俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

133 / 164
第133話 決戦の時

「うウゥ……ベリアルギルディ……!!」

 

「全く……!! よもや貴様までもオレ様を失望させかけるつもりかよ」

 

 申し訳そうに頭を下げるスペルビアギルディと腕を組みながら苛立つベリアルギルディ。

 ここはどことも知らぬ異空間。

 周囲が漆黒の闇で覆われたこの空間は、アルティデビル基地が存在している世界と世界の狭間ではない。

 ここはベリアルギルディのみが作り出せる特殊な固有空間。

 かつてベリアルギルディがアルティメギルに身を置いていた際に知った首領の間。それを科学的に模倣したのがこの場所だ。オリジナル同様、ここへ入る事が叶うのはごく限られたエレメリアンだけである。

 

「オレ様の狙いはあの少女一人だと何度も言わせるんじゃあない。怒りに任せて暴れるなど、貴様は憤怒の性癖でもない癖に」

 

「そいつはわかってるよ……すまないね」

 

「わかっていてもらわねば困るというものだ。言っておくが、これ以上の失態を重ねるのであるならわかっているよな? 貴様の願い、エレメリアンとしての本来の姿を取り戻す為の研究。欲しいのは貴様だろ?」

 

 七つの性癖(セブンス・シン)とベリアルギルディの関係はギブ&テイクであり、その大半のエレメリアンは目的をなすと同時にベリアルギルディが手中に収めた世界の幾つかをいただく事になっている。

 だが、このスペルビアギルディは少し特殊であった。

 彼女は厳密に言えばエレメリアンではない。エレメリアン個人が持つ属性力に疑問を抱ぎ矛盾を無視すること出来ずに愛が憎しみへと変貌して変わってしまった愛憎感情の集合体とも言える怪物だ。

 そんなスペルビアギルディの願いはたった一つ、元の自分に戻る事である。

 天才ベリアルギルディならばそれが可能なのだ。

 

「お待ち、それとこれとは話が別だよ。あたしはまだあたしは失敗しちゃいないよ」

 

 スペルビアギルディは強気にそう言っているものの、内心焦っているのが隠せていない。

 ベリアルギルディが研究を中止すればもう元に戻る術はないと確信しているからである。

 

「フン、なら失望させるなと言っている。オレ様が求めているのは今まで同様の完璧な成果ただ一つだ」

 

 これまでスペルビアギルディは、ベリアルギルディからの仕事をいくつもこなし、その度に自身の身を戻す研究の続行を要求してはその研究経過の報告を貰ってきていた。

 今回も同様だ。スペルビアギルディはターゲットである少女(ティアナ)を捕らえて研究を続行させる。たったそれだけのいつもの事である。

 

「わかっているよ、あんたこそ忘れるんじゃあないよ」

 

「貴様次第だと返してやるよ」

 

 これからを生きるべくスペルビアギルディはこれまでを続ける。

 ベリアルギルディと出会い、七つの性癖(セブンス・シン)における原初の構成員と任命されて以降、そうやってスペルビアギルディは生きて来たのだから。

 再び出撃すべく背を向けるスペルビアギルディ。

 その姿はみるみるうちに見知った幼女の如き物へと変わっていく。

 

「じゃあいってくるですのー!!」

 

 変化し終えたスペルビアギルディは無邪気に笑いこの空間を後にする。

 その姿はハッキリ言って理解不能だ。

 彼女の複雑すぎる矛盾に満ちた内面そのものとも言えるだろう。

 

「フン、どうやら潮時のようだな」

 

 不機嫌な面持ちでそう呟いたベリアルギルディ。

 そんな彼の背後から先程とはまた違う声が聞こえてくる。

 

「オイオイ、んな事言ってんじゃねぇぞ。スペルビアちゃんがかわいそーだろうが、ああん?」

 

 ガラの悪い女声。

 その声にピンときたベリアルギルディは振り向きその姿を捉える。

 そこにいたのは一体のエレメリアン。

 髪型はポニーテール、豊満な胸は晒しで巻く事で強引に纏め、中東アラブ圏における踊り子をイメージさせるようなエキゾチックな装いで下半身を包み、不気味な青い肌をこれでもかと見せつける女エレメリアン。

