俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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最近、シリアスし過ぎてる気がします……


第131話 愛憎

 陽が沈み、夕闇が町を覆い始めるそんな時。

 ティアナは開いたままとなっている玄関の前でただ立ち尽くしている。

 目の前に広がっているのは、幼くなった和輝が家を飛び出したであろう痕跡だけだ。

 

「噓でしょ……」

 

 悠香ら仲間が襲われ、そんな中で和輝は逃亡すると言う最悪の状況。

 直ぐにでも動こうとする彼女の耳に響くのは、先程聞いたトゥアールの忠告である『外に出てはいけない』の一言のみだ。

 事実、トゥアールの言う通り、スペルビアギルディがいつどこで襲ってくるかわからないこの状況下、外に出るのは危険すぎる。細かい理由や理屈こそ不明であるがテイルブレスやトゥアルフォンなどに搭載されている小型の認識攪乱装置(イマジンチャフ)などが通用していない以上、家や基地と言った安全圏から出てはいけないのは至極当然の事であるし、ましてや変身もできない今のティアナではいざ襲われた時に何も出来やしない。

 ティアナもそれについては深く理解している。

 だがしかし……ティアナの心は揺れていた。

 

「和輝……!!」

 

 敵の狙いが自分自身であり、これら一連の被害や事件も全て、自分自身を狙う作戦なのはティアナもわかっている。ここで出ていってしまえば敵の思う壺って事や、トゥアールや華たちみんなに迷惑をかけることも含めて全てだ。

 でも、だからとて、直ぐにそう判断して気持ちを切り替えるのなんて、機械でない人間である以上無理と言わざるを得ない。さらに言えば、逃げ出した相手はティアナにとって最愛のパートナーである和輝なのだ。

 結論、ツインテールを二人で結ぶことを知った今の彼女には不可能な事なのだ。

 

「ごめんなさい。でもやっぱり私……!!」

 

 和輝を見捨てる事なんて出来ない。

 きっと今のあの子(和輝)は泣いている。

 ここで行かなきゃ今度こそ全てが終わってしまう。

 心の中でそう言い聞かせ、覚悟を決めたティアナは理性を振り切り、危険を承知で外へ飛び出した。

 

「待っててね、大丈夫だから……!!」

 

 もしかしたらもう既にスペルビアギルディに見つかって危険な目にあっている可能性だってあるし、そうじゃなくてもこんな日も暮れた時間なら不審者に誘拐される可能性だってあるかもしれない……!! だからこそ私が助けなくちゃ……!! 運が良ければ何も問題なく帰る事だって出来る筈……!!

 ティアナの頭に浮かぶのは自身を正当化しようとするある種の言い訳と甘すぎる理想だった。

 ティアナがもっと冷静でいられたのならここで一つ、トゥアールたちに連絡を入れて判断を仰ぐことだって出来た筈である。

 だが、先程述べたように、この状況で冷静でいられる程、ティアナ自身は機械ではなかった。

 責任を感じ、感情と衝動のままに動き行動する人間であった。

 結果、その判断がさらなる後悔を生む事になるのは、ほんの数十分後の未来である。

 

 

 

 

「……」

 

 夕闇染まるビルの屋上。

 そこで佇んでいたのは小さな悪魔、スペルビアギルディ。

 スペルビアギルディの幼女を思わせるその風貌はどんなロリコンをも唸らせる物であり、一度動けばその口調と仕草から心ときめくのは必至と言える。

 だがしかし、今の彼女はとてもそうは言えない雰囲気を醸し出している。

 何処か退廃的で子供のような輝きはまるでない。

 いうなれば大人が無理をして子供の振りをしているかのようなキツさがある。

 

「おいおい、気になって見に来ればこれかい」

 

 振り返るスペルビアギルディ。

 そこにいるのはボスであるベリアルギルディ。どうやらスペルビアギルディの様子を確かめるべく見に来た様子である。

 スペルビアギルディの顔が歪む。

 

「ベリアルギルディ……!!」

 

