俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
夢世界に作られたとある屋敷。
現実には存在しないマモンギルディの住処とも言えるこの場所に、屋敷の主たるマモンギルディが息を切らしながら間一髪といった様相で帰還した。
「ふ〜、中々にデンジャラス。まさかテイルレッドのフェイカーまでも現れるとは……これではミーのプランが台無しデース」
元々、マモンギルディは夢の中という限定された空間でのみ全力を発揮する事ができるエレメリアンであり、直接の戦闘は他の七つの性癖の面々と比べて劣ると言わざる得ない。
故に彼のやり方は回りくどく、陰湿で卑劣。
誤算があったと言うならそれはアナザーテイルレッドの参戦に他ならない。
和輝とティアナを夢世界を閉じ込め、ティアナ寝取り和輝を脳破壊した今、予想される邪魔者はテイルブルームただ一人。そのテイルブルームもたった一人だけであるならばある程度手玉にとれる算段はあった。
しかし、アナザーテイルレッドまで現れた以上、作戦の変更も考慮しなければならない。
「ベリアルギルディめ……話が違うじゃないデスか……」
本来であればアナザーテイルレッドはベリアルギルディに頼む事で無力化する手筈であり、実際、ベリアルギルディがアナザーテイルレッドの迷いにつけ込む事で今回の件に介入する可能性は殆どなくなっていた。
トゥアールが直接出向き、何らかの形で協力をとりつけた事をマモンギルディは知る由もなかった。
「仕方ありません。こうなればプランD、一先ずはこのドリームの中でタイムを稼ぎ、ベリアルギルディのヘルプを待ちましょう」
一度妨害された以上、向こう側の警戒心は上がっていると予想できる。
恐らく現実世界ではティアナの身体をツインテール戦士二人がかりで見張っているだろう。
だからマモンギルディは待つ事を決めた。
この夢世界への突入はあり得ない事活かして籠城し、その間にベリアルギルディに現実世界を無差別襲撃してもらい、その隙を突くというシンプルにして効果的なやり方をイメージする。
もし何らかの手を打たれたとしても、無差別襲撃を繰り返せばいずれはテイルブルームらツインテール戦士は疲弊し、心に隙をみせれば後は夢世界に閉じ込めてこちらの物だ。
「ソーリー、ベリアルギルディ。実は――」
現実世界で待つベリアルギルディへと救援の依頼を送ろうとするマモンギルディ。
そんな時だった。
「ティアナァァァーーーッ!!」
外から聞こえてくる叫び声。
聞き覚えのない女声ではあるが、その口調と込められた感情からマモンギルディは叫んでいるのが誰かすぐにピンとくる。
「ワッツ!? まさかあのボーイ!?」
すぐさま窓の外を確認。
屋敷の入り口で今にも中へと突入しようとしているのは青紫の戦士、テイルバイオレット。
絶望させ属性力を奪った筈の和輝が変身した姿だ。
「スタンドアップしたのか!? NTRの脳破壊から!? しかもあの姿……!!」
理解が追いつかないマモンギルディ。
だが現に今、和輝は変身してここにやってきている。
「まさかそんな……!? ボーイもまた、このガールと同じ……!? いや、まてよ……」
驚きの連続に戸惑うマモンギルディであったが、一度冷静になって状況を整理。
あの程度のエレメーラでティアナのように抗うことは不可能、つまりこの夢世界のカラクリに気が付いただけであり、まだこちらに分がある。
そう考えた末に落ち着きを取り戻す。
「この際デス。暇つぶしがてら今度こそパーフェクトにユーのメンタルをブレイクして差し上げまショウ。寝取られ属性のパワー、しかと目にルックするのデース」
変身をしてみせた以上、和輝は夢を夢であると強く意識する事ができるメンタルを取り戻している。
だが、だからといってマモンギルディにこの夢世界で敵う筈がない。
いくら力を得ようと、能力の支配下にある以上はマモンギルディに軍配はあがるのだ。
「ユーも起きなサイ。嘗てラブだったボーイが来ましたヨ」
