俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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私事ですが、熱中症と脱水症状でダウンしてました。


第145話 悪夢と強欲

 なんだよ……何が起きてんだよ……

 俺は今、この目の前で起きているこの現実が理解できなかった。

 ティアナが俺をいない者のように扱い、誰とも知らない男に抱きついている。

 

「もう、置いてかないでって言ってるでしょ~意地悪なんだから~」

 

 先程のよく知る少しツンとした態度ではなく、他者に甘えるような媚びる声を出すティアナ。

 俺に対してもなかった訳じゃないんだが、誰にでもするような物じゃない。てか、アイツの性格的にこんな誰にでも見られるような場所でそんな露骨な事をするようなタイプでは決してないと断言できる。

 まるで、何か得体の知れない力に存在その物を歪められたのではと感じてしまう。

 

「おい、ティアナ!! おい!!」

 

 何となくわかってはいたが、ティアナは俺の声に耳を貸してやくれない。

 聞こえていないのか? それとも意地悪く無視しているだけなのか?

 あの様子から見るに恐らく、答えは両方だろう。

 よく聞こえないけど、和輝の奴が何かワーワーわめいているわねと言った雰囲気だ。

 

「おい!! 返事してくれ!! 行くんじゃねぇ!!」

 

 見知らぬ男と腕を組んだティアナが遠くの方へと去っていく。

 ほんの一瞬の出来事の筈が何百、何千とも途方もなく長い時のように感じる。

 

「クッソ……待てって言ってんだろ――ッ!!」

 

 追いかけようと足を踏み出すと同時に力が抜け、俺は無様に転んでしまう。

 

「くッ……」

 

 出会ってからもう直ぐで一年、俺とティアナは今まで多くの困難を共に乗り越えた結果、相思相愛の中となり、遂には本当の意味で二人で一つの存在(ツインテール)として極限の進化を果たす事まで成し遂げた。自分で言うのもなんだが、俺たちはそこいらのカップルなどとは別次元で互いを想っていると自負している。

 そりゃあ喧嘩が起きなかった訳じゃない。何なら喧嘩なんて日常茶飯事だったし、今でも些細な事でよくしている

 でも、だからってこんな事が起きる筈が無い。

 俺の大好きなティアナが……俺を好きでいてくれた筈のティアナが……俺を無視して誰とも知らぬ奴に媚びるようについていく。

 心が引き裂かれるような感覚とはこの事か。

 果てしない無力感と絶望感が今まで経験してきたありとあらゆる困難よりも強く響く。

 アナザーテイルレッドに殺されたあん時の方が数百倍マシだぜ。

 

(何なんだよ!! 何が起きてんだよ!!)

 

 涙が頬を伝い、地面を濡らす。

 俺は無様だ……不幸だ……絶望だ……

 俺の心が絶望に沈んだ瞬間、周囲の景色が歪み、真っ暗闇に染まっていく。

 さっきまでいた筈の他の生徒や先生たちみんなが消えていく。

 見えるのは遠くに去り行くティアナの後ろ姿だけ……

 俺はただひたすらに叫んだ。

 

 

 

 

「ティアナァァァッ!!! って……アレ?」

 

 いつもの天井、いつもの壁紙、いつものベッド、いつもの部屋。

 気が付くと、俺は自室のベッド上で体を起こし、汗まみれになりながら叫んでいた。

 あまりにも突然過ぎる変化に理解が中々追いつかない。

 

「んだよ……夢か……」

 

 自室の時計とトゥアルフォンで時刻と日にちを確認した所、現在は土曜の13時丁度。

 昨日、トゥアールさんに問い詰められたりデカラビアギルディと戦闘したりしていたのがテスト休み中の金曜であった事から、現在が土曜である事は間違いなく本当だとわかる。

 記憶がハッキリと蘇り、今見ていたのが単なる夢であったのだとわかった事で、俺は今すげぇホッとしている。

 

「ったく、どおりで変な訳だ……」

 

