俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

142 / 164
第142話 清も濁も飲み干して

 都市部を抜け、僅かな灯り照らされる夜道を疾走するマシントゥアール。

 前方にて俺たちを先導するのは、形から色まで様々な見た目が特徴のテイルバイオレットの痛バイに乗った集団。暴走族あらため珍走団……もといテイルバイオレット親衛隊。それがアイツら馬鹿共の名前だ。

 

「オイお前ら!! 憧れの人がいるからって調子に乗んじゃねぇぞ!! 安全運転第一!!」

 

「「「ッたりめぇよぉッ!!!」」」

 

 リーダーの声に元気よく返事をする親衛隊の面々は赤信号を見てしっかり止まる。

 もう殆ど人気もない夜道、ちょっとくらい信号無視してもバレそうにないってのに見た目に反して妙に律儀な奴らだ。

 俺はそんなコイツらを見てギャップ含めてズッコケそうになる。

 

「本当に改心したのね……」

 

「そうみてぇだな……」

 

 ティアナの言う通り、どうやらコイツらは本当に改心した様子だ。

 さっきの返事とかを除き、コイツらは騒音を起こさぬように大声を上げたりしていないし、改造のせいなのか排気音も一般的な範疇に収まっている。しかも、出来る限り横に広がらないように走るのは勿論、交通ルールも安全もしっかり守っていやがるときた。

 ムルムルギルディとの一件の際は何処の世紀末の住人だよとツッコミを入れたくなる奴らだったってのに……この変わりような最早ギャグの領域だぜ。

 そんな俺たちの呟きに気づいた最後尾の男が隣へと下がり突然語りだす。

 

「俺たち、あん時助けられて自分たちの愚かさって奴に気づいたんス。勝手に落ちぶれ、生きがいも持たず、ムカつく親や教師に反抗して反社会的な行動を取り続けた自分たちの行動が滅茶苦茶カッコ悪くバカみたいだなってわかったんス」

 

「お、おう……」

 

「そ、そう……」

 

 俺とティアナは互いに生返事で返すも、男の言葉はどんどん熱くなっていく。

 

「あん時のテイルバイオレットの姉貴の姿、滅茶苦茶カッコよかったんス。それまでテイルバイオレットはこんな社会のクズ同然の俺たちなんかどうでも良いと思っているんだろうなって勝手に思っていて……。だからこそ、そんな俺たちを救ってくれたのが滅茶苦茶感謝しているし、ただ口だけの親や教師とは違うなって思えたんス」

 

 感謝からくる感動からか、男はいつの間にか涙を流していやがった。

 適当に返事をして聞いていた俺もこれを見せられたら流石に見方が変わって来る。

 

「姉貴たちは、本当の意味で俺たちの女神なんス。姉貴がいなかったら俺たちきっと、いつか取り返しのつかない事して腐っていったんス。姉貴はそんな俺たちを救い、生きがいをくれたんス」

 

 いつの間にか、俺の目頭も熱くなっていた。

 何つうか、きっと俺もコイツらと同じように、ティアナと出会わなかったら俺自身が嫌悪している同類に成り下がっていたと思うと余計にだ。

 

「べ、別に……お前らみてぇな屑、救うつもりなんてなかったんだよ……!! あん時はムルムルギルディの野郎がムカついただけだっつーの……」

 

「でも、救ってくれたのは事実なんス。だから俺たちは生まれ変わったんス」

 

 いつもの悪癖でつい口悪くそう言ってしまった俺であったが、男はそう言って感謝し頭を下げる。

 同タイミングで信号が青へと変わり先方の連中から順に動き出す。

 

「俺たち、今後は姉貴の魅力を伝える為に生きていくんス」

 

「お前ら……!!」

 

「先ずは俺たちと同じような落ちこぼれから」

 

「おう。……って、うん?」

 

 同じような落ちこぼれから?

 それって何? 暴走族とか不良グループからって事か?

 聞き捨てならねぇ発言を聞いたと思った瞬間、男は走り出す。

 

「既に関東は全制覇、いずれは全国全て姉貴の魅力を普及してやるんス!!!」

 

「はぁぁ!?」

 

 何? つまり、俺は全国各地のアホバカクズの女神にされるってのかぁ?

