俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
今年最後となる期末テストが終わり、テスト休みを過ごすある日。
俺はトゥアールさんから新聞部部室に一人で来るようにと連絡を受けた。
どういった要件なのか? どうしてティアナを連れず俺一人でなのか?
細かい点はわからないが、呼ばれた以上は行くしかない。
丁度タイミングよくティアナも久々におやっさんの手伝いに行ってくるという事なので、俺は遠慮なくマシントゥアールを走らせ学校へと向かっていた。
ティアナを乗せず、一人で学校へと向かうなんて、随分と久しぶりな気がするぜ。
テスト休みって事もあり、部活動している奴らなど除けば殆ど人がいない。
「うーっす、トゥアールさ――」
学校へ到着し、言われた通り部室へとやって来た俺であったが、扉を開けた先に広がっていた光景が言葉を失わさせる。
「かわもとくぅ~ん。おかわぃ~!!」
「ええ~!? またすか!? 流石に飲みすぎっすよ!!」
「まだまじゃたりましぇ~ん!! は~や~く~!!」
大量の酒瓶と空き缶が山のように積み上げられ、学校ではまず臭わないであろう酒臭が鼻をつく。
そんな有り得ない光景を作った元凶は中央のテーブルで今なお飲み続けている華先生。
傍から見て一目でわかる程に泥酔した華先生は、困惑する匠を振り回し実に上機嫌と言った所だった。
「な、なんだぁ……?」
「ん? あっ!! 和輝~!!」
俺が来た事に気が付いた匠が嬉し涙を浮かべながら駆け寄り、抱きつこうとしてくる。
男に抱きつかれて喜ぶ趣味もないので、頭部を押さえて阻止。そのまま事情を問いただす。
「おい、華先生に何かあったのか? てか何だよ……この酒の量……」
「いや、それがな!! ちょっと酒飲ませたらコレなんだよ!!」
その後、事情を一頻り聴き終えたので、簡潔にまとめてみる。
えーっと……元々、匠は悠香さんを手伝おうと来たけど、当の本人は取材に行っていて留守。珍しく青葉さんも一緒。んで、着た時にいたのは華先生一人で、先生はテストの採点をしていた。途中、喉が渇いたから何か飲み物が欲しいと匠は頼まれ、部室内の冷蔵庫を見たら酒が大量にあったので一杯くらいならいいだろうと渡した。すると、どんどん止まらなくなって、いつの間にかこの様になっちまっていると……
「ってお前のせいじゃねぇか!! どうすんだよ、誰かにバレたら……!!」
校内で昼間から酒を飲むなんて教師失格だ。
誰かに見つかったら懲戒処分だけじゃすまねぇぞオイ。
「いやだって、ここまでなるとは思わねぇじゃん!!」
まぁ、それは確かにだ。
こうも楽し気に笑い酔っぱらう華先生は、普段の真面目でしっかり(している様に見える)者の華先生からは想像つかねぇよ。
「てか、酔いを自在にコントロールできるんじゃなかったのかよ!! 先週やってたじゃん!! シャイターンギルディ相手にさぁ!!」
「いや、あれは変身していたからであってだな……」
匠の言う通り、テイルフルブルームへと進化した華先生は酔いをコントロールし酒の良い部分だけを扱うことが出来る。
だけどそれは、あくまで変身している間のみだ。
変身していない素の状態だと、変な酔っ払いでしかない。
「にゃににゃに~? あ、しゅじゅはらくん~!! げんき~?」
俺に気づいた華先生が寄って来る。
ふにゃけきった顔からは戦闘中の凛々しさを微塵も感じない。
「んなこと聞いてる場合かよ。華先生、あんたもうちょいしっかりしろよ。これだったらうじうじ悩んでた前の方がまだマシだぜ」
「しょんなことないも~ん!! はなはうまれかわったも~ん!!」
にこにこ笑いながらそう言ってのける華先生に殺意が沸いてくる。
確かに生まれ変わったよ……クソみてぇな酔っ払いにな!!
