俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第14話 不死なる影

 ゴールデンウィーク。

 それは日本において4月末から5月の初めにかけての大型連休期間。昭和の日から始まり、憲法記念日、みどりの日、こどもの日と続いていく。ゴールデンウィークとはまさに多くの学生や社会人らにとっての至福の一週間である。

 現在4月28日。ゴールデンウィークを明日に控え、人々はそれぞれやるべきことを全うしていく。全ては明日からの一週間を充実したものにするために。

 しかし、この世界に襲来したエレメリアンの組織アルティデビルにはゴールデンウィークなどは存在していなかった。次元と次元の狭間、人間では観測することもできない神秘の空間に存在しているアルティデビル基地内の大ホールはいつものように怪物たちの下品な声が支配していた。

 

「16番。こい……こい……!!」

 

「38番!! 38番だ!!」

 

 様々な見た目をした屈強な怪物たちの大半は番号の書かれた紙を握りしめながら、大ホール内のモニターを真剣な眼差しで見つめていた。モニターに映されているのは1~72番までの数字が高速で切り替わっていくルーレットのような映像であった。

 数日前、丁度シャックスギルディが出撃して撃破された次の日。次に出撃するのは俺だ私だ僕だと順番争いがドンドン過激になっていった。しまいには基地内で戦闘を行う者まで現れる始末だ。これには実質的なリーダー格であるバアルギルディも流石に看過することは出来ず、早急に対策を練らなければならなかった。

 良き相談役であるアガレスギルディと三日三晩徹夜で考え、思いついたその策は最も公平な原初にして頂点の決め方。あらかじめ番号の書いた紙を配り、ルーレットによって決められた数字を持っていた者が出撃する権利をえるという物。人間の言葉でいうところのクジ引きというやつである。

 

「今度こそ……!! 今度こそは……!!」

 

「神様、ぼくちんにもチャンスをッ」

 

「なんの!! 貴様が神頼みなら俺は仏頼みよ!! 仏様~俺にもチャンスをくださ~い!!」

 

 悪魔。それは本来、神に反逆した堕天使や怪物たちの総称でもある。仮にも悪魔の名を持つエレメリアンたちがたかがクジ引きに神頼みとは……。その様子は実にシュールなものであった。

 

「「「「…………」」」」

 

 数字が切り替わる速度が段々と遅くなっていく。この張り詰めた空気の中で声を発するエレメリアンの姿はどこにもいない。皆、固唾を呑んでモニターを直視するのであった。

 

『37』

 

 喜びで満ちた声と落胆する声。一瞬の内に勝者と敗者が明らかになった。ヒトコブラクダに似た姿のエレメリアン、ウヴァルギルディが37番の紙を高らかに掲げ宣言する。

 

「このウヴァルギルディ、必ずやテイルバイオレットの打ち倒し、属性力を奪取してくることをここに宣言しよう!! 我が愛する踊り子属性(ダンサー)に誓って!!」

 

 当選することができなかったエレメリアンたちは途端に興味を無くし、自らのパソコンやスマホを開く。この結果は絶対だ。グチグチ文句を言っても何の意味もない。それを知っているからこその行動であった。

 その様子を見て優越感に浸るウヴァルギルディ。そのまま出撃しようと大ホールを後にしようとしたその時だった。

 

 

 

 

 乱入者は姿を現した。

 

「やぁ、久しぶりだね、みんな」

 

「お前は……!?」

 

 その存在に気づいたエレメリアンたちがざわつきだす。

 その姿は背には巨大な天を掴むような羽、全身に纏うは蒼く燃え上がる炎、顔は仰々しい仮面のようであった。何かに例えるというのならそれはまるで不死鳥。

 

「君は確か、ツインテイルズの世界に単身行っていた筈……」

 

 バアルギルディも驚きを隠せなかった。アルティデビル屈指の実力者であるバアルギルディが驚くほどのオーラをそのエレメリアンは放っていた。

 

「向こうでムカつく奴と出会ってね。休憩のついでに憂さ晴らしでもしようと一旦戻ってきたんだ。確か君たちがよく出撃している日本では丁度ゴールデンウィークっていう休みなんでしょ? 」

 

 本人は爽やかに喋っているものの、その言葉からは確かな苛立ちを感じる。バアルギルディ含め多くのエレメリアンたちはそれを感じ取っていた。

 

