俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第134話 永久に続く物語

 昼過ぎの市街地にて、ぶかぶかの服を身に纏ったまま大声を上げて泣き叫ぶ子供たちは、皆がスペルビアギルディの能力で幼児化された被害者たち。

 子供だけじゃない。高校の制服や明らかに学生や若者が着るような服装を身に纏う80歳越えと思われるよぼよぼの老人も沢山いる。

 あの人たちもまた、スペルビアギルディの能力で老化させられた被害者たちだ。

 テイルバイオレット(ミニ)へと変身した私たちはそんな彼ら彼女らを一瞥しつつ、元凶であるスペルビアギルディへと疾走する。

 

(いたよ、そーら!!)

 

「うん、見つけた!!」

 

 心の中で和輝と言葉を交わしつついつもよりも幼い身体を動かしていく。

 今の私たち、テイルバイオレットの姿はお父さん(テイルレッド)を想起させるような幼い少女がテイルギアを纏っているような感じ。

 だけど、侮らないで欲しい。

 そりゃあ、手足は短くていつもより感覚は異なるけど、ツインテールのツヤやハリは幼くなったせいか上がったような気がするし、身体は小回りが利いて意外と動きやすい。

 

「ま、待ちたまえ!! 君みたいな子供じゃ……って、テイルバイオレット!?」

「小さいテイルバイオレットだ!!」

「妹!?」

「まさかテイルバイオレットも……」

「ヨ、ヨウジョ……!! グヘヘ……」

 

 被害から逃れた大人たちが私たちを指さし声を上げる。

 まさかテイルバイオレットも怪物の能力を受けたんじゃと不安がる者、テイルバイオレットに妹がいたのかと驚く者、そんな細かい事はどうでもよくただ可愛い~と喜ぶ者、エレメリアン顔負けの奇声を放つ変態と化す者と反応は様々ね。

 

『総愛ちゃああああん~!! ママはカメラちゃんと回してますからね~!!!」

 

「ね、ねぇ? そーら……」

 

「シッ、聞いちゃダメ。元戻ったらママにキツイの一発入れてあげるから」

 

 運動会の応援ではしゃぐ親のような反応を見せるママの声が通信越しで聞こえてくるけど、ツッコまずに無視しようと思う。

 だって今のママは何言っても聞かないし、この幼い身体でお仕置きしても逆に喜んで効果ないもの。

 

「それよりも和輝、いよいよご対面みたいよ」

 

 全速力で跳び駆ける視界の先、ようやくスペルビアギルディの姿が見えてきた。

 今のスペルビアギルディは幼い少女の如き姿。

 彼女は無邪気な少女のふりをしながら、逃げ惑う人たちを幼児化させたり老化させたりして笑っては街を破壊して回っている。

 

「ん? あ……!! おねえちゃんですの~!! あそびにきてくれまちたの~!!」

 

「誰が……!!」

 

「いっけぇ~!! 戦闘員(アルティロイド)しゃ~ん!!」

 

 私たちを視界に捉えるなりスペルビアギルディは戦闘員(アルティロイド)を大量に召喚しけしかけて来た。

 久しぶりに見る戦闘員(アルティロイド)の群れは虫か何かかと間違えてしまいそうになる大群だけど、私には何も脅威になりはしない。

 

「「「モケーー!!」」」

 

(ッ……!! い、いっぱいいる……!!)

 

「大丈夫和輝。あんなのただの雑魚よ雑魚。どれだけ多く集まろうと、今の私たちの敵じゃない……!!」

 

 道路一面を覆い尽くす大群を前に恐れる和輝を励ましつつ、その群れの中へと飛び込んでいく。

 いくらテイルバイオレットと言えど、子供の姿のままあの大群の中へと飛び込めばひとたまりもないだろうと皆は嘆くかもしれない。

 けれどそんな事は万が一でも起きやしないわ。

 私はいつもよりも小回りの利く身体をフルに活用して懐に潜り込み、その幼い身体からは想像もつかないであろう剛力を以てバッタバッタと戦闘員(アルティロイド)たちをなぎ倒して吹っ飛ばし、空へ打ち上げたそれらをチリへと変えていく。

 

「「「モケモケェ~!?」」」

 

「次!!」

 

(す、すごい……!!)

