俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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今回、X(旧Twitter)にてちょっとしたあらすじを追加しましたけど、どうでしょう?


第141話 酒を飲まずにいられない

(止めて先生!! 来ないで!!)

(どうしちゃったんですか!? 先生!!)

 

 涙目で逃げる女子生徒を煙草を吹かしながら追い詰める。

 これはシャイターンギルディに憑依されていた華の当時の記憶。

 身体を操るシャイターンギルディは打倒テイルバイオレットの為の仲間作りという名目の下、多くの未成年を襲っては無理矢理煙草を吸わせて仲間へと引き込んでいく。

 身体を奪われた当初の華はその事に気づくと同時に必至に抵抗を試みていたが、身体はその意思に反するように動き、多くの生徒たちを捕らえては喫煙属性(スモーカー)へと染め上げていっていた。

 

(ハハハ、大丈夫さ。一度吸っちまえば、すぐにあんたたちも気に入るよ)

 

 やめて……!! 私の生徒に手を出さないで……!!

 心の中、何度も何度も華はそう訴えかけた。

 

(はっ、センコー様は頭ん中でも五月蠅いねぇ。そうカリカリするんなら、ウチと一緒に気持ちよくなっちゃおうってね)

 

 だが、シャイターンギルディはその反抗の意思を嘲笑っては、お前も堕ちろと言わんばかりに煙草を吹かし続けていた。

 口内から全身へと広がる煙草の快感は高潔な意思を持とうとも、抗うのは至難の業。

 身体の主導権を奪わているが故に抵抗が出来ぬ華はみるみると弱っていく。

 尤も、そもそも体を奪われる際に一度、煙草の快感に負けている華ではどうあっても勝てやしなかっただろう。

 

(ふ~っ、どうだい? サイコーだろ?)

 

 もっと吸いたい。気持ちよくなりたい。嫌な事も辛い事も何も考えたくない。

 煙草を吸う度に華の声は小さくなり、いつの間にか抵抗する気力を完全に失ってしまう。

 それ以降、華の記憶はない。

 あるのは一時的な麻薬の如き強烈な快楽と何もかもどうでも良いと思えるような陰鬱な感情のたった二つだけであったという。

 

「うぅ……、ここは……」

 

 そして現在、アナザーテイルレッドの協力によってシャイターンギルディから解放された華がようやく目を覚ました。

 潮風が寒く、夜が近いのか空は暗い。

 それ以上にここが何処で何が起きたのかを認識するよりも先に強い倦怠感と激しい頭痛が襲い掛かる。

 

「ッ……うぅ……」

 

「ちょっと!? 大丈夫っすか!?」

 

「華先生!! トゥアール先生も早く!!」

 

 立ち上がろうとするも失敗し、よろめき倒れかけた華を匠と悠香の二人が両肩をそれぞれ貸す事で何とか支えてみせる。

 レイジとの問答で少し離れていた和輝、ティアナ、トゥアールの三名も悠香を声を聞き急いで駆け寄ってきた。

 

「目が覚めたのかよ!!」

 

「ママ、華先生は大丈夫なのよね?」

 

「今調べますので、総愛も皆さんもお静かに」

 

 トゥアールが白衣のポケットからタブレットを取り出し、華の身体をスキャン。

 後遺症含めた身体への異常がないかを調べ始め、周囲は固唾を呑んでそれを見守る。

 先程のよろめきと喫煙属性(スモーカー)と言う悪影響を及ぼしそうな属性から推察できる万が一の最悪のケースが皆を不安にさせるのだ。

 一通り調べ終えたトゥアールはタブレットをポケットにしまう。

 

「ママ……?」

 

 心配するティアナがトゥアールの顔を覗き込む。

 トゥアールの表情は真剣ではあったが、直ぐに和らいでみせた。

 

「どうやら、少しばかり頭痛や倦怠感が残っているようですね。ですが、それ以外は特に悪影響もないようです。その後遺症もじきに消えると思いますので安心してください」

 

