俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第135話 煙りだす華々

 都内某所のマンションの一部屋。

 そこに住むのは今年度から授業を請け負い始めたとある新米教師。

 彼女には誰にも言えない秘密があった。

 

 それは幼い少女なら誰もが憧れるような夢のような体験。

 未知なる友と共に人の心の輝きを守り育む。

 その姿はまさしく魔法少女と呼ばれるヒロイン。

 彼女はかつてそう呼ばれた存在であり、幾多襲い掛かる怪人や怪物を倒しては充実した秘密の毎日を駆け抜けた。

 そして、彼女は親友を犠牲にし、皆から自身に対する記憶や思い出を封印する事で世界を守り抜いた。

 

 ただ……同時に結果として、その際に感じた拭いきれぬ後悔とどうしようもない悲しみが彼女の時を止めた。

 本当の気持ちを押し殺しながらただただひたすら真面目に懺悔しながらひっそり暮らす毎日。

 過去を忘れるべく別の事に力を入れるも、心の奥に出来た小さな穴はぽっかりと開いたままで塞がらない。

 そして彼女は大人となり、新たな道を歩むがしかし、何処か満足できない鬱屈した日々は変わらなかった。

 

 だが、それはある日を境に終わりを告げた。

 トラウマを刺激するような嘗ての化け物たちと同種の侵略者が目の前に現れたあの日。

 現代を守る戦士たちの正体が教え子である生徒たちであると知った彼女は嘗てのトラウマを告白し、紆余曲折を経て再び立ち上がる。

 

「母なる大自然の力を持つ緑のツインテール戦士、テイルブルーム!!」

 

 それは彼女の新しき名乗りである。

 昔のような後悔や悲しみを生まないために立ち上がったもう一人の戦士テイルブルーム。

 今までの経験と実力を武器にどんな相手でも怯まず戦い勝利する彼女の姿は誰よりも強く煌めくように輝いており、もう昔のような鬱屈したあの時とは違う。

 今まで通りの真面目な雰囲気のまま、彼女はツインテールを結ぶ。

 

 

 

 だが……

 

 

 

 今現在の彼女は曇っていた。

 

『先週もテイルバイオレットは大活躍でしたね!! 小さいテイルバイオレットも可愛かったです!!』

 

『はい、ですが一方でテイルブルームはちょっと……』

 

 部屋のテレビに映るニュース番組にてキャスターのコメントが心に残る。

 

 もっと強くならないと……

 このままじゃ何も守れない……

 

 そう悩み、必死に答えを探しても出てこない。

 何時しか、彼女の放つ輝きはいつかのようにくすんでいた。

 

 

 

 

 教室の窓から入る風が冷たく、もうすぐで1年も終わるのだと誰もが感じ始める。

 双神高等学校の各教室では学年問わず多くの生徒が期末テストへ向けての残り僅かとなった授業を真面目に取り組んでいる。

 和輝やティアナたちのクラスの隣、このクラスでは今の時間は数学の授業であり、華が教鞭を執っている真っ最中だ。

 

「ではここの問題を……はい、雪乃さん」

 

 公式の使い方を教え、その後の練習問題を解かせるのは授業の基本である。

 いつも通り淡々と真面目に授業を進める華は出席名簿の中から無作為に選んだ生徒へと答えるように促した。

 がしかし……

 

「ほら見てみ~? めちゃくちゃ可愛くない?」

 

「ちっさ!! なにこれ超かわじゃん!!」

 

 華の指をさした先、教室の窓際端の席に座る雪乃と呼ばれる生徒は所謂ギャル……とまでは流石にいかないにしても、あまり素行の褒められた生徒ではなかった。

 彼女は華から選ばれたのにも関わらず、今も席の近い友人とスマホを見せ合いながら笑いあっている。

 あの様子を見る限り今が授業中である事すらわかっていないにも見える。

 

「雪乃さん!!」

 

 声を荒げる華。

 しかし、その声はまるで届かない。

 

「でしょ~? このテイルバイオレット、超好み~」

 

「ちょっと雪~流石にキモすぎ~アタシもだけど~」

 

「やっぱ同類じゃ~ん」

 

 彼女たちが見ているスマホの画面、そこに映るのは先週起きたVSスペルビアギルディの際のテイルバイオレット(ミニ)である。

 小さく可愛らしいツインテール幼女の魅力とそれに相反するヒロイックな分厚い鎧の意外な組み合わせ。それは普段の少し勝気で男勝りなテイルバイオレットの魅力を別の部分からガッツリ引き出しており、果敢に戦闘員の群れへと突入し圧倒するその姿は一部のファンの心をがっちりつかんで離さない。