現実世界に戻っていた時以降ずっと虚ろ目のまま直立不動であったティアナはマモンギルディが指を鳴らす事で意識を取り戻す。
尤も、その心はマモンギルディに都合良く改変されたままだ。
「いいですか? 今度こそあのボーイを絶望させるのデス。ユーとミーのラブラブを見せつけまショウ」
「はい……♡」
マモンギルディはほくそ笑みながら乗り込んできたテイルバイオレットの下へ向かう。
勿論、その側にティアナを侍らせてだ。
◇
「出てこいティアナァァァッ!!!」
ティアナのツインテールの気配を頼りに走り続け、俺は遂に目的地へと辿り着いていた。
目の前にそびえるのは如何にもといった雰囲気の豪華な屋敷。
街の中央に本来あるはずのない建物のこれを今まで認知できなかったのも全て奴の能力があったからだろうとわかる。
「ま、叫んでいても来ちゃくれねぇよな」
ひとしきり叫び終えた俺は突入する覚悟を決める。
もう、悔し涙は流さない。
アイツの
テイルバイオレットに変身できた今ならやれる。
「オラァァッ!! どこだボケェェェ!!」
気合十分。
叫び声をあげながら屋敷の扉を蹴破り突入。
中はマモンギルディの悪趣味が形となったかのような無駄に豪華な造りだ。
キラキラというよりギラギラといった擬音が相応しい屋敷内を無茶苦茶に荒らしながら俺は突き進む。
ここに来るまでのような奴自身を模した雑魚軍団はいない。
待ってろよ!! ティアナ!!
「オ~!! 随分とアングリーですネ。ミーのラブホームが台無しデース」
「ッ!!」
ダンスホールを思わせる広い空間に出た直後、俺の耳にムカつく声が聞こえてくる。
声をした方へと向くとそこには、マモンギルディの野郎がニヤニヤと待っていやがった。
傍らにティアナを侍らせながら……
「ティアナ!!」
ティアナを目をにしたことで俺は近づかんと一直線。
がしかし、
「なんだ!? 壁!?」
マモンギルディが指を鳴らすと見えない壁が俺の行く手を塞ぐ。
ガキンと強烈な金属音と共に俺は弾かれた。
「ハハハ、悪いですがブロックさせていただきマース」
「クソっ……!! こんなバリア……!!」
ウインドセイバーを手にしバリアをかち割らんと突撃。
火花と共に激しい音が響くがしかし、バリアはびくともしない。
そんな俺を見てマモンギルディはニヤニヤ笑う。
「テイルバイオレット、いくらユーが変身できようとこのドリームワールドでミーにはかてませんヨ~」
「るっせぇ!! これは俺が見てる夢だろうが!! なら不可能はねぇ筈だろ!!」
「ホ~、ザッツアメイジング。やはりギミックに気づきましたカ」
感心するかのように頷くマモンギルディ。
どうやらバアルギルディの幻が言った事はあっていたようだ。
俺が夢を見ている立場である以上、夢であると自覚し強く念じればその通りの現象が起きる。奴が最初に自分自身こそが夢世界において絶対であると示したのは俺にそもそも念じても無駄であると思わせるためだったのだろう。
「デスが、ミーの方がランクが上なのデスよ」
瞬間、バリアが強烈なエネルギーを放出する。
衝撃波にも近いその反発するエネルギーを浴びた俺は先程よりも強く弾かれた。
「勘違いはいけまセーン。いくらユーがこのドリームを理解しようと支配者であるミーの方がランクはハイヤー。一つの例外を除き、ミーのスキルに抗うことは出来てもウィナーにはなれやしないのデス」
マモンギルディは傍のティアナを見ながらそう言い放つ。
くじけそうになるが、俺は諦めずウインドセイバーを構える。
「成程、ユーのメンタルは中々にストロングですネ。ならば、ユーはそこでフィンガーでもくわえてルックしてなサーイ」
そう言うや否やマモンギルディはティアナを抱きしめツインテールを撫でる。
正常なティアナであれば嫌がるような行動であるが、今のティアナは拒否などしてくれない。
「もう……マモンギルディ♡ もっと優しくして……♡」
「ハハハ、わがままですネ~」
バリアで手を出せないのをいいことに俺の心をへし折らんと見せつけてきやがって……!!
