俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
1月も半分を過ぎた朝。
学生たちは皆、長いようで短かった残り数か月の学校生活を謳歌すべく学び舎へと向かう。
ここ、双神高等学校ではそんな生徒たちを迎える教師が一人。
古き良き熱血教師こと堀井龍之介だ。
「みんなおはよう!! 今日も一日頑張っていこう!!」
体育教師でもないくせにその暑苦しさはそれの比ではない。
朝っぱらから大きな声を響かせ校門にて立つ堀井を大半の生徒は心のどこかで鬱陶しいだとか暑苦しいと感想を抱く。
しかし、そんな事は堀井も百も承知。鬱陶しがられるなどもう慣れっこだ。
それでも堀井が愚直に続けているのは偏に皆の為と思っての事である。
「ん? あれは?」
いくつもの生徒たちとの挨拶を続ける中、堀井は向こうより歩いてくる影に気が付いた。
それは目の下に大きな隈を付けた和輝であった。
「うーっす……」
「お、涼原じゃないか!! 珍しいな!! お前が歩いてくるとは!!」
「ったく、うるせぇな……」
早々に疲れ切っている様子の和輝は実に面倒臭そうな態度を取る。
普段の堀井ならばそんな和輝を見て一言二言お説教という名のじゃれ合いが始まるというものなのだが、今日の堀井はいつもよりも機嫌がいい。
学生たるもの通学は自らの足で行うものである。
堀井の持つ、少し古臭くも当たり前な考え故だ。
「先生嬉しいぞ!! 遂にお前もわかってくれたか!!」
「違ぇよ堀井。そうじゃねぇんだよ……」
「ん? どうした? そういえば随分と元気がないな?」
明らかに元気のない和輝を見て鈍いと陰口を叩かれがちな堀井も流石に気が付いた。
何かあったのか? そういえばここ数日、顔を見ていなかったな?
ならば教師として何か相談の一つでも乗ってやろう。
そう純粋な善意で和輝に訳を聞こうと肩を叩く。
するとその時、和輝の隣に文字通り張り付くナニカに気が付いた。
「何……? 私の和輝に何か用……?」
「お、お前は……橘?」
和輝の陰に隠れるようにべったりとくっついていたのはティアナであった。
明らかな殺気を放ちながら睨みつけてくるその姿は堀井を簡単にたじろがせる。
どう見ても普通じゃない。いつもの彼女であればいくら和輝と付き合っている身であってもここまでの事はしない。
鈍い堀井でも当然気づく。
「いやま、先日から色々あってな……」
「色々って……お前たち……!!」
申し訳なさを感じさせる声色で和輝がざっくりとそう説明。
だが、だとしても堀井は教師として言わねばならない。
「いいかお前たち。確かに仲がいい事は結構だ。その年ならば恋に盛り上がるのも悪くはないだろう。先生だって記憶があるからな。だがしかし!! いくらなんでもそんなべったりと――」
そう言って二人を一先ず引きはがそうとする堀井。
勿論であるが、引きはがすと言っても恋仲という意味ではなく、物理的な話だ。
この年からこんなにもべったりとくっついていたら他の生徒にも悪影響が出かねんと思ったから故の至極当然の判断だ。
しかし……
「私と和輝に何するのよ……!!」
それを阻んだのはティアナ本人の怒りが籠った声と視線。
先程の物よりもさらに一段上のそれは狩りを行う直前のライオンを思わせるかの如く鋭く危険。
堀井は金縛りにでもあったかのように動きを止める……いや、止めざるを得なかった。
「まぁ、コイツには後で言っとくからさ……とりあえず、今の間だけでもそっとしておいてくれ……。じゃないとコイツ、なにすっかわかんねぇし……」