「ったく……ってあれ? 匠?」
「なぁ? 俺も一口だけならいいよな……」
俺がぴきぴきと怒る一方で、匠に奴はそーっとまだ開けられていない缶チューハイに手を伸ばしていた。
疲れから来るヤケクソか、はたまた単なる好奇心か。
理由は定かではないが、匠は未成年飲酒に手を染めようとしている。
その時、華先生が豹変した。
「ゴラァッ!! 何飲もうとしてんだ!! ガキが飲んでいいもんじゃねぇーんだよ!! 法律で禁止だってわかってんのかぁッ!?」
今まで見た事ない凄まじい怒気を放つ華先生。
面白いのはあそこまで酔っぱらっていても変な所で根っこの真面目さは残っている所だろうか。
まぁ、にしても……口が悪すぎるぜ。
言ってる事は正しいけど……
「いやでも、そもそも先生が飲むから……!!」
ビビる匠は、小便をちびらせながらもそう言い返す。
一理どころか百理あるその発言は見事なカウンターパンチだ。
確かにと頷く俺に対して、華先生は動きを止める。
「そ、そうよね……」
瞬間、華先生から放たれていた怒気は霧散し、一気にクールダウン。
「全部私のせいよ……私なんて教師失格……叱る資格なんてないわ……」
「は? どうした?」
「ごめんねみんな……ごめんねティル……ごめんなさいお師匠様……こんな不甲斐なく愚かな私でごめんなさい……」
今度は涙を流しながら部屋の隅で体育座り、ツインテールを抱きしめ沈み込んでしまいやがった。
笑い、怒り、泣くといった具合を見るに、酔い方が安定してなさ過ぎる。
「たっだいま~……って先生!?」
「酒臭い……」
泣き出した華先生を見てどうしようかと途方に暮れていたその時、悠香さんと青葉さんが取材から帰宅する。
ギョッとする二人は惨状を見て即座に状況を理解する。
「ちょっと、たっくん!! 先生にお酒あげたでしょ!!」
「は、はい……!! 一杯だけならよかれと思って……」
「あのね、一杯、一本で止まる訳ないんだから、ちゃんと見張っておけないなら渡しちゃダメよ。野良猫や烏に食べ物を渡しちゃダメなのと同じなんだから」
華先生が野良猫や烏と同じ扱いなのか……
教え子たちからこうも雑な扱われ方をされているのは何だか不憫で仕方ない。
いやま、自業自得というか何と言うかではあるんだけどよ……
「今は泣き上戸か……これまた面倒ね」
「昨日の淫乱上戸よりマシ……」
酔い方が頻繁に切り替わる華先生にぼやく二人。
何でも俺たちがいない時に酷い目にあったんだとよ。
てか、淫乱上戸って何?
「あれ? そう言えば和くん一人でどしたの? ティアちゃん無しで来るなんて珍しいじゃない」
「いやそれがよ、トゥアールさんに一人で来るようにって言われたんだよ」
ふーん、とばかりに相槌を返す悠香さんの顔は何処かニヤニヤした物だった。
トゥアール先生なら基地にいるわよと悠香さんが隠しエレベーターを指をさす。
俺はそれに従い、エレベーターで基地へと降りていくのであった。
◇
降りた先の通路を進み、コンソールルームへ。
自動ドアが開き、中に入ると、専用チェアに腰かけているトゥアールさんが中央テーブルを挟んだ向かい側で待っていた。
ドラマや漫画で見るような、社長室や会議室に呼び出される平社員のような気分だ。
不思議な圧迫感と緊張感があり、ごくりと息を呑む。
「昼間からこんな時間に呼び出してすいません。先ずは座ってください」
そう促された俺は黙って席に着くと、恐る恐る要件を聞いてみる。
「えーっと……んで、どうしたんだよ……? 部室じゃなくて
もしかしてテストの結果が悪かったとかそういう事か?
俺としては結構よく解けた気でいるんだが、やっぱし駄目だったとかそういうオチなのか?