 

 心の中で和輝が驚いているのを感じつつ、私は駆け抜ける。

 これにはある程度予想はしていたでろうスペルビアギルディも驚かざるを得ない。

 

「そんな~!! スペルのおともだちが~!!」

 

「よく言うわ、そんな猫被ったままでぬけぬけとね」

 

 私の言う言葉の意味を察し口元を少し歪ませるスペルビアギルディ。

 彼女は更なる増員を送り込みけしかける。

 だけどね……!!

 

「意味ないのよ!!」

 

「「「モケェェェ~!?」」」

 

「そ、そんな~!?」

 

 鎧袖一触。

 どれだけ数の暴力を仕掛けられようが効きやしない。

 群がる黒い大群を拳圧だけで消滅させる。

 だから言ったでしょ、雑魚は雑魚ってね。

 フンと鼻を鳴らしスペルビアギルディを見据えるそんな中、彼女の口元がニヤリと歪む。

 

「でも、だからってゆだんはいけないですの~!!」

 

 瞬間、私の背後に巨大な気配を感じ取る。

 それが不意を突くべく突如として召喚された巨大な戦闘員(アルティロイド)だと気づくのにコンマ数秒もかからなかった。

 

『総愛!! 背後に巨大反応!! 危険です!!』

 

「し、しまった……!?」

 

 咄嗟に迎撃すべく体を動かそうとするけれど、いつもと勝手が違う幼い身体じゃ反応したくても動いてくれない。

 油断し過ぎたと悔やむそんな時、和輝の声が響く。

 

「そーらは……ぼくがまもる!!!」

 

 身体の主導権が和輝へと移り、テイルバイオレットもとい私たちの体が動く。

 それは戦いも喧嘩も知らない素人同然の子供の動き。

 カッコつけようと頑張るけれど上手くいかない、だけど、それでいて必死なその動き。

 和輝によって振るわれたその我武者羅な攻撃が巨大な戦闘員(アルティロイド)を吹き飛ばした。

 

「モ゛ゲ ェェェェェェ!!!」

 

「「「モケモケモケェェェ~!!!?」」」

 

「う、うっそ~ですの~!?」

 

 吹き飛ぶ巨大戦闘員(アルティロイド)は他の戦闘員(アルティロイド)の群れの中へと倒れ込みそのまま大爆発。

 ドミノが連鎖的に崩れるかのように誘爆して消え去る黒い群れにはスペルビアギルディもそう驚かざる得ないみたい。 

 無論、私も私で驚いているんだけどね。

 

「いまの……ぼくがやったの……!?」

 

(そうよ和輝!! すっごいじゃない、見直しちゃった!!)

 

 喜びに震えるテイルバイオレットもとい和輝を褒めてあげるのも忘れない。

 子供は褒めれば伸びるってよく言うしね。

 

「す、すごい……!! ヒーローみたい……!!」

 

(みたいなんじゃなくて本物のヒーローなのよ。これがツインテールの、大好きを力に変えて戦うヒーローの力なんだから)

 

 今朝はヒーローごっこでツインテール云々が変って言ってたけど、これでちょっとは見直してくれたら嬉しいな。

 まぁでも、変なのには変わりないんだけどね。

 

『テイルバイオレットは女の子なので、ヒーローというよりはヒロインですけどね』

 

(ママ、余計な事言わないの)

 

「そ、そっか……ぼくもいまはおんなのこなんだよね……。あれ? ねぇそーら? じゃあぼくのおち○ち○ってどうなったの?」

 

(ほら!! ママが余計な事言うから気づかなくていい事気づいたじゃない!!)

