俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第164話 終わる二人、始まる二人

 アスモデウスギルディの提示した決戦の日まで残り数時間を切った。

 この夜が明ければいつ何時奴らが出現するのかわからない以上、しっかりとした休息は戦いの結果にも関わると言える。

 だから本来はこんな風に寝つけずにいるなんて絶対に避けるべきなんだが……

 

「……つっても無理なもんは無理だっつーの」

 

 一体、いくつ天井のシミや羊の数を数えたろうか?

 時計の針は止まってはくれず、無情にもカチッカチッと音を響かせ進んでいく。

 明日は一度敗北した相手との再戦だっていうのに……

 この俺、涼原和輝は決戦前夜だというのに不安をぬぐい切れずにいた。

 

「すー……すー……かじゅき……」

 

「お前って奴は全く……」

 

 隣で眠るティアナの寝言もいつもなら微笑ましく思えたし、勇気を貰えていたのだろう。

 でも、今回に限っては違う。

 このティアナの変わらぬ様子。これこそが俺の悩みの種であり、俺たち二人が乗り越えるべき壁なんだ。アスモデウスギルディのコンビネーションを破るには俺たちの関係性を今一度見つめなおすしかない。

 でも、もう時間がない。決戦の時まであと僅か。

 俺が出す答えは……

 

「ごめん華先生、ちょいと無茶かけるぜ」

 

 そう一言呟いた後、トゥアルフォンにてメッセージを打ち込み、時間がくれば送信されるように設定した。

 

 

 

 

「さて、では参るとするか……」

 

 アルティデビル基地における自室にて、対戦を終えたアスモデウスギルディがふとそう呟く。

 ネグリジェのままベッドで横になるリリスギルディはそれを聞き、ただ一言「ええ」と了承の意を示す。

 今日は宣言した六日目。テイルバイオレットととの真剣勝負の日だ。

 

「……」

 

「どうしたの? 震えているわよ?」

 

 ベッドから起き上がるリリスギルディはアスモデウスギルディの異変に気が付いた。

 普段であればあり得ぬ様子を見せているが故だ。

 アスモデウスギルディはフッと笑う。

 

「武者震い、とでも言おうか。吾輩としてもこんな気持ちは久しぶりなのである」

 

「そうね。あなたにしては珍しいわ」

 

 リリスギルディはアスモデウスギルディの能力によって生み出された分身体、謂わば意思を持ったリアルラブドールとでも言える存在だ。

 能力に目覚めて以降、傍らに立ち続けた彼女はアスモデウスギルディの好みやテクニックも全てを知っている。

 そんな彼女が珍しいと言える程に今のアスモデウスギルディは燃えていた。

 訳を知り、リリスギルディは面白そうに笑う。

 

七つの性癖(セブンス・シン)一の武闘派と呼ばれし吾輩も、まだまだ青いようであるな」

 

「あら、私からすれば昔からあなたはずっと、まだまだ可愛らしい男の子のまま」

 

 背中から手を回し、引き締まったアスモデウスギルディの肉体をなぞるリリスギルディの指先。

 皮膚に伝わる彼女の吐息は甘く、熱い。

 

「これこれ、すべては勝利の後に楽しむものであるぞ。我が聖なる美酒は完全なる勝利と共に注いで見せよう」

 

「あら、今日はいけずなのねぇ」

 

「じらされるのは好きであろう?」

 

 笑みを浮かべあう両者。望むならあと何戦かは楽しみたいと思うのが、色欲と称される性癖を宿すエレメリアンの性なのかもしれない。

 しかし、彼らは戦士でありプロ。

 元々ベリアルギルディの依頼を受けてこの世界に降り立った彼らの目的は一つだ。

 リリスギルディを身体に取り込み一人となったアスモデウスギルディは部屋を出る。

 

「全く……長いんだよ……」

 

「なんだ、待ってくれていたのか。ベルフェゴギルディよ……」

 

 部屋の外、廊下の壁にもたれかかっていたのは気だるげな態度が目立つベルフェゴギルディ。

 彼女もまた、アスモデウスギルディと同じ七つの性癖の一人であり、怠惰の性癖を担っている。

 

「さっさと終わらせたいだけさ。こんな程度の相手にこれ以上の時間はかけてらんないよ」

 

