俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第150話 夢世界の罠

 夢。それは人が眠る際に見る現実とは違う幻想的な瞬間。

 吉夢と悪夢、種類は違えど誰しもが普段とは違う特殊な体験をするのが一般的だ。片想いの相手と両想いになったり、さえない自分が一転してスーパーヒーローとなったり、どうしようもない不幸にさらされてしまったりと実に多種多様。共通して言えるのは現実とは違うという事だけだろう。

 目覚めれば消えてしまう刹那の世界。

 それはある意味、異世界のようなものだろう。

 他者の夢に入り込み、その世界を支配するマモンギルディの能力。それによって形成されたこの夢の中の世界は、まさしく現実とは少し違うだけの別の世界。異世界だ。

 

「ほんと、不思議な感覚ね……。こうして一日経ったけど、夢の中だって忘れてしまいそう……」

 

 二人きりの夕食を終えてしばらくした後、窓の外から見える夜空を見上げながら、ティアナがそう呟いた。

 和輝もそれを聞いてはあくびまじりに深くうなずいた。

 

「夢の中だっつうのに眠くなってくるぜ。ほんと、変な感じだ……」

 

 ここは夢の中。すなわち、現実の和輝とティアナはマモンギルディの能力によって目覚めることが出来ない仮死状態となり眠り続けている。

 だというのに、和輝もティアナもしっかりと眠気を感じている。

 夢の中で眠くなるというのは実に摩訶不思議な体験であろう。

 

「明日はどうする? 今日みたいに過ごし続けても埒が明かないわよ」

 

「わーってるよ。明日は明日でもう少しこの夢世界を調べてみるつもりだ。脱出の手かがりはちょっとでも見つけておいたほうがいい」

 

 口ではそう言っているが、和輝としてはそんな物は存在していないのだろうなと思っていた。

 それよりも、和輝としてはマモンギルディがどういう方法で仕掛けてくるのかが気になる。

 尤も、だからとてジッと助けを待ち続けるような性格ではない。

 

「わかったわ。ママたちが助けに来やすいようにするべき事をする。それでいきましょう」

 

「ああ、そうしようぜ」

 

 ティアナもまた、薄っすらとこの世界を内部から自力で脱出することが不可能であるとわかっていた。

 しかし、こちらもまた、諦めるような質ではない。

 むしろ、この絶望的な状況下にさらされていながら全く怯える気配がない。

 その理由は間違いなくアレの存在が大きい。

 

「んじゃ、そろそろ寝るか。お前もいくら夢の中だからって、ツインテールを結んだままにしてんじゃねぇぞ」

 

「わかってるわよ……!!」

 

 そう言い返したティアナは青紫色の真新しいリボンを握り締める。

 ティアナの心を支えるアレ。

 それは和輝から初めて貰ったちゃんとしたプレゼントであるこのリボンである。

 

「ふぁ~。じゃあ先に行ってるぜ」

 

 そう言い残し和輝は寝室へと向かう。

 片づけを終え、リビングに一人残されたティアナ。

 和輝の祖母である文子とティアナのもう一人の母であるトゥアールはこの世界に存在していない。

 一息ついた後、ティアナは和輝と同じく寝室……ではなく洗面所へと向かった。

 

「♪~」

 

 鼻歌を口ずさむティアナ。

 鏡を前にしプレゼントであるリボンを取り出し見つめる。

 和輝のカラーである青紫色のリボン。

 それは現実のものと何一つ遜色ない鮮やかな発色をしており、一般的なアクセサリーショップで買ったものだというのに特別感を感じさせる。

 やはり、ティアナにとっての和輝から贈られた初めてのまともなプレゼントであるという点が大きいのだろう。

 

「ねぇ、お父さんにお母さん。こんな場所でだけど私、好きな人からプレゼント貰っちゃった」

 

 ティアナはそう呟くように、今は会えぬ父と母に報告すると、これまでずっと愛用してきていたリボンを解き、ツインテールを解く。

 元々、ティアナが使っていたリボンは父と母からの誕生日プレゼントとして毎年贈られていたリボンである。故に先の報告は今までありがとうの意味もあるのだ。

 

「感じる……。和輝の想い……感じるよ」

 

 ツインテールが解けば、いつも喪失感を味わっているティアナ。

 だが、今は少し違う。

 大好きな人から貰った初めてのリボン。

 それで結んだツインテールはどう映り、どう輝くのか? 

