を守る為にも私は今の和輝と心を通わせなくっちゃならない。

 

「わかりました。私やってみます」

 

 どんな姿になっても和輝は和輝。

 同じ好きという気持ちをきっかけに今まで戦ってきたんだから不可能なんて筈はない。

 もう一度ツインテールを結ぶためにも私は強く決心するのだった。




次回はティアナとショタ和輝のあれやこれや。
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