 無事だとわかり皆が胸をホッと撫で下ろす。

 その後、トゥアールの言う通り後遺症はすぐに消えて無くなり、華も一人で立つことが出来る程に回復した様子を見せる。

 憑依を防げなかったとは言え、テイルギアの防御機能がある程度機能していた証拠である。

 尤も、それはあくまで身体だけの話であり、心までは万全とは言えなかった。

 

(私、またみんなに迷惑をかけちゃったのよね……)

 

 徐々にではあるが、華はこれまで何をしていたのかを思い出していた。

 自らの弱さ故にシャイターンギルディへ憑依される隙を与えてしまい、まんまと奪われては自らの手で守るべき生徒たちを捕らえ傷つけていくという忌まわしき記憶。ティアナがシャイターンギルディの行為を華への尊厳破壊その物だと称していたが、華にとっては最早そんなレベルの物ですらなかった。

 それら全てが何もかも自らの責任であると、そのストイックな性格故に自らを責める華は心と表情に影を落とす

 

「うし、華先生も復活したし、次こそ絶対あん野郎をブッ倒す!!」

 

「おい、そうだ和輝!! さっきここに来る前トゥアール先生が言っていたんだが、恐らくシャイターンギルディは捕らえた子たちを操ってけしかけてくるんじゃねーかって話だ」

 

「んだとぉ!! じゃあこうしちゃいられねぇじゃねか!! さっさとブッ倒しに行くぞ!!」

 

 一方、そんな華の落ち込み具合に気が付かない男ども二人はシャイターンギルディ撃破に燃えていた。

 ちょっとは華先生の気持ちは考えなさいよとばかりにティアナと悠香が白い目で二人を見ては注意せんと声を上げる。

 

「ちょっとあんたたち!! 少しは華先生の事も――」

 

 尤も、そんな気を遣おうとしている二人の対応もまた、今の華にとっては悪手であった。

 

「いいのよ橘さん。庇ってくれなくていいの……」

 

「華先生……ッ!?」

 

 その時ティアナは、華のツインテールを見た事で、その抱え込んでいる闇に気が付いた。

 今の華の姿はテイルブルームへと覚醒する前、過去の後悔からツインテールをやめていた時の自らを縛って雁字搦めになっているあの時その物……いや、今の華はそれ以上かもしれない。責任と使命感、その他もろもろの全てが華自身を縛り上げ、自らもそれを許容しているのだと解釈した。

 

「先生、またやめてしまうんですか……あの時みたいに……」

 

 ティアナの言葉を聞いた事で和輝や匠も事の大事さに気が付き黙り込む。

 華は辛い表情のままその顔を背ける。

 

「私はもう戦えない……」

 

「また、資格がないって自分を縛るんですか……。資格なんて別にそんな物……!!」

 

 例えどんな失敗をしたとしても、だからと言って自らの大好きを否定する事はない。

 好きになるのに資格なんていらない。なってはいけない理由などない。

 これら全てはこれまでの戦いを経てより確固たるものになったティアナの自論である。

 故にティアナは責任をとってツインテールをやめようとする華を止めようとしている。

 しかし、華の戦えない理由は別にあった。

 

「ううん、先生違うの……」

 

「違う……?」

 

「それって、一体どういう意味なんですか?」

 

 気になる悠香もティアナに続いてそう問いかける。

 背を背けた華は小さく声を絞り出した。

 

「戦いたくないの……。これ以上、辛い想いをしたら大好きが大好きじゃなくなってしまう……。ツインテールが結べなくなる……」

 

 テイルギアを動かす原動力はツインテールを愛すると言う『大好き』の気持ちであるのは周知の事実だろう。

 華は生真面目な性格でありながらも、それだけは大切にしていこうとしており、復帰して以降は何時いかなる時もツインテールを大切にし、結び続けていた。

 それはある意味、彼女の持つ生真面目さが良い意味で作用していた証拠でもある。

 だが、ここ最近の度重なるストレスからなる喫煙属性(スモーカー)へ堕ちた事実がそんな自分自身へと罰を与えんと牙をむく。真面目さ故に自らを罰し、真面目であり過ぎるが故に華は自分自身が許せなくなる。華はその果てに『大好き』という気持ちを失うのが怖いのだ。