 そして、そのエロティックな色気とは裏腹に、その身体からは嗅覚を刺激する独特のタバコ臭が放たれているのも特徴だ。

 

「少しフライングだろう? シャイターンギルディ?」

 

 ベリアルギルディがその名を呼ぶ。

 彼女はシャイターンギルディ。

 七つの性癖(セブンス・シン)における憤怒の性癖を担うエレメリアンだ。

 彼女もまた、レヴィアタンギルディやスペルビアギルディと同様にベリアルギルディに呼ばれてやってきたのである。

 

「うちがどれだけ早くても別にいーだろ!! なんだぁ? 文句あんのかぁ!? ああん?」

 

 常時キレ気味の爆弾の如き新たな刺客。

 これについては、ティアナたちはおろか、スペルビアギルディですら知り得ぬ事であった。

 

 

 

 

 翌日、今日も引き続き、私は和輝と一緒にお留守番。

 ママはみんなを元に戻す研究で忙しく、匠や正樹さんはその手伝い、事情を知らないおばあちゃんは昨日同様に遠方の友達に会いに行ってしまっているこの状況。

 つまる所、今日も私は一人で和輝の面倒を見ないといけないって訳。

 だけど、昨日までとはまるで違う。

 昨日は和輝も私に対して懐いておらず、泣き虫で恥ずかしがり屋な性格もあって苦労の連続ではあったけど、昨日の一件を経て和輝は心を開いてくれた。

 今でもちょっと恥ずかしがったり遠慮する素振りは見せているけれど、昨日と比べればだいぶ少なくなっているし、何なら私に対して「おねぇちゃんいっしょにあそぼう」って声をかけてくれるようにもなってくれた。

 

「ねぇ和輝くん? 何して遊ぶの~?」

 

「ん~とね……」

 

 昨日の遠慮または警戒してた感じとは全然違って、今の和輝は子供らしくはしゃいでいる。

 一度心許せば途端ここまで変化するあたり、やっぱり根は和輝だな~って実感しつつ、子供の時の方がまだ素直だったんだとわかる。

 

「たたかいごっこ!! わるものたちをやっつけるの!!」

 

 興奮気味に和輝がそう提案。

 私としては本当にそれでいいの? と少し困り気味。

 いや、男の子らしい遊び内容ではあるけれどさ。何というか昨日、目の前で本当の戦いいを見ている訳だし、思い出して怖くならないかが不安なのがちょっとね……

 

「だめ……?」

 

 困惑する私の雰囲気を感じ取った和輝は露骨にしょんぼりして肩を落とす。

 

「いやいやいや、そう言う訳じゃなくてね!! その……おねぇちゃんは何をすればいいのかな~って思っただけで……!!」

 

 テンションを無駄に下げぬよう慌ててそう取り繕う。

 それが功を奏したのか、和輝は再び笑顔を取り戻す。

 

「え~っとね、おねぇちゃんはわるもの!!」

 

「え……? 私が悪役? 仲間とかヒロインとかじゃなくて?」

 

「うん!! だってヒロインはばあちゃんだもん」

 

 てっきり、私はヒーローの相棒役か囚われのヒロインの役かと思っていたけど、まさかこうくるとは予想外。

 いくら好感度が上がったと言ってもやっぱり今の和輝にとっての順位ではおばあちゃんの方が上なのだとわからされる。

 一瞬ばかり言葉を失いつつも、こうなった以上は全力をもって悪役を演じ切る事を誓う。

 

「よし、いいわ。ならやってあげようじゃない!!」

 

 どんな悪役でいくかは私オリジナルでやって欲しい様子。

 今まで数多くの悪役(エレメリアン)を見て聞いて倒してきた私にとって、参考となるイメージはいくらでもある。

 頭の中でプランを練り、固め、実行するだけ。

 悪役を演じるなんて簡単すぎるってものよ。

 

「みつけたぞ!! ばあちゃんをかえせ!!」

 

