俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
クリスマスデートももうすぐ終わる。
時計の針が10時を回ったクリスマス・イヴの夜、ティアナとのデートに出かけていた俺はティアナにつれられる形で繁華街の中でも比較的人気の少ない場所にやってきた。
そこに建っている建物を見て俺もティアナも互いに赤面する。
「なぁ? 本当にいいのか? その……さぁ……」
「うん……いいの……」
キラキラとした派手目な看板に照明、華やかな外装で彩られたそれは一見するとただの宿泊施設。
だけど、ここは普通の一般客はあまり利用はしないだろう。
場所が場所というのもあると思うが、やはりそれ以上にこの宿泊施設もといホテルの用途が別にあるからに他ならない。
看板に書かれた宿泊料金とは別の休憩料金の表示。
そう、ここは所謂ラブホテルって奴だ。
(いや、やっぱダメだ!! 流石にやべぇって!! 羽目外しすぎだろ!!)
ラブホテルの門をくぐろうとしたタイミングで理性が待ったをかけてくる。
確かにこういった場所でティアナとあんな事やこんな事をするのはある種の夢でもあった。思春期の男なら抱いて当然の夢だ。
がしかし、いくらなんでもこんな事をしていいのかと思っちまう。
いやま、時期はクリスマスで……寝取られ属性のマモンギルディに勝った後だしと、色々とタイミング的には完璧かもしれねぇけどよ……
「なぁ? やっぱ家帰んねぇか? 夜も遅いしさ……」
もし、こんな所を誰かに見られたらそれこそ面倒この上ない。
プレゼントも渡して美味い鮭もたらふく食って沢山遊んだんだし、楽しい思い出は楽しいままで終わらせるのが最良の選択だろう。
そう思い、ティアナに提案する。
しかし、ティアナはというと……
「和輝は嫌?」
そう少し悲し気な表情で訴えてきた。
寒さも相まって震える彼女とそのツインテールが途轍もなく儚さを演出していやがる。
そう言われちゃ俺も断ることなんて出来ない。
「いや、そんな事ありません。はい」
思わず敬語が出てしまう程にテンパった俺はいつも以上にぎこちない。
「それに、おばあちゃんもほら」
トゥアルフォンの画面を見せつけるティアナ。
そこに表示されたメールには『家の中で昔の友達とクリスマスパーティー、みんな帰る12時まで帰ってくるんじゃないよ』と婆ちゃんからのメッセージがあった。
「婆ちゃんもか……って、ん?」
それを見たことで察してしまった。
これは全部、婆ちゃんが仕組んだことだったって訳か。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるかっつーの。あんのクソババア……!! 余計な世話しやがって……!!」
俺とティアナをくっつかせるためにこんな事までやりやがるとは……!!
どおりでおかしいと思ったわ!!
性欲の全てがツインテール愛に変換されているようなティアナがラブホテルなんかに行きたいとか言う訳ねぇもんな!!
どうせ婆ちゃんかトゥアールさんのどっちかがいらん入れ知恵でもしたんだろうと思っていたぜ!!
何が『和輝へ 優しくしてやんな』だボケ!!