 そのわくわくとした高揚感と和輝を近くに感じる安心感がティアナを満たす。

 和輝から貰ったリボンを手にしたティアナはいつもながらの鮮やかな手で髪を結び、調和された双房を作り出した。

 

「新しい……私のツインテール……」

 

 鏡に映るのは一見すると何一つ普段と変わらぬツインテールであるが、ティアナにとってはリボンが変わっただけでも新鮮に映って見える。

 父と母、二人の髪色を合わせたような自身の髪を最愛の人を表す色のリボンで結ぶこの感覚はティアナでないとわからぬだろう。

 

「は~……」

 

 頬を緩ませツインテールをなでるティアナ。

 リボンを変えた事でより近くに和輝を感じるような気がしてくる。

 和輝がこの様子を見ていればきっと、こっ恥ずかしいからやめてくれと懇願していただろう。

 尤も、だからティアナは和輝が眠ってからこうして楽しんでいるのだが。

 

 

 

 

「ハハハ、随分とエンジョイしていますネ~」

 

 それは突然の事であった。

 ティアナがツインテールを愛でていたその背後から聞こえきた声。

 一瞬にして意識を切り替えさせるその声はこの世界に閉じ込めたアイツだ。

 

「マモンギルディ!?」

 

「オ~!! ザッツライトで~す!!」

 

 いつの間にかそこにいた鳥人型のエレメリアンであるマモンギルディ。

 まるでずっとそこにいたのかと思えるほど存在に気づけなかった事にティアナは一瞬、ツインテールに夢中になりすぎて警戒を怠ったのかと錯覚しそうになるが、マモンギルディの能力からしてそうではないと気付く。

 マモンギルディはこの夢世界限定ではあるものの、全知全能に匹敵するような力を持っているのだ。

 反応できなかったのも、それが原因であろう。

 金縛りにあったかのように体が動かなくなったティアナへとマモンギルディは急接近。

 

「フフフ、いい感じデース。ハッピーなオーラをたくさん感じマース」

 

「な、なにをするつもりなのよ……!!」

 

 気味悪い笑顔を浮かべるマモンギルディを前にティアナは強がりながらも恐怖を感じていた。

 和輝が言うに、マモンギルディが一度指を鳴らし設定を改変してしまえば抗うことが出来ない。その能力を活用すれば自分が自分をどう認識しているのかすらも変えてしまえるのだ。

 

「何って……そんなのわかりきってマース。ユーをあのボーイから寝取ってあげるのデース」

 

「寝取るって……!! あんた……!!」

 

「そのリアクション、グッドですヨ~」

 

 悪趣味という言葉を具現化したような性格をしたマモンギルディにとってティアナのこの反応は待ってましたと言わんばかりだ。

 

「誰もユーを助けには来なーい。その為にここまでただ見守ってあげたのデス」

 

 さらに近づくマモンギルディ。

 

「ユーはプレゼントをフォー・ユーされてベリーハッピーな一方、最愛のボーイは油断して眠っている。このチャンスを逃すバカはいまセーン。あのボーイが知らない内にユーを堕としてみせマース」

 

 陽気な口調でマモンギルディはケラケラと笑う。

 一発ぶん殴ってやろうかと思える程に腹立たしい態度ではあるが、動けない以上はどうやっても反撃が出来ない。

 

「さて……どうビフォーアフターしてあげましょうカ? NTRのお約束通り、ユーの心も体もビッチにチェンジしてあげましょうカ~?」

 

「冗談じゃない!! 誰がそんなのに……!!」

 

「無駄デ~ス」

 