「ハッハッハ~!! ばれちゃしょうがない!! お前のおばあちゃんはこの私が頂いたのだ~!!」

 

 少し小っ恥ずかしさを覚えつつも全力でそう演技する。

 ツインテールを高速で結び変えつつ、穂先を持ちながら演技することで悪役としての雰囲気を意識するのも忘れない。

 

「おばあちゃんをどうするつもりだ!!」

 

 恐らくテレビを観て覚えたのであろう言葉遣いでヒーローになりきる和輝。

 楽し気なその様子から私自身も興が乗って来る。

 

「どうするつもりも何も、お前のおばあちゃんのツインテールはもう私の物だ~!! ツインテールにはもうできないと思え~!! ハッハッハッハッハッハ~!!」

 

 参考にしたのがエレメリアンだけあってよく聞くような台詞内容ではあるけれど、私自身も改めてこの行いの恐ろしさを実感する。

 他人の大好きを自分の為に奪うだなんて、最低最悪の悪役でしかない。正直、演技とは言えあまり言いたい台詞ではないのは確かね。

 あ、ちなみにテンション高めの高笑いはアナザーテイルレッドを参考にしたんだけど、そこは我ながら上手くいっていると思う。

 後は向かってくる和輝の攻撃を受けて適当にやられてあげるだけ。

 なのだけど……

 

「……」

 

「あれ?」

 

 さっきまでノリノリだった和輝の顔が微妙そうな感じへと変化していた。

 言わなくてもわかるけど、これは明らかに白けている。

 何がどうしてなのか全くわからない。

 

「どうしたの~? 和輝く~ん?」

 

 気になった私は役になりきる事を忘れて素で声をかける。

 すると和輝はちょっとがっかりしながら口を開く。

 

「おねぇちゃん……へん」

 

「変? どこが?」

 

「わるものはそんなこといわない!! ツインテールとかってへん!!」

 

 え? もしかして私の演技が変だったって事?

 いやま、冷静になって見れば確かにツインテールを奪う云々は変かもしれないけれどさ……

 こうも的確に駄目な点を指摘されるとちょっとへこんでしまうというもの。

 私としては自信満々ではあったんだけど、和輝には不評だったみたい。

 

「ごめんごめん、今度はちゃんとするから、ね?」

 

「もう、ちゃんとやって……!!」

 

 昨日なら多分、ここでもう逃げられていたんだろうけど、今日はちょっとご立腹になっただけで済んでくれた。これを続けたら折角仲良くなったのにまた振り出しに戻りかねないので今度こそはしっかりしようと思う。

 でも……どうすれば納得してくれるんだろ?

 私の思いつく悪役ってああいうのばっかりだし……

 

「う~ん、ちょっと待ってね」

 

 納得してくれそうな悪役を思い出そうと粘る。

 和輝もそれに対してちゃんと待っててくれている。

 そんな時、耳障りなノイズ音がリビングの中で響き渡った。

 私の中で一気に緊張が走り、空気が張り詰める。

 

「これは……!!」

 

「おねぇちゃん……?」

 

 不安気になる和輝を尻目に、ノイズ音の出所であるテレビへと注意を向ける。

 電源が入っておらず真っ黒だった画面が一瞬点滅し、電源が入ってもいないのにとある画面を映し出す。

 そこには、昨日とは違うスペルビアギルディの少女態がちょこんと座っていた。

 

『やっほー!! みてますか~? おねぇちゃん~?』

 

 スペルビアギルディの言うおねぇちゃんってのが私の事を指しているのなんて理解している。

 スペルビアギルディは笑顔のまま続けた。

 

『スペルはですね。これから~このせかいのみ~んなをちいさくちたりおおきくちたりしちゃいますの~!!』

 

「なッ……!!」

 

 何……? つまりこれは所謂犯行予告って事……!?

