俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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今回、ちょっと表現に苦労しながら書きました。


第148話 奪われる悪夢

 ――事件はアモンギルディ戦を終えた翌日に遡る。

 

「う~ん、よく寝た」

 

 時計がまだ7時を指しておらず、外の陽もまだ昇りきっていない冬の朝。

 休日である日曜日であろうともティアナの目覚めは早い。

 起床するなり体を起こし腕を伸ばすティアナは愛用のリボンを手に取り髪をツインテールへと結ぶ。その所作にかかる時間は1分も満たない正に早業。

 いつものルーティンをこなし終えたティアナは隣で眠っている和輝へと目をやった。

 

「すー……」

 

 その顔は実に穏やかであった。

 昨日のアモンギルディとの戦いの中ではあれだけ直前まで見ていた悪夢の事で悩んでいる様子であったが、現状を見る限りそれは杞憂であったのかとまで思えてくる。

 

「もう、和輝ったら」

 

 ティアナと比べて和輝の朝は遅く、いつもティアナが起床してからしばらく経たねば自力で目覚めない。

 故に平日などではティアナが起こす役割を担っている。以前まで正樹の家に住んでいた頃とは違い、今は同じ家の同じベッドで寝ているので、ティアナが目覚める=和輝は起こされるという方程式が成り立つのだ。

 しかし、今日は休日の日曜日。昨日の戦闘での疲れや、悪夢による精神的な不調を考慮すると今日もそっとしておくのがいいだろうと結論づける。

 

「先、行ってるからね」

 

 なおも穏やかな寝顔を見せる和輝へホッと一安心するティアナは二人用ベッドから降りては寝室を後にする。

 今日は日曜日という事もありアラームクロックは休みである為に手伝いに行く必要もなし。やることも特に決めていなかったので何をしようかと一瞬悩んだティアナであったが、昨日の事を踏まえて二人で特訓する事を思いつく。

 場所や内容はトゥアールに相談するとして時間はもう少し後でもいい。

 支度を終えたティアナは誰もいない朝のリビングにて一人くつろぎ時間が経つのを待った。

 

「さて、もう頃合いって感じね」

 

 時計の針が9時を回った辺りでティアナは和輝を起こすべく寝室へと向かう。

 寝かせておくにしては随分と早いモーニングコールではあるが、流石のティアナも一人でいるのももう限界という事なのだろう。

 ルンルン気分で寝室へと戻ってきたティアナは未だスヤスヤと眠っている和輝を見つけると、部屋の明かりをつけては声を張り上げる。

 

「起きなさい和輝!! 昨日の事も踏まえて今日は特訓よ!!」

 

 大きく響き渡る快活な声。

 しかし、いつもであれば愚痴りながらもゆっくりと目を覚ます和輝は眠ったままだ。

 

「ちょっと!! いつまで寝てるつもりなのよ!!」

 

 もう一度声を張り上げるティアナであるが、和輝は依然として目が覚める様子ではない。

 未だに聞こえてくる穏やかな寝息がティアナの心を少しばかり苛立たせる。

 

「も~!! あなたって人は本当に……!!」

 

 苛立つティアナはさらに声を大きく張り上げる。

 というよりもう怒鳴っているようにしか聞こえぬ勢いであるが、同居し始めてもう2ヶ月経とうとする涼原家では見慣れた光景ともいえる。

 だからこそティアナはいつもの調子で少し苛立ちながらも心の底から怒る事はなく一人でこのやり取りを続けるのであるが、今日は何かがおかしかった。

 

「ちょっと……、いくら何でも起きなさいよ……!!」

 

 苛立ちはすっかり消え、徐々に徐々に不安が募ってくる。

 もしかしてと思ったティアナは和輝の肌へと触れる。

 すると、

 

「――!?」

 

「総愛、あなた何時だと思っているん――」

 

 丁度その時、朝ごはんをいただこうと涼原家へと訪れていたトゥアールが騒ぎに気付き寝室へと入ってきた。

 瞬間、ティアナはトゥアールへと飛びついた。

 

「ママ!! 和輝が!!」

 

「は、はい? 和輝君がどうしました?」

 

 ティアナが指さす先、そこで穏やかな寝息を立てながら寝ている和輝の体はまるで死んでいるのかと錯覚するほどに冷たかった。

 

「どうしよう!? ママ!!」

 

「ひとまず基地へ運びましょう!!」

 

 そう促したトゥアールはクローゼットに施された転送装置を起動させてゲートを開く。

 ティアナは眠っている和輝を背中に背負うのだが、そうした結果、嫌というほどその肌の冷たさが伝わってくる。

 

(お願い和輝!! 死んじゃ嫌!!)