色々と理由や原因を考え頭を悩ませる。
するとトゥアールさんは腕を組みながら答える。
否、問いかける。
「逆に聞きます。来週末、何がありますか?」
「来週末?」
えーっと、今日が12月の16日の金曜日で……
来週の月曜からテスト返却、それが終わればすぐに終業式。てか末って事は土曜日だから……
「クリスマスイヴって事か……?」
「正解です」
トゥアールさんがディスプレイを操作、モニターにでかでかとクリスマスの5文字が表示される。
何となく察しがついた。
緊張感より、気恥ずかしさが勝り始めてくる。
「もうおわかりですね和輝君? 進捗をお聞きしたいのですが」
「な、なぁ……進捗ってアレの事……だよな……?」
「はい」
はっきりとそう答えるトゥアールさん。
対する俺は口ごもる。
「クリスマスまでにティアナの事を……」
「はい」
「その……」
「はい」
「だから……」
「はい」
「………………」
「一人の女として抱いてや――」
「言うなぁァァァッ!!!!」
代弁しやがるトゥアールさんの声を俺は大声でかき消した。
いやま、恥ずかしさから黙っちまったのは俺の方だけどよ。だからってこの内容を思春期真っ盛りの高校生に言わせるのはちと酷ってもんだぜ。
「わかってるなら今まで何しているんですか!! もうこんな時期ですよ!! いつまで総愛を処女でいさせるつもりなんですか!!」
「仮にも親代わりが言う事かよ!! 普通、逆だろオイ!!」
「何を言ってんですか!! 親だからこそ子が大人になるのは嬉しい事なんです!!」
「もっと他にあんだろ!? どうして性的な意味での大人なんだよ!!」
トゥアールさんの感性って微妙にずれてるよなって思う時がある。まさに今だ。
親ってのは普通、子が結婚したり孫が出来たら喜ぶもんだろ。
赤飯を炊くにしても、精々初めての時だけと聞くぜ。
「兎に角、時間は刻一刻と迫っています!! あの時の約束、聞いてないとは言わせません!!」
ここでトゥアールさんが言う約束。つまり今さっきの言い合いの発端となった出来事ってのは俺が誕生日を迎えた翌日の時の事だ。
あの時、俺はノスタルジックに浸るべく単独行動をとっており、行き先をティアナに内緒にするべくトゥアールさんに告げ口しないように見逃してもらおうと何か言う事を聞くっていう約束をしてしまっていた。
俺としてはあの後、スペルビアギルディとやらの騒ぎに巻き込まれたりでもう殆ど忘れちまっていたのだが、トゥアールさんの方ははっきり覚えていやがった。
面倒だからと適当に返事したのが裏目に出た。
「このままヘタレのまま終わるつもりですか? 私たちが帰るまでにシないと、後悔するのは和輝君の方かもしれませんよ」
「帰るまでって……」
帰ると言う単語を聞き、俺は途端に冷静になった。
そういや、今こうやってトゥアールさんやティアナがこの世界及びこの次元にいるのも、あくまで一時的な事なんだよなと再確認する。
トゥアールさん曰く、現状は二つの次元間の境界は安定しているし大丈夫らしいけど、いずれ二度と渡航する事が出来なくなるだろうとも言っている。
単なる平行世界ならいざ知らず、根本的にもしもの存在である平行次元はエレメリアンであっても移動する事なんて不可能なんだ。
それを理解した俺は真剣になって考え始める。
「でもよ、あいつに何言って誘えばいいんだよ? 性的な事全部がツインテールに変換されてるような奴だぜ?」
「ふむ……確かにそこは難点と言わざる得ませんね」
こればかりはトゥアールさんも困っちまう悩みの一つだ。
俺もアイツがもっと普通の女の子だったのならここまで苦労はしていないと思う。
まぁ、アイツが普通だったら、こんな所まで来れてねぇとは思うがな。
「いっそ、俺も酒飲むかぁ……」
「お酒は二十歳になってから。ですよ」
華先生の醜態を思い出し口にした俺を咎めるトゥアールさん。
あれ? でも確か……誕生日の時にトゥアールさんがくれた物ってアレだよな?
華先生に毒味させて、その結果の反応がさっきの醜態と似ていて……
「なぁ、あん時くれたトゥアールジュースって……」
「さ、さぁ? なんの事でしょうね~? いや~最近物忘れが酷くなってきて、もう年ですかね~」
「オイ逃げんな」
バツが悪そうにそーっと立ち去ろうとするトゥアールさん。
俺はそれに対して、冷静にツッコミを入れていた。
◇
夜、エレメリアン出現の知らせを受けた俺とティアナは、マシントゥアールを駆り現場へと向かう。
最初、俺はこの反応を見て四体目の七つの性癖が出たのかと思ったが、どうやら捉えた属性力の反応を見るに、そうではない様子だ。
ティアナもトゥアールさんも揃えて弱いと言ってのけるエレメリアン。
目的地的にもティアナを狙いに来たわけでもなさそうだし、一体どんな奴なんだ?