実に申し訳なさそうに答える和輝はティアナに張り付かれながらもそのまま校舎へと向かっていった。
彼らが去ってから数秒後、堀井の身体は自由を取り戻し地面にへたり込む。
「な、なにが……」
「あの~? 堀井先生?」
「大丈夫ですか?」
お漏らしでもしてしまったかのようにへたり込む堀井へと声をかけるのは、二人の女教師。
堀井が密かに恋心を抱く相手である華と去年10月末より突如赴任してきたトゥアールだ。
二人を見ても堀井の震えは止まらない。
「な、なにがあったんですか……!! あの二人……いや、橘に一体何が……!!」
それを聞き、トゥアールはばつが悪そうに眼をそらす。
事は数日前。ティアナの性欲が暴走を開始して半日が過ぎたあたりの事であった。
「何とか止まりましたね……」
「だな……」
アスモデウスギルディによるティアナの性欲の暴走。それは夜這いと言う名の夜襲を引き起こすなど、和輝らにとって何とも迷惑な事態となった。家や基地を破壊し、ただの逆レ〇プとは思えぬ圧倒的な暴力をもって和輝を追い詰めては守りに入ったトゥアールを単独変身を使って虐殺する。
和輝たちにとってはアスモデウスギルディらなどと戦っている時以上のピンチではあったが、一晩中の追いかけっこをもってようやくティアナは気を失い変身を解除。
沈黙したティアナを基地へと運び、ホッとしていた和輝とトゥアール。
「既に薬自体は完成してます。あとは投与するだけで一先ずは大丈夫でしょう……」
「ほんとに大丈夫かよ……」
そう言いつつも今はトゥアールを信じるしかなかった和輝。
ある意味フラグのような発言だが、それが後に回収される事をこの時は知らない。
トゥアールが薬を投与し、ティアナの呼吸が平時のそれへと変わる。
そして、数分後ティアナは目を覚ました。
「あれ? 私……」
「目、覚めたかよ」
「う、うん……あれ? どうしたんだっけ?」
記憶を混同している様子であったティアナ。
何でも、最後に覚えているのは和輝を求める気持ちが抑えきれなくなっていく感覚だけだという。
程なくして和輝たちに何があったのかを教えられ、自分自身に何があったのかを知ったティアナは涙を流した。
「ご、ごめんね和輝……わたし……!!」
「まぁ、正気に戻ったならいいじゃねぇか。なぁ? トゥアールさん」
「はい。和輝君の言う通り、大丈夫ですよ総愛」
心の隙を付かれたとはいえ、ティアナにそこまでの落ち度はない。
そう思う和輝たちは泣きじゃくるティアナにフォローを入れた。
結果、ティアナは次第に落ち着き始め明るさを取り戻した。
筈だったのだが……
「ねぇ、和輝。ちょっとの間、くっついていてもいい?」
「おう」
「ねぇ、和輝。ツインテールさすって」
「お、おう」
「ねぇ、和輝。もっと……」
「お、おう……」
ティアナの様子が次第におかしくなっていった。
性欲の暴走とは違うこれは、言うなれば和輝への依存心の増幅。
二人の試練はまだ終わってはおらず、今日に至るのだ。
◇
「か~ず~き~」
「何だよ。頬っぺたツンツンするなし」
放課後、トゥアールさんが一人待つ新聞部部室へと向かう俺はべたべたくっついて離れないティアナを連れ歩く。
さっきから繰り返される特に意味のない俺へのちょっかいはもう何度目かわからない。
先日の性欲暴走状態とは違うベクトルでうんざりするこの状況。
どうしてこうなるんだよといった文句しか出てこねぇぜ全く。
「トゥアールさ~ん!!」
「お疲れ様で……って、何してるんですか……」
新聞部部室にて出迎えてくれたトゥアールさんは先程から開始されたティアナの奇行に思わずそうツッコむ。
頬っぺたツンツンを止め、俺のそう長くない髪の毛をおしゃぶりかのようにちゅぱちゅぱしているティアナ。
