俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
出撃した俺とティアナと華先生はそれぞれテイルバイオレットエクストリームチェイン、テイルブルームとなり、正体バレを防ぐ為のマスクをつけた避難誘導及び救助保護担当の匠と悠香さんたちと共に急ぐ。
校門を抜け、学校前の大通りを過ぎ目的地である路地裏へ。
そこは学校から距離にして1キロも満たない近所であり、敵が着々とティアナに近づいている事を示しているようで気が抜けない。
そしてそのまま、変身した俺たちは路地裏の入口へと到着。
そこから見える中は暗く、心なしか少し煙い。
意を決して突入する。
「ッ!?」
路地に入ったその瞬間、鼻の奥に突き刺さるような強烈な刺激臭が襲い掛かった。
(ちょっと何!? くっさ!!)
「くッ……!? 何!? クサい!!」
心の中でティアナが、隣にいるテイルブルームがそれぞれ不快感を露わにする。
「この臭い……!! まさか……!!」
「間違いねーっすよ先輩……!! これは――」
臭いの正体にピンと来ているのは匠と悠香さん。
勿論、俺もこの臭いの正体には心当たりがある。
これってやっぱり――
「「煙草か!!」」
この臭い、そして路地に充満するこの煙、それら全ての正体は恐らく煙草だ。
俺や匠は昔通っていたゲームセンターが喫煙可能だったし、何なら隠れて煙草吸ってるような不良共とは喧嘩をよくしていたからわかる。悠香さんも煙草をたしなむ大人へ取材する事も多いからわかるのだろう。
俺たち全員、この臭いの正体を知ると同時に今回出現したエレメリアンの属性を理解する。
まぁそれはそうと……ここまでキッツイ臭いは今まで匂った事がねぇ。
禁煙の為に最近分けられ増え始めている喫煙スペースでもこんなドギツイ臭いあってたまるかってんだ。
鼻をつまんで臭いを出来る限り抑えながら俺たちは路地の奥へと突き進む。
『皆さん!! 煙から煙草の成分を分析した所、その煙草は一般の物よりニコチンもタールもおおよそ数倍かそれ以上と出ています。くれぐれも変身を解いたり、マスクを外さないようにしてください!!』
おいおい、マジかよ……
トゥアールさんの通信での声はいつになく緊迫したものとなっていた為、危険性が嫌でも理解できる。
場所が場所で、尚且つ匠たちも正体バレを避けるマスクを被っていたから難を逃れているが、もし外の大通りもしくは学校の中で出現していたらどんな被害が起こっていたか想像つかない。
てか、テイルギアや特性マスクに守られていながらこの臭いのキツさって……もう毒ガスと変わらねぇじゃねぇか。
「おっ、開けたな……って、クサッ!!」
(う‟……!! 何よここ……!!)
