俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第149話 夢世界の挑戦

「――きろ……!!」

 

 どこからか声が聞こえてくる。

 誰? 誰なの? 

 聞こえるのは男の人の声。途切れ途切れでよくわからないけれど、まるで私の事を呼んでいるようにも聞こえてくる。

 どうして私を呼ぶのだろう?

 私は確か……

 あれ? 私はどうなっているんだろう?

 私は確か……和輝が眠りから覚めず仮死状態になったから……それで……

 

「起きろティアナ!! 起きろってんだよ!!」

 

 さっきまで途切れ途切れだった声が段々とはっきりと聞こえてくる。

 聞こえていたのは忘れるはずがない大切な人、和輝の声。

 認識すると同時に私の意識は覚醒する。

 

「か、和輝……?」

 

「目が覚めたか!!」

 

 目が覚めた私の目に映ったのは介抱しつつ心配していた和輝だった。

 私が目を覚ました事で和輝の顔が安心した笑顔へと変わる。

 私も私で、そんな和輝を見てこみ上げてくる物があった。

 意識するよりも早く、体が動く……いや、動いていた。

 

「和輝!!」

 

「おおッ!? 急に抱き着いてくんじゃねぇ!?」

 

 どうして和輝が目を覚ましているのか?

 どうして逆に私が眠ってしまっていたのか?

 何がどうしてなのかについてはさっぱりわからない。

 でも、それ以上に嬉しさと喜びが湧き上がってくる。

 今まで見ていたのが全部嫌な悪夢だったのかもと思えてくる。

 

「馬鹿!! 落ち着け……!!」

 

「落ち着ける訳ないでしょ!! 私がどんな気持ちだったと思ってるのよ!!」

 

「んなこと知るかよ!! とにかく落ち着け!!」

 

 そう言って突き放そうとする和輝だけど、あいにく私のほうが力は上なのよね。

 だからそのまま満足するまでこのままでいようと思ったその時、和輝は私の頭の髪の毛もといツインテールを結ぶリボンへと手を伸ばす。

 

「ちょっと!!」

 

 伸ばされた腕を咄嗟に弾き、そのまま和輝から少し離れる。

 いくら和輝と言えど、ツインテールを解こうとするのなら容赦はしない。

 その手がツインテールを狙っているのなんて五感以上に発達した私の第六感ならすぐにわかるんだから。

 

「いくら和輝だからってやめなさいよ!! 解けちゃうでしょ!?

 

「だってよ、嫌なことでもしねぇと離れねぇだろ!!」

 

「だからって普通、人のツインテール解こうとする!? 最低よ和輝。見損なった!!」

 

「そんなことで見損なってどうすんだよ!! 俺だってもっと他のやり方を――」

 

「そんな事ですってぇ!? 」

 

「そこキレるところかよ!?」

 

 ツインテールをけなすのなら例え和輝でも容赦しない。

 いや、むしろ和輝だからこそ容赦しない。

 怒る私と対抗するかのように同様に怒る和輝。

 昔を思い出させるようなやり取りを私たちは行っていた。

 

「馬鹿!! 和輝の馬鹿!!」

 

「馬鹿っつった方が馬鹿なんだよ、バーカ!!」

 

 取っ組み合いこそしないけど、低次元な言葉で言い争う私たち。

 そんな私たちの下に何か得体の知れない影が近づいてくる。

 

「グッドモーニング、お二人とも。目覚めて早々、喧嘩(クオーレル)とは随分と元気ですネ~」

 

 聞こえてくるのはどこか人を馬鹿にするかのような声。

 漫画やアニメに出てきそうなエセ外国人のような片言の英単語を交える喋りにイラつきを覚えながら私たちは揃って振り向いた。

 

「「ッ!? エレメリアン!!」」

 

「イエ~ス。マイネームイズ、マモンギルディ。よろしくネ」

 

 双頭の鳥人型エレメリアン。名はマモンギルディ。

 堂々と目の前に出てきて自己紹介とはかなり自信があるのか、それとも……

 異様な雰囲気に後退りしそうになる私だけど、隣の和輝はその見た目とその名前を知った事で頭を押さえている。

 

「コイツは……!?」

 

「どうしたの? アイツに何か覚えがあるの?」

 

 和輝は思い出そうと必死になっているけれど、上手くいかない様子。

 何が何だかさっぱりわからず困惑する中、マモンギルディは笑い出す。

 