「ねぇ和輝、華先生はどうしたの? 具合悪そうだったけど」
「別にただの飲みすぎだ。気にすんなってな」
華先生は昼間から飲み過ぎた結果、とてもじゃないが戦闘に参加できる状態ではない。
てなわけで今日は俺とティアナの二人、テイルバイオレットだけの戦いだ。
「さて、ここは……っと」
目的地へとたどり着いた。そこにそびえ立つはこの都市どこか、この国有数の超高層商業ビル。
確かここは誰もが一度は来てみたい大人向けデートスポットで有名な場所だ。
飲食店は三ツ星レストランを始めとした超高級のセレブ御用達の店か、もしくはちょいお高め程度の優良店の数々。それ以外の服や雑貨も有名ブランドがこぞって店を出しているらしく、中の煌びやかな雰囲気と相まってまさに別世界のような豪華さらしい。上の階層に行けばいくほど、天上人のような気分を味わえるのもまた格別で、最上階の展望デッキはいくつものカップルが誕生した恋の聖地とまで謳われる。
「随分とお高い場所に出たみたいね」
「値段的にも物理的にもな」
そんなつまらない洒落を飛ばした後、俺たちはビル内部へと突入。
反応があるのは最上階の展望デッキ。
正体を隠しつつ、現場へと急ぐ為にも非常階段へ。
そこでテイルバイオレットエクストリームチェインへの変身を完了させた俺もとい俺たちは強化された脚力を活かして階段を高速で駆けのぼる。所要時間は僅か数十秒。
「フフフ……いいぞ……!! 最高のシチュエーションの前におじけづくがいい!! 折角、選ばれたのだ、もっと我を楽しませろ!!」
上階へと近づくにつれ聞こえてくる邪悪な声。
何だか知らねぇが、典型的な悪役タイプのエレメリアンとみた。展望デッキで人々の属性力を強引に奪っているに違いない。
そう確信した俺は少しカッコつけながら展望デッキへ到着。
暴れているであろうエレメリアンへと待ったを突き付ける。
「そこまでだこの野r――」
「ねぇ、話って何? 今日、大事な話があるんでしょう?」
「う、うん。えーっと……その……………………やっぱごめん!! 何でもない!!」
は、はい?
展望デッキへ辿り着いた俺が見たのは暴れるエレメリアンではなく、告白しようとした癖に肝心な所で怖気づいてしまう一人の男とその相手。
涙を流しこの場から走り去る男を見た事で、何ともコメントし辛い気まずい空気を関してしまう。
(何……? これ……?)
「知るか。てかエレメリアンの野郎は……」
困惑しながらもティアナの探知力を頼りにエレメリアンの居場所を探る。
横へ向けると、物陰に隠れてコソコソしているエレメリアンと目が合った。
「あ」
「テ、テイルバイオレット……!!」
そこにいたのは五芒星を想起させるようなヒトデのような……というよりヒトデそのまんまのエレメリアン。
身体の中央の目があり、全体的にマスコットのようでキモカワイイ。
何とも迫力がなく、想像していたよりも弱そうだ。
「か、怪物だーー!!」
「大丈夫、テイルバイオレットが来てくれたわー!!」
「いけーテイルバイオレット!! 頼んだぞー!!」
ようやく気が付いたのか、続々と悲鳴や歓声を上げる人たち。
俺はそんな彼ら彼女らに危ねぇから早く避難しろと促し、展望デッキから退避させる。
「あ、ちょっと……待って……我はその……別にそういった訳じゃ……」
しどろもどろになりながらエレメリアンは逃げていく人々をただ見つめていた。
そして数分後、俺たちテイルバイオレットとこのエレメリアン以外誰もいなくなり、どんよりした様子を見せるヒトデのエレメリアンは手と膝(?)を床につける。
「違うんだ……我はただ、ちょっと見て見たくなっただけなのだ……」
エレメリアンは酷く落ち込んでいた。
どうやら、弱いとか云々以前に人々を襲おうってタイプですらないみてぇだな。
なんか、不憫だ。
『やはり、どうやら七つの性癖とは違うようですね』
「そうみてぇだな。どうするよトゥアールさん?」
『そうですね……。七つの性癖の動向も気になりますし、少し尋問してみましょう』
了解だ。ちと可哀想だが、容赦しねぇ。
フォースリヴォンからウインドセイバーを精製した俺は、その切っ先をエレメリアンへと向ける。
「ひ、ひぃ!!」
「おい、てめぇ名前は?」
「で、デカラビアギルディ……!! ど、どうかお助けを……!!」