 さらに言えば、華はシャイターンギルディとの問答を経て、自らの真面目さを消すことが出来ないと痛感しており尚更だ。

 

「先生だって、自分勝手なのはわかっているの。でも、戦う事を……ツインテールを愛する事を……罰になんてしたくない……」

 

 和輝もティアナも戦う事は罪とも罰とも思ってなどいない。

 しかし、華にとっては、シャイターンギルディと戦う事=自らの過ちを償う贖罪と言った所なのだ。

 

「華先生……」

 

「涼原君にもごめんなさい。折角、助けてくれたのにね……」

 

 そう言い残しこの場から去ろうとする華。

 和輝もティアナも匠も悠香も、誰一人として華を呼び止める事は出来ず、その後ろ姿をただ見ていることしか出来ない。

 しかし、ある人物は違った。

 

「華先生……いや、我が弟子、山村華!! さっきから黙って聞いていれば、なに悲劇のヒロインぶっちゃっているんですか!! 目の前でそんな事されたら、黒歴史ノート見せられているみたいでむずがゆいんですよ!!」

 

「み、観束先生……!? いや、お師匠様!?」

 

 沈黙を破り大声を上げたのは、つい最近、華に弟子入りされたトゥアールだ。

 何かを思い出しては全身をかきむしるかのような仕草を見せるトゥアールは驚く華を捕まえる。

 

「いいでしょう。こうなったら徹底的に叩きこむっきゃありませんね!! 連絡つかなかったこの数日間、教えれなかった事は山ほどあります。覚悟してください!!」

 

 そう宣言したトゥアールは捕まえた華を連れ、この場を後にしようとする。

 勿論、華はおろか和輝たちも訳が分からない。

 あまりにも唐突過ぎる。

 

「おいトゥアールさん!! シャイターンギルディはどうすんだよ!!」

 

「そうですよ!! 今は私なんか……」

 

「捜索は悠香と青葉さんお二人に一任します!! だから華先生はつべこべ言わずついて来る!!」

 

「は、はい!!」

 

「え、ちょっと待って!? あたし!?」

 

『僕も……!?』

 

 この場にいる悠香は当然、基地に残っている青葉もこれには困惑を隠せない。

 当たり前だが、ティアナもである。

 

「ちょっとママ!? どういうつもり!?」

 

「敵の居場所が分かり次第報告してください!! 直ぐに戻りますから!!」

 

 ティアナの言葉も聞かず、トゥアールはそう言い残すと華を連れてその場を後にした。

 港の倉庫街に残るのは何もわからずただポカンとする和輝たちだけである。

 

 

 

 

 極彩色のゲートを抜け、ベリアルギルディはこの漆黒の固有空間へと帰還する。

 勿論、隣にはシャイターンギルディがおり、ベリアルギルディは苛つきを抑えきれていない。

 

「何故このオレ様がむざむざと撤退せねばならんのだ……!! あの程度の小細工に……」

 

 あえて言うが、撤退指示をしたのはベリアルギルディ本人である。シャイターンギルディではない。

 いくらプライドが高いベリアルギルディと言えど、戦況を見極める為に撤退できない馬鹿ではない。

 咄嗟の判断で撤退を選ぶ理性は残っているのだ。

 尤も、だからとて敗走した事実を納得するかは別である。

 

「何故にどうして貴様らはこうも役立たずなのだ……!!」

 

「ごめん……」

 

 今までとは打って変わってしおらしくなるシャイターンギルディ。

 余程、先程の敗北が答えたと言える。

 ただ、今のベリアルギルディには火に油を注ぐだけだ。

 

「謝罪など不要だ。そんな物に何の価値もない。選ばれし一握りの存在なら結果で示せと何度言えばわかる?」

 

「うぅ……」

 

 ビジネスライクな関係故に結果こそ全てである以上はごもっともな発言である。

 ベリアルギルディは冷たくシャイターンギルディを突き放す。

 