 冗談じゃねぇよ!! 俺は昔っから不良って奴が大嫌いだし、そんな奴らに祀られるなんてまっぴらごめんだぜ!!

 おいバカヤメロと止めようとするがもう遅い。

 男は先方の連中へとついていき、そのまま大声で俺たちの活動が公認された事を報告。

 親衛隊の奴ら全員が歓声を上げる。

 

「よっしゃー! 任せてくださいテイルバイオレットの姉貴!!」

「こう見えて俺たち、全国に仲間がいるんですよ!!」

「見ててください。日本全国各地のシンボル、姉貴色に染めてやります!!」

 

 後で聞いた話だが、コイツら見かけによらず、暴走族及び不良グループの勢力では日本でトップクラスの物らしく、各地に傘下と呼ばれる奴らがいるんだと。

 頭抱えたくなる話だが、テイルバイオレットが不良たちの女神になるのはそう遠くないだろう。

 

「はぁ……嘘だろ……」

 

「まぁ、いいじゃない。あの人たちが布教するって事はちゃんと更生してくれるって事でしょ?」

 

 ティアナがそうフォローしているけど、更生という言葉と聞いて不安しかない。

 いやだって、確かに以前のような荒々しさはないけれどよ、服やそれらが完全に俺を崇める珍走団のそれじゃねぇか。

 

「それにテイルバイオレットの事を広めてくれるなら、ツインテール好きも増えるって事じゃないの」

 

「お、おう……」

 

 やっぱりお前はそこなのかよとツッコミを入れてやりたい。

 気力がわかず言葉を飲み込んだ俺はマシントゥアールを駆って親衛隊へついていく。

 街を抜け、目的地の廃倉庫が見えて来た。

 

 

 

 

 同時刻。都市部のとある繁華街にある大衆居酒屋。

 トゥアールに飲みにつれて来られていた華は、酔っ払い出来上がってしまっているトゥアールへ肩を貸しつつ店を後にしていた。

 

「愛香さぁ~ん、どこ行っちゃったんですかぁ~」

 

「し、しっかりしてください……!!」

 

 ぐでんぐでんに酔っ払うトゥアールはもうここが何処なのかすら認識できていない。

 それもある意味仕方ないだろう。

 あの後結局、トゥアールは華を置き去りに酒のおかわりを何度も繰り返し、最終的には二桁を超す程の量を飲んでいたのだ。

 

「あれぇ? 愛香さん……いつの間にかおっぱいおっきくなっちゃってますねぇ~」

 

「愛香じゃなくて私は華です!! ちょ、ちょっと揉まないでください……!!」

 

 理性が働いていないせいか、トゥアールは華の胸をいやらしく揉んでみせる。

 トゥアールの容姿が端麗でないのなら一発で通報されていたであろう。

 

「愛香さんでも華先生でもだいじょ~ぶですよぉ。テイルブルーとテイルブルームで一字増えただけじゃないですかぁ~」

 

「全然違います!! ブルーは青、ブルームは花!! 意味もスペルも別物なのです!!」

 

 華の真面目で何処かズレてるツッコミが飛ぶ。

 トゥアールはそんな華を見て何処か楽しそうにスキンシップを続けていく。

 愛香、ティアナ、そんな普段の制裁役である母娘がいないトゥアールはある意味では無敵とも言える。

 尤も、さすがの母娘もこの酔っぱらったトゥアールを相手するのは至難の業だろう。

 

「さぁ……次は何処行きますぅ? 夜はまだまだ始まったばかりですよぉ~」

 

「えぇ!? まだ行くんですか!?」

 

 困惑する華をトゥアールは二軒目へと誘う。

 先程トゥアールに酒を奪われて以降、結局一杯も飲むことが出来ていない華からすれば、この誘いは正に地獄の一丁目。

 今ならば兎も角、これ以上酔っぱらったトゥアールの相手は精神にかかる負担が強い。

 もしも、華も酔っぱらっているのであればそうではなかったのだが、現に今、華は素面なのである。

 