 甲高い舌足らずな幼女ボイスとは程遠い低いハスキーボイス。

 男であるとまでは言わないが、この声を聞いて幼い少女であるとは誰も思わないだろう。どちらかといえば年老いた老婆のようだ。

 何より、それがスペルビアギルディのあの容姿から発せられたとあれば意外でしかなく、真実を知らぬ者が嘘だろと口にするのなど容易に想像できる。

 無論、ベリアルギルディは知っているが故に驚き一つしない。

 

「ふん、たかが人間風情に化けの皮がはがされかけるとはな。滑稽じゃないか。ええ?」

 

「……ッ!!!」

 

 スペルビアギルディの背後から蠢くどす黒いオーラ。

 一触即発の雰囲気となりそうな中、ベリアルギルディは口を開く。

 

「落ち着けよ。オレ様と貴様の長い付き合いだろう? それとも何か? その剥がれかけた仮面でも剝いでやれば満足か?」

 

 相変わらずの上から目線の発言。

 火に油を注いでいる気がしないでもないが、いつも通り過ぎるその発言は日々の日常を思い出させるようにスペルビアギルディから少しばかり落ち着きを取り戻させる。

 七つの性癖(セブンス・シン)の中で最も長い付き合いの二人だ。

 何が言いたいのかはわかっている。

 

「ごめんなさいですの、ちょっとカッとなりすぎまちた」

 

「ふん、察してくれて助かるよ。わざわざオレ様が出向いた意味がない」

 

「つまりおじちゃんはースペルをおちつかせにきたんですのー?」

 

 数秒の沈黙の後、スペルビアギルディは元の雰囲気へと戻ってみせた。

 どう見ても、今の彼女は幼女のエレメリアンでしかない。

 

「勝手にそう捉えておけよ。オレ様はあくまで貴様の醜態を笑いに来たにすぎん」

 

「ふーん、そうでちたかー」

 

 無邪気に笑うスペルビアギルディ。

 その直後、スペルビアギルディは何かを感じ取る。

 

「みぃつけた……ですの」

 

 彼女の瞳に映るのは和輝を探すティアナの姿だった。

 標的を見つけた悪魔はその姿を消して追跡を開始する。

 

「フッ、憎しみとは恐れ入る。ある意味、貴様ほど人に近づいた奴はいないだろうよ」

 

 愛する事と憎しむ事は表裏一体。

 それを思い浮かべるベリアルギルディは一人、不敵に笑う。

 

 

 

 

 何処へ行けばいいとか、どうやって探せばいいかなんてわからない。

 私はただ無我夢中で、逃げ出した和輝を追っている。

 行きそうな場所や知っていそうな場所、思いつく所を片っ端から探し続けるけど、何処へ行っても見つからない。

 言い方悪いけど、子供の走力なんてたかが知れている。

 そんなに遠くには行かない筈……

 なのに、まるで見つからない。

 

「何処行ったのよ……!?」

 

 微かな街灯でのみ彩られる夜の住宅街の雰囲気は昼間とまるで違う。

 例えるならお化けが出てくるようなおどろおどろしさ。

 大きくなるにつれ感じなくなっていくその雰囲気だけど、今の和輝は5歳ほどの小さな男の子に過ぎない以上、怯えて泣いているのは私でもわかる。

 一刻も早く見つけないと焦る私はある事に気が付き閃く。

 

(そうだ……!! 今の和輝には幼い頃の記憶しかない……!!)

 

 スペルビアギルディにかけられた呪縛は肉体と記憶の巻き戻し。

 それならば、今の和輝が覚えているであろう場所はある程度見当がつく。

 いくら住んでいる町の構造が変わらなくても、多少なりとも変わった場所なんて10年以上もあれば必ず出てくる。なら逆もまた然り、変わっていない場所だって沢山ある。その中から和輝が行ったことありそうな場所で且つ、おばあちゃんと行った事がありそうな場所へ行けば……!!