 

 ママの通信を交えつつ心の中でくだらないやり取りを繰り広げる私たち。

 そんな時、私はスペルビアギルディが何かを仕掛けようと動いているのを感じ取った。

 

「ふふふ、いまがチャンス……」

 

「な訳ないでしょ!!」

 

 強制的に身体の主導権を交代しつつ、急接近した私は小柄で小回りの利く身体をフルで活用した高速の飛び蹴りを放つ。

 防御出来ずに蹴り飛ばされるスペルビアギルディは道路を抉り吹っ飛んだ。

 

「いったいですの~!! ぼうりょくはんたいですの~!!」

 

「うっさいのよ!! 自分から仕掛けようとしたくせに!!」

 

「だからっていきなりけらないでほちいですの~!!」

 

「だからどの口が!!」

 

 一瞬にしてスペルビアギルディへと肉薄した私は追撃の回し蹴りを二発見舞う。

 咄嗟に防御しようとするスペルビアギルディだけど、身体能力の低い少女形態である事と元々肉弾戦に弱い事も相まって、今の私が子供の姿であろうとも私に敵う訳もなくしっかりとクリーンヒット。

 昨日の鬱憤を晴らすかのように一発一発を念入りに叩きこむ。

 

「はぁぁッ!!」

 

「ううう……!! ま、まずいですの……!!」

 

 怒涛の連撃を喰らいうろたえるスペルビアギルディ。

 いくら能力が厄介であろうともこうやって接近戦で畳みかければ何も怖くない。

 ちょっと荒っぽいやり方だけど、最適解故に攻撃の手を緩めない。

 

「くぅぅぅ、なんなんですの……!?」

 

「何なのもクソもないのよ!! 関係ない人まで沢山巻き込んで……!! あんたのせいで私も和輝もこんな子供みたいになっちゃったんだから!!」

 

『長年の研究が実ったので、その点に関しては少し複雑ですね……』

 

「ママは黙ってる!!」

 

「きゃあああああ!!!」

 

 ママへの怒りはスペルビアギルディが受けてもらう。

 強烈な右ストレートが炸裂しスペルビアギルディは今日一番の勢いで吹き飛び、悲鳴と共に道路上にある無人のトラックとぶつかりその荷台へと風穴開けた。

 

(そーら……いまのちょっと……)

 

「悪い奴なんだから多少乱暴してもへーきへーき」

 

(そ、そうなのかな……?)

 

 子供の和輝に教育上よろしくない気もするけど、将来的には私以上に荒っぽい喧嘩戦術で戦うようになるから多分大丈夫。

 今の和輝に大きな和輝を合わせたらどうなるんだろと少し想像しつつ、私は横転したトラックの穴の開いた荷台を睨みつける。

 程なくしてボロボロになったスペルビアギルディがゆっくりと這い出て来た。

 

「ムカつくねぇ……、子供になったくらいで何だい。スペルは……、あたちは……、あたいは……、アタシハ……」

 

 ブツブツと独り言を呟くスペルビアギルディ。

 辛うじて聞こえたのは声色と共に変化する一人称の数々。

 不気味でおどろおどろしいあのどす黒いオーラが溢れ出る。

 

「子供ノ癖に……!! 人間の癖にぃぃぃッ!!!」

 

 スペルビアギルディの身体がぐにゃりと歪む。

 あれは真の姿へと変わる前兆。

 メッキが剥がれるかのように無邪気な少女の姿から醜悪な老婆の姿へと変貌していく。

 

(そーら……!!)

 

「大丈夫……!!」

 

「ウがガガガ……!!! 調子にノッテんじゃないよぉ……!!!」

 

 禍々しき魔女の如きスペルビアギルディ真の姿。

 少し後退りながらも拳を構えて向かい立った。

 

「その姿……!! ソのツインテール……!! 何もカモ癇に障ル……!!」

 

「何よ、こうしたのも全部あんたのせいでしょ!! ま、おかげで夢がちょっと叶ったのは感謝してあげる!!」

 

 色々あったけど、この姿(幼い私たち)になれた事でちょっとだけでも幼馴染みたいな気分を味わえているのは素直に嬉しい。

 ツインテールの方も、身体が幼い事もあっていつも以上に可愛く似合っている様にも見えるし、子供になるのも案外悪くないと思えてくる。

 胸を張り自信満々とそう言い返したのを見てスペルビアギルディはわかりやすく下唇を噛んで怒りを表した。

 そしてその直後、スペルビアギルディは枝のように細い腕を伸ばし、手をかざす。

 

「なら見せて貰おうじゃないカ、その威勢が続くかドうカをねぇ……!!」

 

 どす黒い波動が私の周囲を包み込む。

 ママの警告が聞こえるよりも早く展開したそれは私と、一体化している和輝二人の意識を奪っていく。

 

(か、和輝……!!)