慣れる筈もない光景に一瞬だけ心がぐらつきそうになるが、グッとこらえた俺はウインドセイバーをバリアへと突き立てる
「ティアナ!!! 正気に戻れ!!!」
「正気に戻れとは失礼ですネ。ほら、ユーも言ってあげなさい。お前なんかよりこのマモンギルディ様の方が好きなんだとね」
マモンギルディが指を鳴らすと、さっきまで俺を一目も見てくれなかったティアナが振り向き口を開く。
「マモンギルディ様の言う通りよ。いい和輝? 私はね、あなたなんかよりもマモンギルディ様の方が大大大だーい好きなんだから」
「何馬鹿な事……!!」
「悪いけどこれが本心よ。私はね、あなたみたいな雑で荒っぽくてデリカシーもないツインテールの扱いも下手な弱いだけの男なんかにもう興味はないの」
そう冷たく言い放つティアナはバリアに苦戦する俺へとボロボロの布切れ……いや、リボンを放り捨てる。
「こんなのに喜んでいた自分がバカみたい。マモンギルディ様のくれたリボンの方が私のツインテールには似合っているんだから♡」
見せつけられるティアナのツインテール。
それを結ぶのはギラついた黒のリボン。
俺の心が揺らいだからか変身が解けてしまう。
「クソっ……!! 変身が!?」
「ハハハ、これがリアル。所詮、純愛などミーの前では無力なのデス。寝取り、寝取られこそ至高。今のユーの顔、ベリーグッドですヨ」
変身解除を見て勝利を確信し笑うマモンギルディ。
俺はそれを聞いて何クソの精神で心を奮い立たせる。
「諦めるか!! NTRなんかに負けてなんか!!」
だが、バリアは破れる術はない。
変身が解けた今、唯一届くのは言葉のみ。
ならば、俺の想いを純粋にぶつけるしか手はない!!
「ティアナ!! お、俺はお前の事が大好きだ!! ツインテールの扱いだってもっと上手くなってやる!! だから戻ってこい!!」
「嫌よ、マモンギルディ様の方がいい」
「くッ……!!」
その後、俺は何度も恥ずかしい台詞を心から叫んでみせた。
しかし、心を奪われたティアナにはどんな言葉を届かない。
この行く手を阻むバリア以上の分厚い壁で覆われているのではと思ってしまう。
マモンギルディがニヤニヤと笑い続ける中、俺は何度も何度も恥ずかしさを押し殺して叫ぶ。
でも、ティアナには届かない。
いつしか、俺の中の何かが切れた。
「あぁそうかよ!! だったら一生そんな奴と一緒になっていやがれ!! お前なんかこっちから願い下げだぜ!! こんなクソ野郎の手に堕ちる程度のお前なんかツインテールの扱い下手なだけの俺以下だっつーの!! このバーカ!! バカティアナ!!!」
何も考えれなくなった結果、俺はティアナに対する怒りを口にしていた。
やっちまったと後悔する冷静さも持てていない。
だけど、ティアナに異変が起きた。
「なんですって……!! 和輝、あなたねぇ……!!」
「るっせぇ!! そもそもお前だけが一方的に不平不満ばっか言って不公平だろうが!!」
「何よ!! だからってねぇ!!」
「このバカティアナ!! ツインテールがなけりゃ胸も魅力も何もないちんちくりんの親の七光りが!!」
「言ったわね!!! あなただって愚図で泣き虫で意地っ張りで……!! 私がいないと何もできなかったくせに!!」
言い争う俺たち。
その熱の入り方は日頃の喧嘩以上だ。
恐らく、俺たちを隔てるこのバリアがなければ俺もティアナも互いに手を出していたのかもしれない。
なおもヒートアップし続ける俺たちは止まることを知らない。
「「このバカ!!」」
◇
マモンギルディのやり方はルール無用の戦いという観点からみれば実に効果的なやり方だったと言える。
絶対に越える事の出来ない壁を作って攻撃を拒み、その中からの徹底的な言葉による口撃。
その果てにもたらされたのが二人の喧嘩である。
罵倒しては罵倒されるの繰り返し。
最初こそこんな時に口喧嘩をするとはなんと滑稽なのだろうと笑って眺めていたマモンギルディ。
であったが、何かがおかしい事に気がついた。
「ささ、そろそろクールダウンしまショウ。これ以上、こんなルーザーなボーイと喋っても無駄デース。ミーとユーのラブラブっぷりを見せてあげまショウ」
和輝の心にとどめを刺さんとするマモンギルディは怒るティアナをなだめようと肩に手をかけそのままツインテールに触れる。