 

「お願いだから……そこにいてよね」

 

 この世界及びこの町で暮らし始めてもう直ぐで1年。

 私だってある程度は詳しくなったと思う。

 ハッと頭の中に浮かんだ場所にピンを指して全速力で走る。

 向かう場所はここからある程度離れた公園跡地。

 今でこそ、そこはもうただの老人ホームと駐車場だけど、そこはかつて、子供や老人で賑わう『遊びの場』って言う児童用交流施設があったらしく、和輝も幼い頃はおばあちゃんとよく遊びに行ったと言っていたので間違いない。

 

「ぅぅ……、おばあちゃん……」

 

「いた……!!」

 

 全速力で走る事数分。

 私は変わってしまった施設隣の駐車場中央でうずくまり泣いている和輝を発見した。

 手間取ったとは言え、こうも離れた場所へと向かうことが出来る子供の行動力の高さに驚きながらも、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「かーずき君、みーつけた」

 

「おねぇちゃん……!!」

 

 怒るのではなく、遊びに付き合っているかのように優しく声をかけた私と、知った人を見つけて涙を浮かばせる和輝。

 それを見た私は和輝を優しく抱きしめ頭を撫でる。

 和輝の泣き声が響き渡った。

 

「うわぁぁぁぁん!!」

 

「大丈夫、大丈夫だから……だから安心して……」

 

 そうは言ってみても和輝は泣き止む素振りを見せない。

 けど、こればかりは無理もないと思う。

 今の和輝からすればここに来ればおばあちゃんに会えると思って来ている訳だし、何なら見知った場所が全然違う施設になっていたら怖くなるのは当然としか言えないもの。

 それによく見たら膝も擦りむいたのか怪我してるし、服装も防寒着を着ていないから寒さしか感じない。

 こんなの泣き止めと言う方が無理がある。

 でも、もし私じゃなくておばあちゃんだったのなら泣き止んでいたのかな……

 

「かんどーてきですのー!! スペルしってるですの、これっておねちょたってやつですのー!!」

 

「ッ!?」

 

 少し自虐的になりながら和輝を慰めていた私の背から、聞き覚えのある舌足らずな声が聞こえてくる。

 やっぱりそう上手くはいかないよねとばかりに振り向いたそこには邪悪なオーラを纏う小悪魔が笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「それにしても……スペルビアギルディのこの違和感は一体……」

 

 一方、こちらは学校地下の秘密基地。

 コンソールルームにてトゥアールは端末及びディスプレイを弄っては頭を悩ませていた。

 その内容というのもズバリ、スペルビアギルディの正体についてだ。

 スペルビアギルディの放つ独特の違和感。

 それについては悠香も気が付いた程であり、トゥアールもそこに辿り着くのは必然と言えた。

 

「いや、もしかしたら……根本的に間違っているのでは……!!」

 

 トゥアールは数多ある平行世界の中で数少ない属性力を研究できうる天才である。

 それは正史とは違う歴史を辿ったこの平行次元のトゥアールも同じであり、属性力という分野において平行次元の自身を除けば彼女を超える知能を持った人間など存在しないと言える程だ。

 故にトゥアールは悠香のような女の勘ではなく、論理的に気が付いた。

 スペルビアギルディにおける根本的な間違いに。

 

「いや、そんな……ありえないですけどそうとしか」

 

 トゥアールは今まで総二たちと出会い倒してきたエレメリアンを思い出す。

 どいつもこいつも自分の癖に正直で馬鹿馬鹿しい。

 それは末端の雑魚からボスクラスの幹部格でも同様であり、自虐的になりながらもどこか自身が愛する物への誇りを持っていた。

 なのに、スペルビアギルディはその真逆と言える。

 自身の身に抱いた癖を偽りという仮面で隠している。

 

「奴の正体は恐らく……!!」

 

 仮説から逆算し、答えを導き出す。

 この答えがあっているのなら小型の認識攪乱装置(イマジンチャフ)では居場所がバレる理由や能力の強大さにも一応の見当がつく。

 ある意味、非科学的だがこれしかない。

 トゥアールがそう結論づけたその瞬間、モニターが警戒状態へと切り替わる。

 

『危険!! 危険!! 総愛に接近中!!』

 

 それはトゥアールにとって最重要防衛対象であるティアナ(総愛)の危機を知らせる警報だ。

 まさかスペルビアギルディが涼原家まで入って来たのかと思い、トゥアールは家の様子を映すカメラへと切り替えるが、そこには誰も映っていない。

 慌ててティアナの居場所を調べるトゥアール。

 場所は涼原家から少し離れた老人ホーム横の駐車場。

 