 

(そーら……!!)

 

 底なし沼に沈むかのように私たち二人の意識は闇に墜ちて行った。

 

 

 

 

 沈みきった闇の中、意識が戻って来ると同時に視界が開けてくる。

 そこは小屋と思われしき木造の建物の中。

 中央のテーブルを前に椅子に座る私の視界に映る窓の外は、開放感溢れる青空と一面に広がる草原であり、少しというかかなり眩しくて目を背けたくなる。

 まるで何処かの避暑地を彷彿させるこの場所は私には何一つピンと来ない。

 そもそも、私は何をしていたの?

 どうしてこんな場所にいるの?

 わからない事ばかりだし、思い出そうとしても記憶に靄がかかったようにぼやけてくる。

 思考が纏まらない。

 それでいてそのままボーっとしてしまうと急激な眠気が襲い掛かってくる。

 

(えーっと、えーっと……私は確か……そ、そうよ……!! 確かスペルビアギルディと戦っていて……そ、それで……え、えーっと……あっ!!)

 

 自分自身と戦う事数分。

 苦戦の果て、何とかここに辿り着く直前の記憶を必死になって思い出した私は、ここがスペルビアギルディの作った幻想世界なのだと理解する。

 そうとわかればこんな所は早く脱出するに限るわねと行動を開始。

 脱出の手がかりを探すべく、今一度この小屋の中を見渡してみる。

 木材で組み上げられた壁と天井、眩しい景色映す窓、目の前のテーブルと今座っている椅子、後は出入口と思しき扉が一つ。

 単純に考えればあれが出口なのかなと立ち上がろうとした時、私は目の前にテーブルにちょこんと置いてある白い物体に目が行った。

 

(な、なに……? ケ、ケーキ?)

 

 近くにあるのに何故か視界がぼやけるせいで認識するのに少し間を置いたけど、その丸いシルエットと色合いと匂いでその白い物体がケーキなのだとわかった。

 チョコレートプレートに書かれた文字については輪郭以上にぼやけるし乱れまくるから確認できるわけもなく、何故そんなケーキだけが置いているのかについて気になって来る。

 何となく誕生日ケーキのようにも見えるけど……

 

「いや、今はそんな事よりも……」

 

 こんな事に構っている暇はない。

 そう考えを改め、動き出すべく思う事を口に出しつつ立ち上がろうするその時、強烈な違和感が襲う。

 

「ッ……!? な、なに……声が……!?」

 

 口から紡がれるのは面影を残しつつも、少しというよりかなり枯れたガラガラの声。

 確かここに来る前の私はママの薬の影響で6歳くらいの幼い姿になっていたし、そうでなくてもこんなにも枯れた声を発した記憶は元の年齢の時でも有り得なかった。

 ぼやける視界と思考、掠れて枯れる声、心なしか身体の節々も少し動くだけで悲鳴をあげているのかと思うくらい痛みが走る。

 纏まらない思考の中でその答えに辿り着いた私は痛みの中で立ち上がり、窓へと近づいてはガラスに反射する自分自身の姿を凝視する。

 

「こ、これが……私……!?」

 

 くすみ鮮やかさを失った瞳、無数の皺が刻まれ潤っているとは到底言えない肌、頬はこけているし指や首筋には血管や骨がわかりやすく浮き出ている。開いた口から見える歯はどれもが黒点が混ざっている且つその本数も残り僅かで心細く気持ち悪い。

 そして何よりも、私の言葉を奪ったのは髪の毛だった。

 鮮やかな赤紫の髪色は色を失って白くなり、手入れが間に合っていない雑草のように所々が汚く飛び出ているし、何より髪の毛全体が力を失い瘦せ細っているのが痛い程わかってしまう。私の自慢であり、大好きなツインテールもこうなっては無理をさせているようにか見えない。

