俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
おどろおどろしい結界が崩壊し、暗い夜空が帰って来る。
動揺するスペルビアギルディの前に立ちはだかるのは、私たちにとっての最大の敵。
血のように赤いツインテールをなびかせ、以前とはまるで違う大人な姿で怪しい色気を放っているその姿は
忘れもしない仇敵、アナザーテイルレッド。新しい姿になろうとも、その邪悪なツインテールは何も変わらない。
結界の外に集まっていた野次馬たちは、赤いツインテールのその姿を見るや否や、恐怖を思い出して逃げ出した。
「レイジ……あなた何しにきたんです!!」
トゥアールママの問いかけにレイジことアナザーテイルレッドは不敵に笑う。
「随分と嫌な言い方だなぁトゥアール。助けに来てやったんだぜぇ? ツインテールを愛する正義の味方、テイルレッドがな!!」
正義の味方とか……一体どの口が言っているのよ。あんたが今までやって来たこと全部何一つ許されないと言うのに……
お前が言うな甚だしいその態度に私もママも睨みつける。
対してアナザーテイルレッドはその反応を見越していたのか涼し気な表情で受け流した。
「ま、本音を言えば、『あんたを倒すのはこのあたし!! 別にあんたを助けたとか……そんなんじゃないんだからね……!!』ってやつよ」
悪ふざけを交えつつ本音と称してそう口にするアナザーテイルレッド。
テンプレ的なツンデレっぽい台詞も今は声も女性なので合ってはいるけれど、態度はわざとそれを茶化した所謂人を馬鹿にするような感じであって凄くイラっとくる。
けれども私にはわかる。
今のアナザーテイルレッドは嘘をついていない。
ツインテールをみればわかる。
「ごちゃごちゃ五月蠅いねぇ、偽物の坊や」
「ほぉう、オレの事はご存知って訳かい。そいつは話が早くて助かる」
スペルビアギルディとアナザーテイルレッド、両者共に平静を装いながらも殺気を放ち続け、牽制を一切緩めていない。
明らかに触れてはいけないこの感覚。
さっきはあんな態度を取ったけど、ここはアナザーテイルレッドに頼るしかないみたい。
「あんた、早い者勝ちって言葉知っているかい? 横取りしようだなんて正義のテイルレッドのやる事じゃあないだろう?」
「何言ってんだよ。早い者勝ちってなら総愛はオレの物って事だろ。オレが一体どれだけ前から狙っていたか知らねぇのか? どうやらてめぇらのリサーチ力はその程度みてぇだな」
別に私はあんたの物じゃない。
皮肉交じりで牽制し合う二人に私は心の中でツッコミを入れ、ママも私同様に何か言いたげな視線を飛ばす。
そんな中、アナザーテイルレッドが煽る。
「早い者勝ちだなんて、如何にも年寄り染みた考え方だ。ババアってだけはある」
「なんだって……!? ババア……!?」
若くあろうとする女性相手に年齢を聞くのが
さっきまでは被っていた余裕と言う名の仮面が剥がれ落ち、わかりやすく激昂して見せる。
「そうかい!! ならお前さんも味わうといいよ!! そこに倒れてる奴のようにねぇ!!」
スペルビアギルディの瞳が光り、アナザーテイルレッドの周囲を破裂させる。
アナザーテイルレッドはすかさずツインテールを羽ばたかせて空を舞う。
「へッ、悪いがオレのツインテールはそんじょそこらの物とは違うんでなぁ!!」
「空中に逃げようだなんてそうはいかないよ!!」
スペルビアギルディの超能力の一つ、金縛り攻撃。
一瞬とは言え効果があるその能力はテイルブルームを倒すきっかけにもなった技であり、アナザーテイルレッドにも勿論効果ある筈。
スペルビアギルディは枝のような細い腕をアナザーテイルレッドへと向けてかざす。
「ッ!?」
「どうだい、動けないだろう?」
「ハッ、それがぁ!!」
瞬間、アナザーテイルレッドの腰部に搭載された刃状のアーマーが射出される。
それはアナザーテイルレッドの意思で動く