「おいおい、そうは言うでない。あの子たちの恋の波動は相当な物であるぞ。あともう一歩踏み出せればそれは最高のセック……」

 

「もういいってそれ……。てか僕の相手はあの子たちじゃないでしょどうせ」

 

 長くなりそうな話を遮るベルフェゴギルディ。

 こうやって付き合うのはそう長くなく、一緒にいる期間はリリスギルディなどのそれと比べれば蚊の一生分とも例えられる二人であるが、ベルフェゴギルディとアスモデウスギルディの二人の掛け合いは夫婦のそれとはまた違う何かを感じさせる。 

 

「そうであるな。よし、では参ろうか。フフ……」

 

 頷きあった両者は出撃すべく基地を後にする。

 この基地にやってきて僅か一週間と少し。当初と比べれば随分と活気を取り戻したこの基地内の様子を見るに後はここにいる彼らだけでも何とかなるだろう。

 アスモデウスギルディはふとそう思いながらもこれからの戦いに期待を膨らませる。

 あれほどのカップルは中々いない。惜しいのは未だ性的な関係には至れていない程度。

 それがアスモデウスギルディの持つ和輝とティアナへの評価である。

 故に楽しみにしていたこの決戦の日。

 日が昇ってからまだ時間もそう経っていない朝、初戦と同じ平原へと降り立ち、やってくる戦士たちを見据えるアスモデウスギルディだった。

 ……のだが、

 

 

 

「あなたたちの相手はこのテイルブルーム一人が請け負います!!」

 

 そこにやってきたのはテイルブルームただ一人だけであった。

 

 

 

 

 コンソールルームへと向かう廊下を慌てて走る悠香と匠。

 辿り着いた彼女たちの目に映る光景はわかっていたとしても声を上げざる得ない。

 

「ちょっとちょっと!! どうして華先生だけなんですか!?」

 

「そうっすよ!! 和輝とティアナちゃんはどうしたんすか!?」

 

 コンソールルーム内で一際目につく大型モニター。そこに映るのはアスモデウスギルディとベルフェゴギルディの二体のエレメリアンと対峙するテイルブルーム。

 本来であればアスモデウスギルディは和輝たちテイルバイオレット、ベルフェゴギルディはテイルブルームと対面するべき相手が決まっていたはず。

 だというのに立っているのはテイルブルームただ一人。

 どう見てもおかしなこの光景に二人はトゥアールを問いただしたのだ。

 

「実は先程、華先生の下にこのようなメールが送られていまして……」

 

 トゥアールは自らのトゥアルフォンを開き、そこに移した和輝から華先生に宛てたメールを公開する。

 

『ごめん先生。ちょっと俺たち、行くところあるから先に戦っておいてはくれねぇだろうか? 必ず、戻ってくるからよ』

 

 それは和輝らしい言葉遣いで書かれた物であり、一発で本物であるとわかる文章であった。

 数分前、出撃前の華から私一人で戦う事になったと報告を受けていた悠香たちはこういう事かと納得しつつも何が起きたのかまでは見当がつかない。

 俺たちという言葉から推測するに今現在、和輝はティアナと一緒にそのどこか行くところという場所に向かっているのだろう。

 だが、わかるのはその程度だ。

 

「どういう事ですか? これ……」

 

「それについてはこちらとしても見当が付きません。こんな状況下、ましてや敵がいつ何時現れてもおかしくなく、現にこうなってしまった中で二人ともどこへ向かっているのか……。現在地こそマシントゥアールの発信機でわかりますが、意図までは」

 

 トゥアールですらわかっていない以上、悠香たちにわかる筈がない。

 あともう一つわかるとするならそもそもの今日に至るまでの特訓であまり良い結果を上げられなかった事くらいか。

 

「逃げた……って事はないっすよね……」

 

 ふと匠は最悪の事態を想定してしまう。

 メールに必ず戻ってくると書いてある以上はそうであると信じたい物であるが、状況が状況故にそう疑ってしまうのも何ら無理はなかった。

 心配しつつも不安がる匠。

 そんな彼へと悠香は何かを決意した表情のまま肩を叩く。

 

「大丈夫よたっくん。そりゃあまぁ、確かに訳は分からないけれど、和くんだって何の目的もなくこんな事をする筈がない」

 

「先輩……」

 