「回復を終え次第、直ぐにあの娘を捕らえろ。次の失敗を看過する程、オレは慈悲深くはないんでな」

 

 万全な状態になるまで長く見積もっても数時間程度。

 物理的には不死身と言えど、心に負った傷は深い。

 シャイターンギルディは夜明けまでがタイムリミットであると認識した。

 

「わかったよ……、ウチ行ってくる……」

 

「期待はせん。直に強欲の性癖がやってくる頃だろうよ」

 

 そう言い放つと同時にシャイターンギルディはこの空間から追い出される。

 出てきた先はシャイターンギルディが潜伏しているとある大きな廃倉庫。

 中は煙草の臭いと煙で充満しており、行方不明になった少女たちがスパスパと気持ちよく煙草を吹かしてはガラも品もない笑い声を上げていた。

 

「乙~。って……どうしたのシャイちゃん?」

「先生の恰好じゃねぇし……アレ? 泣いてる?」

「マジ? 泣いてんの?」

「何あったし!?」

 

 帰還したシャイターンギルディに気づいた少女たちが何があったのかと騒ぎ出し、慰めに入る。

 彼女たちにとってシャイターンギルディは喫煙属性(スモーカー)へと目覚めさせてくれた恩人なのだ。

 シャイターンギルディはそんな彼女たちの心配を見て涙を拭う。

 

「べ、別に……!! ウチは泣いてなんかいねぇんだよ!!」

 

「うっそ~、しょーこ写真いっぱいあるけど?」

 

「撮ってんじゃねぇッ!!」

 

 そうやって笑いあう彼女たち。

 一見すると、夢にまでみたエレメリアンと人の共存の図であるが、充満し立ち込めるドギツイ煙と未成年者が狂ったように煙草を吸うこの空間その物がそれを否定する。

 ここにいる少女たちは皆、本心でここに残っている。

 だがそれは喫煙属性(スモーカー)の持つ強烈な魔力による影響だ。

 成熟していない若者にとってこの属性は危険すぎる。

 

「んな事より、いいかいみんな!! 日をまたぎ次第、テイルバイオレットの奴らにカチコミだ!! ご褒美に最高のヤニを吸わせているから、気合入れていけよ!! ウチらの結束みせてやろうじゃないか!!」

 

 狂う少女たちは誰しもがその言葉に賛同し声を上げた。

 

 

 

 

 夜となり、太陽に代わって街を照らすネオン溢れるここは仕事終わりの大人たちが賑わう繁華街。

 焼き鳥、ラーメン、居酒屋にバーは勿論、キャバクラ、クラブ、果てには風俗。

 酒や煙草片手に楽し気に笑う大人たちの声が弾んで聞こえてくる。

 ある意味ここは日々社会の荒波に飲まれる大人たちのオアシスとも言える。

 高校生程度の若者であれば即刻警察のご厄介になるのは確実だろう。

 そんな夜の大人の街をトゥアールと華は突き進む。

 

「ちょっと待ってください……!! 何処へ連れて行くんですか!!」

 

 流れからしててっきり採石場のようなもっと静かで人気のない特訓場にでもにでも連れて行かれるかと思っていたのに、ここはその対極に位置するような場所だ。

 都市部に近づくにつれ、華はそうやって疑問をぶつけ続けるも、トゥアールは何も答えずトゥアルフォンの画面をチラチラ確認しながら人混みを掻き分けていく。

 数分後、トゥアールの足が止まる。

 

「ちょっと混み合っていますけど、ここにしましょうか」

 

「は、はい?」

 

 華はトゥアールが指さす店を確認する。

 そこは特に何の変哲もない普通の大衆居酒屋であった。

 別段、隠れた名店とか知る人ぞ知るような秘密基地のような店ですらない。

 至って普通……と言うより、都市部には大体あるようなありふれたチェーン店だ。

 

「悩みましたが、こういう時は案外普通の店が最適なんですよ」

 

「え? どういう……?」

 

 何故、ここが最適なのか? 何故、居酒屋なのか? 