 笑みを浮かべながらマモンギルディは指を鳴らす。

 するとどうだ。

 ティアナの視界はぐにゃりと歪み、立ちくらむ。

 鏡に映る姿が変化。ツインテールが汚いギトギトした明るい金髪に染まり、服装も露出度を高めた下品な物へ。性についての言葉や意味が今まで興味なく理解できなかったはずだというのに今ならハッキリわかる。

 パパ活に勤しむ頭の悪そうな不良少女。

 ティアナの姿はそんなテンプレとも言える女子高生痴女の姿へと変わっていた。

 

「くぅッ……!!」

 

「随分とレジストしますネ~」

 

 姿変われど心までは変わらせまいと思わぬ抵抗を見せるティアナ。

 しかし、この夢世界においてマモンギルディは絶対的だ。抵抗できているのも、簡単ではつまらぬからとマモンギルディが宣言通り能力を制限して手を抜いているからに過ぎない。

 

「ククク、方法はどうあれ、変わっていくのは最高デース」

 

 現実では起きないキャラ崩壊をいとも簡単に引き起こすこの夢の中において、解釈違いなどという言葉は存在しない。

 どんな高潔な魂であろうと指先一つで改変されてしまう。

 エロ同人の世界で狂ってしまうキャラクターたちのように、この世界の法則は絶対的なのだ。

 

「やめて……!! ママみたいになっちゃう……!!」

 

「いい感じデ~ス。おや?」

 

 あともう少しで堕ちるだろうとそう認識していたマモンギルディであったが、ティアナの姿におけるある箇所を見て不思議がる。

 それはティアナのツインテールを維持する結び目。そこで輝きを消さずに保ち続けているのは青紫色のリボンだ。

 まるでこれだけは渡すまいと死守するかのようなリボンを見たことでマモンギルディは閃いた。

 

「どうせここはドリームの中デース。多少、ツインテールをデリートしてもノープロブレムでしょう」

 

 寝取られに大事なのは彼氏にとっての彼女をまるで違う存在へと変える事であるとマモンギルディは常日頃から語っている。

 即ち、ティアナを寝取る以上は彼女自身にツインテールを価値がない物であろうと改変する必要がある。

 尤も、これはあくまで夢の中限定である。

 現実でツインテールを奪えばクライアントであるベリアルギルディとの関係にひびが入ってしまうからだ。

 

「あなたはツインテールなんかに全く興味がない。そうデスよね?」

 

「だ、誰が……!! ッ……!!」

 

 刷り込むかのようにマモンギルディの言葉が頭に響く。

 この力を前にすると、和輝が自分は生まれた時から女であると認識してしまったように、どんな無茶苦茶な事でもそうであったと認識するようになってしまう。

 それだけは絶対に忘れぬと抵抗するティアナ、対してマモンギルディは無駄だと笑う。

 しかし、ティアナのツインテール属性もとい究極に匹敵しうる想いはマモンギルディの予想を超えていた。

 

「私は……ツインテールが好き!! ツインテールが好きで、私の事が好きな和輝が大好きなのよ!!!」

 

 そう宣言すると同時にリボンが光り輝き、ティアナの姿が元の物へと戻る。

 これにはマモンギルディも驚きを隠せない。

 

「オーノー!? そ、そんな馬鹿な……!?」

 

 いくら夢世界において全能と言えど、現実において最強のツインテール属性及びその想いは負けやしない。

 大好きという気持ちである属性力の根源をマモンギルディはエレメリアンでありながら侮っていたのだ。

 

「マモンギルディ!! あなたがどれだけ寝取られを愛していようが構わないしそれに対しては否定しない。でもだからってその為に誰かの愛や恋を奪おうとしたりするなんて許さないし、そんな邪な想いでは私たちのツインテールは解けない。私たちのツインテールは不変なのよ!!」

 

 勢いづき啖呵を切るティアナ。

 それを見て後ずさるマモンギルディであったが、突如、その表情に笑みが戻る。

 