「華先生!! 応答してください!!」

 

『観束先生!? どうしました!?』

 

 応答する華は現在、変身した状態でスペルビアギルディを探していた真っ最中だ。

 トゥアールのただ事ではない雰囲気を見て華も緊急事態を察してしまう。

 

「総愛がエレメリアンに襲われています!! 大至急現場へと向かってください!!」

 

『わ、わかりました!!』

 

 華がいる場所は方角にして真逆であった。

 テイルブルームへと変身しているのであれば目的地へとつくのはそう時間はかからないものの、今のトゥアールにとっては少しの時間すらも惜しい。

 トゥアール自身も、いつものマスクを手に取っては空間跳躍カタパルトへと向かう。

 

 

 

 

 すぐに和輝を保護し帰宅すれば何も問題なんてない。

 危険を冒そうが無事で終わるなら多少怒られたって割り切れる。

 私はそう自分を納得させて外に出た。

 だけど、現実はそう簡単にいかない。

 目の前に立つ悪魔がそれを証明している。

 

「またあえてうれちいですのー!! さぁ、スペルといっちょにあそぶですのー!!」

 

「誰があんたなんかと!!」

 

 禍々しいオーラを放ちながら近づいてくるペルビアギルディ。

 さっきまで号泣していた和輝はその異様すぎるその雰囲気を感じ取ったのか、泣き止みこそしたが酷く怯え震えている。

 和輝を背に隠し拳を構えるけど、正直言って勝てる気はしない。

 

「やるきですの~? あそんでくれるならスペルもうれちいですの~!!」

 

「遊び遊びって、あんたねぇ……!!」

 

 コイツの言う遊びなんてきっと碌なもんじゃない。

 だからこそ逃げられない。

 

「和輝、車の裏にでも隠れてて。おねぇちゃん頑張るから」

 

「う、うん」

 

 和輝が車の陰へと隠れたのを確認した私は拳を力一杯握りしめてスペルビアギルディ目掛けて振るう。

 いくら相手が少女型のエレメリアンであろうと、テイルギアを介さない攻撃は効くわけがない。

 その筈なんだけど……

 

「いたーいですのー!!!」

 

「効いた!?」

 

 繰り出した正拳突きはスペルビアギルディの胸を捉え、想像していたよりも数倍の効果があった。

 吹き飛んでこそいないけど、スペルビアギルディは後退りながら胸を押さえて苦しみ痛がっている。

 どう見ても演技じゃなくて本当に痛がっている。

 

「ぼ、ぼうりょくはんたいですの……!!」

 

「嘘でしょ!? あんたもしかして弱い!?」

 

 確かに私はお母さん譲りの常人離れした身体能力を持ってはいるけど、変身もしていないのに攻撃が効くって一体どういう事なのよ。

 あまりにも普通に痛がっているものだから、異質すぎて不気味さまで感じるくらい。

 だけど、これは好機でしかない。

 

「たぁぁッ!!」

 

「きゃあああ!! いったいですのー!!」

 

 容赦なく叩きこんだ蹴撃の数々に後退り防戦一方のスペルビアギルディ。

 トドメこそさせないまでも、撃退する程度なら可能なんじゃないかと希望を抱き始める。

 それこそ初撃を与えた時に感じた違和感がなくなる程。

 でも、すぐにそれは甘いと気づかされる。

 

「ふふふふ、さすがですの……だねぇ、お姉ちゃん……!!」

 

「何!? この感じ!?」

 

 何度も蹴り飛ばされ、ボールのように転がっては繰り返すスペルビアギルディの雰囲気がある時を境に一変する。

 舌足らずで甲高い声が低音の年寄りのような声へ。

 溢れ出るオーラはより一層どす黒く。

 今まで感じて来たエレメリアンの持つ属性力の波動とは全然違う。

 何かを愛し、好きを力とする属性力とはまるで違うそれは正反対のような異質さしかない。

 

「若いっていいよねぇ。そのツインテールも随分と似合っているし……何より光に溢れている……」

 

 突如として豹変したスペルビアギルディを見て私の身体は動かなくなる。

 原因は恐らく本能的な恐怖。

 目に見える情報とはどこか違う違和感からなる恐怖なのだとわかっていても動けそうにない。

 何なのよコイツ……!!