 

 この時、ティアナの脳裏に浮かんだのは自分を庇った和輝がアナザーテイルレッドによって殺されたという最も忘れたいと願う記憶だ。

 もう過ぎた事ではあるが、あの時の衝撃と絶望は計り知れない。

 それが今もう一度起きてしまうのかと思うと心臓の鼓動はドクンドクンと加速していく。

 希望があるとすれば、今の和輝は体温こそ死体のそれであるが、様子自体は普段寝ている時と変わらないという事でろうか。

 

「和輝君をこっちへ!!」

 

 基地のメディカルルームへと到着したティアナはトゥアールの指示に従い、専用の検査装置へと和輝を運ぶ。

 

「ママ!! 和輝は……!! 和輝は無事だよね!?」

 

「……わかりません。ですから今調べます」

 

 焦るティアナとは対照的に、トゥアールは何とか冷静さを保ち答える。

 そして始まる検査。

 ティアナは部屋の外に出てただひたすらに無事であることを望み祈る。

 途中、連絡を受けて事態を知った悠香、青葉、匠、華、正樹のいつもの面々が駆け付けてくれたが、ティアナとしては気が気ではない状態が続いていた。

 

「検査の結果がわかりました」

 

 数分後、メディカルルームの扉が開き、トゥアールが真剣な面持ちで出てきた。

 飛びつくティアナ。

 トゥアールは優しく受け止め、口を開く。

 

「安心してください。どうやら和輝君の命に別状はないみたいです」

 

「本当なの、ママ!?」

 

「はい。ですが……」

 

 喜びも束の間、トゥアールの表情が曇り、それを見た全員があまりいい状態ではない事を察して押し黙る。

 そして、そんな中トゥアールは語る。

 

「どうやら、和輝君は仮死状態になっているようです」

 

 トゥアール曰く、今の和輝は死んでいるのではなくただその見た目通り眠っているだけであるとの事。

 医学的、科学的、生物学的、ありとあらゆる分野の視点から見ても至って普通の睡眠状態であるらしく、仮死状態になっているのも例えるならば熊などの野生動物が冬を越すべく眠る行動、所謂冬眠と同じであるらしく、故に至って健康的で問題はない。

 問題があるとすればただ一つ、どうしてこうなってしまったのかに尽きる。

 普通、ただの人間である我々は冬眠などしない。

 テイルバイオレットに変身できうる和輝であろうとそこは変わらない。

 トゥアール曰く、極限状況下であるのなら自己防衛のためにそれが起こる可能性は高いとのことであるが、昨晩の状況からみてもあり得ない。ましてや同じ部屋の同じベッドで隣にティアナも寝ていたのであるから余計にだ。

 結論、トゥアールはこの異変をエレメリアンの仕業であると断定した。

 

「少なくとも、何らかの属性力の反応は検知できました」

 

「やっぱり、エレメリアンの仕業……」

 

「現状、そうと見て間違いありませんね。昨日のエレメリアンに何かされたか……あるいは」

 

 皆が一斉に昨日倒したアモンギルディを思い浮かべるがしかし、奴の能力はそのような物ではなかった。

 つまり、犯人は別にいるという事、それもただの相手ではなくとびきり強い相手だ。

 七つの性癖(セブンス・シン)4体目の刺客が動き出した事を悟る一同は表情を強張らせる。

 

「和輝……」

 

 心配するティアナが見つめる眠る和輝の表情は実に穏やかのものであった。

 

 