「成程、確かにユーのツインテールは最高デース」

 

「当たり前でしょ!! でも、あなたなんかに奪わせやしないわ!!」

 

「どうでしょうネ~。だ、か、ら」

 

 ゆっくりと近づいてくるマモンギルディ。

 今度は一体何をするつもりなのとティアナは警戒する。

 次の瞬間、マモンギルディの起こした行動はティアナの動きを止めた。

 

「こうします」

 

「なっ……!!」

 

 マモンギルディの起こした行動。それはティアナのツインテールの一房を優しくなでる事であった。

 あまりにも一瞬且つ、予想外の行動故にティアナは動けなかったのだ。

 

「では、また会いましょう」

 

 先ほどまでのおちゃらけた声色とはまるで違う所謂イケボと称されるような声色でそう言っては姿を消して去っていくマモンギルディ。

 その後、洗面所にて一人、ティアナは茫然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 朝、私はいつも通りの時間に目が覚めた。

 何一つ違和感ないいつもの朝。ベッドの隣ではスヤスヤと和輝が気持ちよく眠っている。

 窓の外に広がる景色は昇り始めた陽が眩しく照らしていて、外を散歩する人や犬の声が耳に入ってくる。

 本当に何一つ変わらない普通の朝。

 でも、これは現実なんかじゃない。

 ここは私と和輝が見ている夢の中の世界。

 だから、私たちは厳密には目を覚ましている訳じゃない。

 

「マモンギルディ……」

 

 昨晩、私を狙い現れたマモンギルディの事を思い出す。

 何とか追い払うことは出来たけれど、最後のあの行動の意図は何なの……?

 私の髪を……あんな風に優しく……

 

「ふぁ~……うん? ティアナ……?」

 

 私が昨晩の事を思い出していた時、隣で眠っていた和輝が寝ぼけ眼を擦りながら目を覚ました。

 昨晩の事は一先ず置いておこう。

 変に心配させても仕方ないし、今は和輝とこの夢世界で過ごす事に集中しよう。

 そう意識を切り替えた私は、寝ぼける和輝へと優しく声をかける。

 

「おはよう。と言ってもまだ夢の中だけどね」

 

「お、おはよう……ッ!?」

 

 和輝の方も私の言葉を聞いてここがまだ夢の世界であることを思い出したのか目つきが変わる。

 

「やっぱし、夢じゃないって訳か」

 

「何言ってんのよ、夢でしょ」

 

「いや、そうだけどよ……」

 

 混乱しそうになっている和輝。

 自分でツッコミを入れておいてアレだけど、私もそう言われればややこしくて頭がこんがらがってきそうになる。

 夢の中で眠って、朝を迎えるだなんて不思議だものね。

 

「てかあれ? お前、ツインテールはどうした?」

 

「え? あ……!!」

 

 思わず声が出る。

 そういえば今日の私は起きて少し経っているのにまだツインテールを結んでいない。

 いつもなら目覚めてすぐにツインテールを結ぶというのに……

 特殊な状況下に置かれたが故に仕方ないかもしれないけれど、私としてはショックを隠し切れない。

 

「ご、ごめん!! すぐ結ぶから!!」

 

「い、いや……別に謝る必要ななくないか?」

 

 和輝はそう言ってくれているけど、私としてはそうはいかない。

 和輝に貰ったリボンを使って髪を結ぶこと数分。

 動揺からかいつもよりも少しだけ時間がかかっちゃったけど、納得できるツインテールが出来上がった。

 

「じゃじゃーん!! どう和輝?」

 

「どうってお前……。いつも通りだろ。いつも通りのいいツインテールだ」

 

 明るく振る舞う私と違い、和輝の反応は少し淡白なものだった。

 別にその……いつも通りすぎて興味ないって感じではないのだけど。

 

「それはそうだけど……」

 

「てかやっぱしさぁ、別の色にしねぇか? いや、昨日はああ言ったけど、やっぱちょっと恥ずいぜ」

 