「だが、今日の出撃はこのウヴァルギルディが勝ち取ったのだ。悪いが貴様には基地で大人しくして――」

 

「この僕に逆らうの?」

 

 勇猛果敢に盾突こうとしたウヴァルギルディであったがたった一言で言葉を失った。それほどまでに威圧感のある一言であったのだ。

 

「…………」

 

「ありがとうねウヴァルギルディ君。じゃあ僕は遊んでくるから」

 

 そう言い残して大ホール内から去っていく。ウヴァルギルディは腰を抜かし床にへたりこんでしまった。流石に可哀想と思われたのか多くのエレメリアンたちはウヴァルギルディへ同情の眼差しを送っていた。

 

「いいのかの? 勝手な行動をとらせて」

 

 アガレスギルディはバアルギルディに問う。

 

「忘れたのかい? 彼は不死身と言っていいほどの再生力を持つのだよ。私一人では倒すことができぬ都合上、止めようがない」

 

「そうじゃったの……」

 

「あと、これは私の勘だが何か面白いことが起きるかもしれないのでな。少しばかり好きにさせてやろうじゃないか」

 

 

 

 

 5月4日、既にゴールデンウィークは折り返しをすぎ、今日みどりの日と明日のこどもの日を残すだけになっていた。

 ここ双神高等学校は祝日ということもあって授業はなく、生徒のほとんどは学校にいない。生徒の中で学校にいるのは運動部などの部活動に励んでいる一部のみだ。生徒だけではない。教員たちも部活動の顧問などの一部の例外を除けば皆、休日を満喫しているため職員室に教員の姿はほとんどいない。

 そんな午前10時半、がらんどうの職員室内。山村華は一人、パソコンを前にし黙々と作業を繰り返していた。定期的にはぁ、とため息をつきながらも華はパソコンのキーを打つ速度を落とさない。まるでなにかを頭の中から忘れようとしているようであった。

 

「私、何してるんだろ……」

 

 そう呟くと華は右手で頭を押さえながらだらりとリラックスできる体勢で椅子の背もたれに体を預けた。華は多くの生徒や教員から真面目でキッチリとしたイメージを抱かれているが、現在の華の体勢はそのイメージを壊すようなものであった。

 華自身も自宅以外では決してリラックスしないようにと心に誓っていたのだが、職員室という広い空間で一人という珍しい状況が心の中のストッパーをつい緩めてしまっていた。

 

「このままでいいのかな……」

 

 華は思いつめたように再び呟く。華の暗いオーラが職員室内を充満しそうになったその時、余りにも場違いで明るい声とともに扉が勢いよく開けられた。

 

「おはようございます! ……って山村先生じゃないですか!?」

 

 響き渡るは気の抜けるような間抜けな声。華のことを心の中で想い慕う日本史教師、堀井龍之介の姿がそこにはあった。

 華は慌てて体勢を整えて背もたれにもたれかかるのを止める。堀井は一目散に華のデスク近くの自分のデスクに向かい座った。

 

「いや~祝日だというのに奇遇ですね、こんな日に会えるなんて」

 

「そうですね……」

 

 おや? どうしたんだろうか山村先生。何か悩み事でもあるのだろうか? 堀井がそう考えてしまうほどに今の華は元気がなかった。

 4月の頭、丁度テイルバイオレットが活躍しだした頃からずっと華の様子はおかしかった。そのことを思い出した堀井はいつかと同じように相談に乗るがてら食事にでも、と誘いをかける。

 

「何か悩み事ですか? よろしかったらに乗りますけど? そうだ!! この後どこかでお食事でもとりながら――」

 

「ありがたいですけど遠慮します。私、思ったんです。この事は誰かに話して解決するようなことではないと」

 

 前回は奇しくも匠の相談とかち合ってしまったが故に失敗してしまった。もし、和輝と匠が喧嘩なんてしていなければ成功していただけに今回こそは……

 しかし、現実は非情である。今回はきっぱりと断られてしまった。しかも、話の内容的に華の悩みは堀井に話しても意味がないと言っている。

 堀井はそのことが辛かった。どうすれば自分はもっと華に頼りにされ、どんな悩みごとでも話せるようなカッコイイ男に見せれるのだろうか? そう考えるもいい案は思いつかない。

 

「……」

 