 

「嘘でしょ……」

 

 本来、若く幼い髪形と認識されがちなツインテール。

 私はそんなツインテールが大好きで、何ならどれだけ年を取ったとしても本人次第で絶対に輝きを失わないこの世で一番素敵な髪型だと信じていた。

 だけど、今見せつけられているのはそんな理想を嘲笑う現実。

 よぼよぼのおばあちゃんとなった私がお世辞にも似合わないツインテールを結んでいるのは痛いを通り越して滑稽に見えてくる。

 

「嘘嘘嘘嘘嘘……!! 違う!! 違うの!!」

 

 今見ているのは現実でもいずれ来る未来の姿でもなく、あくまでスペルビアギルディが見せた誇張した幻想だというのはわかっている。

 だけど、一瞬でもそう感じてしまった私の心を折るには強烈過ぎた。

 フラッシュバックする老化した華先生のあの姿。

 私もいずれはそうなる。いや、ここに映る姿のようにもっと酷くなる可能性だってある。

 老いる怖さを自覚したと同時に視界はセピア色に濁り、心が沈む。

 身体だけじゃなく、心まで老いてしまうのかと思う程に疲労がのしかかる。

 そんな時だった。

 

「こ、ここは……?」

 

「ッ……!?」

 

 唯一の出入り口である扉が開く音がした。

 一呼吸遅れて振り向く私が見たのはここが何処かわからずキョロキョロする和輝。

 私と違って和輝はこの世界にくる前の幼い子供も姿のままだった。

 

「か、和輝……!!」

 

「うん? だれ……?」

 

 和輝はきっと、見覚えのないおばあさんから自分の名前を聞いて驚いたであろう。

 私も私で今のこんな姿を見せる訳にはいかないと慌てて椅子の背もたれ裏に隠れる。

 

「そ、そーら?」

 

「ッ!?」

 

 びくりと驚いては椅子にしがみつく。

 冷静になってみればこんな椅子に隠れた所でバレるに決まっている。

 だけど、和輝だけには見せたくなかった故にそうせざる得なかった。

 和輝はそんな私を心配するかのように少し怯えながらも回り込んでくる。

 

「み、見ないで……!! こんなの……私じゃない……!!」

 

「そ、そーら……!?」

 

 顔とツインテール、それだけは見させまいと必死になって隠すけど、そのやせ細った枝のような手では隠しきれるはずもなく、かえって目立たせてしまう。

 そして、その慌てた拍子からツインテールの片方がヒラリと手から落ち、直ぐにまた隠そうとした結果、和輝と目が合った。

 

「違うの……、こんなの……私じゃ……、私じゃ……」

 

 怖くて怖くて泣きそうだった。

 大好きな人に見られるのがこんなにも嫌なのだと思わなかった。

 大好きな人に否定されてしまうのが怖くて怖くてたまらなかった。

 

「そーら……!! そのかっこ……」

 

 和輝の表情はぼやけてわからない。

 でもきっと怖がってるし、軽蔑している筈。

 そんな風に思い絶望しそうになるそんな時、和輝は優しく抱きしめてくれた。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ……」

 

「え……!?」

 

 最初は何をされているのかわからなかったけど、髪の毛もといツインテールを撫でてくれた事で理解する。

 和輝の顔は決して軽蔑も怯えもしておらず、幼くなる前の大きかった時と何ら変わらない真っすぐな物だった。

 

「違う……私は……!!」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

 

「ううん、全然大丈夫じゃない!! 私……こんなおばあさんになって……、ツインテールも何もかも……全部似合ってなんか――」

 

「そんなことない!!」

 

 今まで見て来た幼い和輝とはハッキリ違う強い声色で否定された。

 そして和輝は続ける。

 

「ぼくね、おねえちゃん……ううん、そーらのツインテールも……そ、その……ぜ、ぜんぶ……だいすきだよ。だってツインテールむすぶときのそーらがいちばんキラキラしててカッコいいもん」

