俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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恐らく、今までで一番ひどいサブタイトル……


第143話 酒! 煙草!! ツインテール!!!

 シャイターンギルディの隠れ家であるこの廃倉庫にて、俺は今まさに三度目の決戦を行っている。

 相手は今回一連の事件の元凶であるシャイターンギルディと、喫煙属性(スモーカー)の魅入られその手下と成り下がった多くの被害者女子たち。

 以前同様、シャイターンギルディのやり方は集めた仲間もとい手下共を無茶苦茶にけしかけると言う、所謂、数の暴力って戦術だ。奴の作り出す煙草を吸ったコイツらは人間離れした身体能力を得ていやがる為、所詮ただの人間と侮っては敗北は必至と言える。

 ティアナと共にテイルバイオレットへと融合変身をした俺は、油断せずその対処にあたる。

 

「怯むんじゃないよ!! さっさとやっちまいな!!!」

 

 倉庫奥のソファでふんぞり返るシャイターンギルディの号令が響く。

 それを聞いた女子の一人がオッケ~と軽く返事をしてはそのまま襲い掛かってくる。

 だが、いくら喫煙属性(スモーカー)の力で人間を超越しようとも、こちとら最強と謳われしツインテール属性を受け継いだティアナと、共に極限進化を果たしたエクストリームチェインだ。

 油断さえなければどれだけの数が相手だろうと負ける通りなど万が一でもない。

 

「先ずあたしがーーーッ!!」

 

「バーカ、悪ぃが眠っててもらうぜ……!!」

 

 飛び込んでくる女子一人を軸を逸らして避け、避けると同時に腹パンを叩きこむ。

 

「う‶……!!」

 

 腹パンを喰らった女子はそう言い残し倒れた。

 それを見て、襲い掛かろうとしていた他の連中の動きがたじろぐ。

 俺はその隙を目逃さず、今まさに襲い掛からんとしていた女子連中の大群に飛び込んでは矢継ぎ早に拳を繰り出しては次々と気絶させていく。

 

(ちょっと和輝、少しは手加減しなさいよ。この人たち全員、被害者だって忘れてないわよね?)

 

「るっせぇなぁ。やってるっつーの!!」

 

 そう言いながらも俺は迫りくる女子共をばったばったと倒していく。

 言っておくが、ちゃんと手加減はしているつもりだ。

 ま、ちと乱暴かもしれんがな。

 

「はぁ……はぁ……、にしてもやっぱしキツイな」

 

(私もちょっと……気分悪いかも……)

 

 戦う度に感じる倦怠感。

 その原因は間違いなく、このドギツイ臭い発する煙草の煙だ。

 わかってはいたが、流石にちょい気分悪い。

 

「てかよ、キリがねぇな……!!」

 

 数に物を言わせた人海戦術に思わず悪態突きたくなるそんな時、俺は倉庫奥でふんぞり返るシャイターンギルディが二ヤリと笑うのを見た。

 そして次の瞬間、シャイターンギルディは懐から禍々しい漆黒の雰囲気を宿した煙草を取り出すと、火を点け吸い始める。

 通信越しでもわかる警告音が聞こえてくる。

 

『濃度急上昇!? お二人とも、一度その場から離脱してください!! これ以上、この煙を吸ってはいけません!!』

 

 トゥアールさんからの通信はいつになく焦った物であり、その危険性が伺える。

 シャイターンギルディが息を吐くと同時に倉庫内の空気がより汚く、ドギツイ煙で充満し始める。

 俺はこの場から退避するべく、出口へと目指す。

 

「へッ、逃がさないよ」

 

「そうさ、もっと吸って気持ちよくなっちゃお」

 

「クッソ……邪魔すんな……!!」

 

 引き留めるかのように女子連中は群がってきやがる。

 気絶させてどかしてやろうとするも、相手側もここが正念場だと理解しているのか、今まで以上にしっかりとくらいついて妨害してくるのが面倒この上ない。

 一応、本気で力を入れれば強引に突破は可能ではある。

 がしかし、んな事すればこうやって妨害してくるコイツら全員が持たない。

 恐らく、奴もそれをわかっていて、尚且つ俺たちがそんな真似を出来ないと言う事を知ったうえでこの妨害をさせているのだろう。

 半分に割られたシャッターから見える外の景色が遠い。

 煙草の煙が徐々に体を……ツインテールを……蝕んでいく。

 