高速で動く刃はツインテイルズ最強のテイルホワイトですら初見で攻略できなかったくらい強力。私も極限のツインテールへと至る事でようやく対処できるようになった程。
そんな攻撃、スペルビアギルディが対処できる筈なんてなかった。
「きぃぃ!! 腕が!!」
「セイバーなんだよぉッ!!」
高速で飛来し突き刺さる二つのセイバーがスペルビアギルディの両腕をそれぞれ切断してみせた。
金縛りを解除し自由となったアナザーテイルレッドは気持ちのいい叫びを上げた後、フォースリヴォンを叩いてブレイザーブレイドを手にし突貫。
すれ違いざまにスペルビアギルディの首を斬り落とす。
「一丁上がりぃってなぁッ!!」
宙を舞うスペルビアギルディの生首。
被り物の山羊の頭蓋骨下から見えるのはしわまみれのおぞましき肉塊。
アスファルトの上にぐちゃりと気持ちの悪い音と共に落ちたそれは溶けるように消滅した。
「倒した……の?」
「いや、まだです。レイジ!!」
安心しそうになる私と違って、ママはまだ警戒を解かずにアナザーテイルレッドへ指示を飛ばす。
アナザーテイルレッドはニヤリと笑った。
「わかってらぁ、ぬかりなしだ」
「うううううううウウウウウウウウ……!!」
首を失い、膝から崩れ落ちたスペルビアギルディの肉体から声が聞こえてくる。
切断された根っこから黒い粘液が溢れだし、新たな首を作ろうと動いてる。
あれは……テイルブルームとの戦いでもみせた驚異的な再生能力!!
首を落とされて尚復活しようとするその姿に戦慄を覚える私だったけど、アナザーテイルレッドは至って冷静に対処を開始する。
「しつこいババアだぜ。これでもくらいなぁッ!!」
アナザーテイルレッドはブレイザーブレイドを振るい、周囲を飛ぶセイバーが動く。
「動かせるかよ!! オーラピラー!!」
ブレイザーブレイドの軌跡に従うセイバーが、空中にて赤黒い炎を作り出した。
その炎は再生しようとしているスペルビアギルディの周囲で螺旋を描き、炎柱へと変化し拘束する。
あれはオーラピラー。必殺技を撃つ際に敵を拘束し周囲の被害を抑える結界。
テイルバイオレットやテイルブルームのギアには搭載されていなかったから久しくみていなかったけど、まさかアナザーテイルレッドなんかに披露されるだなんてね……。
でも、これでスペルビアギルディは動けないし再生できない。
「さぁて、今度こそ終いだぁ。
ブレイザーブレイドの刀身が二対に割れ、中から黒い炎が吹き上がる。
飛び交うセイバーも同様の炎を纏っては10基全てが順々に拘束されたスペルビアギルディの身体へと飛び串刺しに。
トドメを放つべくアナザーテイルレッドが一気に加速する。
「エクスキューションブレイザァァァーーーー!!! ハッハーーーーーーー!!!」
動けない相手を滅多刺しにし、追い打ちとばかりに一気に叩き斬るその非情な必殺技は正しく
黒い炎が一層激しく燃え上がり、大爆発。
寒い夜空を黒炎が幻想的に照らす。
「やった……」
「流石、ですね……」
「どんなもんだってな」
スペルビアギルディもここまでされればどうしようもない。
今度こそ倒したと皆が思った。
揺らめく炎の中から禍々しいケダモノが現れるその時まで。
そう、憎しみはまだ潰えなかった。
「ッ!?」
「おいおい、不死身か?」
炎の中から這い出たその姿、やせ細った四肢と今にも崩れ落ちそうな頭部は今まで見て来たどんなエレメリアンよりも気持ち悪い。
見た目こそ弱々しいけど、その溢れ出るオーラは憎しみの力をさらなる糧にしたのかより一層おどろおどろしく凄まじい。
「バカにスルんじゃアなイよ。若ゾウどもにコのあたちノ憎しみガァ……!!」
溢れ出るオーラが弱りきった肉体を再生させようと集まり蠢き始める。
徐々に徐々にと大きくなろうとするその塊は孵化を待つ蛹のようであり、私もママもアナザーテイルレッドも、皆が最悪の事態を想定する。
それは暴走する巨大化したスペルビアギルディの誕生。
あれだけの憎しみを得た以上、もうそう簡単に倒す事なんて出来ない。
こんなのどうすればいいの……!?