マモンギルディの想定ではこうすればティアナはこちらに振り向き、恍惚とした表情をを向けてくれる。
……筈だった。
「邪魔ッ!!!」
目に映るのは恍惚としたトロ顔ではなく、怒りを込めた鉄拳。
マモンギルディ左の頭に放たれたそれは見事クリーンヒット。
変身してないティアナの拳など夢の中と言えど効果はないに等しいが、そのショックは大きくマモンギルディは後ずさる。
「ホワッツ!? な、なにが起きて!?」
マモンギルディの理解が追い付かない。
今のティアナは自身の能力で設定を改変されてマモンギルディの事だけを愛するようになってしまっている筈なのだ。
だからこのような反応は絶対にありえない。
もし、事故でこうなったとしてもすぐに駆け寄ってごめんなさいと謝ってくれる。
筈なのだが……
「人がプレゼントしたものくらいちゃんと使えっつーの!! せめてちゃんと返却しろ!!」
「どう扱おうが貰った私の勝手でしょ!! あげた癖にそんな事言わないでよ!!」
当の本人は未だこの調子である。
なおも和輝との口喧嘩をやめやしない。
というかマモンギルディを殴った事すら気づいていない。
「ゆ、ユー? ミーはその……」
「和輝こそ!! そんな物よりツインテールの扱いをもっと丁寧にしなさいよ!! 私だってすっごく痛かったんだから!!」
「ワッツ!?」
近寄るマモンギルディに対して、今度は目もくれずティアナは裏拳で迎撃。
マモンギルディよろめき、遂には脱力して床に座り込んでしまう。
「な、何が起きているんですカ……!?」
「なぁに、これがガキ共のスキンシップってやつだろぉ?」
そんな時に聞こえてくる一層ガラの悪い声。
マモンギルディがまさかと思った瞬間、大量の刃が飛来する。
「ッ!?」
「やれ、セイバー!!」
大量の刃、それはアナザーテイルレッドの武装の一つであるブレイザーセイバーだ。
マモンギルディは素早く起き上がると紙一重でそれらを回避する。
直後、赤い大剣を振るうツインテールの戦士が現れる。
「アナザーテイルレッド!?」
「ご明察!!」
振り下ろされるブレイザーブレイドを何とか防御に成功するマモンギルディ。
クロスして受け止めた腕と赤い刃が火花を散らす。
「ど、どうしてこのドリームワールドに!? ミーの許可がなければ入ることが……!?」
「確かにそのようだなぁ!! だからちょいと小細工させてもらったぜぇ!!」
アナザーテイルレッドの語る小細工とは何か?
それは現実世界における数分前に遡る。
「それでトゥアール先生? どうやって夢の中に入るんですか? このDTマシンを使って?」
和輝眠る専用ルームにティアナを運んできていた悠香たちとアナザーテイルレッド。
中で青葉や正樹と共に装置の準備を進めていたトゥアールにそう質問を飛ばす悠香へとトゥアールは答えていた。
「分析の結果、マモンギルディは恐らく、他者の夢に入り込んでいるのではなく、自分自身が見ている夢の中に取り込みたい相手の夢を同調させ取り込んでいると思われます。ですから今のようにただ機械を使って総愛たちの夢の中に入ろうとしても門前払いを食らうか、もしくは先程の総愛と同じように操られてしまうでしょう」
「じゃあどうするんすか!!」
匠が声をそう声を上げる。
そこでトゥアールは今回の作戦を提示した。
「ですのでより深いところから介入を試みます。総愛と和輝君、二人のテイルブレスからそれぞれの属性力を辿る形で華先生とレイジの意識をより深くリンクさせます」
それは嘗てテイルイエローが暴走した際に行った事の応用であった。
夢と精神世界は科学的に見れば非常に近い。
それならばと、当時のやり方であるテイルブラックのカオシックインフィニットの代用としてDTマシンとテイルブレスを直接繋げるという方法を提示したのだ。
「あくまで代用ですので夢の中に到達できる可能性はそう高くありません」
「だが、それが一番確率が高いんだろ?」
ならば問題ないとばかりにアナザーテイルレッド、テイルブルームの両名はそれぞれのテイルブレスと繋がれたDTマシン搭載ベッドへ横になる。
危険性を下げ、確実性を少しでも上げるが為に一つのブレスにリンクできるのは一人までなのだ。
「ご武運を」