 

「ブルームツインシュート!!!!」

 

 スペルビアギルディが接近を開始しようとした時、どこからともなく打ち込まれた光の矢が行く手を阻んだ。

 そして程なくして華先生が変身したテイルブルームと以前同様の変なマスクを被ったトゥアールママが駆け付けた。

 

「大丈夫ですか総愛!!」

 

「ママ!! あ、あのエレメリアン……!!」

 

「ええ、わかっています。どうやら仮説は正しかったようですね」

 

 うろたえる私を見てママはそう答えてくれたけど、その表情はかなり険しくどう見ても最悪の状況を表している。

 

「後は先生たちに任せて頂戴。このテイルブルームが相手です」

 

 勇猛果敢に突撃するテイルブルームはグランアローをスペルビアギルディへと振り下ろす。

 音もなく声もなくあっさりと真っ二つに裂けるスペルビアギルディ。

 やった!! と思った次の瞬間、テイルブルームは目に見えない力に弾き飛ばされる。

 

「くぅぅぅ……」

 

「先生!!」

 

 何が起きたのか全くわからない。

 倒したと思ったのにテイルブルームは吹っ飛ばされたし、アイツ一体何なのよ……!!

 

「まさか憎しみの力がここまで肥大化しているとは……。どうやら想定していた以上の時を生きているようですね」

 

「ママ、それってどういう……」

 

 私がそう疑問を口にだしたその瞬間、スペルビアギルディのオーラが爆発し、その姿をみるみるうちに変化させていく。

 幼さを感じさせる小さな姿は一般的なエレメリアンと大差ない大きさへ、もちもちとした肌は無数のしわが刻まれ、背筋は徐々に徐々にと折れ曲がっては凄まじい猫背へと変わる。そして、仕上げとばかりにそのスモックのようなドレスは丈が伸びて魔女の如き物へと変わる。

 完全に変わりきったスペルビアギルディの容姿は少女とは程遠い老婆の魔女だった。

 

「ご明察だよ。あたしはエレメリアンであってエレメリアンでない言わば愛憎感情集合体。かつて若作り属性(ヤングメイク)に全てをかけ、悠久を生き続けた哀れな化け物さ」

 

 そう語ったスペルビアギルディの瞳は片方ともまるで違う光を放っていた。

 

 

 

 

 エレメリアンは精神エネルギーの結晶とも言える生命体である。

 彼ら彼女らは趣味嗜好や性癖といったありとあらゆる要素から構成される属性力(エレメーラ)を糧とし、それを愛しながらも奪うことしか出来ない。

 言うなれば矛盾の極みとも言える。

 だが、多くのエレメリアンはその矛盾を受け入れ生きている。

 このスペルビアギルディであった成れの果てもかつてはそうだった。

 年齢不相応のメイクや服装をする年配女性を好む若作り属性(ヤングメイク)に命を懸ける女性型エレメリアンであった。

 幾数億の過去に生まれ、生まれ持った趣向に基づき行動し、他の知的生命体の属性力を奪うありふれたエレメリアンの一体。かつてのアルティメギル首領程ではないにしろ、彼女もまた長き(とき)を生きた。いや、生きすぎた。

 

「若かりしかつての幻想を追って不相応であろうとするその姿とその姿勢、実にいいねぇ。無様で滑稽でだからこそ美しい、最高だよ」

 

 これはかつての彼女の自論である。

 一般的な性癖の形とは少し歪んだ上から目線で見下した傲慢溢れるそれであるが、これも立派な属性力の形の一つである。

 必死に若くあろうとする女性たちを嘲笑いながらも愛でるエレメリアン、スペルビアギルディ。

 そんな彼女はある時、矛盾に気が付いた。

 

「ならば私は何なんだ? 長き時間を生きているのに姿形一つ変わらない。心は成熟しているのに見た目は若き頃と変わらぬ。なら私こそが若作り属性(ヤングメイク)その物なのか? いや、違う……!! 断じて違う!!」

 