小さな声で「これが和輝の味……」とか何とか言っている気もする。
「これじゃただの変態ですね」
「んなコメントいらねぇから、引きはがすの手伝ってくれよ……」
それもそうですねとトゥアールさんは俺と共にティアナを引きはがそうとする。
勿論、ティアナの奴は鬼の形相をもってそれをさせまいとするが、俺がやんわりという事聞かないともう別れるぞと脅しをかける事で動きが鈍る。
尤も、それでも素直には離れてくれない以上、こうやって他の誰かの助けがいるんだがな。
「和輝~……」
「あとで好きなだけくっついても良いから!! 今は休憩だ休憩!!」
「むぅ……わかった……」
頬を膨らませながらも一応こうやって言う事は聞いてくれる。
先日の暴走時と比べて幸いなのはこういった所だろう。
まぁでも、面倒なのは変わらねぇし、今朝の堀井にしようとしたみたいに少しでも機嫌が悪いと俺の言う事も何も聞かず力づくで邪魔者を排除しようとする危険性は付きまとっている。
「ったく、マジどうなってんだよ……。治ったんじゃねぇのかよトゥアールさんよぉ……」
「そうは言われましても……。性欲の暴走自体は無くなっていますし、薬自体の効果はあったと思われます」
「でも、現にこうやっておかしなままじゃねぇかよ。いやま、そりゃあ襲い掛かってくる事は無くなったがよ」
ほんの数日前、ティアナに夜這いされた日の事を思い出す。
あんとき程、ある意味で命の危機を感じた日は俺にはない。
アスモデウスギルディの能力で暴走したティアナが俺の童貞を奪うべく襲い掛かってきたあの衝撃。夜這いなんてそんななまめかしいワードではなく、あれはもうただの夜襲だ。疲労困憊の兵の隙を付き命を狙う奇襲と言える。
「うーん、そうですね……。現在調べてますが、特にこれと言った何かは反応はないので、恐らく敵側も想定していなかった事象なのかもしれませんね」
タブレット端末片手にティアナの脳波や精神状態を調べるトゥアールさん。
何でも数値上を見る限りは特にこれと言ったおかしな点はないらしい。
「もしかすると性欲を抑え込ませる為とはいえ、薬を使って強制的に止めたのがこの副作用を生んだのかもしれません」
「と言うと?」
「先日も話しましたが、そもそものアスモデウスギルディが行った性欲を暴走させる能力はかつて総二様と戦ったアルティメギルの恋愛属性のエレメリアンの能力と酷似しています。当時は攻撃をあえて誤射する事のショックで解除しましたが、今回は状況が状況であった為に薬を使った……」
「じゃあ何? 本来とは違うやり方で解除しようとしたから副作用が起きたって事?」
俺の質問にその可能性も考慮すべきですと述べるトゥアールさん。
俺としてはなんてこったと頭を抱えたくなる気分だ。
いやま、話を聞くにかつて総二さんや愛香さんがくらった時は変身状態であったみてぇだし、何らかの保護が副作用を残さなかったとも考えられるけどな。
でも、そう考えるとティアナが変身解除するのを待ってから薬を与えたのもいけなかった気がしてくる。
「現状を見るに、性欲の暴走ではなく和輝君への依存心の暴走といった方がいいですね。元々の能力である性欲の暴走がかつてと同じく恋心など感情を増幅させるものと同一線上なのであれば、そちら側の効果……つまり、和輝君への恋心がこのような形で暴走していると思われます」
トゥアールさんの仮説は恐らく正しい。
何とも面倒くせぇ能力だ。
解除するにはどうすればいいものか……
「細かな状況は異なりますし、かつてと同じ荒療治では効果は薄いでしょうね。幸いなのはまだある程度の自制が利く点でしょうか」