「ハハハ、無理もありませ~ン。だって、ユーは一度ミーの能力を体験し、それによって"忘れてしまっていた"だけなのデスから」

 

 マモンギルディは指をパチンを鳴らす。

 するとどうだ。

 さっきまで頭を押さえていた和輝はそれをやめ、マモンギルディを見ると同時に私の手を握って共に距離をとる。

 

「この野郎……!! またわけわかんねぇ事しやがって……!!」

 

「ちょっと和輝、どうしたの!?」

 

「どうしたもこうしたも――ッ!?」

 

 突然、何かを思い出した様子の和輝が私の手を振り払うと今度は私からも距離を取ろうとした。

 あまりにも唐突すぎる心変わりにショックよりも困惑が勝る。

 

「ノンノンノン。いけませんよヘタレボーイ。そこにいるのは偽物ではありまセ~ン」

 

 私たちのやり取りを見てマモンギルディが和輝に語り掛けてきた。

 

「このワールドにいる彼女は本物デース。正真正銘ミーのターゲットデスよ~」

 

「なに!? 本当にティアナだってのか!?」

 

「当たり前デ~ス。ミーは彼女も招待(インビテーション)すると言いました~」

 

 偽物? このワールド(世界)? 招待?

 何一つ理解できない単語の数々。

 和輝とマモンギルディのやり取りは私の事を完全に蚊帳の外に追いやっている。

 でも、何となくだけど、ここが碌でもない場所で私はそこに招かれたって事は理解できる。

 

「ちょっと待ちなさいよあんた。そもそもここはどこなの? どうやら、現実の世界じゃないみたいだけど」

 

 マモンギルディが現れるまで全く気が付かなかったけど、よく見たら私たちが今いるここは何処なのかがわからない。

 地平線まで続く白一色の異様な空間。

 どうして気が付かなかったのかと不思議に思えるくらい明らかにおかしい場所に私たちは立っている。

 

「オ~、そういえばすっかり忘れていました~。ユーは知りませんでしたネ~」

 

 直接声をかけた事もあり、ようやくマモンギルディは私が蚊帳の外になっている事が気づいた様子。

 すると、マモンギルディは再び指をパチンと鳴らす。

 

「「ッ!?」」

 

 周囲の空間がぐにゃりと歪む。

 まるでこの場は元々そうであったのかと思える程に違和感なく変化もとい書き換えられていく周囲は、驚く私たちを置き去りにして完了する。

 

「何だここ……」

 

「何かの番組かしら……?」

 

 変化し終えたここを例えるならバラエティ番組のスタジオかしらね。

 照明で埋め尽くされた天井の下に張りぼての背景と派手なセットが立ち並び、司会者用と思われる専用席に立つマモンギルディ。

 私たちは反対にゲスト専用、もしくは何かの企画に挑戦する挑戦者用の壇に二人並べて立たされている。

 背後のセットのパネルに書かれた文字、それは『マモンギルディの寝取られショー』。

 

「てめぇ!! 一体何を――」

 

『さぁ、スタートしました!! 強欲の性癖ことマモンギルディによる寝取られショー!!』

 

 和輝の声を遮るかのようにマモンギルディがマイクを握り、どこかへと語り掛けるように声を張る。その姿は本物のバラエティ番組司会者と言ってもいいくらいで、さっきまでとは別人のよう。

 というか寝取られショーって何!?

 困惑するもマモンギルディは司会を続ける。

 

『今宵の挑戦者たちはテイルバイオレットに変身するお二人です!!』

 

 照明の光が私たちへと向けられた。

 眩しすぎない程度の光量の中、私と和輝はそれぞれ声を上げる。

 

「どういう意味だオイ!!」

 

「そうよ!! 何よこれ!!」

 

『お二人とも息ぴったりですね~。先ほどのイチャイチャ痴話喧嘩といい、かなり仲がいいみたいです!! これは寝取りがいがありますね~!!』

 

 私たちの抗議にマモンギルディは意にも返さず司会を続けている。

 聞こえてくる不快でしかない言葉を聞き、私も和輝も殴りかかろうとするけれど、金縛りにあったのか体がピクリとも動かない。

 

「どうして体が動かないのよ……!!」

 

「ティアナ、ここは奴の支配する夢の世界なんだ……!! ここにいる限り俺たちは奴の能力に逆らえない……!!」

 

「噓でしょ!? ここが夢!?」

 

 この世界は夢の世界で、マモンギルディはその世界の支配者……

 数日前から和輝が目を覚まさず仮死状態になっていたのも夢の世界に囚われていたからで、私も同じように囚われてしまった……

 ちょっと待って!! つまり私は今、和輝と同じ夢を見ているって事!?