装置は起動した。
そして、介入は無事成功し今に至る。
「バ、バカな……!! ミーのパラダイスにそんな方法で……!!」
「夢の中を
戦いの最中、アナザーテイルレッドが合図を出す。
それはもう一人の介入者への攻撃タイミングと攻撃場所の指示だ。
マモンギルディはその存在について完全に忘れていた。
「ブルームツインシュート!!!」
「ホワァッ!?」
どこからともなく放たれた矢がマモンギルディの右側の頭部を射抜く。
射抜いたのはアナザーテイルレッドと同じように夢世界へとやってきたテイルブルームだ。
部屋の陰から現れたテイルブルームがアナザーテイルレッドと並び、射抜かれたマモンギルディに異変が起きる。
「ぐわぁぁッ!! オレちゃんの眠りがぁぁッ!!」
声の発したのはマモンギルディではあるが、それはいつものマモンギルディではない。
マモンギルディが普段から喋っているのは二つある頭のうち決まって左側なのに対して、今喋ったのは右側の頭部。
片言の英語交じりではないチャラさ溢れるNTR物の不良系チャラ男のような声を響かせた。
「常に片側の頭を眠らせて夢世界を強く維持していたって訳かい」
「だから片方の頭しか喋ってなかったのね」
アナザーテイルレッドの言う通り、マモンギルディが夢世界の支配権を強くいられたのは常に片側の頭を眠らせる事で能力を質を高めていた事に起因する。
片方の頭が夢を夢と強く認識しつつ、もう片方の頭がそう認識せずに熟睡を続け、より強い夢の世界を構築し支配する能力のカラクリ。
もう一つの頭部が眠りから覚めた今、その支配権は他者と同等までに落ちる。
つまり……
「このバカ和k……あれ? 和輝?」
「おわっ!? バリアが!?」
ティアナにかけていた設定改変はなくなり、和輝を阻んでいたバリアの消失につながった。
◇
ティアナとの口喧嘩に熱くなる俺はいつしか完全に今の状況を忘れていた。
いつものある種のじゃれ合いとはまるで違う本気のぶつかり合い。
隔てるバリアをドンドンと叩きながら叫ぶ俺がより力強く叩こうとした時、そのバリアは元々存在してなかったかのようにスッと消失し、結果的に俺は勢い余ってつんのめる。
「だぁっーー!?」
「きゃあっ!?」
そのまますっ転んだ俺は向こう側にいたティアナと衝突。
抱き合う……というにはあまりにも滑稽な姿だが、おかげで冷静さを取り戻す。
「ティアナ……? お前、正気に戻ったのか?」
「へ? な、なに? 何の事!?」
困惑しているティアナからは俺に対する敵意はまるで感じない。
これが即ち、マモンギルディの能力が解除されたのだとわかるのに一秒もかからない。
色々感極まった俺は無意識のままティアナに抱き着いた。
「バカヤローー!! 俺を捨てるとか嫌いだとか冗談でも言うんじゃねぇ!!」
「ちょっとちょっと……!! 何言ってるの……!? ていうかここ何処!?」
うれし涙を流す俺に対して、照れながらもまんざらではないティアナ。
「どうやら戻ったみたいね」
「随分とアツアツなガキ共なこったで」
そんな俺たちを見てテイルブルームは優しく微笑み、アナザーテイルレッドが茶化すように鼻先で笑う。
一方のマモンギルディはというと……
「ノットインタレスティング!! こんなの認めまセン!!!」
「マジそれな!! チョ~しょうもね~!!」
二つの頭がそれぞれの言葉で俺たち二人の抱擁を馬鹿にし否定する。
それを見て、俺とティアナ、二人の怒りが再度燃え上がる。
「ティアナ!! いけるか!?」
「当たり前よ!! 絶対に許さないんだから!!」
ここに至るまでの味わった全てを思い出したティアナはマモンギルディに与えられていた黒のリボンを解き、床に捨てられていたボロボロのリボンでツインテールを結びなおす。
そして俺たちは目の前にいる悪魔を滅ぼさんと立ち上がる。
ここから先は俺たちに任せてくれとテイルブルーム及び、またも助けに現れたのであろうアナザーテイルレッドに視線を送って下がってもらうと、そのまま互いに意識を高めてテイルブレスとテイルドライバーをはっきりと具現化させて構える。
俺たちの心は完全に一つとなった。
「「デュアルテイルオン!!」」
爆裂する紫の光。
俺とティアナ、二人の身体と魂が融合し一つのツインテールとなる。