 和輝や悠香さんらは小さく幼くされ、華先生は年寄りへと変えられているのに、今度はこれを無差別でやろうとしているなんて……

 その衝撃的すぎる発言に私は思わず言葉を失う。

 

『スペルのいいたいこと、わかりますよね~おねぇちゃん?』

 

 私が大人しく捕まらなきゃ被害者を増やすと脅すスペルビアギルディの姿は無邪気さなど一切感じない邪悪その物。

 私を捕らえる為についにここまでやって来るなんて思いもしなかった。

 アナザーテイルレッドと違って、エレメリアンはある程度の良識を持っていると思っていたのに。

 奇しくもこの世界に残る言い訳が現実になった瞬間だった。

 スペルビアギルディは笑いながら消えていき、テレビの画面は再び真っ暗な物へと戻ってしまう。

 

「おねぇちゃん……」

 

「大丈夫、おねぇちゃんが付いてるから安心して」

 

 震える和輝を手を優しく握りしめてあげながら力強く宣言する。 

 でもしかし、このままじゃ無関係な人たちがもっと大変な目に遭うし、今のままじゃ変身できず何の役にも立てやしない。

 一先ず、ママやみんなと相談するっきゃないよね。

 そう決めた私は基地に向かうべく、和輝を連れてリビングを後にした。

 

 

 

 

 私と和輝の寝室にあるクローゼット、その中は隠しスイッチを入れる事で転送ゲートとして機能するようになっていて、学校地下の基地へと瞬時に移動することが出来る。

 転送ゲートを越えた先、基地へと降り立った私と和輝。

 もう三度目の来訪という事もあり、和輝は基地内の装飾に興奮するでもなく、ギュッと私の手を握っている。

 そんな和輝と共にコンソールルームの扉を開く。

 

「ママ!! 今さっきテレビで――」

 

 

「あぅ~、う~!!」

「うぇぇぇぇぇん!!!!」

 

「はいはいはい!! ちょっと待ってくださいね~先輩方~!!」

 

 私の声を遮る二人の赤ん坊の泣き声。

 そして、目に入ったのはそんな赤ん坊を相手に奮闘する匠だった。

 匠は確か、スペルビアギルディの能力で赤ん坊へと戻されてしまった悠香さんと青葉さんのお世話をし続けているんだっけ?

 一人を背中の抱っこ紐でおんぶし、もう一人を両手であやす姿は申し訳ないけど、双子の子を持つ若いお父さんって感じ。

 

「おっティアナちゃん……!! 何々? そっちはどうよ?」

 

「あ、うん。和輝は大丈夫だけど……大丈夫?」

 

 気づいた匠が声をかけてきたので一応返事。

 さっきまで凄く大変そうだったのに私に声をかける匠からは辛さを微塵も感じない。

 流石は五人兄弟の長男ねと感心すると同時に少し尊敬。

 

「いやま~久々ってだけで慣れたもんよってな」

 

「うぅ~……!!」

 

「おーはいはい、悠香先輩どうしました~?」

 

 背中におんぶしている赤ちゃん(どうやらそっちが悠香さんみたい)が不満声を漏らし、それを対応すべく匠はそのまま退室していく。

 多分だけど、眠そうな様子からして寝かしつけに行くのだと思う。

 いや大変ね本当に……

 

「総愛……!!」

 

「ママ!!」

 

 匠を見送った直後、コンソールルーム奥で作業していたママが私たちに気づいたようでパソコン片手にこちら側へとやって来る。

 ママの目の下には薄っすらと黒い隈が出来ていて、尚且つその眼自体も長時間休ませていないのか赤く充血しているように見える。

 恐らくだけど、ママは昨晩から分かれて以降一度も寝ていない。

 華先生の容態の検査にみんなを元に戻す研究、ママにかかる負担は私や匠の比ではない。

 

「ママ、その目……」

 

「目? あーこれですか。久しぶりの徹夜でちょっとへばっちゃっただけですよ。いや~流石に若い頃のように無茶は出来ませんね~」

 

 心配をかけまいとしているのかママはいつも通りの平気そうな素振りをみせるけれど、生まれた時からの長い付き合いでもある私からすればそれがただの空元気だって一目瞭然よ。