その時だった。
「全く……貴様もまた余計な手間をかけさせる」
遥か空から聞こえてくる声は、もう何度目かわからない乱入者の物。
私が辛うじて見えたのは黒い羽を生やした正統派悪魔のエレメリアン。
そのエレメリアンは極彩色のゲートをスペルビアギルディの繭の下に作り出し、スペルビアギルディを異空間へと追放……否、回収してみせた。
「あいつ……あの時のか……!!」
思い当たる節があるのかアナザーテイルレッドの口元が歪む。
私も何処かで見た気がするけど、あまり思い出せない。
程なくしてそのエレメリアンは何をするでもなく、その姿を消したのだった。
◇
ママの転送装置を使って移動した場所は何処かわからないビルの屋上。
いたわしい姿になってしまった華先生をアナザーテイルレッドが運び下ろす。
「チッ、獲物逃がしてむざむざと逃げ帰るたぁ、オレもまだまだって訳かい」
アナザーテイルレッドがそうぼやく。
現在、ひとまずの戦いを終えた私たちは再度集まりだす野次馬から逃げるべく場所を移動している。
場所が基地でないのはママがアナザーテイルレッドの事を信用していない証拠。いくら助けてくれたとはいえ、こんな奴を信用できないのは私も同感だし納得できる。
でも、和輝からしたらまた急に場所が変わって混乱しちゃう気もする。
「ごめんね和輝くん、もうちょっとでお家に帰れるから。だから……ね?」
「うん……」
ずっと怯え続け私から離れようとしないでいる和輝は弱々しい小さな声と共に頷いた。
気を抜けば今にも泣き出してしまいそうな表情だけど、私はこう言ってあげる事しか出来ない。
「さて、そろそろいいか? オレも疲れてんだ、このあたりでお開きとしようぜぇ」
華先生を運び終えたアナザーテイルレッドがツインテールを羽ばたかせて去ろうとする。
ママはそれに対して待ったをかける。
「待ちなさいレイジ。あなた一体、どういう風の吹き回しなんですか」
「ああ? なんだよおい。それなら言ったろうが――」
「とぼけないでください。あなたが今までやって来た事全部、これで許されるとでも思っているんですか!! 総二様だけじゃない、私や愛香さんたち皆を騙し、総愛や和輝君まで手にかけようとしたあなたが!! ここまでする理由は何なんですか!!」
ママの顔は普段のふざけた態度なんて微塵も感じられないくらい真剣そのものだった。
対するアナザーテイルレッドは人を食った態度を変えやしない。
「理由も何も、オレはさっき言ったぜ? オレはただ、獲物を取られたくないから動いた。たったそれだけの事よ」
「だから……!! あなたは何を!!」
真意を隠すような素振りを見せるアナザーテイルレッドへと激昂するママだけど、私は本心を言っているような感じを再度ツインテールから感じ取れる。
尤も、ママは一先ずの撃退を終えてなお、襲い掛からずに仲間のように振舞うアナザーテイルレッドを疑っているように見える。
「ま、悪には悪のプライドっつうモンがあるってだけだ」
「プライド?」
「形はどうあれリベンジしてぇって事だ。テイルレッドを目指すオレが、こんなガキ共にやられたままってのは癪に障るんだよ」
アナザーテイルレッドは私と、私の背に隠れる和輝を睨みつける。
その瞳は怒りや嫉妬、恨みや憎しみといった物だけでなく、期待や感心なども感じられて、こっちの方が混乱してしまいそうになる。
睨まれた事でより一層怯えてしまう和輝を安心させるべく、私はアナザーテイルレッドへと睨み返す。
「どうやらまだ解けていないようだ。ま、こんな解けかけのツインテールなんざ、奪った所で何の価値もありゃしないがな」