 ティアナの心変わりは当然として、気が付いたら学校にいて且つ、いつの間にか昼休みが始まっているってのも、冷静になって見れば訳が分からねぇ話だ。

 急に記憶も場面も飛び過ぎだし、てかそもそも俺とティアナ以外の顔見知りが碌に出てこないってのもおかしなもんだぜ。

 まぁでも、それにしてはリアルな感じだったなとは思う。

 あまりに衝撃的な展開を前にしたせいで冷静でいられなかったってのも夢を夢だと認識できなかった理由であると何となく察せられるが、それ以外の何かが原因だったような気がしない事もない。

 

「全く、はた迷惑な夢だぜ……。なぁティアナ――」

 

 より確かな安心感を得るべく、隣で眠っているであろうティアナにそう声をかけるべく振り返るがしかし、隣の空間には既に誰もいなかった。

 

「ッ――!?」

 

 瞬間、俺の脳裏に蘇るのは先程見た悪夢の内容その物。ティアナが俺を捨て、別の野郎と一緒になるという最悪の光景だ。

 冷静さを失った俺は慌ててベッドから降りては部屋を出て、家中を駆けまわる。

 

「おいティアナ!! どこだ!! どこ行っちまうんだよ!! 出てきてくれよオイ!!」

 

 リビング、ダイニング、キッチン、洗面所や物置及びクローゼット。

 その何処にもティアナはおらず、俺の焦りは一層加速する。

 終いには風呂場の中やトイレといった、もしいたのなら絶対に怒られるであろう場所まで見て回るという傍から見ればキモイとも思われかねない事まで俺はしてしまっていた。

 

「ティアナ!! いるなら返事を――」

 

「うっさいよ和輝!! 今何時だと思ってんだい!!」

 

 錯乱し続け、叫ぶしか出来なくなっていた俺を正気に戻すかのように、背後から一喝。

 振り返るとそこに立っているのは少し怒っている様子の婆ちゃんだった。

 

「ご、ごめん婆ちゃん。で、でもよ……!! ティアナがいなくてよ!!」

 

「はぁ? 何言ってんだい。あの子ならもう随分前に正樹の所に手伝いに行ったよ」

 

「へ?」

 

 婆ちゃんのその言葉を聞き、錯乱していた俺の頭は冷静さを取り戻す。

 え、何? ティアナは昨日に引き続きおやっさんの店を手伝いにいっただけって事か?

 いやま、冷静になって見れば確かに、早起きなティアナが俺と同じようにこんな時間まで寝ている訳ないし、休日のこんな日までわざわざ起こしに来るほどキツイ奴じゃない。休日中、眠り続ける俺を置いてどこかに行くなんて言ってしまえば当然の事だ。

 

「そ、そうだよな……」

 

「当たり前さ、大騒ぎしてんじゃないよ」

 

 婆ちゃんの言い分は尤もだ。

 錯乱し過ぎたぜ。

 

「どうした? 何かあったのかい?」

 

「いや、ちょっと悪夢つうか、嫌なもん見ちまってさ……」

 

 心配する婆ちゃん。

 俺もいくら悪夢を見たからと言って、何一人で勝手に錯乱してんだよと、冷静になればなるほど恥ずかしさがこみ上げてくる。

 全身が真っ赤に染まっていくのがわかる。

 

「そうかい。まぁでも、束縛の強い男は嫌われるよ。第一、気持ち悪いっちゃありゃしない」

 

「いや別に俺はその……!!」

 

「言い訳してんじゃないよ。確かに怖かったのかもしれないけどね、今さっきの醜態をあたしゃどういう気持ちでみればいいんだい? 二人仲良く相思相愛は結構だけど、ただ片方に依存しているだけの関係なんていい関係とは言えないよ。そんなのじゃいずれ捨てられて他の男に取られるのが関の山さ」

 

 ティアナに捨てられる?

 別の男に取られる?