 そして現在、事件発生から三日が経った。

 なおも和輝は眠っているままである。

 

 

 

 

 仮死状態となり眠り続けている和輝が夢を見ている事に気が付いたのは昨晩の事だった。

 私が眠る和輝の傍らで起きてくれることを願っている時、その間もずっと和輝を調べていたトゥアールママが脳波を調べた際に気が付いたの。

 

「もしかしたら今見ている夢が何か関係があるのかもしれません」

 

 ママがそういった以上、何か関係があるのは確かなのだとわかる。

 私としても、何か些細な事でも目覚める手掛かりになるかもしれないと思うので今の和輝がどういった夢を見ているかを調べる事は賛成だった。

 

「まさか……あの時の事が役に立つとは思ってませんでしたが、何事も巡り合わせという事なのでしょうね」

 

 ママが意味深な発言と共に持ってきたのは、使用者が見たい夢を見させる装置とそれに付随した使用者の見ている夢を第三者が観測できる装置だった。

 なんでも、昔この装置のせいでひどい目にあったらしく、思い出すだけでも鳥肌立つみたいだけど、和輝君の為ならって言いながら当時の物から改良した物を持ってきてくれたの。

 念のための生命維持装置と和輝を繋げつつ、装置が付いた専用のベッドへと寝かせてスイッチオン。

 ママが言うには、観測できる夢は戦闘や日常での映像データや他の代替データを使用して作った再現映像であるらしくて完全な再現とはいかないらしいけれど、突貫で改良を加えた事で観測機能以外をオミットしたこの装置の再現性能は以前の物よりもかなり高くなっているらしいので恐らく大丈夫。

 眠る和輝のいる部屋の隣、マジックミラーの窓で様子を確認できる部屋にモニターが用意され、私とトゥアールママは勿論、悠香さんたちや華先生といった正樹さんを除いたみんなが集まり映像を確かめる。

 

『その程度かテイルバイオレット!!』

 

『くッ、ダメだ。やっぱり力が出ねぇ』

 

 いきなり映し出されたのはエレメリアン相手に苦戦するテイルバイオレットの姿。

 力が思うように出せず苦戦する様は先日のアモンギルディ戦を思い出す。

 

『ここは任せて!! テイルブルームが相手よ!!』

 

「見て見て!! 私が!! 私が出てる!!」

 

「華先生、ちょっと静かにしてください」

 

 映像を見た華先生がはしゃぎ、悠香さんが窘めているけど、はしゃぐ気持ちもわからない訳ではない程にテイルブルームの活躍は見事だった。

 苦戦するテイルバイオレットに代わって活躍するテイルブルーム。

 場面が代わり、別のエレメリアンが出てきても何も変わらない。

 

『ブルームツインシュート!!!』

 

「ほら!! また私!!」

 

「わかってるって!!」

 

「悠香もうるさい……」

 

 テイルバイオレットの苦戦と反比例するかのように活躍し続けるテイルブルーム。

 何度目かの戦闘が流れた後、場面が再び切り替わる。

 見覚えしかないメカニカルな内装を見るにあれは基地内のコンソールルームだ。

 

「あ、ママ」

 

『どうやら変身を維持する事が出来なくなっているようです』

 

「成程、夢の中の和輝君はアモンギルディ戦での不安を増幅させているみたいですね」

 

 映像内でのママの言葉を聞いて静かに項垂れる和輝と、それ見た現実のママが和輝の精神状態を分析する。

 ママが言うには、今の和輝はアモンギルディ戦での不調を引っ張り続け、どんどん悪い方向へと向かってしまうほどメンタル面が危ないみたい。夢はその人の精神状態を表すとも言うし、もしかしたらこの夢は和輝のそんな不安が形になったものなのかもしれない。

 映像内の和輝と私は遂には出撃することすらもなく、基地の中で華先生もといテイルブルームの活躍を見守っている。

 そして、和輝はどんどん自分を追い詰め不安定になっていく。

 

「――このようなタイミングで申し訳ないですが、長いのでとりあえず一度休憩と状況整理の為に一時停止します。見ている夢の記録自体は続けているのでご安心を」

 