そう吐き捨てたアナザーテイルレッドは今度こそここから去るべくツインテールを羽ばたかせ空へと飛びあがる。
「レイジ……!!」
「若ぇ頃みてぇに楽しかったぜぇ。ハッハッハ、あばよッ!!!」
高笑いを上げた後、その姿を闇へと消して見せたアナザーテイルレッドの反応は何処にも残っていなかった。
ツインテールの気配が消えた以上、私にも追う事なんて出来やしない。
怒りを含めた複雑な表情を見せるママは虚空を見つめながら歯噛みしている。
私はそんなママへともう帰ろうよと声をかける。
「ママ、そろそろ……」
「どうしてですか……!!」
「え……!?」
私に対して今までずっと優しかったママ。
そんなママから聞いた事ない声色が発せられた。
思わず言葉を失ってしまう。
そして、ママの声が木霊する。
「あなたはどうして……どうして言う事を聞いてくれないんですか!! 危険だから出てはいけないとあれ程言ったのに……!! どうしてですか!!」
生まれて初めてのトゥアールママからのお説教。
俯く私にママの顔は見えなかった。
いや、見れなかった。
「あなたのためにどれだけの人が傷つき、どれだけの人が辛い想いをするのかわかっているんですか!!! 今日だけじゃありません!! これまでも、そしてこれからも、あなたが背負ってしまった物はそんな軽い物じゃないんです!! 皆があなたを心配し戦っているんです!!」
何も言い返せない。
だって、華先生がこうなったのも、和輝や悠香さんたちが狙われああなってしまったのも元を辿れば全部、私がいたからに他ならないもん。
ツインテールを愛し、それが極限の領域へと達した今、私にはそれ相応の責任がある。
私は気を失っている華先生へと視線を移す。
スペルビアギルディの攻撃から私たちを庇い、しわくちゃのおばあちゃんへと老化してしまった先生。
その白く染まった弱々しいツインテールは、私の胸を痛くする。
ツインテールを守る為に戦っていた筈なのに、私自身の一時の焦りからこうなってしまった……。
そう思いさらに深く俯きそうなるそんな時、ママは私を抱きしめた。
「すいません……。本当は……あなたにはもっと自由に生きて欲しかった。かつての私のようにではなく、あの日の総二様たちのような何にも縛られない毎日を過ごして欲しかった。戦い傷つくのがあなたじゃなく、私だけなら良かったんです」
その時、私はママの涙を見た。
私以上に責任を感じこうなった状況を悔いているママの姿。
戦える力を再び失い、見ている事しか出来ないママの辛さはこんな私でも痛い程わかる。
「本当の親でもない私が言っても説得力がないかもしれませんが、あなたの事を想っているのは和輝君だけじゃないんです。私や総ニさ……いや、お父様やお母様、この世界で出会った皆さん、みんなが想っているんです。あなたを守る為に戦っているんです」
そもそもママがやってきたのも私を助けるため。
今、こうしてこの世界に残っているのも全部私の我儘でしかない。
もし私がこの世界から離れた時にアナザーテイルレッドは兎も角、アルティデビルが何しでかすかわからないから残るだなんて都合のいい言い訳なんだもの。
みんな……ごめんなさい。
「おねぇちゃんを……いじめないで……」
心の中で懺悔する私の耳に聞こえてくる小さな声。
「「え……!?」」
突然の事に驚く私たち二人。
視線を下げた先、ママの白衣を小さな手でギュッと掴み、涙目のまま訴えていたのは幼い和輝だった。
いや、別にいじめている訳じゃないんだけど……
そう言ってもわからないであろう和輝は小さな声でさらに訴える。