 

「でも、今の私は……」

 

「おなじだよ。どんなになってもおねえちゃんはおねえちゃんだし、そーらはそーらなんだよ」

 

 私の頭の中に和輝と見たアニメや過ごした日々が蘇る。

 見ていたアニメの中には決して出来がいいとは言えない不格好で崩れた作画もあったけど、でも子供は何も気にせず楽しんでいた。

 私が落ち込みながら結んだツインテールもその一つ。

 私が満足いってなくても和輝の目は輝いていた。

 それはつまり、子供たちは大人たちが気にする程外面に気にしてはおらず、完璧を求めすぎてなんかいないって事。

 気持ちがこもり、子供騙しでないならそれでいいって事なのよね。

 

「ぼく……そーらともっといっしょにいたい。そーらがばあちゃんみたいになっても、ずっとそばにいてあげたい。ずっとツインテールを……そーらのキラキラを……みていたい」

 

 私の瞳から涙が零れ落ちる。

 それは悲しみの涙じゃない。

 嬉しさを表す感動の涙。

 私も和輝と一緒にいたい。例え元に戻らなくても、また始めればいいのだから。

 私たちの物語(ツインテール)は結び始めたばかりなのだから。

 

 

 

 

「フン……、思ってたよりも早いねェ……」

 

 現実世界。

 テイルバイオレットを幻想世界を閉じ込め勝利を確信するスペルビアギルディ。

 彼女が見せたのは絶望の未来を予言した物。

 歳老いた姿のままツインテールを結ぶ事への反発とそれに伴う絶望、それこそが彼女の真骨頂であり自身が体験した大いなる矛盾の全てなのだ。

 

「さて、あとは回収するだけだねェ」

 

 見せたのはあくまで幻想であり実際に歳老いている訳ではない。

 スペルビアギルディは絶望したであろうティアナを回収せんと術を解こうとする。

 がしかし、それよりも早く、空間にヒビが入り、光が溢れだす。

 

「なッ……まさか……!!」

 

 

 

「はああああーーーッ!!!」

 

 空間が割れ、裂帛の叫び轟かせながら飛び出すのは幼きツインテールの戦士、テイルバイオレットエクストリームチェイン(ミニ)。

 驚愕するスペルビアギルディの前に降り立ったテイルバイオレットはウインドセイバーを精製しては切っ先を突き付ける。

 

「覚悟しなさい。もうあんたとのお遊びもここまでよ!!」

 

 勇ましく言い放つその目に絶望はない。

 憎しみすらも凌駕し光に変える輝きがある。

 スペルビアギルディは歯噛みする。

 

「なんだい、ナンだい、ナンダイ!! 何なのよ!! 何ダッテ言うのよォッ!!!!」

 

 ヒステリックな叫びを上げるスペルビアギルディは黒いオーラを全身に纏い体格を巨大化させて力任せに叩き潰さんとする。

 だが、いくら巨大化しようと今のテイルバイオレットに敵う通りなどないに等しい。

 テイルバイオレットは振り下ろされる拳を見てからウインドセイバーを一閃。

 肥大化した腕は一瞬の内に塵と化した。

 

「ガァぁァァああアアあ!!」

 

 悲鳴を上げるスペルビアギルディ。

 テイルバイオレットは止まらない。

 

「やあッ!! たあッ!!」

 

 振るわれるウインドセイバーの斬撃がスペルビアギルディの身体を容赦なく切り分け、斬られた部分が次々と霧散していく。

 アナザーテイルレッドにやられた時同様に再生を試みるスペルビアギルディであったが、再生しようにも間に合わない。

 

「な、再生ガぁ……!!」

 

 スペルビアギルディは愛憎感情集合体とされる憎しみを糧に力を振るうエレメリアンの成れ果てである。

 故に再生能力も全て憎しみが増すことで行われている。

 だが、テイルバイオレットの攻撃の一つ一つにはそんな憎しみすらも凌駕する希望と光が込められているのだ。

 憎しみを凌駕する光の前にその力はないも同然なのだ。

 