「クッソ……!! いくら婆ちゃんでもやっていい事と悪い事があるぜ!! 帰るぞティアナ!! あんな老いぼれの戯言なんて聞いてんじゃねぇ!!」
いい雰囲気が台無しにされた気がしてか、いつになく婆ちゃんに対する気持ちが爆発する。
こんな状況じゃムードも何もあったものじゃねぇの判断だ。
俺は踵を返すかのようにラブホテルから真反対の方角へと向かおうとする。
しかし、そんな俺に対してティアナが待ってと声をかけた。
「ごめん和輝。実はね、おばあちゃんにここを教えて貰ったり一芝居打ってと頼んだのも全部私のせいなの」
「は? お前が?」
「うん……」
赤面しながらティアナそう頷いた。
俺からすれば一体何の心変わりだよと言いたくなるが、その目は真剣だ。
入れ知恵された結果ではなく、本心から言っているのだとわかる。
「わ、わかった……」
ここで逃げたらヘタレとか以前に男として最低。そんな気がする。
今までずっと決めれなかった覚悟を決めた俺はティアナよりも前を歩き、ラブホテルの門をくぐる。
無人のフロントで部屋や利用時間を選択。
初めての事に少しテンパりながらも無事チェックインを終え、希望の部屋へ。
部屋の中はとても綺麗で整っており、初めての感覚にドキドキが止まらない。
ティアナも同じことを考えているのか終始緊張で無言。
荷物を置いた後、俺たちは共にベッドへ腰かける。
「なぁ? 一ついいか?」
「なに?」
「いや、その……お前ってさ……こういった事に今まで興味なかったよな?」
「うん。興味もなければ、知ろうともしてなかった」
そう堂々と語るティアナ。
曰く、今までそういった事は子供の自分に関係ない。そんな事よりももっと自分が大好きだと思う事に力を注ぎたい、愛を注ぎたい。だからそういった事に関しては学校の授業で教わるふんわりとした物でしかなく、それ以上の踏み込んだ内容までは知ろうとしなかった。
異性どころか同性とすら出自も相まって真に仲良くなるものが現れぬある種の孤独の中でツインテールを愛で続けていたティアナ。
それは幼いころからあまりにも強力すぎるツインテール属性に囲まれていたのも要因なのかもしれない。
性に対する知識が圧倒的に……というより不自然なほどに鈍かったのはこれに起因する……のかもしれない。
「今思うと、そんな私の事を思ってお母さんが尊重しすぎたのかもしれないわね」
トゥアールさんがその手の事に目を向けさせようと不健全な行動を起こし、ティアナの実母である愛香さんが教育に悪いとばかりにそれを防ぐというのは容易に想像できる光景だ。
でも、見方を変えれば、トゥアールさんの行動(やり方は兎も角)はある種の健全な精神を構築する物であったのかもしれない。
尤も、愛香さんもそれこそ総二さんも、それを薄々勘づきつつも内容が内容すぎて手を出しづらかったのも考慮すべき点だろう。
それに、ティアナが生まれた場合の世界はレイジという正史には存在しないイレギュラーが介入した結果だって事も忘れちゃならねぇ。アイツの前語った目的からして、ティアナのツインテール属性を高める為に余計な物を全て排除するように根回ししたりしていただろうからな。
「でもさ、だからってどうしてこうも急に変わったんだ? 言っちゃなんだが、俺と付き合ってもう半年経つけどよ、お前にそう言った気はなかった訳じゃん」
紆余曲折を経たと言え、今では一緒の家に住み、一緒の部屋の一緒のベッドで共に寝ているだなんて下手なラブコメ主人公よりもおかしな生活を送っている。
だというのに、ティアナは今日にいたるまでまるでその気がなかった。
一瞬でも道を踏み外せば不健全街道まっしぐらだってのに、今日までずっと健全そのものという、最早育ちがいいでは説明つかない歪な環境。
そんなティアナの心境の変化は気になる所だ。
「やっぱり、マモンギルディとの戦いかな……」
「よりにもよってあの野郎かよ」
先日のマモンギルディの一件は俺にとって……いや、俺たちにとって忘れる事が出来ない程辛く苦しい体験だった。
もう二度と聞きたくもない名前だったのにまた聞くことになるとな。
「私さ、マモンギルディの能力で操られていたじゃない」
「ああ、そうだな」
正直、マジで思い出したくない。
操られているのがわかっていても、キツイのはキツイんだ。
「あの時の私ね、自分でもよくわからないけど、何となく普通の感性に近くなっていたきがするの」
「普通?」
「ほら、普通の女の子みたいにツインテールにばかり目を向けていないような……」
「そ、そうか?」
「へ、違うの?」
夢の中の事だったって事もあるし、どうやら記憶が混濁しているのだろうな。
俺から見ればどこが普通だよとツッコまざる得ない。
そもそも、寝取られたきっかけってツインテールやそもそもの髪の扱いからだったよな!?
