俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
トゥアールにとってテイルレッドという存在は一言では表せぬ程の強い想いがある。命と同じくらい大切なツインテールを託し、紆余曲折の果てに復讐の枷から解き放っては、新たな目標くれた相手であるテイルレッド。
だから、アナザーテイルレッドことレイジに対するトゥアールの認識は最悪と言っても過言では無い。
当たり前だろう。レイジのやっている事はテイルレッドの名を愚弄している事に他ならないのだ。
そもそも、レイジは本来は正史において存在しない遥か未来からの介入者であり、トゥアールたちと仲間になりながらも裏切った反逆者だ。
故にトゥアール側からレイジへと歩み寄る事はあり得ない。
助けを求めるなどもってのほかだ。
だがしかし、状況はそんな関係性をも変える。
「トゥアールめ、何を考えていやがる……。オレに会って話しをしたいだぁ?」
先程、レイジはトゥアールからのメールを受信した。
内容はズバリ、会って話しがしたいという簡潔な物だ。
罠を疑いながらもかつて共にツインテイルズを支えていた仲間のよしみもあって参上したレイジは繁華街見下ろすビルの屋上にて待つ。
程なくしてトゥアールがこの場に転送され現れた。
「なんだぁ? オレに話しってどういう要件だぁ?」
冬の夜空の下、銀髪をたなびかせたトゥアールの表情は真剣その物。
いつも通りの様子を見せるレイジではあるが、その実、警戒心は最大限まで高めている。
到着早々、トゥアールはレイジへと頭を下げた。
「アナザーテイルレッド、いやレイジ。あなたの力が必要です。総愛を……あの子たちを……助けてあげてください」
おふざけ無し、本気のトゥアール。
レイジは一瞬にしてその言葉の意味と状況を理解し、どうしてこうなっているのかも大体見当がついた。
がしかし、同時にレイジの心は荒れ始める。
「はぁ!? オレになんのようだってぇ? トゥアール……!!」
「改めて言います。あの子たちを助ける為、あなたの力が必要なんです」
再度、トゥアールは頭を下げた。
そして、今どういった事が起きているのかを説明する。
総愛と和輝、二人が強欲の性癖マモンギルディの手により夢の中に囚われた。強欲のマモンギルディは寝取られ属性のエレメリアン。敵の狙いは二人の仲であり、夢の中という環境もあってトゥアール自らでは現状では一切の手出しができていない。
「二人の夢の中に入るにはあなたの力が必要です。私と違って、あなたには変身できる力があります。悔しいですが、あなたにしかあなたにしか頼めません」
トゥアールの考え抜いた新たな作戦、それは和輝と総愛、囚われた二人に対してそれぞれ別のツインテール属性の持ち主が変身アイテムを介して直接リンクし、マモンギルディが介入出来ないほどの深い繋がりの中で夢の中に入り込むという物。
作戦を遂行できるツインテール属性の持ち主はテイルブルームである華以外に残りは一人。思い当たるのはアナザーテイルレッドだけなのだ。
「あなたにとって、二人は自分の獲物な筈です!! このまま先に奪われていいですか!?」
二人は自分の獲物。それはレイジが以前言った言葉だ。
以前の時の彼なら二つ返事で協力していただろう。
だがしかし、対するレイジは内心、トゥアールの態度含め、自分自身に対して苛立って仕方がなかった。
どうしてこう揺れている?
オレは何がしたい?
オレは何だ?
(いいや違うな。貴様はこの関係性に満足している。テイルバイオレット、テイルブルームに次ぐ第三の戦士としての立場をな)
その瞬間、レイジの頭にはベリアルギルディからかけられた言葉が思い起こされる。
それは自分自身のアイデンティティを揺るがす一言。
心の中で悩み続けるレイジはそして、ある結論に至る。
「一つ、条件がある」
◇
いつからだろうか?
ティアナの様子はいつからおかしくなっていたんだ?
何かを隠しているような、それでいて俺にその何かを気づいてほしいようなそんな雰囲気をティアナは見せていた。
なのに俺はいつも通りの素っ気ない態度をとっていた。
気づかなかった?
俺が?
それとも見て見ぬふりをしていたのか?