 テーブルに置かれたパソコンに映る画面へとチラリと視線を移す。

 そこには先程までママが必死に作業していたであろう跡と私や和輝たちの健康状態などデータ化して表示するリストがずらり。

 具体的な内容はわからないまでも、その大変さはそこからも感じとれる。

 

「それよりも総愛、先程の映像についてですが……」

 

 私が気遣おうとするよりも早く、ママの表情からお茶らけた態度が消えて真剣な物へと変わり、さっきのスペルビアギルディの脅迫について口にした。

 

「やっぱり、ママも見てたんだ……」

 

「ええ。先程の電波ジャックはこの基地内も対象内でしたので、私たちも把握してはいます」

 

 地上の施設以上に厳重なセキュリティを誇るこの基地ですら突破するスペルビアギルディの能力には驚きつつも、事情を話す必要がない点は好都合。

 ママの事だから対抗手段を考えていない筈が無い。

 ママはテーブル付属のディスプレイを操作し、スクリーンに映像を表示する。

 

「これは昨晩戦ったスペルビアギルディの様子です。映像から見ても、接近戦を含めて戦闘能力はさほど脅威ではないでしょう。ですが、能力は厄介その物ですね。年齢操作は兎も角、金縛りに念動力と再生力、そして奥の手の暴走と正直言ってかなり危険な相手です。もしこのまま暴れ出せば和輝君や悠香さんたちの被害ではすみません」

 

 深刻な表情を浮かばせつつママは再度ディスプレイを操作しスクリーンに映る映像を切りかえる。

 

「それに、残念な事に華先生の容態ではとてもじゃないですけど戦える状態じゃありません」

 

 映し出される華先生。

 メディカルルーム内で車椅子に座るよぼよぼのおばあちゃんになってしまったその姿はあまり直視したいものじゃなかった。

 辛うじて縮れた白髪をツインテールに結んでいるけれど、悲壮感が溢れてくる。

 隣でジッと見ていた和輝も同様の感想を抱いたようであり、握る手からその気持ちが伝わって来る。

 

「個人的な感情は抜きしても、昨日のようにレイジを頼るのは状況的に危険です。ですので、迎撃に向かえるのは総愛、今はあなたしかいません。」

 

「うん。でも……今の私は……」

 

 こうなった以上は私が行くしかない。

 そうなるのはわかってはいたけど、いざそう言われても今の私には変身する為の手立てもといパートナーがいない。

 勿論、それをわかっているママは三度画面を切り替える。

 

「安心してください。時間制限こそありますが、その点については解決しています。これを」

 

 映し出されたのは先程私がチラ見したデータ。

 私と和輝の二人のバイタルとテイルギアの改良案らしき設計図。

 そしてママは一応の完成品ですと付け加えながら一本のドリンクを取り出した。

 

「これはまさか……」

 

「はい。時間にして約12時間弱、使用者の肉体年齢を操作する薬品が入っています。これを使えば精神年齢こそ違えど、肉体の年齢を合わせる事は可能なので理論上は変身が可能です」

 

 流石ママ……!! これを飲めば和輝は一時的に私と変身できる肉体を取り戻す事が出来る……!! 

 時間制限なんて半日もあれば問題なしだから関係ない。

 問題は和輝と心を合わせ、尚且つ今の幼い和輝が戦う事が出来るかどうかにあるわね。

 いくら肉体は元に戻ろうとも、心は変わらない以上、泣き虫な5歳児相応の和輝が戦うにはハードルが高すぎる。

 でもだからって、ここはやるっきゃない。

 私は隣でずっと手を握っていた和輝へと向きなおり、屈んで視線を下げる。

 

「ねぇ和輝君、いきなりで悪いけど、おねぇちゃんと一緒に戦ってくれない?」

 

「たたかう……? ぼ、ぼくが……!?」

 

 案の定、和輝は混乱し怯えていた。

 わかってはいたけど、当然の反応よね……

 

「先に言っておくけど、これはごっこ遊びなんかじゃない。相手は私の事を捕まえる為に何だってするわ。和輝君だってもしかしたら無事ですまないかもしれないの」

 

 正直、出来る事ならこんな事言いたくなかった。

 だけど、ここは心を鬼にしつつ、頼み込む。

 