 雪乃含めた彼女たちも普段はテイルバイオレットなんかで騒いでるオタク君たち超キモいと馬鹿にしていたがこれには負けた様子である。

 尤も、だからといって今は授業中である。

 怒りをこらえながらも華は静かに席に近づき、その手でスマホを取り上げた。

 

「ちょッ!! 何すんの!!」

 

「うちらのスマホ!!」

 

 当然の如く取り上げられた事に怒る二人。

 だが華の表情は固く揺るがない。

 

「何するもありません!! 今は授業中です!! スマホは禁止と決まっています!!」

 

 双神高等学校はそこまで学力が高くなくても入学可能な学校であるが故に規則面はそこまできつく縛られておらず、基本的には授業を教える教師それぞれが事前に自身の授業中の禁止行為を定める方針である。

 緩い教師もいれば逆も然り、スマホの使用云々に至っても現代社会での情報収集ツールとしてなら許可した時だけ認める者と断固して全面使用禁止と言い切る者もいる。中にはコソコソ隠れて使うのは禁止だが、堂々と使う分には何を見ていても授業の邪魔をしなければ構わないとする例外的な教師もいる。

 無論、真面目な華はスマホなどの授業に関係ないツールは全面禁止且つ私語や居眠りも絶対に認めていない。

 よって、二人の抗議はまるで無意味である。

 さらに言えば、二人は私語も沢山していた事もあり、どうあがいても華が許すはずなどなかった。

 

「二人とも放課後職員室にくるように!! スマホはその時まで没収です!!」

 

 この光景自体は華の数学授業ではそう珍しい物ではない。仲間である和輝や匠ですらもティアナが口うるさく言わなければ同じ目にあっていただろう程に厳しいのである。

 今日も生徒の抗議に耳を貸さずにそう言い放ち、没収したスマホを持って教卓まで戻ろうとする華。

 だが今日は違った。

 

「ちょっと先生!! うちらばっかし可哀想なんですけど~!!」

 

「そうそう、雪の言う通り!! 差別すんなし!!」

 

 いつもなら没収されたり怒られた生徒は黙りこむ筈だったのだが、なんと今日に至っては負けじとさらに食い下がって来たのである。

 これには少しばかり面食らう華であるが、その態度を崩さず振り返る。

 

「可哀想も何も!! あなたたちが――」

 

「じゃあ周り見なよ!! ほら!!」

 

 カウンターパンチを喰らわせるかのように雪乃の声が華の声をかき消し響いた。

 同時にその他周りの席全体から何かを隠す音が聞こえてくる。

 

「え……!?」

 

 聞こえて来たその音が筆記用具などを片付ける音でない事など直ぐにわかる。

 嫌な予感を感じつつも周りを見渡す華。

 気づいてなかっただけじゃない、そんな筈ないと見渡すがしかし、現実は残酷で鮮明に映る物である。

 華の元から鍛えられていた動体視力は今動いた生徒皆がスマホを今さっき隠したのだと理解できた。

 

「みんなも……なの……?」

 

 一回の授業で数人の違反者が出るのはそう珍しくないが、授業を受けている生徒皆がそうであるなどとは流石に思っていなかった。

 新米故に頑張ろうと意気込んで今年度の初めから真面目に頑張っていた華の中で何かが崩れていく。

 

「青木君……あなたは違うわよね?」

 

 華は最も教卓から近い生徒へと恐る恐る声をかけた。

 彼はティアナが転入するまでは学年トップの成績を収める秀才であり、華が和輝たちを除いて最も信頼している生徒の一人である。

 藁にも縋る華であったが、僅かな希望はあっけなく崩れ落ちる。

 

「すー……」

 

「ね、寝てる……」

 

 真面目な秀才で授業中の居眠りとは無縁と有名な青木がスヤスヤと心地よい寝息を立てている。

 うつ伏せ寝ではなく、筆記用具を持ちながら必死に眠気に抗った痕跡を見るに、彼が最後まで頑張ろうとしていたのはわかる。

 だが、だからこそ華に絶望を与えてくれる。

 嘘……まるで気づかなかった……。

 そう後悔しても何もかも手遅れである。

 

「わかる? 最近の先生、ちょーし乗りすぎ。真面目過ぎて何もかもつまんなすぎ。いい歳こいてツインテールってのも痛くてキモ〜い」

 