「やべぇ……力が……」

 

「ハッ、頃合いだね!! あとはウチに任せな!!」

 

 力が抜けていくのを実感した直後、足止めしようと群がっていた女子連中が下がり、シャイターンギルディが煙状態を経て先回りし立ちふさがる。

 俺もティアナも、煙の影響で弱っているが為に反応できず、そこから放たれる強烈なボディブローをもろに受けては吹き飛ばされる。

 

「ぐはッ……!!」

 

(くぅぅ……!!)

 

 シャイターンギルディはしっかり計算したうえで吹っ飛ばしたのか、吹っ飛んだ先は各種出入り口から最も遠い中央。

 シャイターンギルディはフーっと口からより濃度の濃い煙を吐きつつ近づいてくる。

 周りのギャラリーも、さっきまで俺たちに群がっていた連中も、皆が煙草を吹かしては倉庫内の煙を濃くさせていく。

 

「やべぇ……ちょっと、気持ちよくなってきたかも……」

 

(ちょ、ちょっと和輝……!! し、しっかりしなさいよ……!!)

 

 気分が悪いのに何だよこの感じ……!!

 頭がおかしくなりそうだ。

 一体化しているティアナも俺ほどではないが影響は受けているのがわかる。

 これが喫煙属性(スモーカー)の力……!!

 

「大丈夫さ、抗う必要なんてないんだよ。身体に悪くても、みんなで吸えば怖くない……だろ? さぁ、あんたもいっしょにスッキリしようじゃないか」

 

 甘い言葉遣いで誘惑してくるシャイターンギルディ。

 俺もティアナも、共に寸での所で耐えているけれど、それも時間の問題かもしれねぇ。

 華先生が一度屈してしまったのが今ならわかる。

 そう思ったその時だった。

 

 

 

「そこまでよ!!」

 

 

 

 どこからともなく聞こえてくる凛々しい大人の声。

 それは俺たちが待ち望む頼もしい助っ人の復活だ。

 倉庫の天井をぶち抜き、天使が降臨するが如く緑のツインテール戦士が舞い降りた。

 

「ちょ!? 何!?」

「きゃあああ!?」

「何事!?」

 

 俺たちを誘惑せんと迫る者、ガラ悪い態度でそれを周りで楽しむ者。

 シャイターンギルディの手下となり果てた彼女らであったが、突如として起こったこの衝撃には誰もが慌てふためき、咥えていた煙草を落としてしまう。

 倉庫天井のドギツイ色の照明はついでとばかりに一緒にぶち抜かれ、大穴開けられし天井より差し込む月明りが舞い降りた戦士のツインテールを煌びやかに彩っている。

 

「あんた……!!」

 

 シャイターンギルディの顔が怒りで歪む。

 根城として気に入っていたこのアジトを破壊された事も理由の一つだろうが、それ以上にあともう少しの段階で妨害された事がやはり癪に障るのだろうな。

 対して現れた戦士は、月光に映える緑のツインテールを翻し、声高々に名を叫ぶ。

 

「母なる大自然の力を持つ緑のツインテール戦士、テイルブルーム!! 私が来たからにはあなたの好き勝手にはさせやしない!!」

 

 相変わらず、聞いているこっちが恥ずかしくなっちまいそうなクサい台詞を、よくもまぁあれだけ大真面目に言えるもんだぜ。

 でも、今はそのクサい台詞も何だかすげぇカッコよく聞こえてくる。

 ガキの頃、俺が憧れたテレビの中のヒーロー、ヒロイン。そして、俺が初めてツインテールにときめいたあの頃の気持ちが蘇ってくるようだ。

 

「ったく、遅ぇんだよ、先生」

 

(もう、嬉しい癖に)

 

 少し恥ずかしさを感じながら華先生もといテイルブルームへと俺なりの感謝を送る。

 テイルブルームは振り返ると申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「色々迷惑かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」

 

 頭を上げたテイルブルームはにこやかな笑顔でそう答えた。

 そして、シャイターンギルディとその手下となった女子連中へと視線を向け、悠然と向かっていく。

 

(華先生、ちょっと待って!! この中で戦ったら、先生もこの煙の餌食になっちゃう!! ほら、和輝も止めなさいよ!!)