 華の疑問は尽きない。

 トゥアールはそんな困惑する華を知って知らずか店の扉を開く。

 

「「「いらっしゃっせーーー!!」」」

 

 開けた途端に聞こえてくるのは元気のいい店員の声。

 ジョッキや皿を運ぶ彼らの熱意が伝わってくる。

 普段、こういった場所に来ない華が思わずたじろぐ一方で、トゥアールは堂々と自然体のままだ。

 バンダナを頭に巻いた如何にもといった風貌の店員がやってくる。

 

「何名様でしょうか?」

 

「二人ですね」

 

「当店は喫煙可能でございますが、お煙草よろしいでしょうか?」

 

「問題なく、大丈夫です」

 

 手慣れた様子で店員とそう受け答えするトゥアール。

 華がおろおろしている間もなく、壁際の席へと通された。

 席に着き一息つくことで、外よりも一層大きな喧騒と共に煙草と揚げ物の臭いが混ざりあった臭いが鼻を刺す。

 華は恐る恐る尋ねんとする。

 

「えーっと……あの……私たち……」

 

「ご注文はおきまりでしょうかー?」

 

 この手の大衆居酒屋はまず飲み物を頼むのがセオリーである。

 故に席へと通されて数分も経てば注文を尋ねられるのは当然だ。

 華の声はあっさりとかき消された。

 

「私はとりあえず生を、華先生はどうします?」

 

「え!? じゃ、じゃあ烏龍……」

 

「ウーロンハイで!!」

 

「ええ!?」

 

 哀れ、華の注文はトゥアールによって即座に改変された。

 慌てて訂正しようとするも、時すでに遅し。

 元気のいい「かしこまりました~!!」と共に店員が席を離れてしまう。

 そしてすぐに、生ビールとウーロンハイがやってきた。

 

「愛香さん以外と来るなんて随分久しぶりですけど、気にしないで沢山飲んじゃいましょう!! 今日は私の奢りです!! 遠慮なんてせずにどうぞ!! では乾杯!!」

 

 ジョッキ片手にそう乾杯の音頭を取るトゥアール。

 華は未だに困惑したままなので、傍目から見ればテンションの高さが空回りしているようである。

 しかし、トゥアールは何一つ気にせず豪快に生ビールを一気飲みし、飲み干した。

 

「ぷはーッ!! たまにはいいですねー!! こういうのも!! 日々のストレスがぶっ飛びます!!」

 

 テンション高めなトゥアールは実に上機嫌だ。

 思い返せば、ティアナこと総愛を追ってこの次元へとやってきて以降、様々な対応に追われていたが為に酒の一つも碌に飲んでいなかった。

 トゥアールが思い出すのは総愛が生まれる前の大学生時代。当時トゥアールは、よく愛香と二人で朝まで飲み明かしていた。作戦会議と言い張り、どうすれば総二にツインテール以外で想いが伝わるかを仲良く罵り合りを交えつつじゃれていた。時折、慧理那やイースナ、他の面々に乱入されるのもお約束であったという。

 

「すいませーん!! おかわりお願いしまーす!!」

 

 その後も、華を気にせずおかわりを続けるトゥアール。

 いつの間にか、既に4杯目。

 そのままつまみに何か料理でもと注文しようと少し落ち着きを見せた時、再び華が声をかける。

 

「あの……これの何処が修行なんでしょうか……?」

 

 イメージチェンジの為なら痴女にでもなって見せると斜め上に張り切った華であっても、ただ気持ちよく飲んでいるだけのこの行動はまるで理解できなかった。

 無論これは、生徒である他の仲間たちが頑張っているであろう際中だからというのもある。

 対してトゥアールはあっけらかんと言い放つ。

 

「修行だなんてそんな大層な物じゃありませんよ。今はただ、好きなだけ飲んで気持ちよくなる。ただそれだけの時間です」

 

「は、はぁ……?」

 