自分で自分を信じる事が出来なくなる。
この夢世界に囚われた時、最初こそ敵の能力を知っていたが故に恐れては警戒していたつもりだった。
でもこうして現実を突きつけられればそれは甘かったのだと実感する。
『ハロー!! 見てますカー? テイルバイオレットのボーイ?』
メールに添付されていた動画を開いた事でまず見えるのは、この夢世界の主人であり、俺たちを閉じ込めた元凶であるマモンギルディの姿。
豪華な装飾施されたソファでくつろぐかのよう腰を下ろしている。
「てめぇ!! 何のようだこの野郎!!」
『ハハハ、アングリーな態度がわかりますヨ〜。ですが、少しはクールダウンしてくださ〜イ」
「んだと!! このボケが!! ざけんじゃねぇッ!!」
これから見せられる現実に対する恐怖からか、俺の言葉遣いはより一層荒々しい物になってしまう。わかっていてもそうならざる得ない。
マモンギルディはそんな俺を嘲笑うかのように上機嫌に振る舞っていやがり、余計怒りが募る。
このビデオはあくまで録画された物だ。
奴は俺の反応を読んでいる。
『さて、ユーたちに仕掛けたゲームは覚えていますカ? 寝取られ属性を愛し、他者のラブを寝取る事を至上とするミーの挑戦。この夢世界を舞台とする寝取られゲーム』
「ふざけんな!! 何が寝取られゲームだ!! それよりもティアナを——」
『ですから結果発表の時間デスよ。ミーとユー、どちらがウィナーになったのかをネ?』
やめろ……!!
やめてくれ……!!
そう心の中で思うがしかし、現実は非情だ。
ビデオを撮影しているであろうカメラが動き、マモンギルディの隣に侍らせている人物を映し出す。
「ティアナ!!」
『ハハハ!! 和輝くん見ってる〜? ユーの大事なガールはミーが寝取っちゃいました〜!!』
わかっていても心にくるものがある。
いや寧ろ、わかっていたからこそ見たくもない現実を見て心が悲鳴をあげているのかもしれない。
マモンギルディの隣、まるでマモンギルディに寄りかかるかのように身を預けては、ツインテールを撫でられ頬を赤く染めるティアナ。
このゲームの敗者がどちらかなのかは一目で判別がつく。
『ごめんね和輝』
「おいティアナ!!」
『私、観束総愛ことティアナは、マモンギルディに寝取られちゃいました~』
画面に映るティアナは申し訳なさそうな表情から一転、満面の笑みを浮かべては俺を馬鹿にするかのような明るい声でそう宣言する。
そしてそのままティアナはマモンギルディに抱き着き、マモンギルディはティアナのツインテールを撫でてみせる。
画面の中でティアナが甘い声を漏らす。
「ふざけんなって言ってんだろうが!!」
NTR系のエロ同人とかエロゲーとかで見るテンプレとも言える光景がここまで心をえぐるとは思わなかった。
焦り、怒り、困惑、恐怖、苦しみ、悲しみ、後悔、絶望。
ありとあらゆるマイナスな感情が洪水のように押し寄せる。
『ねぇ知ってる? マモンギルディって実は案外いい奴だったのよ。話もわかるし、やさしくてかっこよくて面白いし、何よりツインテールの扱いも上手いし』
「クソッ!! 何バカなことしてんだよ!! 操られてんだろ!? しっかりしろよこのバカ!!」
『私、気づいたのよね。和輝なんかじゃなく、マモンギルディについていった方が私のツインテールはもっと進化できる。もっと上のステージにいけるって』
「な訳ねぇだろ!! そんな奴のどこが!!」
『それに~マモンギルディと一緒にいればもしかしたら人間とエレメリアンが手を取り合い共存するかもしれないしね~。そもそも、ツインテールが好きな人であればエレメリアンであろうと悪い奴なんていないのよね~』
「だから目を覚ませよ!! オイ!! このバカティアナ!!」
現実を認めたくない俺は、一人でビデオ映像に向かってそう何度も叫び続けた。
マモンギルディはこの夢世界においてありとあらゆる事象を引き起こし、設定の改変と称して人の心や記憶すらも全て思いのままだ。
だからこれも奴の能力によって操られているだけだ。
でも同時に、ティアナがただ操られているのではないという事もわかってしまっていた。
『ていうかね、和輝が悪いんだよ』
「は?」
先ほどまでの明るい声が突然低くなる。
真剣に俺を責めるかのような孫雰囲気は、これから話すことが本心であると言っているかのようだ。