「当たり前でぇす!! だって華先生……まだ飲んでいないじゃないですか~!!」

 

 ハイテンションにそう指摘したトゥアールの言葉を聞き、ぎくりと動揺する華。

 何故ならば華は酒を飲めなかったのではなく、飲まなかったからだ。

 

「でも、私が飲んだら……観束先生が……」

 

 小さくそう口にする華であるが、それは言い訳に過ぎない。

 今の華は自分も飲んでしまえば介抱できる人がいなくなるからしょうがないと心に言い聞かせ飲むことを拒んでいる。

 尤も、それだけならまだいい。飲みたくないのに飲ませるのはただのアルハラだ。流石のトゥアールも酔っぱらいながらもそこはわきまえており、華が本心から飲みたくないと答えているのなら何も言っていないだろう。

 だが、今の華は違う。

 今の華は私も飲んでみたいという好奇心と憧れの全てを、煙草の誘惑に負け結果としてシャイターンギルディ憑依された過ちを踏まえて強引に抑え込み、ただただ無理をしているだけなのだ。

 結局、踏ん切りもつかず一線を越えることが出来ていない。

 

「華さぁ~ん、そんな事言わずぅ……」

 

 呂律が回り切っていない舌で再度華を誘おうとするトゥアール。

 そんな時、白衣のポケットが震え、トゥアルフォンへ着信が入る。

 トゥアールの顔つきが変わった。

 

「総愛ですか? どうしました?」

 

『ママ!! シャイターンギルディの居場所がわかったの!! 今、和輝と一緒に到着したとこ!!』

 

 着信相手は総愛(ティアナ)だ。

 丁度現在、和輝とティアナの二人は目的地へと到着しており、言いつけ通りその旨を連絡してきたと言った所である。

 愛する娘たちの危険を感じたトゥアールは今さっきまでのべろべろだった姿から一転、皆を纏める指揮官としての覇気を取り戻す。

 

「わかりました。すぐに基地へと戻りますので、総愛はその場で待機していてください。くれぐれも――オェッ……」

 

『え、何? ママ? どうしたの!?』

 

 しかし、そこはやはりトゥアールと言った所か。

 無理をしたからか、少し顔色が悪い。

 ティアナに心配されるが、持ち前の気力とタフネスで何とか耐えきってみせる。

 

「と、兎に角……直ぐに戻ります。オェッ……」

 

『う、うん。無理しないでね……』

 

 ティアナにそう気遣われながら通話を切るトゥアール。

 一瞬、とても嘗て正義のヒロインだったとは思えないよう酷い顔になるが、ポケットからにゅるんと取り出した四次元エチケット袋(仮)へとひとしきり吐き終え顔色を整える。

 

「あ、あの……観束先生? 大丈夫ですか……?」

 

「お気になさらず。それよりも華先生、シャイターンギルディの居場所が特定できたようですけど、どうしますか?」

 

 心配していた華へと向きなおったトゥアールがそう問いかけた。

 決心出来ない華は黙り込む。

 

「やはり私……」

 

「いえ、無理にとは言いません。今は休息を第一に考えてくれればそれで大丈夫です」

 

 項垂れる華の肩をポンと叩き、トゥアールは優しくそう言葉をかけた。

 華は自分自身の情けなさに涙をこぼす。

 

「こちらこそ、無理して飲みになんて誘ってしまいすいません。ですが、これはせめてものプレゼントです。どうぞ」

 

 そう言ってトゥアールは白衣のポケットからある物を取り出した。

 それはデフォルメされたトゥアールもとい電子妖精とぅあるんがプリントされた一升瓶。

 

「これは以前、和輝君にプレゼントしたトゥアールジュースを華先生用に調合し直し、かつてとある大人の事情からお蔵入りになっていた物を復活させた、名付けて『トゥアビール』。お口に合えば幸いです」

 

 華に手渡された袋に入ったそれはトゥアビールと呼ばれるトゥアール特製のお酒であった。

 受け取った華は涙を流しながら頭を下げる。

 トゥアールはそんな華へと優しく微笑みかけ、そして背を向ける。

 