 ようやくこの世界の仕組みとマモンギルディの能力と狙い、そして現実で何が起きていたのかを知った直後、マモンギルディのテンションは最高潮へと達する。

 

『ではルール説明といきましょう!! 舞台はこの私、マモンギルディが支配する夢の中!! お二人はその中で普段通り過ごしてもらいます!! その間は何をしてもらっても自由!! デートをしたり、痴話喧嘩をしたり、甘酸っぱい青春を謳歌しても、抱き合って身体を交わらせても何も問題ありません!! お二人に課せられた使命はただ一つ、何があってもその絆を断ち切らせない事!! 男は愛する人を取られぬよう、女は他の者に目移りしないよう、それぞれ頑張ってください!! タイムリミットは数日間。私は果たして、彼から彼女を寝取る事ができるのでしょうか!? 勿論ですが、簡単になってはつまらないので能力はある程度縛らせていただきます!!』

 

 そして次の瞬間、照明が落ち、真っ暗になると同時に私たちの意識も闇に落ちていく……

 ゲームが……始まったのね……

 

 

 

 

 一方、こちらは現実世界。

 深夜0時を超えた真夜中、自宅にて熟睡していた華であったが、トゥアルフォンのアラームが突如として鳴り響いた事で眠りから目を覚ます。

 一体何が起きたのかと寝ぼけ眼を擦りながら華は画面を開く。

 そこに書いてあったのは総愛の身に緊急事態が起きたのですぐに来てくださいとトゥアールからの緊急連絡であった。

 愛する生徒であり、共に戦う仲間でもある総愛の身に何か起きた以上、こうしてはいられぬと華はすぐに支度を整えては基地へと向かう。

 向かった先、基地のコンソールルームではトゥアールと正樹の2人が真剣な面持ちでモニターを見つめていた。

 

「どうしたんですか!?」

 

「おお、華ちゃん!!」

 

 気づいた様子の正樹が反応する。

 同じく気づいたトゥアールは頭を下げた。

 

「夜分に申し訳ありません華先生」

 

「私は大丈夫ですけど……橘さんの身に何があったのですか!?」

 

「それについてはまずはこれを見てください」

 

 急いで来た事もあり、息を切らせながら華はティアナの身を案じている。

 そんな華へとトゥアールはモニターを見るように促す。

 そこに映るのは、昼間と同じくベッドの上で眠ったまま目を覚さないでいる和輝と、その隣のベッドで同じように眠っているティアナであった。

 

「これは……!! まさか……!!」

 

「はい、そのまさかです。現在、総愛も和輝と同じく仮死状態になってしまっています」

 

 冷静にそう答えながらも、和輝の時以上に悔しさを隠し切れていないトゥアール。

 事態に気がついたのは今からほんの数時間前にあたる。

 当時、和輝の事を心配するティアナは無駄だとわかっていながらも側に付き添っていた。トゥアールはそんなティアナを気にかけようとしつつも、この事件の原因などを調べるなどで手が一杯だった。そして、気がついた時にはティアナは和輝に寄り掛かるように眠り冷たくなっていたとの事だ。

 

「油断しているつもりはありませんでしたが、こればかりは言い訳のしようがありません」

 

「そんな……」

 

「でも、わかったこともある。そうだろ?」

 

 落ち込みそうになる華へと正樹がそう励ますように声をかける。

 トゥアールは頷きディスプレイを操作、モニターを切り替える。

 

「先程、総愛の脳波を調べた結果、とある属性力を感知しました。そこから推察するに恐らく敵は夢の中に潜んでいると仮定できます」

 

「夢の中……ですか?」

 

 首をかしげる華へと頷くトゥアール。

 

「夢というのは不思議な物です。現在でも解明されていない事は多いとされています。私も嘗て望んだ夢を見せる機械を作りましたが、細かい点を見ると失敗と言ってもいい物でしょう。昼間、和輝君の夢を観測したのもその技術を少し応用したものになります」