「悠香さんの言う通りです。今は和輝君を信じましょう。彼ならきっと……いや、あの二人ならきっと成し遂げる筈です」

 

「トゥアールさん……」

 

「それに言ったでしょ。私たちの役割は見守る事だって。今回だって見守ってあげるのよ」

 

 強い信念を感じる言葉だった。

 和輝とティアナ、二人への信頼が深いが故の二人の言葉に匠も同じく決心する。

 

「そうっすね。それしかないっす。それにそもそも、兎に角今は華先生の方がヤバいですしね」

 

「華先生本人は二人が来るまで耐えるとおっしゃっていますが、果たしてあの二体を相手にどこまでもつか……」

 

 そう不安気に語るトゥアールがモニターを操作し、再びテイルブルームの様子を映す。

 不満そうなアスモデウスギルディと前回同様に気だるげなベルフェゴギルディ。

 どう見てもその戦力差は如何ともし難い。

 

『どういう事なのであるか。テイルバイオレットはどうしたのである』

 

 テイルバイオレットの再戦を待ちわびていた様子のアスモデウスギルディが不満の意を示す。

 今日この日まで時間を空けたのも全ては性行為を経てより成長した和輝たちとの戦いを望むためなのだ。無理もない。

 

『悪いですが、バイオレットの出番はありません。あなたたちはこの母なる大地のツインテール戦士、テイルブルームが倒します!!』

 

 自らを鼓舞するかのようにそう力強く答えるテイルブルーム。

 彼女もまた、悠香やトゥアール同様に和輝たちを信じている。

 出番がないという宣言も信じているが故の言葉なのである。

 

『そうであるか……まことに残念であるな』

 

『探す手間が増えたじゃん……ダルっ……』

 

 両者から迸る闘志。

 一つは落胆、もう一つは面倒からくる八つ当たりのような物だが、その迫力は一度敗北しているテイルブルームからすれば恐ろしいという言葉以外ないだろう。

 モニター越しで伝わるそれらを受け、悠香と匠はゴクリと唾をのむ。

 

『行くぞ我が伴侶、リリスギルディよ。我らが聖なる妙技で最高の芸術を生み出そう』

 

『さぁて、何度やっても無駄だってまた教えてあげるよ』

 

 二対一、いや三対一。

 一人でしか倒せない相手と二人でなければ倒せぬ強敵を前にテイルブルームは向かっていく。

 

(信じますよ和輝君……あなたなら総愛を……)

 

 戦いを見つめるトゥアールは心の中で祈る。

 テイルブルームの無事と、和輝とティアナの可能性を。

 

 

 

 

 一月の朝はまだまだ寒く、日が昇りきっていないからか、吹き付ける風が冷たくて仕方ねぇ。

 特にバイクを運転してるときは速度の影響でよりキツイ。

 こればっかしは防寒着を重ねて着るとかの対策をするっきゃねぇんだが、善は急げとばかりに出てきた都合上、最低限の服しか着てこなかったのがな……

 

「てか、んでこんな日に限ってクソ寒いんだよ……」

 

 寒さに愚痴りながらも俺はマシントゥアールを走らせる。

 現在の時刻はもうすぐで午前9時を超えるくらい頃か。

 

「ねぇ和輝? 本当に良かったの?」

 

 目的地へと走らせる中、後部シート上に乗るティアナが不安の声を上げる。

 恐らく、ティアナは自身が持つその強力なツインテール属性をもってエレメリアン出現をある程度感知しているのだろう。

 俺としては、随分と早いがやはり来たかと言った気持ちだ。

 

「ん? 何がだ……?」

 

「とぼけないでよ……。和輝だって、わかっているんでしょ? 今、華先生が一人で戦っているって……」

 

「あ~その事か。それなら心配すんな。出発前にメッセージは送っておいたよ」

 

「いや、そういう訳じゃ……」

 

 わざとらしくとぼけてみせる俺に対し、ティアナは何か思うところがありながらも強く反論はしてこない。

 俺はそんなティアナの様子に不安を感じつつもマシントゥアールの速度を緩めない。

 

「でも、急にどうしたの? こんな時にこんな事して……」

 

 数分間の沈黙の後、再度ティアナが俺にそう尋ねてくる。

 今度もまたとぼけてもいいが、目的地到着までそう時間もかからない以上はある程度の訳くらいは話してやってもいい。

 そう考え訳を話す。

 