『和輝、私が毎夜マモンギルディとあっていたのに気づきもしなかったよね? 少しでも違和感があったのならもっとちゃんと聞いてみたりしてもよかったんじゃない?』
「それは……お前が……!!」
『どうせ、またお前がとか言っているんでしょ。和輝っていつもそうだよね』
「ち、違う……!!」
全部全部そうではない筈なのに、そう言われるとそうとしか思えない。
事実、俺は今まで何度も口論になった際にそう言ってきた。
『覚えてる? 今朝、私が尋ねた事?』
「えーっと……」
『私ね、マモンギルディとある賭けをしていたの。和輝はマモンギルディが結んだツインテールを見分ける事が出来るかって言う内容の賭けをね』
そう答え合わせをされたことで今朝の出来事及び、その背後で何が起きていたのを察してしまう。
俺は小細工の勝負でマモンギルディに負けた。
ティアナが結ぶツインテールとマモンギルディが結んだツインテールを見分ける事が出来なかった。
普通ならそんなのわかる訳ねぇだろと言いたい物だが、ティアナの親父であり究極のツインテールである総二さんなら大丈夫だったのだろうとわかるので、ツッコむ事すらできず逆により深い敗北感を味わってしまう。
『それに、和輝の結ぶツインテールってあんなにも雑で汚くて最悪だったのね。ガッカリしちゃった』
蔑むようにそう言い放つティアナ。
色々限界に達した俺は何一つ言い返せない。
ただ黙り込むしかない。
『これ、もういらないし捨てるわよ』
ティアナが取り出したのは俺がプレゼントした青紫色のリボン。
それを床に捨てては踏みつけ、ゴミのように放り捨てる。
涙が瞳の奥から溢れそうになる中、映像内のカメラが移動しマモンギルディに切り替わった。
『さぁ、という事でユーのガールフレンドは無事、ミーによって寝取られてしまいましたネ~。これからユーは寝取られてしまった絶望の中、このナイトメアの中で過ごしなサーイ』
画面内のマモンギルディが高らかに笑う。
怒りの言葉を発することすらできない。
それどころか何も聞こえない。
『ユーのエレメーラはこの後しっかり回収させてもらいマース。心配なんてノープロブレム、ユーの弱いツインテール属性でもミーたちの糧になるのデス。ではではグッバ~イ!!』
動画は終わり、画面は暗くなる。
俺はただ、町の中で立ち尽くしていた。
◇
「ハハハ!! アーッハッハッハ!! なんてグッドフィーリング!! いい気分ですネェ!!」
夢世界にあるとある屋敷。
その中の一室にてくつろぐマモンギルディが上機嫌に笑いあげる。
その隣にはマモンギルディに寄り添うかのようにティアナが抱き着いている。
「ねぇマモンギルディ……、もっと私を撫でて……ツインテールを優しくして……」
「オーケーオーケー。いいですヨ~」
マモンギルディの手がティアナの髪へと触れ、ティアナの顔つきが恋する乙女のそれへと変わる。
頬を緩ませてしおらしくなり、マモンギルディに全てをささげたかのようなティアナ。
一見すると本当に恋しているんじゃないかと思えてしまうが、ティアナ自身の性格およびこれまでの人生を考えればそれはない。ティアナは父であるテイルレッド、母であるテイルブルー及びその仲間たちの想いを受け継ぎ、エレメリアンたちから人々の属性力を守ると心に誓ったのだ。テイルフェニックスこと結翼唯乃のような例外を除けば、基本的にはエレメリアンに心の底から信頼するという事はあまりない。邪悪なベリアルギルディの仲間であり、七つの性癖を名乗るマモンギルディなど以ての外だ。
今のティアナは、マモンギルディの能力によって操られているに過ぎない。
夢の中で最大限の力を発揮するマモンギルディのよってティアナの思考などは全て改変され、相手がマモンギルディであろうとも心からときめいてしまっているのだ。
「他者のラブをスナッチしするこの感覚と奪われた者のディスペアーな様子はベリーアメイジング。やはり最高ですネ」
寝取られ属性を愛するマモンギルディ。
彼が他と違う最大の要因は間違いなくそのスタンスにある。
マモンギルディは、その言葉どおり寝取られと同時に寝取る事も好きなのだ。
寝取られ展開がなければ自分が間男となりその展開を作り出すこともやさない。
全異世界で彼の被害にあったカップルの数は数えきれないとされている。