 ママがそう言って映像を一時停止。

 私は部屋の窓に向かい、そこから見える隣部屋で眠る和輝を見つめた。

 

「和輝……」

 

 穏やかな寝顔だけど、見ている内容は現状ではあまり穏やかになれる物じゃなかった。

 ママが言うには記録開始のタイミングやそもそものタイムラグの都合上、我々が見ている映像はリアルタイムの物ではないらしいから、今見ている夢の内容は異なるとは言っているらしいけれど、心配な気持ちは変わらない。

 

「もしかしてだけど、敵は和くんの精神状態に付けこんで来たのかもしれないわね」

 

「それってなんすか? 現実のアイツも夢の中と同じだったって事すか?」

 

「詳しくはわからないけど、恐らくそうじゃないかしら?」

 

 推測でしかわからないけど、和輝の精神状態は確かに普通じゃなかったのは私も覚えている。

 アモンギルディとの戦いがあった直前から何かあったに違いない。

 

「ではそろそろ再開しましょう」

 

 ママが再び機械を操作し、映像を再開。

 色々な場面が移り変わり、映る映像は私と和輝の自室へと変わる。

 

『あれは夢だ!! ただの夢なんだよ!!』

 

 そう叫ぶ和輝。

 この場面を見て推測するに、和輝は何らかの悪夢を引きずっている。

 夢の中で夢の内容を引きずるって変な話だけど、そうなんじゃないのかって思っていた私からするとすごく納得できる。

 

『そう、そういう事だったのね……』

 

 何度目か自責を和輝が繰り返した後、部屋のドアが開き、私が姿を現した。

 

「あれが……私?」

 

 不思議な感覚だった。

 和輝の夢に出てくる私の雰囲気はとても自分じゃないみたいな感じがしてくる。

 客観的に見るのとそうでないのとでも違うのは当たり前だけど、それにしても雰囲気が違う。

 別人が私の真似をしているようにしか見えない。

 

『大丈夫、大丈夫だから』

 

『でも……俺、ヘタレで役立たずで……お前がいないと何もできてねぇ……ただの馬鹿で……』

 

『もう、大丈夫だって言ってるでしょ』

 

 違和感を覚えながらも映像は続く。

 不安と恐怖を吐露する和輝と励ましては寄り添う私。

 自分ではないような違和感もあってか、私としては映像内の私に和輝がとられてしまったようにも感じてくる。

 現実ではありえなかった勢いでくっつき始める二人を見て、何とも言えない切なさと悔しさがこみ上げてくる。

 

「――以上が、現在まで和輝君が見ていた夢の内容となります」

 

 とりあえず眠り始めて今に至るまで見ていた夢はここまでらしい。

 ここから先は現在眠る和輝が見ているリアルタイムでの夢……

 

「総愛、大丈夫ですか?」

 

「う、うん。心配しないで……大丈夫だから……」

 

 ママがそう心配してくれているけど、個人的には結構くるものがある。

 和輝が仮死状態になっているのもそうだけど、それ以上に夢の中の和輝は幸せそうなっているのがどこか辛くなるし、そんな風に思ってしまう自分にも腹が立ってくる。

 

「そう……ですか」

 

「本当に大丈夫だから、いいから続けて」

 

「わかりました……」

 

 心配するママは少し遠慮しながらも機械を再び操作。

 再接続の為の砂嵐を一瞬挟んだ後、映像が映し出されるんだけど、そこには――

 

『ティアナ、大丈夫か?』

 

『うん、平気。和輝ともっと繋がれたみたいで嬉しい』

 

 映し出されたそこは先程と同様の私たちの自室なのだけど、部屋の中はさっきまでと違って薄暗い。

 そんな中で私と和輝は二人揃ってベッドの上で何かゴソゴソしていた。

 

「は、裸……?」

 

「裸……っすね」

 

 悠香さんが真っ先にそう指摘し、匠が頷く。

 確かに目を凝らしてよく見ると二人は裸だった。

 

「ねぇ青ちゃん。これってまさか……」

 

「うん。セッ――」

 

「観束先生!! これは何ですか!!」

 

 瞬間、華先生の大声が響く。

 青葉さんの声を遮る形で立ち上がった華先生を見るにアレって結構ダメなのかな……?