路地を抜けた先、俺たちは少し開けた空間へとたどり着いた。
トゥアールさんの送ってくれる情報によるとここは建物と建物の間に出来た空き地らしい。
だが、今はそんな事よりもこの臭いが気になってしょうがない。
この空き地、さっき以上に煙草の臭いや煙が充満してやがる。
周りが建物で囲まれ、太陽の光も入らないこんな場所じゃ換気出来る筈もねぇが、にしては濃すぎる。
一層濃く立ち込める煙は俺たちの視界を制限するにも十分な量だ。
「堀井先生から聞いた事があるわ。ここは確か、付近で働く人達が喫煙所として使って――」
「オイオイ、ウチらのシマに勝手に入っておいてクセェはねぇだろうが……!!」
テイルブルームの声がかき消され、煙の向こう側から影が揺らめき近づいてくる。
「ぷはーッ、これだからお子ちゃまは嫌いだよ……!!」
煙草を豪快にふかしながら煙の中より姿を現したエレメリアン。
胸元はサラシを巻いて強引に纏め、下半身はインドもしくは中東アラブ付近での伝統的な衣装のような服を着ており、露出された素肌は人間とは思えない不気味な青肌。目元はマスクのような装飾が一体化している為にエレメリアンであると直ぐにわかるが、体付きやそれ以外の顔つきは肌の色を除けばほぼ人間そのままと言ってもいい。
女エレメリアンは額に青筋を浮かべつつ睨んでおり、俺と華先生は匠と悠香さんの前に立ち拳を構える。
「てめぇら……!! そっちから顔出して何しに来たんだぁ!? あ゛あ゛ん゛!?」
「何するもクソもあるかよ。こんな所で籠りやがって……!! お前みてぇな奴はブッ倒すだけだぜ!!」
「成程……!! カチコミかぁッ!!」
俺の返事を受けたエレメリアンは、煙草を咥えたまま拳を鳴らし、戦い意思を見せつける。
仕草や口調や佇まい、それら全てが一昔前の不良のソレだ。
女型なので不良っつーよりもスケバンって例えた方がしっくりくる。
「舐めんなよぉッ!! ウチを
「やっぱし
「たっくんの予想的中ね……!!」
『匠君と悠香さん、お二人は一時離脱を。ここから先は危険です』
匠の予感は的中した。
このエレメリアンもまた、以前戦ったレヴィアタンギルディ及びスペルビアギルディと同様の奴らかよ。
何となく察してはいたがやはりか。放たれる威圧感は確かにとんでもねぇ。
七つの性癖を相手にしながら守り切れる自信もなく、トゥアールさんの指示で匠と悠香さんは静かに後退りながら来た道を戻り安全圏へと離脱する。
「なんだ知ってんのかい!! そうさ!! ウチこそが憤怒の性癖、
煙草の臭いや煙から予想していたがやはりコイツの属性はそうきたか。
しっかし、ありそうでなかった属性の持ち主が女型のエレメリアンだったとはな。
(確かレヴィアタンが嫉妬でスペルビアが傲慢よね? で、こいつは憤怒……!!)
『煙草に含まれるニコチンは中毒性が極めて高く、一時的な快楽を引き換えに効果が切れた際にイライラしやすくなりますからね。
通信越しにトゥアールさんがそう解説する。
保健の授業でそんな感じの事を聞いたのを思い出すぜ。
「すー……ぷはーッ!! さぁ、どっちからやるんだぁッ!! 紫のてめぇか? それとも緑のてめぇか? あ゛あ゛ん゛!?」
大きく煙草を吸って吐いた後、シャイターンギルディが俺とテイルブルームへとガンを飛ばす。
どうやらシャイターンギルディの奴はタイマンをご所望のようだ。
正義の味方ならここで要求を呑むような気もするけれど、悪いが俺はそんなつもりさらさらない。
俺とティアナとテイルブルーム、三心二体で容赦なくボコってやる。
俺がそのまま先手必勝とばかりに飛び込もうとしたその時、テイルブルームが制止する。
「待って、先に聞きたい事があるわ」
「聞きたい事?」
(先生?)
そう制止したテイルブルームは俺の前に立ち、シャイターンギルディへと問いかける。
「あなた、ここに女子生徒を二人連れ込んでいたでしょ? 私の生徒へ手を出しちゃいないでしょうね……!!」
静かにハッキリと怒りを込めながら言い放ったテイルブルーム。
シャイターンギルディを前にした事ですっかり忘れていた俺とティアナはハッとする。
そして、それを聞いたシャイターンギルディは再び煙草を深く吸い込むと豪快に笑い出す。
「ハハハ!! なんだい、てめぇセンコーかい!! どーりで憎たらしいと思ったよ!!」
「あなたまさか……二人の属性力を!!」
「なぁに属性力なんざ奪っちゃいないさ!! 会いたきゃ会わせてやるよ。来な!!」
シャイターンギルディが指をパチンと鳴らすと、周囲を覆う煙の一部が晴れ、奥より二人の女子生徒がやって来る。
(あれは……隣のクラスの雪乃さんと神橋さん!!)