 もしかしたら何かの修行ではと思っていた華であったが、その可能性すらも否定されてしまう。

 ならばとばかりに華はその他別の意味を考え込み始める。

 ここはどこにでもある大衆居酒屋……喫煙可能……何かをするのに最適……それは修行ではない……

 華の脳裏に一つの可能性が浮かび上がる。

 

「もしや……観束先生は喫煙属性(スモーカー)に対抗する為にこのような場所で耐性を? 日常的に煙草の煙に慣れればどんな時でも怖くない……お酒を沢山飲むのも敵の能力に飲まれるなのメッセージ……そう言う事ですね!!」

 

「あ、別にそういう訳でもないですね」

 

 華の深読みはトゥアールにバッサリと否定された。

 事実、トゥアールがこの店を選んだのはネットでの評判を見て入りやすそうだったからに過ぎない。

 読みを外した華は思わずズッコケかける。

 

「じゃあ何なのですかー!?」

 

 叫ぶ華は少し涙目であった。わけのわからない事の連続に頭がパンクしそうなのかもしれない。

 それを見たトゥアールは少し意地悪く微笑むと、ある事を指摘する。

 

「ソレ、飲まないんですか?」

 

「え……?」

 

 ソレとはつまり、最初に注文したウーロンハイの事である。

 トゥアールの指摘通り、ウーロンハイにはまだ一口もつけていなかった。

 

「え……っと、その……」

 

「華先生ってお酒飲んだことありませんよね?」

 

 口ごもる華へとトゥアールがそう問いかける。

 答えは勿論、YES。ストイックに様々な物を縛って来た華には縁がなかった物の一つだ。

 

「まぁ、そうですけど……今はちょっと……」

 

 華にとって酒や煙草は健康を害する物であり、昔から基本的に百害あって一利なしと認識している。

 先日友達に誘われた際に行くかどうか迷ったのも、たまたま気分が落ち込んでいる時に友達と出会えたからに過ぎない。

 さらに言えば、華は誘惑に負けて喫煙した為に身体を奪われ心に傷を負っている。

 酒を含めたその手の嗜向品への警戒心は現状MAXであると言える。

 

「たまにはいい物ですよ。大人だけの特権だと思えば優越感も格別です。そりゃあまぁ、飲み過ぎは身体に毒ですけどね」

 

 そう言った直後、トゥアールは4杯目を飲み干した。

 飲み過ぎはいけないのでは……と華は苦笑いを浮かべる。

 

「そもそも、自分自身を変えたいのであれば、こういう所から変えていく方がいいですよ。無理してキャラ作っても苦労するのも自分だけなんです。別にルールを破っている訳でもないですしね」

 

 これはシャイターンギルディも言っていた事であるが、和輝らと違って大人である華が酒や煙草を楽しむのは悪い事ではない。

 周りに気を付け迷惑をかけないのであれば後はただの自己責任なのだ。

 トゥアールの妙に説得力のある言葉に華の心は揺れる。

 

「こんな場所なんです、お酒飲んで色々吐き出した方がいいですよ」

 

 いつもの剽軽だったり真剣だったりする雰囲気とは打って変わって優しくそう諭すトゥアール。

 彼女の名誉のために一応言うが、吐き出すのはゲロではない。絶対に。

 

「でも私……」

 

「別に言いたくないなら言わなくてもいいんですよ。言いたくなったら言ってください」

 

 下心一切なく微笑むトゥアールはまさに天使のようだ。

 流石、奇行さえなければ王道メインヒロインとなれた器ではある。

 

「そうです……!! もし、自分の事が言えないのであれば私の事について何か話しましょうか? この観束トゥアール、自慢ですけど総二様とのあれやこれやは沢山ありますので、ジャンジャン聞いてみてください!!」

 

 ここで自慢ではないと答えず、堂々と自慢であると答えるのがトゥアールらしい。

 ティアナや和輝がこの場に入ればツッコミを入れていたのは想像に難くない。

 尋ねられた華はふと、ここへ向かう直前のトゥアールを思い出す。

 

「あの……もしかしてですけど……観束先生って同じような体験をなされた事があったりします?」

 