 

 ティアナがそう騒ぐ。

 確かに、いくら天井に穴開けようとこの空間の中で時間をかけて奴らと戦うのは自殺行為もいい所だ。瞬殺可能な戦闘員ならまだしも、シャイターンギルディを除いた面々は元が被害者である以上手加減の必要な一般人に過ぎず時間がかかる。そうなればこの狂っちまいそうな煙草の煙から成るこの汚れた空気が牙をむいてきやがる。

 俺もテイルブルームにそう忠告をしようと声をかけようとする。

 がしかし、後ろ姿からでも感じる湯気のようなオーラと、微かに匂う煙草とはまた異なる何とも言えない臭いが、俺へ無言の待ったをかけてくる。

 

「なぁ、気のせいだと思うがよ。酒臭くねぇか?」

 

(そんな事ない……はず)

 

 自信なさげにそう答えるティアナ。

 そういやさっきまで一緒にいたであろうトゥアールさん、通話中に気持ち悪そうな感じだったらしいが……

 

「へッ、よく見たらあんた、あんときのセンコーじゃないかい。また吸いたくなったのかい? なら一緒に吸おうじゃないか。え‶え‶?」

 

 シャイターンギルディへと目を向けると、奴は自身の煙から煙草を具現化させつつテイルブルームへと向けていた。

 一度、屈した先生(テイルブルーム)を嘲笑うかのような醜悪な笑みだ。

 テイルブルームに一切の迷いなく、その提案を払いのける。

 

「悪いですが、お断りします。生徒の見本になる以上、みんなの前で吸えませんので」

 

「ひゅ~、相変わらず真面目なセンコーだねぇ。何度も言うけどさ、そんなんじゃ今時好かれないよ? なぁみんな?」

 

 そうだそうだと周りの女子連中が賛同して声を上げる。

 中にはあたしらの楽しみを奪うなとばかりに助けに来たテイルブルームを罵倒するかのような発言も飛び出す始末。

 

「呼んでねーんだよ!! 帰れ帰れ!!」

「そうそう、わたしらはシャイちゃんと気持ちよく遊んでるだけなんだからさ!!」

「あんな退屈な生活、飽き飽きなんだよ!!」

 

 喫煙属性(スモーカー)によって狂わされているとわかっていても、その身勝手さには怒りを覚えてしまう中、テイルブルームは少し震えながらも覚悟を決める。

 

「私、決めました……!! 今すぐ変われなくてもいい。あなたたちに真面目とか、つまらないとか、色々言われようとも……私は私を信じ、私なりのやり方を貫き、いつか私の理想へと変わってみせます!! その途中であなたたちに嫌われたとしてもです!!」

 

 完全に迷いを振り切った訳でもないみてぇだが、以前とは覇気が違う。

 全員にそう言い放ったテイルブルームは、みなを想い心を鬼にし向かっていく。

 反抗するのは、喫煙属性(スモーカー)に魅入られし教え子含めた子供たちだ。

 

「偉そうなこと言って、またやられに来たんだろ!?」

 

「そうそう、ユキの言うとーり。アイツどうせ、うちらに本気出せないでやんの!!」

 

 以前助けた筈の雪乃と神橋二人の声が静まり返る女子連中の中から聞こえ、テイルブルームの迫力に後退りかけた奴ら全員を勢いづけさせると、シャイターンギルディお約束のやっちまいな宣言の後に襲い掛かる。

 勿論、俺たちを蝕んだあの煙草の煙も再び充満を開始しやがった。

 

「大丈夫、今の私なら……。どんな事だって……!!」

 