 いつもの俺ならそんなバカなと聞き流していたワードも今の状態だと頭から離れなくなっちまう。

 

「ま、そう言った所ですぐにどうにか出来るなんて思っちゃいないさ。今は一先ず、会いに行ったらどうだい?」

 

 ティアナに会いたい。特別何かしたい訳じゃなく、ただ会って安心したい。

 その気持ちが抑えきれなくなった俺は婆ちゃんの提案通り、アラームクロックへと向かう事を決めた。

 

「わかった。ちょっと、おやっさんの所……ティアナに会いに行ってくる」

 

「ああ。気を付けて行っておいで」

 

 婆ちゃんに見送れる形で俺は、アラームクロックへとマシントゥアールを走らせる。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。そいつは災難な夢だな」

 

「災難ってレベルじゃないぜ。心臓に悪すぎるっつーの」

 

 昼のピークを過ぎ客の殆どがいなくなったアラームクロックの店内。

 コーヒーを飲むなどで一先ずの落ち着きを取り戻した俺は、おやっさん相手に先程見た悪夢の事を話し、溜め込んだ不安を吐き出している真っ最中だ。

 

「だってよ、ティアナが俺の事を無視するんだぜ? ここまで長い付き合いの俺の事をそんな風に扱うだなんて有り得るか? 気味悪いし、何かあったんじゃないかって心配するのは当然だろ!?」

 

「はいはい、わかったわかった。もう一杯飲んで落ち着け」

 

 そう促された俺はカップの中に淹れられたおやっさん特製ブレンドのコーヒーを一口。

 ガキの頃、カッコつけて飲み始めたあの頃から何も変わらない味が俺の心へ落ち着きを取り戻させる。

 いけねぇいけねぇ、また錯乱しちまうとこだったぜ。

 

「どうだ? ちょっとはスッキリしたか?」

 

「さんきゅーおやっさん。ちょっとばかし落ち着いたぜ」

 

「おいおい、ちょっとだけかよ。まぁ、それでも良しか。いや~、急に来てティアナちゃんがいないと知って錯乱し始めた時は何事だって思ったぞ」

 

 ティアナは現在、おやっさんの頼みで買い出しに出かけており不在。

 いないと知ってまたしても錯乱しそうになった俺であったけれど、おやっさんの淹れるコーヒーはそんな俺の心すらも落ち着かせる程だ。

 おやっさんがついさっきの事を言い出した事もあってか、また恥ずかしさでいっぱいになる。

 

「まぁでも、気持ちはわかるぞ。好きな子のNTRなんて、夢であっても見たくないからな」

 

 うんうんと頷くおやっさん。

 俺としてはNTRと言うワードが気になってしまう。

 

「NTR? 夏コミの会場でチラッと見た覚えがあるけど……どういう意味だよ?」

 

「うーん、そうだな……。過激に言うなれば純愛好きの唾棄するジャンル、シチュエーション。略さず言うと寝取られだ」 

 

 あー、成程。何となく理解したわ。

 寝取られ。つまり愛し合っている二人のうちの片方が誰か別の相手に奪われてしまうって奴か。

 青葉さんの遊んでいたエロゲーの隠しルートにそんな展開があった気がする。

 俺は全く以て受け入れられなかった内容だったな確か。

 ん? でも待て、それってつまり……

 

「って……オイ!! ティアナが寝取られるってどういう事だよ!!」

 

 ティアナが他の男に奪われ、寝取られる。

 NTRの意味を理解すると同時にまたしても先程見た悪夢の光景が蘇ってきやがる。

 夢の中の俺はNTRゲーの主人公と同じ無様な敗者とそっくりと言ってもいい。

 故に俺は怖くて怖くて仕方がないんだ。

 

「落ち着け落ち着け。それはただの夢だろ? ほら、コーヒーのおかわり淹れてやるから」

 

 何度目かわからぬ錯乱をおやっさんに諭されコーヒーを一口。

 そうだよな、ただの夢だよな……

 一杯目、二杯目ほどではないが、多少の落ち着きを取り戻す。

 

「にしてもNTRか、懐かしいなぁ。昔を思い出すよ」

 

「なんだよ、経験でもしたのかよ」

 

 しみじみと昔を思い出す様子のおやっさんが気になってしまう。

 もしかして、おやっさんは嘗て好きな女の子を誰かに寝取られたのか?