「へ?」

 

「いや、その……敵に操られたとか……もしくは仲間を一時的に裏切ってしまったとか……」

 

 自暴自棄になる華を見て何かを思い出したかのような仕草をしたあの時のトゥアール。

 その事を思い出した華は不思議なシンパシーを感じ取った。

 トゥアールはギクリとわかりやすく動揺してみせた後、少ししんみりとした雰囲気で語りだす。

 

「その昔、とある復讐者の話です。その子は無力で役立たずで何から何まで愚かでした。本心を仮面で隠し、自分自分を否定し、挙句の果て、愛する人も友達も全部裏切って勝手に一人、自己満足で果てようとする本当にどうしようもない大馬鹿者です」

 

 その言葉の一つ一つに重みがあり、複雑な事情があったのだと確信できる。

 聞き終えた華はとある事を尋ねた。

 

「それで……その子は一体……」

 

「消えました。旅を終え、いずこかへと消え、きっと何処かで生まれ変わっています」

 

 そう口にしたトゥアールは何処か感慨深い様子であった。

 

「それって観つ――」

 

「あーはいはい!! それ以上の詮索は禁止です!! こんな昔話は放っておいて乾杯の再開にしましょう!! こんなしんみりした空気では折角のお酒が台無しです!!」

 

 これ以上は恥ずかしいのか、そう強引に話を終わらせたトゥアールは酒を飲もうとジョッキを掴む。

 がしかし、先程飲み干したばかりであるが故に空っぽであった。

 動揺と共に酔いが回り始めるトゥアールは華が未だ飲んでいなかったウーロンハイに手を伸ばす。

 

「あ……、それ、私の……」

 

 華が止める間もなくトゥアールはグラス一杯一気に飲み切った。

 その後、トゥアールは華を置き去りにするかのように何度も何度もおかわりを続けていくのだった。

 

 

 

 

 トゥアールさんが華先生を連れて何処かへ行ってしまったその後。俺たちはシャイターンギルディと奴に攫われた行方不明者の捜索を開始。

 悠香さんは聞屋としての情報網、匠はかつてのアルバイト仲間たちから、青葉さんは基地の設備を利用、皆様々な方法で情報を集めている。俺とティアナはマシントゥアールを使っての行動範囲の広さで貢献だ。

 トゥアールさんが残したメッセージには、華先生に憑依していた時は同時に取り込まれていたテイルギアの認識攪乱が邪魔していたから見つけられなかっただけで、今なら潜伏先を見つける事は可能だと思うとの事。

 つっても、流石に21時をまわった今の時間に高校生が情報を集めて探し出すには無理がある。

 基地の設備を利用している青葉さんでは、フルスペックで使用できないって所も痛い。

 

「クッソ……全く、どこ隠れてやがる……!!」

 

 ぼやいても仕方ないのはわかっているんだが、思わず口に出てしまう。

 こうしてみると、ごく最近からとは言え、トゥアールさんのおかげで相当楽しているのだとわかる。

 

「なぁティアナ? ツインテールの反応は?」

 

「頑張ったけど流石に無理。ちょっと範囲が広すぎるし、行方不明者の中にはツインテールにしてない人も大勢いるだろうから絞り込めない」

 

 念のためにティアナにそう聞いてみたが、そりゃあそうか。

 一応、シャイターンギルディの秘めたツインテール属性自体は微かに感じるらしいので、この世界もといこの地球の何処かにはいる筈だ。

 

『こちら悠香。和くんたちの方はどう? 何かわかった?』

 

 直後、トゥアルフォンが鳴り、悠香さんからの連絡が入る。

 俺は何の成果もない事を伝え、悠香さんも同様の事を伝えてきた。

 

「やっぱ無理じゃねぇか? トゥアールさんが戻ってから改めてやった方が良いと思うんだけどよ」

 

『そうね、こっちも時間的にちょっと厳しいし……ただでさえこの連続失踪事件の影響で補導が増えて動きづらいのもね……』

 