「そうデース。いつまでも呼び捨てでコールされるのもノットアメイジング。折角だからニックネームでも決めましょうカ。ダーリン? ご主人様? マスター? はたまた無難に様付け? 久々に悩みますネ~」
実にいやらしい顔でティアナに自分をどう呼ばせるかをマモンギルディは悩む。
普段であれば一度寝取ってしまえば興味をなくし、属性力を奪った後で夢の中に放置するマモンギルディであるが、今回はそうする訳にもいかない為かいつになく寝取った相手に熱中している。
これもある意味、ティアナのツインテール属性の強力さがなせる業とでもいうのかと思いたくなるそんな時、
『計画はうまくいったようだな。マモンギルディ』
マモンギルディの頭にベリアルギルディの言葉が届いた。
それを聞いたことでマモンギルディは意識を切り替える。
「イエース。セカンドフェーズも無事コンプリート。ネクストフェーズへと移行しマース」
呼び名など後回しと決めたマモンギルディは即座に指を鳴らす。
すると今までずっと抱き着いていたティアナがスクッと立ち上がっては直立不動となり、目が生気を一切感じさせない虚ろな物へと変わる。
そして、現実世界では……
「……」
同じく虚ろな目と表情をしたティアナが目を覚ました。
◇
俺は負けた……。
戦闘に負けたとか、ゲームに勝てなかったとかだけじゃない。
完膚なきまで俺は負け、一番守りたかった筈のアイツを守ることが出来なかった。
しかもそれらは俺が原因の敗北だ。
疑いようがない完敗と言える。
「クソっ!! クソっ!! クソっ!! クソっ!!」
送られてきたビデオを見終わった俺は、ただそう口にし続けながら街を彷徨い歩き続ける。
行く当ても目的もない。
ただ、生ける屍のようなある種の無気力状態に陥っているのが自分でもわかる。
後悔してもしきれない。
時間が戻るのなら再びやりなおしてみたい。
だけど、こうなってしまった以上はやり直しなどない。
ましてや相手の目的が端からティアナを攫って手中に収める事である以上、チャンスなど絶対に与えないだろう。
今頃、現実世界ではどうなっているのだろうか?
彷徨い歩く中でふと思う。
俺はこうやって未だに夢の中であり、それはこれからも永遠同じだろう。
ならティアナは?
確かマモンギルディはこの夢世界で堕とした相手であれば現実世界でも夢遊病患者を操るかのように思いのままとか言ってやがったな。
つまりティアナは今頃……
「俺は一人……なのかよ」
ゲームが始まる前、俺は幻想のティアナに向かってお前と離れるのが怖いと告白した。
でも、それはただの幻想であり、正体は憎きマモンギルディ。
結局のところ、俺はティアナにそのことを言えなかった。
これも全て、恥ずかしいからとか何とか理由をつけて自分自身を偽り続けたツケが来たという事なのだろう。
「最低だよな……俺って……」
幻想とは知らなかったとは言え、俺は幻想のティアナ相手に誘われるがままに欲望を解放した。
思い返せば返すほど吐き気がする。
相手が実際はマモンギルディだったからとかじゃない。
俺自身の弱さと醜態にだ。
「はは……俺って本当に――ッ!?」
馬鹿な奴だと自虐しそうになった時、ふと周囲の様子がおかしい事に気が付いた。
俺が今いるのは現実そっくりの街の中であり、周りにいるのも同じような現実にモデルがいるであろう夢世界の住人たち。彼ら彼女らについて俺は以前、ゲームのNPCのような決められた返答のみをする奴らと称した。現実世界の人物をモデルとし、簡単なコミュニケーションならできる質のいい人形。箱庭であるこの夢世界を彩る人形たち。
そんな彼ら彼女ら全員が俺へ向かって視線を飛ばしていやがる。
「なんだよお前ら……!! ガン飛ばしやがって……!!」
「「「……」」」
無表情で無感情。
明らかに様子のおかしい人々が俺の方へと体を向け、黙って見つめてくる。
質の悪いホラーか何かかよと思いたくなるそんな時、一番近くにいたスーツ姿をした会社員らしき男の顔がノイズが走るかのように歪む。
「なッ!? マモンギルディ!?」
男の首から上だけがマモンギルディの物へと変わった。
驚愕しつつも周囲を見渡すと、同じように全員の顔だけがマモンギルディの物へと置き換わっている。
「「「……」」」
「く、来るんじゃねぇ……!!」
じりじりと寄ってくる集団を見て恐怖が勝つ。
こいつらは何を目的としていやがるんだよ!?