 ただの同情心ではなく、不思議なシンパシーを感じてしまう。

 

「いや~、アレは辛かった。そのせいで体重もガッツリ落ちたからなぁ」

 

「ま、マジか……」

 

 いつも太り気味のおやっさんが痩せたと知って俺は驚きを隠せない。

 対するおやっさんは昔の事を語りだす。

 

「子供の頃、初めて異性として好きになったヒロインがいてな。それがまさか最終回エピローグで結婚後の姿で登場するとはなぁ。あん時は泣き崩れたよ……」

 

「は? ヒロイン? え、アニメ? 特撮?」

 

「ズバリ聞いてくれたな!! 時は昭和!! 幼き正樹少年は――」

 

「んな事どうでもいいわ!! てか現実じゃねぇのかよ!! 寝てから言え!!」

 

 長くなりそうなので強引にカット。

 これ以上語らせたら時間が幾つあっても足りない事なんて目に見える。

 

「さっすが、日頃一緒に寝ている男の台詞は違うな~。寝てから言えだなんて俺も言ってみたいぜ~」

 

「うるっせぇわ!!」

 

 全く、おやっさんってばすぐこれだ。

 共感しようとした俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。

 俺は本気で苦しんでいるってのによ。

 

「ごめんごめん。気でも晴れるかなって思ってな」

 

「わーってるよ。どうせそんな事だろって思ったぜ全く……」

 

 フンとそっぽを向きながら俺はコーヒーを口に運ぶ。

 落ち着くと同時にそもそもの原因が気になってくる。

 

「でもよ。そもそも俺……どうしちまったんだろうな……」

 

「う~ん、何かきっかけとかないのか? 夢ってのは起きている間の体験とかが原因の場合もあると聞くぞ」

 

「そう言われてもなぁ。別にティアナの事で心配になった事なんてないし……。おやっさんから見て何かわかったりする?」

 

 おやっさんに聞いた所で、これが俺自身の心の問題である以上、どうしてだなんてわかるわけがない。

 案の定、おやっさんも首を傾げている。

 当たり前だ。ここ最近、別段ティアナとは大きな喧嘩もしていないし、関係性は良好その物で不安になる原因のような物なんて何一つない。

 強いて言うなれば……アレか……

 

「約束のクリスマス……だったりするのかな?」

 

「約束のクリスマス? ああ、トゥアールちゃんと取り決めした例のアレか」

 

 ポンと手を叩き納得するおやっさん。

 俺としては例のアレ呼ばわりはやめて欲しい。

 

「まぁ、その、なんだ。男は度胸。いざって時はビシッと決めちまえ」

 

「んな事言ってもよ……」

 

 こんな所で躊躇しているから寝取られる夢を見るんじゃないのかって思ってしまう。

 でも、だからってそうぐいぐいイケるタイプじゃない。

 俺はヘタレだ。誰もが認めるクソダサいヘタレ野郎だ。

 

「無理なら別に、何か違う事でもしてやればいいんじゃないか? 付き合い始めて初のクリスマスだ。デートするなりプレゼント渡すなりで思い出作りってのも悪くないだろ? 上手くいけば、そのはずみで大人の階段を上れるかもしれんしな」

 

 最後のは兎も角、デートやプレゼントってのは賛成だ。

 折角のクリスマス、二人きりで楽しむってのも悪くない。

 今年の俺は去年までのボッチとは違うんだ。

 そう意気込むそんな時、アラームクロックの入口が開く。

 

「ただいま正樹さん~!!」

 

「テ、ティアナ!!」

 

「って和輝じゃない!? どうしたの!?」

 

 上着を着こみ買い物袋を沢山抱えるティアナ。

 揺れる赤紫のツインテールを中心に何もかもが愛おしい。

 安心すると同時に今日一番の恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

「べ、別に何でもねぇよ……!! た、ただ……おやっさんのコーヒーが飲みたかっただけだ……!!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「素直じゃないな~」