 ここまで何度巡回する警察官と出くわしそうになった事か……

 いやま、向こうだってこの事件を解決するべく頑張ってはいるんだろうけど、俺たちからすりゃいい迷惑だぜ。

 世間一般に正体を隠しているのがもどかしくなっちまう。

 

「とりあえず、俺たちは一度戻ります。それじゃ」

 

 そう悠香さんに伝えた俺は、ティアナの了承を得たうえで基地に帰還しようとマシントゥアールを発進させようとする。 

 その時、前方から大量のバイクが近づいている事に気が付いた。

 珍妙な恰好に頭悪そうな男連中……あれって何処かで……

 

 

「オイお前ら!! あれってもしかして!!」

「ああそうだ!! 間違いねぇ!!」

「命の恩人!!」

「俺たちの女神!!」

 

「「「テイルバイオレットの姉貴~~!!!」」」

 

 そう言いながら一糸乱れぬ走行でやってきたバイク乗り集団を見て思い出す。

 こいつらは確か、ムルムルギルディとか言うバイク乗りのエレメリアンに襲われた暴走族じゃねぇか!!

 どうしててめぇらと再会するんだよ!?

 てか姉貴って何!?

 

「お久しぶりです!! 姉貴と姐さん!!」

 

「誰が姉貴だ!! てか正体ばれてんじゃねぇか!!」

 

「まぁ、隠れてなかったし……」

 

 ティアナがボソッとそう漏らす。

 いやま確かにあん時は緊急だったから隠れる余裕なかったけどさ……

 てか正体バレ云々より、俺が姉貴呼ばわりでティアナが姐さんって……俺はせめて兄貴にしてくれ……

 

「俺たち、あの後心を入れ替えたんです。今の俺たちはテイルバイオレットの姉貴の魅力を広める為走る、テイルバイオレット親衛隊です!!」

 

 リーダーらしき男がそう宣言すると共に他の男たちも野太い叫びを上げ、自前で作ったとされるテイルバイオレットグッズを掲げて見せた。

 タオル、マフラー、ヘルメット、あと旗。

 よく見たら全員のバイクがテイルバイオレットの痛車と化していやがるし、着ている服の背にはテイルバイオレットの絵と帝龍爆威鬼烈斗(テイルバイオレット)の刺繍までしてやがる。

 なんかもう、最悪だ……

 

「ねぇ和輝? これって丁度いいんじゃない?」

 

「は? どうしたよオイ」

 

 盛り上がる馬鹿共を見て頭抱える俺と対照的にティアナは何かを閃いた様子。

 何が丁度いいか訳わかんねぇぜ。

 

「ねぇみんな?」

 

「「「なんすか姐さん!!」」」

 

「ここ最近の未成年者失踪事件は知っているかしら?」

 

 あまりピンと来ていないのか、何人かの男たちが首を傾げる。

 まさかティアナはコイツらに協力してもらおうってのか?

 いやま、確かに知ってそうだし頼りになりそうだけどよ……

 全員に聞いた結果、数人の男が手を上げた。

 

「自分ちょっと心当たりがあるっす」

「俺も俺も」

「確か、隣町の外れにある廃倉庫が女どもの根城になっている噂が……」

 

 そう口にした男たち。

 これにはティアナも俺もびっくりだ。

 

「本当!?」

 

「マジか!?」

 

「は、はい!!」

 

「案内してくれ!!」

 

 俺がそう頼むと、男たちは元気よく喜んでと大声を上げた。

 蛇の道は蛇、不良の道は不良って訳か(?)

 かくして俺とティアナは、テイルバイオレット親衛隊の先導を受けながらマシントゥアールを向かわせるのであった。




トゥアールが居酒屋で酒飲む二次創作は今作だけだと思います。
厳密には本作のトゥアールは原作とは別人ではありますけど、一応19巻までの内容はレイジの介入ありとは言え経験してはいるんで。
あと、テイルバイオレット親衛隊は少年ライダー隊をイメージしたパロディキャラの筈だったんですけど……
見た目含めてどうしてこうなった……
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