 気まずい空気が二人だけの職員室に広がっていく。

 このままでは不味い。そう思った堀井は話題を探すためにとりあえず近くの窓を開けた。窓の外には快晴の中で部活動に汗を流す生徒が見える。それを見て堀井は思いつく。自分の学生時代の部活動に明け暮れた青春を話題にすればいいのだ、と。これなら会話も弾むしあわよくば学生時代のカッコイイエピソードを聞いて俺のことを見直してくれるかもしれない。

 

「いや~それにしてもいい天気ですね~外の生徒を見ていると12年前、自分が学生だった頃を思い出しますよ」

 

(12年前……)

 

 不味い……あきらかにテンションが下がってしまった……もしかして、山村先生の悩みとは学生時代のことなのか? そう考えた堀井は一人、心の中で頭を抱える。一体どうすれば会話を弾ませながら好感度をあげることができるのか……。

 話題を探すために今度はスマホを開いて何かないかと探す堀井。その眼にはあるニュースが映っていた。

 

「そ、そういえば山村先生、昨日この辺りで先生のような綺麗な女の人が意識不明の重体で発見されているっていう物騒な事件をご存じですか? 噂では怪物が襲っているとか何とか……。で、でもご安心ください!! この堀井龍之介が山村先生のことを命に代えてもお守りします!!」

 

 これならどうだ。さりげなく綺麗だと褒めることができたし、自分自身の漢気も見せることができた……これなら……。

 堀井、渾身の話題。しかし――

 

「その噂本当ですか!?」

 

 堀井の思惑は外れた。華はより一層深刻な表情になりそのまま職員室を出て行ってしまった。余りの出来事に固まってしまう堀井。ハッと我に帰ると堀井は叫んだ。

 

「どうしてだぁぁぁーーー」

 

 堀井の叫び声は他に誰もいない職員室内で寂しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛び出しちゃったけど……今の私には……」

 

 話を聞いて思わず飛び出してしまった華は誰もいない廊下で小さな声で呟く。まるで今の自分に嘆いているようでもあった。

 

「……それにしてもどういうことなの? 属性力ではなく人の命を狙うなんて……」

 

 華の手にはくすんだ緑色のペンダントのような物が握締められていた。

 

 

 

 

 俺は今、アラームクロックのカウンター席でスマホで昨日見ることができなかったバラエティー番組の録画を見ながらコーヒーを飲んでいた。ちなみにアラームクロックはゴールデンウィークの平日はいつも通り営業をしている。

 もうゴールデンウィークも残すところあと一日。高校生のゴールデンウィークがこのままでいいのか? そう思いながらも他にやることが思いつかない。

 俺と違って匠は休み明けに開かれるヒカリちゃんのライブの為にゴールデンウィーク中、バイト三昧だ。昨日一日中寝て過ごした俺なんかよりよっぽど有意義に休みを利用している。

 

「……暇だ」

 

 4月は毎日毎日沢山のエレメリアンが出現していたというのに……ゴールデンウィークに突入してからはどうだ、全く出現していない。まぁ、世界が平和そのものなのは俺としても嬉しい限りではあるが……

 

「暇ってことはエレメリアンがいなくて世界は少し平和ってことよ」

 

 そんなこといわれなくてもわかっているっての……

 学校が休みということで手伝いをしているティアナが俺に言ってきた。

 

「なぁ、エレメリアンにもゴールデンウィークって習慣があるのか?」

 

「そんなこと知らないわよ」

 

 それにしてもこの数日間はあきらかにおかしい。ないとは思うがもしかしたらということもあるのでティアナに聞いてみた、が結果は知らないという。エレメリアンにもある程度は詳しいティアナでも流石にエレメリアンたちの内情までは知っていないか……

 

「ティアナちゃん~おかわり~」

 

「あ、はーい!」

 

 お客さんに言われてティアナは向こうに行ってしまった。匠もそうだがゴールデンウィークだというのに働いている人は凄いと思う。俺には到底できそうにもない。

 話相手もいなくなったので再びスマホの画面に集中する。片方だけにつけているイヤホンから聞こえてくる音的に丁度今盛り上がっているところだ。

 

『それでは次のコーナーはお待ちかねのテイルバイオレット特集!!』

 

 妙に盛り上がっていると思ったらこれかよ……

 画面には視聴者提供と思われるテイルバイオレットの戦闘シーンがダイジェストで映っており、それに対してゲストたちがあーだこーだ言っていた。

 少し恥ずかしいが、人気がでていること自体には別に悪い気はしない。個人的には以前のインタビュー動画のような俺の恥ずかしい所を笑ったり、ブヒブヒ興奮しているのは嫌だが、これくらいの特集なら大丈夫だ。