 

「即刻停止してください!! こんな時に不健全な映像を流しては教育上いけません!!」

 

 何が起きてるかよくわからないけど、不健全なのは何となくわかる。

 だって裸だし。

 華先生が怒る中、ママはこそこそと装置をいじっていた。

 

「ママ? 何してるの?」

 

「いや、そのちょっと……貴重な映像なので追加のバックアップの方を……」

 

「そんな事より早く止めてください!!」

 

「ちょっと!! 勝手に装置に触れないでください!!」

 

 華先生が映像を停止せんと動き、それを止めようとママが立ちふさがる。

 

「夢の中とは言え、念の為に記録しておくべきです!! 目覚めた後の和輝君を焚き付けるのにいい材料になります!!」

 

「真面目にしてください!! こんな不健全な物は流すべきじゃありません!!」

 

「どこが不健全ですか!! 夢とは言え、ちゃんとした愛を形にしてるだけじゃないですか!!」

 

 唖然とする悠香さんらと何もわかってない私を置いて、口論を繰り広げながらも次第にエスカレートする大人二人。

 華先生はいつのまにか実力行使で装置を破壊しようとし、ママはありとあらゆる技術をもってそれを食い止める。

 その背後でずっと夢の映像が流れているのが、凄くカオスな空気を作っている。

 

『俺もだ。お前ともっと繋がれた気がする』

 

「何よ、何なのコレ……」

 

 それにしても、何だろうこの感じ。 

 何をしているのかあまりよくわからないのに、本能的に辛さが増してくる。

 言い表せない不快感と敗北感だけが積み重なっていく感じと言えば伝わるかな?

 グレモリーギルディやバアルギルディの騒動を思い出すけれど、あの時よりもずっと気分が悪くなる。

 

「ねぇティアちゃん、止めなくていいの? いつもならトゥアール先生の事、殴ってでも止めているけど」

 

「そ、そう言えば、そうですよね……」

 

 そう言いつつも、映像の方が気になって仕方ない。

 そうして私がまごついていると、急にモニターがブラックアウト。

 和輝の見ているであろう夢が映されなくなった。

 

「あぁーーッ!? 折角の映像資料が!!」

 

「な、なにかはわからないけど、やったわ!! 師匠に勝った!!」

 

 大きくバンザイをあげている華先生の反応からして装置が勝手にストップしたみたい。

 ママが慌てて点検を行うけれど、映像は全く映らない。

 

「どうしたのかしら?」

 

「さぁ……? でも凄かった……」

 

「にしてもアイツ、意外と性欲まみれだったんすねー」

 

 匠の言葉にちょっと不快感を覚えつつも、私自身は少し一安心していた。

 映像見ている時に何となくだけど、和輝を誰かにとられているような気がしてならなかった。

 和輝の寝顔を再び拝見。その顔はとても穏やかで幸せそうに見える。

 それ以降、和輝の夢を見る事は叶わなかった。

 

 

 

 

「ぐあああああっ!?」

 

 エレメリアンの断末魔と共に爆発音が響き渡る。

 俺は変身を解除し、ガッツポーズ。

 勝利の喜びを愛するティアナと確かめ合う。

 

「やったね和輝」

 

 ティアナの笑顔が眩しい。

 そんなティアナへと心からの言葉を贈る。

 

「ああ、お前のおかげだ」

 

 らしくない素直な言葉かもしれないが、今の俺は不思議と自然にそう言葉にすることが出来る。

 やっぱし、あの日にティアナともっと繋がることが出来たのが理由だろうか?