「いやさ、俺思ったんだよ。このままじゃアスモデウスギルディたちには勝てねぇ。勝つためにも俺たちはあの場所に向かわなくちゃならねぇ」

 

「あの場所って……?」

 

「ある意味で始まりの場所だ」

 

 そう、俺たちが向かうのはある意味で俺たちの新たな始まりとなった場所だ。

 それは去年の夏頃、この長い戦いの最初の節目となった地であり、街はずれの人が寄り付かない所にある。

 

「でも……いくら何でもこんな時に……」

 

「んだよ、お前だってうんと言ったじゃねぇか」

 

「だって……和輝一人でも行きそうだったし……」

 

「ったく、お前って奴は」

 

 やっぱし、今のティアナは依存心を隠しきれていない。

 前までのコイツならもっと強い言葉で言い返してきた筈だ。

 果たしてこれは、アスモデウスギルディによって暴走した感情のせいなのか。

 それを確かめ、決着をつけるためにも急がなくちゃならねぇ。

 

「さ、着いたぜ」

 

 その後数分の疾走の果て、俺たちは目的地にたどり着いた。

 そこは街はずれにある古びた教会。

 

「ここって……」

 

 見覚えのある建物にピンとくるティアナ。

 そう、ここは去年の夏頃、バアルギルディとの決戦を行ったあの廃教会だ。

 中の様子もあの時から何ら変わっておらず、戦いの影響で荒れ果てたままとなっていやがる。

 思い出すぜ。どうしてかおかしくなっちまったバアルギルディの奴に捕まり、奴の催眠術か何かで操られて危うくテイルバイオレットとして結婚させられちまいそうになったあの日の事。ティアナたちが助けに来なければ本当にどうなっていたことか……

 

「心まで女ってのは笑えねぇな……」

 

 もしもの世界線を想像しては俺は苦笑いを浮かべる。

 そんな中でティアナは首を傾げつつも不安の表情を浮かべている。

 

「ねぇ、和輝? どうしてここなの? ここが私たちの始まりの場所……?」

 

 やはりピンと来ていない様子のティアナはそう口に出した。

 俺はそんなティアナの手を取り、建物奥にある結婚式で言うところの誓いのキスをする場へとむかった。

 

「なぁ、覚えてるか? 俺、ここでお前に告白したんだよな」

 

「そ、そうね。そうだったわ……」

 

「あんとき、戦闘終わってすぐだったからムードは最悪だったし、俺は緊張しっぱなしだったし……」

 

「そうそう、和輝って今も昔も変わらないもんね」

 

「お前はお前でツインテールにキスしてくれとか言っただろうが」

 

「そういえばそうだったね」

 

 それからの事、それまでの事、付き合いだして今日に至るまでを思い出す俺たちは思い出話に花を咲かせてはプッと笑いあう。

 そう、ここは俺たち二人にとってのある意味で始まった場所。

 そして……

 

「確かね、あの時の和輝は――」

 

「なぁ、ティアナ」

 

「うん?」

 

「俺たち……別れないか?」

 

 ……終わりの場所だ。

 

 

 

「我が能力を受けて起きながら性欲を抑え込むとは中々やる。しかし、それだけであったな」

 

 傷つき、倒れこむテイルブルームを見下ろすアスモデウスギルディ。

 テイルブルームVSアスモデウスギルディ、ベルフェゴギルディ、リリスギルディの一対三の戦いは大方の予想通りの状況へと陥っていた。

 反撃しようにも隙はなく、数の有利を活かした怒涛の波状攻撃の連続。

 これはもはや勝負と言うよりただのイジメだ。

 アスモデウスギルディは七つの性癖の中でも数少ない武人肌のエレメリアンではあるが、しかしだからとてこのような状況で我儘を貫く者ではない。

 ヤると決めた以上はヤり尽くす。

 それがアスモデウスギルディだ。

 

「くッ……まだ……」

 

「まだ果てぬか……お前もまた、中々の絶倫であるな」

 

 そのような褒め方をされて嬉しいと思える女性はいない。

 ましてやこのような状況で言われればなおさらだ。

 テイルブルームは何とか立ち上がるも既に息は切れているし、力もあまり残ってはいない。

 

『華先生、流石にこれ以上は危険です!! 一度退却してください!!』

 

 限界を感じ心配するトゥアールが撤退を促す通信を送る。

 しかし、テイルブルームは退かない。

 

(今ここで逃げたら、彼らは涼原君たちを狙って襲い掛かる……!! 何か事情があってこれない以上、私はここで食い止める!!)