「そうそう、雪ってばいい事言うじゃ~ん」

 

 状況的に見てどう見ても悪いのは生徒たちである。特に事の発端となった雪乃たち二人は口答えしていい立場ではない。

 だが、華は言い返せずただ黙り込む。

 周りで見ている他の生徒たちも罪悪感からか一言も発することが出来ず、気まずい空気を作り上げている。

 

「てか知ってる~? 先生のファンクラブか何か、潰れたって話~」

 

「知ってる知ってる~、あいつら超キモかった~」

 

 これも一応事実であるが、厳密には最近教師となったトゥアールに人気を奪われファンクラブその物が対象を変えたのが真実だ。

 尤も、そんな発言も華への追撃には充分である。

 黙り込む華とそれを見て清々したとばかりに騒ぐ生徒と見て見ぬふりを決め込む生徒及び何も知らずに寝ている生徒たち。

 地獄以上に地獄すぎるこの空気が教室内を包み込む。

 終了を告げるのはチャイムではなく、隣のクラスから聞こえる爆音とお馴染みの怒鳴り声であった。

 

「あ~!! 何してんですか総愛!! 折角のミンナオサナクナールがぁ!?」

 

「だ~か~ら!! 変な事企まないの!!」

 

「いや別に変な事じゃないんですよ!! 私は皆さんに生物が若返る神秘を教えようと……!!」

 

「今は生物の授業じゃないでしょうがぁぁぁッ!!!」

 

「ぎゃああああ!!! 細胞が崩壊するぅぅぅ!!!」

 

 毎週のこの時刻、隣の和輝たちの教室ではトゥアール先生教える化学及び物理の授業が行われており、毎度の如く最後にティアナの怒声が響いてはトゥアールの悲鳴で幕を閉じている。

 いつもは苦笑いしてしまうその騒音も、今となっては救いに等しいと誰もが思うのであった。

 

 

 

 

 時と場所は移り、ここは日本の何処にあるのかと思うであろう山の奥。

 雪こそまだ降ってはいないものの、その寒さは都会のソレとは比べ物にならない程であり、電気もガスも通らないこのような場所は正に秘境の中の秘境。

 そんな秘境にあるとある竹林。

 そこにひっそり立っている古びた武家屋敷には華の師匠でもある学生時代の恩師大和幻王齋(やまと げんおうさい)が住んでいる。

 彼は現役時代より現代に生きる最後の侍と称される古武術の達人であった者であり、現在は俗世間から離れて隠居している身だ。

 今日も大和は屋敷の外にて半纏を羽織りながら素手の手刀で巨木から薪を作っていく。

 これからの冬を山で越す彼にとって今の時期は非常に大事な時期である。食料の確保も薪の調達も一切の手は抜かない。

 そんな作業を続けている時、竹林の向こうの山の方面から何か声が聞こえてくる。

 

「お゛し゛し゛ょ う゛さまぁぁぁ~!!!!!」

 

 それは涙と鼻水の両方を垂らしているかのように濁声であったが、大和には昔懐かしい感覚を思い出させる。

 そして数秒後、奥から響く声を置き去りにするような速度と共に、緑のジャージ纏うツインテールの女性……もとい、かつての弟子である華が現れ、そのまま飛びついてきた。

 

「おーおー、華君じゃないか。久しぶりだねぇ」

 

「お師匠様~!! お会いできて光栄です……!!! 私……!! 私……!!!」

 

「まーまー、少し落ち着きたまえ。何があったんだい?」

 

 華が涙を流しているのは、泣き方から見て師匠である自分を見つけて感極まってしまったのだと大和自身もわかっている事なのだが、大和としては華がそもそもどうして何の連絡もせずにやって来たのかが引っかかる。

 恐らく、何か辛い事があったのだろうと察した大和。

 突き放すことなく優しく鍛えられた肉体を以て抱きしめる。

 そしてそのまま、大和は華を落ち着かせた後に自宅へと招き入れ話を聞いた。

 

 

 

「――という事がありまして……」

 

「そうかい。それは難しいねぇ……」

 

 ここに至るまでの経緯、即ち先日での学校での一件を話した華。

 今まで一生懸命に頑張っていた事が否定された事については華が真面目過ぎる事を抜きしてもダメージが大きいのは確実だ。

 それがわかるが故に大和もうーんと言わざるを得ない。

 尤も、華の悩みはそれだけではなかった。

 