 恐らく……いや、確実にそうに違いない。

 事実、あの日以来、俺は連戦連勝。今ならどんなエレメリアンがやってきても負けるなんか微塵もねぇ。

 俺には愛するティアナがそばにいる。

 ティアナがそばにいる限り、俺は大丈夫だ。

 でも――

 

「……」

 

「どうしたの和輝? ボーっとしちゃって」

 

「いや、ごめん。なんつうか、変な気分でさ。その……お前がお前じゃないような感じがして……いや、マジでゴメン!!」

 

 慌てて謝る俺をティアナは気にもせず、ただ俺の肩に抱き着いてくれた。

 俺はそんなティアナを見て安心感を得つつも、何か変な引っ掛かりも覚えてしまう。

 ティアナであって、ティアナじゃない。

 見た目も声も何もかも同じなはずなのに何かが違う。

 てか、そもそもだ。あの日、俺をベッドに誘いアレをしようと誘ってきたのはティアナの方だったけどよ、あのティアナがそんな事知っているのかよと今更になっておかしさを感じてしまう。

 

「ねぇ和輝? 大丈夫? もしかしてまた不安になってるの?」

 

「いや、それは……」

 

「大丈夫。私にとって一番は和輝だけ。他の誰の物でもなく和輝の物なんだから」

 

 そう言って笑顔を向けてくれるティアナ。

 でも、その笑顔はどこか気味が悪くて、しきりに安心感を与えようとしているのが変なフラグでも立てたいのかと疑ってしまう。

 

「なぁティア――」

 

「ねぇ、和輝? そろそろ髪型変えようかなって思うんだけど、何が似合うかな?」

 

 そうティアナが笑顔で俺に尋ねてくる。

 パッと聞いただけでは何一つおかしくない普通の言葉だ。

 彼女が彼氏に次どんな髪型がいいか尋ねるだなんて普通は当たり前だからな。

 でも、俺たちは違う。

 

「お前……何言ってんだ?」

 

「何って、和輝もツインテール(この髪型)そろそろ飽きてきたかなと思って――」

 

 何一つ変なこと言っていない雰囲気だが、俺はようやく気が付いた。

 ここ数日間……いや、いつからかわからねぇが、かなり前から何か変だと思っていたが、これだったのか!!

 

「お前、俺が髪を切れって頼んだら切るつもりか」

 

「うん。だって大好きな和輝の――」

 

「だったらティアナじゃねぇ。誰だてめぇ!!」

 

「え!?」

 

「いいか!! あいつはな!! その髪を、ツインテールを俺以上に愛している奴なんだよ!! 俺が死んだ時にようやくツインテールを捨てるか否かで悩むような奴だ!! そんなあいつがそう簡単に切るわけねぇだろボケ!!!」

 

 今の今まで騙されていたのではと思った事もあり、俺は湧き上がる怒りを感情に込めて吐き出し、ぶつけきった。

 たじろぐティアナのようなナニカは媚びるように謝りながら抱き着いて来ようとするが、俺はそれを振り払う。

 すると、そいつの表情が変わった。

 

「オ~、バレてしまいましたカ~」

 

 さっきまで聞こえていたティアナの声とはまるで違う癇に障る声。

 エセ外国人のような雰囲気をだしたそいつはその姿を異形の物へと変化させる。

 

「て、てめぇは……エレメリアン!?」

 

「イエ~ス。ハロー、テイルバイオレットのボーイ」

 

 目の前に立つのは頭が二つある鷲を思わせる鳥人型のエレメリアン。

 不気味とかヤバイとかそういうのよりも、ウザいという感想が真っ先に思いつく。

 そして、それと同時に未だかつてないほどの不快感まで感じてしまう。

 

「てめぇ、七つの性癖(セブンス・シン)か!!」

 

「ベリ~グッド、正解デース。ミーは寝取られ属性を愛する強欲のマモンギルディで~す」

 

 強欲のマモンギルディ。

 そう名乗ったこいつはやっぱし七つの性癖の一体だった。

 ただならぬ雰囲気を察して俺は後退し、同時にコイツの属性に悪寒を覚える。

 

「寝取られ属性……!!」

 

「そうデス。ミーが好きなのは所謂NTR。誰かのラブを奪ったり、奪われたりをルックするのが大好きなのですヨ」

 

 そう嬉々として語るマモンギルディ。

 俺はその態度と雰囲気からコイツに対する不快感の正体に気が付いた。

 コイツは恐らく、今までのエレメリアンとは次元の違うクズ野郎だ。寝取られが好きと公言しながらも、寝取ることも大好きな野郎だ。

 誰かの愛を奪い、嘲笑い、また奪う。

 故にコイツは強欲って訳か……!!