「知ってんのかよ?」
ティアナが二人の姿を捉えると同時に名前を言い当てた。
自分のクラスメイトすらも全員覚えていない俺からすれば全く見当つかない。
(ちょっと素行が悪いって有名な子たちよ。一時期の和輝程じゃないけど……)
「おい、それどういう意味――」
「待って、様子がおかしい!!」
喧嘩しそうになる俺たちはテイルブルームの声を聞きハッとする。
奥からやってきた二人、その雰囲気は確かにどう見ても普通じゃない。
体から漏れるオーラは一般人のそれではなく、近くにエレメリアンがいても何もリアクションせずに無言のまま。
二人はそのままシャイターンギルディの隣に並び立った。
「あなた……!! 何したの!!」
「何って……ウチはお願いに答えてくれたお礼をしただけさ。ウチの身体から作れるヤニで虜にならない奴はいないからね」
ニタリと笑ったシャイターンギルディは手のひらの上で煙草を二本作り出し、そのまま両隣の二人へと一本ずつ火をつけて渡す。
すると二人は我先にとばかりに渡された煙草をふんだくるように奪い取っては一心不乱に吸い始めた。
あまりにも異様な光景を前にし、俺たちの怒りは燃え上がる。
「てめぇ……!!」
「未成年に煙草を吸わせただけじゃなく、操るだなんて……!!」
(許さない……!!)
『こればっかりは絶対に許すわけにはいきませんね……!!』
皆口々に怒りを込めた言葉を口にする。
対するシャイターンギルディはテイルブルームの発言に食って掛かる。
「未成年だからってカッタリィ事言ってんじゃないよ……!! てめぇみたいなお堅いセンコーがいるからイメージ悪くなるだろうが……!!」
ほざいてんじゃねぇよ。
どうせ無理矢理吸わせてその上で操ったんだろ。イメージを悪くしているのはどう見てもそっちだ。
『未成年もとい、子供の煙草禁止は、ある程度の文明が発達した世界でならどこも同じです。子供の間にニコチン依存症になんてなったら、身体が健康に育たず、愛香さんみたいな胸が増えてしまいます』
(ちょっとママ!! お母さんが煙草吸ってるって誤解されるし、私まで馬鹿にしてるでしょ!!)
最後は兎も角、トゥアールさんの言い分はごもっともだ。
俺やティアナたちはまだまだ子供だし、育ち盛りの今が大事と言ってもいい。なのに健康への害が多い煙草を吸うなんて言語道断だぜ。
別に俺は煙草及び喫煙者が絶対悪でダメとは言わない。
喫煙可能な場所でルールを守って吸うのは問題ないからな。
問題なのは周りへの迷惑を顧みずに吸ったり、吸ってはいけない子供や吸いたがらない他人に渡したり強要する事だ。
因みに勘違いされやすいが、俺は別に煙草は吸っちゃいないし今後吸うつもりもない。
総二さんも周りのツインテールもとい髪に臭いがついちゃいけないって言っていたらしいしな。
「感謝してもらいたいよ!! ウチのおかげでコイツらはこんなサイコーのモノを味わえているんだからね!!」
「減らず口を……!!」
真面目な性分故か、かつてない程に怒りに燃えるテイルブルーム。
そんな彼女を見たシャイターンギルディはパチンと指を鳴らす。
するとシャイターンギルディの隣で一心不乱に吸っていた二人の煙草が煙のように消失した。
「続きが欲しかったらアイツらを捕まえな!! 狙いはテイルバイオレットの片割れだよ!!」
シャイターンギルディは煙草を餌に女子生徒二人をけしかけてきやがった。
狙いはやはり俺と一体化しているティアナの様子だ。
俺とテイルブルームはそれぞれ応戦を開始する。
「先生はそいつらを!! 俺たちはアイツをブッ倒す!!」
「わ、わかったわ。こっちは任せて、バイオレット!!」
俺はシャイターンギルディの女郎をぶん殴るべく襲い掛かる二人をかいくぐり距離を詰める。
背後から迫る二人はテイルブルームにお任せだ。