 そう提案してくる和輝は朝の支度をすべく寝室を後にする。

 私はそんな和輝に不満を覚えつつも同様に寝室を後にした。

 

 

 

 

 現実世界。

 トゥアールを中心とした大人たちは和輝とティアナの二人を救出すべく動き始めて約十数時間が経った。

 夢と現実では流れる時間の長さが少しだけ異なる為にまだ一日も経ってはいないが、想定していたよりもかなりの時間が経っている。

 基地内では未だ戦いは続いていた。

 

「では、今度こそお願いします」

 

「は、はい!!」

 

 トゥアールが機械を操作し、華がその機械と繋がった特性のベッドに横になる。

 これはドリーム・ダイブ・トゥアール・マシン。略称はDream(ドリーム)とトゥアールの頭文字をとってDTマシン。

 これを使えばその名の通り、他者の夢の中へと入る事ができる。

 まさに空想を現実にした夢のマシン。

 の筈なのだが……

 

『エラー発生!! エラー発生!! 強制終了します!!』

 

 電子妖精とぅあるんの声が響き装置は急停止。

 これでもう何度目かわからぬ失敗。

 トゥアールは思わず装置を叩いてしまう。

 

「くっ……!! やはりダメですか……!!」

 

 設計自体にミスはないし、理論上はやり方だってできている。

 トゥアールの持つ人智を超えた頭脳に不可能な事などそうそうありはしない。どのような不可能であっても幾つかの例外を除き成し遂げてきた。

 だがしかし、今回は珍しく苦戦を強いられ続けていた。

 いくらシステム上のバグを取り除いたり、設計を見直し作り直しても発生するエラー。

 トゥアールは再度、装置の修正に取り掛かるべく全体を見直し、どこがいけなかったのかを冷静に分析し調査、そして改善を行っていく。

 だが、何度やっても上手くいかない。

 

「何か……何かがおかしい……」

 

 失敗の理由は不可解な事に一切不明。

 どれもこれも正常に動作をしているし、見かけ上は何一つの問題はない。

 もはや何か別の力が働き、装置を使っての侵入を拒んでいるとしか思えない。

 

「観束先生。今は一度しっかり休んだほうが……」

 

「そうだぞトゥアールちゃん。いくら君でも一度休んだ方がいい」

 

 何度も何度もトライアンドエラーを繰り返すトゥアールへと華と正樹の二人がそう声をかける。

 二人は一応、何度かの仮眠を交互に取るなどをして休んではいる。

 しかし、トゥアールは和輝が眠ってしまった最初の事件発生以降は殆ど休んでなどいない。ティアナがやられてからはちょっとした休憩ですら断っている。

 先程からずっと、こうやってとぅあるんら各種AIも総動員して調整に勤しんでいるのだ。

 

「いえ、そうは言っていられません。あの子は……総愛だけは……私が何とかしなければいけないんです」

 

 トゥアールにとってティアナこと総愛は、最愛の人と最高の親友の娘であり、実の娘のように想っている存在である。

 故にこのような状況では自身がやらればならないという気持ちでいっぱいなのだ。

 勿論、今回に関してはトゥアールにとって信頼に値する和輝までもが敵の手に落ちてしまっている事も大きい。

 

「いや、ですがしかし……」

 

「それよりも華先生、華先生の方こそ今は力を蓄えていてください。夢の中の戦いは未知数です。何が起こるかわからないので」

 

 トゥアールから逆にそう言われてしまった華。

 華からすれば休むも何も装置を使う以上はただ眠るのみである為、休む恩恵をあまり感じてはいない。

 

「トゥアールちゃん。気持ちはわかるが今は落ち着いたらどうだ? 焦っては何も変わらないのはわかってるだろ?」

 

「それはそうですが、一刻も早く助けなければ……!!」

 

「戦っているのは何も俺たちだけじゃない。きっと、夢の中で和輝やティアちゃんも戦ってる。二人のことをもっと信じてあげてもいいんじゃないか?」

 