「実は私……ここの所、私自身の力不足も感じ始めまして……」

 

 秘密を守る為に少し言葉を選んでいるが、これは即ち、テイルブルームとしての悩みである。

 ここ最近、振り返ればアナザーテイルレッドの一件があった頃辺りからだろうか。

 あの時、テイルブルームとなった華はアナザーテイルレッドの立ち向かうも歯が立たずやられ、結果として守るべき教え子である和輝を守り切れなかった。

 アナザーテイルレッド戦では奇跡的に和輝が復活しティアナと共にエクストリームチェインへと覚醒し勝利できたが、それ以降もテイルブルームとしての活躍は殆どない。その後に現れだしたアルティデビルの精鋭集団七つの性癖(セブンス・シン)との戦いでは悲惨としか言いようがない。

 特に先週のスペルビアギルディ戦なんて、カッコつけてみたはいいが、結局の所はスペルビアギルディの能力に翻弄され敗北し老化。敵であった筈のアナザーテイルレッドに助けられ、最後はいつも通りテイルバイオレットが子供になりながらも勝利を収めてしまった。

 極限のツインテールへの覚醒とトゥアールの参戦、アナザーテイルレッドと七つの性癖(セブンス・シン)

 今のテイルブルームはついていけていないのだ。

 

「力不足……か」

 

「私、どうすればいいのでしょうか? 教師としても戦士としても先輩であるお師匠様なら何かわかるのかと思い……。私……!!」

 

 今にもまた泣き出しそうになる華。

 こればかりは答えを自分で見つけるしかないのだが、今の彼女にそうはっきり伝えても逆効果になるのではと分析する大和は珍しく頭を悩ませ腕を組む。

 数分後、大和は華へと一つの助言を授けた。

 

「君はまだ若い。まだまだわからない事も挫折もあるだろう。厳しいかもだけど私のような老いぼれのやり方などでは何も意味はない」

 

「そんな!! お師匠様はまだまだ老いぼれなどでは!!」

 

 それは謙遜もあるが、それ以上に見捨てないでくれの意味合いが強い。

 華からすれば大和こそが現在頼れる最後の頼みの綱なのである。

 

「はっはっは、そう言ってくれて嬉しいね。でも、私ももう隠居している身だよ。それにこんな山奥にいるのも、言ってしまえば現代に馴染めなかったせいでもあるんだ。こんなのを参考にされちゃ無念が残るという物なんだよ?」

 

「ですが、しかし……!!」

 

 いつも通りの豪快な笑いと共にそう宣言した大和へ再度食い下がろうとする華。

 そんな華へ大和が語り掛ける。

 

「なに、何も全てを自分だけで探せと言う事じゃないんだ。今の君には私以外にも仲間や友達がいるだろう? ならその中から誰かを師事すればいいんだよ。初めは誰かの真似でもいつかは自分で答えを見つける筈だよ?」

 

「仲間や友達……ですか……」

 

 華は大和以外に師事できるような人物を思い浮かべる。

 和輝やティアナはツインテール戦士として共に戦う仲間であり、自らよりも先に進む存在であるが、元は自身よりも年下の生徒である。見下しているとかではなく、年上である自分が弟子として学ぼうと付きまとったら純粋に迷惑になるのではと思い、師事するのは違うと判断。

 同様に悠香や青葉、匠らも違う。

 後は……

 

「そうだ……!! 観束先生なら……!!」

 

 華の頭に浮かんだのはここ最近に仲間となったトゥアールだ。

 確かにトゥアールならば華よりも年上であり、尚且つテイルホワイトであったことからツインテールの戦士としも実力も経験も上の頼れる先輩である。

 さらに言えば、トゥアールは教師としても、奇抜だがわかりやすい授業で生徒たちから人気を集めてもいる。

 少しエキセントリックで無茶苦茶な気がしないでもないが、真面目過ぎる自分を変える為にもある意味うってつけの人物だ。

 

「どうやら見つかったようだね」

 

「はい!! 私、山村華!! 絶対に答えを見つけ、自分自身を変えてみます!!」

 

「はっはっは、その通りだよ」

 

 大和の豪快な笑いが屋敷全体に広がった。

 

 

 

 

 気が付いたら今年ももう残り一か月を切った。

 約2週間後に迫る期末テストにうんざりしながらも俺はいつも通り放課後は新聞部部室に入り浸る。

 今日も部室内ではティアナがトゥアールさんへと怒声を飛ばす。

 