「では、総愛たちが待っていますので」

 

 そう言うが早く、トゥアールは繁華街の人混みの中へと消えていく。

 残された華は一人、トゥアビールの入った袋を抱え反対側へととぼとぼ歩いていくのであった。

 

 

 

 

 テイルバイオレット親衛隊の案内を経て到着した隣町のはずれ。

 私と和輝が見たのは荒地にポツンと佇む廃工場跡地に残された廃倉庫。

 閉じたシャッターには年季のある落書きがあり、あちこち汚れが目立つ壁には蔦や雑草が絡まっていて、恐らく誰にも使われなくなって随分経つのでしょうねと推測できる。

 だけど、くすんだ窓や所々の隙間からは煌々としたドギツイ光が漏れていて中に誰かがいるのだとわかる。

 ガラの悪い下品な笑い声もセットで聞こえてくるのは嫌な予感しかしない。

 

「どうする? 正面からカチコミかますか?」

 

 外からの様子を伺い終えた和輝がそう尋ねてきた。

 頷きつつも私は、自身が感じ取った不安を述べる。

 

「そうね。でも、ママが戻るまでは一先ず待機といきましょ。多分恐らく、あの中で騒いでるのは連れ去られた人たち……」

 

「ま、十中八九そうだろうな。喫煙属性(スモーカー)……厄介な属性だぜ」

 

 和輝の言う通り、喫煙属性(スモーカー)は極めて厄介な属性と言えるわね。

 喫煙属性(スモーカー)もとい煙草本来の強烈な依存性とそれに伴う危険性……喫煙者が悪だとまで言い切るつもりは流石にないけれど、やっぱり受け入れきる事はできない。

 

「あの……姐さんたち……俺たちはどうすればええんですかい?」

 

 付近の瓦礫山の裏で様子を伺っている私と和輝の背後、同じく待機しているテイルバイオレット親衛隊の一部がそう尋ねてくる。

 よく見ると、親衛隊他メンバー全員が戦う気満々と言った様子だった。

 

「どうすればいいとか聞いてんじゃねぇよ。教えてくれた事には感謝してやっから、さっさと帰れっつーの……」

 

 相変わらずの態度で帰る事を促す和輝。

 でもそれが、この人たちを危険に巻き込みたくないから故の優しさなのはすぐわかる。

 無論、親衛隊のみんなにもお見通しの様子だった。

 

「水くせぇっスよ!! 俺たちだって戦うっス!!」

「そうですよ! 俺たちと姉貴の仲じゃないですか!!」

「今まで同様これからも命果てるまでお供してやんますよ!!」

 

「長い付き合いみたい言ってんじゃねぇ!! さっき再会したばっかだろうが!!!」

 

 盛り上がるみんなと的確にツッコミつつ叱る和輝。

 私としては力になりたいって言う気持ちはありがたく受け取るけど、和輝の気持ちもわかるし、大人しく待っていて欲しいかな。

 それに別に、命までかけては欲しくないし……

 

『随分と盛り上がっていますけど……どうしたのですか? そのヒャッハーな人たちは……』

 

 トゥアルフォンに通信が入り、出た先でママがそう困惑している。

 さっき連絡した時は凄く気持ち悪そうな声色だったけど、もう大丈夫そうで少し安心。

 ここへ辿り着いた経緯と親衛隊の面々を大まかに説明しつつ、考えられうる不安を伝えてみた。

 

『恐らく、総愛の不安は当たってます。先程、青葉さんが以前助けたお二人の行方がわからなくなっていると報告してくれましたし、彼女たちも同様にと考えていいでしょう』

 

 以前助けた二人。それは隣クラスの雪乃さんと神橋さん。

 シャイターンギルディが生きていた事から何となく察しがついていたけれど、やっぱり、また悪魔に魂を売ろうとしているって事みたいね。

 

「ま、全員気絶されりゃいいって事だろ?」

 

『手荒ですが、それが最適なのは間違いありませんね』

 

 和輝の発言を肯定するトゥアールママ。

 和輝は立ち上がり、拳を鳴らす。

 