「お願いってのもアレか!! 俺たちの場所を聞き出そうとしていたって訳か!!」
「正解だよ!! まさか、そっちから出向いてくるたぁなぁッ!!!」
「許さねぇ!!」
拳と拳が激突し、周囲の煙を吹き飛ばす。
戦いが始まった。
◇
テイルバイオレットとシャイターンギルディの戦いは、互いの性格も相まって小細工抜きの殴り合いだ。
テイルバイオレットが拳を振るえばシャイターンギルディも同様に振るう。そして、交差する拳は互いの頬へと突き刺さり、それぞれ逆側へと吹き飛ぶ。
尤も、吹き飛ぶといっても場所が場所なのもあってそこまで距離は開かない。
空き地と言ってもその大きさは先程よりも少し開けているだけでそこまでの大きさはなく、精々テニスコート半分程度だ。
吹き飛ぶ両者は壁にめり込みながらも即座に起き上がり殴り合いを続行する。
「うらぁッ!!!」
「う‟らぁッ!!」
一方、シャイターンギルディにけしかけられた雪乃と神橋の二人の女子生徒を相手取るテイルブルームはというと……
「二人ともやめなさい!!」
回避と防御を最優先にしつつ、反撃は行わずに言葉で訴えかけていた。
全力で制圧するのは簡単だが、そうすれば二人の身が持たないだろうと配慮したからである。
しかし、やめるように訴えかけても二人の動きは止まらない。
「……!!」
「……!!」
テイルブルームがどれだけ言葉で訴えてもまるで効果がない。
無言のまま交互に連続で襲い掛かる二人を見たテイルブルームは、それ程までにシャイターンギルディの呪縛が強いのねと歯噛みしつつも、襲い掛かる二人を怪我をしないように出来る限り優しく受け止め受け流す。
だが、そんな事を続けた所で状況は何一つ良くならない。
むしろ悪化するばかりである。
「……!!!」
「くッ……!!」
偶然ではあるが、雪乃の体当たりが一瞬の隙をつき直撃する。
即座に受け身を取りながら体勢を整えるテイルブルームだが、その威力は想像以上だ。
『どうやら、シャイターンギルディの身体から作られる煙草を吸った事で二人の身体能力は強化されているようです。乱暴ではありますが少しばかり反撃してください』
トゥアールの通信がテイルブルームに耳に入る。
曰く、今相対している二人はシャイターンギルディの煙草を吸った事でテイルギアをも傷つける程に強化されているようであり、このまま受け続けるのは危険であるとの事。
ただ、逆に言えば強化された影響で多少の攻撃であれば二人の命に別状はない。
むしろある程度の反撃で気絶させてしまえば大きな後遺症もなく無力化できて一石二鳥である。
だが、テイルブルームは迷ってしまう。
「ですが、二人の身に万が一でも怪我を残してしまったら……」
確かにテイルブルームの考えも大事である。
しかし、その考えは自身が圧倒的に優位に立っている状況でのみ成立する。
今、現状のテイルブルームにそのような余裕はない。
「……!!」
「ッ……!! お願い……正気に戻って……!!」
「……!!!」
二人の波状攻撃がテイルブルームを襲う。
反撃を自ら縛るテイルブルームでは、一人目の攻撃を捌けても二人目の攻撃は完全に裁けずにダメージを貰ってしまう。
心に訴える声は飛び交う衝撃音にかき消され誰の耳にも届かない。
「先生!! 大丈夫か――」
「よそ見してんじゃないよ!!」
この状況を見て心配するテイルバイオレットの隙をシャイターンギルディは見逃さない。
攻撃を貰い、ダメージを受けるテイルバイオレット。
生半可な覚悟で反撃を躊躇した結果、状況は悪化の一途を辿っている。
「バイオレット……!!」
『今は反撃してください!! 早く!!』
トゥアールからの通信が切羽詰まった様子を感じさせる。
「ですけど……!! 私には……!!」