 

 昼間語ったあの時の事というのがトゥアールの若かりし頃であると華は知る。

 その後、トゥアールはより詳しい夢のあれこれを語る。

 理系よりではあるが、専門性が高すぎるが故に華にはピンとこない。

 

「難しく考えなくてもいいと思うぞ。夢という特殊な空間に眠ったまま意識だけを連れ去らわれたと解釈したらいいんじゃないか?」

 

「あー成程」

 

 正樹の理屈よりも感覚で理解するやり方でようやく腑に落ちる。

 

「敵の仕業と思われますが、現在二人の夢を観測することは出来ません。ですが、脳波の形と属性力の反応からして二人が同じ夢に囚われているのだと推測できます」

 

「でも、どうやって助けるのですか? 無理に起こすのは不可能なのでは……」

 

 頷いたトゥアールは再度モニターを切り替える。

 

「現在調整中の物ですが、これを使えば他者が見ている夢の中に突入することができます」

 

 映し出されたのは夢の中に入る為の装置の設計図。

 この装置を和輝とティアナの二人が眠るベッドへ繋げ、もう一つ別のベッドにこの装置を取り付けた状態で眠る事で夢の中に入る事が出来る。

 

「あともう少しで調整を終える予定です。華先生には夢の中に入る役をお願いします」

 

「わ、わかりました……!!」

 

 緊急で呼ばれた意味を理解する。

 二人を助けだせるかどうかは華の手にかかっていると言ってもいい。

 

「正樹さんは引き続き、総愛たちに何か起きていないかを見守ってやってください。お願いします」

 

「おう。任せてくれよ」

 

 真夜中、子供たちが夢を見ている最中に大人たちは奮闘する。

 明日の朝の為、心地よい夢を見れるようにだ。

 

 

 

 

 

「それにしても、私はどうして大丈夫だったのでしょう?」

 

「それについては恐らくですが、夢の中に幽閉できる相手に制限できると思われます。夢という精神的な物事である以上、対象の精神状態が不安定でないといけないのでしょう。飲酒を始めて以降の華先生は精神的落ち着いてますしね」

 

「成程。確かに涼原君はここ最近調子が……ん?」

 

 そこまで言って段階で華は何かを思い出す。

 

「もしかして橘さんがそうなったのは……」

 

「……十中八九、昼間見た和輝君の夢ですね」

 

 華が取り乱し、トゥアールが興奮した例の映像。

 今振り返ってみるとその夢自体がティアナを誘い込むための罠なのだとわかる。

 尤も、華にとってはそれ以上に言いたいことがあった。

 

「観束先生……橘さんがこうなったのってやっぱり……」

 

「それ以上はその……」

 

 後悔など意味はない。

 トゥアールは目にもともらぬ速度でディスプレイを操作するのであった。

 

 

 

 

 マモンギルディの仕掛けたゲームが始まった。

 俺とティアナは共に目を覚ます。

 目が覚めたと言っても、夢の世界から脱出できたというわけじゃない。ややこしいが、ここはまだ夢の中。あくまでも俺たちはこの夢の世界の中で好きに動けるようになったというだけの事だ。

 

「和輝……?」

 

「ああ。それよりもここ……」

 

 俺たちが目を覚また場所は見慣れた学校の屋上だった。

 日が照り付け、下の校庭や中庭からは生徒たちと思しき声もたくさん聞こえてくる。

 何もかも平穏で普通の高校の昼休み。

 周囲に人はいないが、はたから見れば昼休み中に二人揃って昼寝でもしていたようにしか見えないのかもしれねぇな。

 

「これ、夢の中……なのよね」

 

「みてえだな……」

 

 すげぇ不思議な感覚だぜ。

 夢の中な筈なのにちゃんと空気は冷たく、音も触感も現実と何も変わらない。

 もし意識をしなければ、マモンギルディに関する事全てがただ幻……いや、それこそ質の悪い夢だったのではとすら思えてくる。

 てっきり、先程の空間以上のもっと奇天烈な世界にでもしてくるのかと思っていたが、どうやらそこまでではない様子だな。

 

「持ち物も変わりなし。学校での俺たちそのままか」

 