 そう小さく呟いた華先生は向かってくる女子共に手刀を振るい、まるで眠ったかのように優しく沈黙させた。

 一瞬、何が起きたのかまるでわからぬ早技に誰もが目を疑う。

 ラフファイト中心の俺や、型はしっかりしてもやや力押しなティアナとは違う、達人技を駆使するテイルブルームの戦い方はこの場において最適と言えた。

 

『どうやら、飲んでくれたようですね……』

 

「はぁッ!!!」

 

 トゥアールさんが小声で何かを呟く中、テイルブルームは無双する。

 理由は不明だが、煙草の煙なんかまるで効いていない様子。

 てか何となくだけど、効いていないと言うより感じていないのが正しいのかもしれねぇ。

 

「ちぃッ!! ウチに任せな!!」

 

 不利を察したシャイターンギルディが再び前に出た。

 因縁の相手を前にしたテイルブルームの怒りが燃える。

 

「皆をたぶらかした罪、贖ってもらうわ!!」

 

 両者の拳がぶつかり合う。

 俺以上に乱暴で力任せなシャイターンギルディと必要最低限の動きで攻防をこなすテイルブルーム。

 シャイターンギルディの大振りなパンチをテイルブルームはさらりと受け流し、カウンターの掌底を腹部に叩きこむ。

 あれはテイルブルームの得意戦術。

 柔よく剛を制すという言葉通り、テイルブルームがやはり優勢か?

 そう思ったが、どうやらそう言う訳でもない。

 テイルブルームの顔に余裕がまるでなく、辛さを滲ませている。

 

「やっぱし、先生もこの空気に――」

 

(ううん、違うわ和輝。先生の動きが完全に読まれてるのよ……!!)

 

 ティアナの指摘は正しかった。

 一見、ただ無茶苦茶に攻撃しているかのようなシャイターンギルディではあるが、その実よく見るとテイルブルームの僅かに生まれる隙を的確に狙っていやがる。

 今は何とか捌けてはいるが、それが時間の問題だってのは両者の表情から察するぜ。

 

「くっ……!!」

 

「威勢がいいのはさっきまでかい!!」

 

 徐々に押され始めるテイルブルーム。

 ギャラリーとなった女子共が盛り上がり、完全にアウェイな状況だ。

 

「あんたの身体は知り尽くしてんだ!! 精々粘りな!!」

 

 そうか、シャイターンギルディの奴は華先生に憑依した時に弱点を学んでいやがったのか。

 やっぱし、このままじゃヤバい。

 そう判断した俺が助けに動こうとする。

 がしかし、

 

「もらったよ!!」

 

「しまっ――」

 

 一手早く、シャイターンギルディは更なる手を打ちやがった。

 シャイターンギルディの全身が煙状に変化し、テイルブルーム全体を包み込んだんだ。

 煙状のシャイターンギルディが身体に入り込むと同時にテイルブルームのツインテールの片方が灰色に変化する。

 

「うぅ……!!」

 

(ハッハッハ……!! 抵抗するんじゃないよ。また一緒に気持ちよくなろうじゃないか!!)

 

 憑依せんとするシャイターンギルディの声が聞こえてくる。

 またしても憑依されてしまうのか……!?

 その時、倉庫入口の方向から大きな声が響き渡る。

 

「華先生!! あなたの覚悟はそんなものですか!!!」

 

(今度はなんだい!?)

 

 その声を聞いた皆が、一斉に入口方面へと振り返る。

 するとそこには、目元を隠すバイザー型の特製マスクをつけた白衣の女性が仁王立ち。

 あれはトゥアールさんだ。

 

「私は『テイルバイオレットの片割れの母』改め、マザーツインテール!!!」

 

 やっぱし、長ったらしかったんだなと、以前即興で考えた二つ名を改めながらトゥアールさんは名乗ってみせる。

 こんな時にふざけてる場合かよと思わずズッコケそうになる俺であったが、本人は至って真剣なのか、シャイターンギルディ……いや、憑依されかけているテイルブルームへ向けて声を荒げる。

 

「テイルブルーム!! あなたはあれだけ教えたと言うのにまだ迷っているんですか!! 折角プレゼントしたトゥアビール、一口しか飲んでいない事など私にはお見通しですよ!!」

 

 教えた? 何を? てかトゥアビールって何?