「うっし、未成年の癖して煙草吸う悪い子は全員、俺たちがとっちめてやらぁ。そうだろティアナ?」

 

「うん、行きましょ」

 

 結局、作戦と呼べる作戦はない。

 真正面から乗り込んで元凶を倒してみんなを救い出す。

 原始的で野蛮だけど、そっちの方がしっくりくる。

 親衛隊のみんなにはいざという時まで待機しておいて欲しいと優しく嘘をつくかのようにお願いして待っていてもらう事にした。

 

「ねぇ、ママ? そう言えば華先生は?」

 

『華先生は……もう少し休息を取ってもらう事にしました。厳しいかもしれませんが、今回はお二人のみで頑張ってください』

 

 そっか……。

 残念だけど、こればかりは仕方ない気もする。

 戦う事も、ツインテールを結ぶ事も、最終的には華先生自身が決める事ではあるし……

 

「大丈夫だとお前だってわかってんだろ?」

 

 和輝の言葉に私は頷く。

 

「うん、華先生はまた必ず戻って来る。その為にも今は……!!」

 

「ああ。あのクソカス女……!! 今度こそブッ倒してやろうぜ!!」

 

 揃ってテイルブレス構え、テイルドライバーⅡを召喚。

 (ツインテール)を一つに重ね合わせ変身する。

 

「「デュアルテイルオン!!」」

 

 親衛隊のみんなが変身完了と共に湧き上がる。

 私たちは堂々と廃倉庫正面のシャッターへと向かい、シャッターを両断。

 中に籠る煙草の煙がドギツイ臭いと共に解き放たれ、中の様子が露わになる。

 

「キャアぁぁ!?」

「何々!? どしたの!?」

「カチコミ!?」

 

 騒がしく狼狽えるのは恐らく行方不明になっていたでろう少女たち。

 恐らくと言葉を濁したのは、その様子が明らかに普通じゃないから。

 憑依されていた時の華先生もそうだったけれど、ここにいる人の全員が煙草を咥えたり吹かしたりしているし、服装や雰囲気も行方不明になる前とはまるで違うであろう程にガラ悪くケバケバしい。

 天井に取り付けられたミラーボールが煌びやかに中を照らし、今までとは比べ物にならない程に濃い煙草の煙で充満するここは大人向けのクラブか何かだと勘違いしてしまいそうになる。

 

「なんだァッ!? みんなどうしたんだい!?」

 

 騒ぎを聞きつけ、奥からやって来るのは怪人形態のシャイターンギルディ。

 誰かに憑依しているわけでもなく、私たちが最初に戦った時と同じ姿をしている。

 シャイターンギルディは私たちの姿を見るなり、ゲッ!? と少し動揺して後退るけど、直ぐにいつもの調子を取り戻す。

 

「何度も何度も来やがって……!! ちょっとはウチら側にもカチコマさせろや!! 受けは苦手なんだよ!!」

 

 怒りながらそう言葉を放つシャイターンギルディに対し、トゥアールママが通信で茶々を入れる。

 

『受けが苦手ですか……レイジに負けた時の反応と言い、普段勝気なせいかテンプレ通りの女々しい奴ですね。一々発言が癪に障ります』

 

(受け? 守ったり防御する事よね……?)

 

「反応すんなよバカ……!!」

 

 心の中、恥ずかしそうに私を咎める和輝。

 私たち、和輝主人格のテイルバイオレットは気持ちを再度シャイターンギルディ及び周りの子たちへと向きなおす。

 

「言っておくけど、さっきまでのウチと同じだと思わないこったね。てめぇも、てめぇの中にいる小娘も、みんなヤニの虜にしてやんよ!!」

 

「お生憎、俺は生涯禁煙でいるつもりだ。煙草なんざに負けっかよ!!」

 

(そうよ!! 私たちの(ツインテール)は煙草なんかで汚させない!!)