「ある程度……だけどな」
トゥアールさんにそう言った後、俺はティアナが座るソファをチラリ。
そこでは俺が来てくれる事を今か今かと待ち望むティアナの姿があった。
目にはうっすらと涙のような物も溢れてるし、ティアナの情緒が心配になる。
「それでも、和輝君の言う事を聞くだけマシです。暴走時の事からして、エクストリームチェインを使わない単独での変身なら可能のようですし」
トゥアールさんがそう語る通り、今の状態であっても単独での変身は可能だ。
こうなる事を見越してかはともかく、トゥアールさんが用意したテイルバイオレットの単独変身機能は俺とティアナ、それぞれが二人で一つの存在ではなく、互いに別のテイルバイオレットに変身する事を可能とする。
先日の夜這いの際、ティアナは無意識のうちにそれをしてみせたし、俺も出来るのはその後に確認済み。
今の状態、俺は兎も角ティアナの精神状態でエクストリームチェインへの融合変身はトゥアールさんが危惧する融合解除不可を起こしかねないんだ。
「問題は今のままで勝てるかどうかだけどな……」
「はっきり言えば無理でしょうね。今の総愛が和輝君と程よい距離感で心を合わせられるとは思えません」
「だよな。知ってる……」
アスモデウスギルディに勝つには奴の分身体であるリリスギルディとのコンビネーションに打ち勝つしかない。
そのためにも俺たちに求められるのは、それぞれ二人のテイルバイオレットとなって向こう側のコンビネーションを凌駕する事だ。
だが、今のティアナにそれは無理だ。俺への依存心が高くなりすぎて心を合わせられる筈がない。
俺の方に限ればここ最近の事を経て、多少はティアナと適切な距離を取ろうとする気持ちにはなったんだけどな。
「てかよ、そういやアスモデウスギルディたちはどうしたんだ? あの日からもうすぐで1週間になるけど何も仕掛けてこないし、何か別の悪事をしてるわけでもねぇよな?」
今までも似たような事がなかった訳ではないが気にはなる。
そういえばと思い出したことをトゥアールさんに尋ねたその時、部室の外からどたどたと音が鳴り、ガラリとドアが開かれる。
息を切らしスマホ片手にやってきたのは悠香さんと青葉さんと匠のいつもの面々だ。
「どうしたんだよ。そんな焦って」
確か今日は、4月以降に学校を卒業する悠香さんと青葉さんの新しい拠点となる事務所を探しに行っていた筈だ。
匠も連れていってもうすぐで結構な時間にもなるし、もうすぐ帰ってきてもおかしくない時間ではあるが、だからってそんなにも急いで帰ってくる事なんてない。
「そんな事より、これ見てこれ!!」
「はぁ?」
余程何か事情があるらしい。
悠香さんは俺とトゥアールさんへスマホの画面を見せつける。
そこに映っているのはややアングラな情報発信サイト。基本的にいかがわしい内容の広告で埋まり、その手の動画も非合法にアップされているのでその筋では有名なサイトだ。
悠香さんたちはその中でとある動画を指を刺す。
その動画のサムネには見覚えのある怪物が映っていた。
「コイツは……アスモデウスギルディ!?」
「投稿時間は……今からそこまで時間は経っていないようですね」
何事かと驚く俺と冷静に分析するトゥアールさん。
俺は恐る恐るその動画を再生する。
『このような形ではあるが、まずは挨拶をだ。吾輩はアスモデウスギルディ。アルティデビル、七つの性癖の色欲を司る者である』
そこに映るのはサムネ通りアスモデウスギルディだった。
背後からは喘ぎ声にも似た耳障りな声(恐らくリリスギルディだろう)が聞こえてくる。暗い部屋で何をしているんだ?