 エレメリアンは人間とは違う。

 属性力を摂取し続ける限り悠久の刻を生き、その姿は生まれた時から変わらない。

 だが、その心は少なからず変化する。

 彼女が辿り着いた矛盾はそこであった。

 見た目や仕草だけでも若くあろうとする人間と自然とそうなっていく自分自身の存在。ならば追い求めるのは自分なのかと思っても心がそれを阻み拒む。わからない、何が違うのかわからない。気持ちを切り替え若作り属性(ヤングメイク)を愛でようにも自分自身もまた無様で滑稽で美しい歪な存在なのかと悩む。

 一見すると些細でどうでもいい矛盾だが、それは次第に肥大化していく。

 もし、彼女が他のエレメリアンと話し合ったり、切磋琢磨する事が出来るのならどこかで折り合いをつけて次なる領域(ステージ)へと進化する事も可能だったはずである。

 だが、彼女は孤独であった。他者を見下す元来の性格が災いした。

 結果として、彼女の内に巣くう矛盾は肥大化と同時に暴走、エレメリアンという種その物の矛盾にも行きつく最悪の状態へと突入した。

 

「わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない」

 

 歪み切ったその心は間違った方向へと進化を誘う。

 矛盾の果て、愛しながらもそうなる原因を憎しむという愛憎入り混じった姿へと。

 かつての若い女性を思わせる悪魔の容姿はよぼよぼの老婆の如き魔女へと変貌する。

 

「あたしはあたちはあたしはあたちは……」

 

 こうなった以上、彼女はもう戻れない。

 エレメリアン特有の強大な肉体を捨て、憎しみを糧とする強大な能力を操れるようになった魔女にとって、他者を含めた肉体年齢や精神年齢を操作する事など容易く、並みの認識攪乱装置(イマジンチャフ)すらも貫通する探知能力まで会得している他、数多くの超能力を操れる。

 エレメリアンでありながら人間の攻撃で怯むという矛盾もそこからでる特性だ。

 彼女、いや彼女であったこのエレメリアンのような愛憎感情集合体は力は弱くても誰よりも厄介極まりない。

 欠点は兎に角不安定この上ないと言う事であるがしかし、それは過去の話だ。

 

「貴様、その矛盾極まりない虚言の塊たるその力、オレ様の役に立たせる気はないか?」

 

 不安定なソレを見つけ、声をかけたのがベリアルギルディだ。

 ベリアルギルディはソレに対して精神を安定させるように幼女の姿へと変わる事を命じ、結果として成功して今に至る。

 安定したソレこと復活したスペルビアギルディは七つの性癖(セブンス・シン)における原初の柱であり、傲慢という名の虚飾の性癖として迎え入れられた。

 そして、そのパンドラは開かれた。

 

 

 

 

「愛憎感情集合体? ママ、それってどういう事なの?」

 

「恐らく、奴は何処かで何らかの壁にぶち当たり、挫折と葛藤の果てにこのような存在となったと仮定できます」

 

「そんな事が有り得るんですか!?」

 

 私とテイルブルームは驚きを隠せない。

 エレメリアンでありながら何か違うその正体が、属性力の根源である好む事愛する事から真逆の憎む事だなんて予想だにしなかった。

 禍々しく変化し終えたスペルビアギルディ。

 騒音を聞きつけ集まる野次馬や危険性に気が付き逃げ出す人々が現れ始めるそんな時、スペルビアギルディの背後から溢れるオーラは周囲を結界のように取り囲む。

 

「こ、これは……!!」

 

 ママの表情がわかりやすく曇る。

 不味い状況を指している証拠であり、即座に私は和輝が隠れている方へと向く。

 和輝は今、車の陰に隠れているけど、共に結界へと連れ込まれた以上は安全とは言えない。

 そして、その不安が的中するかのようにスペルビアギルディの両目が幼い和輝を捉えるかのようにその方向へと向いた。

 

「おねぇちゃん?」

 

「ダメよ和輝!! 出ちゃダメ!!」

 

「総愛!!」

 

 危険を感じ取り走る私と同じように追うママ。

 声にならない叫びを上げたスペルビアギルディはそんな私たちへと牙むかんと襲い掛からんとする。

 どうしよう。万事休す……!?