究極とは違う二人だけの形、エクストリーム。
そしてそれは、俺と私の意識が完全調和する事で完全開放する。
「「エクストリーム!! チェインバースト!!!」」
全身を覆うエクストリームチェインの分厚い強化装甲がパージされ、その下に隠された真の姿、エクストリームチェインバースト。
二対の想いと二対の魂が完全調和し融合した極限進化状態。
どんな敵にも負けぬ最強のテイルバイオレットがこの夢世界で再び顕現した。
「その姿は……!!」
「オレに勝った奴か……!!」
驚愕する味方陣営の二人と、
「なめんなよ~!! なぁマモちゃ~ん!!」
「イエース!! このドリームワールドのルーラーでありドミネーターはミーたちマモンギルディデース!! こうなれば二人まとめて寝取るまでデース!!」
下品な笑みを浮かべる二頭の悪魔。
俺と私は何一つの言葉を交えることなく倒す事を決め距離を詰める。
「ホワッツ!?」
「はやッ!?」
「「ハァ!!」」
繰り出される拳は光り輝く粒子ツインテリウムを舞い上がらせマモンギルディにクリーンヒット。
猛烈な勢いのまま吹き飛ばす。
「グァァッ!?」
「ぐぇぇッ!?」
その後も追撃は止まらない。
光速にも迫る強烈な連撃は反撃も懺悔の瞬間すらも与えない。
「悪夢だ!! 助けてくれ~!!」
「そうデス!! これはナイトメア……!! ナイトメアです……!!」
錯乱するマモンギルディは逃げることもできず右往左往としている。
俺と私はそんな奴に慈悲を与える事無く必殺の構えをとる。
「「もう悪夢は終わりだ!! 目覚めの時よ!!」」
腰を落とし、その反動もこみで天井すれすれまで跳躍した俺と私は空中にて脚部の装甲を
そのまま背部の装甲より放出されるツインテリウムを推進剤として加速。
紫銀の流星となりマモンギルディを貫く!!
「「これが!! 俺と!! 私の!! 二人の想いだぁぁぁッ!!!!」」
放たれた最強の蹴撃、エクストームストライク。
貫かれたマモンギルディは二頭共に断末魔を上げる暇もなく大爆散。
周囲は光に包まれ、元の現実へと戻っていく。
悪夢は終わり、目覚めの時がやってきた――
◇
気がついた時、俺はベッドの上で横になっていた。
体を起こすと隣のベッドでもティアナが同様の行動をとっていた。
俺たちは現実世界に帰ってきたのか……!!
「おはよ、和輝」
「ああ、そうだな」
笑い合う俺たち。
そんな俺たちを見てベッドの周囲を囲む皆が微笑む。
「いや~一時はどうなるかと思っちゃった!!」
「無事で何より……」
「ほんとそれっすよ!! 二人とも心配させやがって!!」
「二人ともお疲れさん」
皆に帰還を喜ばれるのは少し恥ずかしくなる。
でも、こうやって心配してくれる仲間ってのはやっぱしいい物だな。
「総愛……!! 本当に目を覚ましてくれて……!!」
目に薄っすら涙を浮かべながらティアナを優しく抱きしめるのはトゥアールさんだ。
やはりというか、母親代わりのトゥアールさんは他のみんな以上にティアナの事が心配でたまらなかったんだなって感じる。
ティアナもそんなトゥアールさんの想いを感じ取ったのか、邪険に扱う事無くありがとうを口にしている。
「無事、目が覚めたみたいね」
「華先生……!!」
俺たちが眠っていたベッドの向かい側、いくつかの装置を挟んだ先から華先生がやってきた。
テイルブレスに繋がれたコードや向こう側のベッドに取り付けられた装置を見るに、これらをつかって夢の中に介入してきていたのだろう。
「ん? じゃあそれなら……!?」
華先生がいるという事はつまり……
そこまで考えが及んだ時、今俺たちがいる部屋の自動ドアが開かれる音がする。
その方へと首を向けると、今まさに出ていこうとするレイジの姿があった。
「お前……!!」
「よお坊主、悪いが、オレは仲良しごっこまで付き合うつもりはねぇんでな」
そう言い残し去っていくレイジ。
「総愛を……ありがとうございました……」
ティアナ以外、皆が何とも言えない表情を見せる中、トゥアールさんはただ一人そう口にしていた。
その一言に含まれる感情は複雑すぎて俺にはわからない。
でも、何となくだけど、レイジにも心の奥にくすぶる何かがあるような気がする。
いや、流石に考えすぎか?