『さて、本来であればいつも通り吾輩と我が愛しきリリスギルディの行為をお届けし、皆にセックスのすばらしさを説くつもりであったが、今日は違うぞ。なぁテイルバイオレット? 見ているのだろう?』
動画内のアスモデウスギルディにそう看破されビクリとなる。
『どうやらそのようであるな。ま、それはそうと君の彼女は元気であるか? 吾輩の能力で楽しいセックスライフを送っているようならば光栄だが、どうやらそうではないようであるな?』
こちら側の事情が筒抜けなのか、ずばりとそう言い当てるアスモデウスギルディ。
少し悲しそうな表情をしているのを見るにティアナの性欲暴走は善意だった様子。
尤も、俺からすれば余計なお世話だ。
『そうやって未だ童貞を貫くとは理解が出来んな。人間たるもの、異性と交わるのが全て。セックスこそが最高の芸術であり、生きる意味であるのだぞ。それが出来ぬならば吾輩には勝てない』
「相変わらずうるせぇんだよ……」
『よってだ。君にはこれより六日ほど猶予をやろう。それまでに初めてを経験し、どちらの愛が上かを白黒はっきり告げるという話である』
「六日後……」
『健闘を祈るぞ。さて、それはそれとして……』
それ以降、特に関係ないセックスがどうとか言う対象年齢的にアウトな内容だったので動画自体はそこで強制終了。
とりあえず動画の内容を要約すると六日後に再戦しようという物か。
向こう側から日にちを指定してくるパターンに少し驚きつつもどうすればいいのかを考える。
「と言っても、タイムリミットが出来ただけか……」
「そのようですね。それまでに総愛が元に戻るかどうかは……」
正直、ティアナを元に戻す方法はアスモデウスギルディを倒すしかないと思っている。
だから今のティアナとアスモデウスギルディを打ち破るしかない。
「やるしかない……か」
「できるの? 確かはティアちゃんは……」
できるかできないかじゃない。
やるしかないんだ。
真剣な表情でそれを決意する俺とは違い、我慢できず俺に寄ってきたティアナの表情は不安しか感じなかった。
◇
アスモデウスギルディからの挑戦状を貰ってから四日程の時が経った。
今日も今日とて和輝はティアナと共に対アスモデウスギルディに向けての特訓に励んでいる。
ここは地下基地内のトレーニングルーム。
学校の体育館くらいの広さをしたこの空間にて和輝とティアナが対峙するのはアスモデウスギルディとリリスギルディの
「いくぞティアナ。これが出来なきゃ俺たちはもう一緒にいられねぇんだぞ」
「う、うん……わかってる……」
テイルドライバーではなく、テイルブレスを。
融合変身したテイルバイオレットではなく、新たに可能となった単独でのテイルバイオレットへ変身する二人。
青紫色のノーマルチェインテイルバイオレットへ変身したのが和輝で、その隣に立つ色が赤紫になっているのがティアナが変身した物だ。
『ではテスト開始します』
トゥアールのアナウンスが聞こえると同時に動き出す二体の立体映像。
初戦の際のデータを元に再現したこれらの動きは本物と同様と言ってもいい。
和輝とティアナ、二人のテイルバイオレットはそれぞれ向かっていき、激突。
いくつかの攻防の果てに立体映像の二体を撃破は出来たが、未だにいい感触は感じない。
もしもこれが本物であったのなら絶対にこうはうまくいかないという悪い意味での自信しかない。
『やはりですが、総愛側の動きが和輝君に合わせようとしすぎていますね。結果的に想定するコンビネーションからずれが生じています』
「やっぱしか……」
「ごめんね和輝……」
この数日で何とか戦える程度には安定し始めたティアナであったが、本調子とはとても言えなかった。
増幅した和輝への想いが強い依存を生み、結果的に動きに支障をきたしている。
涙目に謝りながらもティアナの身体は自然と和輝を求め寄ってくるのがその証だ。