「まぁ、それは置いておくとしてね」
「いや、置くな置くな」
「私ね、マモンギルディに操られていた時に色んな事がわかったの」
俺のツッコミを無視してティアナは話を進める。
「普通の女の子が恋をした果てに男の子と何をするのか。人が人を恋し愛する事の先、今まで知ろうともしなかった様々な事の全てが何となくわかった。わかってしまった」
「ティアナ、お前……」
「正直、恥ずかしいし、多少の嫌悪感はある。でも、それ以上に知ってしまった以上は体験してみたいっていう好奇心もあるし、何よりそれで和輝とより深く繋がれるなら嬉しいし」
本人なりに真剣に考えてはそう言葉に表していく。
男の俺や匠のような憧れや好奇心からくる性欲とは少し違う。
ま、それはそうと要するに、マモンギルディの野郎に色々不健全な事を沢山覚えさせられたって事だよな!?
やっぱ、アイツ許さねぇ……!!
「どうしたの和輝? 怒ってる?」
「いや、こっちの話だ。気にすんなよ」
そう言いながらもマモンギルディの野郎が残した爪痕に俺は怒りを抑えきれない。
俺の愛するティアナが汚された気がしてならねぇんだ。
「兎に角、私ね、マモンギルディの一件から色々わかったの。私、やっぱりこれからも和輝とは離れたくない。ずっとずっと一緒にいたい。これからもずっと、一緒にツインテールを結んでほしい」
そう言うや否やティアナは俺に抱き着いてくる。
ベッドの上で共に転がる俺たち二人。
ラブホって事もあってかベッドのシーツは気持ちよくいい匂いがする。
互いに上着も脱がず服を着たままだってのに温もりが伝わってくる。
「ねぇ和輝? 私、今すっごくドキドキしてる……」
「お、俺も……」
全身という全身が熱くなる。
ザ・童貞といった反応しかできない俺が情けない。
「これからも一緒にいてくれる? 和輝がいないと……私……」
「俺もだ……お前がいないと……」
ティアナは俺がいないとダメで、俺もティアナがいないとダメ。
互いが互いを求めている。
マモンギルディとの戦いを経て、よりそれを実感できた。
しかし……
『二人仲良く相思相愛は結構だけど、ただ片方に依存しているだけの関係なんていい関係とは言えないよ』
少し前に婆ちゃんに言われた言葉がひっかかる。
これは果たして本当にいい関係なのか? 婆ちゃんの言う通りの関係なのか?
わからなくなる。
「どうしたの? また何かひっかかる?」
「いや、その……」
歯切れ悪く思っていた事を口にできない。
こんな態度を見せればティアナだって嫌な筈……
しかし、ティアナもティアナで強い言葉を使わない。
「ごめん、変な事聞いちゃったよね」
なんだかいつものティアナらしくない気がする。
どこか俺に対する壁がある気がする。
「ま、まぁとりあえず、こんな場所に来ちまった訳だしよ……」
「そ、そうね……!! うん!!」
今は二人の関係がどうとかそういうような時じゃねぇ。
ティアナ側から俺を求めてくれている今の状況はまさに千載一遇の大チャンスだ。
ここで俺は晴れて童貞を卒業し、ティアナとより深く繋がれる。トゥアールさんとの約束もとい、トゥアールさんの悲願も達成させることが出来るし一石二鳥だ。
俺はそう自分自身を納得させると意を決してティアナの上着とその下にある服や下着を脱がさせんと手を伸ばす。
その時だった――
「しゃしぇましぇんよ!!! そのひょうなことは
突如として聞こえてくるのは聞き覚えしかない呂律の回っていない声。
部屋の外、廊下が騒がしくなり、大きすぎる音と共に部屋のロックが破られ外より泥酔したツインテールが現れる。
「「華先生!?」」
「
ドアを蹴破りポーズを決めて参上したのは酒瓶片手に酔っぱらった華先生だった。
顔を真っ赤にしては呂律も回っておらず、何が何のかさっぱりわからない。
ど、どうしてここに!?