 今更だが、俺たちの服装もこの場所とこの場面に合わせた制服姿となっている。

 所持品もそれに合わせたものであり、ある程度の金が入った財布に家の鍵、携帯電話もとい専用カラーのトゥアルフォン。

 唯一、テイルブレスだけ俺もティアナも持っていない。

 

「ママ、応答して。ママ」

 

『――』

 

 ティアナがトゥアルフォンを使ってトゥアールさんへと通信をかけているが、返事までは流石に来ない。

 テイルブレスがない事といい、こういった所でここは夢の中なのだとわからされている気分だ。

 

「駄目ね。誰も応答がない」

 

「俺もだ。今さっき片っ端から掛けてみたが、誰も出てくれねぇ」

 

 お手上げだとばかりのリアクションでティアナにそう伝えてみせる。

 ちなみに掛けた相手は悠香さんから順におやっさんに至るまで仲間たち全員。

 その後、テイルバイオレットを知る奴がダメなのかと思い、ばあちゃんならどうだろうと掛けてみたが、こちらも同様に反応なしだったぜ。

 

『どしたの~? 何々~?』

 

「ううん、何でもない。ありがと」

 

「出たのか!? 誰だ!?」

 

 ばあちゃんへの電話が失敗した直後、ティアナの方が誰かとの通話を成功させていたので俺はやったかと思い尋ねてみる。

 しかし、ティアナは駄目ねとばかりに首を左右に振る。

 

「クラスの友人の水嶋さん。だから出てくれたけど意味がないわね」

 

「んだよちくしょう。全く……ぬか喜びさせんなっつーの」

 

「あと、ちょっと気が付いたのだけど、何となく……本物とは微妙に違う感じもしたわ。返事が無機質というか、決まった台詞を喋る機械のような……」

 

「なんだ? つまり今電話に出たやつ含めて所謂ただのNPCって訳か?」

 

 夢の世界なのだしそうなのだろうと俺の例えに頷くティアナ。

 その後、少し調べた結果、どうやらこの夢の世界では俺たち以外の意思を持った人物はおらず、いるのは俺たちの記憶をもとにできたゲームで言うところのNPCのような連中ばかりであり、トゥアールさんを始めとした俺たちととくにかかわりの深い人間はそもそも存在すらしていない。

 相談相手や味方になる奴は誰もおらず、真に信頼できるのはプレイヤーである俺やティアナだけの何もかもマモンギルディに都合のいい世界。

 それがここって訳か。

 

「なにが『寝取られショー』だ……。クッソタレが……」

 

 マモンギルディの言葉に不快感を思い出しつつも、恐怖と不安が溢れてくる。

 そんな時、ティアナが俺の手を握ってくれた。

 

「大丈夫よ和輝。寝取られって要するに私が和輝以外の人を好きにならなければいいんでしょ? そんなの絶対にありえないし、そもそもあんな奴の言いなりになんかなりゃしないわ」

 

 不安がる俺へとティアナは、自信をもって堂々とそう答えてくれた。

 俺はその言葉に一瞬だけ安心感を覚えるが、それと同時に別の不安を覚える。

 

「油断するなよ。マモンギルディの野郎の能力は強烈なんだ……」

 

 俺は一度、奴の能力を思い知らされている。

 奴の能力はズバリ、この夢の世界における全能の権限を有するという物だ。

 ひとたび指を鳴らせば何もかもが思いのまま、物理的な現象を引き起こすなど朝飯前であり、俺たちを無力化するなどそれこそ造作もない。

 尤も、厄介なのはそこだけではない。

 中でも厄介なのは夢の世界限定の世界改変能力だ。あの能力を使えば、元からそうであったと思ってしまう程に世界を書き換える事が出来る。

 俺は一度、マモンギルディに性別を女へと変えられた。俺は当初こそ変えられた事をわかって口調を荒げたりすることが出来たが、設定をいじられた途端に自分自身が元は男だったと思うことが出来なくなっていた。

 

「怖いなんてもんじゃねぇ。明らかに異変だってのに……全く認知できなかったんだ。今までの記憶とか存在全てにおいて性別だけが女の涼原和輝を奴は平然と改変してみせたんだ」

 

 俺は自らが体験したマモンギルディの能力をティアナへと伝え、より一層の不安に苛まれる。

 やろうと思えば、奴はティアナの好意や価値観なども改変できる。

 そうすれば寝取るなんて余裕だし、俺には打つ手がない。

 

「そう……なんだ」

 

 それを聞いたティアナは立ちすくむ。

 自分が自分でなくなるかもしれないという恐怖に俺と同じで不安に駆られているのだろうか? 