「ま、兎に角今は、二人の帰還を祝おうじゃないか」
「そうですね。総愛も和輝君も目が覚めたことですし、少し早いですがパーっとクリスマスパーティーでもしちゃいましょう!!」
おやっさんとトゥアールさんの年長組がそう声を上げたことで、場の雰囲気が明るくなる。
そういえばもうすぐクリスマスか。
ありがたいことに夢世界と現実世界は時間の流れる速度が違ったおかげで眠り始めてから一週間も経っていない。
ずっと寝ていたからか、腹がすいてきたぜ。
「よーし、今からご馳走いっぱい用意してやるからなー!!」
「さっすがマスター!! 青ちゃん、あたしたちも何か持っていきましょ!!」
「華先生用のお酒も……」
「え!? 飲んでいいんですか!?」
「酔いつぶれないでくださいっすよ……」
皆が楽し気にパーティーの準備へと向かい、俺はティアナと共に肩を貸し合いながらみんなの後を追う。
「ねぇ和輝? 夢の中じゃその……」
「わーってる、気にしてねぇ。てか俺だってお前にもっと認められるくらいになってやるさ」
「う、うん……わかった。楽しみにしておく」
「それはそうと、クリスマスのデート、忘れんなよ」
そう言ってやるとティアナは安心したかのように笑い、ツインテールが嬉しそうに揺れる。
やっぱり、現実で見るティアナのツインテールが一番だ。
「皆さーん!! 総愛と和輝君の夢の中でのラブラブ生活の映像、復元できましたよー!! パーティーのついでに流しますねー!!」
「「ちょっと待てーーーー!!!」」
廊下に響くトゥアールさんの声を聴き、俺たちは走るのであった。
◇
12月24日。クリスマス・イヴ。
俺とティアナは約束通り、二人きりでこの聖夜を過ごすべく街に出ている。
丁寧にラッピングされたプレゼントの包みを手にティアナは実に嬉しげだ。
「全く、ほんとにそれでいいのか? クリスマスプレゼント」
「もう、あの時も言ったでしょ。私はこれがいいんだって」
中身は……言わなくてもわかるだろう。
ティアナが所望したのは夢世界の時同様のリボンだ。
色は俺をイメージした青紫……だけでなく、ティアナ自身をイメージした赤紫も含んだツートンカラー。
「ねぇ、そろそろご飯食べない? お腹空いたのよね~」
「それもそうだな……。クリスマスだしやっぱチキンか」
「え、クリスマスは鮭でしょ……」
ティアナ曰く、向こうの世界にいた時はクリスマスはキチンではなく決まって鮭だったらしい。
なんでも、大人の慧理那さんが「クリスマスは鮭ですわ!!」とか何とか言って最高級鮭のフルコースをクリスマスパーティーで振る舞っていたとのことだ。
「ま、腹に入るなら何でもいいさ」
そう言って俺たちは街を歩く。
いつしか雪が降り始める。
俺たちはそっと互いの手を握るのであった。
マモンギルディ編これにて完結です。
バトル自体はやけにあっさりかもしれませんが、こういう敵は圧倒して瞬殺の方がスカッとするかなと思ったからです。
個人的にはマモンギルディの右の頭云々はもっと伏線張っておくべきだったなと少し後悔してます。(一応、初登場時に左の頭しか喋ってないと描写してましたけど、どう考えても足りてない……)
ラストの鮭ネタはただのお遊びです。
多分、会長ならやってくれる筈。