だが結局、迷いを捨て去れないテイルブルームは動けない。
それどころか遂には防御する事すらも忘れて呆然としてしまう。
そんな彼女目掛けて、雪乃と神橋の二人は強化された影響で使用可能となった怪光線を手のひらより発射する。
「「……!!!」」
「しまった……!!」
稲妻状の怪光線がテイルブルームへと迫る。
先程まで呆然としていたテイルブルームでは防御も避ける事も出来ない。
命中すると思われたその時だった。
「させるか!!」
当たる直前、テイルバイオレットのカバーが間に合った。
割り込み、受け止めてかき消すテイルバイオレット。
その直後、シャイターンギルディがニヤリと笑う。
「またまた隙ありだな!!」
「なっ……!?」
「バイオレット!!」
シャイターンギルディの腕が煙状に変化し、テイルバイオレットの周囲を覆い尽くす。
そしてその煙は繭のように固まっては、中にいるテイルバイオレットを閉じ込めてしまった。
「けッ、意外とチョロいもんだね!! もう逃げられないよ!!」
「くっそ、出しやがれ!!」
中から出ようと暴れてみせるも、煙の繭はどれだけ力を入れても手ごたえがない。
捕らえた事で勝利を確信するシャイターンギルディ。
笑みを浮かべつつ煙草を吸おうと手に取るが、瞬間、テイルブルームがシャイターンギルディへと攻撃せんと動いた。
人間相手は無理でも、エレメリアン相手なら問題ない。
今までの怒りをぶつけんとするテイルブルームはグランアローを精製し必殺の構えを取る。
「
大地の揺るがすテイルブルームの属性力。
放たれる矢の一撃はいくら七つの性癖と言えど耐え切れないだろう。
しかし、シャイターンギルディはその上をいく。
「なっ……!! 雪乃さん!! 神橋さん!!」
今まさに準備完了すると思われたその時、シャイターンギルディを庇うように二人が立ちはだかった。
テイルブルームの動きが止まる。
「どいて二人とも!!」
「「……」」
立ちはだかる二人へと、そこをどくように訴えかけるテイルブルーム。
だが二人は微動だにしない。
「お願いだから!! あなたたちの為なの!!」
「「……」」
なおも訴えかけ続けるが、やはり二人はどいてくれやしない。
だけど、ここで諦めてはいけないとテイルブルームは信じている。
テイルブルームもとい華からすれば彼女たち二人は先日の件もあり、抱く感情は複雑だ。決していい関係ではないし、これからいい関係になれる保証もない。
でも、だからとて、華は諦めない。
華はどんな生徒でも教え子として愛している。例えそれがどんな非行に走ろうともだ。
「テイルブルームを……!! 先生を信じて!!」
遂には自分自身の正体さえも口にしながら訴えかけた。
だがやはり、二人は動かない。
その時、コンソールルームでこの状況を見ているしかないトゥアールが違和感に気が付いた。
『待ってください!! 恐らくお二人は操られ――』
「そいつは……そいつは悪い奴なの!! だから二人とも正気に戻って!!」
トゥアールの忠告は届かず、テイルブルームは瞳から涙が落としながら訴えかける。
アニメや漫画の展開ではその涙を見て正気に戻るかもしれない。
だが、現実は非情且つ残酷だった。
「はぁ? さっきから何言っちゃってんの?」
「え……!?」
突如、ずっと黙っていた雪乃の口が開かれた。
しかし、その声色はあきらかに敵意がある。
困惑するテイルブルームを前に二人はまるでどこうとしないばかりか、さらに大きな声で言い返した。
「悪いのはお前らだろうが!! うちらなんかほっといてくれよ!!」
「そーだそーだ!! うちらからヤニ奪おうとすんじゃねぇ!!」
二人の表情は実にまともであった。
操られているようには見えないし、嘘もついていない。。
それ即ち、今言った全てが二人の本音だった。