「何なのヨぉ!! どうしてドウシテ……お前ハ絶望しない!? あんナ未来を見ておきながらァぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「絶望なんか!! するわけないでしょ!! 私には……和輝が……ママが……みんながいる!! どれだけ歳老いたとしても、どれだけみすぼらしくなったとしても、隣で笑ってくれる、喜んでくれる、そんな誰かが……和輝が、共にいる限りツインテールを結ぶ!! 他の誰でもない仲間と和輝の為、私の為!! そしてこれからの未来の為に!!!」

 

 振るわれるウインドセイバーが遂にスペルビアギルディの首を落とす。

 再生が追いつかず生首だけとなったスペルビアギルディだが、彼女は未だしぶとく生きており、念動力で空へ宇宙へと大気圏を突破し舞い上がる。

 

『強大なエネルギー反応!? 総愛!! 恐らくスペルビアギルディはこの星諸共破壊するつもりのようです!!』

 

 トゥアールの通信と共に衛星により撮影された映像が浮かび上がる。

 太陽を背にする生首のスペルビアギルディはテイルブルームを撃破した時と同様かそれ以上のエネルギーを口を開き集めていた。

 口を大きく裂いて放たれるビームは受け止めなければ一巻の終わりだろう。

 テイルバイオレットはエクストリームチェイン専用武器であるテイルバスターを召喚し撃ちあいの構えを取る。

 

「行くわよ和輝!!」

 

(うん!! いこうそーら!!)

 

 二人の気持ちが重なり完全開放(ブレイクレリーズ)

 装甲の一部が展開し、隙間から漏れるツインテールの粒子が辺りに広がる。

 紫の旋風が大きな力となり、爆発的な力を生む。

 

「エクストーム!! ブラストォーーーッ!!」

 

「吹キ飛びナぁァぁァァァァぁぁッ!!!!」

 

 放たれる極太の光線ははるか上空にて激突する。

 片方は未来を望む希望の光、片方は絶望に墜ちた憎しみの闇。

 拮抗し合う力と力を支えるのは互いの意地と信念と心である。

 徐々にではあるがスペルビアギルディ側が押され始める。

 

「ナっ……!? 何故ダァッ!!」

 

 スペルビアギルディは今まで生きて来た上で溜め込んだ全ての憎しみをここに注ぎ込む。

 がしかし、勢いは止められず押し込まれていく。

 そして、テイルバイオレットが言い放つ。

 

「あんたがどれだけ長く生きて、どれだけ長く絶望し憎しみを募らせたなんか知らないけど、私たちの未来を!! 輝きを!! 奪っていい権利なんてなにもない!! 私たちはあんたと違う!! どんなことがあっても私たちは前に進む!!!」

 

 スペルビアギルディの敗因はここにある。

 彼女は矛盾に気づきこうなる原因となった己の属性を憎み絶望した。そして、その解決法として彼女は過去に戻る事に固執した。幼いまやかしの姿に化け、かつての自分に戻るべくベリアルギルディと手を組んだ。

 対して、今のティアナや和輝たちは違う。

 今を受け入れ未来を進む。初めは元に戻る事ばかり考えていたが、それだけじゃないと言う事に気づいたのだ。

 

「あんたの自分勝手な憎しみで!! 私たちの未来を……奪われてたまるもんですかッ!!!」

 

 テイルバスター最大出力。

 必殺のエクストームブラストはより太く巨大なエネルギー波へと変わり、拮抗する事を許さない圧倒的な勢いでスペルビアギルディの光線を飲み込み押し返す。

 

「ギャアアアアアあああああッ!!!!!」

 

 溢れ出るツインテールの光は未来へと続く希望の力。

 憎しみを糧にするスペルビアギルディが耐えれる筈もなく、再生も許さぬスピードで消滅するのであった。

 

 

 

 

「ううん……? こ、ここは……?」

 