 

 和輝と私、それぞれが強くそう宣言。

 シャイターンギルディは指をパチンと鳴らしては周りの子たちをけしかける。

 

「行きな!! ウチら喫煙属性(スモーカー)の絆、見せてやるんだよ!!」

 

 ツインテールVS煙草、決着をつける為の戦いが幕を上げた。

 

 

 

 

 一方、こちらはトゥアールと別れ一人帰路につく華。

 繁華街の中心部を抜けると、先程まであんなにも騒がしかったのが嘘だったのかと錯覚してしまいそうになる比較的静かではある。

 知る人が知るであろう昔ながらの老舗飲み屋がぽつぽつと点在し、酔いつぶれた初老の男たちが道端で眠りこける。

 客引きや店先で喧嘩する者がいないだけでこうも静かになるものかと誰もが驚くだろう。

 

「あの~? ちょっといいですか?」

 

 街灯僅かな脇道へと差し掛かろうとした時、背後から呼び止められる。

 振り向くとそこにいるのは近辺の見回る警察官の男。

 要するに町のおまわりさんによる職務質問というやつである。

 

「こんな場所で、お仕事のお帰りですか?」

 

「え、ええ……まぁ」

 

 エレメリアンの憑依から助けられ、そのまま飲みに連れて行かれたとは言えないし、言っても信じないだろう。 

 曖昧な返事をする華であるが、警察官の男は疑う事はなかった。

 夜遅くにこんな場所で女性一人である事に注意を促した後、華は職務質問から解放される。

 

「本当に気を付けてくださいね。最近、若い女性の失踪事件が頻発していますので」

 

 去り際にそう言って念を押す警察官の男。

 何気なく、ただ仕事柄そう言っただけなのであるが、華の沈む心には深々と突き刺さった。

 

「私がやった事なのよね……」

 

 ここら最近頻発していたと聞く未成年女子失踪事件。

 それら全てはシャイターンギルディに憑依されていたとは言え、華自身の手でやったという事は覆しようもない事実であり、華にとってどうしようもない後悔を与えている。

 辛さから逃げ、快楽に溺れ、罪を犯し、そして今、また逃げてしまっている。

 これでは、かつて魔法少女と名乗っていた時期と何も変わらない。

 自らを律し続けたあの頃のままである。

 

「ごめんなさい……」

 

 この件に関わるありとあらゆる全てにただ謝ることしか出来ない華。

 一人呟く華が脇道を曲がり、普段来ないような通りへと出た時、目の前の古い飲み屋の扉がガラガラを開く。

 

「ではでは、ごちそうさまでした!!」

 

「またいらっしゃいなよ! 今度はその好きな人も連れてきて頂戴ね!!」

 

「ええ、ぜひ!!」

 

 静かな町中で響く元気のよい男の声。

 お酒の影響で上機嫌ではあるが、華にとってその声は聞き覚えのある物であった。

 

「堀井先生……?」

 

「ッ!? 山村先生!?」

 

 華が声をかけた人物。それは同僚であり先輩でもある教師、堀井龍之介(28)。

 店を出て早々に胸ポケットから煙草を取り出し火を点けようとしていた堀井であったが、華に声をかけられた事で慌ててしまいこんだ。

 

「どどどど……どうしてこんな所に!? ずっと休んでいましたけど……大丈夫なのですか!?」

 

「え、ええ……。それより、煙草……吸われるんですね」

 

 華にそう指摘されてついやってしまったと内心後悔する堀井。

 と言っても、ここから誤魔化すのも性に合わなければ得意でもない堀井は観念するかのように隠した煙草を取り出した。

 

「は、はい……。少し……」

 

 堀井の取り出した煙草はメビウスワン。煙草としてはタールもニコチンも比較的少なめの物ではあるが、煙草と縁がない華にとっては知る由もない。

 

「意外でした。てっきり吸わないのかと……」

 

「こんな男で……幻滅しましたか?」

 

 恐る恐るそう尋ねる堀井であったが、華はとんでもないとばかりに首を横に振る。

 実際、華は内心驚きつつも何となく不思議な安心感を抱いていた。

 あの昔ながらの熱血教師を思わせる堀井龍之介であっても酒も飲むし、煙草も吸うのだと。

 

「あの、堀井先生?」

 