「え……、何を言って……」
当然、テイルブルームは受け入れられない。
彼女たちはシャイターンギルディに操られていると信じていたが故にショックが大きいのだ。
一方でトゥアールは先程までの二人の様子全てが操られているとこちら側に思わせるフェイクだったのだと理解するがもう遅い。
「何って……本当の事言ってるだけだよ。何もウチはこの子たちを操っちゃいない。さっきのはちょっと一芝居うっただけで、ウチはこの子たちにヤニの素晴らしさを教えただけ。そっから先は全部勝手にやってんのさ」
「嘘……、嘘よ……!!」
膝から崩れ落ちるテイルブルーム。
グランアローが地面に落ちる音が虚しくカランと響く。
そんな中、雪乃と神橋の二人はシャイターンギルディに擦り寄りねだる。
「なぁシャイちゃ~ん、さっきの続きちょ~だい」
「うちらの演技も戦いも良かったでしょ~?」
「ああ、完璧だったよ。ほら、さっきの分までたんと吸いな!!」
シャイターンギルディは上機嫌な様子で煙草を作り出し、二人へと渡す。
渡された二人は実に美味そうに一服し、シャイターンギルディも同様に煙草を咥える。
そして、崩れ落ちたテイルブルームへと屈んでは喋りかける。
「あんた真面目過ぎなんだよ。今時そんなセンコーじゃウケないよ」
深く煙草を吸った後、吐く煙をテイルブルームの顔へと吹きかけるシャイターンギルディ。
そして、立ち上がると同時に高笑いを決めるその姿はまさしく勝者のソレである。
あとは捕まえたテイルバイオレットをベリアルギルディに引き渡すだけ……
シャイターンギルディがそう思った直後、煙の繭に異変が起きる。
「はぁぁぁぁぁ……ッ!!!」
「なんだい? まさか……!?」
聞こえてくる声と高まるテイルバイオレットの属性力。
まさかと思い繭の方へと向くシャイターンギルディだが遅かった。
「
青き旋風が巻き起こり、煙の繭が吹き飛び消え去った。
中より現れるのはテイルバイオレットエクストリームエモーショナル。
テイルバイオレットは主人格をティアナへと交代しつつ、今出せる最大パワーを以て繭を破壊したのである。
破られるはずがないと自信満々であったシャイターンギルディは、そのあまりに脳筋で強引な突破に反応が追いつかない。
繭を破壊した際に発せられた溢れ出る属性力の衝撃を受け、雪乃と神橋の二人はシャイターンギルディと反対側へ吹き飛び気絶。
結果、シャイターンギルディを守る者はいなくなった。
「しまっ――」
「エクストーム!! ウェーーーブ!!!!」
青き旋風纏うナギナタモードのウインドセイバーがシャイターンギルディを穿つ。
腹に風穴を開けられたシャイターンギルディの身体にスパークが走り、爆発する。
周囲を覆う煙が晴れ、鼻を刺激し続けていた煙草の臭いを消え失せた。
「危なかったわね。一時はどうなるかと思っちゃった」
(そうだな。まぁでも、勝ったから文句なしだ)
勝利したテイルバイオレットは笑顔を浮かべ、
『皆さんお疲れ様です。もうそろそろ騒ぎに気が付かれると思いますので、総愛たちは至急帰還してください。気絶しているお二人は匠君と悠香さんに任せてください』
『お疲れ様……』
基地のコンソールルームからトゥアールと青葉が労い、
「はいは~い、後は俺と先輩にお任せってな!!」
「そうそう、たっくんは力仕事をお願いね」
匠と悠香は後始末をすべく戻って来る。
一方、変身を解除した華はと言うと……
「私はやっぱり……」
その顔は暗く沈んでおり、目には大量の涙があった。
◇
放課後、雪乃と神橋の二人をトゥアールへと託した華は部室にも基地にも顔を出すことなく、自宅へ向かってとぼとぼ帰っていた。
何もかもうまくいかず、守るべき者に裏切られ、自らの甘さで仲間を危険に晒してしまった。