 

 茶化すおやっさんを一睨み。

 おやっさんはそそくさと厨房奥へと引っ込んでいく。

 当初の目的を達成し完全に落ち着いた俺は、赤くなっている事を悟られぬようにそっぽを向きながらティアナへと言い放つ。

 

「週末のクリスマス、予定空けとけよ……!! デ、デートだデート!!」

 

 これ以上はどうにかなりそうなので急いで外へ。

 ティアナが追いかけてくるよりも前にマシントゥアールを発進させる。

 前にもあったな……こんな事……

 

 

 

 

 

「ねぇ正樹さん……」

 

「どうしたんだ? 店の手伝いなら気にしなくていいぞ」

 

 優しくそう言ってくれる正樹さんだけど、私の心配はそこじゃない。

 どうしたんだろう? 和輝から何か変な感じがする。

 いつもの素直じゃない態度とは違う、異質な何か。

 例えるならそれは何かに憑かれているような違和感。

 デートに誘ってくれた嬉しさ以上に私は、不安だった。

 

 

 

 

 アルティデビル基地の大ホール内では今日もコソコソといくつかのエレメリアンが動き回っている。

 目的は昨日に引き続き、ただ一つ。

 テイルバイオレット、テイルブルームを打倒し自分たちの地位を向上させる事だ。

 

「よし、時間だ。そろそろ始めよう」

 

 用意したテーブルを囲むエレメリアンの内、リーダーシップを取る一体が時刻確認と共に開始を宣言する。

 しかし、集まった面々は昨日の数よりもさらに少なくなっており、他に三体のエレメリアンしか存在していなかった。

 

「ちょっと待て、随分と数が足りんようだが……」

 

「忘れているだけじゃないのか?」

 

「そんなまさか……」

 

 彼らは知らない。昨日、基地内で起きていたちょっとした事件の事を。

 故にリーダーシップを取るエレメリアンはただの遅刻、あるいは別件でパスと認識した。

 

「来ない奴を気にしても仕方ない。時間も少ないんだ。さっさと始めよう」

 

 そう言いながら取り出すのはお手製の小さなクジ引きボックス。

 中に一枚だけ入っている当たりと書かれた紙を引いた者が出撃するという寸法である。

 以前、バアルギルディがリーダーをしていた時はクジの中身は数字のみであり、スクリーンに結果が表示されると言う凝った物であったが、極秘でやっているが故にこのようなやり方にグレードダウンするしかないのだ。

 四体のエレメリアンはそれぞれクジを引いていく。

 

「ハズレだ」

 

「俺も」

 

「右に同じ」

 

「こっちもだ」

 

 昨日集まった数が今日の倍であったが為に用意していたハズレは多い。

 その為、一度のクジ引きで当選者は出ず、再度引き直しとなる。

 否が応でも来なかった者を意識せざる得ない状況下で当たりを引く者は現れる。

 

「よし、当たりは俺のようだな」

 

護謨服属性(ラバースーツ)のアモンギルディか……武運を祈る」

 

「任せておけ、テイルバイオレットもテイルブルームも、二人纏めて我が愛のラバーの虜にしてやるわ!!」

 

 そう豪語する本日の出撃者アモンギルディ。

 狼の身体に梟の頭、蛇の尾も持つ悪魔モチーフのエレメリアンらしい異形の怪物だ。

 彼は自信満々にそう言い切った後、集会を抜けて出撃せんと大ホールの外を伺いながらこっそりと出ていった。

 

「さて、一先ずは解散だな。あとは結果次第だが……」

 

 リーダーシップを取るエレメリアンが解散を宣言。

 残った二体のエレメリアンもそれに頷き、片付けの準備に入る。

 それにしても、何故今日はこうも集まりが悪いのか?