「怖いのはわかってる。でも、ここで私たちが戦わないとみんながもっとひどい目にあっちゃうの。だからお願い、私と一緒に戦ってくれない?」

 

 力強く真剣にそう言葉をかける。

 だけど、和輝の体は震えているし、目は今にも泣き出しそうなくらい腫れている。

 それを見てやっぱり無理よねと諦めそうになるそんな時、

 

「こわい……だけど、ぼくもがんばる……!!」

 

 勇気を振り絞った声が聞こえて来た。

 私の中で嬉しさと喜びとは別に、頑張った和輝を無性に抱きしめたくなる気持ちで溢れてくる。

 こう言ってくれた以上、私が和輝を守る。

 絶対に……!!

 

「どうやら、そっちの方は何とかなったみたいですね」

 

 黙って見守っていたママがそう言葉をかけてくれた。

 何となくだけど、ママの気持ちもある意味では私と一緒なんだってわかった気がする。

 

「正直、子供たちに任せるしか出来ない今の自分が不甲斐ないです。ですが、こうしてあなたたちが覚悟を決めた以上は私も腹くくりますよ」

 

「ママ……」

 

「皆を守る為に戦ってください。総愛……!!」

 

 後悔をしないという強い意思。

 それを感じとれるママから先程のドリンクが手渡された。

 ママの覚悟と意思が伝わって来る。

 絶対に無駄なんかしない。

 

「よし、じゃあ早速、和輝君はこれを飲んで――」

 

「あ、それは和輝君用ではなく、総愛が飲む用のですけど」

 

 和輝を身体だけでも元に戻すべくドリンクを渡そうとしたその時、ママの口から不吉すぎる言葉が聞こえて来た。

 え? 何?

 和輝じゃなくて、私専用……?

 

「ちょっとママ!? それってどういう事よ!? どうして私が……!!」

 

「いやだから、その薬は成長促進剤ではなく、成長を抑制して一時的に幼女へと若返らせる薬ですけど」

 

 え? つまり、和輝が大きくなるんじゃなくて私が小さくなるって事?

 ママの口から発せられた衝撃発言に私の背筋が寒くなる。

 そしてそれと同時にさっきまでのシリアスな空気が壊れていくのもわかる。

 

「ちょっとママ!! 聞いてないってそんなの!! 和輝を大きくするんじゃなかったの!?」

 

「いやそれに関しては難しいって言ったじゃないですか!? ですので私は逆に総愛を幼女にしてしまえば一石二鳥で丁度いいなと思った次第で……!!」

 

「ちょっと!! それどういう意味よ!! まさかお母さんの前に私を幼くするつもりだったって事? こんな時に何考えてるのよ!!」

 

「いやいやいや、こんな時だからじゃないですか!! それに肉体を成長させる薬なんかじゃママだってやる気出ませんからね!?」

 

 やる気が出ないって何よ!!

 何? つまり、私や匠やらが子共相手に奮闘している中、ママは自分の性癖に従って私を幼くしようと徹夜してたって訳……!?

 さっきまでの反動もあってか、ママへの怒りが沸々とこみ上げてくる。

 なおも言い訳を続け、あろうことか遂には自身の幼女癖すらも何が悪いんですかと開き直りだすママへと私の怒りは限界を超えた。

 

「そんなに頑張ったならもう寝てなさい!!!」

 

「おやすみなさぁぁぁぁいッ!!!」

 

 怒りのアッパーカットがママの顎へと直撃。

 高く打ちあがった白銀のそれは天井覆う超合金の壁を突き破って見えなくなり、痕跡として丸い大きな穴を天井に残した。

 もう、ママったら……!!