華の心の中は先程の煙以上に濃い暗雲に包まれていた。
(どうすればいいの……、ティル……お師匠様……みんな……誰か助けて……)
心の中でそう零す華だが、華は大人としての立場を守る為に生徒である和輝たちに頼る事が出来ず、大人組であるトゥアールや正樹に関しても忙しいのに邪魔してはいけないと躊躇してしまっている。
他人を目上の者として師事し教えを乞う事は出来ても、対等の関係のままに頼ったり相談するという事をしてこなかった華のストイックな性格が裏目にでていると言える。
「私……」
「あ……!! 華~!!」
夜の繁華街を歩く華の耳に懐かしい声が聞こえて来た。
振り返ると向こうから駆け足で寄って来る会社帰りのOL。
声同様にその顔は見覚えがあった。
「久しぶり~!! 元気だった?」
「あなたは……」
「あれ? 忘れちゃったの? 私だよ私、大西真衣だよ」
それは小中学時代の友達である大西真衣であった。
記憶していた姿よりも大人っぽい化粧をした彼女はまるで別人のようだった。
さっきまで暗く落ち込んでいた華と打って変わって真衣は上機嫌である。
「ツインテール戻したんだ~。やっぱ華と言えばツインテールだもんね~懐かしい~」
「ま、真衣ちゃん……」
懐かしがる真衣を見て少し困惑しつつもホッとする華。
彼女との関係は中学時代までであったが、当時はアルティメギルとの一件もあって暗い性格だった華とも良く付き合ってくれた事もあり安心感がある。
旧友との再会を経て思い出話に花が咲く二人。
そしてその勢いのまま真衣は華をある事に誘う。
「ねぇ、立ち話もなんだしさ。ちょっと飲みに行かない? 丁度今から友達数人と飲みに行こうと思っていたし~」
ある事というのはズバリ飲み会である。
社会人となったものの、まだまだ新米である真衣は、よく飲みに行ってはストレスを発散しているらしい。
秘密を話すことは出来なくとも、華にとってもそれは絶好の機会と言えるだろう。
時に酒を飲んで気持ちよくなりながら愚痴りあうのはストレス発散に最適であるし、何より迷い続ける今の華に最も必要且つ大事なイベントだ。
しかし……
「飲み会は……」
酒も煙草も何もかもストイックに縛り続けた華の答えはYESではなかった。
尤も、完全にNOという訳でもない。
本当にいいのかという迷いと、行ってみたいと行ってはダメだという二つの感情がせめぎ合っている。
数秒の迷いの果て、華の気持ちは固まった。
意を決して行く事を伝えようと伝えようとする華だが、遅すぎた。
「やっぱり私――」
「そっか、華って今は学校の先生だもんね……無理なのに誘ってごめんね……」
「あ、う、うん……」
あと少し押せば未来は変わったかもしれない。
しかし、過去の華を知っているが故にそっとしておこうと気を効かせてしまったのが運命を決めた。
結果、華は誘われた飲み会に行く事なく真衣とここで別れてしまう。
「ほんっと、華って真面目だよね~。みんなも見習ってくれればいいのにな~」
別れ際の言葉は決して嫌味ではない。
むしろその逆だ。
華の事を友達として大事に想い、尊敬しているからこその言葉である。
だが、今の華にはそれすらも刃物となる。
(私は……真面目……。こんなんじゃ……)
脳裏に蘇るのは雪乃やシャイターンギルディの言葉。
真面目過ぎてつまらない。そんなのじゃ今時ウケない。
ぽたぽたと涙を流しながら華は再び自宅へととぼとぼ歩きだす。
「ハハッ、いいじゃないか。頃合いだね、まずはその身体……頂くよ」
華の周りに煙草の煙が意思を持つかのようにまとわりつく。
薄っすらと聞こえた声や平時では気づけるドギツイ刺激臭のいずれもが、今の華では気づくことが出来なかった。
シャイターンギルディ撃破……?
次回は華先生が大変な事に……