 

「てめぇ何のつもりだ!! どうしてティアナに化けてやがった!! ……ッ!? まさかティアナを!!」

 

 俺の脳裏に浮かぶのはティアナがコイツに寝取られるという最悪のビジョンだった。

 焦る俺は変身もできていないというのにマモンギルディへと組みつき問い詰める。

 対するマモンギルディは振り払うわけでもなく、上機嫌に笑っていた。

 

「てめぇ笑ってんじゃねぇ!! ティアナをどこへやった!!」

 

「どこもやってまセ~ン。ユーは勘違いしてますが、ここはリアルワールドではないのですヨ」

 

「何!?」

 

 リアルワールド(現実)ではない。それつまり、ここは別の空間なのか?

 その言葉を聞いた俺は慌ててトゥアルフォンから基地へと通信をかけようとするが、うんともすんとも言ってはくれない。

 さらによく見ると、まわりに人が一切いない事に気が付いた。

 まるでこの世界には俺とマモンギルディしかいない。そう思える不気味な空間だ。

 

「じゃあ……ここは……」

 

「ここはユーの頭の中。ドリームの世界デース」

 

「ドリーム? 夢か!?」

 

 ケラケラ笑うマモンギルディはここが夢の世界であると肯定する。

 そして、現実世界の俺はアモンギルディとの戦いがあった晩から仮死状態となって眠り続けている事も明かしやがった。

 

「んだと!? んな馬鹿な!!」

 

「ノンノン、残念デスが、すべてトゥルース。ミーの能力は眠った他者のドリームに入り込み、その世界をコントロールする事。どんな内容の夢だろうと、ミーがコントロールする限り、思いのままなのデース」

 

 つまり、俺が見たあの悪夢も全部コイツのせいだったのか!?

 マモンギルディの能力を知った事であれら全てが裏で仕組まれていた事だと知り、さらなる怒りがこみ上げてくる。

 

「てめぇ、何が狙いだ!! こんなクッソタレな事しやがって!! どうするつもりだ!!」

 

「ハハハ、そんなの決まってマ~ス。勿論、ユーとユーが好きなあのガールを寝取る事デ~ス。ユーに夢を見せたのも、ただからかった(ティージング)しただけデ~ス」

 

 そう笑うマモンギルディは、本当ならばこの後、俺に対してティアナが他の誰かに寝取られるという夢を見せるつもりだったらしい。

 妙にティアナが俺にラブラブだったのも全部、これから起こすはずだった絶望の前の幸せを表現していただけに過ぎず、あの日ヤッた全部もただのまやかしだったらしい。

 

「てめぇ!!!」

 

「ハハハ、バイオレンスはノーサンキューデ~ス」

 

 無駄だとわかりながらもマモンギルディへと拳を振るう。

 がしかし、マモンギルディの体は煙のように手ごたえがなく、俺の拳は空を切る。

 一瞬、シャイターンギルディのような煙化能力かと思ったが、この感じは違う。

 

「無駄デ~ス。この世界にいる限り、ミーの立場は絶対なのですヨ。ユーがどれだけあがこうとも、ミーこそが世界の理デス。例えば……」

 

 マモンギルディが指をパチンと鳴らす。

 するとどうだ。

 急なめまいがしたと思ったら、体に異変を感じる。

 

「とってもキュートですヨ。テイルバイオレットのボーイ……いや、"ガール"」

 

 いつの間にか俺の隣に鏡が置かれていた。

 まさかとは思いつつも恐る恐る鏡を確認。

 すると、そこにいたのはテイルバイオレットによく似た女の俺であった。

 

「何!? 女になってるだと!?」

 

「ハハハ、まだまだアミュージングなのはこれからですヨ!!」

 

 困惑する中、マモンギルディは再び指を鳴らす。

 しかし、今度は何も起こらない。

 別に"あたし"の身に何も起きてない……よね?