 

 まだやれる。私はテイルブルームだ。私の(ツインテール)はまだ折れない。

 その決意を胸に、負ったダメージなんのそので立ち向かっていく。

 テイルブルームの拳がアスモデウスギルディの胸を貫かんと繰り出される。

 しかし……

 

「だから無駄だって……」

 

「くッ……」

 

 テイルブルームの拳は届かなかった。

 アスモデウスギルディを守るのはベルフェゴギルディとの初戦で苦しめられたモザイクの如きあの黒い闇だ。

 

「僕の能力は何も僕だけにしか使えない訳じゃない。僕が見れる範囲なら、ある程度は制御できる……」

 

「ならば!!」

 

「おっと、見ずに攻撃しようとしても無駄よ。私たちがいる限り、ベルフェゴちゃんの事は誰かが見ている。触れる事は出来ないわよ」

 

 これこそがこの戦いが無茶と称される最大の理由だ。

 アスモデウスギルディは分身体であるリリスギルディが存在する限り倒されることはなく、リリスギルディも同様。ベルフェゴギルディもまた自身の能力で守られており、能力発動のトリガーである他者の視線はアスモデウスとリリスの存在から消える事はない。

 複数人でしか倒せない相手と服数人いると倒せない相手。

 テイルブルーム自身もわかってはいたが、この組み合わせは彼女だけでは突破できない。

 

「さて、この4Pもそろそろフィニッシュとさせてもらうのである」

 

「ちょっと……僕を入れるなよ……」

 

「まぁいいじゃない。みんなで愛し合いましょう」

 

 迫る三体のエレメリアン。

 テイルブルームは気力を振り絞っては何度も何度も向かっていった。

 

 

 

 

 和輝に告白されたあの日、今思うとあれは私にとって新しい始まりの日だった。

 それが今終わろうとしている。

 和輝の言った言葉は嘘なんてない。

 だけど、私は受け入れられない……

 

「え……!? 何言ってるの……?」

 

 思わず口から出たのは現実を受け入れられぬ私自身のその物。

 

「聞こえなかったのか。じゃあもっとはっきり言ってやる」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「いいか。俺たちさ……」

 

 やめて。それ以上は言わないで……

 言葉に出来ないこの感情。

 でも、和輝はそんな私を知って知らずかいともあっさりと……その言葉を紡ぐ。

 

「別れようぜ。恋人関係って奴からさ」

 

 どうしてこんな事をこんなあっさりと言えるのか。

 恐らく、和輝だって私の気持ちを理解しているからこそ、空気を壊しすぎないようにしているのだろう。

 だけど私はただ黙り込む。

 

「別にアレだぜ。あくまで恋人同士ってのが無くなるだけだからな。これからも俺たちは共にアルティデビルの奴らとかと戦っていく。それは変わらない」

 

「……」

 

「あとそれによ……、べ、別にこれまでの思い出とかは否定するつもりはないぜ。ただ……その……」

 

「……」

 

「これからはただの友達として付き合っていこうって話だ。……いや、友達ってのも変だな。俺たちはそう……その……仲間……!! そう仲間だ!! テイルバイオレットに変身する仲――」

 

「……どうして……? どうしてなの……」

 

 このまま黙っていても辛いだけ。

 私は受け入れられないこの気持ちをいつの間にか口に出していた。

 和輝もまた、数秒黙り込む。

 

「どうしてって……お前……」

 

「理由くらい教えてよ……。どうしてそんなこと言うの? 私、何かしちゃってた? やっぱりアレが悪かったの? 私がアスモデウスギルディの能力で暴走して迷惑かけた事? それとも私のツインテールが……」

 

「まて、落ち着け。それとこれとは今は……」

 

 感情がこみ上げてくる。 

 和輝はそんな私に落ち着けと言うけれど、こんな事を言い出しておいて私が落ち着いていられる訳がない。

 もし冗談でそう言ってるなら最悪だし、もし本気でそう思っているのならもっと最悪だ。

 