「ちょっとママ!! いつまで同じこと続けるつもりなのよ!! 早く捨ててって言ってるでしょ!!」

 

「いいじゃないですか!! この薬には私の野望……じゃなかった、希望が詰め込まれているんです!! あなたは義理とは言え母の希望を奪うつもりですか!?」

 

「どこが希望よ!! 私たちには絶望でしかないじゃない!!」

 

 瞬間、ティアナのドロップキックがトゥアールさんの顔面を抉るようにクリーンヒット。

 昔の漫画か何かで見たことあるようなめり込み方を見るに、あれは絶対に前が見えねぇな。

 トゥアールさんは薬の原液が入っているフラスコを宙へと手放し、そのまま勢いよく壁をぶち抜いて部室の外へとカッ飛び見えなくなった。

 

「もう、何度やれば気が済むのよ……!!」

 

 トゥアールさんを蹴り飛ばしたティアナは、スタッと着地すると同時に落ちてくるフラスコをキャッチ。

 中に入っている原液は部室内隅にある手洗い台から処分。

 この部屋及び基地から出る廃水はちゃんとろ過されるらしいので環境への悪影響は考えなくて良しだ。

 

「ほんと懲りないっすね~」

 

「諦めない心って所だけは見習いたいわ」

 

「あれはただしつこいだけ……」

 

「よくもまぁ飽きねぇもんだぜ……全く」

 

 匠から順に俺を含めてそれぞれコメント。

 スペルビアギルディ戦以降のここ最近は毎日同じやり取りをしている。

 原因はトゥアールさんが発明した一時的に人の肉体を若返らせる事が出来る薬だ。

 あれは前回の戦いの際、俺が幼児化して変身できなくなった時の対策として作られた物であり、飲めば約半日の間子どもへと若返って幼児であった俺とも融合変身させることを可能とする。

 俺や匠を除いた悠香さんたちは、当時スペルビアギルディによって乳児へと変えられていた事もあり、あの薬の凄さを覚えていないからピンと来ていないが、俺や匠の感想とティアナの反応からして何となくヤベェってのはわかる様子。俺自身は元に戻った直後に子供になったティアナを見ており、あん時はエレメリアンの仕業と勘違いしてしまうくらいだったのを覚えている。

 んで、それがどうしてこうなっているのかと言うと、トゥアールさんの奴、その時に作った薬を事あるごとにティアナを含めた女子生徒たちへと飲ませようと企んでいやがるって訳だ。

 

「でも、ちょっとだけなら見てみたいわね~。あたしと青ちゃんは赤ちゃんだった訳だし」

 

「ばぶー……(ぼくも……)」

 

 少し羨ましがる悠香さんとそれに乗っかるように赤ちゃん言葉で冗談をかます青葉さん。

 二人の面倒を見ていた匠がギョッとする間もなく、ティアナが振り向き声を荒らげる。

 

「二人はママの怖さを知らないから言えるの!! ママったら何度も何度も抱きつくし舐めるし嗅ぐし怖いしで何も効かないし……!! あーもう!! 思い出すだけでツインテールがぞわぞわするーーー!!!」

 

 ティアナはあの騒動の後、元に戻るまでの約数時間をトゥアールさんに好き勝手されていた。

 俺も助けようとしたし、何ならティアナも嫌がって逃げ出そうとしたり反撃したりはしていたけれど、あの時のトゥアールさんは無敵かよ言いたくなる程に硬く速く恐ろしくて、そのままティアナを風呂場へと連行していた。

 一応、元に戻った直後に今までのお返しは済ませてはいたが、そのトラウマは拭いきれないんだろう。多分……

 

「ふっふっふ、こんな事でトゥアールママはへこたれませんよぉ!! 幼女求める声ある限りトゥアールママは復活します!! 薬のストックも生産工場ある限り無尽蔵です!!」

 

「だったらその工場、基地ごとぶっ壊してやるわ!! 覚悟しなさい!!」

 

 元を叩くべくティアナは基地へのエレベーターを降りていく。

 流石にそれは不味いのか慌ててティアナを追うトゥアールさん。

 二人が出て行って数分後、床下の地面が大きく揺れた。

 

「アイツ……やりすぎちゃいねぇよな?」

 

「いや、無理じゃね?」

 

「青ちゃん、今の震度と震源地は?」

 

「地下数百キロ下だね……。速報ニュースじゃ地下で核爆弾でも起爆させたのかって大騒ぎだよ……」

 