「は、はい!! こ、この堀井龍之介、山村先生の為なら何でもします!! 嫌でしたら煙草だって何だって止めて――」

 

「いや、そういう事ではなく……!!」

 

 華は動転する堀井を落ち着かせる。

 華としてはただ一つ聞きたいことがある。

 ただそれだけなのだ。

 

「堀井先生って日々教師として悩む事ありますか?」

 

 その言葉を受けて、いつも以上に真面目で真剣な雰囲気を堀井は感じ取る。

 そして堀井は静かに語る。

 

「僕、自分でもわかっているんですけど、今のスタイルが時代に合っておらず、どうすればいいかって思った事もあります」

 

 堀井龍之介(28)、彼は自他共に認める古臭い熱血教師である。

 彼の家系は代々続く教師の家系であり、今のスタイル全てが遺伝子レベルで受け継がれた物なのである。

 だが、堀井自身も今のやり方が古臭い事を痛感し続けていた。

 

「そりゃあ変えようとした事もあります。他の方々の真似もした事ありましたし、何ならこの煙草も昔イメチェンしようと吸い始めてやめられなくなったものですよ」

 

 苦笑いを浮かべる堀井。

 一方の華は堀井も同じような時期があったのだとわかって共感しつつ言葉をかける。

 

「でも今は……」

 

「ははは……、おっしゃる通りですよ。結局、変えれずにこの様です。でも、あの時の自分がいなければ今の自分はないんじゃないかって常々思うんです。教師として格好付きませんが、煙草(コレ)のおかげで精神的に救われたのもある意味事実なんですよね」

 

 酒も煙草も百害あって一利なし。

 華にとってその考えは今後も変わらないかもしれない。

 でも、今だけはそれらに対して違う見方も出来るかもしれないと、そう思った。

 

「あの……この話、オフレコでお願いします。涼原たちに示しがつかないので……」

 

 堀井はそう頼み込む。

 華は聞いているのかいないのか、何かを考えている様子だ。

 数秒後、何かを決心した華は抱えていた袋を開け、トゥアールから貰った特製酒『トゥアビール』を取り出しその蓋を開ける。

 

「山村先生!?」

 

 困惑する堀井を置き去りに、華は人生初めての酒を口にした。

 口内に広がる刺激と苦み、その後広がる甘味が気持ちよく、一口飲んだだけで体全身をポカポカ熱くさせる。

 初めて味わう酒の味は悪くなかった。

 

「ぷはーッ……!!」

 

 一口だけ飲んだ華は瓶から口を離し、大きく息を吐いた後その蓋をしめる。

 何が何だかわからない堀井は目が点になったままだ。

 そんな堀井へとほんの少し赤くなった華は頭を下げた。

 

「こんな時間にお呼び止めしてすいませんでした」

 

「い、いや……別に」

 

「今度、一緒に飲みに行きませんか? 美味しいお酒、教えてくださいね!!」

 

 そう言うや否や、華はもと来た道を振り返り走り出す。

 正直、完全に迷いがなくなった訳でもない。

 自分は変われるのか? このままのやり方で戦い続けることが出来るのか? 

 その答えはまだ見つからないし、見つけれないかもしれない。

 だが、華は走る。

 ほんの少し、ただ少しだけ、酒に背中を押してもらったからこそ走る。

 どんな害のある物であろうとも教え子や仲間を救う為なら背負って見せると言う覚悟が華の力となる。

 暗い夜道、呼応するかのように華の(ツインテール)がくすみ一つない鮮やかな緑に変化、少し火照ってこそいるが、母なる大地の戦士テイルブルームが今蘇った。

 

 

 

 

 一方、堀井はと言うと。

 

「ややや、やったああああああああ!!! 山村先生に誘われたぁぁーッ!!」

 

 帰り道にて人生一番の喜びを声高々に表現。

 その後、先程華を尋ねた警察官に長々と職務質問されたとの事だ。




次回、決着(予定)。

知っている方は知っていると思いますが、トゥアビールは少々メタい原作ネタです。
俺ツイ10周年本の内容からして、この一連のエピソードは公式ではない非公式の二次創作だからこそできる話なんじゃないかと思ったりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。