「ちょ、ちょっと!! 華先生!?」
「どうしたんだよオイ!!」
「どうひたもこうひたも、
呂律の回っていない舌でそう答える華先生。
何故バレたのかは不明だが、どうやら華先生は俺たちがアレな事をしないように注意しつつ、ここから連れ戻しに来たらしい。
正論っちゃ正論ではあるのだが、様子が意味不明だ。
俺もティアナもあっけにとられる中、さらなる乱入者の声が響く。
「なにやってんですか!!! 折角、いい雰囲気になっていたんですよ!!!」
今度はドアではなく部屋の窓がぶち破られた。
参上したのはやっぱりトゥアールさんだ。
いつもの白衣翻し、酔っぱらった華先生へと向かっていく。
「今度はママ!?」
「今です和輝君!! この飲んだくれは私が抑えてますので!! 早く総愛の処女を……!!」
驚くティアナよりもトゥアールさんは俺に早くヤレと急かす。
相対する二人の教師は互いに一歩も引かない。
「どきなひゃい!! しょのようなことはまだはやいでしゅ!!!」
「いいえどきません!! これから行われるのは二人の未来であり、明日なんです!! 一生を酒片手に独り身で過ごすあなたの邪魔はさせません!!」
突如現れたトゥアールさんは格好良さげのように見えて全然かっこよくない事を口にしている。
てか、そもそも華先生に酒教えたのあんただよな?
なんだかどんどんカオスな展開になっているぞオイ……
「おひひょうしゃまかくご!!!」
「やらせはしません!!!」
二人の気迫がぶつかり合う。
直後、華先生は獣のように飛び掛かる。
それをトゥアールさんは華麗な身のこなしで捌いては抑え込む。
暴れる獣を何度も見てきたかのような慣れた動きだ。
だが、華先生も負けていない。
歴戦の達人であるそのスキルをフルで使い酔っぱらい特有の動きで拘束を解除、あれは恐らく映画とかでもよく見る酔拳だ。
「お、お客様~!! 乱闘はベッドの上で優しく激しく~!!」
騒ぎに気付いた従業員らしき男がそう悲鳴を上げる。
もう収拾つかねぇなこれ。
これも全部、俺がずっとヘタレだったのが原因なのかと錯覚してしまう。
「ね、ねぇ和輝?」
「う、うん?」
「帰ろっか」
「そうだな」
もうこうなっては雰囲気もクソもない。
この状況でヤれる奴は鋼メンタルなんてもんじゃねぇよ。
俺たちは暴れる二人の教師をそれぞれ(華先生はより強い酒を飲ませ、トゥアールさんはティアナが力づくで)黙らせ、謝罪した後にラブホを後にする。
当たり前だが、後日、トゥアールさんと華先生にはしっかりとした謝罪と修繕に向かわせた。
ちなみに、どうして俺たちの動向を華先生が知ったのかというと、酔っぱらった状態で基地内を彷徨っていた時に偶然トゥアールさんが俺たちの様子を監視しているところを見てしまったかららしい……
全く、傍迷惑な大人たちだぜ。
◇
マモンギルディの敗北。
それはベリアルギルディにとっても思いもよらぬ出来事であった。
動揺と共に焦りが生まれ、それを胡麻化すように怒りを募らせる。
「マモンギルディまでやられたのか……!! 全く、使えない奴らだ……!! このオレ様をどこまで失望させるつもりなんだ……!!」
ベリアルギルディにとって馬が合っていたエレメリアンであったが、やられてしまった以上、彼に悲しむという感情はない。
あくまで彼が抱いているのは4人目の刺客までもやられてしまったという焦り。
今の今まで重宝し続けていた
怠惰、色欲、暴食の三つの性癖の持ち主だ。
「残るは奴らか……」
怠惰を司るベルフェゴギルディ、色欲を司るアスモデウスギルディ。
そして、暴食の性癖を持つ謎のエレメリアン。
残っているのはどれもより一層癖の強い連中ばかりであるらしく、中でも残された暴食を司る存在はベリアルギルディとしても余り出撃させたくないのかできる限り温存しておきたい様子だ。
「仕方ない、もう四の五の言う時ではなかろう」
これ以上、時間をかけたくないベリアルギルディ。
勿論、ただ単に彼がせっかちな性分があるのは否定できないが、それ以上にテイルバイオレットを含めた向こう側の戦力強化を恐れていた。