そして、時を同じくして別のトレーニングルームでは、対ベルフェゴギルディに向けて華の特訓も続いていた。
「やはり、このままでは勝てない……」
アスモデウスギルディが挑戦状を叩きつけてきた以上、ベルフェゴギルディも必ずやってくる。
今の和輝とティアナ、二人はアスモデウスギルディに手一杯な状態であり、自分こそがベルフェゴギルディを倒さねばならぬのだが、敵の持つ絶対防御能力の攻略法は未だ見えてこない。
和輝たちと同様に立体映像を相手に何度も試してはいるが、敵の能力を再現しきれない都合上、これらが実践で活きるかどうかは限りなく低い。
(見てはいけない相手をどうすればいいの……? しかも狙えるのは頭部だけ……)
どちらか片方であれば百戦錬磨のテイルブルームの敵ではない。
でもそれが同時で且つ、能力を抜きにした相手の実力も七つの性癖に似合った物であるならそうはいかないのだ。
やはり必要なのは一撃で仕留められる火力。
一瞬の隙を付き、敵の頭部へ視線を送らぬ状況でその箇所を一撃で吹き飛ばすしかない。
華はトゥアールより送られたテイルアーマーを身に纏う。
「これを使いこなすしかない……。ッ……!?」
テイルイエローの力を再現したテイルアーマー。
テイルバイオレットのブレイブチェインやエモーションチェインに相当する形態であるが、その副作用も前者二つと同様であり、こちらは一定時間を過ぎると強烈な露出欲が出てしまう。
初戦の敗北も、決着を焦りすぎたが故にこのデメリットに飲まれてしまったのだ。
「抑え込むしかないのよね……。わかったわ神堂さん、あなたが戦ってきたこの力の制約……私も乗り越えてみせる」
決戦まで残り日数は僅か。
果たして和輝とティアナ、そして華は勝つことが出来るのか……。
◇
和輝たちが特訓に勤しむある日の放課後。
新聞部の部室では悠香と青葉が残り少ない学校生活で出来うる部活動に精を出していた。
悠香がネタをあさっては地に足つけて調べ、青葉がそれをネットを使い調べたり纏めていくといういつもの活動内容。
この一年間、和輝たちと知り合い、共にアルティデビルとの脅威に立ち向かう事が増えた彼女たちであったが、本来の仕事はこちらなのである。
そんな中、匠が部室内にやってきた。
「たっくんお疲れ~」
「うっす。って、今日も先輩方だけっすか」
「そう、和くんたちは特訓に手一杯って感じ」
ふーんと気のない返事をしながら匠は部室内のソファに身を投げ出す。
いつの間にか実質的な部活動のメンバーとして数えられている匠は絶対に外せないバイトがある日を除いて放課後はここにやってくる。
特に何かをするわけでもない。
強いて言えば殆ど同じ境遇である和輝やティアナとじゃれたり、からかったりするのが目的か。しかし、それもここ最近は事情が事情なのでできる訳もない。
最近はあまり手伝うような事もなく、来年度の引継ぎといった事もないこの部活動にて匠はただ欠伸を漏らすくらいだ。
「ねぇ先輩……」
「ん? どしたの?」
時計の針が17時を回り、外が暗くなったあたりで匠が急にそう声に出した。
尋ね返す悠香。
すると匠は少し悩みを話すかのようなトーンで喋りだす。
「その……俺たちこんなことしてていいんすかね……」
「それって……どういう事?」
「いや、その……和輝とか華先生とか、みんな今頑張ってるじゃないすか。なのに俺たちってぶっちゃけあんまし役に立ててないっていうか……トゥアールさんが来てからずっとそんな気がして……」
匠の吐露を聞き、あーそういう事ねとばかりに頷く悠香。
確かに、トゥアールが来て以降、匠たちの出番は殆どない。
今日だってそうだ。和輝たちはトゥアールの用意した設備を使い特訓に勤しんでいるのというのに自分たちは何の役にも立てずにここでいつも通りを過ごしている。
ここ最近、親友として和輝の苦悩や苦労を間近で見ていたが故に匠はふとそう考えてしまったのだ。