俺はゲームに負け、ティアナを寝取られた。
それで終わりだろ!?
(ユーのエレメーラはこの後しっかり回収させてもらいマース)
「まさか、そういう事か!?」
ショックで放心しかけていた際に言っていたマモンギルディの言葉を思い出す。
こいつらは俺から属性力を奪おうとしていやがるって訳か!!
確か、この夢世界で属性力を奪われた奴は現実世界でも奪われた時と同じ影響がでて、尚且つこの夢世界から二度と帰還することが出来ずに一生寝たきり状態になっちまうんだったな。
「クソ……何もかも終わりなのかよ……」
にじり寄る集団は属性力奪取のリングをそれぞれ出現させる。
変身はおろか立ち向かう気力すらもない俺ではどうしようもない。
いっそ、このまま属性力を奪われて灰色の景色と同化してしまえた方がいいのかもしれない。
そう思った俺は、迫りくるそれらを他人事のように俯瞰していた。
今まさに俺から属性力を奪おうとしたその時――
『全く、だから言っただろう。時にはデレを見せる事も大事だと』
懐かしい声が響き、周囲を眩い白い光で覆いつくす。
襲おうとした奴らが消えうせた光の中で俺が見たのは……
間違いない。あれは白い悪魔のエレメリアン。
「バアルギルディ……なのか?」
『久々の再開だな少年!!……いや、我が
芝居がかったような言葉遣いと暑苦しいとも言い切れない変なテンションからして間違いない。
そこに立っているのはかつて敵として戦いその果てに好敵手として認め合ったツンデレ属性の悪魔バアルギルディ。
ベリアルギルディによって知らぬ間に消されてしまった筈のお前がどうして……!?
『無論、この私は本物ではない。今、君が見ているのは嘗ての私を想像した君の記憶が組み上げた幻だ。つまり、君が思い描くバアルギルディの姿という訳だな。私の事をここまで鮮明に覚えてくれているとは嬉しい限りだよ』
おぉ、そうですか……
そう言われるとすげぇ恥ずかしいが、要するにコイツは夢の中で死んだ友人が出てくるみたいなノリか。
ここ自体は夢の中だし、あり得ない事が起きてもそこまでおかしくない。
いやでも、ここまで自我をハッキリした存在も早々いなくないか?
『褒めるな褒めるな』
「褒めてねぇ!! てか口にも出してねぇ!!」
『フッ、それだけ君が私の事を忘れていなかっただけの事さ』
「ざけんな!! 誰がお前なんか覚えてるかよ!! べ、別にお前なんか……!!」
何だろう。すげぇペースを乱されているような気がする。
夢の中の幻とは言え、コイツと喋っているとティアナの時とはまた違った感覚で体がムズムズしてきやがる。
『変わらぬツンを見せてくれるではないか。安心したまえ、君のデレはちゃんと理解しているつもりだ。私の勘がそう言っている』
「違わい!!」
バアルギルディとは本物ともそこまで多く掛け合いをしてきた訳じゃねぇのに、なんつうか昔からこんなやり取りでもしてたんじゃねぇのかってくらい自然な気持ちになってくる。
さっきまでこんな事言えないくらい沈んでいたのにな。
『それで、君はここで諦めるつもりか?』
「そ、それは……」
本題に入ったバアルギルディがそう問いかけ、俺は口ごもる。
一度折られかけた心はそう簡単には立ち直れない。
そんな俺に対しバアルギルディは語り掛ける。
『君を攫って花嫁にしようとした時を覚えているか? あの時、あの少女は最後まで諦める事なく君を奪還せんと乗りこんで来たぞ』
「……」
『あの子は諦めなかったというのに男の君は諦めるのか?』
「そんな訳……!!」
思わず反射的にそう答えた時、バアルギルディはニコリと微笑んだ。
『ならば話は早いな。早くあの子を取り戻し、最高のデレを見せてくれ』
そうは言われても……
こんな俺じゃあ……
ツインテールを見抜く事も結ぶ事も出来ない、変身もできない俺じゃあ……
『それはまだ君がもっとハッキリとしたデレを見せていないからだろう? 前にも言ったが、ツンデレというのはバランスが大事なんだ。ツンが強すぎてはそれはただの意地っ張りの嫌な奴で終わってしまう。今こそデレを見せる時なのだ』
大丈夫だと励まされ、だんだんと力が湧いてくる。
確かに俺はプレゼントを渡して以降デレてこなかったからチャンスはある。
てか、そもそもプレゼント渡したりしたし、俺だってあえて過干渉しすぎないようにしてたんだぞ……!!