「ぼくがかってにおそとにでたから……。だから……おねぇちゃんはわるくないよ……」
真実を話し、自分が悪いと和輝は言った。
そんな事ないよと言ってあげようとするよりも早く、和輝は恐る恐る頭を下げる。
「ごめんなさい……」
本当は17歳だけど、今は5歳の小さな男の子の和輝。
そんな和輝が頭を下げている以上、私もママも後悔したり涙を流してなんかいられない。その小さな勇気を否定するなんてもっと出来ない。
いつの間にか解けかけていたツインテールを結び直し、無理矢理でも笑顔を作った私は、泣きそうな和輝を抱きしめそのまま抱きかかえる。
「帰ろっか、きっとおばあちゃんも帰ってる」
「うん……」
それを見たママは静かに頷き、寝かされていた老化した華先生を背負う。
そして、ママの持つ転送装置が起動し、私たちはこの場を後にしたのだった。
◇
老化してしまった華先生の検査及び治療をすべく基地に残ったママと分かれた私は、和輝を連れて涼原家自宅へと帰還した。
転送ゲートの先で広がる開きっぱなしの玄関が私たちを出迎える。
焦っていた事もあり、鍵もかけてない所か扉さえも閉めていない防犯意識0の状態ではあるけれど、幸いなことに誰かが空き巣に入った形跡は見当たらない。
尤も、それはおばあちゃんがまだ帰ってきていない事も指している。
私はトゥアルフォンを開き確認、トゥアルフォンにはおばあちゃんから電車遅延の為に帰りが遅くなる旨の連絡が入っていた。
「おばあちゃん、もう少し遅くなるって」
「うん……」
当たり前だけど、和輝の声は明るくない。
でも、昼間のような寂しさからくる悲しさはあまり感じない。寧ろ、辛い気持ちや悲しい気持ちをグッとこらえようとする強さを感じる。戦いを経て私への警戒も解いてくれた事も大きいのかもね。
私はそんな和輝と共に家へ入り、リビングへと。
リビングでは大量に積み上げられたDVDの山と電源の入ったままのテレビ、ダイニングテーブルの上にはおばあちゃんが残したメモと昼食代わりのお菓子の残骸、キッチンには昼間作ったものの苦手だったが故に拒否され残ってしまった私お手製のサツマイモカレー。どれもこれもが昼間の苦労を思い出させるような物ばかり。
私はテレビのチャンネルを切り替えつつ少し一休み。
おばあちゃんが帰って来るまでまだあと少し。
どうしようかな……。
「ねぇ? おねぇちゃんと一緒にお風呂、入ろっか?」
別に私は、距離が縮まった今ならもう大丈夫だろうと、そう思って言ったんじゃない。
外の寒さで震え、戦いの余波で汚れてしまった和輝をお風呂に入れて温めてあげたい。
本当にただそう思っただけの事。
「う、うん……い、いいよ……」
歯切れは悪いながらも和輝からの返事はYESだった。
少しでも心を許してくれたと思い、少しホッとすると同時に喜びがこみ上げてくる。
「じゃあ、行こっか」
「……うん」
和輝を連れてそのまま洗面所兼脱衣所へ。
着替えのパジャマを前もって用意し終えた私は、ツインテールを解いた後にセーターを脱ぎ、そしてそのままキャミソールにズボンと順々に脱いでいく。和輝も同様に半袖シャツと半ズボンを脱いではパンツのみとなり、共に下着を脱いだ全裸の姿となった。
「お、おねぇちゃん……!!」
「ん? どうしたのかな?」
裸体を見た和輝はわかりやすく顔を赤く染め、恥ずかしがっていた。
私からすれば、以前に和輝と入れ替わった際に何度も見たり見せたりしていた訳だし別に何とも恥ずかしくない。強いて言えば幼いとは言え和輝にツインテールを解いた今の状態を見られるのがちょっと恥ずかしいかなって思う程度の事。
それにしても、和輝ったらこのあたりは今と変わらないんだなぁって思う。