「じゃあ答えてよ!! 私の何がいけなかったの!? 私じゃどうダメだっていうの!?」

 

「違ぇんだよ!! 別にお前がダメとかじゃなくて……!!」

 

「じゃあどうしてよ!! 私は和輝がいないと……和輝がいないと……」

 

 涙があふれ、雫を垂らす。

 怒りよりもそれ以上に、悲しくて悲しくて仕方ない。

 今の私は和輝がいるおかげで今がある。

 この大好きなツインテールも……それが元となるこの属性力(ちから)も……全部、全部が私を救い共にいてくれた和輝のおかげで今となっている。

 和輝自身はわからないのかもしれないけど、私は和輝に何度も何度も救われた。

 コンプレックスも未来への不安も、私自身の心も……

 

「そういうところだよ……」

 

「え……!?」

 

 私が涙を流しながら訴えかけると、和輝はボソッと小さな声を漏らす。

 小さくてあまり聞こえなかったけど、その何かに思い詰める和輝の表情は酷く辛そうだった。

 そして、和輝の感情も爆発する。

 

「俺もお前も、そうだからダメなんだよ!! いつまでもこんなだから!! 俺たちはダメなんだろうが!!」

 

「ちょっと、何よ……」

 

「いいか!! 俺だってこんな事言いたくなんかねぇ!! ずっとお前と一緒がいい!! お前がいないと俺だってダメなっちまう!! カッコつけて俺はしっかりしてるけどなんて思ってもそんなの全部ただの強がりだ!! 俺はお前にずっといて欲しい!! でも!! そんなんじゃ……そんなんじゃダメなんだ……!!」

 

 和輝のそれは怒りから来るもので合っているけど、怒りの対象は私だけじゃなかった。

 それは自分自身への怒り。

 今の事を自分から言い出しておきながら、それを拒む弱さへの怒り。

 励まそうとしても今の和輝は私の手をはねのける。

 

「俺は……強くない。心も体も何もかも俺は奇跡が起きたあの日から変わっちゃいない。また奇跡が起きて、もしアスモデウスギルディに勝てたとしても、このままじゃいずれ俺たちはもっと取り返しのつかない事になる」

 

 ここで言う奇跡が起きたあの日、それはアナザーテイルレッドを打ち破り極限の力へと至った時の事。そして、もっと取り返しのつかない事というのはエクストリームチェインの先、エクストリームチェインバーストの反動による人格の融合。

 懸念する和輝の想いを聞き、私はハッとなりつつも冷静にはなり切れない。

 

「なぁティアナ、一つ聞かせてくれ……」

 

「何……?」

 

「俺が……いや、俺たちが、もしもこれからもずっと一緒に過ごすとする。そんな時、俺が死んだらお前はどうする?」

 

 少し唐突ではあるけれど、和輝に尋ねられて私は黙り込む。

 全てのしがらみを超えて和輝と結婚し共に過ごす未来の中、もし和輝に先立たれた場合、私はどうなるの?

 いつも通り普通に暮らせる?

 いつも通り笑うことが出来る?

 いつも通りツインテールを結ぶことが出来る?

 答えは分かり切っている。

 

「そんなの……無理。和輝がいなくなるなんてやっぱり考えられない。和輝だってわかってるでしょ!?」

 

「ああ……俺もだ」

 

 私たち二人の意見が一致した。

 でも、それは全くもって喜ばしい事とは言えない。

 私も和輝も、この想いに関しては何一つ肯定できない。

 これじゃダメなんだって私自身もここにきてようやく理解できた。

 

「私たち、どこで間違ったのかな……」

 

「俺がわかる訳ねぇだろ……俺だってこんな風になりたくなかった」

 

 暗く沈む私たち。

 本当はこんな事をしている場合じゃない筈なのに私も和輝も背を向け合い地にへたり込む。

 周囲の光景は告白されたあの日のまま。

 ボロボロに荒れ果てた最悪で最高だった思い出の光景のまま。

 違うのは寒さと、私たちの心。

 このままじゃいけない。

 私の(ツインテール)がそう訴えかける。

 忘れていた心なんて取り戻せないし、間違った過去や思い出は変わらない。

 でも……

 

「ねぇ、和輝……」

 

「んだよ? どうした?」

 

「……私、やり直したい」

 