「うーんそうねぇ。そう言われると確かにそうねぇ~」
「でしょ!? やっぱし普通の俺たちじゃ何にも力になってやれないんすかね……」
心の底から思いを吐き出す匠。
今まで薄っすらと感じていた物がたまりにたまったせいか、その表情はどこか暗い。
しかし、対する悠香の顔はいつもと何ら変わらなかった。
「でもねぇ。あたしらは元はと言えばあくまで情報収集によるサポートがメインだし、エレメリアンと戦うのは本業じゃないしね~」
「でも、それでいいんすか? だってあれっすよ。その情報収集って点もトゥアールさんに役割取られてるんすよ!?」
あっけらかんと言い放った悠香へ思わず噛みついてしまう匠。
匠のいう事もある意味では尤もと言える。
だが、悠香は変わらない。
「そうね。確かにそうかもしれない。でも、世代とか役割と言うのは何事も移り変わっていく物よ。より便利で確実なものに成り代わられていくのはあるべき姿なの。あたしたちだって、今はこうやってネット新聞として頑張っているけど、近い将来お役御免になるかもしれないしね」
「いや、でも……」
納得は出来るがしたくない。
ある種そうも考える匠は悠香の賛同が欲しかったのか。
そんな匠へと悠香は優しく声をかける。
「大丈夫よたっくん。確かに今のあたしたちはトゥアールさんと比べるとサポーターとしての役割は薄いけど、でも、あたしたちにだって出来る事はあるわ」
「な、なんすか?」
「いつも通りふつーうに接してあげる事よ」
ウインク決めつつ笑顔で一言。
もっと納得できる何かかと思っていた匠は思わずズッコケる。
「いやいやいや、それが何の役にたつんすか!?」
「何の役って……何の役にも立たないわよ」
「じゃあダメじゃないっすか!!」
声荒げる匠とそれをへらへら笑う悠香。
態度にムカつき部室を出ようとする匠だが、悠香は待ったをかける。
「でもねたっくん、それが一番なのよ。だって、もしあたしたちがいなかったら和くんたちはどうなっちゃうか考えてみなさない。ちょっと傲慢かもしれないけど、あたしたちがこうやっていつも通りを過ごすから和くんたちは少しでも安心できるんじゃない?」
「まぁそれは……そうっすね」
悠香の伝えたい事、それは自分たちこそが和輝たちの安心できる場所となろうという話である。
和輝たちがいくら強かろうとも、共に過ごす毎日がなければ安心など出来やしない。
張り詰めた糸はいずれどこかでピンと切れてしまう。
それを防ぐためにも悠香たちはいる。
「じゃあ俺たちに出来る事って……」
「あんまり気負いしない事ね。いつも通り、和くんたちを迎えてあげればいいの」
あっさりとそう言い切る悠香。
先程は反発した匠であるが、話を理解したのか少しばかり考えを改める。
「そ、そうっすね。確かに言う通りっす」
「そう、そうでいい~の」
緩い雰囲気の中、笑う二人。
それを遠目で見ていた青葉は少しばかりの嫉妬を感じつつも微笑んだ。
「さぁて、んじゃあ俺もなんか手伝うっす。てか先輩、さっきから何見てんすか?」
「あ、これ?」
いつも通りに戻った匠から悠香は会話途中もずっと見ていたスマホを指摘される。
そこに映っているのはアスモデウスギルディが使っていた物とは違う華やかでポップな動画サイト。
歌やダンスなど若者向けの動画が並んでいる。
「これね、最近若い女の子の間で有名な動画サイトなのよ。なんでも噂によるとこのサイトを通じて不思議の国にいけるとかって話よ」
「へー聞いた事ないっすね。てか、先輩だって十分若いでしょ」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」
笑う悠香とそれにつられる匠。
彼女たち新聞部は今日もまたいつも通りの日常を過ごしていた。
今回のラストにしこんだ小ネタは僕が最近見終えた別のアニメの物です。
次回はアスモデウスギルディたちとの戦いかなぁ。