 何一つピンと来ないワードの連続に全員そろって首を傾げるばかりだ。

 そんな中、トゥアールさんは続ける。

 

「酒飲まば酔うまで!! いいですか? やるのなら徹底的にやってください!! 本当に変わりたいなら、その程度で満足してどうするんですか!! 我慢など不要!! 飲みたいならば飲む!! 折角、口に合うようにと拵えたトゥアビール、不味かったとは言わせませんよ!!」

 

 その瞬間、テイルブルームの手がピクリと勝手に動く。

 そして、テイルブルームの意識が覚醒する。

 

「そう……です……!! 私だって変わりたい……!! 子供の私じゃなく、大人として……!!」

 

(ハッ!! そんな髪型でよく言うよ!! 大人になりたいなら、それこそウチの手を取るんだね!! 最高のヤニを教えてやるよ!!)

 

 誘惑している様子のシャイターンギルディ。

 だが、テイルブルームはそんな悪魔の囁きを振り払う。

 

「違う……!! 私は私のまま……!! 私なりの意思で……!! 変わってみせる!!」

 

(馬鹿な!! ウチの支配を撥ね退けた!? 喫煙属性(スモーカー)の快感を凌駕したとでもいうのかい!?)

 

 驚愕するシャイターンギルディの声が聞こえてくる。

 テイルブルームはシャイターンギルディの支配を振り切ると天へと手をかざす。

 するとテイルブルームのロングスカートから光が飛び出し具現化。

 

(あれは!! 華先生の進化装備(エヴォルブアームズ)!?)

 

 ティアナがそう心の中で叫ぶ。

 具現化されたのはエメラルドグリーン輝く酒瓶。

 テイルブルーム本人及びトゥアールさんを除いた全員が困惑する中、テイルブルームはその酒瓶の蓋を開け、一気に飲み干してみせる。

 

「ぷはーーーーッ!!!」

 

 実に気持ちよく飲み切ったテイルブルームに変化が起きる。

 元々纏っているドレス状の装甲は、豪華で華やかな装飾を付けグレードアップ。

 攻撃的な刺々しさはまるでなく、華先生の持つ優しさを表しているかのよう。

 ツインテール含めた全身から発せられるオーラは緑ではなく、ゆらゆらとピンクレッドで揺らめいているのが視認できる。

 

「ぎゃああ!! こんな身体、いられないよ!!」

 

 変化と同時にシャイターンギルディが完全に弾き出された。

 悶絶するシャイターンギルディへとテイルブルームは指さし、進化した名を告げる。

 

「大人の階段上りし時、我がツインテールが開花する!! 満開せし緑の戦士、テイルフルブルーム!! それが私の!! 進化した姿よ!!」

 

 

 

 

 テイルフルブルーム。

 華やかに変化したドレスは花弁の形を、揺らめくピンクレッドのオーラはその色を。

 甘く匂うその独特な香り含めて、その全てが正に花その物。

 テイルブルームはテイルフルブルームへと文字通り開花し、その姿を見せつける。

 

「何々? アレ……」

「うっそ……ちょーキレイ……」

「てかそれよりヤバくない!?」

 

 周りで見ていた女子たちの反応は様々であった。

 一方、和輝とティアナは揃って感動し、トゥアールは満足げに頷いている。

 

「図に乗んじゃねぇ……ッ!!!」

 

 唯一、シャイターンギルディだけが凄まじい怒気を放っていた。

 フルブルームへとシャイターンギルディは襲い掛かる。

 激しい怒りに任せた攻撃は先程よりも苛烈で乱暴としか言いようがない。

 

「何が大人の階段だ!! 酒飲んでパワーアップだと? ふざけるのも大概にしやがれってんだよ!! あ゛あ゛ん゛!!??」

 

「ふざけてなどいません!!」

 