時間をかければかけるほど、相手側に余計なパワーアップを招き計画に支障をきたしてしまう。
実際、テイルバイオレットはエクストリームチェインを既存のブレイブ及びエモーショナルと組み合わせ始め、テイルブルームも飲酒によるさらなる強化を開花させた。個人的な恨みは一先ず置いておくとして、何故いるのか含めてわからぬテイルホワイトもバックについている。揺さぶりこそかけたがアナザーテイルレッドがどう動くは未だ予測不能。
ベリアルギルディにとっても焦り始める時期はとっくに過ぎている。
「聞こえているか? アスモデウスギルディ?」
『何だね? 吾輩は今向かっている所であるぞ』
愛用しているパソコンを使いアスモデウスギルディに連絡を取る。
聞こえてきたのは少し気難しそうな初老の男性ボイス。
芸術家を気取る色欲のアスモデウスギルディだ。
「計画変更だ。ベルフェゴギルディも連れていけ」
『何だと!? どういう意味だ!!』
突然の命令に困惑と同時に不満を表すアスモデウスギルディ。
今の今まで仲間割れや足の引っ張り合い、そしてそれぞれのプライドを理由に一人ずつの出撃を徹底させていた。
しかし、残り三人とまで追い詰められた以上はそのようなプライドなど邪魔でしかないとの判断だ。
「なに、ベルフェゴギルディは態度こそ癪に障るが、能力は貴様の芸術とやらと相性がいい」
『それはそうであるが……』
「余計なプライドなど捨てろ。そのプライドのせいでオレ様がどれだけ被害を被ったと思っているのだ」
その余計なプライドを拗らせているのは他の誰でもないベリアルギルディなのは言ってはいけない。
当初の目的における通過点であるはずのこの世界でのティアナ奪取もベリアルギルディ個人のこうなった以上引くに引けないというプライドが原因であるし、自らが例外を除いて出撃しないのも、ボスは部下や手下の成果を待つものだという拘りからである。
『であるがしかし、奴の性格上、そう簡単に言う事を聞くであろうか? 吾輩は兎も角、奴は怠惰そのものだぞ』
「そこはお前が何とかする部分だろ?」
『いやだが、もしそうなってもそちらに着くのがかなり遅れてしまう可能性があるのだが……』
ベルフェゴギルディは怠惰の性癖を司るエレメリアンらしく誰よりも面倒臭がりであり、一度出撃させるのにかなり時間を有してしまう。
時間が惜しいのであればベルフェゴギルディを連れての同時出撃は悪手とも言える。
だが、ベリアルギルディにはそんな意見など聞く気はない。
「とにかくつべこべ言うな。オレ様がやれと言ったらやれ」
実に横暴。
今更であるがベリアルギルディに人望がないのがよくわかる。
「貴様が拒むのであればその時はわかっているだろう?」
『わ、わかった……』
パワハラを行うブラック上司かの如く強引に認めさせた後、ブツ切りに近い形で通話を終了させる。
そして、ベリアルギルディはパソコンの画面を切り替える。
「これがあれば……ツインテールなど……!!」
映された『アンチテイルギア・TYPE-ZERO』の完成図。
ベリアルギルディの復讐、それが果たされるのは果たしていつになるのか……
◇
日付を跨ぎ、今宵は12月25日、クリスマス。
キリスト降誕を祝うこの日は宗教とは馴染みが殆どない日本においては12月の特大イベントのように扱われるのが常だ。
シャンパンやシャンメリーを飲み、チキンやサーモンを食べ、子供たちはサンタクロースからのプレゼントにワクワクしながら朝が来るのを待つ。
大人たち、恋人がいる者たちは一年に一度のこの聖夜を謳歌し、いない者たちがそんな彼らに対して爆発しろと呪詛を吐くのもある種のお約束だろう。
和輝たちがとあるホテルでちょっとした騒ぎを起こしてから少し経った。
日付を跨ぎ、深夜0時を超えてなお眩しい煌めく街の中。
未だ減りきらぬ人の波を一人の男が流れに逆らい歩き続ける。
男の名はレイジ。アナザーテイルレッドその人だ。
「結局……オレは何がしたい……?」