 基地の安全装置が働いたのか、幸いなことに震災って程の地震は起きなかった。

 まぁ今の揺れからしてトゥアールさんの製薬工場は滅ぼされただろう。

 にしても、ツインテール戦士の片割れに壊される味方側の基地って一体……

 

「いい? 今度同じことするならもうママって呼ばないからね!!」

 

「そ、それだけはご勘弁を……」

 

「だったらもうやめる!! わかった!?」

 

「は、はい……」

 

 モザイクでもかけた方がいいんじゃないかと思う程に黒焦げ且つ凄惨な状態のトゥアールさんを引きずりながらティアナが帰還した。

 会話内容からして今後の再発は今度こそ潰えた様子だ。

 極限のツインテールにかかればどんな身内の悪であろうと滅びるのだと思い知らされる。

 

「ほんと、退屈しねぇな……」

 

「そうねぇ~」

 

 スペルビアギルディ戦から数日経つが、今のようなやり取りが出来る程に今日も平和その物だ。

 そろそろ新しい七つの性癖(セブンス・シン)の刺客とやらが動き出してもいい気がするがどうなんだ?

 ま、俺からすりゃあどんな奴が来ても負ける気はしねぇがな。

 

「そういや先輩、華先生いないっすね。どうしたんすかね?」

 

「そう言えばそうね。昨日は休んでいたくらいだし、どうしたのかしら?」

 

 匠がふとそう口にし、悠香さんが答える。

 今ここにいないのは日頃学校にいないおやっさんを除けば華先生だけであり、俺もすっかり忘れていた。

 そういや華先生、最近あまり姿を見せていなかったがどうしたのだろうか?

 俺はあまり覚えていないが、華先生はスペルビアギルディによって老化させられていたみてぇだし、もしかしたら後遺症か何かがあって苦しんでいるのかもしれない。

 てか真面目な華先生が病気とかの体調不良以外で休むなんて有り得ないし、そうに違いない。

 

「何も無きゃいいがな」

 

「華先生のツインテール、落ち込んでたしね……」

 

 黒焦げのトゥアールさんを投げ捨てたティアナがそう付け加えた。

 ティアナがツインテールを見て感じた以上は説得力が凄い。

 果たして華先生は……

 

 

 

「観束先生ぇぇぇぇぇ!!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 噂したら何とやら。

 絶叫に近い大声を響かせながら華先生が部室のドアを開いた。

 当然のように驚き固まる俺やティアナや悠香さんたち。

 何事かとツッコむ間もなく、華先生は犬神家の如く床に突き刺さる黒焦げのトゥアールさんへと近づき頭を下げ……否、土下座した。

 

「私を……この山村華を!! どうか!! 弟子にしてください!!!」

 

 

 

「「「「ええええええええええ!?」」」」」

 

 

 

 

 時を同じく、ここは夕暮れ染まる街を見渡すビルの屋上。

 咥え煙草をふかしながら柵の上に立ち、腕を組んで下を見下すのはエキゾチックな踊り子のような装いをした女エレメリアン。

 煙草を愛し、喫煙する者を愛する喫煙属性(スモーカー)のエレメリアン、憤怒の性癖を担う七つの性癖(セブンス・シン)三人目の刺客、シャイターンギルディである。

 シャイターンギルディは視線の先に広がる禁煙を促す広告を忌々しく見つめていた。

 

「チっ!! この世界もかい。真面目ちゃんばっかりでちっとも面白くないじゃないか!! クソがッ!!」

 

 言葉と態度に怒りを滲ませるシャイターンギルディ。

 そんな中、ふとコンビニから出てくる一組の男女が目に入る。

 

「クッソ……!! 別にいいじゃねぇかよ!! 一本二本吸ったって!!」

「ほんとそれ。二歳くらい大目にみなさいよって!!」

 

 ガラの悪い彼と彼女の様子を見るに、未成年で煙草を買おうとして断られたようである。

 店を出て早々に悪態ついて物に当たる二人を見てシャイターンギルディの口元が歪む。

 

「いいねぇ、うちが助けてやんよ……!!」

 

 シャイターンギルディは身体を煙のように変化させる。

 そして、その煙は街を包む夕闇に紛れて姿を消した。




今回は最近マジでいい所なかった華先生が主役です。
特撮オマージュも込めて本作では初登場した形態などは当分の間活躍できるように話を作っているんですけど、そのあおりを受けてテイルブルームの活躍が殆ど描けていなかったのは反省点だったりします。
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