 怒りが爆発した様子のシャイターンギルディ。

 そのパワーは尋常ではなく、それでいて、通常時を下した際と同じように華の弱点をつくかのように正確に隙を狙う。

 だが、フルブルームへと進化した華には通じない。

 それどころか、反撃に転じたフルブルームの動きについていけない。

 

「なんだいこりゃあ!? 動きが読めない!?」

 

 シャイターンギルディが知っているのは型にはまった真面目な戦いをするテイルブルーム。

 だが今対峙しているのはテイルブルームではなく、テイルフルブルーム。

 彼女の動きを一言に表すとするとそれは正しく変幻自在。

 激しく攻撃したと思えば、次の瞬間にはクールダウンし冷静に、時には突拍子もないような場所を狙い、意表まで突いて来る。

 それはまるで、酒に酔った際の動き。様々な種類の上戸を駆使した独特の酔拳。

 一般的に連想される酔拳と違う点は、見た目だけならは至って平静な事である。

 どう見ても、素面。だが動きは読めず質が悪い。

 シャイターンギルディは手も足も出ずに圧倒され続けている。

 

「あれが華先生に秘められた才能……。誕生日パーティーの際に見せた奇行をここまで昇華してみせるとは……!! 見込み以上ですよ華先生!!」

 

 華がトゥアールジュースを飲んだ際の奇行をトゥアールはしっかり覚えていた。

 当初のトゥアールはあくまでそれを生かせばより面白くなるのではと期待していただけであったのだが、それを制御し切った上で自身のパワーアップにつなげて見せた華は嬉しい誤算であったと言える。

 

(ちょっとママ!! それってただ酔っぱらっただけじゃない!!)

 

「いや、でも待て、どうやら効果抜群って感じだぜ」

 

 圧倒し続けるフルブルーム。

 吹き飛ばされたシャイターンギルディは倉庫内に充満する煙草の煙を全身に取り込むと、遂には周りを全く気にせずに暴れはじめる。

 

「ふざけんじゃねぇ!! ウチが酒なんかに負けてたまるか!!!」

 

「シャイちゃん!! 落ち着いて!!」

「そうだよ、うちらの家が!!」

「止めてシャイちゃん!! 止まって!!」

 

 必死になって止めようとする女子たちであったが、シャイターンギルディは聞く耳を持たない。

 シャイターンギルディの放つ怒気に倉庫全体が崩れ始める。

 

「おいおい、このままじゃヤベェぞ!! どうしてあんなにもキレてんだよ!?」

 

「恐らく、シャイターンギルディは酒が嫌いなのでしょう。酒も煙草同様に未成年禁止の嗜向品ですが、煙草と比べるとそこまでイメージ悪くありませんし、そこを逆恨みしている可能性がありますね」

 

(説明はいいから!! みんなを助けないと!!)

 

 シャイターンギルディにとって、酒は裏切者の象徴である。

 同じように規制されるべき立場である筈なのに、CMでもドラマでも数多くメディア露出する酒が許せない。

 故に怒る。

 その怒りは様々な要因が重なった結果、我を忘れさせる。

 

「このままでは生徒たちが……!!」

 

「どうするよトゥアールさん!?」

 

「兎に角、今は一人でも多く外へ!! シャイターンギルディは華先生に任せます!!」

 

 このままではこの場の崩壊は免れないだろう。そうなれば、テイルギアを纏う和輝たちは兎も角、あくまで一般人でしかない女子たちは一巻の終わりである。

 今すぐ避難させるにしても、何人かは先程までの戦いで気絶しているので、無事な者が運び出すしかないが、トゥアールらを除いたこの場にいる全員はパニックに陥っており、避難指示するのでやっとである。

 テイルバイオレットとトゥアールの二人が救助するにしても数も時間も足りていない。

 その時、崩れかける倉庫の外から騒がしい声が聞こえてきた。

 

「行くぞお前ら!! 姉貴たちの役に立つチャンスだーーッ!!」

 

「「「了解だぜぇぇーーーッ!!」

 

 騒がしい声の正体は外で待機していた筈のテイルバイオレット親衛隊の面々であった。

 親衛隊の面々は倉庫内で気絶している者や、逃げ遅れた者を救助していく。

 

(み、みんな……!!)