 正樹にそう諭されトゥアールはようやく作業の手を止める。

 確かに焦るばかりで夢の中で二人もまた戦っている事を見落としていた。

 昔から責任を感じてら自らを犠牲に無茶をするのはトゥアールの悪い癖とも言える。

 その事に気がついたトゥアールは一度休む事に決めた。

 

「そうですね。徹夜し続けるのも限界ですし、このままでは折角の年齢不相応の美貌が台無しです。一度、仮眠をとる事にしましょう」

 

 その間も各種AIたちによる調整は怠らない。

 もし、何か進展があれば直ぐにでも起床し自らの手で調整を行う。

 そう決意したトゥアールが仮眠をとって約数十分後。

 事態は急変する。

 

「観束先生!! 装置に異変が起きました!!」

 

「今行きます!!」

 

 華の報告を聞き直ぐにコンソールルームへとやってくるトゥアール。

 その時、コンソールルーム内のモニターにノイズが走り、画面が切り替わる。

 

『ハローハロー。ミーは七つの性癖、グリードのマモンギルディでーす』

 

 そこに映るのは黒背景に一体のエレメリアン。

 元凶であるマモンギルディだ。 

 

「七つの性癖!?」

 

「グリード、つまり強欲のようですね」

 

 モニター越しではあるが、元凶の登場にトゥアールたちの目つきがより一層真剣な物へと変わる。

 

『何度も何度もしつこいですネ〜。流石のミーもアングリーですヨ』

 

「何ですかこの腹立たしい性格のエレメリアンは」

 

 見た時から感じるそこ知れぬ不快感を訝しむトゥアール。

 一方のマモンギルディはそんなトゥアールたちを気にすることなく、自分自身が伝えたい事を一方的に語り出す。

 

『ミーの目的はただ一つ。テイルバイオレットのボーイから愛しのガールを寝とる事デース。その邪魔は誰にもさせまセーン』

 

 マモンギルディが指を鳴らす。

 すると、DTマシンが煙を出して急停止。再び装置は沈黙した。

 

『大丈夫デス。ユーたちにもビデオはお送りしますヨ〜。ミーに寝取られたそこのガールの姿をね』

 

 そう言い切ると一方的に通信を終えるかのように画面は暗転。

 マモンギルディの笑い声だけが残る。

 一方、トゥアールたちの表情が怒りで満ちていた。

 

「あの二人を寝取ろうだなんて、このトゥアールママが絶対に許しません!! 何がNTRですか!! 勝手に現れて愛する人を奪うだなんて最低な行為、恥を知りなさい!!」

 

「そうだ!! 現実でNTRなど言語道断!! 純愛以外あり得るか!! 和輝、負けんじゃないぞ!!」

 

「よくわかりませんが、生徒に手を出すことは許しません!!」

 

 あまりよくわかっていない様子の一名を除き、燃え上がる大人たち。

 和輝とティアナの仲を応援しているが故にNTRなど到底許せる筈がないのだ。

 だが、そんな決意はさておき、再び振り出しに戻された事実は変わらない。

 今までの失敗の原因が夢に潜むマモンギルディ側からの干渉であったのだと理解したトゥアールであったが、だからとてこのままでは対処のしようがない。

 二人の恋路における最大の危機を前に、トゥアールは断腸の思いであの人物へ助けを求めることを決心する。

 

「アナザーテイルレッドの力を借りましょう……!!」

 

 

 

 

 夢世界での日々はもう数日過ぎた。

 私と和輝はあの日以降、あまり学校へ行かずにこの夢世界及びその脱出方法について調べて回っている。

 だけもやはりというか特に進展はなく、結局いつもと同じように夜がやってきた。

 

「んじゃよ、俺はもう眠みぃから」

 

 そう言うや否やいつもどおり和輝は早々に寝室へと向かう。

 私も和輝を追ってそのまま寝室へと向かおうとするけれど、足は自然と洗面所へと向かってしまっていた。

 鏡に映る私はツインテールを結んだままの寝間着姿。

 