そもそも、勝手に敵の手に堕ちたのはティアナの方だってのに一方的に試してきやがって……!!
ティアナを想う気持ちと反発する気持ちがそれぞれ燃え上がる。
『それにここは夢の中だ。夢の中というのは本来、見ている者が主人公であり、見ている者が夢が夢であると自覚できるのなら何だって起こせるという物。そうだろう?』
バアルギルディの言葉を受け、俺は強く念じてみせる。
するとどうだ。俺の左腕におぼろげながらテイルブレスが形となった。
「これは……マジか……」
『君の想いが生んだ力だ。あの子を想い、ツインテールを信じる君の気持ちそのものだ』
形は歪、でも確かに存在する。
失いかけていた自身を取り戻した俺は大声で気合を叫び、奮起する。
「何が寝取り寝取られだ!! そっちがその気なら奪い返してやらぁ!! ティアナの
瞬間、白い光と共にバアルギルディは消えた。
目の前に群がるのは大量の頭部だけがマモンギルディの民衆たち。
俺は臆することなくブレスを構えてドライバーを召喚。
「テイルオン!!!」
青紫の光が爆裂し、俺をツインテールの戦士へと変える。
テイルバイオレットノーマルチェイン。
ティアナの融合していない時に変身できる懐かしい姿だ。
エクストリームほどの力は出ないが、雑魚を蹴散らすには問題ない。
「邪魔だ!! どけぇッ!! 雑魚共!!」
ウインドセイバーを使い群がる雑魚を吹き飛ばし進む。
何となくだが、ティアナがどこにいるのかをツインテールを感じる事でわかる。
それらが全て、俺でもちゃんとツインテール属性を育めているんじゃねぇかって後押しにつながる。
「待ってろティアナ!! 俺だって……俺だってなぁッ!!」
お前に言いたい事なんて俺だって山ほどある。
お前だけが好き放題言ってさようならなんて認めるかよ。
燃える闘志の中でそう決めた俺はティアナの気配がする方へと突き進んだ。
◇
「まさか、夢の中に潜む敵だったとはね……」
「しかも寝取られ属性……」
「見事なまでに今の和輝にはぶっ刺さっている奴っすね」
夜の地下基地のコンソールルームでは悠香、青葉、匠の三人が何か起きた時の為に残っており、それぞれが今回の敵について様々な事を語り合っている。
現在、トゥアールはレイジの協力を得るべく外に出ており、華は先程トゥアールに呼び出される形で外へ、正樹は皆の夜食を作るべく一度地上へと戻っている状況だ。
万が一、外から敵が攻め込んでも迎撃システムはバッチリ動作することを確認済みである。
「悠香先輩はどう思うっすか? やっぱ寝取られ属性は駄目っすかね?」
「まぁ、絶対にダメとも言わないけど、あの二人を狙うのは許さないって感じよね」
トゥアールや正樹ほど過激な言い方ではないが、やんわりと否定する。
青葉がこくりと頷いた。
「許されるのは創作の世界だけ……現実でやるのは許さない」
いつになく力強く答えた青葉。
彼女は今まで数々のエロゲーやエロ同人を嗜んできた者であるからこそ、やっていい事と悪い事はわけるべきであると考えているのだ。
そうっすよねと匠が相槌を打った時、コンソールルーム内で非常警報が鳴り始める。
「何々!? なんすか!?」
「青ちゃん!!」
「今カメラ切り替える……」
トゥアール不在の状況下、この基地のシステムを理解しているのはテクノロジー系統担当の青葉である。
この警報が外部からでなく内部からの異常だと理解した青葉は機械を操作し、モニターを起動。
映し出されるのは和輝たちが眠っている部屋。
そこにはベッドから起き上がり、今にも部屋の外へと向かおうとしているティアナの姿があった。
「ティアちゃん!? 目覚めたの!?」
「いやでも……なんかおかしくないっすか?」
「レイプ目になってる……」