 

「今度は何したのよ!!」

 

「別に何もしてまセ~ン。ユーは元から女の子だった。ですよね?」

 

「当たり前でしょ!! あたしのどこが男に見えるのよ!!」

 

 あたしがそう怒鳴った時、マモンギルディはまたまた指を鳴らす。

 あれ? 俺は一体、何をされていたんだ?

 

「てか待て、俺何言ってんだ!? てか戻ってる!?」

 

 気づいたら俺は男に戻ってた。

 さっきまで俺は自分自身が女になっている事に違和感を覚えなかったけど、それも全部コイツがこの夢の世界での設定をいじったからだとでもいうのかよ!?

 戻ると同時に何が起きていたのかと理解した俺は、同時にコイツの能力の恐ろしさもはっきりと理解した。

 この夢の世界におけるこの野郎は神にも等しい権限を待っていやがる。

 

「理解できましたカ? これがミーの能力。これこそが理想の展開を生み出す我が妙技デ~ス」

 

 マモンギルディは語った。

 なぜ、NTR物の同人誌などでは本来あり得ないキャラ崩壊が起きたり、都合のいい展開や都合のいい改変が起きるのか?

 それはその世界が夢であり、作者にとって登場人物は駒でしかないただの人形であるからだと言う。

 だからマモンギルディは夢へと干渉し、そこで理想の世界を作ることが出来る能力を得たらしい。

 所詮、夢。だけど、その世界は絶対。支配者たるマモンギルディにはどんな都合のいい事でも起こすことが出来てしまう。

 

「勿論、これはただの夢。ミーがどれだけ寝取っても、目覚めれば忘れてしまいマース。ですが、夢遊病ってワードを知っていますカ?」

 

 夢遊病ってのは確か、寝ていながら動く事だっけか?

 テレビの特番で見たことある程度で本当に起きたことはないがそれが……ってまさか!?

 

「実はミーの見せる夢の中で属性力やそれに準ずる生きる気力を失った場合、その者は二度と目を覚める事はなく、起きながらにして寝ている状態。つまり、リアルでもミーの思いのままになるのデース」

 

 嫌な予感が的中した。

 やっぱりコイツは危険だ。

 この世界にいる限り絶対に勝ち目がないってのに、奴からすればいつでも俺を始末することだってできちまう。

 そんな打開策を考えるが何も出てこず焦る俺に対してマモンギルディは告げる。

 

「そろそろ時間デース。ユーが絶望するならこのままでもと思いましたが、当初の予定通りいかせてもらいマース」

 

「時間……何の?」

 

「リアルワールドではもうすぐミッドナイト。今のメンタルならあのガールもこの世界に招待することはベリーイージーですヨ」

 

 あのガールってティアナの事か!?

 この世界にティアナが来るのは不味い。

 このままじゃ奴の思う壺じゃねぇか!!

 そう思った次の瞬間、マモンギルディは笑いながら指を鳴らす。

 すると……俺の意識は遠くなり……何も見えなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 そして、現実世界。

 

「和輝……、早く目覚めなさいよ……」

 

 和輝の事を想い不安になっていたティアナが眠りにつく。

 長い悪夢は始まった。




R18に引っかからないように色々ボカシながら書きましたがいかがでしょう?
私事ですが、今回のエピソード全般を執筆するに至って色々なNTR物を読みました。


キャラクター紹介28

 マモンギルディ
 身長:249cm
 体重:332kg
 属性力:寝取られ属性

 七つの性癖(セブンス・シン)の強欲の性癖を担うエレメリアン。
 他者の愛を奪ったり、奪われたりするのを好むエレメリアンであり、そっと見守りたくなる展開ですらぶち壊すその所業から同族の大半から嫌われているが、本人はまるで気にしていない。
 夢の中に入ったり、その夢を操ったり、夢に関する様々な能力をもっており、夢の中ではテイルレッドですら勝てないだろうと豪語する程。
 NTR物の竿役にされてしまうエセ外国人のような喋り方が特徴でとてもウザい。だが、以外にもベリアルギルディとは好相性。
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