 

「おねぇちゃん……? だいじょうぶ?」

 

「まぁ、やるっきゃないのよね……」

 

 私の手にあるドリンクにはよく見るとソーラオサナクナールとラベルが貼られていた。

 嫌々ではあるけれど、覚悟を決めた以上はやるしかない。

 蓋を開けて一気に飲み干した。

 

 

 

 

 視線が低い、たったそれだけなのにこの違和感。

 まるで違う世界に来たみたいな不思議な感覚は不思議の国のアリスみたい。

 転送ゲートの向こう側、スペルビアギルディの反応を追って降り立った場所は昨日戦った場所からそう遠くない市街地。

 お店のガラスに反射して映る私の姿はおおよそ6歳程度のあの頃そのまま。

 瞳はくりっと、身体は小さく、ツインテールも今より少し短い。

 和輝と共に並ぶ私たちは、誰がどう見ても元は高校生の男女とは思えず、小学生もしくは幼稚園児の男の子と女の子にしか見えない。

 

『ふぉぉぉぉぉッ!! 遂に成功しました!! 苦節20年、ようやくテイルギアの力を借りずにここまでたどり着きましたよ~!!!』

 

 通信越しでも伝わるママの狂喜乱舞。

 トゥアルフォンから聞こえてくるママの声はいつにもなく弾んでいた。

 

『帰ったらトゥアールママと一緒にお風呂入りましょうね~!!』

 

「入らないわよ絶対に!!!」

 

 語気を荒げても、出る言葉は普段よりも一段高く幼い為に迫力が出ない。

 苛立ちをぶつけるかのようにトゥアルフォンを閉じては、通話を強制終了させつつ気持ちを切り替える。

 

「和輝、大丈夫?」

 

「う、うん……!!」

 

 これからの戦いを想像して足が竦む和輝の手を優しく握る。

 中の年齢が5歳と16歳とでは全然違う。

 覚悟を決めたとは言え、怖い物はやっぱり怖いよね。

 

「おねぇちゃんは……?」

 

「ちょっと不安だけど……頑張る。だから一緒に、ね?」

 

 顔を少し赤らめながらうんと元気よく返事する和輝。

 

「あ、それとね、今はもうおねぇちゃんって見た目でもないし、私の事は総愛って呼んで欲しいな。私も和輝って呼ぶからさ」

 

 本名での呼び捨てはある意味今だからこそ出来る事なのでしっかり忘れずにお願いする。

 仮名(ティアナ)で呼ばれるのももう慣れたし、今更変えられても気持ち悪いからアレだけど、この姿なら問題ない。

 こんな時くらい、どうせならちょっとだけでも幼馴染みたいな気分でいても罰は当たらないと思う。

 

「わ、わかった……!! そ、そーら……!!」

 

「ありがと和輝」

 

 少しの夢が叶って微笑む私と一層顔を赤く染める和輝。

 その直後、私たちの前方遠くにて、大人たちの悲鳴が老人たちの悲鳴と子供たちの泣き声へと変わっていくのが聞こえてくる。

 スペルビアギルディの活動が開始したんだ……!!

 

「行くよ和輝……!!」

 

「うん……。いこう、そーら!!」

 

 今の私たちに合わせて再調整されたテイルギア。

 可視化させたブレスを構え、それぞれブレスからドライバーを召喚し装着。

 心を一つに言葉(ツインテール)を紡ぐ。

 

「「デュアルテイルオン!!!」」

 

 爆裂する紫の光が私たち二人を包み込み、一つの肉体へと混じり合う。

 旋風の中から顕現するその紫の戦士はいつもよりも幼く小さい。

 それはまるでお父さん(テイルレッド)のよう。

 可愛さと強さを兼ね備え、ツインテールの為、みんなの大好きを守る紫の守護者、テイルバイオレットエクストリームチェイン(ミニ)。

 

「さぁ、行きましょう!!」

 

(うん!!)

 

 小柄の体格のまま、私たちは悲鳴と泣き声混ざる戦場へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

「どうやら、オレの出番はないらしいなぁ」

 

 テイルバイオレットが飛び出していくのを、アナザーテイルレッドは口元に笑みを浮かばせながら見送っていた。




冒頭のシャイターンギルディは所謂次回に登場する敵の顔見せであって、今回のエピソードでは戦いません。
シリアスもギャグもこなして、尚且つトンデモ展開まで可能にするトゥアールの汎用性の高さは流石本家夢先生のキャラクターだなって感服します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。