 そう思ったがしかし、ティアナは違った。

 

「って何よそれ!! つまりアイツは私の心を操ってくるつもりなの!? そんなの最低なんてものじゃないわ!! 超最低よ!!」

 

「ティアナ……?」

 

「力づくで愛を奪おうとするなんて、それこそモテない奴がすることでしょ!!」

 

 能力と狙いを知ったティアナの怒りが爆発した。

 その怒りは全ての恋する乙女の代弁と言ってもいい。

 夢の世界の中と言えど、愛する人以外を好きになるように改変させられて好きでもなかった奴に寝取られるなど誰であっても許容なんてできやしない。

 世に出回っているNTR物の大半、作者には悪いが、本当の愛や恋こそが最強で最高なんだ。

 俺はティアナの姿に勇気をもらえた。

 

「寝取られ属性がなんだって話よ。私たちのツインテールはそんなの負けない。私たちは二人で一つ!! そうでしょ和輝!!」

 

「ああ、そうだぜ。俺たちのこの想い、このツインテール。全部奪われてたまるかっての!!」

 

 生まれた世界も時間も違うのに、ツインテールが好きであったというただ一つで巡り合った俺たちだ。寝取られ属性なんかに全部奪われる訳がねぇ。

 

「それに、現実世界ではきっとママたちが何か助け出す策を考えていてくれているわ。夢を観測できる機械だってあるし、何とかなるはずよ」

 

「マジか!? さっすがトゥアールさんだぜ!! じゃあ俺たちの今の状況やさっきまでの内容が……」

 

 テンションの上がりきった所であったが、夢を観測できるという事実を理解すると同時に嫌な予感がした。

 ちょっと待て……それってもしかして……

 

「なぁ、ティアナ。俺の夢を見てたのか?」

 

「うん。でも、暗い部屋の中で裸だった事しかわからなかったわ」

 

 それを聞いた俺は全力の土下座で誠意を示す。

 夢の中とは言え、本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 私と和輝は、ママたちからの助けやマモンギルディ側の動きなど、良し悪し問わず何かが起きるまでひとまずこの夢の世界で過ごしてみる事になった。

 最初はいくら現実そっくりと言えど所詮は夢と思い軽んじていた私たち。私たちを深く知る人は存在せず、いるのは決まった通りの台詞しか喋らないゲームの中の住人ばかりというのもそれに拍車をかけていたと思う。

 でも、意外な事に夢の中と言ってもこれといって何かおかしな事なんてなく、至って普通の学生生活が私たちを待っていた。

 確かに和輝を除いた周りのみんなは連続で話しかけても同じような事しか喋らない。

 だけど、それはあくまで連続で話しかけた場合に限っていた。少し間を開ければ会話の内容は自然に変わるし、行動パターンもそれぞれ違うし、意思があるかのように変わっていく。

 和輝の例えたNPCというのは半分正解で半分間違い。

 どちらかと言うとこの世界で住むまた別の人々と言った方が正しいのかもしれないわね。

 

「意外ね……てっきりもっと違和感まみれだと思ってた」

 

 放課後となり学校から帰宅する中、今日一日で抱いた感想はそれだった。

 日が落ちては夕空が暗く、冬の寒さが肌へと伝わってくる。

 何もかもが現実と同じのように思えてくる。

 

「ねぇ和輝、聞いてる?」

 

「いや、すまん。アレについてはちょっとした出来心というか……」

 

「ちょっと、まだその話!?」

 

 もう何度目かわからない謝罪に流石にうんざりしてくる。

 和輝ったら今日一日中、私が学校生活を送りながら何か起きないかどうか警戒してる中もずっと私が観測した夢の内容について謝り続けている。

 

「もう良いって言ってるでしょ。正直、暗い部屋の中で何やってるかわからなかったし、それこそマモンギルディの術中にハマってしまったって話じゃない」

 

「いやま、確かにそうではあるが……」

 

「きっと操られてたのよ。私もそう思ったら不思議とすっきりしたし、和輝もそう思いなさい」

 

「そ、そうだな……」

 

 やっと和輝は納得してくれたのか、謝る素振りを見せなくなった。

 