「え?」

 

 黙り続ける事数分間。

 私はポツリとそう呟き、和輝が反応する。

 ツインテールを結びなおしては立ち上がる。

 

「よし決めた。私、和輝と別れる!!」

 

「はぁッ!? ちょっとお前何言って……!!」

 

「何よ、最初に言ったのは和輝でしょ?」

 

「いや、それはそうだけどよ……」

 

 困惑する和輝。

 まぁ当然と言えば当然か。和輝からすれば急に心変わりを起こしたようにしか見えないしね。

 でも、私は至って普通。

 むしろ、今まで見失っていた自分自身が帰ってきた気分。

 

「でね和輝。別れるのにもただ別れるだけじゃ味気ないじゃない? 別れるためにも条件があるんだけど」

 

「いやいや、急展開だなオイ」

 

 プッと笑い、ノリよくツッコむ和輝。

 和輝もまた、元の調子を取り戻した感じ。

 私はそんな和輝へとビシッと言い放つ。

 

「別れるのは認めてあげるわ。でもその代わりに、和輝は私にとって唯一無二の相棒になってちょうだい!!」

 

「は?」

 

 口を開きポカンとする和輝。

 

「どういう事だ? それじゃ付き合ってるのと何が違うんだよオイ」

 

「もう和輝ったら。全然違うわよ」

 

 何が違うんだよとでも言いたげな表情で首をぶんぶん振っては意味が解らないと和輝は答える。

 もう、和輝って鈍いんだから。

 でも仕方ないか。

 呆れつつも優しく答えてることに決めた。

 

「いい和輝? 恋人同士って支え合う物じゃない?」

 

「そ、そうだな……」

 

「私たちはそれを超えるの。支え合うだけじゃなく、時に競い合い高め合う。二人だから出来る、二人だからこそ出来る、これこそが本当のツインテールな関係。こればかりはお父さんもお母さんも成し遂げなかった私たちだけのツインテール。私たちだけの関係」

 

 自信満々に胸を張って答え、ツインテールをふわりと揺らす。 

 最初は意味わかんないとばかりの和輝だったけど、そんな私を見てまたもプッと笑う。

 

「なんだよ、それ。まぁでも、確かにそれの方がいいかもな」

 

 和輝につられて私も笑う。

 私の手を取るのでなく、自らの足で立ち上がる和輝。

 そして和輝もまた、私に聞かせるように言葉を放つ。

 

「俺、決めた。これから先、もしもティアナと暮らすことになって、もしティアナの方が先に逝ったとしても俺は前を向く。前を向いて、もっとツインテールが綺麗な子を見つけてやるぜ」

 

「ちょっと、最後のは余計じゃない!!」

 

「るっせぇ、じゃあもっとツインテール磨いて、俺を目移りさせなきゃいいだろ」

 

「言ったわねぇ……上等よ!! 私だって和輝が先に死んだらもっとツインテールを大事に出来る人を見つけるんだから!!」

 

「バーカ、俺が死ぬかよ」

 

「何よそれ!! 一度死んだくせに!!」

 

「うるせぇッ!! 生き返ったらノーカンだろうが!!」

 

 言い争っては最終的に心の底から笑い合う。

 私たちはいつもこう。

 でも、それが今までの私たち。

 これからはさらに先へ向かっていく。

 恋人ではなく、共にツインテールを結ぶ相棒同士として。

 

「さぁ、行きましょ和輝」

 

「ああ、華先生には迷惑かけてるしな」

 

 廃教会を後にし、マシントゥアールに乗り込む。

 向かうは決戦の地。アスモデウスギルディの待つ戦場。

 

「ねぇ和輝? こうなる事を見越してここに来たの?」

 

「いんや、俺はただ単純に別れた方がいいんじゃねぇのって思っただけだぜ。ここを選んだのは何となくそっちの方が雰囲気でるかなって」

 

「何よそれ。あ、それとあともう一つ」

 

「んだよオイ」

 

「私とエッチな事……したい?」

 

「あ、当たり前だぁぁぁッ!!!」

 

 和輝の叫びと共にマシントゥアールは爆音響かせ走り出した。




正直、作者としてはこれでいいのかはわかりませんが、まぁ流れでこうなったのであとは二人を信じます。
この話、次回で終わるかなぁ……
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