 片付けの途中で誰もがそう頭によぎった時、大ホールの扉が外側から開かれる。

 

「あれあれ~? 折角、覗きに来たのに、ミーティングはジ・エンドって事ですか~?」

 

 聞こえてくるのは簡単な英単語混じりの所謂ルー語ちっくのウザい喋り声。

 一瞬、誰もがギョッとするも一言目でわかるそのウザさに警戒心が反発心に切り替わる。

 

「誰だお前、何者だ!!」

 

「ミーが誰かって? それは確かにソーリー、失礼だったね~」

 

 突如として現れた者もとい、エレメリアンの姿が明らかになる。

 例えるならそれは双頭の鷲の鳥人。翼こそないが、手足に鷲の鉤爪、細く引き締まった身体は全てが羽毛で覆われ、顔には左右二つの頭にそれぞれ片方ずつ鋭い目が外側にあり、両方が立派な嘴を備えている。頭が二つあるという異形を除けば比較的シンプルな姿をしたエレメリアンである。

 

「ミーのネームはマモンギルディ。ユーたちもよろしくね~!」

 

 そう名乗るマモンギルディ。

 ややこしいが、先程出撃したのはアモンギルディで、コイツはマモンギルディ。

 全くの別エレメリアンである。

 あと因みに、マモンギルディの頭で喋っているのは決まって左側の方である。

 

「マモン……や、ややこしいな」

 

「オー、それはソーリー」

 

「それよりも何だよこのウザさ……」

 

 思わずそう口に出てしまう程マモンギルディはウザかった。

 常におちゃらけた態度を取り、喋り方は片言の英語混じりのルー語。

 ウザく感じない筈が無い。

 

「マモンギルディ……」

 

 リーダーシップを取っていた者含む元々いた二体のエレメリアンがウザく感じる中、もう一体のエレメリアンはその名前に聞き覚えがある様子を見せる。

 数十秒後、その原因を思い出した。

 

「そうだ……!! ここに来るとき、マモンギルディって奴がどうたらって何か騒ぎになっていたぞ……!! もしかしたら、今日数が少ないのも……」

 

「何!? ならお前は!?」

 

 その事を聞き、警戒心が戻って来る一同。

 対するマモンギルディは先程までとなんら変わらないウザい態度のままだ。

 

「ノーノー。ミーはただ、ちょっとプレイしただけに過ぎません。無関係(アンリレイテッド)でーす」

 

「プレイした? 何をだ?」

 

「ゲームですよ、ちょっとセクシャルなゲーム。ミーはただ、皆さんのプレイしてないルートをちょこっとエンジョイしただけでーす。ま、セーブデータも主人公のネームも上書きしちゃいましたけどね」

 

 マモンギルディは悪びれずそう答えた。

 それを聞いて皆、コイツは何者なんだとさらなる警戒心を抱かせる。

 他者のエロゲーのデータを勝手に書き換え遊ぶなどある意味最低の行為だと感じているからである。

 

「一つ聞く。マモンギルディ、お前は何者なんだ?」

 

 そう尋ねられたマモンギルディの口元が二ヤリと歪む。

 そしてマモンギルディはウザい態度を崩さず自身の正体を口にする。

 

「ミーは七つの性癖(セブンス・シン)の強欲を担うエレメリアン。寝取り、寝取られ、他者のラブをスナッチする寝取られ属性(カァク)を愛する者さ」

 

 七つの性癖、強欲、寝取られ属性。

 何もかもが衝撃的であり、皆一斉に言葉を失った。

 

「「「ッ……!!」」」

 

 もしかして何か俺たちも何かされるのではないか? 禁止されている事を破っている以上、そうであってもおかしくない……!!

 そう思っても仕方ないこの状況。

 それとは別にもう一つの感情もこみ上げてくる。

 

「ね、寝取られだと……すなわちお前はNTRを愛するとでも言うのか……!?」

 

 もう一つの感情、それは驚愕と軽蔑であった。

 ここにいるエレメリアンの大半はできるなら純愛を愛する者たちである。

 NTRもとい寝取られが好きなど言える訳がない程に嫌われている。

 なのにマモンギルディはそれを堂々と答えた。

 ましてや相手は強欲。寝取られというシチュエーションとは別に、寝取る行為その物を愛しているようにも思える。

 比較的野蛮な者が多いアルティデビルではあるが、愛し合っている他者の愛を奪う程悪趣味ではない。

 