 

『いや~テイルバイオレットもいいですが、僕としては昔に活躍していたシャイニーブルームのほうがいいですね~』

 

 ゲストのその発言を聞いて俺はおもわずもういないはずのシャイニーブルームに対抗心を燃やしてしまう。少し悔しい。

 

『シャイニーブルームですか、懐かしいですね~。シャイニーブルームのどういうところが好きなんですか?』

 

『それは勿論…………』

 

『どうしました?』

 

『あれ? シャイニーブルームってどんなのでしたっけ? 具体的なことが思い出せなくて……』

 

 おいおい、それでいいのかよ。具体的な所をファンが覚えていないなんて草葉の陰でシャイニーブルームだった人が泣いているぜ。

 

『シャイニーブルームといえばあれですよ。確かえーっとツインテールを守るために怪物と戦っていて……それで……』

 

 司会までこれかよ!! 誰もほとんど覚えてねぇじゃねぇか!! 

 元ファンたちの体たらくに呆れてしまう。きっとシャイニーブルームも俺たちと同じように属性力を守るために頑張っていたというのにこれではあまりにも報われない。

 

「ん?」

 

 番組をみている最中であったが、画面上部に表示されたニュースの速報に目がいってしまった。内容は若い女性たちが何者かに襲われて意識不明の重体になるという事件。この事件自体はゴールデンウィークから発生しており知ってはいたものの、今回の被害者はここからそう遠くない場所で発見されたとあるので気になった。

 番組を見るのを中断し、俺は昨日の事件についてもう一度よく調べることにした。もう一度というのはこの事件はティアナとともに少し調べたことがある。当時の俺たちは事件発生時期が丁度エレメリアンが出現しなくなった時期と被っていたために不信に思っていた。しかし、被害報告はでてもエレメリアン出現の報告は一向にでなかった。結果、俺たちの調査は早々に打ち切られたのであった。

 

「また、その事件を調べているの?」

 

 ネットを漁って調べる俺にティアナが再び声をかけてきた。

 

「まぁな、なんか引っかかってよ」

 

「その気持ちは私も同じよ……でもね、この事件の被害者たちからは属性力が奪われた様子はないわ。エレメリアンが絡んでいないと考えるのが妥当な気がするの……」

 

 以前、バアルギルディがアルティデビルには属性力を奪う為なら手段を選ばぬ奴もいると言っていた。だが今回は属性力を一切狙わずに命だけを狙った犯行。属性力目当てではないのは明らかだ。エレメリアンが絡んでいないのなら俺たちの出る幕ではない。

 

「そういえば、エレメリアンってどうやって探知しているんだよ?」

 

 念のために少しだけ気になる点を聞いてみることにした。

 

「エレメリアンの持っている属性力の高まりを探知するの。それがどうしたのよ?」

 

 なるほどな。エレメリアンがいたら必ず反応とかじゃないんだな。じゃあまだエレメリアンの可能性もあるかもしれない。でも何か足りない。決定的になる何かが……

 

「その事件、おっかねぇよな」

 

 厨房から出てきたおやっさんも話に食いついてきた。そして、おやっさんは事件の被害者の写真をみてボソッと呟く。

 

「にしても、ポニーテールばっかだな。犯人はよっぽどポニーテールが嫌いなのかもしれないな」

 

 その言葉に俺はハッとした。

 そうだ……なんでそんなことに気がつかなかったんだ。もしかしてやっぱり……今回の事件……

 そんなわけないかとおやっさんはハハハと笑いながら厨房の奥に戻っていった。おやっさんがいなくなると同時に俺はティアナにある仮説を言ってみた。

 

「もしかすると今回のエレメリアンはポニーテール属性にあまり良くない感情を持っているかもしれねぇぞ。要はポニーテール属性を奪うんじゃなくてポニーテール属性を持つ女性を……」

 

「そんなバカなことが……」

 

 今回の事件。今までとはわけが違う。俺とティアナの心に不安が募る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元と次元の狭間の空間。

 炎のように揺らめく見事なポニーテールを持つ少女が紅い装甲を纏い、和輝たちの世界へと向かっていた。

 和輝とティアナはそのことに気づいてはいない。




ソロモン72柱序列37番。その悪魔の名は……
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