「でも待て……。確かあれはマモンギルディが俺を揶揄う為に化けていたんだよな……? じゃあ俺がヤッたのって……!?」

 

 前言撤回。

 和輝ったら今度は嫌な事でも思い出したのか、顔を青ざめては吐くような素振りを見せた。

 

「夢だァァァァッ!! これは夢なんだよォォォォッ!!」

 

「わかってるわよそんな事!!」

 

 街の中、和輝の絶叫が木霊する。

 幸いなのはここが夢の中であるからか、街の住人たちは特にそれを聞いて何か起こすわけではないって事ぐらい。

 

「もう、ほんとに和輝は面倒な性格してるわね」

 

「面倒ってお前……!!」

 

 文句でも言いたげな目を向けてくる和輝。

 私はそれに対してズバリ言い放つ。

 

「和輝が怖がりな事ぐらい知ってるんだから」

 

 和輝が不調だった理由は現実世界で夢を観測した時に知る事ができた。

 和輝もこれには観念したのかありがとうとボソッと呟いてくれた。

 直後、冷たい粒が空から降ってくる。

 

「雪?」

 

「みてぇだな……」

 

 しんしんと雪が降り注ぐ。 

 夢の中なのに雪が降るとは思っていなかった私たちだけど、そういえば現実も12月だったわねと思い出す。

 

「そうだ……!! なぁティアナ?」

 

 雪を見て何かを思い出したのか、唐突に和輝がそう尋ねてきた。

 

「なに? どうしたの?」

 

「いや、その……現実だともうすぐクリスマスだろ……」

 

「そう言えばそうね。確かデートに連れて行ってくれるんでしょ?」

 

 この世界に囚われる直前、現実世界でデートに誘われていた事を思い出した。

 あの時は和輝の様子がおかしかったから手放しで喜べなかったけれど、原因がわかった今なら楽しみが湧いてくる。

 

「いやそれはそうだけどさ。夢の中でデートってのもちょっと変だろ?」

 

「それはそうだけど。じゃあ何?」

 

 そう食い気味で聞いてみた私に対して和輝は顔を赤く染めながら口を開く。

 

「だからせめて形だけでもと思うし、何か欲しい物でもあるかのなーって思っただけで……」

 

「何? クリスマスプレゼントって事?」

 

「そう!! だって俺、お前と付き合い始めてからこれまでお前にまともな物渡した事なかったし……お前の誕生日もまだ先だし……たまには……な?」

 

 その気持ちは嬉しいけど、だからって夢の中でプレゼント渡すってどう言う事?

 さっき言った事と真っ向から矛盾している気がしない事もない。

 

「まぁでも、それならお言葉に甘えようかしらね」

 

「え、マジで?」

 

 和輝は私の反応みるに反対でもされるのかと思っていたみたい。

 私としては勿論、現実世界でもプレゼントは別でもらう事を条件にはしてあげる。

 

「で、何が欲しいんだ?」

 

「うーん、そうね……」

 

 そう尋ねられて迷う事数分間。

 とある事を閃いた私は和輝を連れて近くのアクセサリーショップへと足を運ぶ。

 そして店内にある髪を結ぶリボンが取り扱われているコーナーへとやってきた。

 

「リボンか……お前らしいな。で、どの色のどれがいいんだ?」

 

 そう聞いてくる和輝。

 私は悪戯な笑顔と共に聞き返す。

 

「和輝はどれが似合うと思う? 私はそれがいいんだけど」

 

「ええ!? 俺が選ぶのか!?」

 

 それから数十分。

 和輝は悩みに悩んだ末、目をつぶって直感で手に取った青紫のリボンを私に見せてきた。

 最初、自分自身のパーソナルカラーである青紫だという事に和輝は恥ずかしがってやっぱりやめようと言い出したけど、私はそれがいいと駄々をこねて買ってもらった。

 雪が降る中、私たちはアクセサリーショップを後にする。

 

「ありがと和輝!!」

 

「お、おう……!!」

 

 和輝から貰った初めてのプレゼント。

 夢の中だから眠りから覚めれば無くなってしまうけれど、私とっては一生忘れない宝物。 

 このリボンで結ぶツインテールがどんな風に見えるのかが楽しみで仕方なかった。




不穏なフラグは丁寧に立てていくスタイル。
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