 

「お前ら……!!」

 

「俺たちだって、やれることあるんすよ!!」

 

 そう自信満々答える彼らを見て、和輝は彼らに対する認識を改める。

 シャイターンギルディはフルブルームに任せ、テイルバイオレットたちは救助に専念。

 一方、フルブルームの方では、暴れ出すシャイターンギルディへと雪乃と神橋の二人が駆け寄っていた。

 

「もう止めなって!!」

 

「そうそう、もうみんなビビッて逃げ出してるからさ!!」

 

 この二人はこの世界にてシャイターンギルディが仲間にした未成年女子の中でも、比較的初期に仲間になったとも言える二人である。

 ほとんどの女子が今のシャイターンギルディを恐れて目が覚めたと言うのに、この二人はシャイターンギルディを未だに信じている

 だがしかし、シャイターンギルディは体を張って止めようとした二人を突き飛ばす。

 

「うるっさい!! 邪魔すんじゃないよ!!」

 

 つるむべき相手を間違えたと後悔する二人だがもう遅い。

 暴走するシャイターンギルディは突き飛ばした二人へと手をかざし、煙で出来た弾丸を放たんとする。

 しかし、そんな二人を救うべくフルブルームが盾となり、放たれた煙弾を霧散させた。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい……」

 

「う、うん……」

 

 助けられた二人は気まずさで言葉があまり出ない。

 そんな二人へとフルブルームは笑顔を見せた後、声をかける。

 

「お酒も煙草も、二十歳になってから。ね?」

 

 たった一言の注意。

 それだけだと言うのに二人の心に残る気まずさは消えていく。

 元気よく返事をした二人はやってきた親衛隊の面々に連れられ避難。

 丁度、最後の避難者として外にでた時、倉庫は崩れ、おぞましい化け物と化したシャイターンギルディがその姿を見せる。

 般若の面の如く歪み切った顔と筋肉が膨れ上がり巨大化した体躯。

 変貌したシャイターンギルディとフルブルームが月明かりの下で対峙する。

 

喫煙属性(スモーカー)こそが、ツインテールの対となる最高の属性だ!! 酒なんぞに負けるものかい!!」

 

「私だって負けません!! 教師として、大人として、戦士として、子供をたぶらかす悪魔のようなあなたに、絶対に負けません!!」

 

 フルブルームの手に、再び酒瓶が握られる。

 そしてそのまま蓋を開けて口を付けるフルブルーム。

 勢いよく一杯、また一杯と飲み干してはその緑のツインテールがピンクレッドの酒気で染まっていく。

 

(華先生のツインテールが火照ってる……!!)

 

「泥酔しちまうぞオイ!?」

 

「いいえ違います!! あれこそ、完成した真のテイルブルームです!!」

 

 トゥアールの言う通り、あれはただ酔いがまわっただけではない。

 いくつもの追い酒の果て、フルブルームは完全にできあがった。

 ツインテールが酒気を帯びて染まったその姿は、ツインテール本来の子供のような可愛さと大人の色気を融合した姿。童心を忘れず、それでいて辛い事や苦しい事を受け入れる彼女を支えるのは日々のストレスを発散させる適量の酒だ。

 

「そろそろお開きにしましょう。完全解放(ブレイクレリーズ)!!」

 

 大地が揺れ、属性力がほとばしる。

 フルブルームが手にするのは強化されたグランアロー。

 大地の力宿し弓は華自身の開花に応え、より大きく強くしなる事で力を溜めこみ、先程まで纏っていたピンクレッドの酒気全てが光の矢を形成し収束。

 全ての酒気が矢へと変換され、ツインテールが元の緑へと戻ったと同時にその矢を解放する。

 

「ブルームツイン……フルシュート!!!」

 