もしも、「別に恥ずかしがることなんてないんだよ、おねぇちゃんと僕はこれまでも一緒にお風呂入ったりベットで寝たりしてたんだよ」って言ったらどんな反応するのかな~
「は、はやくはいろ……!!」
「ふふっ、はーい」
私に対して、和輝は浴室へと急かさんと私の背中を押していく。
私はそのまま抵抗せずに少しからかい気味のまま浴室へと。
中で機械を操作して湯舟の中にお湯をはりつつ、シャワーをかける。
お湯はりと並行している為に勢いは普段よりもかなり緩やかだけど、それがかえって優しく降り注ぐかのようで気持ちいい。和輝も不満なく気持ちよさそうだし問題なし。あと、お湯の温度も丁度いいかな。
「さ、じゃあ洗っていくけど、いい?」
「う、うん……」
了承を得た後、バスチェアに座らせた和輝を洗うべく少し屈んでからスタート。
髪から体の隅々までを優しく、ツインテールを扱う時のように丁寧に、痛くならないように慎重に洗っていく。
大人の時のごつごつした力強い物とはまるで違う子供特有のぷにぷにした肌の感触は私にとってもある意味で凄く気持ちがいい。
(今まであんまり触ってこなかったけど、子供の肌ってこんな感じだったんだ……)
そんな風に思っているうちに和輝の体はしっかり綺麗に洗い終えることが出来た。
和輝は嫌がらずさっきから何一つ言葉を発さずにジッとしている。
嫌じゃなさそうである以上、そんなに気持ちよかったのかなと思う反面、もしかしたらのぼせちゃったのかなと少し不安になる。
だって和輝の体、すっごく熱く火照っているように見えるし。
「ぼ、ぼく……さきにはいる……」
洗い終わった和輝はそそくさとお湯はりを終えた湯舟の中へと入っていく。
私はそんな和輝の後を追うべくいつもよりも気持ち早めで髪と体を洗っていく。勿論、丁寧さは微塵も損ねていない。今まで以上に丁寧で綺麗にツインテールを維持する為の手入れは欠かさずに行った。
そして、洗い終えた私は和輝の隣に並ぶように湯舟へと浸かる。
温かいお湯が身体の隅から隅まで染みわたり、今日一日中の辛さや悲しみや苦労を全部、お湯の中へと溶かして消していってくれる。
「ふぅ……。どう? 気持ちいい?」
和輝はさっきからずっと私とは逆方向を見続けている。
湯気が立ち込めいるからべつにそこまで恥ずかしいような事は別にないんだけど、どうしたんだろう?
気になって声をかけたけど反応がない。
「ぼ、ぼくもうでる!!」
「え!? もう!?」
まだ殆ど時間が経っていないのに和輝は突然立ち上がって湯舟が出てしまった。
私としてはもうちょっと一緒に、何なら一緒に100数えるくらいはしてみたかったけど、のぼせてしまったのかなと思うと引き止める事は出来ない。
少し残念に思いながらも私も直ぐに湯船から上がるべく立ち上がる。
「待ってよ和輝くん~」
浴室から出た先、脱衣所で相変わらずそっぽを向きながら待っていた和輝。
あれ? もしかしてまた嫌われた……?
そんな不安を感じつつも、バスタオルを手に取り和輝を拭いていく。
その体はお湯なんかの比じゃないくらい熱く火照っていて、のぼせたのであろうと確信出来た。
「だ、大丈夫? ちょっと無理しちゃったのか……?」
「……ううん」
それ以上、和輝は何も答えない。
というより答えようとしない。
不安が的中したとわかり、折角距離を縮める事が出来たのにとまたもや落ち込んでしまう。
拭き終えた和輝はパジャマへと自力で着替えた後、逃げるようにこの洗面所兼脱衣所から出て行ってしまった。
「やっちゃった……」
どうしよう……また振り出しに戻っちゃったの……?