「イエース。誰か他の子が寝取られたり、他の子を寝取ったりするのって、どれも全部が最高に面白い(アミュージング)じゃありませんか?」

 

「なんだと……!!」

 

 かつてない程にゲスなエレメリアン。

 それがマモンギルディと言えよう。

 わなわなと怒りが抑えきれない他のエレメリアンたちであるが、バカでもわかる程の実力差を感じて手を出せない。

 

「テイルバイオレットはターゲットのガールと相思相愛のボーイからなる戦士と聞いてまーす。ククク、ワクワクしますね~」

 

 この発言には例え敵であってもテイルバイオレットを応援したくなる程だ。

 こんなにもくたばれと思ってしまうようなエレメリアンもそういない。

 

「ユーたちが何をしようとノープロブレム。既に作戦はスタートしてますからね~」

 

 ウザい態度で嫌な笑みを浮かべるマモンギルディはそう言い残し大ホールを後にする。

 残されたエレメリアンたちはもう既に今さっき出撃したアモンギルディの事など当に忘れ、テイルバイオレット負けるなと心の中で応援するのであった。

 

 

 

 

 一方、ここはとある郊外にある廃屋。

 ここはアナザーテイルレッドことレイジの新しい隠れ家だ。

 転送装置に属性力感知装置。小さめながらトゥアールの作った基地と同じ設備を有するこの廃屋は、感知されぬように認識攪乱を施している。

 

「さて、ようやく力も戻って来たみてぇだなぁ」

 

 シャイターンギルディとの戦いで消耗したレイジもようやく本調子を取り戻した所であった。

 簡易的な回復装置を外したレイジは新調したタブレットを取り出し、世間の様子及びエレメリアンの動向を確認する。

 

「何だこの反応? 何か嫌な奴が動いてやがるな……」

 

 レイジの持つ技術力はトゥアールのそれと同等かそれ以上だ。

 中でも、属性力に関する事においてはツインテール属性を普段は有していないトゥアールよりも明確に上である。

 総二やティアナ程ではないが、ツインテールを五感で感じる事が出来るが故の事だ。

 レイジは感知した反応に眉をひそめ立ち上がる。

 

「どうやら、またオレの出番のようだな。全く、世話を焼かせるガキ共だ……」

 

 やれやれといった雰囲気のまま動き出すレイジ。

 傍から見れば頼れる味方のような行動だ。とても敵だと豪語する者には見えない。

 一つ言えるのは、今の彼は嘗ての彼とは少し違うという事だけである。

 

「フン、随分と馴れ合っているじゃあないか。贋作風情が調子に乗る」

 

 そんなレイジに水を差すかのような声が外から聞こえてくる。

 それを聞いたレイジは慌てて外に出ては空を見上げ、その声の主を捉えた。

 

「ベリアルギルディ、まさかてめぇがこんな所にくるとはなぁ。よくここがわかったなと褒めてやるぜぇ」

 

「フン、この程度の認識攪乱などオレ様に通用すると思うか? 尤も、それよりこのオレ様が贋作風情の為にわざわざ出向いた事に感謝するんだな」

 

 睨み合う両者。

 どう見ても仲が良いとは言えない両者の間には、一般人が立ち寄れない強烈な空気が流れている。

 

「回復したてだが仕方ねぇ。ムカつくてめぇだけはこの手でキッチリと狩ってやるよ」

 

「フン、やってみろ」

 

 挑発するベリアルギルディ

 レイジはブレスを可視化させ、アナザーテイルレッドへと変身せんとする。

 しかし、

 

「――と言いたい所だが、今日はその為に来たのではない」

 

 何と、ベリアルギルディは待ったをかけた。

 動きを止めるレイジ。

 ベリアルギルディは真剣な表情で口を開く。

 

「一つ、貴様に提案がある」




と言う訳でマモンギルディの属性は寝取られです。
ある意味、和輝にとっては最悪の試練となるかも……
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