 随分長く寝ていたような不思議な感覚と共に俺は目を覚ました。

 何つうか体が重てぇ感じがする。全力で運動した時とかに近いこの感じはエレメリアンと一戦交えた時と同じだ。

 体を少し持ち上げ辺りを見渡す。

 場所は家から少し離れた市街地の大通りで、しかも俺はそんな大通りのど真ん中で寝ていた様子だ。

 慌てて飛び起き、再度周囲を確認。

 所々荒れ果て、火も上がったりクレーターが出来ていたりする。

 まさかエレメリアンか? と思った直後、救急車や救急隊員やらが続々と到着しては救助活動に勤しみだしたので戦闘はもう終わった物だと理解する。

 

「な、なんだ? 何が起きたんだよおい……」

 

「もう、何も覚えてないのね……」

 

「ん? ティアナ?」

 

 聞こえて来たのは聞き覚えのある声だけど、俺の記憶よりも数段高く幼く聞こえる。

 感覚的言えば子供特有の甘ったるい舌足らずな感じと言うべきだろう。

 まぁ兎に角、今はティアナに何があったのが聞くのが先決だぜ。

 声をした方へ振り向くがティアナの姿は見えない。あれ?

 

「もう!! 下よ下!!」

 

「は?」

 

 下って何だよと困惑しながら視線を下げる。

 するとそこにはティアナらしき少女が度肝ぬく姿で立っていやがった。

 

「もう……あんまりジロジロ見ないでよ……」

 

「ええええええええ!? ティアナがガキになってるぅぅぅ!?」

 

 そこにいたのは6歳くらいの女の子。

 ツインテールや雰囲気とかで辛うじてティアナであるとわかるけど、何がどうなっているかわからない俺は驚愕するしかない。

 ま、まさかエレメリアンの仕業か!?

 

「お、おい!! お前どうなっちまったんだよ!! おい!!」

 

「ちょ、ちょっと……!! 見られてる……」

 

「まさか誰かにやられたのか!? そうなんだな!! 野郎……!! 何処のどいつだボケぇ!!」

 

「だから違うって!!」

 

「俺のティアナに手ェ出して……こんな姿に……!!」

 

「ちょっと和輝……!! 嬉しいけど危ないって!!」

 

 その後、誤解が解け続けるまで俺は騒ぎ続けた。

 結果、救急隊員含めて皆の注目を集めたのは言うまでもなく、当分の間、俺は新手のロリコン不審者と勘違いされるのであった。

 

 

 

 騒動終わって次の日、今日も私は和輝と共に学校へ行き共に帰る。

 何となくの気分でゆっくり帰る事にした結果、現在はバイクもといマシントゥアールから降り、和輝が隣で押しながら着いてくる帰り道。

 

「おい、先々行かねぇでちょっとは合わせろよ」

 

「文句言わない。今日一日言う事全部聞く約束でしょ? 昨日までもう大変だったんだから」

 

 言っておくけど、約束云々は私が言い出したんじゃなくて、和輝が自分から迷惑かけたお礼として言い出した事だったりする。

 だから、和輝はあまり強く言い返してこない。

 私はそんな中で昨日までの事を振り返っていた。

 

 (ほんと、大変だったんだから……)

 

 たった2日間だけなのにかなり長い間の出来事のように感じてくる。

 和輝も悠香さんや華先生も元に戻ったし、トゥアールママはきっちりお仕置きしたし何もかも元通りだけど、ちょっと寂しい気がしないこともない。

 

「ねぇ和輝?」

 

「うん? なんだ?」

 

 振り返るとそこにはきょとんとした顔でマシントゥアールを押す和輝。

 

「私のツインテール、いつまでもずーっと見ててよね。絶対よ」

 

 不意にそう言われてか、顔を赤く染める和輝。

 それはお風呂に一緒に入った時の幼い和輝と同じだった。

 上機嫌で再び歩きだす。

 

「私たちの子供って、どうなるのかな〜?」

 

「こ、子供ぉ!?」

 

 背中から聞こえる和輝の声はいつもより大きく聞こえた。




エピローグもっと長い方がいいかなと思いながらも流石に長すぎるのでそこそこカットしちゃったり……
ま、何はともあれスペルビアギルディ撃破でございます。
次回からは憤怒のシャイターンギルディだ!!
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