紆余曲折を経てようやく心を開いてくれたと思ったのに……
もう……私のバカ!! ママがあんなにも叱ってくれたのにまたやっちゃうなんて何してるのよ!!
調子乗りすぎ!! 和輝が無理してるって気づかないなんて最悪じゃない!!
自分自身を叱咤しながら私は体を拭いて着替え、髪を乾かし続ける。
どうすればいいのよ……もう……
「はぁ……」
数十分間、自分自身を責め続け、髪を乾かし終えた私はため息を吐きながらもリボンを手に取る。
こういう時、ツインテールを結んでもあまり納得いくような形にならないのだけど、結ぶと結ばないとじゃ全然違うのでとりあえずでもツインテールは結ぶ事にしている。
時間にしていつもよりもかなり長い1分強。
形も若干いびつであり、私の今のメンタルを表しているかのように見える。
ため息がまたも出そうになる。
その時、私は背後から視線を感じた。
「和輝?」
洗面所の入口で体を隠してこっそり様子を伺っていた和輝。
少しバツの悪そうな申し訳なさそうな目をしていたけど、出来上がったばかりの私のツインテールを見て変わる。
「……!!」
その目は昼間のアニメを見ている時と同じくらい……いや、もっと輝いているように見えた。
「もしかして……」
その瞬間、和輝は物陰に隠れて逃げ出そうとする。
まさか和輝は遠慮しすぎてるだけなんじゃと気づいた私は呼び止める。
「待って!! もしかして気になる? ツインテール?」
ピタリと止まり、恐る恐る振り返る和輝。
「う、うん……!!」
少し遠慮しながらも和輝はそう言い切った。
ただ遠慮しすぎていただけとわかった私は少し元気を取り戻す。
今ならもっといいツインテールを結べるかもしれない。
そう
今度はさっきと違い、自分の中で思い描く最高のツインテール。結ぶ時間も10秒も満たない。
「じゃじゃーん!! どう? 似合う?」
「う、うん!! カッコいい!!」
和輝の顔は今日一番にキラキラ輝いている。
それを見た事でようやく心の底から笑顔になれた。
◇
「ただいま帰ったよ、遅くなってごめんねぇ」
午後8時半、涼原家に和輝の祖母である文子が帰って来た。
文子は遅くなった事を詫びつつお土産の饅頭を取り出すも、和輝やティアナがやってこない事に首をかしげる。
リビングから微かに聞こえてくるのは幼い頃の和輝がよく見ていたアニメの音のみ。
少し気になりながら文子は廊下を通りリビングへと出る。
「あらあら」
つけっぱなしのテレビの前、文子はソファにて肩を寄せ合いながらすやすやと気持ちよく眠る二人を発見した。
何があったのかまではわからないが、文子としてはとりあえず仲良くなったようで良かったよとばかりに微笑んだ。
「あたしの勘もまだまだ捨てたもんじゃないね。ん?」
「か、ず……き……」
聞こえて来たのはティアナの寝言だ。
気持ちよさそうであったその寝顔はやや暗く変化する。
悪夢でも見ているのか、それとも辛い事を思い出しているのか。どちらかはわからないがあまりいい物ではない。
それならばと、文子が親切心から起こそうとする。
そんな時、隣で眠る和輝が微かに動く。
「おねぇ……ちゃん、ぼくが……まもるから……」
果たしてそれは偶然か?
和輝は辛そうな表情で眠るティアナへと、語り掛けるようにそう口にし、肩にかかるツインテールを撫でてみせる。
すると程なくしてティアナの寝顔が元に戻り笑顔へと変わる。
「全く、あんたって子は」
そう呟き微笑んだ文子は、仲良く眠る二人へと一枚の毛布をかけてあげたのであった。
130話を超えてなおまだ二人目も倒していないって……
書きたい事が多すぎるのがいけない!!