レイジの中で残り続けるのは先日ベリアルギルディに投げかけられた言葉と自分自身のスタンスについての事である。
レイジという男の内面はこの世界に来た当初と比べると明らかに変化している。
もともと、自分自身の欲求に従う形で他者の属性力を奪ったり破壊の限りを尽くすような男であったはずだというのに、テイルバイオレットへの敗北ととある少女との触れ合いがかつての歪みながらも存在していた正義の心がまた芽生えようとしている。
「チッ、思い出すだけで虫唾が走る」
らしくなくなっていく自分とそれに楽しんでいる自分に腹が立つ。
レイジは先日のマモンギルディの一件を思い出した。
「あの子たちを助ける為、あなたの力が必要なんです」
恨みを買っている筈のトゥアールに呼び出されたあの日の夜。
和輝とティアナ、マモンギルディの罠にかかり夢の中へ幽閉されてしまった彼らを助けるべく力を貸してくれと頼まれていたレイジ。
あの日、レイジは悩みの果てにとある条件を叩きつけた。
「一つ、条件がある。オレと戦え」
その条件、それはレイジもといアナザーテイルレッドと戦って勝つ事であった。
一刻も早く助けにむかいたいトゥアールにとってその条件はあまり好ましい物ではなかった。
であるがしかし、ここでまごついていても余計に時間の無駄である。
トゥアールは現在テイルホワイトへは変身できない為代わりに華がテイルブルームとして戦っていいのならで了承を求め、レイジは許可を出した。
「誰でもいい。とにかく戦えよ。むしゃくしゃして仕方ねぇんだよぉ!!」
かくして始まったテイルブルームVSアナザーテイルレッド。
夜のビル街を舞台に展開される二人の決闘に時間はかからなかった。
「できる限り、早めの決着を!!」
「わかりました!!」
戦闘開始してすぐテイルブルームは強化変身を行った。
酒により開花したテイルブルームの強化形態テイルフルブルーム。
その強さはアナザーテイルレッドを圧倒する程であった。
飛び交う刃を舞い踊るかのように回避してはグランアローを叩きつける。
「くッ……!!」
どうしてこんな条件を付けてしまったのか。
圧倒される中、アナザーテイルレッドの脳裏に浮かぶのは自分自身への自問自答。
もし、本調子であれば結果はまだわからぬ筈だというのにアナザーテイルレッドは早々に戦意を失った。
高層ビル屋上のヘリポート中心で倒れるアナザーテイルレッド。
「レイジ……あなた……」
「……何も言うんじゃねぇよ。オレの負けだ」
もしかするとレイジはわざと負けたのかもしれない。
条件をつけてわざと負ける事で、トゥアールたちに協力する自分への言い訳を作ったのではないか?
変身を解除した華、駆け付けたトゥアールの両名が何となくそう感じてしまう戦いであった。
そして、それからの事はもう知っての通りである。
華と共に基地内で現れたマモンギルディを撃退し、夢の中へ突入。夢の中ではマモンギルディの能力の弱点を突くべく囮となりテイルブルームの攻撃をアシスト。そして、能力の支配から解放された和輝とティアナ、二人が変身するテイルバイオレットの最強形態エクストリームチェインバーストが終止符を打った。
この時、レイジ自身は自分でも驚くほどに生き生きとしていたのも忘れない。
「虫唾が走る……」
先日の事を思い出し終えたレイジは一人そう愚痴る。
ふと彼は自身の携帯端末を開き、そこに追加された連絡先を見る。
ベリアルギルディ、そう書かれた文字が余計に怒りを思い出させてくれる。
「チッ……」
消去しようにも消去できない。
つくづく自分はどっちつかずな男であると実感できる。
タブレットをコートの内ポケットへとしまったレイジは聖夜の街を彷徨い歩く。
同時刻、住宅街のとある一軒家。
二階のベランダから夜空を眺める少年がぽつりと呟くように願う。
「サンタさんへ、テイルレッドに会えますように……」
少年は知らない。
その願いが歪な形で叶うことを。
本作品は健全な内容を目指しております(建前)。
七つの性癖との戦いは少しおやすみして、次回はレイジが主役かなぁ。