「私……また……」

 

 

 

「久しぶりです。またお会いしましたね」

 

「ッ!? マモンギルディ!?」

 

 いつの間にか鏡に映っていたマモンギルディを見て私の体は固まった。

 振り向く事が出来ず、背後がどうなっているかは鏡を通してじゃないとわからない。

 

「今度は何をするつもりなの」

 

「何って、私はあなたに会いに来ただけですよ」

 

 あの時の去り際と同じでマモンギルディは今までの英語交じりの喋り方ではなく、いたって普通の落ち着いた理知的な喋り方でそう答えた。

 嘘よ……絶対にそんな筈なんてない。

 そう直感している私はマモンギルディがどう言おうと信じやしない。

 今晩もこうやって和輝が先に眠り、私がここに来てしまったのだって全部マモンギルディが意図的に仕掛けたという事なんてわかりきっている。

 

「そんな喋り方をしたところで私が心変わりでも起こすと思ったの? だったら残念。私の心もツインテールも全部、あんたなんかに渡すわけがないでしょ!!」

 

 またあの時のように設定を改変して私の事をおかしくしようとしたとしても、私のツインテールは解けやしない。

 あの時みたいに和輝から貰ったこのリボンが守ってくれる。

 動けないながらも私は精一杯声を張り上げ、来るなら来なさいと心の中で身構える。

 すると鏡に映るマモンギルディは――

 

「あの日の事ならすまなかった。謝罪しましょう」

 

「え?」

 

 まさかの頭を下げ、昨晩の事を謝罪してきた。

 あまりにも予想外すぎて私は言葉を失いそうになる。

 

「何を言ってるのよ!! 今度はそうやって取り入ろうってつもり!?」

 

 そんな安っぽい手口に引っかかるもんですかとばかりの勢いで頭を下げるマモンギルディへと食って掛かる。

 しかし、マモンギルディは真剣であった。

 

「あの日、私は君を寝取る為、君たちの絆の象徴でもあるツインテールを奪わせようとした。だが、私は負けてしまった。そして私は今日に至るまで考え直し、そのおかげで私は思い出したのだ。ツインテールの持つ輝き、エレメリアンとして本来誰もが抱いていたであろうツインテールへの想い、最強たるツインテール属性のすばらしさを」

 

 その口調、その雰囲気はとても今までのマモンギルディと呼べないくらい正反対のものだった。

 私はその言葉をただのでまかせと断じようとするけれど、その気迫のようなナニカに圧倒されて言葉を返す事が出来ない。

 いつの間にか、ツインテールについて熱く語ってくれるマモンギルディを見て信じてみようともすら思ってくる。

 

「あなた……何なのよ……」

 

「私は寝取られ属性を愛する強欲のマモンギルディ」

 

「そういう意味じゃ……!!」

 

「はい、わかっていますとも。私たちは敵同士。ですが、同じツインテールを愛する者でもある。そうでしょ?」

 

 そう言われると何も言い返せなくなる。

 お父さんも「ツインテールを愛する者に心の底からの悪はいない」って言っていたような気がする。

 

「でも、再度これだけは言います。私とあなたは敵同士。あなたには感謝していますが、それとこれとは話が別です」

 

「わかってるわよ。こんな世界、私と和輝のツインテールがあれば脱出してみせるわ」

 

「そうですね。期待しています」

 

 激励するかのようにそう声をかけたマモンギルディは背を向ける。

 瞬間、私の体は金縛りから解除され振り向いた。

 

「また明日の夜、二人きりで会いましょう。夜は休戦の時、立場を忘れてツインテールを講じるのも一興でしょう」

 

「そうね、楽しみにしておいてあげるわ」

 

 ツインテールを愛する者として認めた私はそう言い返す。

 微笑んだ様子のマモンギルディは私へ向き直り、ツインテールを優しくなでる。

 瞬間、思わず甘い声が漏れた。




R18のNTR物を見過ぎた結果、エロに走りすぎないよう苦労してます。
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