ヒトデエレメリアンもといデカラビアギルディは命乞いに必死だ。
これじゃあどっちが悪役かわかんねぇじゃねぇかよオイ。
「てめぇ何しに来た? 返答によってはどうなるかわかるよな?」
「わ、我はただ……あまりにも退屈していたので遂……」
その後、話を進めていくうちにわかった事だが、コイツは本当に誰かを襲うつもりはないらしい。何ならアルティデビル全体が、今現在ベリアルギルディ及びその配下の七つの性癖に好き勝手されているらしく、本来なら出撃全般が禁止にされているとの事。今日出てきたのも、コイツ含めたベリアルギルディを好く思わない奴らが結託し、その中からクジ引きで選ばれた奴が黙って出撃するって言う一種のささいな反抗に過ぎないらしい。
(エレメリアンにも色々あるのね……)
「フォルネウスギルディもそうだったけどよ、意外とこういう奴らもいるんだな」
ベリアルギルディのせいで苦労しているのは他のエレメリアンも同じらしい。
まぁでも、同情こそするが、俺としては倒すも倒さないも別にどっちでもいい。
とりあえず聞きたい事は聞いたので、何となく引っかかっている点を聞いてみる。
「なぁお前、てめぇが愛する属性ってなんだ?」
「よ、よく聞いてくれた……!! わ、我が愛するのは
次の瞬間、デカラビアギルディは蹴り飛ばされ大爆散。
文字通り夜空に輝く星となったのだった。
◇
数ヶ月前まではあれほどまで活気に満ちていたアルティデビル基地の大ホールも、今では誰一人寄り付かないがらんどうの様相だ。
記録上、最後に使われたのはスペルビアギルディが初めて来訪したあの時までとなっていおり、それ以降は誰一人として使おうとはしていない。
出撃禁止の令を出され、スペルビアギルディの初来訪以降誰も来ない以上、いよいよやる事がなくなり、殆どの者が自室に閉じこもっているのだ。
しかし今日、大ホールの扉が静かに開かれ、いくつかのエレメリアンが様子を伺いつつ忍び込んでいた。
「そーっとだ、バレるなよ……」
ホール内の照明は使わず、手にした懐中電灯の光を頼りに席やテーブルを動かす者たち。集まったのは10も満たない少人数。彼らはベリアルギルディによって起きたこの状況に嫌気がさし、せめてもの抵抗をせんと集まる者たちである。
彼らの目的はただ一つ、テイルバイオレットを打倒する事で我々の実力を見せつけ、軽んじるベリアルギルディを見返してやる事である。
今まで使われていた巨大テーブルではなく、物置から出したであろう小さめなテーブルを皆で囲う。
「それで……デカラビアギルディはどうなった?」
「うーむ。どうやら、手も足も出ずにやられたようだ……」
「やはりか……」
その報告を聞き、皆一同に肩を落とす。
今日、このベリアルギルディ見返し大作戦の第一弾として出撃したのが先程瞬殺されたデカラビアギルディであったのだ。
「テイルバイオレットにテイルブルーム、どちらも強すぎる……」
「しかもだ。噂によるとテイルブルームも先日の憤怒の性癖との戦いで新たな力を手にしたようだぞ」
「なんだって!? それは本当か!?」
詳しく知らない様子であるが、残念な事に本当である。
シャイターンギルディ戦を経てテイルブルームはより強く進化した。
尤も、その実態が酒を飲んで酔っ払っている事だとは流石に思ってはいない。
だが、テイルバイオレットは無理でもテイルブルームならワンチャンあると微かな希望を抱いていた者もこれには絶望するしかないのだ。
「それに、今はテイルレッドの紛い物までいる。これを見てくれ」
一人のエレメリアンがスマホを操作し画像を共有する。
コソコソ活動するが故に彼らはホール内のモニターやプロジェクターを使えない為の措置だ。
送られてきた画像にはアナザーテイルレッドオリジナルチェインが写っている。
「なんだこれは……レッドたんを冒涜しているではないか!!」
「レッドたんがこんな悪い表情するわけないだろ!! 会った事もない俺たちをバカにしやがって!!」
「踏まれて……罵られたい……」
約一名を除き、皆の感想は一致していた。
やはりアナザーテイルレッドは本家を好む者には到底受け入れられるような存在ではないのだ。
ドM発言をした一人をギロリと全員が睨みつけた後、再びため息が聞こえてくる。
この集会もそろそろお開きだ。
「さて、そろそろ時間だ」