「青ちゃん、せめて虚ろ目にしましょ……」
匠と青葉が指摘した通りティアナの様子は明らかにおかしかった。
目に生気はなく、隣で眠り続ける和輝には目もくれないどころか、自分自身が目覚めたことにすらも反応がない。
何かに操られているかのような異質な雰囲気はどうみても異常だ。
まるでどこかに向かおうとしているのか、部屋を出ようとしている。
「兎に角行くわよ!! たっくん!!」
「うっす!! お供しやーす!!」
通信機を手にした悠香たちは青葉を残しティアナの下へ。
そのまま指示を貰いながら基地内の廊下を走った悠香と匠は虚ろ目で歩き続けるティアナを発見した。
「ティアちゃん!!」
「……」
「やっぱおかしいっすよアレ!?」
返事をする事もなく、自分たちに目もくれない。
まるで起きながら夢を見ているみたいと悠香が思った直後、ティアナの背後がぐにゃりと歪む。
「これはまた寝取りがいのあるカップルですネ。先輩後輩関係もザッツアメイジング!!」
姿を現す双頭の鳥人型エレメリアン、マモンギルディ。
悠香も匠もトゥアールから話を聞いていた事もあり、コイツこそがこの事件の元凶なのだと瞬時に理解する。
「いや、よくルックしたら両方脈なしのノーチャンスでーすネ」
「え、何言ってんのコイツ……」
「少なくともあたしたちは興味なしって事はわかるわね……」
ホッとしていいのか悪いのかイマイチわからないが、危険な事に変わりはない。
コンソールルームにて青葉が逃げるべきだと通信を送る。
瞬間、マモンギルディは実に気持ち悪く笑った。
「成程、ガールズラブでしたカ。いいですネ~ミーもベリーライクですヨ~。ガールの間に挟まって、あわよくばそのままユーのラブを……」
世の百合好きを敵に回すような事もやさないマモンギルディ。
悠香の背筋がゾッとなるそんな時、廊下の先、外への出口がある方向からあの者たちが駆け付ける。
「私の生徒に手を出さないで!!!」
「そのガキはオレの獲物だ!!」
緑と赤、二つの閃光が走る。
マモンギルディはティアナを抱えてスッと回避。
悠香たちの前に二人の戦士が現れた。
「母なる大地の力宿すツインテール戦士、テイルブルーム!! 見参!!」
「アナザーテイルレッド様の登場だぜぇ!!」
堂々と決めポーズを見せるテイルブルームと身体を前に乗り出すかのような前項姿勢をとるアナザーテイルレッド。
並び立つ二人を見て安堵する悠香の耳に通信機から聞こえてくるトゥアールの声が響く。
『遅くなりました!! お二人とも大丈夫でしたか!?』
「あたしは問題なし」
「俺も大丈夫っす!!」
説得は無事成功し、レイジことアナザーテイルレッドの協力を得る事が可能となった。
悠香たちはテイルブルームからほんのり酒臭さを感じつつも、形勢逆転の予感を感じ取る。
一方のマモンギルディは即座に今の現状を不利と理解し行動に移す。
「どうやら一度エスケープするのが得策ですネ。ではではグッバイ!!」
そう言い残したマモンギルディは姿を消す。
同時に今まで虚ろ目状態で立ち尽くしていたティアナは糸が切れた操り人形かの如く廊下で倒れこみ、再び穏やかな寝息を立て始めた。
『どうやらまた夢の中に逃げたようですね』
「ケっ、なーに逃がしゃしねぇさ。そうだろ? トゥアールさんよ」
アナザーテイルレッドがニヤリと笑い、テイルブルームが倒れたティアナを運ぶ。
そして一方の夢世界では……
「ここにいんだろ!! 返事しやがれティアナーーーッ!!!」
テイルバイオレットが目的の場所へとたどり着いていた。
バアルギルディ限定復活。
嘗てのライバルが励ましにくる展開って結構好きなんですよね。
バアルギルディの本格復活は……またの機会で。
マモンギルディ編は次回で決着だと思います。