 放たれた矢は花開く花弁のように爆裂して二本に、シャイターンギルディへ向かってそのままツインテールの軌跡を描きながら飛翔。

 キラキラ光る極太の矢は最早、二対の巨大な光線。

 シャイターンギルディは煙を壁のように固めて防御するが、勢いは全く落ちず突き進む。

 

「何が大人だ!! ふざけんじゃねぇ!! 煙草だって大人の嗜みだ!! 酒なんかに負けるか!!」

 

 必死にあがくシャイターンギルディ。

 そんなシャイターンギルディへとトゥアールが力強く言い放つ。

 

「あなたの負けですシャイターンギルディ!! 本来、酒や煙草はルールを守り、ちゃんと自制し子供たちへ注意が出来てこそ大人の魅力を表現できる物!! あなたのように仲間を増やしたいからとばかりにルールを破り子供たちへ広めていては、ただ背伸びしたがる子供と同じに過ぎません!!」

 

 酒も煙草も大人らしさを演出できるアイテムである事に変わりはない。

 だが、ルールを守らなければ、一転して魅力も欠片もないただの害へと変わる。

 自らの愛する属性に矛盾するような行動に気が付いたシャイターンギルディの抵抗が弱くなる。

 そして、二対の光の矢がシャイターンギルディを飲み込んだ。

 

「チクショォォォーーーーッ!!!」

 

 その断末魔を残し、シャイターンギルディは消滅。

 同時に、この辺り一面に漂っていた臭いと煙は風に流され消えていく。

 変身を解除した華は飲み過ぎた反動か、すやすやと眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 後日、とある居酒屋にて――

 

「いや~期末テストも無事終了!! 今日は僕の奢りです!! じゃんじゃん飲みましょう!!」

 

「はい!! ありがとうございます!!」

 

 乾杯する二人の教師。山村華と堀井龍之介。

 事件解決から一週間、行方不明者となっていた女子全員はトゥアールによって簡易的な記憶処理と治療を受けた後にそれぞれの家へと帰り、世間ではテイルバイオレットとテイルブルーム及びその親衛隊たちの活躍が報じられた。

 今日は期末テスト全てが終了した日であり、堀井にとって念願であった華との初飲みである。

 

「それにしても、変わりましたね。何かいいことありましたか?」

 

「いえいえ別に!! 大した事ありませんよ!!」

 

 そうは言っているが、堀井は最近の華が良い方向へと変わった事を知っている。

 真面目さはそのまま、雰囲気が親しみやすく明るくなった華は雪乃や神橋、その他大勢の生徒たちから慕われるようになったのだ。

 

「それはそうと、本当に奢りでいいのですか? いくら何でも申し訳が……」

 

「いえ、大丈夫です!! この僕、堀井龍之介は奢りたいから奢るのです!! 気にしないでください!!」

 

 見栄を張る堀井。

 以前の華ならそれでも少しはと払おうとしたであろうが、今の華は違う。

 

「わかりました。では沢山飲ませていただきます!!」

 

 酒を知り、心に余裕を得た華は、頼る時は誰かに頼る事も覚えた。

 大好きとなった酒を飲める事に喜ぶ華はツインテールを揺らしながらグラスに手を取る。

 大人の時間が今、始まったのだ。




シャイターンギルディ編終了です。
テイルブルームの強化形態の名称が○○チェインじゃないのは、仮面ライダーにおけるサブライダーの強化形態名(エクシードギルスだったりライジングイクサなど)を意識してます。


キャラクター紹介27

 テイルフルブルーム
 武器:大地の弓 グランアロー
 必殺技:ブルームツインフルシュート、他

 テイルブルームが開花の酒瓶(ブルムボトル)に入った酒を飲む事で強化変身した姿。
 酔いが回っている間の戦闘力は凄まじく、完全にコントロールされた動きはどんな達人であっても読み切るのは至難の業。
 追い酒をする事でさらなる力を得る事も可能だが、飲み過ぎるとその分だけ戦闘可能時間が減少し、強制変身解除して眠りについてしまう。
 一度使用すると、変身解除したとしても当分の間は飲みすぎ防止のために、飲んだ分に比例した日数が使用不可能になるデメリットも存在している。
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