「そうだな。次出る者は次回決めるとしよう」
「デカラビアギルディよ、安らかに眠れ」
証拠を隠滅するかのように片付け終えた彼らは外に誰もいない事を確認した後に居住スペースへと戻っていく。
廊下ですれ違う何も知らない同胞にバレぬようにそれぞれ自室へ。
重い気分を晴らすべく、それぞれがそれぞれのパソコンを起動。
何人かの女の子が描かれたいかがわしいゲーム。エロゲーだ。
「やっぱり、辛いときはこれだよなぁ……」
フィギュアやゲームに囲まれた暗い部屋の中、エロゲーにニヤニヤするエレメリアン。
起動したエロゲーは新作とは程遠い年代物ではあるが、彼にとっては辛いときや苦しいとき、いついかなる時も励ましてくれた最高の宝物だ。
大好きなメインヒロインやサブヒロインに癒されようとセーブデータ一覧を確認する。
その時、ある違和感に気が付いた。
「ん? 誰だこれは……?」
このエロゲーは主人公の名前を自由に設定する事が出来る作品であり、年代物ながらヒロインたちにフルボイスで呼んでもらえるのが特徴だ。
当然、主人公の名前は自身の名前である。
セーブデータ全てもそうなっている。
筈なのだが……
「主人公名、マモンギルディだと!? 名前が違うぞ……!! 誰だコイツは!!」
ロードした先のセーブデータ。
そこで呼ばれる主人公は自身とはまるで違うマモンギルディという名前になっている。
大好きなメインヒロインが何処の馬の骨とも知らん名前を呼び、頬を赤らめさせている。
胸を抉られるような大きなダメージがエレメリアンを襲う。
「や、やめろ……!! そんな知らぬ名を呼ばないでくれ……!! 頼む……!!」
メインヒロインの声が流れる度に落ちる涙がキーボードの濡らす。
しかも、よくこのデータを見ると、今起きているイベント全てが自分自身が知らない隠しルートや展開であるのがわかり、まるで好きな子の自分が知らない一面をまざまざと見せつけられているかのようだ。
「すまぬ……!! もう無理だ……!!」
耐え切れなくなったのか、セーブデータを切り替える。
メインヒロインが駄目ならサブヒロインに慰めて貰おうの判断だろう。
しかし、それすらも叶わない。
「馬鹿な……!! 全てのデータが上書きされているだと……!!」
そこにある全てのセーブデータが彼にとっての絶望を表していた。
攻略可能なヒロイン全てとのルートがマモンギルディとやらのデータに上書きされていたのだ。
自分のいない間に全てのヒロインが違う名を呼び、その全てが自分自身が知らぬ一面を見せつけている。
これは一種の拷問だ。
耐え切れなくなったこのエレメリアンはただ泣き叫ぶしか出来ない。
「やめろー!!! やめてくれ!!」
「目を覚ませ!! お願いだ!!」
「悪い夢なら醒めてくれよーッ!!」
同じ頃、多くの自室にて同じような叫び声が確認された。
◇
キーンコーンカーンコーン
(ん? なんだ? チャイムか?)
唐突に聞こえてくるチャイム音がうとうとする俺の意識を覚醒させる。
周囲を見回すと、クラスメイトの何人かが談笑にふけり、弁当箱を開いたりしてやがる。
教室に備え付けられた時計は12時を指していた。
「いっけね、また寝てたのか……」
不思議な感覚だ。
何か変な夢でも見ていたのかってくらい気分が悪い。
内容を覚えていないのも余計にだ。
「てか、今日って何曜だよ……土曜授業って訳じゃねぇよな?」
記憶がはっきりしない。
でも授業があるって事は土曜や日曜じゃないのは確実だ。
「……って、んな事考えてる場合じゃねぇだろ。飯の時間が終わっちまう……!!」
折角の昼休みを無駄に過ごすなんて論外以上の何でもない。
弁当がない事に気がついたので、購買部に向かうべく席を立つ。
教室から廊下へと出てすぐ、背後から声が聞こえてきた。
「ちょっと!! 待ちなさいよ!!」
声からして声の主はティアナだ。
振り向くと、ぷんぷんと赤紫のツインテールを揺らして怒っている。
余程寝ぼけていたのか、うっかり忘れてしまっていたぜ。
「すまん、ついうっかり──」
「だから待ちなさいってば!!」
「え?」
ティアナは俺に一切目を向けず、俺の脇を走る抜ける。
そして、廊下にいる俺の前方、誰とも知らない男に腕に抱きついていた。
謎のエレメリアン、マモンギルディ。
強欲の性癖を担う彼の属性は苦手な方も多いかもしれません。