 その時、テイルブルームが動いた。

 

「させない!! 今は私が!!」

 

 グランアローを振るってスペルビアギルディを切り裂いては、その自慢の足技及び掌底でスペルビアギルディを弾き飛ばす。

 テイルブルームの身体能力が高いのもあるけれど、スペルビアギルディはやはり純粋なフィジカルは高くない様子であり、圧倒されている。

 これならいけると思ったその時、またしてもスペルビアギルディの超能力が炸裂した。

 

「う、動けない……!?」

 

 一瞬ではあるが、金縛りにあったかのように動けなくなったテイルブルーム。

 ゲームにおけるラグのようなそれは体感時間で本数秒程度。

 テイルブルームは瞬時に身体の自由を取り戻す。

 だけど、それは敵の攻撃準備を間に合わせるにしては大きすぎる隙だった。

 一体何があったのかと思う間もなく、スペルビアギルディは大きく口を裂いて口内にエネルギーを収束させる。

 

「危険です!! 早く退避を!!」

 

 私と和輝を庇うように抱きしめながらそう促すママ。

 だけど、このままじゃママや私たちが危ないとわかっているテイルブルームは、私たちをさらに庇うかのように前に立って防御の構えをとる。

 

「大丈夫、先生は負けません!!」

 

 その宣言の直後、凄まじい衝撃が襲う。

 エネルギーの奔流を受け止めるテイルブルームの姿がママの背後からチラリと見える。

 押し返さんとするテイルブルーム。

 拮抗の果てに爆発を起き戦いに終止符が打たれた。

 庇ってくれたおかげもあり、無事だった私とママと和輝。

 大丈夫なのと心配しようとした私たちの目に入るのは悲しい現実だった。

 

「先生!!」

 

「華さん!!」

 

 力を使い切り倒れ伏すテイルブルーム。

 その鮮やかな緑のツインテールが徐々にくすんで色を失い、黒を超えて白へと弱々しく変化する。

 ツインテールを見れば私でもわかる。

 華先生は和輝とは逆に老化させられたのだと言う事に。

 

「老婆になりながらもツインテールを維持するその姿。みすぼらしいねぇ。だけど、美しいよぉ」

 

 老化されながらもツインテールを維持してみせた華先生へと称賛の声を送るスペルビアギルディ。

 元々の若作り属性(ヤングメイク)が反応したかに見えるけど、その声は憎しみを押さえるかのように震えていた。

 

「さて、標的はお嬢ちゃんあんた一人さ。テイルバイオレットの母よ、どきな」

 

「どきません!! 例えどうなろうとこの娘だけは守って見せます!!」

 

 私と和輝以外に残っているのはトゥアールママ一人だけ。

 絶体絶命のこの状況。

 誰かに助けて欲しいと願いそうになるそんな時、その想いがあのツインテールを呼ぶ。

 

「ハッハッハ!! どうやらオレの出番みてぇだな!!」

 

「この声は!! まさか!?」

 

 突如聞こえて来た野蛮で邪悪なあの高笑い。

 私も私でツインテールがそれを感じ取る。

 まさか、アイツが助けにくるの!?

 そして、周囲を覆う結界にヒビが入り、外から強引な乱入者が姿を現した。

 

「助けてやるぜぇ、このテイルレッド様がなぁ!!」

 

 現れた救援、それは……大人の姿をしたアナザーテイルレッドだった。




可愛さ余って憎さ百倍。
……とは若干ズレますけど似たような感じです。


キャラクター紹介25

 スペルビアギルディ(愛憎感情集合体)
 身長:254cm(真の姿) 134cm(偽りの姿)
 体重:不明
 属性力:若作り属性(ヤングメイク)(元)

 
 七つの性癖(セブンス・シン)の傲慢の性癖を担うエレメリアン。
 尤も、厳密には現在はエレメリアンとは少し違う生命体である。
 普段は幼女の姿をとり、言動や考え方もそれに沿った幼いものであるが、本性は非常で不安定で暴走しがちな老害と呼べるそれである。
 強力な能力を多数持ち、それらを活かした搦め手を駆使し戦う。
 ちなみに若い頃はベリアルギルディすらも上回る傲慢で嫌な性格だったらしい。
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